第33節 《基地に潜む竜人の女性 同じ竜の血を引く少女との再会》 4/5
今回はルージュとサティアメインになるかもしれません。新しく登場した少女2人には頑張ってもらいたいです。
リディアとルージュはマチルダという竜人の女性と戦っていたが……
途中でリディアは奇妙な生命体によって実験室へと連れられてしまう
何とか助けなければと、ルージュは後を追おうとするが……
マチルダに押さえつけられ、妨害をされてしまう
だが、そこに待ちに待ったルージュの仲間が駆けつけてくれたのだ
「うあぁあああ!!!」
それは駆けつけた少女であるサティアの放った水鉄砲を受けたマチルダの悲鳴であった。
サティアの突き出された掌から発射された高圧の水流は、ルージュの上に乗っていたマチルダを乱暴に突き飛ばしたのだ。
たかが水だと油断していたのか、マチルダは身体に走った想像以上の鈍痛に悲鳴しか出す事が出来なかったのだろう。
まだ立ち上がっていないルージュの元へと駆け寄ったサティアはルージュの腕を掴み、立たせようとした。
「ルージュあんた大丈夫だったの? まあとりあえず助けたからしっかりしなさいよね!」
サティアは緑の長いスカートの裏で膝を折り、しゃがみ込むが、もうその時にはルージュも上体を手で床を押す形で持ち上げてはいたが、折角近づいたのだからとでも言うべきか、気持ちや気合を落としてはいけないという心を混ぜた言葉を与えながらルージュの腕を掴み、持ち上げようとする。
「分かったよ! しっかりしてやるよ! それとリディアがかなり不味い事になってるから手伝ってくれるか?」
ルージュはサティアに右腕を掴まれてはいたが、殆どサティアの手助けを直接使わずに自力ですんなりと立ち上がっていた。
言われたからその通りにするとルージュらしい態度で返答をしてやったが、リディアの事を忘れてはおらず、詳しい事情を初めから説明している余裕は無かったからか、今いる状況が不味いという事実だけを伝えた上で協力を求めた。
「リディア? あの子ここに来てたの?」
恐らくルージュと合流してから初めて聞いた話だったであろうサティアは、眼鏡の奥から見えている水色の瞳を疑問の意味合いを含める形でやや細めながらこの基地内に存在するのかと、ルージュに聞き返す。
「そうだよ! ここで再会してだ、んで色々あってあそこの実験室に連れられたんだよ! 助けるの手伝ってくれるか?」
ストレートな返答を聞かせたルージュは今いる部屋の床を指差しながら頷き、そして今リディアがいるであろう場所へと、しつこく突き刺すように指を差す。
その場所は、鉄の装飾が施された1つのドアで、その奥に先程リディアは連れられてしまったのだ。妙な改造生物によって。
「それはいいけど、さっきまでルージュの上に乗ってたあの女と……ついでにあの男も放置して大丈夫なの?」
助けるのであればいつでも力を発揮する事が出来るとサティアは小さく頷きながら言い返してくれた。しかし、先程サティアの水圧で吹き飛ばされた女性は既に痛そうではあったが立ち上がっており、明らかに敵意や怒りを感じさせるような表情を作っており、それを実際に見たサティアはそれに関して、ルージュに問う。
「いや、あまり大丈夫そうじゃ……無いな。だけど2人いるからどっちかが実験室に行くって形の方がいいと思うぞ」
ルージュは自分に殴りかかってきた男女をふと目に入れてみたが、ふらつきながら立ち上がるマチルダのすぐ横で、心配そうにマチルダの身体ばかりを眺めているゼノの姿があった。
しかしすぐに自分達の方に視線を向け直すと同時に汚い言葉をぶつけてくる事は想像出来ていた為、心構え自体は問題が無かったのかもしれない。しかし、2人揃って同じ目標を持った場合、どちらかの目的が等閑になるのは確かである。
「おい誰がついでだこのクソ尼がぁ!! 俺様の事馬鹿にすんならお前もぶちのめして犯してやっかぁ!?」
