第28節 《凶暴化したエルフの激しい唸り声 『銃弾はお前を守る為にあるんだぜ?』》 4/5
そういえば前回はかなり不味い状況に追い込まれてた気がするコーチネルですが、今回は仲間のディマイオのおかげで窮地を脱出出来ます。誰かが来てくれるだけで一気に状況は変わるものですが、今回も多分穏やかには済ませてくれません。
銀髪の少女は追い詰められていた
突然拳銃を持ち出し、少女を窮地に陥れる
怯える相手に、エルフは破廉恥な強要をする
しかし、途中までは良かったものの、それは儚く崩れ落ちる
違う拳銃使いによって、一瞬で絶命させられたのだ
「あ……ディ……ディマイオ……なの?」
さっきまで拳銃を突き付けていたエルフのせいで、神経が極限にまで追い詰められていたようだが、今はそれが解かれた事で、恐る恐る銃声が聞こえた方向、つまりは出入口のドアの方へと向いたコーチネルだが、そこには見覚えがあり、そして尚且ついつも一緒に行動をしている亜人の男の姿があったのだ。
特徴的な複眼のような黄色の目に、オールドブルーの体色に白のボトムスと鉄の胸当て、そして部分的に施された装甲のその姿は正しくディマイオであった。
「見りゃ分かんだろ。それともお前あんまりビビってたせいで記憶喪失にでもなったのか?」
名前を呼ばれたディマイオはそれしか無いとしか言いようが無いと答える。しかし、先程まで銃口を向けられていた様子はディマイオ自身も確認はしていた為、それで怯えが収まらなくてその影響で一時的な記憶障害にでも陥っていたのかと推測はしていた。
「いやいや記憶は飛んでないけどさぁ、ま、まあとりあえず……ありがと。これはホントに、助かったわ……ホントに……」
コーチネルは首を横に振って銀色の今は汗でやや濡れてしまった前髪を揺らしながらディマイオに言い返す。決して記憶に問題は出ていないという事を説明したが、やはり拳銃を向けられていた時のあの恐怖を忘れる事が出来ず、ディマイオ本人に対してもいつもの何だか強気でいちいち反発してやろうという口調を見せる事が出来ていなかった。
すっかり弱気になってしまいながらも、言わないといけない事は言わないという気持ちだけは辛うじて残っていた為、しかしどうしてもいつものような張り上げたような声は出せなかった。
「お前動転し過ぎだぞおい? いつもみてぇにナイスだとか流石だとか生意気そうに言い返して――」
一度コーチネルの側に行こうと、ディマイオは歩きながらコーチネルの揺れていた茶色の瞳を見逃さず、寧ろ弱っている時こそわざとらしく威張ったような態度を見せて気力を回復させろよと催促しようとした。
しかし、足元を見ていなかったのが原因で……
――足元に転がっていた野盗の男に足を引っかけ……――
「どぅわっとと!!!」
倒れていた野盗の男の毛だらけで汚らしい腋に爪先を引っ掻けるような形で躓いたせいで、ディマイオはバランスを崩し、思わず前のめりに転倒しそうになりながら、そして右手に持っていた愛用の拳銃の引き金を引いてしまったのである。
銃口はコーチネルの方向へ向けられていたせいで……
―ドスゥン!!
