表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
88/135

第32節 《違法薬物の製造基地 再会した野盗の男は少女らを食らう?》 3/5

今回は遂に基地の親分各の相手が登場します。過去に登場したと思われるある男ではありますが、今回はリディア単独では無いので一方的に不利になる事は無いような気がしますが、相手も相手なので一方的に有利でい続けられるかどうかは分かりませんね。







          リディアは薬物の開発施設らしき場所に連れられたが、今は自ら突入する立場に


          姿を隠しながら潜入している矢先に、知り合いのルージュと出会ってしまう


          それは互いに好都合となり、両者が手を取り合いながら元凶を打ち倒す度胸を生み出した


          リディアからすれば突然自分を連れ去ろうとした狂気の建造物ではあるが


          ルージュからすれば大切な後輩が捕らえられた時間を争う状況である


          そして侵入した以上は、もう解決にまで辿り着かなければ、帰してはもらえないのだ




「どうだ? お前もあいつらの仲間になりてぇだろ?」


 ゼノと呼ばれていた、上半身を裸にした服装の締まった筋肉が目立つ男は、防護服の部下2人に押さえ付けられている茶髪の長髪の少女に近寄りながら、ドアの奥から連れてこられた無残な姿の人間2人を指差した。


 指を差された人間2人は、全裸である事に加え、ほぼ全身の肌が赤く爛れており、そして頭髪はもう完全に抜け落ちており、もし胸部の特徴的な膨らみ等が無かった場合、性別の判断なんて出来なかった可能性すらある。


「なりたい訳……無いでしょ! やめてったら!」


 防護服の男2人に押さえ付けられている少女は、指を差された肌の爛れた人間が何となく元々は自分と同い年程の女性だったのかと感じてしまう。胸の出方を見るとやはり元々は女性だったとしか思えず、そして肌が爛れた部分以外の場所は妙に若々しく映っており、今の惨状になる前の姿を何故か勝手に思い浮かべてしまう。




「今は反抗的な態度なんか取っててもなぁ、こっちにはもう試作品の薬が用意されてんだよ? お前もそれ受けたら絶対今の生活がつまんねぇって思えるようになるからな」


 ゼノは少女の前でわざとらしく腕を組みながら、敢えて少女の態度に対してそれを理由に詰め寄る行為をする事も無く、薬を身体に受けた後の話を始める。


「ゼノ様、これですよね?」


 少女を相手に喋っている最中に、防護服の男の1人が室内に再び入っていたようであるが、そこから何かを持ってきたようである。防護服の男はゼノの隣に近寄りながら、筒状のガラス瓶を持ち上げて見せた。




「おおこれだこれだ。この色合い最高じゃねえか。さてと、お前はこれから飲むんだぜ? そしてあいつらと友達になれよ?」


 ゼノは防護服の男からガラス瓶を受け取ると、それを自分の顔面の前に光でも通すかのように持ち上げる。ほぼ物欲に支配されたような穢れた目に映っているのは、透明ではあるが黄色が目立ち、そして底から泡立っている人体に確かに悪影響を与えるような雰囲気を見せた液体であった。


「何……それ……? 誰が飲むの……?」


 少女にも、男が見ているガラス瓶の内部の液体が見えており、元々飲食の為の構造とは思えないようなガラス瓶を見て、少なくともそれが自分に向けられているものでは無いと自分に言い聞かせるかのように声を漏らすが、それは少なくとも少女にとっては叶う事の無い話なのは自覚していたのだろうか。


 それとも、叶う事にする事で自分を落ち着かせているだけなのだろうか。




「分かってんだろ? お前だよ。抵抗したって無駄だぞ? 無理矢理飲ませてやるからな」


 ゼノはわざと少女に恐怖を煽るかのように、持っていたガラス瓶の上部を少女の細い顎に突き付け、上を向かせるかのように押し上げる。


 瓶自体はまだ口が開いていなかった為、液体が少女に付着する事は無かったが、すぐ目の前に自分の姿を変貌させるだけの効力を持つであろう薬が存在しているのだから、それを分かっているかのようにゼノは派手に黄ばんだ歯を見せながらわざとらしい笑みを作っていた。


