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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第29節 《頼れるのは粗暴な銃使い 風使いの魔女も見落とすな》 4/5

前回はガイウス達の視点だったと思いますが、今回はディマイオとコーチネルの視点となってます。2人は野盗の1人を追い詰めますが、まだまだ収まる様子は無いと思います。そして結構前から感じてた事として、ディマイオとコーチネルのコンビを個人的に気に入ってる訳ですが、流石に贔屓は許されないと思うので他のキャラにもしっかり頑張って貰います。











           暗い通路を超えた先に存在した扉


           それを開き、既に2人が奥の部屋に突撃している


           内部には勿論、野盗の1人がそこにいたが


           当然野盗である以上、味方であるはずが無い


           口調に優しさが一切籠らないのは、両者とも同じだ








「素晴らしいだろ? 俺達はこうやって戦闘員を生める訳よ。エルフなんか素材として最高峰だからなぁ」


 野盗の男ではあるが、肉体は他の男達とは異なり、脂肪でだらしなく膨らんでいる肉体では無く、余計な脂肪が無いに等しく、程良く引き締まり、鈍さもあまり感じさせないような身体をしていた。真っ黒のズボンに茶色の半袖のシャツ、そして身体に斜めにかけたショルダーベルトが他の脂肪で膨らんだ団員とは異なる存在なのかと思わせてくれる。


 男は距離を取った場所で対面している男女に対し、様々なボタンやモニターが備え付けられた巨大な機械を背後にしながら、堂々と喋っていた。




「丁寧にどうも。だけどあんただけでこの後乗り切れるのかしら? 見た感じあんたもあまり強そうには見えないし」


 銀髪のショートの髪を持った少女は、紫の半袖シャツ超しに右手を腰に当てながら言い返した。


 部屋に突入してから男の話をそれなりに長く聞いていたのかもしれないが、男の自慢話に呆れと疲れが生じていたのか、細い首もどこか傾いていた。


「自慢話した所で、それが続くかどうかなんて分かんねぇって、理解出来ねぇか? 野盗だから頭悪りぃか?」


 オールドブルーの皮膚を持ち、そして鉄の胸当てと白のボトムスを着用し、昆虫の複眼のような大きな黄色の器官を持った水棲系の亜人の男も、特徴的な粗暴な声色で銀髪の少女に続く形で男に言い放った。いくら技術力を所持していたとしても、必ずそれを止めに来る者が現れるという所まで想定をしていなかったらほぼ無意味に近いと話していたようだが、野盗の男は受け止めていたのだろうか。




「野盗だからって一纏めにされては困るな。ここにこれだけの設備を扱える者がいるのが証拠だろ?」


 男は数だけは相手の方が1人だけ多い状況でありながらも、強気な姿勢を一切崩そうとはしなかった。男の背後だけでは無く、両脇の壁にもずらりと様々な機器が並んでいるが、左右の壁には機器と言えばそれで正しい表現にはなるが、培養槽であろう筒状のガラスの装置も設置されており、そしてその中には人間なのだろうか、それが直立状態で保管されていた。耳が長い髪から突き出すように食み出ており、尖った形状からして恐らくエルフなのだろうか。


 胴体部分は機械によって隠されており、生命を維持させる為の処置なのだと捉えて間違いは無いだろう。




「設備使って洗脳自体を上手に出来るのはまあいいけど、攻め込まれた時にちゃんとした撃退が出来るかどうかってのも大事だと思うけどね?」


 銀髪の少女であるコーチネルは、まだ野盗の男が技術力の高さを威張っているだけで、それ以外の危機を受け止めていない事に気付き、もう少し分かりやすく伝える為に戦いの話を持ち出しながら説明をしてみせた。


「オレらが言ってんのそれだからな? まあどうせ違うエルフでも呼び出すんだろうけど、オレらにまたそんな手が通じると思うなよ?」


 水棲系の亜人であるディマイオもコーチネルと気持ちを共にさせていたようであり、技術がどうとかでは無く、侵入してきた相手を確実に返り討ちに出来るだけの力を常に用意してあるかどうかという話をしていた2人である。尤も、誰を放たれたとしても、逆に仕留めてしまう事を前提としている様子でもあるが。