怒鳴り出したのは裸の上半身の男であるゼノであった。サティアから言われた事を忘れてもおらず、そして聞き逃してもいなかった為、怒鳴らずにはいられなかったようだ。初対面の相手とは言え、敵対者としてぶつかっていたルージュの仲間である以上は自分を腹立たせるような発言を飛ばすだろうと疑う形で始めから敵意丸出しの態度を見せたらしい。
そして、サティアの何を求めていたのだろうか。
「ねぇルージュ何あいつ……? アタシの事どういう風に見てるの?」
サティアは突然怒声を浴びせ付けられた為、まだ距離があるから良かったのかもしれないが、それでも気持ち悪いものを見るような目付きと上体を軽く反らしたような姿を見せながら、ルージュにあの男の詳細を聞こうとする。名前こそ知らないが、知ろうとまでは思っていないようにも見える。
「さあな。でもあいつあの態度の割にメッチャ弱いからほっといていいぞ。お前1人でも充分だから」
気持ち悪がった表情を見せていたサティアとは対照的に、ルージュは一瞬笑いを溢しながらただ横暴な言動だけでしか無い小者であるとあっさりと伝えた。
本気を出す事が出来ればサティアでも充分相手を出来る程の弱い実力なのは確かなのだろう。
「あっそ、あ、それとアタシだけじゃなくてもう1人一緒に来た人がいるのよ」
粗暴な相手よりも実力が上だと評価されたとしてもあまり嬉しさを感じなかったであろうサティアであったが、どうやらサティアの方でも他者との出会いがあったようであり、そしてもう該当する人物はこの基地に来ているようである。サティアと同じドアから現れる予定なのだろうか。
――噂をすると本人が本当に現れた――
「お邪魔するよ? 偶然わたしこの子と出会ってね、目的地が同じだったから同伴を決めたんだよ」
元々開きっぱなしであったドアと壁の間を抜けるように現れたのは、赤黒い影のような身体を持った人間とはとても言えないような不思議な外見の生命体であった。深紅の双眸は確実に目を合わせたルージュを多少なりとも震えさせてしまったのかもしれないが、声色自体は少女という雰囲気はまるで無かったが、壮年の女性を思わせる声そのもので、それを聞いたルージュの中では人間特有の温かみを感じられたのかもしれない。
そして、下半身は存在せず、上半身だけ存在し、宙に浮いた独特の姿を見せていた。
今伝えるべき事は、予想しない形でサティアと出会い、元々この異形の者もこの実験の施設に用があった為、共に来たという話であった。
「え? だ……誰だよお前……。メッチャ敵サイドな見た目してんだろ……」
ルージュは相手の上半身しか存在しない肉体や、そして人間の肌とは比較出来ない謎とも表現出来てしまいそうな赤黒い色の体色と、そしてルージュと合わせている深紅の両目も、下手をすると本当の敵対者であるゼノやマチルダよりも威圧感が強かった可能性がある。
直感だったのかもしれないが、ルージュからすると相手の見た目がどうしても自分達の味方でいてくれる雰囲気だとはとても思えなかったらしい。
「ルージュ! あんたなんでいきなり失礼な事言うのよ!? この人はマルーザって言って普通にアタシ達の味方よ! リディアの事助ける為に来たって話なのよ」
サティアは、初めて出会った赤黒い肉体の生命体に対して敵だと勝手に決めつけるような言い分を飛ばしたルージュに対して整った声色で荒げた声を飛ばした。同行を決めた瞬間からサティアはもうマルーザと呼ばれる赤黒い影の姿の生命体を味方と確定させていたのだろう。
本当はサティアはルージュからこの基地にリディアがいるという話を聞く前からリディアの存在を聞かされていたはずであったが、ルージュからリディアの話を初めて聞かされた時にサティア自身も初めて名前を聞いたような反応をしてしまったのは、一時的に記憶が曖昧になっていたからなのだろうか。
「あぁそうなのか……。って人……なのか? 随分変わった見た目してるけど」
