第33節 《基地に潜む竜人の女性 同じ竜の血を引く少女との再会》 3/5
竜人の女性であるマチルダとの戦いはまだ続きます。今回はちょっとリディアにピンチが訪れますが……。
怪しくも、違法な実験を行う研究施設
リディアとルージュに待ち受けた、竜人の女性
確かに恋人であるゼノよりは高い実力を誇っていた
しかし、緑の霊体を利用した戦法も打ち砕かれてしまい
挙句にはルージュに投げ飛ばされ、戦意を失ってしまう
ゼノによる庇い立てもあったが、竜人のマチルダは再び本気を出すが……
「何……あれ? 実験で作られた、奴?」
黒い戦闘服で身を包んでいるリディアは、鉄の装飾が施されたドアの奥から現れたゼノの配下らしき存在の姿を見るなり、恐怖というよりは気味悪さを覚えていた可能性がある。
緑の鱗を持つ蛇のような胴体に、無理矢理に人間の腕と脚を装着させたような、無理な改造を施したと思われる生物であった。
見方によっては蛇の胴体の中に普通の人間が入り込んでおり、腕と脚だけを外に出しているようにも感じられたかもしれないが、よく見ると腕と脚の結合部分が何か溶接でもされたかのように、人間としての色合いを見せていた肌と、蛇としての鱗が混ざり合うかのような色合いをみせていた。それはもう本当に結合自体を本当に行なっていたという解釈をしても間違いは無いだろう。
「まあそういう解釈しか無理だろうなぁこんな場所じゃあ」
細くも程良く引き締まった腰を見せつけるような丈である濃色の紫の長袖ジャケットと赤いVネックのアンダーシャツで決めているルージュも、実験室から呼び出される形で出てきた異様な姿の生物に対し、そのように答えるしか無かったようだ。
姿が大型の蛇と人間の四肢を無理矢理に融合でもさせたかのようなものであった為、普通の生物として認識する事は出来なかったようだ。
「おい! あの女の事捕まえて実験室に連れてってやれ! あの黒い格好した奴だけでいい! やれ!」
ゼノは平然と命令を飛ばしていたが、果たして奇妙な融合を行なった上で誕生した生物に人語が伝わるのかどうか。
「ツカマエル……」
しかし、蛇の胴体を持った妙な生命体は言葉を理解する事が出来ていたのか、強弱のはっきりとしない口調で淡々と返事のようなものを返していた。言われた事ぐらいは遂行出来るように調教されているのだろうか。
「頭悪そ……!!」
無茶な改造をしている事がよく分かる外見をしていたその蛇のような人型の生物は、リディアから見ても知性があるとは思われなかったようだが、笑い出そうとする前に生物が突然走り出したのだ。当然リディアへ向かって。
「リディア来るぞ!!」
ルージュも危機を感じ、テーブルを弾き飛ばしながら真っ直ぐリディアを狙う蛇の生命体の存在をリディアに伝えるべく、叫んでいた。
「はい! それとあんたなんかに捕まる……!!」
テーブルを片腕だけであっさりと弾き飛ばしている辺り、異常に腕力を強化されているのは間違いは無いはずだ。リディアは右手に氷の刃を作り、それを目の前から迫る蛇の生命体へと投げつける。胸部に刺さったものの、それでもまるで気にする事無くリディアに手を伸ばす。
「オトナシクナレ……」
生命体はリディアを直接捕まえようとしたが、リディアに避けられてしまい、折角伸ばした右腕が誰もいない場所を通り過ぎるだけであった。
「誰がなるの!?」
左へと回避したリディアは再度、右手に氷の刃を作り出し、蛇の生命体の横腹を狙い、刃を投げつける。派手に深く突き刺さるが、やはり弱る様子は無かった。
「キクカ……」
鱗が刃を防いでしまっているのか、氷の刃を身体に刺したままで、再びリディアに近寄ろうとする。両腕も形だけは人間の部位そのものだが、気味悪く筋肉が膨らんでおり、力強さは伝わるが、拘束された時に抜け出す事が出来るのかを不安にさせる要素も込められていたはずだ。
――ルージュも援護の為に炎を炸裂させ……――
「お前少し黙れよ!!」
リディアを執拗に狙う蛇のような人型生命体を動けなくさせる為に、ルージュはその場で拳を突き出し、炎を発射させる。炎は生命体に直撃しただけでは無く、そのまま炎の縄のように両腕を胴体ごと縛り上げる。
「ザコガ……」
しかし、感情の見えない短い言葉の後に、無理矢理両腕を外に向かって広げる事で炎の縄を力尽くで千切ってしまう。縄自体の強度は本物だったのかもしれないが、ルージュの拘束はあっさりと解かれてしまったのだ。
「なんだよこいつ……。痛み感じないのかよ?」
ルージュは生命体の体質に違和感を感じ始めていた様子であった。縄で押さえ付ける前に炎をぶつけたが、あの衝撃自体も相当強かったのだろうか。どちらにしても蛇の生命体は怯む様子も、痛みで身体を硬直させる様子も見せていなかったのだ。
「普通に火傷は出来てるのに……」
リディアもやはり蛇の生命体が身体を刺されたり炎で焼かれたりしているのにも関わらず、一切動じない所に妙なものを感じ始めていたが、普通の人間であれば確実に痛みで叫び声でも上げ出すであろう火傷が出来上がった腕を再びリディアに向かって伸ばそうとしていた。
「ってか近寄らないでくれる!? 気持ち悪い!」