「ふん、お前らが今まで戦った奴らがここで一番強いとでも思ってるのか?」


 野盗の男は鼻で笑いながら2人を睨みつける。恐らくは建物の外で解放させていたスライムの魔物も、何人かのエルフも、そして他の野盗の男達の事も目の前にいる男が掌握していたのかもしれないが、そのどれもが決してこの空間の中でトップ争いに加わる事が出来る程の戦闘能力を持っていた訳では無い事を理解していたのだろう。


 寧ろ、それぐらいを払い除けて当たり前であったかのような態度を目の前の男は見せている。




「さっきから強がってるみたいだけどさぁ、逆に今までのが一番強かったらあんた実質詰んでるようなものになるじゃん」


 コーチネルは相手の方も今のような態度でいなければいけない理由をよく分かっているようだ。とは言え、だからと言って相手の思い通りにさせる気も無いのは確かであり、そして先程出会った連中が決して最高の完成度を持った精鋭だった訳でも無いという事も聞かなくても把握ぐらいは出来るはずである。


 最後の最後で初めて最も強い刺客を出さなければ、自分が追い詰められていたら確かにそこで全てが終了してしまうのは、野盗でも分かっている話だ。


「とりあえずオレはこいつに合わせる事にしとくか。ここにはいるのか? 今までよりずっと強い奴ってのが。いねぇならもう諦めて捕まれよオレらに。一応お前は証拠人として生かして司法局に連れてくって話になってるからよ?」


 ディマイオも1つ前の戦いでコーチネルに妙な接し方をしてしまったせいで心に何かしらの痛みを負わせていた為、もう同じ事はしないようにという処決だったのだろう。


 コーチネルの意見に後押ししてやるかのように、ディマイオは物理的に口が動いていると確認するのが不可能に近いマスク状の口元からこの場を乗り切る事が出来る仲間がいるのかどうかを野盗の男に問う。


 場合によってはその場で力を使うつもりでいるのか、右手にハンドガンを持ち出した。銃口こそはまだ野盗の男には向けていないが、手に持っているだけで相手には様々な感情を送る事が出来るだろう。




「お前らに捕まる程無防備でいるような俺じゃないと思うぜ。確かにあいつらは一番では無かったし、ここにいる奴こそが一番なのは確かだ。試してみるか?」


 野盗の男は、目の前にいる2人から言われた事に間違いは無いと言い返した。この言い方だとこの一室のどこかに自分のこの不利な状況を逆転させるだけの力を持つ仲間がいるという事なのだろうか。


 堂々とした、偉そうな直立を続けながら、男は1つの度胸を試すような質問を飛ばした。




「ホントはさっさとあんたの事とっ捕まえたいとこなんだけど、出すなら早く出してね?」


 今のコーチネルであれば、ディマイオも一緒にいてくれている為、本当に誰か刺客のような者を呼び出されたとしても安定して戦える自信があったようだ。


 単独だとまだ不安が残っていたのかもしれないが、今であればその場で援護もしてもらえる。


「まあお前が一番に該当する訳じゃねえってのは言われねぇでも分かるけどな」


 ディマイオは恐らくはありえない話であるという事は分かっていた上で、今ディマイオの目の前にいるたった1人の野盗の男自身が先程戦ったスライムやエルフ達を凌ぐ力を持った存在では無いだろうという事をわざと言葉でぶつけてやっていた。野盗という属性自体が元々肉体や服装からして威圧感は最低限放っていると言えるが、元々言葉遣いや声色が野盗に似ていると自覚すらしているであろうディマイオからすれば、それだけでやはり目の前の野盗の男が脅威になる存在になるとは思わなかったようだ。