「ひゃあぁ!!!」
元々精神が弱っていたコーチネルのすぐ横をディマイオの銃弾が通り過ぎる。命中はしなかったが、自分の方へ銃弾が飛んできたのは紛れも無い事実であり、命中してしまえば確実に絶命するような代物が飛んできたのだから、怖がった悲鳴を飛ばしてしまうのも無理は無かったかもしれない。後ろに転びそうになっていたようだが、何とか踏み止まっている。
――体勢を整えたディマイオは……――
「やっべ、間違って撃っちまったぜ……。っておいコーチネル! お前大丈夫だったか!? まさか掠ったか!?」
理由はどうであれ、コーチネルに向かって発砲をしてしまったのは事実だ。事の重大さを意識の中に浸み込ませながら距離の遠くない相手の所へ全力で走り、両腕で顔を覆いながら震えているコーチネルに近寄る。
ざっと見た所だと明らかな外傷は見えず、紫の半袖シャツが破けていたり、勿論身体に穴が開いているなんて様子も見えなかった。だが、コーチネルは両腕を顔の前から避ける様子を見せてくれない。
「っておい……ホント大丈夫なのか? なんか言えよ。オレだってわざとやった訳じゃねんだしよ」
向かい合っている、全く無言のコーチネルの右肩に何となく左手を置くディマイオであったが、何とかコーチネルからの返答が来るのを待っていると、ゆっくりと両腕を顔の前から下ろしてくれた。
「あんた……あたしに死ねって言いたいの?」
コーチネルは両腕を顔の目の前から下ろして表情を見せたが、瞳は弱々しくディマイオを睨みつけていた。いつものような大きな声を出す事が出来ておらず、寧ろ誤りとは言え、自分に向けて発砲を行なった事を根に持っているようである。
「だぁからわざとじゃねってんだろうが。ってかお前やめろその顔。どうせならいっつも馬鹿だの下手糞だの言うだろうよ。そんぐれぇでいろよ」
今にも泣きだしそうな表情で睨まれると、ディマイオも対応に困るのである。自分は謝罪をしているつもりなのだから許せと言うよりはもっと強気に言い返す事が出来るような態度に復活してほしいと願っていたのかもしれない。
「……もう、やめてよあんな事?」
誤ってでも自分に向かって発砲された事が余程怖かっただろうか。やはり今も口調は弱いままで、ディマイオ特有のやや荒れた口ぶりがそのまま弱っているコーチネルの残り少ない勇気を荒らしてしまうのでは無いかとも想像出来てしまう。
コーチネルは黒の指が出た手袋の人差し指で、流れ落ちそうになっていた何かを隠すように両目を横にこする。
「分かったって。それと、レフィからお前の様子見てこいって言われたから来たんだよ。あいつ地味にお前の事ちゃんと心配してくれてんだぜ?」
ディマイオもあまりきつい事を言ってしまうとコーチネルの精神が耐えられなくなると悟った為、少しだけ話題を変える方向に進んだ。
ここに自分が来たのは、レフィから頼まれたからであり、コーチネルの単独行動を不安に感じていたから助っ人を行かせたという話であった。
「レフィに言われたから、だったんだぁ……。あ、所であんたここ入って大丈夫なの!? 一応毒ガス残ってるはずだけど?」
コーチネルはなんだかんだでレフィの心遣いには感謝したい気持ちになったはずだ。そしてふと思い出したかのように、この部屋に充満していた毒ガスの影響をディマイオは受けないのかと、不安になる。
「それは平気だ。ちゃんとレフィから解毒剤受け取ってたから。だから平気だ」
いつもの調子に戻ってくれた事に多少の安堵を感じたディマイオだったが、聞かれた質問には答える必要がある。
レフィはこの部屋の事情を把握していた上でディマイオに行かせたのだから、毒の対策手段を持たせないはずが無かったはずだ。対策をした上でディマイオは今ここの部屋にいるのである。
「なるほどね、そこら辺はやっぱりレフィらしいかもね。あ、そうだそれとレフィから伝えられてる事あったんだった!」
コーチネルはレフィのいい加減そうに見えて細かい所まで配慮の利く部分を何となく評価しながら、そしてレフィという名前で思い出した事があったようだ。テレパシーで伝えられていた事を思い出す。
「やっといつもの調子戻ってきたか」
それは既に分かっていた事であったが、ディマイオとしてはやっぱり直接言ってやりたかったようだ。
「からかうのやめてって! まあ、なんか誰かが降り立ったって、ここになんだけど、ディマイオなんか見てない? なんかそういうの」
折角弱っていた気持ちから抜け出せたというのに、コーチネルは何だか苛々してしまう。尤も、それがいつもの彼女らしい姿ではあるが、レフィから伝えられた話をざっと説明した。
