第28節 《凶暴化したエルフの激しい唸り声 『銃弾はお前を守る為にあるんだぜ?』》 3/5
前回は何とか野盗の気持ち悪い男からの脅威を逃れたコーチネルですが、今回はエルフからの襲撃を受けるという内容になってます。特殊な強化をされた相手であるせいでかなり苛烈で尚且つ人道的に不味いような展開も出てしまいますが、無事に生き延びられるのでしょうか?
背後から、コーチネルは狙われていた
真っ赤なローブを纏った誰かが轟音を放った
それは音だけの問題では無い
一言で言えばそれは雷だ
真横に向けて放たれた雷が狙うのは、勿論目の前を走る少女だ
真っ赤なローブから伸びた汚れた手の先から発射されたのは、真横に向けられた雷であった。
それは発動した瞬間に一瞬にして、部屋から出ようとした少女の真横を突き抜けた。
――ドォオオオオオン!!!!!!――
「うわぁあああ!!!!!」
コーチネルは自分のすぐ右を背後から突き出された雷と、それが壁に激突した事によって炸裂した轟音に思わず悲鳴を上げてしまう。
ドアの横の壁は雷の接触で激しく焦げ付き、焼けた臭気を発生させる。
すぐに振り向き、コーチネルは背後に何が存在していたのかを確かめる。力強く振り向き、顔をピタっと止めた勢いで銀髪の前髪が激しく揺れる。
「ちょっと! だ、誰!? ん? あんたも……いや、エルフ?」
部屋に並んでいる棚等の影に隠れていたかもしれない。しかし、今はそこにハッキリと直立しているのが真っ赤なローブを纏ったエルフであり、伸ばされた右手はコーチネルに向けられたままだ。
本当は最初からここにいる野盗達の仲間なのかと問い詰めてやろうと思ったようだが、特徴的な横に伸びた耳に目が行ったのか、種族の事を聞こうとしてしまう。
「お前は始末する対象だ……」
茶色の長い髪を持ったそのエルフは、コーチネルの種族に対する質問に答える事をしなかった。小さい声で、コーチネルをどうしようと考えているのかを喋った。
「質問にはガン無視するんだぁ? まあこの男の味方なんだね? って……!!」
ここにいるエルフは洗脳されている為、もう敵として扱わざるを得ないのだ。質問に素直に答えてくれないのは当然なんだと諦めたコーチネルであったが、エルフの右手が再び光り出した為、再び身構えた。
しかし、いくら身体を屈めた所で、命中したら確実に身体に大きな傷が入るはずだ。
――再び雷が発射される!!!――
それはコーチネルの頭上を貫き、再び壁に黒い焦げ痕を残した。
「あんた何する……って敵だから当たり前か。何回もやるなら――」
考えてみれば、コーチネルに向かって雷の魔法を放つのはそれは敵だからであり、侵入者である以上は攻撃を仕掛けるのは当たり前だ。焦りながらも、わざわざ問い質す理由があったのかどうかが疑わしくなってしまう。しかし、相手がその気であるなら自分も本気で対抗するぞと言おうとしたのかもしれないが、エルフはコーチネルとまともにコミュニケーションを取るつもり等、一切無かったようだ。
――連続で放たれる雷は……――
コーチネルは遠距離からの雷に対処する方法が無かったのか、ただその場で最低限顔を両腕で覆い尽くすしか無かったが、その場から一切動いていないはずのコーチネルに実質的に一発も雷は命中しておらず、徐々にそれに対してコーチネルも気付き始めた。
(あれ? これ命中全然してないじゃん……)
恐る恐るコーチネルは自分の顔面を守っている両腕の間からエルフの姿を覗き込むが、一応は一生懸命雷を右手から放ってはいるものの、まるで命中させる様子を見せない。
威力は凄まじそうではあるものの、正確な場所に命中させる技術が著しく劣っているのかもしれない。
やがてコーチネルはもう怯えながら両腕で顔を守る事をやめてしまい、再び声を上げた。
「あんた命中率頗る悪いんだね? もうやめたら? 体力の無駄だと思うけどね?」