元々相手は人間とほぼ同等のサイズの蛇に無理矢理に人間の四肢を装着させたような奇妙な姿をしていた為、リディアは右手から氷の刃を作り出し、詰め寄る蛇の生命体に斬りかかろうと踏み込んだ。
「チカヅクノヤメナイ……」
言葉だけを聞くとリディアに接近する事を意味するそれだったのかもしれないが、蛇の生命体はその場で突然立ち止まり、身体に力を込め始めた。両腕を引き締めているが、何をやっているのかは分からない。
――そして、行為は唐突に放たれた――
「ヴァアアアアアアアアア!!!!!」
奇妙な叫び声がリディアの正面から放たれる。ただの叫び声では無く、何か超音波のようなものだったのか、リディアの身体が硬直してしまう。
「うぅう゛っ!! 何……よ……」
まるで身体が言う事を聞かなくなったかのように固まってしまうリディアであったが、元々鮮明である視力には障害が無く、しっかりと目の前の敵の動きは目視出来ていた。相手は殴り掛かって来たのだ。
――流石にただ受ける訳にはいかず……――
重たい両腕を必死に持ち上げ、両腕で顔面を覆ったが、それで全てを防げた訳では無く、横殴りにされてしまう。
鈍い音と共にリディアは転ばされる。身体の硬直が完全に解かれていた訳では無かった為、バランスを取る事も出来なかった。
「リディア!! お前よくもやりやがったなぁ!!」
リディアを殴られた怒りと、そして倒れ込んだリディアを守らなければという一心からか、ルージュは追い打ちをかけようとする蛇の生命体の背後から炎の拳で殴り掛かろうと跳び上がった。
ただ炎を右手に宿すだけでは無く、炎の力をより強く扱っていたからか、拳自体も大型化しているように見えていた。実際は炎が分厚くなっていた、とでも言うべきだったのかもしれないが。
「ヤッタケドナニカ?」
唐突に蛇の生命体は振り向いたが、もう目の前にはルージュの炎の肥大化した拳が迫っていた。特に顔を守るような動きもせず、言われた事を無表情で言い返しながら、ルージュの攻撃をただ待っているかのようにその場から動かなかった。
――頭部を殴られた蛇の生命体ではあったが……――
「……けっ、どうせ効いてないってオチなんだろ? そういうのって」
ルージュは確かに相手を頭上から殴りつけ、手応えは身体で感じていたのだが、生命体の様子を見ればそれが効果的だったのかどうか、判別は容易だったはずだ。
ほぼ直立の状態を維持しており、痛がっている様子が全く見えなかった為、初めから駄目元で殴り掛かっていた可能性もあるだろう。
「ワカッテルナ」
本当に効いていなかったようであり、自分の攻撃の甘さを自覚した様子を褒めるかのように、生命体は喋り出すが、ただそれだけで終わるはずが無かったと言うべきか。
口から粘液のような物を唐突に発射させ、それはルージュの右手に命中した。
――金色のそれは重量が多かったようであり……――
「何かけやがんだよ! ってかこれ……重いっ!! ぞ!!」
ルージュは右手に放たれてしまった粘液の重量に逆らう事が出来なかったのか、そのまま床に右手を落としてしまう。当然体勢も崩れてしまい、右の膝を床に付けた状態になってしまう。そして、粘液はルージュの右手を巻き込むように床に付着し、ルージュの手をそこから離さなかった。
「ソコニイロ」
蛇の生命体は、右手を床に密着させられたせいで動けなくなったルージュを捨て置くような一言を漏らすと、すぐにリディアへと向き直した。
――蛇の生命体はリディアに掴み掛る――
ようやく立ち上がろうとしていたリディアだったが、蛇の生命体に掴まれる方が速かった。
2本の腕でリディアの細身の胴体を左右から挟み込み、無理矢理立たせる。何気にリディアの足が床から離れていたが、まだ身体の痺れが残っていたであろうリディアに対し、ルージュに放った物と同じ粘液をリディアの胸元辺りへと放ち、それは両腕も巻き込むように広がった為、リディアはそのまま両腕の自由を奪われてしまう。
「!! 何……これ? あんた何する気……なの?」
粘液は瞬時に固まり、身動きが取れなくなった事はすぐにリディアでも理解が出来たが、それをいちいち口に出すより先に、自分を身体が浮くぐらいの高さに持ち上げている生命体に向かって、目的を吐かせようとした。
「コレカラレンコウ。レンコウダ」
上半身の動きをほぼ封じた後に、とある場所へと連れて行くつもりだったようだ。
そして実際にリディアを特定の場所へ連れて行く為に歩き出したのだ。リディアを左腕で抱えながら。
「連行って……!! 離してって!!」
上半身の動きをほぼ封じられていたリディアは、生命体のたった1本の左腕の力に逆らう事も出来ず、生命体が意識しているであろう場所に無理矢理連れていかれる事しか出来なかった。
進んでいた場所は、あの鉄の装飾が施されたドアだ。
「待……てよ!! 勝手に連れてくなよ!!」
右手の粘液のせいでその場から動く事が出来なかったルージュではあったが、リディアが掴まれた上でドアの向こうへと連行されてしまう様子だけはしっかりと目で確かめる事が出来た。