この部屋への通路は1つしか無かった為、もし誰かがここに向かってきているとしたらディマイオと鉢合わせになっていた可能性があったとしか思えなかった。
「誰か来るって? いや知らねぇけどな。通路走ってる時も誰もいなかったぞ?」
ディマイオは何も聞かされていなかったらしく、部屋に向かっている最中も特に何か怪しい誰かに出会ったという記憶は無かったようだ。
「そうなの? あれ? レフィからその辺の話は聞かされてなかった?」
既に知っているのかと思っていたコーチネルであったが、ディマイオからは知らないと言われた以上はもうそれ以外のものは無いだろう。レフィにこの部屋に向かうように言われた時に誰かが侵入しようとしているという話も一緒に説明されなかったのかも確認する。
「それは聞いてねぇわ。お前の事助けに行けってしか言われてねぇぞ?」
やはり誰かがこの建物に入り込んだという話はディマイオにも一切聞かされていなかったようであり、あくまでもレフィからはコーチネルの援護を頼まれただけであったようだ。
「そう……なんだぁ。でも誰かが来てるってのはそれは絶対事実だと思うし、あ、一応だけどそこのエルフは違うと思うから。始めっからこの部屋に隠れてたから」
レフィも流石にディマイオに全てを伝えるという事は出来なかったらしい。そこまでの余裕が無かった可能性もあるが、しかし、コーチネルはレフィから実際に何者かがこの小屋にやってくるという話を聞かされている為、間違いは無いと言い張った。
勘違いをされたら困ると思ったからか、先程ディマイオによって射殺された言葉遣いの非常に荒れたエルフはこれから現れるはずだった人物では無いという話もここで明かしておいた。
「なるほどな、所で、今更だけどこいつ殺してて大丈夫だったのか? お前の事だからなんか聞き出してたりとかしてたと思うけど、良かったのか?」
ディマイオはこの部屋での細かい話は分からない為、コーチネルの話をただ受け止めるしか無かった。
しかし、一応エルフの本性がどうであれ、言葉を交わす事が出来る相手であった以上はあっさりと命を奪ってしまっていて良かったのかと疑問になってしまう。もしかして自分のせいで重要な情報を引き出す事が出来なくなったとか、そうなってはいないかどうか。
「それは大丈夫。だってこいつちっともあたしの質問に答えなかったし、寧ろ殺してくれて凄く助かったもん。じゃないとあたしがホントに殺されてたし」
意外にも問題は無かったようであり、コーチネルとしても、対話が通じなかった事に加えて、そして自分の命をも狙っていた為、逆に都合が良かったと言い返した。
何も聞き出す事が出来ないばかりか、命まで奪われてしまっていては救いようが無いはずだ。
「それは良かったわ。所でお前の要件ってもう済んだのか? オレはその辺はなんも知らねぇけど」
殺した事で不都合な事があったかと感じていたが、それは無かったようであり、そして、ディマイオはやはりここの事情を一切知らない為、ここの長居する必要があるのかどうかはコーチネルの対応にかかっていると言える。
「あぁ流石にそこまでレフィも説明する余裕無かったのか……。えっとね、あの男がスライム操ってるように見えたからちょっとあたし追いかけたのよ。実際なんか小さい機械的な物でなんか操作してたみたいで、おかげであの今外にいるあのスライムの弱点も露出した訳だし」
コーチネルは天井を睨むように見つめながらレフィのあの時の状況を思い浮かべていたのだろうか。
とりあえずはディマイオにこの場所に突撃した理由を説明しなければいけないだろう。先程ディマイオが躓いた男を指差しながら、怪しい機械を所持していた事を説明し、そして結果的に外で今皆と戦っているスライムが本当は見せてはいけない部位を表に出させる事が出来たと、それも話した。
端末自体は棚に放置していたが、置いていた場所へ進み、端末自体が何かをディマイオに見せる為に持ち上げて見せた。
「そんなもんであのスライム操ってたのか。まあでも明らかな弱点出た瞬間レフィの奴めっちゃ騒いでた……いや、はしゃぐっつうのかあれ? なんかお前の事メッチャ褒めてたんだっけな」
ディマイオは端末の使い方なんか知る訳が無いが、それでも厄介者であるスライムの弱点が露出した事で自分達が有利になったのは事実である。レフィの事を思い出すなり、コーチネルの影の功績で大声を飛ばしていた様子が頭に蘇ってしまったらしい。