「さっきから馬鹿にしやがって……。じゃあ会わせてやるよ! 最高傑作をなぁ!」


 男は薄々自分が大した存在では無いと決めつけられている事を意識していたが、最後のディマイオの発言で明確に自分を恐れていない事が判明してしまった為、怒りで召喚する事を確定させたかのような態度を見せていた。そして実際に行動に入る為だったのか、背後の機材が貼り付けられた壁に目を向ける。




――男は背後の台に置いてあった小型の端末を手に取った――




 それはテーブルとしての役割もあったのかもしれないが、男はそれを右手で持ち、単純操作とでも言わんばかりに端末の中心部に設置されていたボタンを左手で押した。


 操作は非常にあっさりとしており、単純という言葉があまりにも簡単に当て嵌まるような、そんな操作であったが、男がボタンを押した数秒後に、天井から液体が数滴、落ちてきた。




「ホントに最高傑作ならいいんだけどね! ん? 水漏れ……じゃないよね。上から来るパターンだよねこれ」


 コーチネルは野盗の男の言った事が事実なのかどうかを期待していたようだが、目の前に見えた、水滴が落ちてくる様子を確認し、それが男の言う傑作品が出現する合図だとすぐに察知する事が出来た。


 それは水滴と言えばその通りであったが、色は真っ赤であり、見た者を過剰に警戒させるには充分な迫力があったと言える。即座にコーチネルは腰の鞘から愛用の魔剣を右手で取り出した。


「いきなり水漏れってのも変だし、そうなるだろうなぁ」


 ディマイオも水漏れがただの水漏れで終わる訳が無いと睨んでおり、元々右手に構えていた拳銃に続いて、左手にも拳銃を構え、いつ現れても瞬時に発砲が出来るように身構える。




「さあせいぜい生き延びてくれよ? ははははは!!」


 野盗の男は自分自身が呼び出した液体状の何かに全てを任せるかのように、一度大声でわざとらしい笑い声を響かせながら、部屋の隅に設置されたタンクのような設備の影に隠れてしまう。




――垂れていた水滴も、やがて規模を増幅させていく――




 水滴とはもう言えなくなる程にその滴り落ちてる液体は量を増やし、もう天井の穴から水を流し込んでいるのかという程に激しく流れ落ちて来ていたのだ。


 それは床に落ちた後は周囲に散らばるのでは無く、まるで初めから形を決定させていたかのように下から形を作りながら、上から流れ落ちてくる液体を受け止めていく。


 真っ赤なその液体は下部から形を作り上げていたが、それは人型を作ろうとしており、最初は両脚、そして最終的には胴体と両腕、頭部が液体が積み重なる事で完成された。


 外見は真っ赤な肉体を持った人型の生命体と言った所だろうか。頭部がある為、容姿も注目すべき点だったのかもしれないが、容姿には目や鼻等の器官も形も一切映っておらず、本当にただ頭部があるだけで容姿そのものは一切存在しない不気味な姿と言って間違いは無い。




「それが一番の相手なのか? さっき似た奴と戦ってるからもう予習はしてるようなもんだぜ」


 ディマイオは目の前に現れた、真っ赤な液体が人間の形状を象っているその姿を見て、あまりこの空間で最強の相手であると実感を持つ事が出来なかったようだ。外で似た形状の相手と戦っていた為、攻撃の予測も出来ていたのだろう。


「確か体内に弱点みたいなのがあるってレフィ言ってたっけ? あたしは実際に見てないから何とも言えないけど、ディマイオは見てるっけ?」


 液体状の生物はゆっくりとファイティングポーズを取り出していたが、コーチネルはテレパシーでレフィから伝えられた事を思い出しながらディマイオには直接視線を向けずに聞く。実際に視線を向けられているのは、勿論液体状の人型の生物である。




「ちょっとだけだけどな。じゃあやるか?」


 ディマイオは、外で見た黄色の体色を持つスライムから弱点のコアが露出した様子を見たのは確かではあったが、その後にすぐコーチネルのいるこの小屋に向かった為、返答の通り僅かな時間しか直視していなかったようだ。


