第33節 《基地に潜む竜人の女性 同じ竜の血を引く少女との再会》 1/5
1ヵ月ぶりの投稿になってしまいましたが、基地内での戦いは続きます。今回もリディアとルージュの戦闘シーンですが、敵対するマチルダもまだ諦める様子を見せません。
リディアは基地の中で、赤髪の少女ルージュと再会する
敵対する相手はリディアと過去に出会った野盗のゼノ
ゼノ自身の実力は想定外の低さであり、このまま基地と共に運命を迎えるはずだった
しかし、ゼノの恋人である竜人の女性マチルダがそれを許さなかった
基地での実験材料にすべく、マチルダは竜の息吹を撒き散らす
「じゃあお前らはこのままくたばっちまえよ? ゼノ君に痛い思いさせた罰だ。じゃあ……」
上半身を裸にしている男であるゼノの盾になるように立ち続けていた竜人の女性であるマチルダであったが、今までゼノは2人の少女に痛い思いをさせられていたようであり、そうとしか感じられなかったマチルダは口から緑の色を持った気体を漏らしながら、何かを行なう警告のようなものを飛ばし始める。
そして一歩踏み出すなり……
――マチルダの口から緑に染まった炎が吐き散らされた!――
「死ねやぁああああ!!!!!」
叫び声と同時に口を無理矢理に大きく開き、そのまま口内に溜められていたであろう空気を全て無理矢理に捻り出すが、そこで放たれたのは色こそは緑であったが、熱を持った炎そのものであった。緑の炎をブレスとしてリディアとルージュを目掛けて吹き荒らさせたのだ。
口から何かを発射してくる事は想定していたリディア達であった為、一応はその場で自分の実を守る為の手段には走っていたが。
「やっぱりブレス!?」
黒の儀礼服のような戦闘服を纏っていたリディアは予想通りの攻撃を放ってきた相手に対し、両腕で顔面を保護するように翳しながらバリアを張る。
「おっと、火なんかでわたしが怯むと思うか!? こっちだって使えるぞ!!」
濃い紫の袖の長いジャケットを着用した、男性のような口調を扱う少女であるルージュは右手に炎を灯すなり、すぐにそれを足元へと落とし、そしてガッツポーズのように右手を握ると同時に落とした炎が柱のように立ち上がり、ルージュの目の前を保護する。よく見れば、リディアも一緒に防いでいた。
竜人のマチルダが吐いた緑の炎は、ルージュの呼び出した橙色の炎によって防がれた。
「ルージュさんナイスです! それって、バリアですか!?」
バリアの為に呼吸を止めながら防御に専念していたリディアであったが、自分に炎が接触している感覚がまるで無かった為、黒のハットと同じく黒のフェイスガードの間から覗かれている青い瞳をゆっくりと開いたが、目の前には明らかにマチルダの炎とは異なる橙色の炎が出現しており、そして炎を発生させた者が誰なのかも分かっていたらしい。
しかし、用途に関しては実感するのは初めてだったのか、聞くしか無かったようだ。
「まあそんな感じだな! でもお前も突撃の準備しろよ!」
ルージュはこのように答えるしか無かったようだ。防御壁として使っていた炎の柱であったが、表現方法や口頭での説明は意味が相手に通じていればどうでも良かったようであり、そしてリディアに対し、いつまでも守られてばかりいるなよと、反撃の姿勢を取らせようとする。
ルージュもきっと、炎の柱を突き破りながら派手に仕返しに行きたいと心で意識をしていた事だろう。
「そう……ですね!!」
リディアは何故かそれしか、意味がどのように込められているのかを周囲に理解してもらえないような呆気無い返答しかしなかったが、左手にも氷の刃を生成させ、マチルダがどのような形で向かってきても対応が出来るような姿勢を取る。
既にバリアは解除しているが、ルージュの発生させてくれた炎の柱が相手の燃える息吹を防いでくれている。
だが、今は相手の方の炎が弱まっていた。理由はすぐに判明するが。
――マチルダが歩み寄ってきたからだ――
「火で対抗か? だったら殴り合いでも対抗出来るか見せてみろよ?」
リディア達に対する警戒心を一切持たないかのような詰め寄る形で歩いて近寄り始めるマチルダであったが、両手が緑色に染まっていたのだ。それは2本とも握りしめられていたが、緑色の奇妙な炎を飛ばしていた為、身体の方も緑に関連した変化を見せるという事だったのだろうか。