「ひぃっ!!」


 少女はもう助からないと確信してしまったのか、剣士という戦いの闘志を燃やす性格を約束したはずの格好をしているのに、それでも薬そのものの恐怖には勝つ事が出来ず、弱々しく怯えながら悲鳴のような引き攣った声を出す事しか出来なかった。


 だが、その時であった。




――突然この場にいないはずの誰かの声が少女の周囲に聞こえ始める――




「もうやめたら? この子があんたみたいな汚くて臭い男と一緒にいたいと思う訳無いじゃん?」


 これは今捕まっている少女が出している声では無かった。確かにすぐ傍らで聞こえるのだが、当の本人の姿は一切見当たらない。声色は少女そのもので、澄んだ聞き取りやすい滑舌であり、どう偏見等を持ち合わせた上で聴いた所で、男達が裏声でも出してこの場に鳴らしているとも勝手に決め付ける事も無理だろう。


 ここの男達は全員が低い声色は兎も角、濁りと聞き取りにくい滑舌が特徴的なのだから。




「なんだ? これお前の声……じゃねえよな? 女の声、だよな? 誰かいんのか!?」


 ゼノはやはり初めて聞くであろう少女の声に、その主が今どこにいるのかと、辺りを見渡し始める。今目の前にいる少女に突き付けていた薬もいつの間にか離しながら、声の元を探そうとするが、その場から殆ど歩き出そうとしていない為、確実に元を突き止めるのは難しいだろう。




「まさかお前仲間とつる――」


 少女を拘束し続けていた防護服の男2人の内の1人も、今の姿が見えない中で声だけを出している者の正体を直接探る事が出来ない中で、密かに仲間と連携を取っていたのかと少女を問い詰めようとしたが、その時だ。




――防護服の男に突然電撃が走る!――




「ぐあぁああああ!!!」

「う゛あぁあううぅう!!!」


 防護服の男2人は両者揃って何者かによって電撃を受けたのか、無理矢理のように喉の奥から鈍い悲鳴を上げてしまう。


 男2人の手は少女から離れるが、男2人の間、その間自体は人間1人が入る事が出来るかどうかという狭さであったが、そこに電撃を浴びせてきた張本人が突然現れた。元々見えなかった身体を実体化させた、と言ってしまえばそれまでである。




――それは黒の戦闘服を纏った少女であり……――




「さてと……これもオマケだよ」


 突然男2人の間に出現した、片膝でしゃがみ込むような姿勢の黒い戦闘服の少女は、黒のハットの下で男達の文字通りの上からの視線からでは見えない所で何かの準備とも言えるような笑みをマスクの下で浮かべ、そしてその場で跳び上がり、その少女の得意な攻撃手段の1つだったのか、両側に向かってそれぞれの脚を真横に向かって突き出した。


 単に蹴りの力だけでは無く、何か魔力も脚に集中させていたからか、防護服の男2人はそれぞれ左右に派手に蹴り飛ばされたのである。


 そして蹴り飛ばされた男達の様子を確認するより前に、突然現れた黒い戦闘服の少女は、戸惑っている元々捕らえられていた茶髪の少女を背後からやや乱暴に両腕でしがみ付くように掴むなり、そのままゼノと呼ばれる裸の上半身の男から距離を取るように後方へと飛び退いた。


 元々は捕まっていた少女も、何が起きたのか状況を把握出来ていなかったが、そんな迷っている少女に対し、黒の戦闘服の少女は優しく声をかけた。




「突然ごめんね。でも私は正真正銘貴方の味方だから安心してね!」


 黒の戦闘服の少女はリディアであり、リディアは少女から腕を離すなり、隣に移動しながら自分の姿を見てもらうのと、そして言葉で自分の存在が茶髪の少女にとっての敵では無いという事を伝えるという2つの目的を果たしたのであった。