すると、エルフは言われた通りにあっさりと右腕を下ろしてしまう。ローブの中に腕を隠してしまうが、しかし、エルフは態度までは変えようとはしなかった。
「お前……顔気持ち悪いな……不細工……」
ぼそぼそと小さな声で喋るエルフだが、コーチネルの容姿を見てそう感じたらしい。ただの侮辱にしか見えなくも無いが、コーチネルはこれをどう捉えたのだろうか。
「……はぁ!? あんたなんでさっきから適当みたいな事ばっか言い返してくんの!? それともホントの意味で頭悪い?」
最初は雷が怖いエルフではあったが、なんだかただの喧嘩で使うような悪口ばかりを飛ばされているような気分になり、ただの喧嘩の時に見せるような態度でコーチネルは荒げた声でエルフへと言い返した。自分の頭を指で差しながら、頭の悪さを表現してやった。
だが、まだ接近はしていない。
「お前は敵だから……。お前がキレようが関係無い。とりあえず黙れ不細工」
エルフはコーチネルが怒り出す事を狙っていた様子である。敵であるからこそ好き放題、相手の気に障る発言を飛ばしても良いと考えていたようで、そして思考もなんだか子供のような様子だ。
エルフの望みとしては、何も反論はしてくるなというものらしい。コーチネルを虚ろな目付きでずっと見つめ続けている。
「ぶさい……く……か? ハッキリ言うけどこんな野盗連中と仲良くしてるあんたの方がずっと不細工だから! 顔も考えてる事もね!」
コーチネルとしては自分が変な容姿をしているとは思いたくないはずだ。言われた事は初めてだったのかもしれないが、コーチネルも仕返しの一環として、社会的にも嫌われている存在である野盗と仲間として生きているエルフ達の方が終わっていると言い返してやった。
周囲からは普段どのように思われてるかは自分では評価出来ないであろうコーチネルも、流石に今目の前にいる無表情で気持ちが感じられない弱い口調のエルフよりはまともだと自信を持ちたかったはずだ。
「お前、捕まえたらいい戦闘員になれる……。お前、エロ強い淫乱戦士になれる」
もしかするとエルフはコーチネルをここで捕まえ、野盗達の言いなりにしようと企んでいるのだろうか。この空間自体が捕らえた者を言いなりにする施設のような存在になっていたのだろうか。
エルフは淡々と言うが、不気味なまでにコーチネルの茶色の瞳と目を合わせ続けている。
「何言ってんのあんた? あんたの事見てたらあたしがなったとしてもまともなのにならない気がするけどね?」
殆どふざけて言っているようにしか感じられなかったのか、コーチネルは今のエルフの知能の弱そうな喋り方を目視していると、優秀と評価されるような戦闘員なんて生まれるはずが無いと鼻で笑ってやった。勿論自分から懇願してこの空間で最も優秀な戦闘員になってやろうという捨て身の発想はしないが。
「お前、エルフ馬鹿にしてる。馬鹿にする以上の強さとエロさ、ある。お前の四肢、エロ可愛い」
再びエルフは喋るが、自分達の種族が愚弄されている事に対して、感情を見ても怒りを見せている様子は見えなかったが、何気にエルフは赤いローブの裏でコーチネルの素質を認めていたようであり、灰のスカートから伸びた太腿や、紫の半袖シャツから伸びた二の腕から先を見てから、真っ直ぐな感想を述べた。
「いや、馬鹿にしてるのはエルフじゃなくてあんた本人なんだけどさ? あ、さっき別のとこであたし襲ってきたあいつらもだけどね。ってかしし……? あぁ手と脚の事? 褒めたきゃ勝手に褒めてれば?」
コーチネルは目の前にいる洗脳された過程で敵対意識を持ってきている赤いローブを纏ったエルフ本人にしか、思った事を伝えていなかったつもりだったようだ。勿論、檻の方で折角助けようとしたのに逆に襲ってきたエルフ達もコーチネルの中では評価の対象外であるようだが、自分の事を褒めてきた所で、それを喜ぶ事なんて勿論行わない。
「お前、これから捕まえる。お前、泣く。ぎゃはは」