そして適当に距離を詰めたと感じたからか、ルージュの発生させていた炎の柱の目の前で立ち止まるが、橙色の炎超しにリディアと目を合わせるなり、何かを心の奥で決めたかのように突如炎を突き破りながらリディアへと跳び掛かる。
――熱の気体を力任せに突き破り……――
「まずはお前からだおらぁ!!」
どのような基準でリディアを最初に選んだのだろうか。マチルダは緑色に染まった右手を握り締めながら、そして飛び込むようにリディアへと殴り掛かる。
両手に氷の刃を構えていたリディアであったが、全体重を乗せて迫って来た相手を受け止める自信が無かったのか、それとも別の策だったのか、跳び掛かるマチルダとすれ違うように姿を消滅させ、そしてマチルダを素通りさせてしまう。
「おっと! 私から狙っても何もいい事は無いけどね!」
マチルダが通り過ぎたのを見計らったのか、再び姿を実体化させるリディアであったが、リディアを掴む事だけを前提にしていたからか、マチルダはそのまま前のめりに情けなく倒れ込んでしまう。わざとらしい短い緑のスカートの内部が見えたが、何も感じる事は無かった。
「何恥晒しなんかしてんだよ? お前もただの見せかけか?」
うつ伏せに倒れたまま立ち上がろうとしないマチルダを後ろから見ながら、ルージュも徐々にマチルダの戦闘能力を疑い始めてしまう。強いのは口調だけで、戦闘技術の方は未熟なのかと感じようとしていたのかもしれない。
「へっ! お前らやっちまえ!!」
両手と両膝だけで身体を持ち上げたような体勢で背後、つまりはルージュ達に顔を向けるなり、マチルダは鼻で笑った後にどこにいるかも分からない誰かに対し、まるで命令でもするような口調を飛ばした。言い方を見ると、命令を飛ばした対象は単独では無いのだろう。
ならず者そのものを思わせるような言い方が終わるなり、空気が震えたような振動音が空中に鳴り響く。
――空中に緑の気体が複数出現し……――
それは気体ではあったが、形だけが人間のような頭部と腕2本、そして上半身が当に人間のそれに生成され、そして下半身はまるで下半身から引っこ抜いたかのように尖った形状となっており、それは子供がよく描くであろうやや愛嬌を持った幽霊に似た形状をしていたが、容姿は現実の可愛げの無い人相の悪い男そのものである。
「ひひひひひひ!!」
幽霊のような物体達は共通して同一の笑い方をしながら、一斉に空中からリディアとルージュ目掛け、一直線に飛び込み始める。
「なんだこれ幽霊っ……うう゛っ!!」
ルージュは宙に突然現れた緑の霊体を見るなり、思ったままの事を口に出したが、突然宙から殴り掛かって来た為、すぐに両腕で顔面を保護した。
そして、数体の殴打の合間を狙い、憎らしく笑っている霊体の顔面を殴り飛ばすと、まるで手応えの感じられない接触と同時に相手は霧が広がるように消滅した。
「はぁっ!! 弱いけど……しつこいかも!」
リディアは丁度目の前から飛んできた霊体を反射的に氷の刃、右手に構えていた方で斬り付けた為、打撃を受ける事は無かった。しかし、まだ背後から奇妙な笑い声を飛ばしながら襲い掛かろうとしていた霊体がいた為、数で無理矢理攻めようとする戦法がどうしても今のような気持ちを出させてしまったようだ。
「お前ら! しっかり邪魔しとけ! これからあたしがぶちのめすからしっかり邪魔しろ!」
この時にはマチルダは身体はもうリディア達へと向けており、そして片膝だけ付いた状態で、そして丁度立ち上がっている最中となっていた。
宙を飛び回っている霊体、そしてこれから実体化しようとしている霊体全体を差していたのか、指をリディア達の上に見える天井付近を狙うように振り回しながら命令を飛ばした。
「あぁただの護衛みたいな……奴!?」
多少手が空いたリディアは、今のマチルダの指令を聞いて改めてこの霊体達がマチルダの能力で出現しているものだと把握する。リディアとしては霊体なんか放置してすぐにマチルダに向かってやりたかったが、丁度横から1体の霊体が不意打ちでもするかのように忍び寄っていたが、リディアの左手に持たれた氷の刃の一振りで消滅させられる。