「そう……なんだぁ。まあレフィらしいけどね。とりあえずさ、もうあたしの目的は達成したからじゃあそろそろここ出ちゃおうよ! レフィ達の援護に行かないと!」
レフィは些細な事で大騒ぎする少女である事をコーチネルはよく知っているのだろうか。しかし、もうこの小屋にも、そしてここの部屋にも用が無くなっている為、スライムの討伐に戻ろうとディマイオに言う。
「お前が言うならここにいる理由なんかねぇって事になるわな。なんか変なのが来る前にずらかるか?」
ディマイオからするとここでの要件が残っているのかどうかは一切判断する事が出来ない。そして厄介者が来る事が殆ど確定しているようなこの状況であるなら、さっさとおさらばしてしまう方が安全であると考えるのが普通だろう。
出入口であるドアに向かって親指を向けた。
「ずらかるって……別に悪い事した訳じゃないんだからさぁ……」
寧ろ悪い事をしているのはこの異様な空間を根城にしている野盗達である。
だが、ディマイオは敢えて言ったのかと思うと、コーチネルは少しだけ笑いが零れたような気持ちを覚えた。
――突然そこに、知らない者の声が響き渡る――
「残念だったな! 楽しいデートの時間は終わりだよ! あんた達!」
まるで初めから2人を監視しており、タイミングを狙いすましていたかのように、突如天井から威圧感のある女性の声が響き渡った。
当然それはレフィのものでは無いし、コーチネルのものでも無い。初めて聞く声だ。
「あぁあ……結局来ちゃったか……」
コーチネルとしては決してそれが絶望のどん底に陥れられるような相手という訳では無いようであり、寧ろ面倒な相手が来てしまったのかとしょうがなく事に対応するような気持ちを抱いている。
「来たら来たでしょうがねぇだろ? やっちまうしかねぇな」
ディマイオも誰が来たとしても負けるつもりは無いようであり、右手に愛用の拳銃を持ちながら、いつでも対応出来るような心の準備をする。
――出入口の目の前に小規模の竜巻が立ち上がり……――
「とおぅ!!」
ドアから部屋を出る事を妨害するかのように現れた小型の竜巻が、先程天井から響いた声と同じ気合と同時に消滅し、そこにいたのはまたエルフであった。肌は色白で髪は青のベリーショートであったが、服装は先程射殺されたエルフの赤いローブとは異なり、真っ黒なレオタードで身体の形をくっきりと見せつけた挑発的な格好だ。
他のエルフとは異なり、薄汚れた肌とは言えない随分と綺麗に整えられた姿をしており、他の者達とは異なる扱いを受けた精鋭なのだろうか。
「誰あんた? またあの連中の友達かなんか?」
エルフが現れた際に飛んできた風を僅かに浴びたコーチネルは、最低限自分の顔に飛んでくる風だけは防ぐつもりで左手で顔の前を防ぎながら、嫌々相手をしてやるかのような態度で接する。
「私かい? ここのリーダー様が最高傑作として作ってくださった最強のエルフ様よ? 他は失敗作ばっかりだったから、私だけ特別に可愛がって貰ってたの」
わざと高い場所から見下ろすような視線を見せながら、自分の正体を明かす。どうやら複数のエルフ達の中から特に厳しく選別された存在であるようだ。
「何が最強のエルフなの? やってる事は人道外れてるのに喋ってる事はまるで威厳とか無いんだね。何よ最強のエルフ様とか」
真っ直ぐな言葉で最強だと言ってしまっているエルフを直視するコーチネルだが、この空間では人攫いを行ない、そして洗脳というとんでもない行為をしているのにも関わらず、実際に被害に遭った本人は何だかいきり立ったならず者のような発言をしており、本当にこれが特別な成功作なのかと疑われている事だろう。
「悪りぃけどなぁこっちはお前と遊ぶ気なんかもうねぇんだよ? 最強とか変な事抜かしてねぇでさっさと帰れよお前は」
ディマイオから見ても、青の短髪のエルフが殆どふざけているようにしか見えなかったからか、すぐにホルスターから拳銃を取り出した。
銃口を向けたのは、その場ですぐに決着を付ける為では無く、その場からいなくなるか、本当に絶命してしまうかのどちらかを選べという選択肢を迫る為であった。
「へっ!! 撃てるもんなら撃ってみな! お前が泣くとこ眺めてやるからよ!」
随分と強気な態度を見せる青髪のエルフであった。銃口を向けられているのにも関わらず、それを避けようと身体を反らす等の動きも見せず、直立したまま銃口を見つめ、そして寧ろ発砲した側が無様になる姿を想像すらしているらしい。
「すっげぇ喧嘩っぽい奴だなこいつ……。まあ上等じゃねえか。じゃあやってやるよ!!」
