第27節 《救世主となりかけた風使い 迫り来るは感情を持たぬ液体生命体》 4/5
今回は5人が全員集まります。なので最初はその場で即席の自己紹介のような展開が入りますが、魔法使いのレフィからすると男性チーム全員が初対面なので戸惑う姿を見せてくれますが、今は魔物が目の前にいる状態なのでゆっくりとやり取りをする時間は与えてもらえません。今回からは少女キャラだけのやりとりから、男女混合のやり取りが再開されます。
球体状のスタンダードな形をした黄色に染まったスライムの魔物
現在は人間の上半身を上部に生やし、そして人間の背中からは遊翼人が持つような羽を生やしている
それは進化の類だったのだろうか。本気で少女2人を潰す為に見せた形状変化だったのか
これから少女2人を最期の世界に向かわせる、そんな計画がスライムの脳裏に浮かんでいたはずだ
突然背後から発射された銃弾。これがスライムの人間状の頭部を粉砕させたのだ
「え? 何いきなり!? 頭破裂したんだけど!?」
青の魔導服で身を包んでいるレフィは、目の前で突然スライムの魔物が生成させていた人間の上半身の頭の部分が砕け散った様子を見逃さず、しかし、何故突如頭部が砕けたのかが分からなかったようだ。
「いや、破裂したのはちゃんとした理由があるわよ? なんか後ろから撃たれてたみたいよ?」
紫の半袖シャツの上に黒の胸部のプロテクターの軽装のコーチネルは頭部が砕けた時に飛来していた物体の存在を目で確認していたらしい。
レフィとは対照的に、コーチネルは冷静に状況を分析していたが、自分達の方を向いていたスライムの魔物の背後から攻撃が入っていた為、背後に誰かがいるのか、気になってしまった可能性もある。
「背後から? よく見えたね。コーチネルって視力いくら?」
人間状の頭部が吹き飛んだ原因を作った物質を見抜いた事にレフィは感心でもしたのか、それでも何故か嫌みにも聞こえるような形で突然視力の話なんかをし始める。
「普通に見えるし、昔から2.0はあるから。ってそんな事どうでもいいからあいつの後ろに誰かいるって事に警戒してよ?」
コーチネルからすれば何かが発砲されたという様子を見抜く事は難しい事では無かったようであるが、聞かれた事はいちいち隠すような事でも無かったからか、一言であっさりと答える。
しかし、スライムの魔物の背後から攻撃が放たれていた為、そこに何かが存在する事を意識するようにレフィに施す。しかし、スライムの本体が邪魔で背後を直接見て確かめる事は出来ないのである。
「はいはい警戒ね。それと一応銃弾が飛んでたのはわたしも見てたからね」
指図をされたと感じたからか、そして歳が近い相手からそれをされてあまり心地良いものが無かったからなのか、しょうがなく受け取ってやるとでも言うような態度ではあったが、レフィでも何かがスライムの頭部を貫いていた様子は目視出来ていたようだ。
誰の仕業なのか、恐らくレフィも気にはしていたと思われるが、人間の上半身を生やした妙な形状のスライムの魔物にこれからどう対抗しようか、行動を起こそうとしたその時であった。
――突然人間の部分の胸部が何者かによって突き破られ……――
相当な勢いを付けた上で、人間状の部位の胴体を背後から突き破った者が現れたのだ。
ドリルを連想させる形状を見せながら、見事に千切られた胴体は支える力が弱くなったのか、背後へとその身体を倒してしまう。しかし、元はスライムの形状であった為、それが致命傷になっていたのかは定かでは無い。倒れた胴体部分は再びスライムの一部に戻るかのように液状化していく。
ドリルのように回転させていた身体を停止させた何者かが姿を鮮明にさせた上で、空中で羽ばたいたまま、対面した少女2人に言葉を渡した。
「さてと……。お前ら、誰だ?」
羽ばたきながらその場で滞空し続けているのは鳥人の男であった。
鳥を思わせる頭部、紺色の羽毛、黄色のアクセントが目立つ黒のコンバットスーツを装備した形だけは人間と同じ形状のその者は少女2人を見下ろしながら、その場で思った事を嘴の口から出した。
「いや、誰って……。いきなり出てきて何その言い方……」
レフィは初対面である以上は、今言われた言葉に対してはこのような言い方しか用意出来なかったようだ。
「もしかして、さっきディマイオとなんかやり取りしてた人?」
コーチネルはレフィとは異なり、翼で滞空をしている鳥人の事を怪しむ事をせず、ふとディマイオと通信をしていた時の事を思い出す。
誰かと出会ったかのようなやり取りを通信機を超えて聞いていた為、該当する人物が丁度今目の前にいるのではと睨んだのかもしれない。
