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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第28節 《凶暴化したエルフの激しい唸り声 『銃弾はお前を守る為にあるんだぜ?』》 5/5

再びエルフとの戦いになりますが、折角誰かを退けてもまた違う誰かがやってくるのはお約束なんでしょうか。ただ、今回は前回は殺されるピンチをディマイオに助けてもらったのに、今はディマイオ抜きで戦う事を強いられてるコーチネルです。無事に勝利を掴めるかどうかは……。







          とある小屋の内部では


          銃弾すら跳ね返す魔力を纏ったエルフが暴れている


          銃弾使いを封じたのもエルフである


          戦えるのは、銀髪の少女ただ1人である


          エルフは1対1で戦いたかったのである


          しかし、エルフは両腕の筋肉を肥大化させていたのだが……






「……ふぅん、あんたって銃弾跳ね返すだけじゃなくて自分の身体も強化出来ちゃうんだぁ?」


 強さや勇ましさも表現しているようなややショートで纏めている銀髪の少女であるコーチネルは額をいくらかの汗で濡らしながら、これから本当に戦う事が確定している青のベリーショートの髪のエルフの両腕を目視していた。


 理由は簡単だ。何故なら元々は女性的な細身の肉体であったエルフの両腕が、明らかに細い胴体とは不釣り合いに肥大化したからである。ただ風船のように膨らんだのでは無く、筋肉が強化されるかのように膨れ上がっていた。


 しかし、それでコーチネルは怖気付く事はしない。


「そうだよ。お前をぶちのめす為にこうしたの。殺したらあんたの身体の価値が減るし、生きたまま触ってやりたいから、半殺し程度で済むような強化をねぇ、頼んだんだよ。ここのお偉いさんにねぇ?」


 エルフは指をならしながら、勝利を決めた後の予定のようなものを喋り出す。肉体強化の時に要望を出していたようだ。




「勝手に勝つ前提で喋られてもねぇ? でもあんたが何やってようがこっちが勝てばどうでも良くなるし、来るなら来れば? あんた程度に負ける程こっちは軟弱じゃないからさ」


 負けたらどうなるかを教えてもらえたのだから、寧ろコーチネルからすると好都合であったかもしれない。しかし、今まで遊びで武器である剣を振り回していた訳では無かった為、本当の戦いというものを見せてやるつもりでもいたようだ。


 決して構えている剣を回したり、過度に先端を相手に向けたり等のパフォーマンスは行なっていないが、茶色の瞳は真剣そのものだ。


「後ろに恋人いるからってカッコ付けてんじゃねえよ? じゃあ恋人の前でホントは軟弱だって事証明させてやるよ」


 エルフは何となく、ただ背後で閉じ込められている仲間がいるから見栄を張っているとしか思えなかったらしい。


 寧ろ大事な相手がいるからこそ、そんな相手の目の前で大敗する惨めな姿を曝してやろうとすら思い始めた可能性もある。




――その一方で、格子に閉じ込められている水棲系の亜人は……――




「あいつホント勝てんだろうなぁ……。まあ信用はしとくけどよ……」


 格子の中に閉じ込められてしまっているディマイオは、ただコーチネルの後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。


 格子はエルフが魔力で呼び出したものであった為、エルフを何とかする事で格子が消滅する等の期待をしているのだろうか。今は特に格子に力を入れて無理矢理破壊する等のような動きは見せていない。


 それよりも、本当にエルフ相手に勝利を決める事が出来るのか、それが心配であったようだが、ここでは言葉で出している通り、信じる事しか出来ないだろう。格子の中から銃弾を放ったとして、再び反射でもされれば逃げにくい。




