第30節 《溶け落ちる液体生命体 仏は地獄の炎を与えるか》 3/5
今回は敵組織の幹部との邂逅になります。戦闘というものは無いかもしれませんが、突然出会ってしまった事に関する緊張感そのものを映したようなシーンが今回の話だと思います。
異様な空間で見つけた小屋の最深部
スライムを操っていた管理人らしき野盗の男
今は拘束し、そしてワープで共に連れていかれた
先はギルドで、当然引き渡すのが最終目的
迫っていた炎の仏
それに気付かされるまで、そう時間はかからず……
「って、何よあの炎……。いきなり出てきた、よね?」
銀髪をショートで纏めた少女であるコーチネルは、魔力でワームホールを生成させようとしているレフィの離れた背後から出現した炎を見逃さなかった。
炎は秒単位で背を高くしており、明らかに何かの予兆だとしか思う事が出来なかった。
「放火……とはちょっと違うのは分かってるよね? 誰か来たのよ。演出だよ演出!」
ワームホールを生成させる関係でレフィは真後ろに身体を向ける事が出来なかったが、顔は後ろに向けており、炎の様子をしっかりと目視だけはしていた。
そして炎が今立ち上がっている理由も把握する事が出来ていたようである。
――炎が収まるが、そこには誰か立っており……――
「やっぱり炎は演出だったんだね……。あいつ、知ってるよね? コーチネルは勿論」
レフィはワームホールの生成がもう後一息という所まで進んでいたからなのか、両手を突き出さなくても生成を継続させる事が可能になっていたようだ。
身体を元々は背後にあった炎の場所へと向け、左手だけを背後、つまりはワームホールの方へと伸ばしながら、立ち上がっていた炎の中から出てきた青い体色の相手が誰なのか、レフィは知っている様子であった。コーチネルも知っていて当たり前、と言う状況なのだろうか。
レフィの表情はもう一切のおふざけなんか見えていなかった。
「……当たり前、じゃん。デストラクトよね?」
威圧感があったのか、コーチネルは普段の口調で喋りにくくなっていたのだろうか。何とか絞り出すかのようにレフィに対応する。相手の名前は知っていたようであり、金の螺髪と、仏にも似た髪型に相反するかのような黒のサングラス、そして金色の杖を構えた相手を知らないという事は無かったらしい。
コーチネルの表情は、もう今日で命が失われるのかという可能性を意識したかのような緊張感に満ち溢れていた。
――炎があった場所から数歩、青い仏が前に出る――
「連絡が入ったから来てみたら、女2人が迷子か? 遊びに来たはいいが、帰れなくなったのか?」
装備は軽装というよりは無防備とでも言われそうなクォーターパンツとせいぜい足を保護する物々しいブーツ程度でしか青い筋骨隆々の胴体を守っていないが、デストラクトと呼ばれていた金の杖を右手に構えた男は自身の言葉の通り、連絡を受けてこの場へとやってきたようだ。
本心ではここに来た動機や今している事なんてどうでも良かった事だろう。
「遊ぶ為じゃないわよ。用があって来ただけよ? あんたこそ、暇だからここに来る余裕が出来たの?」
口調はどうしてもレフィを相手にしている時のようなものを出す事が出来なかった。コーチネルは事実を言い返したが、具体的な中身は言わなかった。
締め付けられるような圧迫感に何とか打ち勝ちながら、この地にやってきた事に対し、ただの暇人だったのかと時間の使い方を回りくどく責めていたが、通じるのだろうか。
「コーチネル……ちょっと悪いけど、もう少し時間必要だから、ここはちょっと勇気見せてくれる?」
レフィは非常に言いにくそうに声を詰まらせながら、コーチネルの名前を呼ぶ。
笑みも一切含まれていない表情で、レフィは左手をワームホールの側へ伸ばしたままで、ワームホールとコーチネルを交互に見ながら時間稼ぎを頼んだ。それは確実に痛い思いをするであろう本気のぶつかり合いを意味しているはずだ。レフィはコーチネルの持っているであろう勇気を信じているのだろうか。
「ん? もしかして時間稼ぎしてくれって事?」
コーチネルはやはりワームホールの生成にどれだけの時間や集中力が必要なのかまでは分からないのかもしれないが、好きなように動き回る事が出来ないのだけは予測が出来たようで、そして何を自分に頼んでいたのかも何となく把握が出来たようだ。