「ディマイオ? あぁあいつの知り合いか。多分それで間違いはねぇと思うけどな。それとあいつもそろそろ来るぞ?」
鳥人の男は名前を出された為、それについて答える為に一度地面に降り立った。
鳥人はディマイオの名前を実際に本人から聞いていた為、その者と言葉を交えていた事は間違い無いと答えるが、交えていた相手達ももうすぐこの場に姿を見せると言った。
「じゃあやり取りしてた相手って事で間違いは無いって事ね。それと、やっぱりもう皆ここに来るって事?」
決して疑うような態度を見せなかったコーチネルであったが、自分にとって敵対関係であったスライムの魔物に派手な一撃を加えていた為、自分達と同じ志なのだと察知出来ていたのだろうか。
当然武器をいつでも振る事が出来るような体勢になる訳でも無く、冷静に話を受け取っていたコーチネルは目の前の鳥人と一緒だったであろう者達の姿が頭に浮かび始めた。
「その通りになるな。あ、来たぞ」
来るのかどうかを聞かれた以上はただ答えるしか無いと感じたようであり、鳥人の男はほぼ一言で済ませてしまう。
そして、まるでタイミングを狙っていたかのように、自分と同行していた者がこの場に現れる事が決まったようでもあった。
――コーチネルの正面が淡く光り出し……――
徐々に実体化するように出現したのは、濃い紫の装束を纏った忍の男であり、銀色を帯びた鉄のフェイスガードや青白い光を帯びた目元がもう本当に戦いの世界でしか生きられないような雰囲気を連想させてくれたかもしれない。しかし、コーチネルの表情は決して凍り付いたようなものでは無く、寧ろ面識がある相手に見せるであろう緩いそれであった。
「はい到着っと。まずはコーチネル、久しぶりって言っとくか?」
実態を現わした全身を完全装備にした忍者の外見の男は、銀髪の少女であるコーチネルと目を合わせるなり、お決まりとして認識しているかのような言葉を渡す。それを言わないと始まらないと考えているのだろうか。
「あ、あぁ、やっぱりガイウスだったんだぁ。一応ディマイオからは通信で聴いてたからさ」
徐々に実体化するように現れる様子は知っていたのだろう。だからやってきた者の正体がガイウスである事にすぐ気付いたのかもしれない。
久々に顔見知りの相手に出会う事が出来たからか、コーチネルの表情が少しだけ緩む。戦う者が2人しかいなかったこの場所で今分かっているだけでも更に2人が追加されたから、戦力の面でも期待出来ると感じたのだろうか。
――しかし、新しくやってきた2人を知らない者もここにはいる――
「ねぇちょっとコーチネルさあ、この2人って誰なの? 恋人の候補?」
レフィはまだ相手を疑っているかのように青の瞳をやや細めながらコーチネルの二の腕辺りを指で突く。
鳥人の男が現れた時から相手が何者なのか疑っていたが、そこに更にもう1人知らない相手が現れたのだから、事情を把握しているであろうコーチネルしか頼る相手がいないのである。
「違うから……。まああたしの仲間の人達。まあこの鳥の亜人の方は初対面だけど」
返答の通りであった。何故恋人であるかを最初に聞いてきたのかを特に深く問い詰めるなんて事もせず、コーチネルは純粋に相手との本当の関係を説明する。それ意外の言い方は無かったようであるが、鳥人の男に関しては今回初めて見たようであり、流石に指を差すのは失礼だと感じていたのか、掌を差し出すように指しながら示した。
「とりあえずだ、おれがあいつに射殺されないで済んだのもおれがコーチネルと知人だったから、なんだぜ?」
忍者の装束を纏っている状態のガイウスはまだここに姿を見せていないあいつに該当する人物を思い浮かべる為か、自身の背後に一瞬視線を向けながら、コーチネルと顔見知りであったからこそ銃弾による惨劇を受けずに済んだと重たい空気を一切感じさせない口調で説明する。
そして、背後に実際にいるのは人間の形状の部分を貫かれたスライムの魔物ではあるが、貫かれた部位を放置する事が出来なかったのか、開いた穴を自己再生させ続けている。今は襲い掛かる事も出来ないのかもしれない。
「あぁなんかディマイオったら結構物騒な態度見せてたんだったっけ……。なんか、ごめんね」
コーチネルはディマイオと通信をしていた時の彼の態度を思い出したようだ。直接姿は見ていなくても、通信の時のあの乱暴とも言える口調を聞けば、対面していた相手に何をしていたのかなんて容易に想像が出来る。そしてまともに謝罪すらしていないであろう事も安易に想像が出来、代わりにと言った形でここで謝った。
落ち込んだような顔はしていなかったが、気まずそうなのは確かであった。