「あ、あの、貴方は……」


 ゼノと呼ばれる外見も目付きも、そして目そのものも汚らしい男とはあまりにも対照的過ぎるとしか言えないような、リディアの青い澄んだ瞳は少女の緊張感を数秒とかからず内に瞬時に解いてしまったようだ。冷静になった少女はやはり突然現れたリディアの事を、最低でも名前ぐらいは聞きたかったのか、それでも上手に動いてくれない口を何とか動かしていた。




「あぁ、誰だ……ってお前随分昔見た事ある気がするなぁ。結局逃げやがったけどなぁ」


 ゼノはこの部屋に突然姿を現した少女に対し、最初こそは自分達の邪魔をしに来たのかと怒りを見せようとしていたが、どうやら面識のある相手だったようであり、寧ろあの時戦った際に結果的に逃亡を図った事をわざとらしく笑ってやろうとしたようだが、実際に笑う所にまでは辿り着かなかったようだ。


「まずあんたは放置しとくね。それと、私はリディアだけど、一応ルージュさんとは顔見知りだからね!」


 リディアはまず目の前の裸の上半身の男を無視した上で、たった今助けた茶髪の少女に自分の名前を教えてやる事にしたようだ。短くではあるが、ルージュとの関係もある事を伝えてやった。




――そしてすぐにゼノへと視線を戻し……――




「じゃあ次はあんただけど、まさかこんな場所で陣取ってたなんてね。それとその異常な臭さ全く治してなかったんだぁ?」


 リディアも目の前の男の事を忘れていなかったようであり、ある意味で対面が再び叶った事を嬉しく思っていた様子だ。それでも、黒のマスクを貫いて嗅覚を刺激してくる男の臭気が以前と全く変わっていなかった事にこれまた関心を覚えたようであった。




――昔、リディアはシミアン村と呼ばれる場所で……――


 そこで突然野盗らしき荒れた男女に襲われたのだが、そこで妙に肉体をアピールしたような男がリーダーとして暴れていたのを思い出したのだ。あの時は男の体臭もそうであったが、口臭もあまりにも酷かったせいで頭痛すら起きそうになっていた事も思い出したようだ。


 まさか、人目の付かない崖の側に基地を構えていたとは思ってもいなかったはずだ。




「お前それで俺様の事追い詰めようとしてるつもりか? 言ってりゃ勝ちだと思ってたら大間違いだぜ?」


 リディアから臭いと言われていたゼノであったが、少なくともゼノはそれで自分が精神的に追い詰められているという事は無かったようだ。自分でそのように豪語しているが、少なくとも言葉だけでは追い詰められるという事は無いらしい。




「いや、ホントに臭いから臭いって言ってるんだけどね? それと、貴方は絶対守るから震えなくて大丈夫だよ!」


 リディアとしてはただ事実を男に向かって伝えているだけであった。マスクのおかげで、そして距離を取っているからか、まだ臭気で具合が悪くなるという事は無かったようだが、それより、リディアの両腕を左右から包むように両手で掴んでいた後ろにいる少女に顔だけを向けながら、二の腕に伝わってくる少女の振動に対して答えた。


「あ、ありがとう……。所で、ルージュとは……知り合い、なの?」


 リディアの後ろに隠れたまま、剣士の格好をしている茶髪の少女はまだ完全には心の震えを抑える事が出来ていなかったようであるが、先程聞いた、ルージュとの関係性についてここで確かめたかったようだ。




「うん、知り合い。あ、勿論ルージュさんもそろそろ来ると思うから、もう一切怖がらなくていいからね!」


 本当はもっと色々と知り合いという言葉の奥に隠れた話をしたかったのかもしれないリディアであったが、今はそれだけで終わらせる事に決めたようだ。


 そして、本来この少女はリディアでは無く、ルージュとの同行をメインの活動にしていたはずであるが、ルージュ本人もここに来る事が確定している為、それも伝える事で尚更この少女の不安を取り払ってやろうと気持ちを抱いたと見て間違いは無い。リディアの口調も強くなっていた。