「大当たり! コーチネルって強いんだから大丈夫だよね?」
静かに、そして正解である事を張るような声で渡したレフィは、まるでコーチネルの内部に隠れている何かステータスのようなものを透視でもするかのように強く凝視しながら、デストラクトを相手にぶつかり合う事が出来るだけの実力も勇気も備えているかどうかを確かめる。
「勿論……よ! ここまで来たんだから最後だってやってやるわよ!」
ここで生きて脱出する事が本当に出来るのか分からなくなってきたのかもしれないコーチネルであったが、目の前にいるデストラクトをどうにかする事が出来れば、この要塞から脱出する事が出来るのだ。魔剣を扱う剣士としての意地をここで限界まで発揮するつもりでいるようだ。
尤も、言葉はレフィへと渡しているはずだが、視線は青い体色を持つデストラクトへと向けられている。
「さっすがぁ、ね! コーチネルと友達やってて良かったと思うよ!」
レフィはその場から逃げ出す事をしなかったコーチネルを短く、そして盛大に褒め称えた。まるでこれだけは伝えたかったとでも言わんばかりに、友人関係でいた事をまるで誇りとして扱うかのように口に出す。
「まだ終わったって決まった訳じゃないって!」
勝手にもう明日から二度と会えない相手と決めつけられたかのように感じたであろうコーチネルは、勝手に終了を確定させるなとやや声を荒げてしまう。
しかし、デストラクトを凝視する体勢は変わらなかった。
「心の準備と最期の挨拶は終わりでいいのか? まあ返すもん返したらあっさり帰れる事も伝えてやるぜ?」
デストラクトは敢えて襲い掛からずに黙って立っていた様子である。
身体を前に向け、明らかに自分に向かって来る事を予測させる銀髪の少女と、脱出用に使うである円形状のゲートを魔力で生成させている最中の青い魔導服を纏った金髪の少女のやり取りを目視していたが、わざわざそれを行なうだけの時間を与えてやる程の余裕があるという事なのだろうか。
「返すって……何の事よ?」
デストラクトの方から敢えて喋る時間を与えられていたという事実をコーチネルが把握していたのかどうかは分からないが、それよりも返せと言ってきた今の言葉が気になったようだ。
大方予測は出来ていたのかもしれないが、相手はただ自分達から何か情報を引き摺り出そうと手を込ませた可能性もあった為、知らないフリをして見せた。
「惚けても全く無駄だぞ? そのバッグに入ってるだろ? 人体改造用の薬液がなぁ。黙って持って帰れると思ってたのか?」
どこで事実を知ったのかは分からなかったが、それでもデストラクトはコーチネルが肩から下げている黄色のバッグを左手の指で鋭く差しながら、元々は自分達がこの地で管理していたであろう物質がバッグの内部に隠れている事をコーチネルに対し、自覚させる。
コーチネルの潜入目的の1つが、この薬液の争奪だったのかもしれないが、今ここで、目的の物品を持ち帰る事が出来なくなる可能性が出てきていたのだ。
「やっぱり普通に気付かれてたの……。でも返した所で普通に帰らせてくれるとは思えないけどね?」
相手は敵組織の中でも特に上層部に位置する存在である。直接目で見られていなかったとしても、それ以外の方法で薬液を持ち出した情報を知られていたとしてもそれを異常だとは思えないはずだ。寧ろあの程度で持ち逃げをされていれば組織の恥である。
「強がると自分の事傷付ける事になるぜ? 駄目元でもいいから返した方が身の為だろ? それともここで命日にするか?」
デストラクトは幹部に位置する存在であるのは間違いは無い。戦闘力も野盗や改造されたエルフと比較する事も出来ないものがあるはずだ。相手の少女達を黙って帰らせてやるつもりがあるのか、逃がしてやる事をちらつかせるような言い方を見せていた。
選択肢によっては、言葉の通り、ここで命を奪うつもりなのだろうか。
(どうせレフィもすぐ完成させるだろうから耐えるぐらいなら出来るか……)
コーチネルは直接言葉を口に出す事はしなかった。心の中でレフィの生成させているワームホールも近い内に効果を見せるはずであるから、勝ちこそしなくても耐久勝負なら何とかなるかもと予測したようである。