サティアが嘘を言う訳も無いのだから、ルージュとしてはただ信用しようと思うだけであった。マルーザの外見を見て味方だと思えと言われても難しいのかもしれないが、いくら自分の味方としてここで動いてくれると説明をされたからと言って、ルージュの疑いというよりは何か恐ろしさを抱いているかのような目付きは戻ってくれなかった。黄色の瞳が確かに普通では無い感情を携えていた。
相手の角のように尖った耳も、やはり姿の威圧感に充分加担していたと言えるだろう。そして口や鼻は視覚的には一切存在しないようにしか見えないせいで感情の把握も難しい。
「人間かどうかって言われたら勿論人間とは違う生き物、とでも言っとこうか。それと、あのお2人さんがずっと酷い剣幕でこっち見つめてるけど、いいのかい?」
マルーザという名を持つ生命体は元々生態的に人間と異なる存在である為、人間では無い事を突き付けられたとしても何も感じない、寧ろそれが普通だと意識しているはずだ。
上半身しか存在しない、そして性別は女性でありながらまるで性的な興味すら沸かせる気が無いような胸部の前で腕を組む。尤も、胸部自体は体色に同化させているかのような非常に濃い青の胸当てを装着させているが、人間のような女性らしさは変な形で相手に伝わる事は無いだろう。
「ん? あぁあいつら? 別にいんじゃないか? 典型的なただ怒鳴ってるだけの連中だし」
マルーザの登場でルージュは話す相手をマルーザに集中させていたが、ゼノとマチルダを放置している事を思い出し、ふと視線を向けてはみたが、マルーザが来た途端に何故か2人は先程の威勢を失わせているようにすら見えたが、それは気のせいだったのだろうか。
「所でルージュとやら、リディアが今どこにいるのかは知ってるのかい?」
サティアとのやり取りで自然と名前は憶えていたのだろうか、マルーザは自分が来る前からこの基地にいたであろうルージュに今のリディアの居場所を訊ねる。
「それは知ってるよ。あのドアの向こうなんだけど、あの連中放置する訳にもいかないだろ?」
寧ろ知らない方があり得ないと言っても良かったかもしれないが、ルージュは最初に鉄の装飾のドアを指差したが、このままドアの向こうにある空間へ行く事は出来なかったようだ。
同じ場所に、罵声と怒声を繰り返し、尚且つ物理的な暴力も平気で飛ばす男女がいるのだから。
「おい勝手な事するつもりかよ!? ここでお前らは死ぬんだぜ? 或いは男どものいい人形になるか――」
「あのさぁお前らまだ言ってんのか? どの道お前らなんてわたしらに勝てないだろ?」
裸の上半身と、顔に生えた汚らしい無精髭のゼノは実験室へと向かおうとしたであろうルージュ達に汚らしい怒声を浴びせるが、途中でルージュに呆れたような態度で遮られてしまう。
何だか何度も同じやり取りを見たような気分さえ覚えるルージュであり、向かってきた所で再び叩きのめした上で次どうするかを考えるだけである。それに今はサティアとマルーザの存在もある為、猶更ルージュにとっては有利な立場であるはずだ。
「もうルージュそういうのいいからさ、役割決めようよ? あいつらと遊ぶ役と、リディアの事助ける役でさ?」
サティアは何となくルージュと、そして離れた場所にいる男女との関係を察したのか、ルージュの腕を引きながら張り合う事を辞めさせると、別行動を提案し始める。
ゼノ達を本気で黙らせる役割と、そしてリディアの救助に向かう方を。
「てめぇ……俺らん事完全に下だと思ってやがんなぁ……」
サティアは今、自分達に対して遊び相手とでも表現したかのような言い方をしてきたのだ。ゼノはそれが許せなかったが、深く考え始めたのか、相手に無理矢理こちらに襲い掛からせるような罵倒を放つ気持ちになれなかったらしく、どこか弱々しさも見せたような様子を見せる事しか出来なかったようだ。
「じゃ、わたしはあんた達とは初対面だから、あんた達とは別行動でやらせてもらうよ? それにリディアとはさっきまで自然公園で共に戦ってたからね」
ゼノを放置でもしているかのように、マルーザは今日初めて出会ったであろう2人の少女とは違う場所で行動を進めると決定させた。マルーザからすれば2人は素性もまだ知らない相手である。そして相手からしても初めて出会う相手と同行して本来の力を発揮する事が出来るかどうか、それを心配していた可能性もある。