助けたい気持ちはあったが、右手に圧し掛かった重量が気持ちも行動も妨害していた。一応は粘液の内部で右手に炎を灯し、焼き切ってやろうと試みていた様子でもあったが、とても間に合いそうに無い。
――リディアはそのままドアの奥へと連れられてしまう――
ドアが閉まるのを見ていたゼノは、1つの目的の準備だけが完了したと感じたのか、汚らしい目付きをドアからルージュへと向けた。
「へっ、あいつだったらいい実験材料になりそうだぜ。それよりお前……」
リディアは部屋の奥で何をされてしまうのだろうか。それを分かっているからこそゼノは今の言葉を漏らしたのだろうか。
そして次の目標にしているのは、ルージュであった。自分に殴打を加えてきた憎い相手であるのは確かだ。
「なんだよ? わたしになんかあんのかよ? 何でも聞いてやるぞ?」
片膝で右手を床に無理矢理落とされたような姿勢を維持させられているルージュであったが、近寄ってくる上半身裸の男に動じる態度を見せなかった。
「ホントはお前ん事仕返しでブチ殺してやろうかと思ったけど、お前意外といい顔してんじゃねえか。殺すの勿体無ぇぐれぇだぜ」
ゼノはルージュの目の前にまで近寄ると、その場でしゃがみ込んだ。ルージュの方は右手を床に無理矢理に落とされていた為、どうしても立ち上がる事が出来ず、ゼノもわざわざルージュと視線を合わせる為に体勢を低くさせたのだろう。
「いぃやお前はわたしの事殺すだけの力無いだろ? そんで褒められたってお前に対する態度なんか変えないぞ?」
それを言われたルージュは思わず笑い出しそうになるが、それでも感情を整えるかのように平然な態度を装い、ゼノの実力の低さを改めて説明してやった。
見た目、恐らくは容姿の事を言っていたのかもしれないが、だからと言ってルージュはゼノへの人間性の否定的評価を見直すことをしないと決めていたらしい。
「ってか言葉遣いなってねぇなお前。女だったらもっとあはぁんとかうふぅんとか言ってろよ? メッチャムカつくんだよてめぇ」
元々敵対者という関係もあるのかもしれないが、ゼノはルージュのどこか性別から外れたような口調を受け入れる事が出来なかったようであり、自分の異性への価値観を無理矢理押し付けるかのようにルージュに必要以上に顔を近づけた。
「お前の言いなりに誰がなるんだよ? ってか近寄るなよ。お前息臭いぞ? マジで。臭さに敏感な奴だったら気絶もんだぞお前」
ルージュは身体を掴まれていた訳では無かった為、自分で下がろうと思えば距離をある程度は取る事が出来たのかもしれないが、ルージュは敢えてその場から下がる事をしなかった。
しかし、無精髭で荒れている顔を近づけられているせいで相手の吐息が自分にかかってくる事に加え、それが非常に強い臭気を持っていた為、純粋にそれを教えてやった。ルージュの表情は僅かにではあるが、笑っており、ゼノをどこか卑下するようなものも混じっていたと思われる。そして流石にルージュ自身は相手の臭さで失神する程の弱さでは無かったようだ。
「うるせぇよ……。うぜんだよてめぇ!!」
ゼノは内心で気にしていたのか、それとも純粋に敵対者である相手から言われたからなのか、或いは自分にとっては異性の存在であるルージュから言われた事で何か自尊心を穢されたと察知したからなのか、まともな言い返しをせず、ただ怒声を飛ばしながら、そして右手を暴力の手段として使い出す。
――ゼノはルージュの顔を横殴りにしてみせた――
「うっっ゛!! お前……何すんだよ……」
ルージュは反応が遅れてしまったせいでゼノから殴打を受けてしまったが、痛む蟀谷辺りを押さえる事もせずに少なくとも殴られた事で弱みを見せぬようにと、強気な表情で睨みつけながらゼノへと言い返した。
「お前人ん事ムカつかせる事ほざいたらダメだってガキん時に習わなかったのか?」
殴る前はルージュを追い詰めたという優越感からか、表情がニタニタしたものになっていたが、やはり臭いと言われて黙っていられなかったのだろうか、今は憎い相手を見るに相応しい怒りが所々から漏れ出したような表情を作っている。
ゼノの中では自分に対しては侮蔑を含んだ言葉をぶつけられない前提でこの世界が成り立っていると思い込んでいるのだろうか。
「習ってるよ? でもお前は特別だろ? ってか抵抗出来ない相手にじゃないと殴れないか? 臆病もんめ」
ルージュも年少の時から教育を放棄されていたという訳では無かったはずだ。しかし、ゼノは元々一般人を自分達の違法且つ反社会的な計画の為に利用する組織に属する野盗そのものである。そんな男を相手に配慮する気持ちなんてルージュには無かったはずだ。
自由に動けなくなった途端にいきなり強気になる辺り、やはりゼノの奥に眠る弱さが気になって仕方が無いようだ。
「へっ、てめぇこそ追い詰められてる分際で……よぉ!!」
しかしゼノは狙える時は狙うという精神を持っていた為か、自分の弱さを疑われていても怯む事も見直す事もせず、再びルージュへ拳を飛ばす。
「うぁう゛っ!! お前……ただで済むと思ってんのか?」
ほぼ真っ直ぐ飛んできた拳を、ルージュは咄嗟に顔を横に向ける事で顔面へと入るのだけは避けたが、やはり痛みだけはどうする事も出来なかった。