「おいおいお前ここに来て生きて帰れると思ってんのか? 俺様の事馬鹿にしてしかも実験の邪魔もしやがって」


 リディアのまるで正義を表現したかのような強気になった表情に水を差すかのようにゼノはここで死を確定させるかのような言い分を飛ばす。自分の事を侮辱した事、そして丁度リディアの背後にいる少女に対する薬物の投与の妨害もあり、ゼノとしてはリディアへの怒りが相当なものであったはずだ。




「いや、あの私さぁあんたの変な手下に無理矢理連れて来られたんだけどね? その上で何で来られて不満でも持ってるような言われ方されないといけないの? 来てあげたんだから感謝してよ」


 ゼノの言い分を聞く限りだと、リディアからするとこちらから一方的に業務の妨害をしたものとして扱われているように感じた為、リディアは自分がここに来た経緯を説明してやる事にした。


 元々は強制的に王立軍の兵士と偽ったゼノの部下によって連れられてきたのだから、その上で厄介者扱いされてはリディアとしても反発の1つや2つは飛ばしてやりたいと思うものである。


「そうだったな。でもお前その様子だと俺が放った手下の事追い払ったみてぇだが、そっから逃げようとは思わなかったのか?」


 まるで思い出したかのような返事を見せるゼノであったが、ゼノは殆ど気付いていたようであった。リディアを捕らえるように命令した2人は逆にリディアによって返り討ちに遭っているという事実を。




「最初は逃げようかなって思ったけど、なんか放置したら他に余計な犠牲者なんか出ると思ったから、私の正義が黙らなくなった、って言っとくね」


 本来はリディアは言葉の通り、連中との戦いを避ける方向性を意識していたようであったが、他の被害に遭っている者達の事を考えると無視しようにも出来なくなったようである。彼女特有の困っている者を放置する事が出来ない性格が、今この場にいる理由となっていたのだろう。


 そして実際に潜入を試みた結果、本当に被害者がおり、そしてまだ助かる見込みがある者とも出会う事が出来たのだ。


「ガキが考えそうな事だなぁ。俺らの事倒せばヒーロー扱いされるから出しゃばってそのまま俺らにやられて一生帰れなくなるパターンがあるって事、教えねぇと駄目みてぇだなぁ?」


 ゼノはリディアの正義感を、ただの子供の思想であると見下しながら、これからリディアに辿らせるのであろう末路を喋り出す。教えてやろうという態度から見て、実力の他にもあらゆる部分でリディアより上であると勝手に決め付けているのだろうか。口の周りに生えている無精髭がより一層汚らしく見えたはずだ。




「悪いけど、私そういう場面に何回も直面してるけど、帰れなくなった事は1回も無いからね? ってかあんたみたいなくっさい男に負ける方がずっと恥だからねぇ?」


 リディアだってただの粋がっているだけのお調子者では無い。実際に実力も持ち、自らに危機を与えてくる相手を見事に返り討ちにするという経験を何度も体感しているのだ。場合によってはその場から逃亡を図る事もあったが、それはその場に応じた適切な対応であり、自分の身を守る事に関しては一流であると自分で信じていたと見て間違いは無い。


 そして、明らかに不健康というよりは不潔さから漂ってくる臭気を平気な顔をして撒き散らすような呆れた男に負ける事の方が、自身の命を失わせる事以上に苦痛に感じてしまうようだ。


「さっきからくせぇくせぇ言うのやめろよ? 薬の実験台にする前にブチ殺すぞゴラ」


 ゼノはリディアの強調させたような言い方が気に入らなかったのか、そしてそれが今まで間に紛れ込ませるように自分に放っていたものを再度記憶として呼び起こす事になってしまったのか、黄ばんだ歯を見せながら怒りの表情を作り始める。