――コーチネルはもう既に気持ちが戦闘態勢そのものであったようだ――




「ふん! ホントにあたしが軟弱かどうか、試してみる? 腕の強化はまあいいけど、それで勝てるって言い切れるの?」


 コーチネルは銀の装飾が施されている剣を、エルフに見せつけるように小さ目に振りながら、直接の武器を持っていないエルフに向かって誇った態度を見せつける。


「確かめてやるよ? 分かってるとは思うけど、そんなちゃちな剣如きで私の腕を斬り落とせるなんて思うなよ? まあやってみりゃ分かる話だけどなぁ?」


 わざとらしく両腕を持ち上げ、その肥大化した腕の先端に存在する手を両方、握ったり開いたりを繰り返す。そして足も動かした。




――エルフはゆっくりと歩き出すが……――




 利き腕はやはり右腕なのか、右腕を持ち上げるなり突如速度を上げながらコーチネルへと接近する。速度を付けながら殴りつける際の威力も上乗せさせる気だったのだろうか。


 もう数秒と待たずに攻撃が届く距離にまで近づいてくる。コーチネルも油断は出来ないし、許されない。


「はははぁ!! 死ねやぁ!!」


 エルフの右腕を見れば、それを使って殴り掛かってくる事は戦いに多少慣れているものであればすぐに把握出来るはずだ。元々戦いに慣れているコーチネルの取る行動は1つであるはずだ。


 とても剣でぶつかり合おうという気持ちにはなれず、まずは身体を横に逸らす事で一度回避を試みる。


「そんなもん……当たるか……!!」


 あまりにも分かりやすい一撃であり、コーチネルも身を反らす事をまず最初に意識する。直撃した時の事は想像すべきでは無いが、回避自体は無理では無い。


 横にずれたはいいが、やはり相手は魔力を持ったエルフである。直接拳が命中しなくても、その近くにいたのであれば何も起こらないはずが無かった。




――突き出された拳の周囲に風圧が発生する――




 全身に力を入れていなければ確実に転ばされる程の強さの風圧がコーチネルの全身に襲い掛かる。


「んんっ!! か、風!?」


 エルフの殴り掛かりの際に発生した風圧である事はコーチネルでも理解が出来た。しかし、理解だけが出来たからと言ってそれで終わる話では無い。思わず風圧に身体が負けてしまい、棚に背中を衝突させてしまう。


「もう怯んだか!? もうくたばっちまえよ!!」


 棚に身体をぶつけたコーチネルを見て、それだけでもうチャンスだと決めつけたエルフは追い打ちの如く、再びコーチネルを目掛けて殴り掛かる。


 しかし、コーチネルはそこまで衝突によって体力を奪われていた訳では無く、エルフの次の拳はしっかりと目視しており、回避をしなければいけない事も理解していたし、そして回避をする為の体力もしっかりと残っている。




 確実に顔面を狙っていた相手の拳を、コーチネルは体勢を低くする事で回避をするが、やはり再び風圧が発生し、そして代わりに拳が命中した棚はその強い一撃によって派手に傾き、奥に向かって倒れてしまう。倒れた事でコーチネルに直接の被害が飛ぶ事は無かったが、威力を実感させるには充分だったはずだ。


「威力は認める……けどねぇ!!」


 コーチネルには愛用の剣という武器が存在する。一撃を入れて黙らせてしまうのも良いはずだ。まだこちらに身体を向かせていなかったエルフを狙い、渾身の一撃をエルフの胴体目掛けて振り付けるが、エルフには気付かれてしまい、そしてエルフは左腕を盾のように持ち上げた。


 外観はただ筋肉で膨れ上がった前腕でしか無く、装甲等で防いでいる様子は無い為、そんな腕で鋭さのある剣の一撃を受けて問題は無かったのかと一瞬考えたが、実際に命中するなり、あっさりと現実が目の前に広がった。




――剣は前腕を斬り落とす事が出来なかったのだ――




「さっき言ったよな? 斬れると思うなよって。まあ頑張った褒美……だっ!!」


 エルフは左腕の前腕部分でコーチネルの剣を受け止めながら、切断なんて不可能であると再度認識させようとする。それだけでは無く、立ち膝の状態で斬撃を放っていたコーチネルの細い首を右手で乱暴に掴むなり、反対方向に立ち並ぶ棚を目掛けて力任せに投げ飛ばす。


「!!」


 首への負担も強かったが、何よりも身体が宙に持ち上がり、そして気付けば離れた場所に並んでいた棚に背中をぶつけられていたのだ。今回は風圧による衝突の時とは異なり、痛みを無視する事が出来ず、投げつけられた後の床への落下をした後にすぐに立ち上がる事が出来なかった。