本当は殴り返すぐらいしたかったのかもしれないが、どうしても右手の自由が利かない事と、そして移動の自由も利かない事を考えると、無計画な反撃は逆に自分を不利にしてしまうと感じたのだろうか。どちらにしても右手に纏わりついた粘液と、そして重量が非常に邪魔であった。
「おいおいあんたさぁちょい自分の立場弁えたらどうだ? 今の言葉ってあたしらが使う言葉じゃん?」
ゼノの後ろからマチルダがやってきた。ゼノだけに喋らせるよりも、自分も混ざった方が効果があると感じたのだろうか、ルージュの場違いとも、立場の見方を誤ったとしか思えないような発言に対して思い知らせてやりたかったのだろうか。
ゼノはしゃがみながらルージュとほぼ視線の高さを合わせていたが、マチルダは膝を一切曲げずに細見な腰だけを折る形でルージュに視線と顔を近づけていた。
荒れた色合いの銀髪の先端が突き出された顔によって揺らされ、ルージュに接触しそうになる。
「言葉に誰が使っていいとかダメとかそんなもん無いんだよ。ってかお前も変わりもんだよなぁそんな汚い男とラブラブだなんてなぁ?」
ルージュは自分の先程の発言に自身を持っていたようであり、ただで済むかどうかを伝える発言は誰が発した所でそれを咎められる言われは無いと感がていたようだ。
一旦距離を取ったゼノとは逆に、マチルダがルージュに近寄っていたが、ルージュは一応容姿だけはそれなりに整っていると評しても良いであろうマチルダがゼノのような外見の手入れなんかしていなさそうな男と結ばれた経緯がよく分からなかったようだ。
特にゼノの口臭の凄まじさは圧巻だったようで、あれ1つでもう異性なんて離れてしまうとしか思えなかったのと、マチルダはそれをどう意識しているのかも知りたかったかもしれない。
「お前みてぇなまともな男経験もねぇ奴がゼノ君の何が分かんだよ? あたしみてぇな最高な女といるゼノ君に嫉妬でもしてんだろ?」
マチルダだからこそ分かるゼノの魅力があるようで、ルージュのゼノを卑下するような言葉さえもまるで受け付けようとしなかった。寧ろ、異性との付き合いが無いからこそ、今ここで異性と共に行動を果たしているマチルダを妬んでいるのでは無いかと勝手に思い込み始める。
恐らく、マチルダから見てもゼノは自分からすれば最高の男なのだろう。
「なんでそっちの話になるんだよ? それと、相手だったらわたしだっているよ。お前らみたいな野党連中の為に今も戦ってんだよ」
ルージュは純粋にとても他者との接触を前提にしていないかのような息の臭さを持つゼノと近くにいられるマチルダを貶すつもりでしか無かったらしいが、マチルダは異性と結び合える事が出来た自分と、逆に未だに成就を果たしていないであろうルージュを比較した上で優越感に浸り出した為、面倒そうに言い返す事しかルージュはしなかった。
しかし、今はいないのかもしれないが、ルージュにも心に決めた異性が存在するようであり、そして今はルージュと同じ敵対者と戦っているようであった。尤も、戦う場所はルージュと異なっているのは確かではあるが。
「あたしらに対抗する気か? あぁそういえばなんかあたしらの仲間相手にやたら戦ってる奴がいたっけ? 確かスキッドだったか。仲間連れて戦ってたって言ってたな」
ルージュの言葉を疑う事をしなかったマチルダであるが、しかし存在を伝えたという事は、自分がゼノと結ばれている事に対して自慢をし返してやろうと企んだと受け取ったのかもしれない。
だが、何故かここでマチルダから見た敵対者で思い出したのだろうか、自分達に抗っており、尚且つ名前も覚えていたようであり、その人物が今ここにいるルージュと関係があるのかを確かめる為だったのか、敢えてここで喋る事を決めたようだ。
「結構名前知られてたのかお前らに。まあ壊滅させられるのも時間の問題かもなぁ?」
ルージュは自分の心に決めた相手が敵達の中で広く知れ渡る程に活躍を見せてくれていた事を誇らしく思いながらも、マチルダに言い返す事は言い返してみせた。
右手の束縛は続いたままだが、表情は勝ち誇ったようなものが見えていた。
「もう1つ教えてやるよ。あたし知ってるから今の状況ってやつ。あいつ、今捕まってるらしいぜ?」
マチルダは強がるルージュの気持ちに何かしら痛い思いでも味わわせてやろうと考えたのだろうか、ルージュの恋人の現状をやや真っ直ぐに伝えてしまう。直接現場を見た訳では無かったからか、あくまでも仲間から聞いた話、という形であったようだ。
「なっ……!! へっ、それがどうしたんだよ? あいつがそんな程度でやられる訳無いだろ?」
ルージュは知らなかったのだろうか。
しかし、嫌な予感が神経を貫いたが、それでもただ不安に支配された姿だけは見せぬようにと、無理矢理に感情を押し殺しながら鼻で笑ってやった。捕らえられているのは事実なのかもしれないが、それで終わりだとは思いたくなかったし、そして思ってやろうとも意識しなかったはずだ。
「少し動揺したかお前? お前がここで強がった所であいつの状況は変わんねぇんだよ。まあお前もどうせここであたしらに……」