エルフはこれからの予定なのか、何をしようとしているのかを喋り出す。相変わらず淡々としているが、結果的にコーチネルの身に何が起きるのかも予測し、下手な芝居でも見せているかのような感情の無い笑い声を発して見せた。
「何棒読みみたいな笑い声――」
どうしてもエルフの方が何をしたいのかが理解出来ず、芝居の舞台であれば確実に怒られるような下手な笑い声を浴びせられた事でコーチネルは首を傾けながら溜息混じりで呆れた返事を言い渡してやろうとしたが、途中でエルフの様子が変貌した。
――突然エルフは目の色を変えて走り出し……――
「ぎゃぁははははは!!!!!!」
今まで一切見せなかった耳障りな大声で笑いながら、というよりは叫ぶようにと表現した方が良かったかもしれない異常な奇声を散らしながら、一直線に競技の選手のような走り方で突っ込んできた。
コーチネルも今までのような下らない喧嘩の相手に付き合うような態度や気持ちではいられない。
「うわ何こいつ!?」
もう避ける余裕は無かった。距離は走るそれで考えればあまりにも近すぎであり、もうコーチネルにとって最低限出来る事は、ただ身体へこれから走るであろう衝撃を和らげる為に全身に力を込める事であった。
――エルフは拳を持ち上げていた……――
走り寄りながら殴りかかるつもりだったのはそれは見れば分かる話だ。
コーチネルは明らかに狙われている顔面を両腕で保護する。
「うわっ!!」
予想通り、エルフのパンチはコーチネルの顔面を狙っていた。両腕を盾にしたから良かったが、腕への衝撃は非常に強かった。
しかし、負けてなんていられず、すぐにガードを解除し、仕返しに入る。
だが、こちらも一撃ぐらいは拳で痛い思いをさせてやろうとしたが、次の攻撃はあまりにも速かった。
「まだ終わりじゃねえぞ!!!!」
エルフは立ち止まってはいたが、その場で連続で殴り掛かってきたのだ。
――力任せの殴打が繰り返され……――
「痛っ!! こいつ……何!?」
両腕を再び使い、顔にだけはエルフの殴打が入らないように防御に徹するコーチネルだが、エルフは殴る行為に慣れていたのだろうか、防御に使っている両腕の脇を狙うように顔を狙っていた為、それが何発か命中してしまう。
威力は流石に一撃受けたからと言って怯む程では無いにしろ、やられて気分が良いものでは無い。
――コーチネルも遂に仕返しとして……――
「あんた少し黙ったら!?」
コーチネルも元々戦う少女だ。剣技もそうだが、素手でも決して弱い訳では無い。相手のパンチが止まった隙を狙い、コーチネルも懇親の一撃として、右手で一撃エルフの顔に食らわした。
エルフの薄汚れていた顔が揺れるが、特に弱る様子も見せず、今度はコーチネルの身体に掴みかかる。
「てめぇやってくれたなぁあ!!!!!」
いちいち大声で叫び散らすエルフは、コーチネルの腰辺りに右腕を引っ掻け、乱暴に持ち上げた。
身体を浮かされたコーチネルは自分が不味い状況に置かれていると悟る事は出来たが、対処しようにも時間が少なすぎた。
「!!」
何も言えなかった。言葉が何も出て来なかったが、何をされるのかは理解出来た。
「死ねやお前ぇ!!!!」
部屋にある棚に力任せにコーチネルを投げつけたのだ。
「うあぅっ!!」
棚自体に重量があったからなのか、棚は倒れたり崩れたりはせず、逆に力任せに投げつけられたコーチネルは背中に鈍痛を受け、そしてその後に床に落ちた際に再度違う場所に鈍痛を受けた為、その場からすぐには立ち上がる事が出来なかった。
エルフはそれをチャンスと見たのか、うつ伏せになっているコーチネルの背中を乱暴に踏み付ける。
――勝利を確信したかのように叫び出す……――
「ははははは!!!! やっぱ弱いなぁ人間はぁ!!!!!」
エルフは実は裸足であったのだが、それでも踵を意識しながらコーチネルの背中を何度も踏み付けており、踏まれている方の表情は苦痛そのものでしか無かった。