「その言い方だとアタシはルージュとペア組んでくれって事でいいのかしら?」
サティアは眼鏡の裏でそこまで感情的にはマイナスな雰囲気こそは見せていなかったが、好意的とも言い難いようなどちらとも言えない表情で自分達がどのような形でこれから行動に入るべきなのかを確認する。
元々人間とは異なる種族だからなのか、勝手に話を進められているような気分による違和感を感じていたのかもしれないが、それは価値観の相違から来るものなのかとサティアは自分に言い聞かせていたのだろうか。
「そうなるよ。2人は仲良しなんだからわたしなんかと組むよりずっと効率的に出来るだろ?」
サティアの確認に対し、ほぼ真っ直ぐに返答をしたマルーザは、自分のような初対面で尚且つそもそも人間とは異なる種族と一緒にいるよりも、同じ種族とでも言うべきか、人間同士で行動する方が心理的にも圧迫感は少ないだろうと考えていたのだろうか。
人間との触れ合いも決して苦手では無いのも間違いは無いはずだが。
「別にあんたの事避けてる訳じゃないんだけどな。だけどサティアの方がわたしとは気が合うからその方がいいかもな」
ルージュとしては自分とサティアがさり気無くマルーザの事を避けているものだと、マルーザに感じられてしまったと思ったようだ。
それが勘違いであると伝える為にルージュは一応の言葉を投げるが、しかし効率の事だけを考えると相手の事を理解し合っている者同士で組んだ方が良いのでは無いかと途中で考えが変わってしまったらしい。
「じゃ、話は早い方がいいね? わたしはこれから行ってくるよ、リディアの救助にね」
マルーザとしては自分がどう思われようが気にするつもりは無かったようであるが、どちらにしても自分はルージュ達と別行動をする事が初めから確定されていたとでも受け取ったかのようにきっぱりと決めつけ、そしていつもの性格故なのか、少女2人の返答も待たずに行動を開始してしまう。
――浮遊しながら、滑るように実験室へと向かってしまう――
「ってあらら……行っちゃった……」
サティアは、鉄の装飾のドアに近寄るなり躊躇いも無しに開き、そのまま内部へと突入していくマルーザの後ろ姿を見つめながら気の抜けたような口調で漏らした。
しかし、余計な時間を使う事が気にかかっていたという解釈も出来なくは無かった可能性もある。
「行動決めるの早いんだなあいつ……。さてと、わたし達はまたあいつらの相手だけど、さあお前らまた痛い目に遭う準備しとけよ?」
ルージュは徐々にマルーザの性格を知り始めた様子であるが、まだゼノとマチルダが残っている事を忘れておらず、どうせ立ち尽くしているのだろうと考えながら2人に嫌らしい宣告を渡した。
腕を組みながら言葉だけでは無く、態度でも嫌らしさを出すかのような笑みを作っていたのだ。
――しかし、該当する2人は目の前から姿を消しており……――
「ってあれ? どこ行ったんだ? 逃げたのか……」
組んでいた腕を崩しながら、ルージュは目の前からいなくなっていたあの粗暴な男女を探す為に左右を見渡したが、室内にはもう姿が無かった。
「大体分かるわよ。どうせなんか武器でも取りにこっそりいなくなったんでしょ。次出てきたら変な武器で襲ってくるだろうから覚悟しなさいよルージュ」
手慣れた状況だったのか、大して緊張感を身体に走らせる事もせず、面倒そうにルージュに言葉を渡した。サティアは自分達への攻撃手段を持ち出す為にこの場を一時的に離れたのだと推測をしていた。
「サティアお前もだからな? でもあいつホントどこ行ったのホントに?」
注意をしなければいけないのはサティアも同じ事である。恐らくサティア自身も警戒はしていたとは思われるが、ルージュは指摘された側であった為、言い返したかっただけだったのかもしれない。
しかし、注意を自分に対して心掛けるにしても、室内を見渡しても男女2人の姿は一切見えなかった。