マチルダはルージュを追い詰める為なのか、ルージュの恋人であるスキッドを捕えている事をとことん強調させるかのように、元々近かった顔を更にルージュに近づける。腰を折りながらルージュに近寄っていたが、背後から見るとどのように映っていたのだろうか。
背後にはゼノが待ち構えていたのだが、ルージュに言葉をぶつける事もせず、マチルダの後ろ姿ばかりを眺めていたが。
――突如マチルダの表情が崩れ始める……――
「あっ……あぁん……ちょっと……」
マチルダはルージュにわざと顔を至近距離に近づけていたが、その距離でありながら、突然身体にむず痒さでも感じたかのような嫌らしい声と、そしてそれに合わせたような緊張感の無い、というよりは外部から緊張というものを無理矢理引き抜かれたような表情を作り始めたのだ。
脚の力も抜けそうになったのか、重心が前に寄っていた関係でルージュに向かって倒れそうになったようだが、誰かによって支えられたらしい。そして、ルージュが支えた訳では無いのと、そして顔と顔が接触する事で受けてしまう物理的、そして精神的な苦痛を意識してか、ルージュは動く事が出来る範囲で上体を後ろへと反らしていた。
「はぁ? 何変な声出してんだよ……って何やってんだよあいつ!?」
ルージュはマチルダのよく分からない声を近距離で聞かされた為、何が起きたのか状況をいまいち把握する事が出来なかったが、よく見るとマチルダの背後でゼノが手を使った上で行為に走っていた様子が見えた為、恋人同士の関係であったとは言え、真剣に喋っていたマチルダの邪魔をするような事を平気で行うあの神経を気味悪がったのだろうか。
しかし、更によく見ればゼノはマチルダのスカートの中に手を入れており、ルージュからしたらただの気持ち悪い行為にしか見えなかったはずだ。
「ちょっと……ゼノく~ん……やめてよぉ~」
マチルダはルージュに顔を近づける為に腰を折ったような体勢をしていたが、それはゼノからすると下半身の部位を突き出すような形に見えたからか、ルージュの目がそこにある事も忘れた上で性欲を抑える事が出来なくなったのだろう。
マチルダは触られている最中でありながらも、腰を折った姿勢を何故かやめる事をしなかった。崩れそうになった身体は、両手を膝の上に持っていく事で支えとなって身体の崩壊を防いでいた。
「マチルダぁごめん。俺様もう……我慢出来ないよぉ~」
ルージュから見るとマチルダが遮蔽物となっていた為か、よく見えなかったが、確かにゼノがマチルダの臀部辺りに手を這わしており、なんだか顔も近づけているようにも感じられたが、ゼノの甘ったれたような言葉だけでもうルージュは充分だったはずだ。
行為をより鮮明に目視しようとは思わなかっただろう。
「も~ゼノ君ったら~。ゼノ君の、えっちぃ~」
マチルダは体勢を変える事もせず、寧ろゼノの淫らな行為をそのまま継続させるかのように、ゼノの感情を揺さぶるかのような態度を見せていた。確実にルージュに対しては取る事が無いような感情がここで激しく漏らされていた。
「おいお前やめろよ! 何わたしの前で気持ち悪い……ってか気色悪い事やってんだよ!? ってかお前もよく甘ったれた態度でいれるよな今の状況で!」
ゼノに身体の特にデリケートと呼ばれるであろう場所を触られているのにも関わらず、そのまま継続される事を求めるかのような態度でい続けるマチルダに対し、ルージュは思わず耐えられなくなり、敵対者だからという感情では無く、通常な社会的な視線で今のやり取りを止めるべきだと気味悪さを滲ませた怒声を飛ばした。
相手は野盗ではあるが、そもそも野盗であっても人がいる場所で平然と子供には見せられないような行為を行おうと決意出来るものなのかと珍妙な疑問さえ抱き始めてしまう。最初はゼノへと言い放っていたのかもしれないが、その次にマチルダに向かって嫌らしい表情で受け入れ続ける行為を否定してやった。
「あぁ? なんだとお前!?」
ゼノの行為に対しては威圧感なんて皆無な気の抜けた声を放っていたのに対し、ルージュに対しては再び性格を豹変させてしまい、暴力的な口調と表情は勿論の事、右手を突然伸ばし、ルージュの細い首を乱暴に握り締めたのだ。
――正確且つ、そして握力も非常に強く……――
「あう゛っ!!」
ゼノからは殴られた訳であるが、マチルダからは首を片手で絞め上げられ、ルージュはただ唯一自由である腕の左の方を使い、何とか引きはがそうとマチルダの手を掴むが、思い通りにはならなかった。
「お前ゼノ君の大事な気力回復の邪魔すんのか? そもそもここってあたしとゼノ君の居場所だぞ? 何しようが勝手だろうがぁ? 違うか?」
マチルダは自分の身体を触るゼノの事を罵倒したルージュに敵対意識を再度燃やし、今ゼノが行なっている行為は気持ちを高まらせる為にしている事であると伝えたが、ルージュに殺意を交えた態度を見せつけている今もゼノはマチルダのスカートの中に手を忍ばせ続けていた。表情はマチルダ以外の女性が見れば気味悪く感じるそれであった。
(やばっ……! 引きはが……せない……! ん?)