「はははは!! やっぱり終わりみたいだなぁ! ってかいちいち痛がってんじゃねえよ」


 笑いながらエルフはコーチネルへと歩み寄っていく。これからどのような攻撃を仕掛けるのかを周囲が見ても想像しにくいような、ただ歩いているだけの姿を見せていたが、攻撃の準備に入っていないエルフの姿をコーチネルは見逃していなかった。


 まるで両腕で辛うじて上体を支えていた時の様子が嘘であったかのようにすぐに立ち上がり、再び剣による斬撃を繰り出した。


「んん!!」


 台詞らしい台詞を出さず、ただ力任せな気合だけを口から漏らしながらコーチネルは剣を力強く振るが、エルフの左腕が再び持ち上がる。




――今度は剣を弾き飛ばされてしまい……――




 しかし、何故かコーチネルの表情は余裕そのもので、寧ろ何故か口元をにやつかせてすらいた。剣そのものは空しくコーチネルの背後へ向かって回転しながら飛んでいく。


 当然のように再びエルフから罵倒が飛んでくる。


「馬鹿か!? お前の剣なんか効かね――」


 だが、コーチネルはエルフの罵倒を無視するかのように、武器を使わない方法での攻撃を決定させる。




――左の拳でエルフの顔面を狙ったのだ――




 黒の指が出た手袋で守られた左の拳をエルフの顔面目掛けて飛ばしたのである。剣を防ぐ事だけに集中していたエルフは、真正面からの攻撃を防ぐ余裕を残していなかったのだ。


「んん゛ぅ゛!!」


 剣というそれなりに体力を使う武器を扱っているのだから、コーチネルの腕力も少女ではあるが、素手で戦っても充分戦力として使えるだけのものがあるようだ。正確に放たれた突きはエルフを一瞬とは言え怯ませる事が出来たのだ。


「まだあるよ?」


 背後に弾き飛ばされていた愛用の剣を、コーチネルは魔力で手元に引き寄せる。そして柄の底をエルフの腕を狙って接触させる。柄の底には細工が施されており、その部分に触れた箇所に激しい電流を浴びせるというものである。例え腕で防いだとしても、電流自体を防ぐ事が出来るかどうかだ。




――やはり耐電効果は腕には備わっていなかったようであり……――




「うあぅぁあぁああぅうあぁああ!!!!!!」


 まるで壊れたような派手な悲鳴をエルフは放つ。全身に走ったであろう電流の影響で、もう何か一撃を加えただけでその場に崩れ落ちそうな程に弱っているようにも見えた。


 勿論エルフはコーチネルにとっては敵対関係である為、ふらついているその姿に同情はしない。


 特に目立つような台詞や弱っている姿を咎めるような事も言わず、コーチネルは右脚を持ち上げる。




――まるで力を溜めていたかのように1秒程置くと……――




 曲げていた膝を一気に伸ばすように蹴りを、エルフの顔面を目掛けて放つ。高所ではあったが、元々剣を扱う体力系であるからか、エルフをそのまま転ばせるだけの充分な脚力を柔軟な腱を持っていたようである。まるで慣れていたかのようにゆっくりと脚を戻すと、未だに立ち上がる事が出来ずに倒れながら悶えているエルフの元へ近寄った。


「あれだけ威張ってたのにもう終わりなの? ただ力だけ強化したって意味無いのよ戦いってさぁ」


 コーチネルは、倒れているエルフを立ったまま見下ろしていた。電流の影響で身体を痙攣させながら、エルフは何かを言いたげに口を無理矢理に動かそうとしているが、身体が言う事を聞かないのだろう。実際に言葉を発する事が出来ていなかった。つまり、言い返す事が出来ていないという事だ。




「何も言い返せないの? もう勝負は決まったようなもんだよね? じゃあもうやめようよ?」


 エルフの隣で片膝を付いて、コーチネルは剣の切っ先をエルフの顔面に近づけながら、戦いはここで終了させようと喋り始める。


 本気で剣で顔面を突き刺すつもりは無いようであり、あくまでも忠告の為に自分を威圧的に見せつける為のパフォーマンスのようなものである。


「お前……ズルい……ぞ……」


 ようやく声を出す事が出来るようになったエルフは、仰向けに倒れたままでコーチネルと目を合わせながら濁った声を絞り出す。




「何が? あんただって筋肉の方増強させてたり風とか放ってたりとかしてたじゃん? それより、もう戦えないみたいだし、さっさとディマイオの事解放してくれる? あんたが呼び出したあの格子、邪魔だから」