「あぁ多少は臭い事自覚してるんだぁ? そして言われてそれなりに傷も付いてるんだぁ? でもあんただって変な実験で散々色んな人傷付けて、ってかそこにいる2人って……あんたが薬でやった後の姿なの?」


 周囲から人が物理的に離れてしまうような臭気が発生する原因は自分の生活管理の悪さにある事を理解しているリディアは、目の前にいるゼノが実は精神的に痛みを蓄積させているという事を読み取っていたようであり、それでもゼノ自身も確実に違法である実験を無実の人々を利用した上で行なっていた為、リディアからすれば臭気の事で相手を責め立てた所で一切の罪悪感を抱かなかったようである。


 しかし、ゼノからやや離れた後方に鎖を首で繋がれた状態で立っていた、肌の激しく荒れた2人の全裸の人間がふと目に入り、それがゼノの仕業で今のような姿になっていると想像は出来ていたようだが、ここは疑問形であった。


「知りてぇか? だったらお前が飲んでみろよこれ。そしたら答えが分かるぜ?」


 自分が臭いと罵られていた事を忘れたかのように、ゼノはまだ手に握ったままであった薬を持ち上げ、リディアに見せつけた。


 そのガラス瓶に入った黄色の液体を摂取した時に、リディアも恐らくはゼノが部屋から呼び出した2人の人間と同じ末路を辿る事になるのだろうが、リディアの答えは1つだと思っても良いだろう。




「飲まなくても答え分かっちゃったから飲まないよ? そして、もうあんたはおしまいだって事、ちゃんと自覚してね?」


 リディアとしては薬の影響でほぼ全身が赤く爛れてしまった2人の人間、細身な体格や出る所は出ている構造から見て何となくそれが女性だと気付いたが、今はそれを見て怖がる事よりも薬物を投与されるつもりなんて一切無い事を目の前の汚らしい男に伝える事が最優先であると理解していたようだ。


 この基地での目的も、そして基地そのものも全てを停止させてやる、そう心で気持ちを固めていたはずだ。そして、それに共鳴するかのように、今日この基地内で出会った者が現れる事になる。




――突然1つのドアが乱暴に開けられたが……――




「リディア! 遅れてスマソだ! 邪魔な連中ぶちのめしといたぞ! おぉやっぱりジーナの事助けてくれたのか! ナイスガールだぞお前!」


 右手でまるで弾き飛ばすように乱暴にドアを開いたのは、赤い髪が特徴的なルージュであった。


 両手はまるで熱されていたかのように赤く染まっており、白い煙も立ち上がっていた。ルージュ自身は平気な様子であるが、やはりこの部屋に来るまでに時間を使ってしまったからか、砕けたというべきか、妙な改良を加えていたというべきか、よく分からない謝罪の言葉を渡した上で、そしてリディアが自分にとって救助すべき存在であった少女を既に傍らに寄せてくれていた事に感謝、では無く評価をしようとその場で決定させたようだ。


 ルージュならではのノリと言うべきなのか、喜んでも良いのかよく分からない誉め言葉がリディアへと力強く渡された。


「ルージュさんやっと来てくれたんですか?」


 自分の側へと歩み寄ってくるルージュを見据えながら、リディアはただこの場に到着したその事実だけを口に出すしか出来ていなかったが、それで良かったはずだ。


 ルージュの出てきたドアはリディアのほぼ真横に位置しており、ゼノには少しも無駄に近寄る事無くリディアの場所に辿り着く事が出来る場所であった。




「なんだ!? まだいやがったのか! まあいいや、お前も犯し甲斐のありそうな見た目してんじゃねえか」


 ゼノは他にも仲間がいたのかと、驚きと怒声を混ぜた感情を見せつけたが、しかしルージュのまだ未成年であるであろう引き締まった容姿や肉体や、赤いアンダーシャツとそして同じ色のスカートの間から見える細い腰等を見回すと、女子としての魅力や価値がしっかりと確立されていると知ったからか、自分の獲物として考え始める。