「別に気にした所で何も今の状況変わんねえだろ? いんだよ、済んだ事は」
ガイウスはここで必要以上に責めても無意味な事は分かっていた。ここでは済ませてしまう以外にまともな対策は無いに等しい為、良いと言うしか無かったのである。相手の心情を理解していなかった訳では無いのだから、あの場面で武器を向けられたからと言ってそれを根に持とうとは思わなかったらしい。
「所で、そちらの鳥人の方って、ガイウスの仲間って事でいいんだよね?」
コーチネルはまだ鳥人の男の正体を聞いていなかった為、ガイウスから聞くしか無かった。それをまともに教えてくれるのは恐らくガイウスだけである。
鳥人本人から聞くよりは、面識のあるガイウスが関わっていた方が事がスムーズに進むと思ったのかもしれない。
「まあその通りって事になるな。フィリニオンって覚えてくれ」
一緒にいるのだから仲間として見られても当然であるかのようにガイウスは答えた。
その後に平然と名前を明らかにした上でそのまま言葉を止めた。
「所でお前はコーチネルって言われてたな。そんでその金髪は誰だ?」
名前を明らかにされた方であるフィリニオンは、もう名前を知らされた為、それ以上の自己紹介は自分からは行わなかった。
銀髪の少女の名前はガイウスの言葉からある意味で盗み聞きするような形で聞いていた為、軽い確認だけで済ませると、今度は隣で口を閉じている青い魔導服の少女に目を向けた。
「呼び方が凄い雑ね……。それとわたしはレフィカールって言うの! まあ皆はレフィレフィレフィレフィ言うんだけどさ。一応風使いの魔女っ子――」
「戦闘スタイルは後で見るから今はいいって。ってかあいつおせぇんじゃねえのか?」
まるで自分が口を開く時が来たかのような気分を感じたらしいレフィであったが、自身の地毛の色だけで特徴を付けられた事に対して、なんだか物足りなさによる不満を覚えていたようであるが、まるで自分を無理矢理にでもアピールするかのようにやや強引に自分の名前を自分で明かす。
本来の名前はもう少し長いものであったようだが、いつの間にか略した方が正式な名前であるかのように浸透していたらしい。そして自分は風の魔法を武器に戦う魔法使いである事をアピールしようと、伸ばした指の上に風邪を小さく発生させるが、フィリニオンはそれを見ようとせず、寧ろ言葉で遮ってしまった。
どうやらまだ来ていない者がいるようであり、遅れている事の方がレフィの自己紹介よりも気になってしまったようである。
「いや、ちゃんと聞いて――」
「あ、来たっぽいな。しかも派手に来るぞ」
レフィとしては自分が即席で用意した自己紹介の言葉を最後まで受け取って欲しかったのかもしれないが、それを意味する言葉をまともに受け取ろうとしなかったフィリニオンであった。
そして、空の方から気配を感じたのか、純粋に自分達の所へやってくる事を察知し、そしてそれが普通に現れる訳でも無いという事を把握する。
――残りの1人が空から降りて来る……――
フィリニオンの視線が上を向いていた為、コーチネルも釣られるように上を確認したが、それはもうあまりにも唐突な光景であった。
見覚えがある何者かが空から、地面とほぼ垂直に落下している最中であり、そして何か驚くような言葉の1つすら出す余裕も与えないまま、その何者かは地面へと降り立つ。
かなりの高所から降りて来ていたようにも見えたが、それを感じさせない程に華麗な着地であった。そもそも彼は、人間では無かった。
「さて……ちょい待たせたかコーチネル? まあお前ん事だから悪運で助かってたんだろうけどな」
着地の為に両膝を曲げていたその者は膝を伸ばしながら顔見知りであるコーチネルを真正面から対面しながら、謝罪なのかよく分からないような言い分を見せつけていたが、両手に握っていたのは彼の愛用のメカニカルな拳銃であった。
人間が持つ目とは外観的に大きく異なる昆虫の複眼のような黄色の器官を持ち、そして鉄の胸当てと白のボトムスの間から見える皮膚はオールドブルーを見せている。亜人の男なのは間違い無いが、コーチネルの仲間である事も間違いは無い。
「いきなりあたしがピンチからギリギリ抜け出したんだろ、みたいな言い方しないでよ。でもなんで上から降りてきたの? 何、したの?」
コーチネルはまるで自分が今ここにいるのは、命の危険を偶然の確率ですり抜ける事が出来たからだと疑われていた為、本当はもう少し明るい言葉を期待したかったらしいが、もうそれは叶わない。
多少ながら嫌な表情を浮かべるが、大胆に空から降ってくるかのように降りてきた理由が気になってしまう。
「ほんとはおれの方からも色々聞きてぇ事が多いんだけど、おれがさっきやったのが何かって、あれ見りゃ分かるぜ?」