「うぅうっ!!!」
何とか立ち上がろうとしていた所を、無理矢理押し付けられるように背中を踏み付けられたせいで激痛と共に再びうつ伏せのような状態にさせられてしまう。
何度も背中に踏み付けられる激痛が走り、このままでは絶対に勝機を見出す事が出来ないと、痛みを堪えながら無理矢理にでも食い止めるしか無いとすぐに意識した。
「これ……でも……」
何度も踏まれる中で、床と接し続けている左の足を見て、狙うならそこだとコーチネルは気持ちを強めたのである。
右足で踏まれ続けているが、左脚は身体の支えとして使っている為、動いていなかった。そこを狙ったのだ。左の膝を。
――倒れながらも右手を握り締め……――
「受けろ馬鹿ぁ!!」
エルフの足が持ち上がり、コーチネル自身の身体も持ち上げる余裕が出来た隙を狙い、上体を持ち上げてすぐにエルフの左の膝を目掛けて渾身の突きを放った。
「あうぅううう!!!!!」
本来可動が許されない方向へ力が加わった事により、骨に異様な痛みが走り、エルフの踏み付けはそれで終わってしまう。膝に痛みが走ったのか、数歩、踏み鳴らすように下がったが、コーチネルは怯んだ相手の隙を逃さなかった。
エルフは両方の足を床に付けた状態になったが、それを両方、一気に持ち上げてやった。
「これもオマケだ!!」
エルフは背中から派手に転倒し、一気に形勢逆転となった事である。
コーチネルの方が馬乗りとなり、ここでグラウンドパンチでも開始するのかと思いきや、コーチネルは右手でローブを纏めるようにして首元を乱暴に掴み、エルフの顔を無理矢理に持ち上げ、何かを問い質すような体勢になった。
――ダメ元ではあったが……――
「なんであんた達ってあたしら人間に襲い掛かろうとすんのよ? やっぱり変な薬みたいなので洗脳されたから?」
コーチネルとしては何とかエルフ、目の前にいる個体だけでも何とか分かり合いたいという希望を僅かながら持っていたのか、攻撃の手を止めているエルフに小さな希望を胸に問い質す。
どうしても自分達に殴り掛かろうとしてくる理由を知りたかったのだ。本当に洗脳が原因だったとしても、エルフ自身の口から言葉を受け取りたかったのだろう。
「うるせぇわお前」
これが返答であった。しかし、返答に相応しいものでは無く、ただの暴言そのものだ。答える気は全く無かったようだ。
「何それ? それが答え? ってか洗脳ってかただ態度悪くするだけのしょぼい薬だったんだね。勿体無いねこの変な基地もそんな下らない低レベルな薬作って――」
「死ねよお前!!!」
コーチネルとしてはもう洗脳でエルフが戦闘力を増幅させた上で凶暴化したというよりは、ただ口調が非常に悪くなり、そして周囲からは知能が低い荒くれと思われる程に人間性――尤も、厳密には人間では無くエルフという亜人だが――を低下させただけの本当に洗脳と呼んでも良いのかという程の呆れた態度にしか見えなかった。
しかし、エルフは喋っている最中のコーチネルに再び殴り掛かる。
顔を横殴りにし、無理矢理自分の腹部の上から降りさせる。
殴られた左の側面を押さえながら痛がっているコーチネルの銀の髪の頭頂部を乱暴に掴み、無理矢理顔を持ち上げてしまう。蹲る事も許さず、更にエルフは罵倒を浴びせる。
「お前みてぇな不細工に教える事なんかねぇんだよ! まあお前でもここの研究してる連中に引き渡せばそれなりにいい人形になりそうだけどなぁ!!」
エルフの罵倒を顔面に受けていたコーチネルだが、まさか喋り切った後にまた殴打が飛んでくるのかと思い、一瞬身構えていたが、それは無かったようだ。
「いや、教えてはくれたよね? ここで結局洗脳の為に人集めてる、ってか攫ってるって話してくれてありがと」
エルフに掴まれたままの髪が原因で頭皮に痛みが走ってた為、コーチネルはエルフの腕を自分の左腕で払い除けてから、この施設の目的を教えてくれた事に嫌みも交えながら感謝の言葉を渡した。