「おい後ろだリディア!! あうっ!!」
マチルダへ攻撃する為にその場から駆け出そうとしていたらしいリディアであったが、背後から突然実体化しようとしていた霊体がおり、気付いていなかったリディアに向かってルージュが叫ぶが、ルージュは両側から突然現れた霊体2体によって、両腕をそれぞれ外に向かって引っ張られてしまう。
「後ろ!?」
しかし、マチルダに集中していたリディアは反応が遅れてしまう。
――リディアは背後から拘束されてしまい……――
「何……? って強い……し!」
リディアは両方の腋の下から腕を入れられるように上半身を押さえ付けられてしまう。相手は霊体で実体が無いに等しいはずであるが、締め付ける力はかなり強く、氷の刃で斬り離そうとしたが、腕が上手に動いてくれなかった。
「よし押さえとけ! あたしからのお仕置きパンチ食らわしてやる!」
自分の呼び出した霊体達がリディアの動きを封じた事を確認するな否や、まるで自分に千載一遇のチャンスでも訪れたかのように、緊張感を捨てた態度で単純に右手を握りしめ、早歩きでリディアへと近寄っていく。
――拘束されたリディアの顔を狙い……――
「あたしのパンチ喰らったらお前一撃だぜ?」
マチルダは自分の配下のような存在である霊体に押さえ付けられているリディアにまるで自慢でもするかのように握った拳を見せつけ、力を入れて何とか振り解こうと必死になっているリディアの顔に狙いを定める。
「……」
リディアはもう自分の顔面に拳を飛ばされる事を想定しており、何も喋る事をしなかったが、今拘束されているのはあくまでも上半身だけという事も把握しており、反撃の手段は出来ていた様子でもあった。
上半身は掴まれていた為、そこを支えにした上で、そのまま両脚を一気に持ち上げ、そして、
――ドロップキックのように両足で蹴撃を放つ!――
「とぉおらぁあ!!」
無理矢理にでも自分の接近を拒むかのように、リディアはマチルダの胸元を目掛けて押し出すような蹴りを放つ。
リディアを押さえ付けていた霊体は自分が押さえている事で両脚を持ち上げた蹴りが出来ていたと察知したからか、意図的に姿を消滅させ、同時にリディアも足を床に付けていない状態である以上そのまま身体を打ち付けるとしか考えられない形で落下するが、リディアは単に落下するだけで終わらせず、上手に受け身を取った上ですぐに立ち上がる。
「うっ!!」
マチルダは防御の体勢を取っていなかった為、腕で自分を保護するという事も無く、足2本分の力をそのままマチルダは受け取る事になったのである。
力に逆らえず、無理矢理に後退させられたマチルダに対し、リディアの言葉が飛んでくる。
「まだ脚が残ってたんだけどね?」
霊体達がリディアの脚まで拘束しなかった事が痛手になったという事を、リディアは両腕を肩から軽く回しながらマチルダに説明してやった。脚の話をしていたが、特に脚を持ち上げたり、振って見せる等の特別なアピールはしなかったが。
「けっ、油断した……か」
まさか脚で反撃を受けるとは考えていなかったのか、マチルダは一撃を受けただけでなんだかもう戦意を失ってしまったかのような弱々しい口調を聞かせてきた。蹴られた胸部を左手で押さえながら、表情も何だか覇気を失ったような雰囲気だ。
「何? まさかそれで終わりじゃないだろうね?」
痛がり続ける様子を見て、リディアはマチルダの根性の弱さを疑い始めてしまう。しかし、たった一度の蹴りによる攻撃を与えただけでここまで怯まれる方が寧ろ怪しいぐらいであり、怯んでいる今の姿がただの偽りだとしか感じられなかった事だろう。
「……へっ、当たり前だろ!!」
胸部へと受けた痛みが嘘であったかのように、マチルダは突然態度を今までのような暴力的なものへと戻し、明らかなパンチの構えをすぐに作ると同時に、力と正確さの両方を合わせた真っ直ぐなパンチがリディアへと飛ばされたが、リディアも黙って受けてしまうヘマはしない。
「!! なかなか……やるじゃん!」