 自分が不利になった途端に相手の武器を、まるで不正の道具のように見始めるエルフであったが、コーチネルはそんな事を言われたからと言って自分の攻撃手段を見直したり、反省したりなんてする訳が無い。


 ここでエルフに命じる事は、恐らくは魔力で呼び出したであろう格子である。それが無くならなければディマイオはいつまで経っても解放されないのである。


「ふん……」


 真面目な返答をする訳では無く、まるで相手の反応を試すかのように鼻で笑い出す。まるで見下しているかのような笑みを見れば、とても格子を消滅させようという様子は受け取る事が出来ないはずだ。


 コーチネルの目が細くなるが、それをエルフに対する威圧行為であるとエルフは捉えていないのかもしれない。




「いや、ふんじゃないんだけど? もうそんな状態で戦えるの? もう諦めてディマイオの事解放しちゃった方がいんじゃない? それであんたがあたしらから離れてくれればもうさっさとこんな変なとこからいなくなれる訳だし」


 鼻で笑うエルフに1つ文句を飛ばし、そしてとても対抗する事が出来る身体では無いとしか思えなかったコーチネルは、自分の要求をすぐに受け入れてしまうべきであると説得する。捕らわれているディマイオさえ自由になり、尚且つエルフがその場から立ち去ってくれれば剣を振り回す理由なんて無くなるのだ。


 必要以上の戦いはしたくないと思っているのだろうか。そして相手は元は人間に初めから敵対しているエルフでは無く、洗脳の結果として敵対している相手だ。本来は戦う理由なんて無いはずなのだ。


「何優しさなんか見せてんだよお前……」


 エルフは自分が今抵抗する事が出来ない状態であるのにも関わらず、目の前の剣士の少女が自分を(あや)めようとしない為、敵に甘えを見せる理由が理解出来なかったのだろうか。




「あたしはねぇ、あまり弱ってる相手に(とど)めとか好きじゃないのよ。もうここでさっさと負け認めといた方が楽よ? 逆にあたしの事無理に殺したとしても大した利益になんないんじゃないの?」


 本気で最後まで自分の命を狙ってくる相手じゃなければ、相手の命を奪わないのがコーチネルの戦い方なのだろう。そして、自分の命が失われるというこの場に於いて逃れる事の出来ないある種の可能性を少しでも低下させようと思ったのか、自分を殺害したとしても予想の利益を得る事は出来ないと喋る。


 互いに命が助かる方向で行こうとでもしているのかもしれない。




「おいコーチネル、お前あんま油断すんじゃねえぞ? 何すっかそいつ分かんねぇぞ?」


 格子の中で何も手助けをする事が出来ないディマイオは、相手が戦意を失わせているからと言って目に見えている現在だけを鵜呑みにはするなとコーチネルに向かって忠告を飛ばす。




「ディマイオ大丈夫だって! たまにはあたしの事信用してって!」


 もしかしてディマイオは自分があっさりエルフに騙された上で負けてしまうのかと嫌な予想をしているのだろうか。


 出来れば最後まで信じてほしかったようだが、そこまでの実力を認めてもらえていないのかもしれない。




――再びエルフへ意識を向ける――




「さてと、どうすんの? あの格子ってあんたが魔力かなんかで出したんだったら逆に魔力で消滅とかさせられるでしょ? それとも……」


 意識も視線もエルフへと向け直したコーチネルは、これからどういう行動を選ぶのかを迫る。一番の要求は格子の存在を無くす事であるが、一瞬ふと思い浮かんだものがあったようだ。


「何……よ?」


 何かを言いかけていた為、エルフは素直にそれを聞きたいと感じたようであった。もしかすると、まるで突然予定を切り替えるかのように、自分に最期の一撃でも加えてくるのかと嫌な予想すらしてしまっていたのかもしれない。




「あんたの事殺さないとあの格子、消えないっていうオチだったりするの?」


 一度コーチネルは再び格子を目視した上で、エルフにあの格子が消滅する方法を訊ねる。出現させた本人の命が消えなければ、格子も消えてくれないのかと、あまりそれが事実であると思いたくないかのような表情で聞いていた。