首を絞められていてはまともに呼吸をする事が出来ない。このまま続けば意識にも響いてしまう為、無理を承知であっても空いている左手だけでマチルダの右手を離させる必要があったが、無意識に動かしていた右手の方に妙な空洞感を感じ始めたのだ。粘液は硬度と重量が増していたのは事実だが、硬度が過ぎたからなのか、逆に隙間がルージュの手首と粘液の間に生まれてしまったのかもしれない。
(これ……外せれる……かも!)
首を絞めつけられながらも、ルージュは右手の方に意識と気持ちを集中させ、腕を捩じりながら徐々に高質化した粘液から引き抜かれていく感触が濃い紫のジャケットの袖越しから伝わっていたようだ。
そしてマチルダには気付かれていないようだ。ゼノと自分の空間なのだから、そこで何をしても自由なはずなのにいちゃもんを付けてくるルージュに顔を再度近づけながら威嚇する事にばかり気を取られていたらしい。
「もう怖気付いてるのか? それともたかが右手封じられただけで戦えなくなる……あ、あぁん……ゼノ君激しいよぉ~」
マチルダは自分が首を絞めているから、という面は考慮しなかったのか、ただひたすら黙り込んでいるルージュを見ながら言った。絞め上げられているルージュの表情は苦痛そのものだが、マチルダは背後からむず痒さを更に強く感じてしまったのか、事情を知らない者が見れば気色悪く感じるような気の抜けた声を漏らし始めた。表情もそれに動じるものがあった。
「いつもの事だろぉ~? 激しく動いた後のお前の尻、最高だよぉ~」
ルージュからはまるで見えなかった、いや、見えない方が良かったかもしれないが、ゼノは顔面をマチルダの身体に異様に近づけており、無関係な誰かがいる状況で発しても良いとはとても言えないような感想のようなものをだらしない口調で漏らしていた。
マチルダの表情も気色悪く緩んでいるが、ルージュの首を絞める力は弱まっていなかったようだ。
(こいつら……人に見られて……平気……なのかよ……?)
首を絞められているルージュだったが、声には直接出したくても出す事が出来ない状況で、ゼノの行為にただ嫌悪感を持つだけしか出来ず、そして右手の方は捩じりながら引く行為を地道に継続させていた。
手首は確かに粘液から抜けつつあり、希望の甲斐もあってなのか、意識は遠のく事が無かった。
「あぁん……ゼノ君あたし……あ、あぁん……やめてよぉ~大事な話の……あぁあ~ん」
ゼノの手の使い方がマチルダに力の抜けたような、そして確実に敵対者に聞かせるべきでは無いような声を出させているのは確かだが、マチルダもいつもの事なのか、無理矢理力で突き放そうとはせず、寧ろこれが続く事を望んでいるかのようでもあった。
「ごめんな~マチルダ~。俺あいつらのせいでイライラが爆発しそうなんだよ~。それに、この女だってやろうと思えばいつでも始末出来るだろ~?」
ゼノからすると遠回しに今の行為をやめてと言われたと感じたのかもしれない。しかしゼノは手を止める事をせず、そしてルージュからは確認が出来なかったのかもしれないが、マチルダの太腿に顔を寄りかかるように押し付けており、マチルダの身体こそが自身のストレスを発散させる為の至高な存在であると、マチルダのような緊張感が明らかに抜けきった声を発した。
まるで実はそこにルージュがいたという事を今思い出したかのように唐突に話の対象をルージュにし始めるが、この瞬間を使って仕留めるよりも、恋人の身体を触る事を最優先にしたかったようである。そして、後回しにしたとしてもルージュに最期を迎えさせる事は不可能では無いと思っていたようだ。
「もう……しょうがないんだから~エッチなゼノく~ん。そもそもゼノ君をここまで追い詰めたこいつが悪いんだもんね~。ってあんたまだ耐えてんだぁ?」
マチルダは腰を突き出したやや窮屈な姿勢のままで背後を振り向き、ゼノの淫らな行為を続けている様子を目視したが、もう自分の身体はゼノに触られて当然とでも意識しているかのように一切の抵抗も見せず、そしてゼノがこの場所でマチルダの身体を求めるのもそれだけのストレスをこの基地に侵入した敵対者が現れたからだと思い込んでいたようだ。
ルージュの首を絞める力を緩めているつもりは無かったのかもしれないが、ルージュのはっきりと残っていた意識には違和感を感じなかったのだろうか。
(よし! 外れた! 後は……)
もうルージュにとって、マチルダのやられている行為なんかどうでも良かった。今はもう抜けそうな右手に力を込める事だけを考える事にした。
そして気合の甲斐もあったからか、捩じりながら引っ張っていたら遂に粘液から右手を引き抜く事が出来たのだった。しかし、首は絞められたままであった事と、そしてマチルダはルージュの右手が自由になったという現状を全く把握していない。
「あぁそろそろ意識飛びそうになってるか。まあいいや、黙ってくれりゃお前もそのまま実験台にしてやるから。あぁゼノく~ん、ここで脱がせちゃうの~?」
何もルージュの状況を知らないであろうマチルダは、このままルージュの意識が無くなる事を前提に話を進め始める。動かなくなった後にこの基地で実験の対象として利用するつもりでいたようだが、ここでまたゼノの行動に何か変化が訪れたようである。