リディアは左腕でマチルダのパンチの軌道を逸らしながら回避を決める。一応は褒めてやったが、続くように更に拳が飛んできた為、今度は身を屈ませる事で2発目を回避する。
氷の刃は先程背後から掴まれた際に消滅させてしまっていた為、素手での戦いにも自信があったリディアは右手を強く握り締めるなり、真っ直ぐと仕返しと言わんばかりにマチルダの顔面を狙うが、左腕1本で防がれてしまう。しかし、隙も余裕も与えず、僅かに後退し距離を調整した上で再び顔面を狙い、右脚で横蹴りを鋭く放つ。
「褒めたって逃がさねぇぞ!!」
だが、リディアの横を向いた状態で飛ばされた蹴りを、マチルダは両腕で抱くように押さえ付け、リディアの移動に著しい制限をかけてしまう。
押さえ付けたまま、反撃を考えていたのかもしれないが、横から何か熱が近寄ってくるのを感じ、見たくも無い物を嫌々見るかのように顔を横に向けた。
――マチルダに火球が飛んでくるものの……――
「おっと! 甘めぇぞ! じゃあ次お前の番だ!」
左手でリディアの脚を押さえ付けたまま、マチルダは右手で自分に飛んできた燃え上がる球体を、殴りつける事でそのまま砕いてしまう。
マチルダの手は奇妙に緑色に染まっており、炎の塊の温度程度ではビクともしないのだろうか。
(わたしの火の玉壊されたか……。力任せ過ぎるなこいつ)
既にルージュは霊体達の妨害を引き剥がしており、マチルダの死角となる真横から自身の能力である炎を生成させ、それを発射する攻撃を見せつけていたのだが、殴られる形で粉砕されてしまい、それなりの強度を誇っていたはずの火球が潰された事実を一旦受け止めながら、心での呟きを一度止める。そしてマチルダが今度は自分を標的にする発言を飛ばしていた為、それに備える意味で気持ちを引き締めた。
「お前は一旦……」
マチルダはルージュに殴り掛かろうと決めたが、リディアの右足を左手で押さえたままであった為、それでもただで離す訳にもいかなかったのか、一度無理矢理に足を物理的に引っ張り、そして左腕でそのままリディアの右脚を抱えるように挟み込み、右手でリディアの左の脇腹を乱暴に掴み、そのままリディアを持ち上げてしまう。
「何掴んで……く……! うわぁ!!」
無理矢理に力で掴み掛り、更に自分の身体を力任せに持ち上げてきたマチルダにまともな対抗をする事が出来なかったリディアであるが、何をやろうとしていたのか、それは数秒も経たずに理解させられる事になる。
ルージュのいる場所から無理矢理に距離を離されるかのように、純粋に投げ飛ばされたのだ。リディアの身体は完全に宙を舞い、そして放物線を描きながら床へと落ちていく。
「向こう行ってろ!!」
身の安全を保障する義理も無いとでも言わんばかりにマチルダは投げ飛ばした後のリディアを気にも留めず、ルージュを標的として定める。その証拠に、もう視線も身体の向きも完全にルージュへと向けられていた。
「おいリディア!!」
ルージュもリディアが投げ飛ばされる様子を見逃す訳が無く、床を転がる様子も同じく見逃す事をしなかった。特に床に落ちた時に深手を負ってしまうのではと心配したのかもしれないが、不安定な体勢から投げ飛ばされたとは思えない程にスムーズに床を転がり、上手に片膝を立てた姿勢になっていた為、無駄に心配した自分を馬鹿らしく思ってしまった可能性もある。
しかし、マチルダにとっては、リディアの状況等どうでも良かったはずだ。
「他人の心配より自分の心配しろよ!!」
視線が自分から逸れている事を隙として捉えたマチルダは、ルージュに対してもリディアの時と同じ殴打を加えるべく、右手を握り締め、走り寄りながら力任せに殴り掛かる。
「おっと! 言われなくても分かってるわ! お前の雑魚パンチはやっぱりそんな程度か!?」
ルージュは腕でガードでは無く、左右へ素早く身体を反らす事で直接の命中を回避し、それを続けながらまずは自分自身の身の事を考えろという罵倒に肯定の意見を出し、そしてマチルダのパンチでは自分にまともに命中させる事も無理だと貶してやった。
「これしか無かったらそりゃ雑魚だろうなぁ!!」