 しかし、それでも自分達が不利だと感じさせないようないつも通りの口調が維持されている。


「やるしか無いじゃん? 大きさも外にいた奴より小さいし案外いけそうね!」


 コーチネルは愛用の魔剣の刀身を魔力で長くさせ、自分の手首の準備運動でもするかのように、胸の前で前後に振りながら自信を感じさせる返答をディマイオへ渡した。




「サイズで強さが決まる訳じゃねえけどな!」


 ディマイオは人型の生物が真っ直ぐ向かってくる事を確認し、逃げる所か逆に真っ直ぐ走るように向かい始める。目的は物理的にぶつかり合う事では無く、生物の真上に跳び上がる事であった。


 自身の脚力だけで跳び上がり、生命体の頭上に位置すると同時に拳銃の銃口を脳天へと向ける。




――的確な位置に、銃弾が命中される――




 人型の生物の頭部に銃弾が命中するが、脳天から圧力がかかる形で少しだけ潰れる程度で終わってしまう。生命体は人間のような形状をしているのは事実だが、本物の人間のように頭部が急所という訳では無かったようだ。


 平然と歩き続け、コーチネルに向かって握り締めた右手で一撃を与えようとする。


「攻撃が丸分かりだっつの!」


 コーチネルの茶色の瞳が捉えていたのは、生命体の握り締められた右手であったが、それは殴るように放たれたものでは無く、ただ純粋に目の前に伸ばされていただけであった。


 しかし自分に接触させられて良い事がある訳が無いと分かっていた為、左に避けた上で右手で握っていた魔剣で生命体の横腹を斬り裂いた。




――やはり予想通り、斬られた部位は時間経過で塞がってしまい……――




 そして速度も乗せずにただ伸ばしただけに見えていた右腕だったが、生命体は背後に回ったコーチネルを狙う為に、振り向くように突然高速で右腕を横振りにする。握られた右手部分は鈍器のように丸く変形されており、重量で相手を痛めつける目的を新しく身に付けていた。


「!!」


 鈍さすら感じさせていた右手を伸ばす行為とは逆に、今度は反射神経が悪い者であればまず避けられないような速度で振り向きながら右腕をコーチネル目掛けてぶつけようとしたのだ。




――横振りの重たい一撃を少女は察知しており……――




 コーチネルは素早くしゃがみ込む事で生命体の横振りを回避するが、反撃に入る余裕を生命体の方が与えなかった。


 まるで相手の魔剣での踏み込みを阻止するかのように左足を持ち上げ、踏み付けるようにその場で足を肥大化させてきたからだ。


 左足は不自然にコーチネルの視線よりも高く持ち上がり、そして踏み潰すには充分と言えるような面積に足の裏が広がっていた。




「何これ!?」


 魔剣をすぐに盾の形状に変化させ、踏み付けを受け流す。よく分からない攻撃手段ではあったが、上から巨大化した足の裏が襲って来る以上は防ぐ以外に手段は無い。


 生命体が踏み潰す為に利用した足はコーチネルの盾を滑るように擦りながら床へと落とす。


 戸惑いを継続させる事をせずにコーチネルは盾を瞬時に魔力で剣の形状へと戻し、たった今自分を踏み潰そうとしてきた憎らしい左足に一撃を与える。


 斬撃は通る事は通るようであり、硬質化していたはずの左足に裂けた痕がしばらく残ったが、相手は液体状の肉体を持つ存在である。それは恐らくは致命傷にすらなっていないはずだ。




 ただ目の前にいるコーチネルを殴りつける為だったのか、右腕を振りかぶる生命体であったが、背後から何かが発射された。


 発射されたのは銃弾であり、それは右腕の肘の部分に命中し、まるで千切れるかのような所まで派手に裂けた為、殴打を発動させる事が出来ずにだらしなく二の腕からぶら下がってしまう。