洗脳をしているという情報はエルフから聞く前から判明していたとは言え、ここにいるエルフ本人が洗脳されてからの態度も直接見る事が出来た為、もしかして初めから野盗達の仲間になりたいという願望がいくらか持っていたのでは無いかという新しい情報も仕入れる事が出来たのかもしれないが、しかし相手は態度が変貌したエルフだ。
「何媚び売ってんだお前!?」
エルフはコーチネルの鳩尾に重い一撃を食らわした。感謝の言葉さえ渡せば相手が気を許すと思って言ってきたのかと感じたエルフは、無性に腹が立ったのかもしれない。そもそも下の存在として見ている相手なのだから、そんな相手に普通の返事なんてしてやろうとは思わないのだろう。
「う゛ぅう゛っ!!」
まだ狙われた事の無い部位、腹部を殴られたせいで一気に肺の空気の大半を無理矢理出されてしまう。予想外の攻撃でコーチネルはもうエルフに対しては何も期待が出来ないと断定してしまっても良いはずだ。呼吸困難になっている所にまた同じ一撃が入ってしまう。
――再び鳩尾を狙われ……――
「!!!」
ただでさえ呼吸が出来ない時に再び呼吸を阻害される場所を殴られ、呼吸する行為を奪い取られたような絶望的な状況に陥れられたと思っている可能性がある。
本当はある程度は言葉で分かり合おうという期待を持っていたコーチネルであったが、もう考え方は変えた方が良いはずだ。
「所でお前なんでやってこねぇの? お前まさか弱い? なぁ弱い? 弱いくせにそんなちょっと戦えま~す的な服してんの? キモ過ぎんだけど? それとお前何? ぼっちで来たの?」
エルフはコーチネルの首を右手で乱暴に掴みながら棚に無理矢理身体を押し付ける。苦痛で歪んでいる相手の顔にわざと自分の顔を近寄せ、何も言い返してこないコーチネルに次々と思い付き次第様々な罵倒を飛ばす。
「キモくて結構。それと、やっぱり口じゃ分かり合えないみたいね、あんた」
少しでも話し合いで静かにさせようと努力をしていたつもりであったコーチネルだが、首を掴まれて棚に押し付けられているその状態で、言葉での和解を諦めるような事をここでエルフに伝えた。息苦しさは大分解消されたのだろう。
「じゃあなんだって言うんだよ!? キモいくせに喋――」
エルフはコーチネルの容姿を酷評するが、そこに……
――コーチネルの反撃が入った――
それは純粋な右ストレートだ。エルフの顔面に見事に命中し、コーチネルも決して弱い存在では無い事をとことんアピールしてやろうと言わんばかりに特に言葉らしい言葉を出す事も無く次の左ストレートも繰り出し、エルフを逆に追い詰めていく。
「キモくてもあたしはあんたより強いんだからね!!」
最初の顔面への一撃が特に強かったのか、エルフは顔面の痛みに怯んでおり、その間に次のパンチを受けていた為、コーチネルの時と同じく棚に背中を打ち付けていた。もうエルフから容姿の事を何言われても気にしないようであり、そして最低でも目の前のエルフよりは実力があるという事を口で言って誇ってやった。
そして3発目をぶっ飛ばしてやろうと少しだけ距離が離れたエルフに近寄るコーチネルだったが、エルフは棚に手を這わせていたのだ。
――棚から何かを取り出した――
棚には無造作に様々な物が並べられていた。ただの鉄の塊とも、屑鉄とも言える使い道の見えない物や、そして使い方次第では武器になるような工具も無造作に置かれており、そして、エルフが手に取ったのはなんと、拳銃であった。
そして拳銃には既に弾が装填されていたようであり、右手に持った後に忘れていない大声の怒声を絞り出す。
「強ぇのはこっちなんだよボケがぁ!!!!」
エルフは再び自分に殴り掛かってこようとしていたコーチネルに向けて拳銃の銃口を向け、そして向けた後に相応しい行為を取り始める。
――引き金をその場で引いてしまう……――
――ドスゥン!!