自分から離れるように飛び退いたルージュに対し、マチルダは相手の言った通りであれば確かに弱い存在である事に間違いは無いだろうと乱暴に言い返すが、言い方を見る限り、本当にルージュの想像通りという訳では無かったはずだ。
「どうせまた幽霊みたいな変な奴嗾けんだろ? こんな風になぁ!!」
ルージュはもうマチルダの召喚する霊体に慣れていたのか、何かしら再び自分に向かって放ってくるのだろうとしか考える事が出来なかった。案の定喋る事に集中していたであろうルージュを横から狙おうとしていた霊体がいたが、左手で霊体の顔面を掴み、自身の手を炎に包ませる事で霊体も一緒に燃やす形で消滅させてしまう。
「使い方次第じゃこんな事も出来るぜ! お前ら集まれ!」
マチルダからすれば霊体なんていくらでも補充も召喚も出来るからなのか、消滅させられた霊体等一切気にも留めず、まるで両腕の筋肉をアピールするかのように両腕を外に向かって伸ばし、自分の元へと来るように誰かに対して命令口調で放つ。恐らく霊体達に言っていたのだろう。
「何してんだ?」
自分にとって確実に都合の良くない事をされる事を理解しているかのように、ルージュは自分の両腕に霊体達を纏わり付かせているマチルダに真意を問い質そうとするが、普通の返答は期待していないはずだ。
まるで食用として加工された骨の先端付近に巻き付けられた肉のように両腕が膨れ上がっており、そして見るからに重たそうな両腕を平然と振り回しながらそのままルージュへと速度を付けた上で接近する。
「見たまんまだおらぁあ!!」
近寄った理由は1つである。マチルダは霊体を張り付かせ、肥大化させた両腕で力任せにルージュを殴り飛ばす為だ。相手が防御の体勢を取っているのをまるで気にせずに飛び込むようにルージュに身体を投げ出すように拳も突き出した。
「あ゛う゛っ!!」
炎を操る能力も合わせる形で防御の体勢、見た目だけは両腕で顔面を守っているだけであったが、全体重を乗せて殴り掛かって来た相手を受け止める姿勢としては充分だ。
想像以上に重たい一撃だったからなのか、思わず口から苦痛のようなものが白い歯の僅かな隙間から吐息と共に漏れる。転ばされる事は無く、右脚を後ろへ持っていく事で身体を支えた。
「あたしはなぁいくらでも強化出来ちまうんだよ。こいつらが纏わり付きゃあなぁ!」
両腕だけが不自然に肥大化、厳密には霊体達がへばりついているだけであるが、その両腕をルージュの目の前でわざと振り回しながら自身が持つ力の事を説明し始める。
「痛ってぇなぁ……。あぁそうかいそうかい! そりゃおめでと!」
力強く防御体勢を取っていたつもりだったルージュだが、重たさが強すぎた為、思わず本当の事が言葉という形で漏らしてしまったが、霊体そのものを自分の身体に貼り付ける事で好きな形で戦闘形態を取る事が可能になるその性質を上目線とも言えるような態度でわざと褒めてやった。
今までのマチルダの攻撃の中でも特に痛かったのか、ルージュは両腕に圧し掛かった鈍痛に未だに表情を歪ませてしまっている。
「何強がってんだお前? お前みたいな生意気な奴はなぁ、皆いい実験台になってくれたぜ。まああの部屋に連れてった途端にめっちゃくちゃ泣き喚いてたけどなぁ?」
表情を見て察知したであろうマチルダは、ルージュの心情を読み取ったかのようにこの基地に嘗て侵入した者達の末路を喋ってみせた。強気に振舞った者達もやはり最後は力尽きた結果として、今までの態度が嘘だったかのような弱みを撒き散らしていたようだが、ルージュはどうなのだろうか。
「おい何勝手に勝ったつもりになってんだよ? わたしの事半端もんだと思ってんのか?」
防御に使った両腕の鈍痛が引いてくれたのか、ルージュは余裕のある表情に戻しながら、両腕も下ろし、部屋に連れられた者達と自分は違うと言い放ってみせる。
そのように見られているのであれば、そう見えなくなるように振舞うつもりで行くのがルージュなのだろうか。
「今まで負けた奴らがほざいてた台詞そのまま使ってるぜお前? まあ実験台になりゃお前もあんなメッチャクチャな身体になるけどなぁ!」
マチルダは今まで何人もの敵対者を負かしたようだが、実際に改造された後の姿を思い出すと無意識の内に気持ちが高ぶってしまうようであり、攻撃の構えを取らずに嘲笑を含めたような表情を作っていた。