どこからそんな度胸や乱雑過ぎる言葉が捻り出されているのか疑問にすら思っていたディマイオだったが、撃てと言われてるのは事実であるのだから、ディマイオはその通りにしてやろうと、本当に引き金を引く。
そこには一切の迷いは無かった。
――正確に銃弾がエルフの頭部に飛んでいくが……――
「馬鹿が!!」
エルフは罵倒にも近い気合の声を、髪と同じ色の青の瞳を力強く開きながら目の前に風を作り出す。
その風を、銃弾は貫通する事が出来なかった。
――銃弾は風のバリアで受け止められ……――
風は非常に強固な壁となり、ディマイオの銃弾を受け止めてしまう。それは完全に停止したと思わせるなり、銃弾の向きを丁度反対にさせてしまう。
反対の方向にいたのは、勿論発砲した本人と仲間であり、ただ向きが変わっただけでは無く、銃弾は発砲された時と全く同じ速度を再び手に入れ、そして弾頭と同じ方向へと向かっていく。
その先にいるのは……
「!!」
声を発する余裕は無かったが、自分が発砲した銃弾が自分達に向かって速度を手にした上で向かってくる事は直感で判断する事が出来たのかもしれない。
ディマイオの取る行動は、身体の部位の内の1つを全力で動かす事であった。
――反射的に、コーチネルを左手1つで突き飛ばす――
「危ねっ!!」
「うわぁ!!」
戻ってきた銃弾は実質的にはディマイオだけを狙っていたようだが、もしかすると不用意にコーチネルに命中範囲に入られるのも不味かったと瞬時に判断していたのかもしれない。
左手でコーチネルの肩を乱暴に押すと同時に、ディマイオ自身も反対側へと身を飛ばす。2人の間を突き抜けた銃弾は背後の壁に着弾した。
「あいつ跳ね返しやがった……?」
横に滑るように回避をしていたディマイオは自分の身体の勢いを両足で止めながら、エルフが行なった事を分析していた。
確かに、自分が発砲した銃弾を反射させていたのだ。
「だから言っただろ!? 馬鹿だってねぇ!! 私に遠距離攻撃なんか無駄だって事、ちゃんと学習しろ!」
反射させた銃弾を回避されたとは言え、相手に対して自分に遠方からの攻撃手段が一切通じないという事を身体で教える事が出来たからか、自分に対して無意味な攻撃を仕掛けたディマイオに対して尊大な態度で言い放つ。どうやら近距離攻撃でしか、このエルフに攻撃を入れる事が出来ないようである。
「通じねぇならじゃあしょうがねぇな」
ディマイオは恐らく相手が言った事が本当に事実であると認め、銃弾による攻撃を諦める事を決めたようだ。実際に銃弾が反射されてしまった以上は迂闊に発砲なんか出来ないはずだ。
勿論それで戦う事を諦めたという訳では無いと信じたい所だが。
「え? じゃあどうやって戦……あぁ接近戦で行けばいいのか」
遠距離からの攻撃ばかりに気を取られていたコーチネルだったものの、自分の戦うスタイルを思い出すなり、まるであっさりと事が解決したかのような緩んだ表情へと戻る。
「オレは別に接近戦が出来ねぇ訳じゃねぇし、特にお前なら専門だろ?」
ディマイオも決して接近戦が出来ないという訳では無い事に加え、そしてコーチネルは剣士として戦っている関係で近距離での戦闘なら得意であるはずだから、特にエルフに対して怯える必要は無いのかもしれない。
「確かにね。それで勝った気でいられてもね?」
コーチネルもディマイオの心持ちに合わせていたようだ。遠距離攻撃を封じた程度で強がっているエルフをあまり脅威な相手とは思えなくなってきたらしい。
「私とどう戦うかちゃんと相談し終わったみたいだねぇ? だけどね……」
エルフは自分の遠距離攻撃を封じる力を相手の方から予想していた程恐れられていなかったとは言え、それでも態度を崩す様子を見せていなかった。
しかし、何かを隠しているのか、それとも言いたい事があったのか、口元を釣り上げる。
「まだあんのか? お前ってただムカつくだけのウゼぇ奴だな?」
ディマイオもそろそろ本気で襲い掛かってこいと思っている頃である。
挑発的且つ暴力的な口調で喋り続けるその姿はディマイオからすると心地良いものとはとても言えず、出来ればすぐに決着を付けた上でここから立ち去りたいと思っている事だろう。
そして、自分の周囲が弱い風に包まれている事を決して逃しはしなかった。
――ディマイオの周囲に弱い風が発生し……――
「あぁ? なんだ?」
室内であるのだから外から風が入ってくる事はありえないはずだが、ディマイオは風の動きがあまりにも妙であった為、マスクのような形状の口からそんな言葉を漏らしていたが、恐らく防ぐ事は不可能だった事である。
「へっ! お前は見学してろ! 用があるのはそいつだけだ!」