激しい銃声がコーチネルの至近距離で響く。実際に被弾こそしなかったが、狙われていたのは恐らくは胴体だ。
目の前で発砲をされてしまい、コーチネルは思わずその場で怯んでしまい、反射的にエルフから距離を取るべく、後退する。しかしエルフは拳銃を手にした事で再び自分が有利になったと確信したからか、再度コーチネルに向かって発砲をする。
「!!」
命中はしなかったが、確実に弾はコーチネルの顔のすぐ右を通り過ぎた。証拠にすぐ横にあった、鉄の塊が弾かれるように棚の向こう側へと落とされていた。
何も反発すら出来ずにいたコーチネルに銃口を向けたエルフはまた大声を張り上げた。
「ははははは!!!! やっぱお前はザコだなぁ!! これでこっちの勝利だなぁはははははは!!!!!」
銃口をコーチネルの恐らくは胸元辺りを向けているようだが、向けていれば相手が大人しくなるという拳銃特有の威圧感をエルフは知っているのだろう。
まるでいつでも勝利を手にする事が出来ると勝手に思い込んでいるかのようにわざとらしいがそれでも非常に耳障りな笑い声を部屋中に響かせる。
「勝手に勝ったとか……思うのは早いんじゃない?」
拳銃に対抗する手段が思いつかないのか、コーチネルは身体を硬直させてしまいながら、勝利を決め付ける事に対して反論をしてみるが、口調に覇気が見えない。無理に言葉を捻り出しているようにしか感じられず、上手にエルフを言い負かしているようなものも含まれてはいなかった。
「お前何弱気になってんだよ!? 喋ってる事下手過ぎだし! あ、いいや、折角だからお前射殺しねぇで済ませてやる条件やるよ。言いなりになったらなぁ!!」
エルフは既に銃口の先にいる銀髪の少女がほぼ確実に気持ちを弱めてしまっている事を見抜いていたようであり、言い返してくる言葉にも思考の豊富さ等が感じられなかったようである。
しかし、エルフもすぐに射殺するつもりは無かったらしく、コーチネルに自分の要件を呑ませようとする。
やはり拳銃の威圧感が強かったからか、コーチネルはエルフに対して何一つ言い返そうとしなかった。茶色の瞳が動揺で揺れていた。
「完全お前黙り込んでんじゃねえかよ。まいいや、スカート持ち上げろよ。んでパンツ見せてあはん、とか言えよ。笑ってやっから! はははははは!!!!」
拳銃を向けている限りは有利な状況でいられると思っているに違いないこのエルフは、突然コーチネルに1つの命令を飛ばす。下半身の特徴を表していると言えるスカートを自分で持ち上げ、内部を晒せというものであった。それで笑いを取らせろというものであった。しかし、まだ見せていないのに既にエルフは大笑いを始めている。
「なんで……よ……? ふざ……けんなよ」
相手は一応自分と同じ性別とは言え、自分から見せるなんて普通であれば絶対にしたくない行為であるのはコーチネルに限った話では無いだろう。
それを今言えば相手がどのような態度を取ってくるかなんて分かっていたはずだが、どうしても弱気な様子を見せたくなかったのだろう。それとも、必死で対抗する手段を模索していたのだろうか。
「あぁ!? 何? お前殺されたい? 殺されたい? 死にたい? 折角生かしてやろうって心優しいエルフ様が思ってやってたのに? あぁじゃあ死にたいか? 死にたいのか?」
当然エルフはコーチネルの反発に引き下がる訳も無く、わざとらしく煽るように言葉と共に拳銃を揺らしたり、突き刺すように前に押し出したりしながら、本当に反発を続けるのかを訊ねる。引き金を引く指をわざと動かし、発砲を開始する事をちらつかせる事も忘れない。
「分かっ……た……わよ……」