しかし、横からの気配を感じたのか、それとも風を切るような音に反応したのか、マチルダは自分以外の者に聞こえるのか聞こえないのか分からないような小声の指示を漏らしながら指を鳴らす。するとマチルダの目の前に壁を作るかのように、緑の霊体が実体化すると同時に密集する。
――壁に突撃してきたのは、リディアの氷の刃であった――
「ん? お前か!?」
先端から飛び込みながら突き刺そうと戦略を立てていたであろうリディアを霊体の壁超しに目視したマチルダは、ルージュとは異なるもう1人の敵対者がまだ戦う力を残していた事を知る。尤も、投げ飛ばした程度で意識を失う程リディアが弱者では無いという事はマチルダも理解はしていたはずだが、霊体による壁を作っていなければ、首元を貫かれていたのは間違い無いはずだ。
「そいつら、盾にもなるんだぁ?」
拳を突き出すように氷の刃で突き刺そうと飛び込んだものの、霊体の壁に防がれてしまった為、霊体は盾にもなるのかと言葉にしながら、どちらにしてもこのままではマチルダには接近が出来なかった為、一旦飛び退いた。
「無言で不意打ちしてんじゃねえよ。まあお前も正義感と優しさ持ってそうな女だけど、お前みてぇな奴も最高の素材になってたからな?」
今までの戦闘経験からなのか、密かに狙われたとしても僅かな空間の違和感等から察知が出来るように身体が出来てしまっていたのかもしれない。それでも致命傷を受けずに済ませたマチルダは引き下がるリディアに対し、性格を評価でもしたかのような言い分を渡してやったが、それでもやはり最終的には似たような性格を持っていた昔の者達は実験材料として基地で使われていたようであった。
性格がどのような形であっても、ここで負けた者に未来は無いという事を何度も教えてくるのがマチルダなのだろうか。獲物を見つけた猛獣のような目付きがそれを物語っていた。
「あんたに負けちゃった人達の話なんかされてもどうしようも無いけど……!!」
リディアとしてはこの基地で実験材料とされてしまった者達を放置はしたくなかったが、もう被験者となってしまった者達を救う術を持っていなかった為、何も出来ない自分に腹を立てていたのかもしれないが、異変に気付くのが遅かったのかもしれない。
――リディアに突然無数の霊体が圧し掛かり……――
叫ぶ余裕も暇も与えずに、リディアの周囲を包むように実体化した霊体達が無理矢理にリディアに密着し、隙間の1つも作らなかった。まるで球体で作っているかのような、そんな異様な霊体の塊となったリディアのいた場所を見ながらルージュは何かを言おうとしていた様子ではあったが。
ルージュもリディアと異なる形で押さえ付けられていたのだ。背後から霊体に口元を腕で塞がれるような形で。腕や脚も他の霊体によって巻き付かれるように拘束されており、リディアを口で呼ぶ事なんて出来る訳が無かったのだ。
「喋ってる暇なんかお前にはねぇはずだぞ? さてと……」
霊体に埋もれてしまったリディアに対し、マチルダは聞こえているのかどうかも分からない言葉を飛ばしたが、これから本当の使命を果たすかのような気持ちが見える意味深な言葉を漏らし、そして自分の足元、というよりは自分自身の脚を凝視し始める。
わざとらしい異常な短さの緑のスカートから伸びた太腿であったが、足元に霊体を這わせ、自身の両脚を包み込ませていく。一応外見だけは人間と変わらない肌色の脚に、霊体が纏わり付く事によって脚自体が太さを増したような見た目だけは不格好な姿となる。
しかし、見た目からして非常に重たそうであり、両腕と同じく、一撃の力強さが見た目だけで分かる程の外観と化していた。
「殺さねぇ程度に弱らせてやっからなぁ?」
両腕と両脚に多数の霊体を纏わり付かせたマチルダは、この重量を上乗せさせた状態の身体でどのようにして2人を追い詰めてやろうか、色々と巡らせていたのかもしれない。
後半からはいきなり竜人のマチルダが優勢になってしまいます。リディアは追い詰められてしまいますが、次はどうなるのでしょうか?