「それ誰に質問してるつもり? だけどなんかあったらアタシが水でバリア作るから、アタシの傍から離れないでよね?」
少しだけ嫌味のようにサティアは言い返したが、相手の姿が見えない以上は不意打ちを受ける可能性もあったからか、実際にそれを受けた時に自分がどのように対処をするかを予めルージュに説明を渡していた。サティアから離れすぎているとバリアの恩恵を受ける事が出来ないという説明は、状況が状況だからか、敢えて再度したのだろう。
「頼もしい事言ってくれるなぁお前って。リディアも多分惚れるぞ?」
ルージュ自身も自分を守る事が出来る能力を持っていたはずだが、サティアのものよりは効力が弱いのだろうか。
自分の事を守ってくれると宣言してくれたサティアに対し、少しからかうかのようにルージュは口元をにやつかせながら横目で見てやった。
「でもあの2人ホントどこ行ったのかしら……。行く場所も大して無いはずなんだけど……」
ルージュからしたら誉め言葉でも、サティアからしたら構う必要性の薄い揶揄い言葉にしか聞こえなかったからか、放置しながら眼鏡の奥で視線を左右に動かしたが、確かに気配は無かった。
――何かが開く音が確かに2人は聞いたはずだが……――
小さくではあるが、堅い物同士がぶつかり合うような音が確かに2人には伝わったはずだった。
「ん? やっぱ戻ってきたか?」
ルージュはすぐに通路に通じるドアに目を向けたが、ドアは開いていなかった。しかし、音自体は確かに聞こえたのだ。
「あぁこいつら……ホント小者だわホントに……」
サティアはルージュとは異なる場所に目を向けていた。というよりは落としていた、と表現する方が正しかったかもしれない。ルージュは横しか見ていなかったが、サティアは下を見ていたからだ。
同じ言葉を2度使っていた事に、本人は気付いていたのだろうか。
――床下から現れた下品な男がそこにおり……――
「不意打ちしても無駄だからね? はい……」
サティアは足元から床の一部分を開き、下から掴み掛ろうとしていたであろうゼノの姿をしっかりと目視しており、自分のほぼ真横に位置していた床の穴に右手を開いて突き出した。
最後に聞かせた言葉は肯定の意味では無く、何かこれから行うであろう行動を確定させた事を意味するものだったに違いない。手には水のエネルギーが球体状になる形で集まっていく。
――手元に溜めた水の球体を開いた床に向けて放ったのだ――
「これで終わりよっ!!」
穴から身を乗り出そうと、両手を必死に床の両側に付いた上で身体を持ち上げようとしていたが、サティアは相手を待つ事をしなかった。
死角から狙う卑劣さと、そして一応は初対面でありながら汚らしい外見とそしてそれに合わせているかのような荒れた言動等、情けをかける理由なんて無いに等しかった。水の球体が破裂したかと思うと、それは一気に水流となって床に空いた穴に発射された。当然、それは這い上がろうとしていたゼノと、そしてすぐ下にいたのかもしれないマチルダをも巻き込んだ。
「うわぁ!!」
「きゃっ!!」
上半身に派手に水を浴びせられたゼノと、そしてゼノの背後にいたであろうマチルダにも水の影響が及んだようであり、床下の更に床に身体を仰向けに押し付けられたであろう2人は、そのまま立ち上がる事が出来なくなったのだ。
それは、サティアの水の力によるものであるが、それを硬質化させる事で、2人を床に貼り付けてしまったのだ。
「悪いけどあんた達はそこで大人しくしててくれる? それアタシの意思が無いと解けないからね? それじゃ」
サティアは開いた床の穴の傍らで片膝を立ててしゃがみ込み、内部に向かって拘束された2人に言い放つ。そしてやはりサティアの魔力が水にかかっていたからか、自然に液体化する事は無いと、敵であるからこそやや残酷な言い分を飛ばしてやったのだろうか。
そして言い終わるなり、すぐに立ち上がり、放置するように床の穴から離れる形で歩き出す。
「あぁこいつら下から狙おうとしてたのか?」