「もう俺我慢出来ないよ~。こんなガキの顔した女よりお前のお尻ちゃんの方が最高だって、この馬鹿な女に教えてやりてぇんだよ~」
ゼノはマチルダの下着を脱がせていたようであり、ゼノは本当に進んではいけないであろう世界にまで進むつもりでいたようだ。それだけゼノにとっての苛々が極限まで蓄積されていたのだろうか。
そして、寧ろルージュの目の前で自分のパートナーの女性の方が輝く肉体を持っているのだと証明させたかったようであるが、当のルージュは確実にそんなものを求めていないはずだ。
「ゼノ君ったら……ほんっと可愛いんだから~」
まるで小さい子供に対してでも言うかのようにマチルダは常に同じような態度をゼノに対してのみ継続させていた。脱がされているのにも関わらずこの甘ったれたような表情を作っており、普段からゼノと熱い恋愛を約束しているという事なのだろうか。
ルージュの視界にもなんだかマチルダのスカートの中から布が下ろされる様子が見えたような気がしたが、何も意識はしていないだろう。
「可愛いのはマチルダのお尻だよぉ~」
恐らくゼノの視界には見慣れてはいるが、それでも見れば日々のストレスが吹き飛ぶようなものが広がっているのだろうか。下卑た笑みをしながら言葉通りの場所を両手で揉み続けていた。
(アホ過ぎるだろこいつら……。もう気持ち悪過ぎだわこいつ……。一発行くか……)
ルージュはもう目の前にいる2人の行為を理解してやるつもりも、そして行為をしている場所の近くにい続けるつもりも無かったが、首は掴まれたままだ。しかしもう右手は自由である為、本当であればもう一生関わりたくも無いであろうゼノとマチルダの足元に自身の能力を注ぎ始めた。
――ルージュは密かに炎の力を足元へと集中させ……――
「……」
ルージュは自分の事を追い詰めた2人に仕返しをすべく、足元に能力を注いでいたが、表情もそれに合わせるかのように力んだものになる。怯えたような表情では無いのは確かだが、ふとそれに気付いたマチルダはルージュに言葉を渡す。当然態度はゼノに対してのものと瞬時に切り替えた上で。
「あぁ? なんだよゼノ君にふざけた事ほざいたら殺す――」
首を絞められている状況に似合わない表情をここで初めて見せてきた為、マチルダは自分達に何か歯向かってくるのかと感じたのか、何かしらの反発行為は殺しの対象にしてやると言おうとしていたのかもしれないが、足元が妙に熱く、自身の脚に熱を受けている事に気付いたが、それは遅かったのかもしれない。
――瞬間、床が爆発を起こす――
――ドォン!!
「うわぁ!!」
「ぎゃあ!!」
ゼノとマチルダは足元で突き上げられるような爆風を受け、ゼノは後方へと、そしてマチルダはほぼ真上へと飛ばされる。
爆発というよりは炎の力を利用した風圧と見た方が良かったのかもしれないが、首を放され、自由になったルージュはまずは上から落ちてくる憎い相手との衝突を回避する為に後ろへと数歩下がった。足を向けながら床へと落ちていく姿をルージュは見ていたが、脚の間が勝手に目に入ってしまった為、心の中で気持ち悪いと感じながらも、折角抜け出した事と一発仕返しが成功した事を混ぜた言葉をぶつけてやろうと、ルージュは吠えて見せた。
「悪いけど残念だったなぁ! わたしの事追い詰めた気分だっただろうけど無理だ! お前らにわたしは仕留めれないぜ?」
ルージュはマチルダから距離を取りながら、自由になった事を改めて実感するかのように右腕を振り回した。粘液には少しピンチな目に遭わされたが、抜け出す事が出来た今であれば、もう粘液なんかに怯えてやろうとも思わないはずだ。
再び優勢に立ったであろうルージュは右手を持ち上げ、そして自身の実力を思い知らせる為なのか、拳を握った。
「あぁ……痛ってぇなこいつめぇ!! ゼノ君の楽しみ奪うだけじゃなくてあたしにまで怪我させようとしやがって!」
背中から落下し、上体を持ち上げようとしているような体勢で自分の脚の向こうに立っているルージュに怒声を飛ばす。突然の爆発のせいでゼノの手がマチルダから離れたのは勿論、背中を強打させてきた事もあり、そしてその場で即座に反撃や仕返しに走る事の出来ない体勢のせいで猶更怒りが増幅してしまっていたようだ。
「勝手に怒鳴ってろよ! お前だってわたしの事首絞めて殺そうとしたよなぁ? まあ失敗に終わったけどな! それと脚閉じろよ! 気持ち悪いもん見せるな!」
やられた腹癒せに怒声を散らしているとしか思えなかったルージュは、先ほどまで絞めつけられていた自分の細めな首を親指で差しながら言い返した。ルージュは殺されそうになったから対抗手段として足元を爆発させてやったまでである。
しかし、マチルダは倒れた状態で、そして異様に短いスカートで尚且つよりによってゼノに脱がされたままの状態であった為、場合によっては女同士であってもあまり直視すべきでは無いような秘密の場所が派手に見えてしまっており、ルージュからするとマチルダの外見は兎も角、粗暴で汚らしい態度の奴の脚の間なんかを好んで見ようとなんて思わないだろう。