 生命体は背後から発射してきた相手に標的を変更したのか、コーチネルを放置するかのように背後へ身体を向けた。




「オレの相手も忘れんじゃねえぞ?」


 右手に持っていた拳銃をわざと見せつけるかのように持ち上げており、ディマイオは自分に振り向いてきた生命体を自分の側に招くように右手を扇いだ。


 生命体の千切れそうになっていた右腕は既に復元されていたが、ディマイオの挑発に乗るかのように進み出した。


 しかし、進む直前に背後へ一撃を入れていたのだ。




――コーチネルを狙って後ろ蹴りを放っていた――




 少しでも痛手を与えるつもりだったのか、それとも背中を向けた途端に強気になられた上で斬られる事に抵抗を感じていたからなのか、純粋に重量を武器にするかのように重たい蹴りをコーチネルの胴体に命中させていた。


 魔剣と自身の腕で身体を守るように防御の体勢を取っていたコーチネルだが、蹴りによる押し出しの強さがかなりのものであった為か、転ばされてしまう。


「痛った! 何すんのよこいつ……」


 蹴られたと言うよりは、足で突き飛ばされたと言った方が良かったのかもしれないが、コーチネルはその場で体勢を崩されるが、生命体は突き飛ばした相手の様子を気にする事無く違う標的へと走り寄っていく。




――生命体は両腕の先端を鈍器の形状にさせており……――




 いつでもかかって来いと言わんばかりにディマイオは待ち構えており、生命体の方が両手に球形の鈍器を生成させていたのにも関わらず、一歩も引き下がる事をせず、攻撃に入ってくるのを待ち続けていた。


「さっさと弱点でも見つけっか……」


 生命体はディマイオに対し、球形と化した腕の先端を突き刺すように高速で伸ばす。真正面とは言え、鈍い者であれば回避は困難だ。


 ディマイオは持前の瞬発力があった為、生命体の攻撃を右にずれる事であっさりと回避し、生命体の腹部に急接近すると同時に下から両手の拳銃を発砲させる。


 瞬時に数発、それぞれの拳銃から放たれ、速度を失う前に命中した銃弾は生命体の腹部を背中まで貫いた。




 生命体は折角の自分の武器が自分の懐へと届ける事が出来ない事を察知したからか、後ろに飛び退きながら、僅かに距離が出来たディマイオを左右から挟み込むように両手で襲うが、ディマイオには通じなかった。


 その場で跳躍を決めるなり、再び生命体の頭上を取る。跳躍時に自身の身体が上下逆になる形を取っており、頭が下になった状態の中で、ディマイオは生命体の頭頂部を再び射撃する。


「弱点まだ出ねぇのか……」


 生命体の頭部を頭上から派手に狙いながらも、弱点の事をただ小さく呟くだけで終わらせていたディマイオだったが、生命体の方が反撃に入る。




――頭上を狙い、左手を素早く伸ばし……――




 先端は鈍器状から人間の手そのものの形状に解除していたが、その手は頭上で華麗に宙に位置していたディマイオの右腕を乱暴に掴んだのである。


 飛行していた訳では無く、跳躍の過程で宙にいただけであった為、生命体に乱暴に引っ張られた事によって床にそのまま落とされてしまう。


「痛って!」


 背中から振り回されるように落とされた為、純粋に痛みが背中に走り、声を漏らすディマイオだったが、生命体の動きを見落としてはいなかった。


 倒れ込んだディマイオを真上から、右手を使って突き刺すように叩き潰そうとしてきたのだ。右手の先端は休憩の鈍器のままだ。




――目視していた追撃を、ディマイオは……――




 横に転がるようにして生命体の叩き潰しを回避し、そして自分を潰そうとしてきた憎い右腕に一発仕返しでもと考えたのだろうか、転がりながらもすぐに立ち上がれるような姿勢に移行しており、ディマイオは右足を使った攻撃をその場で計画する。


 まだ床に叩きつけた形で接触させていた生命体の右手を狙い、ディマイオは踵落としのように生命体の右腕に重たい一撃を食らわした。


「おらよぉ!!」


 拳銃以外にも、体術も武器にしていたようであり、ディマイオの踵落としは右腕を変な形に曲げさせた。液体状である為、これで致命傷になったとは思っていないはずだが、支えを奪われた事で生命体の姿勢が前に向かって崩れそうになる。