ルージュもサティアが離れた後に穴を覗き込むが、そこには見覚えのある2人が硬質化した水によって床に貼り付けられている姿が見えていた。更によく見ると2人が重なっているようにも見えたが、もう細かく状況を見て男女2人がどうなっているのか、確かめる気にはならなかったようだ。
既にサティアは目的地を決めているかのように歩いていた為、すぐに後を追う。もうゼノ達に構っている余裕なんて無かったはずだ。
「そうよ。あんたは分かんなかったと思うけど、アタシはなんか足元で振動来たから、ん? ってなったのよ。まあいいや。アタシ達もリディアの事助けに行こうよ? マルーザだけじゃちょっと心細いかもしれないから」
ルージュは足元には意識を向けておらず、サティアだけが足元に気付いていた状態であった為、後ろから付いてくるルージュに対してどのような経緯で気付く事が出来たのかを説明してやった。
しかし、気付いた理由を詳しく説明するよりも、リディアの救助に向かったマルーザの協力に向かう方が先だと意識したのか、ルージュの返答も待たずに例の鉄の装飾が施されたドアへと近づいていく。その奥にあるのは、恐らくは実験室であり、取っ手に手を伸ばすも、途中で止めてしまう。
「ってサティアお前何躊躇ってんだよ? やっぱり怖いのか? だからわたしがいるんだろ? 安心しろ!」
ルージュはサティアの細い肩に弱めに体当たりを仕掛けながら、ドアの前で手を止めた事をふざけるような雰囲気で問い詰める。
心情を察知したのか、自分が今いる理由を伝え、サティアを勇気付けようとするが、効果はあったのだろうか。
「って勝手に怖がってる前提でどんどん話進めないでくれる? ただ……実験室っていうぐらいだから……さ」
一応は眼鏡の奥で水色の瞳を細めながら強がるサティアであったが、口調自体は何だか弱弱しい何かが存在していた。実験室と言われて、どうしても連想してしまうものがあったようだ。彼女の中ではどのようなものが浮かんでいたのだろうか。
「やっぱりわたしがいて良かったなぁ! わたしがいるんだからお前はそんなもん気にすんなって!」
ルージュは先程は体当たりを仕掛けたサティアの肩を、今度は手でやや乱暴に直接押しながら、自分に頼るようにやや強引にサティアの気持ちを落ち着かせようとする。
「……そうね、あんたがいたら何が出ても平気でいられそうだわ」
本当は身体を押された事に対して文句でも言おうと思っていたのかもしれないが、本当は恐怖を感じていたのだろうか。それを消し飛ばしてくれたであろうルージュに何だか頼もしさを感じてしまったからか、サティアは小さく頷きながら心の奥でもしっかりとドアの奥へと突入する勇気を引き締めさせる事を決めた。
サティア自身もルージュに守られなければ戦えないという程では無いはずだが、いざという時は本気で守ってくれるという安心感も改めて実感させられたのだろうか。
「そうと決まったらじゃあ突撃するぞ!」
サティアの気持ちを落ち着かせる事が出来たと自信を持ったルージュは、気合の入った声と一緒にドアの取っ手に手を伸ばしたが、わざわざサティアの緑の手袋に包まれた右手を巻き込むように取っ手を掴んだ。
「ってちょっと! アタシの手ごと掴まないでよ!」
無理矢理に自分の手に力を加えられる事に不快感を感じたであろうサティアはルージュに状況そのままの不満をぶつけるが、ルージュの行為は止まらなかった。
ルージュの手がサティアの手を覆うように置かれ、そしてサティアの手と一緒にドアの取っ手を強く握ったのだ。
「いいだろ別に!」
ルージュとしてはまるで2人で共にドアを開きたいと願っていたのか、サティアの否定の言葉に対しても自分のやりたい事を無理矢理押し通すかのような、そしてルージュらしい言葉と共にドアは開かれた。
遂に次回は地下室に向かう事になりますが、やはりマチルダの性格は好きになれない気がします。暴言を吐く女性は外見が良くても嫌われる要因になりますからねきっと。