「じゃあ見てんじゃねえよ! これはお前じゃねえ! ゼノ君に見せる為にあんだよ!」
マチルダはそれでもすぐに脚を閉じる等のような見えにくくするような対処も取る事をせず、寧ろ恥じらう事よりも自分の身体を気持ち悪いと批評した事に罵倒を飛ばす事を最優先にしたらしい。
立ち上がる事もしなかったが、背中が痛くて立ち上がれなかったのだろうか。
「だからどうでもいいってそんなもん……。それよりリディア……大丈夫かあいつ……」
ゼノの為とか、そういう話はルージュにとっては価値の感じられない話であるはずだ。
しかし自分は助かっても、実験室に連れられたリディアの事が心配であり、もうマチルダ達なんか放置した上でリディアの連れられてしまったであろう実験室に飛び込むべきだと考え、鉄の装飾のドアを凝視しながらそのまま走り出そうとする。
「何がどうでもいいんだよ!! おっと、あいつのとこ行くつもりか! その前にお前とわたしとどっちがいい身体してるか確かめさせろ!」
マチルダは自分の身体を気持ち悪いと言われ、そして放置までされる事が分かった為、それが許せなかったのか突如立ち上がり、まるで捨て身で行うかの如く、ルージュの背後から覆い被さるように飛び掛かる。
短い悲鳴と共にルージュは背中から飛び掛かってきたマチルダによって床に押し付けられるように倒されてしまうが、この室内のドアが開く音が響く。
――現れたのは、青い髪を持った少女であり……――
「ルージュ! 待たせたわね! って何してんの!?」
ツーサイドアップの青い髪と、脛辺りまで丈のある緑のロングスカート、そして同じく緑色を基準としたノースリーブの、腰が露出する丈のブラウスに胸部を保護する黄色の胸当ての服装をしていた。そして黄色の色をうっすらと帯びたレンズの赤いフレームの眼鏡の奥には水色の瞳が見えていた。
飛び込んだ少女がすぐに目にしたのは、仲間であり、友達でもあるであろうルージュが荒れた銀色の髪を持った女に圧し掛かられている様子であり、状況が理解出来ない青い髪の少女はまず聞いてみるしか無かった。
「うっ……! ん? サティア、か!? 悪いけどこいつ何とかしてくれないか!」
背中から乗られ、マチルダの押さえる力とそして体重による重量で苦しそうな声を上げていたルージュだったか、澄んではいたが強気な雰囲気さえ感じさせてくれる少女の声色を聞くなり、すぐに待ち続けていた友達の少女が駆けつけてくれた事に気付く。
開かれたドアに向かって顔を向けるが、マチルダに押さえつけられていた為、辛うじて動かす事が出来た右手で何とか背中にいるマチルダを指差しながらサティアへと伝える。
「あぁ? 誰だお前!! また勝手に入ってくる奴がいたのか!?」
ルージュの背中を膝と両手で押さえつけていたマチルダはドアの向こうから現れた人物に目を向けるが、そこには明らかに基地にいる自分の配下では無い者がおり、無断で自分の基地へと侵入した事が許せなかったらしい。早速と言わんばかりの怒声をサティアへと飛ばすが、ルージュの上からは離れなかった。
「なんか状況はよく分からないけど、離すぐらい簡単な事よ! 任せなさい!」
元々敵対者が支配する基地であるから、敵そのものが存在する事は予め予測していたであろうサティアであったが、ルージュに圧し掛かっている荒れた色の銀髪と、そして必要箇所以外はとことん露出させた服装の女の事がどうしても理解出来なかったものの、どちらにしてもルージュの上にいる間はただの障害でしか無いのは分かった為、緑の指が出た手袋で包まれた右手を顔の横に持ち上げ、準備を始める。
人差し指と中指を束ねて伸ばした2本の指の上で、水の力を溜め始めた。指先の上で小さな雫が最初は小さく弾けていたが、弾け方が徐々に大きくなっていく。
「ありがと! ってか早くしてくれ! こいつ変態だから!」
サティアという友達であり、そして今は助っ人と表現しても良さそうな少女に対し、ルージュは背中の上にいるマチルダを再び指差しながらサティアへと伝えた。
何かしらの方法でマチルダを避けさせると思われるが、ルージュは手段を分かっているのだろうか。
(ヘン……タイ……? どういう意味なのよ……?)
サティアは2本の指の上で自身の手のサイズ程の小規模な水の柱を完成させたはいいが、ルージュの言った言葉が疑問の形で感じられたらしい。
しかし、意味を深く考えている事に時間を割く余裕は無いだろうと気持ちを切り替えたのか、2本だけ立てていた指を全て開き、開いた右手をルージュの上に乗っている気性の荒らそうな女性へと向けた。
そして水色の瞳に力を込めたのか、やや細く、そして鋭くなる。
その後である。
――サティアの指から高圧の水鉄砲が発射される――
今回はルージュの仲間であって友達でもあるサティアの登場です。これでまた仲間側が有利な展開になると信じたいですが、ルージュの更に別の仲間であるらしいスキッドの事もちらっと出てきたので、また新しい何かの伏線になる……と信じたいかもしれないですね。