「ふふ……」


 よく分からないわざとらしい笑い方であったが、それが正解だったのか、逆に不正解だから小馬鹿にするつもりで笑ったのか、それは分からないだろう。




「だからふふじゃないんだって。あの格子早く()けてってこっちは言ってんのよ」


 直接口に出した声を再現するようにコーチネルは自分自身の口からそれを出すが、勿論目的はそれを言うなという静止の意味を込めたものだ。


 しかし、エルフの意志が動いてくれなければ格子をどうにかする事が出来ない為、本当に剣の切っ先をエルフに貫かせる事は不可能だ。それをやって自分の思い通りになるかどうかという保証は無い。


「どうにかしろって言われて言う通りにすると思うのか?」


 エルフは立ち上がる様子を見せない。


 だが、足掻こうとする態度だけは一人前であり、一行にコーチネルに対して要求を呑む態度を見せずにいた。




「そんな態度だったらずっと同じやり取り繰り返される事になると思うんだけどね? もういい加減諦めたら?」


 何となくコーチネルは想像してしまったようであり、やれと言った後に拒否され、そして再びやるように強要すると再び否定という流れが連続する事になると感じた為、ただ向けているだけの剣の切っ先を更に喉元へと近づけ、強制的に確定させる事を試みようとする。


 しかし、エルフは違った。


「死ね」


 たったそれだけであったが、エルフの目付きからは徐々に弱みが消えていた。




「何よそのテンプレみたいな暴言……!!」


 言葉自体の重みは大きいが、あまりにも手頃過ぎる文字数と、そしてありとあらゆる人種に広まっているある種の魔力を秘めたその言葉を聞いていたコーチネルはエルフの身体の変化を見逃す事をしなかった。




――エルフが立ち上がろうとしているのを見逃さず……――




 まるで身体の痛みを一切受けていなかったかのように余裕な動きで上体を起こすエルフだったが、危機を察知したコーチネルはすぐにエルフから距離を取る。


 後方へ跳ぶように距離を取ったが、エルフもまるでコーチネルの逃げる動きに合わせるかのように、立ち上がるなり力任せに跳び掛かる。


 両腕を激しく広げ、挟み込むように襲ってきたが、それはあまりにも異常な速度でやられてしまい、コーチネルはそれに対して対処が出来なかった。




「うぅっ!!」


 両腕ごと纏めて身体を挟まれてしまい、そしてエルフによってそのまま背中から押し倒される。


「はっはっは!! やっぱりお前は甘すぎるわ! この後何されるか分かるか!?」


 両腕で挟んだ上で背中から転ばせた後は、逃げられてしまわないようにしがみ付くようにコーチネルを両腕で固定してしまう。そして密着した距離でエルフはまずはコーチネルの詰めの甘さを大笑いした後に、そして次の展開を想像させようとする。


 その場から逃げ出す事が出来ないコーチネルからすると、答えが分かろうが分からなかろうがとりあえずは答えるしか道は無いだろう。




「何するって? あたしの身体触るとかじゃないの? まあ今の時点で触ってると思うけどね?」


 身体を絞め付けられた状態ではあるが、相手の質問に答えるぐらいなら出来る。


 コーチネルは今行なっている事がもう答えになっているのでは無いかと伝えたが、エルフは腕力を強化されている為、自身の腕力ではどうしてもエルフの力には勝てず、無理矢理に腕を外に開いて引き剥がすなんて事も出来なかった。


「強気に答えるか? お前はハズレだ!」


 細い眉を(ひそ)めながら答えたコーチネルを見ながらエルフは相手の心情を読み取ったようだが、心情を気にしないかのような口調で結果を伝える。コーチネルの出した内容は、正解の逆であったのだ。




「ハズレだったら……あ゛ぅう゛っ!!」


 ハズレを出した自分に何をしてくるのかを聞こうとしていたのかもしれない。しかし、コーチネルに伝わったのは身体を絞め付ける圧迫感だが、それが更に倍化する形で伝わったのだ。エルフはコーチネルをより強い力で絞め付け始めたのである。正解の行動はもう既に教えられているのかもしれないが、エルフの口から言葉が渡される。