「聞いてるか? やっぱり怖くて返す気になったけど、あんまり怖くて口も動かなくなったとかか?」
デストラクトからすればただ相手が無言で硬直しているようにしか見えず、そして硬直の理由が自分に恐怖しているからだと感じたようだ。
「レフィ、それ後どれぐらいで完成する?」
コーチネルはデストラクトからの問いには答えず、レフィに顔も視線も向けた上で、まるで急かすように時間を聞き出そうとした。コーチネルの口調も相手を急かすものに相応しいかのように妙に大きな音量となっていた。
「ワームホール? まあこれならもう1分もかからないよ!」
レフィも無理にふざけたようなノリを混ぜる事もせず、残り必要な時間を真っ直ぐに説明した。コーチネルの内に秘めている勇気に今は感謝をしているはずだ。
「だったら多分大丈夫ね!」
1分未満であれば、余裕でデストラクトの猛攻を耐え凌ぐ事が出来ると自信を持っているのだろうか。
コーチネルはもう戦う事を大前提にしていた。魔剣を右手に持ち、戦う意思を見せているとしか思わせないかのように構えて見せた。
「オレの目の前で心の準備か? どうでもいいが、どうすんだよ? 返さねぇなら無理矢理奪い返すだけだけどな」
もしかすると、デストラクトは自分にとってはあまりにも余裕がある相手であるからか、わざと少女2人のやり取りを黙って見ていたようだが、どちらにしても直接手を出す事は確定しているのは確かであり、見た目の筋骨隆々とも言える身体で力任せな行為を連想させる発言をされると、相手も平然とした態度を維持する事は不可能であるはずだ。
「準備は終わったわよ? 返す気も無いし、奪わせもしないからね!」
コーチネルの表情は曇ってはいなかった。寧ろ奪えるならやってみろとでも言っているかのような強気な表情を見せていた。口元も僅かに吊り上がっており、目的の1つである薬液を何があっても持ち帰る事を忘れていなかった。達成の為には、目の前の青の仏の猛攻を耐える必要があるが、それが出来るようだ。
「おいおい今時の女って生意気なら兎も角自分の力量も自覚してねぇのか? じゃあ学習させてやるよ。泣いてもオレは止めねぇぞ?」
鼻で笑いながら、デストラクトは相手の実力と自分の実力を想像で比較する力が乏しい事を疑問形としてコーチネルへぶつけるが、これを言ったとしても相手が素直に奪い取った物を返すとは思っていない為、相手がどのような感情表現を示したとしても力での対抗を抑えるつもりは一切無いとの事だ。
「ふん! 誰が止めろって言ったのよ? こっちはそんな半端な気持ちでいつも生きてる訳じゃないから」
やりたければ好きなだけやれという意味も今の言葉には込められていた事だろう。今までも死ぬかどうか確定されるであろう場面でも気合等の強さを駆使した上で命を保ってきていた事である。
例え今現在、目の前に本当に勝利出来るのかどうかも分からないような相手がいたとしても、弱音を撒き散らしながら逃げるなんて、コーチネルにとっては恥じる行為そのものでそれを選択肢としては挙げられないだろう。
「達者なお口してんだなぁ? 態度とお前の実力が比例してるかどうか確かめてやるよ。まずはオレからの挨拶だ」
本物の勇気なのか、それとも無謀だと分かっていて自棄になっているのか、デストラクトはそれが本心なのかを疑っていたが、ここは対峙しなければ分からない事だ。
ゆっくりと金の杖の先端をコーチネルへと向けながら、そして先端を小さく燃え上がらせていた。
挨拶とは言っていたが、言葉によるものでは無いのは確かで、先端の炎は杖の側から外に向かって吹かれており、そして……
――火炎放射の如く、真正面へと発射された!――
まあよくあると思うのが、手に入れた物を返せば命は助けてやるっていうあれって、本当に助けてくれるのか、それとも受け取った上で尚且つ命も奪い取るのか、それは話によって異なると思いますが、作品によっては折角言う通りにして返したのに結局殺害されてしまうっていうケースもあったりします。なんかFEでそんな話があったような気がしましたが……。
でもレフィとコーチネルはそんな相手に対して引き下がる事をしませんでした。