今はもうエルフの言う通りにするしか無いのかもしれない。念力で愛用の剣を操れば死角から刺す事が出来るかもしれないが、どうしても気持ちに力が入らない為、思うように動かせない可能性もあっただろう。
両手で震えながら、前の部分の下の端を掴む。
そして、
――灰色のスカートを恐る恐る持ち上げる……――
「はははははは!!!! いいじゃねえかよピンクのパンツかぁ!!! 意外とストライプとかじゃねぇんだなぁ!!!! ははははは!!!!」
エルフは自分の言いなりの事をしたコーチネルを見ながら、非常に耳障りな大声で笑い声を撒き散らす。まるで周囲に誰かがいる事を想定しているかのような妙な説明口調で今見えている物を口に出す。
しかし、無地に近いデザインに違和感を感じたのか、それともわざと恥ずかしがるような言葉を持ち出したのか、どちらにしても自分で勝手に話を肥大させようとしていたに過ぎなかったが、それに対しても勝手に大笑いを始める。
しかし、コーチネルはスカートの中を自分自身で見せつけた状態で何も言葉を出さなかった。もう茶色の瞳が震えていた。
「もう折角だからパンツも脱げよ! 脱いでノーパンなってアピールしろよ! 戦う女の子のわ~れ――」
―ズドォン!!!
エルフは更に追い詰めてやろうとしたのか、更にもう1つ要求を追加する。震えた瞳を確認した上での思考だったのかもしれないが、下着そのものまで脱ぐように強要し、そして下着の裏の嫌らしい言い方を飛ばそうとした時であった。
銃声のようなものであったが、それが鳴ると同時にエルフは言葉を途切れさせてしまう。
途切れさせたのは、エルフの耳障りな大音声の声だけでは無かった。立っている為に支えとして使っていたであろう両脚の力も、拳銃をコーチネルに向ける為に伸ばしていた右腕の力も、そしてエルフが持つ生命そのものも途切れさせたのが今の銃声らしき音であった。
コーチネルは何が起きたのかが理解出来ず、桃色の下着を露にさせていた両手の力を失わせながら、横に向かって倒れてしまったエルフをただ見下ろすしか出来なかった。
死因は、頭部を何かに貫かれた事であり、頭部を覆っていたローブの側面に見事な穴が開いていた。そこから生々しい真っ赤な血液が流れ出ていた。
「だ……誰……? これやったの……」
元々銃口を向けられていたせいで精神的に追い詰められていたせいで、危機から脱出出来た今であっても、誰がエルフを黙らせてくれたのか、冷静に考えるという事が出来なかった。
冷や汗が流れている事を知ったのは、恐らく発砲した本人が声をかけてきてからだった事だろう。
声自体は、出入口の方から聞こえた。
「オレだよ。お前何追い詰められてんだよあんな女1人如きによぉ?」
やや粗ぶったような声色が特徴の、男ではあるが人間では無い種族の者が自分専用の機械的な拳銃を右手に構えた体勢で言ってきたのだ。
複眼のような形状の黄色を帯びた大型の目を持ち、オールドブルーの体色と、そして装備は白のボトムスと鉄の外観の胸当てだ。肩のプロテクターや脛の装甲等の細かい部分でもそれなりに物々しさが見えるその相手を見て、コーチネルが知らないはずが無かった。
ラストはやっとあの仲間が来てくれる訳ですが、やっぱり少女特有の弱さというか弱点があるので、それを要求されたらもう言われた通りにするしか無いみたいで……。しかしエルフの発言が何だか現実世界の変な不良みたいな喋り方になってたような気がしたけど、あういう台詞を言われた時にどう言い返すかってのを考えるのも結構難しいんですよね。まあ何とか勝利出来てたからいいみたいですけどね。