「正解はなぁ……」


 そのままコーチネルを絞め上げた上で潰してしまうのでは無いかというぐらいの力を維持させたままで、エルフは言葉の通り、正解を話そうとする。つまり、これからコーチネルに対してどのような行動を行うのか、というものである。




――コーチネルの身体が持ち上がったのだ――




 身体が浮いた事を認識する前に、エルフからの正解の内容が罵倒という形で渡された。


「私に投げ飛ばされる、だぁ!!」


 エルフは絞め付けるように両腕で掴んでいたコーチネルを立ち上がりながらそのまま持ち上げるなり、壁のように並んでいる棚に力任せに投げつける。先程も行なった行為ではあるが、同じ事だからと言って身体へ走る痛覚等が和らいだりする等という事は無く、本当に投げ飛ばされたコーチネルに待つのは棚への激突による鈍痛だ。




――何度やられても、この鈍痛に慣れる事は出来ない――




「!!」


 投げ飛ばされてしまえば体勢を整える事が出来なくなる為、棚にぶつかるまで身体が止まる事は無い。鈍痛と同時にコーチネルは棚への激突の後に床に落ちるが、まるで最初の時の戦いを思い出させてくれる。しかし、エルフは昔の事に時間を使う程の余裕を与えてくれるはずが無い。


「おいおいまだ終わってねぇぞ? いい脚してんなぁお前?」


 近寄ってきたエルフはコーチネルの茶色のブーツから上に伸びていた太腿を悪意を混ぜた誉め言葉で称えながらも、攻撃の為にコーチネルの両脚を腰の左右と、それぞれの腕で挟み込むように持つなり、力任せに床と並行に、エルフを軸に、右へと振り回す。


 目的は先程コーチネルを激突させた棚に再度、ぶつける為であった。




――左腕から棚へと激突し……――




「!!」


 ジャイアントスイングのような形で最初に左腕から棚に接触し、そして続いて体勢が崩れる形で他の場所にも衝撃が走り、上体から床へと落ちてしまう。


 エルフはまだコーチネルの脚を離しておらず、まだ続けるつもりだったようだ。


 左腕に激しい鈍痛が残るが、再び身体を振り回される前に愛用の魔剣を魔力で浮遊させる。切っ先では無く、柄の部分をエルフの顔面目掛けて飛ばし、再び電流で動きを封じようと考えたのだ。


 念じる事で魔剣を動かし、そして計画の通り、顔面に柄を接触させる事に成功する。尤も、接触というよりはぶつけたと表現すべきだったのかもしれないが。




――再びエルフに電流が走るものの……――




「効いた……ん?」


 頭から電流を受け、確かに身体は硬直させていたエルフだが、叫び声を出しておらず、そしてコーチネルの両脚を離す気配が無かった。本当に効果が出ているのかがよく分からなかったが、エルフの両脚を抱えている力が更に強くなった事を感じたコーチネルは一度魔剣を手元へと戻し、そして背中を床に接触させたあまり有利とは言えないような姿勢の状態で魔剣に力を込めた。


 数秒と時間を使わず、光に包まれた魔剣は元々は剣の形状をしていたが、先端が長方形状の塊に変化し、それはハンマーと呼ばれる形状へと姿を変えたのだ。


 そして両手を使い、まだコーチネルを振り回していないエルフの胴体の真横を狙い、力任せに振った。


「喰らえぇ!!」


 先端に重量が入った関係なのか、片手ではとても扱えないような重さであるのに加え、そして両手であっても適当に振るだけでは渾身の威力を発揮する事が出来なかったのか、直接言葉に出すという形で気合も出し、エルフに直撃させる。




「ぐあぁあ!!」


 エルフの方が今度は棚に挟まれるようにハンマーで叩きつけられ、そしてただ棚に挟まれただけではなく、威力と重量でそのまま棚はエルフに押し付けられるかのように倒れ始めた。


 奥にも棚は並んでおり、それらがまるでドミノのように連続して倒れていった。棚に設置されていた物も傾きの過程で流れ落ち、部屋には物が散らばる騒音が鳴り響く。


「あぁ煩い……。悪いけどあんたの優勢にはさせないからね? あたしの事なめんなよ?」


 棚が盛大に倒れる音が非常に耳障りだったようで、コーチネルにとっては単刀直入に煩いとしか思えなかったらしい。すっと立ち上がるなり、ハンマーの形状と化した魔剣――今は魔槌(まつい)とでも呼ぶべきかもしれないが――を逆さに持ちながら、ヘッドの部分を地面へと突き刺すように落とす。