「ふぅん、わたしの事見た目で決めてるみたいだけどそういうお前もその見た目からしてここのリーダーか? そんでその臭さもリーダーだからこそ最大にしてるのか? 女子は臭い男なんか超大っ嫌いだって知ってるかお前?」


 ルージュは自分の姿を見てきたゼノに対し、自分の良さを理解してくれたのかと心の深い所で僅かながら感心をしていたのかもしれないが、ルージュ自身も相手の明らかな周囲とは差別化を狙ったかのような裸の上半身と周囲とは明らかに異なる上目線な口調等から、その男こそがこの基地のトップに立つ男だと見抜いたようである。


 そしてやはり男の臭気は気のせいでは無いようであり、ルージュにもしっかりと伝わっており、それでも臭さで弱弱しくなったり気持ち悪がったりする様子を見せる事も無く、それでも男が放っているそれは異性に該当する女性達に全く受け入れられないものであると強い口調で伝えてやっていた。腰に右手を当てながら、自身の風格もゼノに見せつけていた。




――ゼノは3人として集まった少女達に対して言葉を飛ばすが……――




「お前ら元々グルってたのかぁ? 俺様の事嫌いかどうかなんか関係ねぇよ。だから無理矢理力でやりてぇ放題すんだろ? それが男だし、そもそも俺様を好きになんねぇ女の方が問題あんだぜ?」


 ゼノは指を鳴らしながら、3人として集結した少女達をギラギラとした目付きで見回す。相手が自分の事を好きでいてくれているかどうかなんて一切考慮しない性格であるらしく、男だからこそ持つ単純な力そのもので押さえ付けるのが常であるようだ。


 世の中の女性はゼノを好意的に見るのが当然であるという妙な価値観を抱いている様子だ。


「何言ってんだお前? そんな考えだから誰も女寄って来ないんだろ。それと、無理矢理襲うのは男だからじゃなくてお前だから、だろ?」


 一瞬ルージュは吹き出しそうになったが、何とか自分自身で腹筋に力を込めながら耐え抜き、そしてゼノと言う名前を持っている上半身裸の男が異性に好かれない理由を教えてやっていた。


 男として該当する性別の者全員が力任せに女性を襲う訳では無いという事も分かっているからか、ルージュはそれも一緒に教えてやった。橙色の瞳もその時に気持ち悪い物でも見ているかのようにやや細くなっていた。




「俺様にだって女ぐれぇいるぜ? それもこんな汚ねぇ奴らじゃなくて、もっと綺麗で可愛くて俺様の事心から愛してくれる最高の女がなぁ?」


 抵抗のつもりだったのだろうか、ゼノは事実であり、そして反撃手段としても使う事が出来ると内心で考えていたのか、自分を愛してくれている異性が存在する事をここで明かす。


 汚い奴らというのは、自分が薬の投与を行なった過程で肌が赤く爛れた人間2人の事で、その2人に乱暴に視線を投げつけるように飛ばしていたのだが、男の言葉から察するに、やはり肌が爛れた裸の人間はいずれも女性だったのだろう。そして、ゼノを心から愛しているであろう女性の姿は今はここに存在しない。


「はいはい勝手に言ってれば? それとルージュさん、この子、えっとジーナでしたっけ? どうするんですか?」


 リディアにとっては、恐らくはルージュも同じ考えだと思われるが、ゼノが彼女持ちである事なんてどうでも良かったようだ。適当に反応だけをしてやった後に、リディアは自分とルージュの背後に隠れている茶髪の少女をこの後どのように扱うのかを、ルージュに聞く。