 体勢が崩れた様子を黙って見続ける事をせず、頭部を狙って再び拳銃を発砲させる。


 正確に命中こそするが、頭を狙ったとは言え生命体からすればそれはまだ致命傷とは言えないのは確かだ。




――しかし強引に生命体は立ち上がり……――




 足2本で無理矢理に立ち上がり、右腕はまだ変な風に二の腕の先端からぶら下がっており、修復されていなかったからか、左腕を武器にディマイオに襲い掛かろうとする。


 正面からであった為、回避するのも、適当にずれた上で再び銃弾をお見舞いするのも簡単であったはずだ。


 適度に距離を取り、拳銃を握ったままディマイオは生命体の左腕に意識を集中させていたが、生命体の攻撃は達成される事が無かった。




――生命体の左腕が宙を舞った――




 生命体は無言で自分の飛んで行った左腕に視線を向けるかのように頭部を動かしていたが、それは切断された事による結果であった。


 ディマイオは銃撃がメインであり、切断系統の攻撃手段は持っていない。そしてディマイオも誰が行なったのかを察知していたようだ。


「おっと! まだ終わんないわよ!」


 切断を実行させていたのはコーチネルだった。魔剣を投げつけ、生命体の左腕を華麗に切断したのは確かだが、魔力でコントロールし、より正確な場所へ命中するように調整もしていた事だろう。


 投擲した魔剣は通り過ぎるだけでは終わらず、再び魔力を注ぎ、今度はコーチネルの手元に戻る(ついで)と言わんばかりに再び生命体を狙う。狙ったのは、生命体の胴体で、そこを先端から貫いた。




――そして上に持ち上げるような動作を行い……――




「はぁ!!」


 魔剣は生命体の胴体に突き刺さったままの状態で、そこでコーチネルの何か重たい物を無理矢理持ち上げるかのように右手を、(てのひら)を上に向けながら上げたが、共鳴するように生命体に突き刺さったままの魔剣がそのまま上に持ち上がり、生命体の胴体から頭頂部まで派手に斬り裂いてしまう。


 左右に割ける形で生命体の上半身は斬られ、そして身体を復元させる事に集中しているからなのか、その場から歩き出す様子は見せなかった。液体状であるからか、通常の生き物であれば確実に絶命しているであろう左右に上半身が割れた状態でもまだ生命活動を維持させている。


「お前も随分派手にやるじゃねえか」


 手元に魔剣を戻す様子を目視しながら、ディマイオはコーチネルの大胆な剣技を褒めながらも、生命体の思わぬ部分も見つけてしまう。




――胴体の奥に見えた1つの球体――




 真っ赤な体色の中に見えた、極端に色の違う物体、それは真っ黒な球体であり、左右に割かれた胴体の内部にうっすらとその形を外に晒していた。


 生命体は既に左右に割れた身体を復元させている最中であった為、すぐに球体は見えなくなってしまったが、球体が持つ意味合いを想像出来ないディマイオでは無かった。


「これ弱点だよな完全に。何が最高傑作だよ……」


 球体の場所を確認したディマイオは再び拳銃を構え、復元を完了させた為に再び襲い掛かってきた生命体の胴体に狙いを定める。


 立ち止まったままの射撃では生命体の殴打を素直に受ける事になってしまう為、右に跳びながらの射撃を開始した。




 弱点も確認し、気分的にも有利なものを感じていたその時であった。




――ドォオウゥン……!!




 今いる室内の外で、妙な爆発音が鳴り響く。








今の場面だと液体系の敵がそれなりに多く出現してる感じがあります。液体と言えば昔のとある液体金属の強敵を思い出すような気がしますが、流石にあれだと殆どラスボスレベルになってしまうのであのスライムどもはそこまでの強さには至ってなかったと思います。スライムは液体ではあるけど強度はそこまで無いと思いますので、身体を崩す事は容易くてもそれでも急所に該当する部位を狙うのはかなり難しいかもしれませんよね。

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