 そして棚にもたれ掛かるように倒れているエルフを見つめながら短い言葉を飛ばす。




「……けっ、なめちゃ悪りぃのかよ? あぁ!?」


 ハンマーによる打撃は重かったと思われていたが、エルフは意外とすんなりと棚から離れるように立ち上がり、元々コーチネルの事を弱者として見下していた事を認めているかのように言い返すと、再びコーチネルへと詰め寄る。


「やっぱまだやられ……!!」


 立ち上がられたのだから、自分に向かって何かしらの攻撃をしてくるというのはコーチネルも理解は出来た。


 しかし、ハンマーの状態である武器で対抗をする準備をするには、それはあまりにも重すぎた。鈍った結果として、エルフの行動に完全な対応が出来なかった。




――純粋に、コーチネルを横殴りにしたのだ――




 純粋に腕力が強化されていたエルフであれば、一撃殴打を加えた時に相手がどうなるか、容易に想像が出来ていたのかもしれない。


 武器で防ぐ余裕も与えず、突然と表現しても良いであろう顔への横殴りを与えたエルフの表情は、獲物を見つけた肉食獣にも酷似していた。


 鈍い音を立てながら、そして同じく鈍くも苦しそうな悲鳴を絞るように出してしまいながら、コーチネルは自身の踏ん張りを発揮する事も出来ずに背中から倒れ込んでしまう。


「へっ! やっぱ顔殴られりゃ死ぬか? あぁ平気だ。ホントに殺しはしねぇよまだ」


 実際はただ床に倒れながら痛がっているだけであるが、とても反撃に踏み込めるような状態では無かったようであり、エルフはコーチネルを見下ろしながら鼻でわざとらしく笑う。


 あくまでも今ここではまだ命を奪わないようであるが、いつかは本当に奪うのだろうか。




――激しい鈍痛を滲ませている少女は……――




 視界が霞む中で、再びエルフが自分の元へと近づいている事を目視する。このままでは次の一撃を一切の防御手段無しに受けてしまう事になる。


「やっぱり……来た……わね……」


 エルフの行動は分かっていた。コーチネルはすぐに立ち上がらなければいけない事は分かっていたが、それは叶わない。立ち上がる前に一撃を受けてしまう。そして、そのやり方は確実に床を殴るようにコーチネルに真上から殴り掛かる方法である。


 大体の想像でそれが理解出来た為、エルフのまるで挨拶のように放たれる罵倒と共に、すぐにコーチネルは身体を右へと転がした。


「死ねやゴラぁ!!」


 やはりエルフは真下に向かって殴り掛かってきた。殺すつもりは無いと先程言いながらも、命を狙うような罵倒を激しく言い放ちながら肥大化していた腕でそのまま殴打を繰り出したが、命中したのはコーチネルでは無く、床であった。


 転がるようにして回避したコーチネルには殴打そのものは直撃しなかったが、拳を叩きつけられた床の方は、受けた衝撃によって恐ろしい変化を見せつけようとしていたのであった。




――命中地点を中心に(ひび)が広がり始め……――




 エルフの殴打の破壊力が異常だったのか、それとも純粋に木造の床の強度が低下していたのか、どちらにせよ、床の(ひび)は広がり続け、やがて、それは部屋の大部分を崩落させる程の規模へとなった。




――コーチネルとエルフは開いた穴へと落下する――









戦闘シーンってやっぱり剣の方が鎚系のような打撃武器より強そうな感じがありますけど、剣だと斬り付けただけで実質的に勝負がそれで決まってしまうような感じがありますし、そして味方側がそれを受けると何とか死なずに済んだとしても裂傷による重傷とか、最悪四肢の切断とかみたいな惨状になりそうなので結構難しいんですよね。味方側が剣なのは兎も角、敵が剣を持ってたら一撃で味方側が終わってしまいそうで描写が凄く難しくなります。まあ今回は味方サイドであるコーチネルの剣技が輝いてたような感じがありますが、相手も腕を強化させてたせいで簡単には通ってくれませんでしたが。

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