「悪いけどここじゃこいつは邪魔になるな。ジーナ、お前はあのドアから真っ直ぐ逃げろ。突き当りの部屋に逃げてそのままわたしがぶち破っといた窓から逃げろ」


 リディアの質問に対し、ルージュは茶髪の少女を僅かな時間、凝視してから結論を短く、そしてある意味では残酷な形で口に出した。


 しかし、ルージュはややきつい言葉をジーナという名の茶髪の少女に聞かせてしまっていたが、自分がこの空間に来る際に通り抜けたドアを指差しながら、この場からいなくなるように指示を出した。


「逃げ……るの?」


 ジーナとしてはどのような心境だったのだろうか。やはり最初に言われた邪魔という言葉から、自分の戦う力を認めてもらえていないから除け者として扱われていると感じたのか、それともこれからルージュ達は危険な戦いを始めるというのに自分だけ安全地帯に逃亡してしまっても良いのかとある種の罪悪感に襲われたのか。


 表情には迷いが生じている。




「そうだって。お前にはちょっとここはきつ過ぎる。ここはわたし達に任せてお前は逃げろ。団長命令だぞ? いいな?」


 分かっているならいちいち聞くなとでも内心で言っているかのような返事をルージュは聞かせてやった。結論としてはジーナの実力ではこの場を凌ぐには無理があるようであり、実力を把握しているのであろうルージュの判断だったのである。


 命を守ってやる為に、肩書を見せつけながら多少強引に言う事を聞かせようとするが、ルージュの表情には威圧感では無く、必ずお前を守ってやるという格好を付けたような笑顔が映っていたのである。


「……分かった。ルージュも命は大事にしてよね!」


 ルージュの顔は笑っていたが、決してふざけている訳では無い事をジーナは理解していたのだろう。今までの付き合いの中で、ルージュのその表情の意味を理解しているのであれば、それに対してどう返答すれば良いのかなんてすぐに分かるのだ。


 言われた通りにするのが今のジーナに出来る事であったが、戦う為にここに残るルージュに対し、ジーナからも言葉だけでも良いから力になるようにと、ここが最期になってしまわないように少しだけ声に強みを混ぜる。そしてその場から離れる為に走り始める。




――そのままジーナは開きっぱなしのドアの奥へ向かって走り出した――




「命大事にって、生意気言いやがって……」


 実力の方は明らかにルージュより低いのであろうジーナの方が命を心配するような言い方をしてきた為、本来は目上に当たる者が言う言葉だろうと、走り続けるジーナの背中を見続けていた。


「今のは生意気じゃなくて気遣いって言うんじゃないんですか?」


 ドアの奥に続く通路の更に奥へと進んでいくジーナをリディアも見続けていたが、ルージュに対して訂正を言葉で渡して見せた。相手が自分より下であったとしても、自分の命を大切に思ってくれているのであればそれは素直に受け止めるべきなのでは無いかと、リディアは感じていたはずである。


 黒のハットの下にある青い瞳は、一旦無視を決めていたゼノの方向へと向け直された。




「どうでもいいわ。あぁお前の武器は異常な臭さとその(なた)なのか?」


 ルージュはもう訂正したとしてもジーナには届いてくれないし、そもそも生意気だと言ったその言葉すらもジーナには聞こえてすらいなかった為、いちいち突っ込むなとでも言わんばかりの言い分を聞かせていたが、ゼノが右手に明らかに殺傷能力が高いであろう武器を床から拾い上げるように持ち始めた為、もう時間は来たのかと、笑っていた表情をとことん引き締めた。


「随分俺様の事馬鹿にすんのが好きみてぇだなぁ? もうお前ら全員ぶっ殺してやるからな? 殺したとしても実験材料には使えるし、死んでから犯すのもいいしなぁ?」


 ゼノの右手にはもう薬が無くなっており、代わりに鉈が握られている、と言った所である。ルージュ達が見ていない間に薬はリーダー格――それでもゼノよりは立場は下ではあるが――の防護服の男が持っており、ゼノが渡したのは確かである。どちらにしても、ゼノは相手の命を奪うつもりでもう近い内に襲い掛かるつもりであるようだ。