エルフはディマイオだけを風に包む対象にしていたようであり、エルフの目的はコーチネルだけだと、顎を突き出すように指しながら、そしてディマイオにだけ力任せな魔力を突如発動させる。
――風の力で強引に背後の壁へ押し飛ばす!!――
「なっ!?」
身体全体にまるで見えない何かに押し出されるような圧迫感を覚えたディマイオであったが、もう気付いた時には背後の壁に背中を打ち付けられていた。
ディマイオ自身はその程度の衝撃にはまだ耐えられていたのか、すぐにその場からコーチネルの横に戻る為なのか走り出そうとしていたようであったが、エルフは次の魔法を間髪入れずに発動させる。
コーチネルの驚く声や背後を反射的に確認する様子も、今のエルフにとってはどうでも良い話だ。
「これでフィニッシュだよ!!」
エルフはまるで床に物を叩きつけるかのように右手を激しく振るが、するとディマイオの頭上から棒状の物体が降り注ぐ。重力を更に倍化でもさせていたのか、瞬時にその場で出現させたかのような速度でディマイオの周囲を取り囲んでしまう。
当然上部も隙間の存在しない板のような物が現れ、一切の逃げ道を封じられてしまう。
――それは、檻そのものであった……――
「っておい! なんだよこれ!? 閉じ込めやがって!」
ディマイオは自分の正面と左右を半円を描いたような形で格子に囲まれてしまい、その内の2本を握りながら叫ぶが、前後に引いた所で格子は当然のようにびくともしなかった。
背後はこの部屋の壁そのものであり、実質的にディマイオは四方八方を塞がれた状態だ。
「ディマイオ! ちょっとあんたこれどういうつもりよ!?」
コーチネルは自分の背後で確かに格子によって閉じ込められたディマイオを確認するが、すぐにエルフに向き直り、何故閉じ込めるような真似をしたのかを問い詰める。
「見て分かるよな? あいつは邪魔なんだよ! 私はねぇ、お前と遊びたいんだよ? 人間の身体ってエルフと喧嘩売れるぐらい綺麗だって言うからねぇ、特にお前みたいな人間の女のガキはねぇ?」
格子の中に閉じ込めたという事実はそれは目視さえすれば理解出来る話であるとエルフは一言放つと、コーチネルとこれから何をしたいのかを喋り出す。その場からは歩き出さず、視線を時折下に落としたりをしながら、肉体への賛美を語り出す。
「何よ? それ何? 嫉妬なの? それともただの変態なの? そんなの遊びって言わないから」
何となくエルフの方が人間の女性の身体から価値を見出しているというのは理解出来たコーチネルであったが、自分に対する言い方を差し引いたとしても、やはり身体の方をまるでピンポイントに狙っているかのような思考には賛成等する気にもなれず、元々の乱暴な口調の事もあり、コーチネルも相手が密かに抱いている可能性がある妬みの心を抉るかのような態度で言い返してやる。
当然、身体を触る行為を遊びという括りに該当させるつもりは無い。
「細かい事なんか気にすんなよ? まあどうせお前のその性格だと脚開けって言われていいよなんか言う訳無いだろうし、まあ殺さない程度にぶちのめして、それから言いなりにさせてやるよ?」
深い意味を追求するつもりが無かったエルフだが、目的としては力尽くの行為であるようで、指を鳴らしながらコーチネルの表情を眺めている。
「言ってる事まるで理解出来ないけど、まあ本気であたしとやり合いたいってんなら、あたしだって加減なんかしないからね? こっちは殺す事前提で戦うけどさ」
自分の身体を狙っている事だけは把握出来ているが、目的や相手の趣向までは理解しようとは思えず、そして何より相手は直接は殺しに来ないにしても自分が敗北してしまえば殺されてしまうのと同等の苦痛を受けるとしか思えなかった為、コーチネルは相手の遊び気分には合わせず、いつもの通りに任務を遂行する為に戦うと、腰の鞘から銀の装飾が施された武器の剣を取り出し、右手だけで構える。
「いいよ? 殺せるもんならやってみろよ。殺せれば、の話だけどね?」
エルフは鋭い武器を構えているコーチネルに恐れる事をせず、速くも無く、遅くも無い速度で歩き出す。
コーチネルに近付きながら、両腕の筋肉を目立つ程に膨れ上がらせていた。
徐々に、徐々に。
今回はちょっとコーチネルの弱い所を見せたような話になった気がします。やっぱり守られる時は守られた方が少女らしいのか。ただ、ディマイオの方はそういう態度があまり得意じゃないみたいですが、でも結局穏やかに話は進んでくれません。また妙なエルフが出現しましたが、一体何が起こるのでしょうか。