「おいおい殺すなんてそんな事が実現出来ると思ってるのか? わたし達これでも単純に強いぞ? マジで」


 ルージュは鉈を装備したゼノに対して引き下がる様子は一切見せず、寧ろ既に慣れているかのようにやや挑発的とも言える言い方を飛ばしてやった。


 鉈で斬りかかられた所で、ルージュはそれで終わりにさせられてしまう程軟弱では無いはずだ。寧ろそれを何度も切り抜けているからこそ挑発自体も出来るというものでは無いのだろうか。


 自分の顔を親指で差しながら、相手に多少強引に理解させるかのように言ってやった。


「私は自分がどうかはあまり自信無いけど、こんな酷い実験してるような奴に負けるのだけはごめんだからね? 殺す前提で襲い掛かってくるなら、こっちも同じ前提で行くよ?」


 リディアはルージュ程自分に対して自信を持つ事が出来なかったようだが、少なくとも悪の行為を働く相手に対しては負ける気は無いと、精神の強さを言葉と、そして前にしか踏み出さないかのような姿勢で伝えて見せた。まだ両手には何も武器のようなものを持ってはいないが、リディアであれば素手でも難無く戦う事が出来る。




「いや、ちょい待て。まずお前らがどんだけ出来るか確かめさせろや。おいお前、その2人の鎖外せ」


 ゼノは自分がこれからこの基地に侵入してきた2人の少女に直接痛い思いをさせるつもりだったのかもしれないが、隣に立たせたままであった肌が赤く爛れた2人の実験体の少女達を見るなり、この2人の実験の成果を確かめたくなったのだろうか。


 まるでリディア達に1つの課題のようなものでも渡すかのような上目線の言葉を飛ばすなり、防護服の男に対し、実験体となった2人の少女を解放するように命じた。


「はい、了解です!」


 防護服の男は胸のポケットから鍵を取り出すなり、実験体となった少女2人の首輪の部分に鍵を刺し込んだ。1人ずつ首輪を外し、最終的に2人揃って首輪による拘束から解放されたが、まだ動き出す様子は無かった。しかし、首輪を外されたという事実だけは掴んでいたようであり、通常の人間のような言葉を発する事が出来ないような状態でありながらも、本能だけはまだ正常に動いていたようである。




――2人揃って、リディア達に生気の無い視線を向けた――




「何する気……って大体想像出来たわ」


 ルージュはまるで格闘技でも始めるかのように、紫の袖に包まれている両腕を胸の前に持ち上げ、構え始める。ルージュは体術に優れているからなのか、武器を扱う様子は見せていないが、先程は両腕を真っ赤に熱させていた為、能力も駆使した上で自身の格闘技と複合させる形で戦うという事なのだろうか。


「私もですよ? 覚悟決めてくださいね?」


 リディアもこの後の展開を読み取る事が出来ていたようであり、恐らくはルージュに対しては言う必要が無かったであろう配慮の言葉を、ルージュと視線を合わせずに渡す。


 ルージュはすぐリディアの隣にいるが、ルージュと視線を合わせなかったのは、実験体となった、そして今は首輪による拘束から解放されている相手2人から目を離す事が出来なかったからだ。




「分かってるってそれぐらい」


 ある意味ではリディアも予測していたのか、いちいち覚悟を決めてと言わなくてもルージュは自分自身で決めていた様子であった。


 ルージュの橙色の瞳の先に見えていたのは、もう自分達がこの場では一切の楽が出来ない事を身体の動きだけで教えてくれていた、哀れな姿になった敵対者の姿であった。






次回は基地で改造されてしまった少女2人との戦いになります。改造されてるのであっさりと勝利……はまず出来ないでしょうけど、自分達も実験体になってしまわないようにリディアとルージュには頑張ってもらうつもりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