ディマイオが聞こうとしている事は、恐らくは金髪の魔法使いの事だろう。しかし、自分が知りたい事を聞く前に、自分が何を行なった上で空から降りてきたのかを説明する方が先だったのかもしれない。
ディマイオは親指で自分の背後、つまりはスライムの魔物の方向を差す。見た目としてはまだ穴が空いた胴体を修復している最中であったが、見て何が分かるのか、それはまだ分からなかったはずだ。
「見たら分かるって……、ホントに何した――」
その時であった。純粋な爆音が鳴り響いたのは。コーチネルの質問を爆音が遮った。そして爆音自体はコーチネルの細めな肩を跳び上がらせる。
――音の発生場所はスライムであり……――
ドスンと内部を激しく抉るような爆発音が鳴り響いたその場所は、スライムの人間の形状を作っていた部位であり、そしてその部位の更に細かい部分である頭部で爆発が起きたのだ。
胸部に開いていた穴を修復させていた最中に、今度は頭部を爆破された為、爆発によってスライムの本体の上でバランスを保つ事が出来なくなったのか、折れるように接続部分から真横に倒れてしまう。
「爆発? ディマイオあんた爆弾でも仕掛けたの?」
爆音で一瞬怯んだコーチネルであったが、音の正体が爆発である事を目で確認した後に、自分の目の前に降りてきたディマイオに真相を確かめるべく、質問を投げかけた。
「いっつも一緒に戦ってたんなら分かんだろ? まあ榴弾撃ち込んだってだけだ」
ディマイオは過去に披露した事があったと勘違いしていたのだろうか。一応とでも言うべきか、何を使ったのかをここで説明する。特別な意味がある訳でも無く、ただ対象者に命中した後にその場で破裂するというだけである。勿論実際に破裂させられた側はただでは済まないが。
「お前の派手な運動神経は評価するとしてだ、じゃ、そろそろ真面目に行くとしましょうか? どうせあいつまだくたばらないだろうからな」
それを言ったのはガイウスであった。初対面でありながら空からそのまま降りてきたとしか思わせないような跳躍力をとことん認めていたようであり、
「そうするか。あいつ潰さねぇとオレらぜってぇ返してもらえねぇだろうし。この流れだと」
ディマイオはもう既にガイウスを自分の仲間として認めているのか、協力なら任せろとでも言うかのように、ホルスターにしまい込んでいた拳銃を再び右手に構え直す。
「所で野盗達がそっちに向かってたみたいだけど、奴らってどうしたの? 多分戦ってたはずだけど」
コーチネルは元々この空間に大量にいたはずの野盗の男達を思い出すが、記憶が間違っていなければ男達はディマイオ達の場所へと向かっていたはずである。
本当に戦っていたのかどうかはこの後の返答で分かるはずだ。
「あぁそれか? 全員普通に始末しただけだけどな? それがなんかあったか?」
ディマイオはまるで簡単過ぎる作業を片付けたかのような、苦労や疲労を一切感じさせない口調であっさりと返答してしまう。相手にしていた人数は多かったはずだが、それすらも一切感じさせなかった。
「あ、あぁ……、あっさりやっちゃったんだぁ……」
返す言葉として使う上手な言い回しが思いつかなかったのかもしれない。ディマイオの拳銃の扱いはただ暴力的な外見と言動が売りの野盗達程度なら虫を追い払う程度の簡単な作業となっていたのだろうか。
コーチネルとしてはガイウスは兎も角、初対面であるフィリニオンの戦闘能力も実際に確認してみたい気持ちが沸き上がったのは間違い無い。
「あんな見た目だけの連中に負けてたら死に恥じゃねえかよ」
ディマイオは野盗を特別強い存在とも、怖い相手とも思っていないようであり、これから襲って来るであろうスライムの魔物に備えてか、左手にも拳銃を装備し始める。
そして、恐らくは人間の姿をしていない魔物達と戦う身分の者が荒くれた人間程度に怖がっていては務まらないとも意識している可能性もある。
「死に恥って……。あ、一応だけどこの娘、レフィっていうから覚えといて!」
負ける事を一切前提に考えていないかのような言い分と、そして恥そのものに対する言い方にまたもや言葉が思いつかなかったらしいコーチネルであるが、隣にいる魔法使いの少女の事を話していなかった為、最低でも名前だけは知ってもらおうと、レフィを指差しながらディマイオに記憶に留めてもらうように催促する。
「そういう事だから! 貴方言葉遣いも態度も荒れてるっぽいけど悪者じゃなさそうだから、宜しく!」
レフィにしては手短なその紹介をあっさりと認めたかのように、コーチネルに続きながらディマイオに一言渡したが、目の前にスライムの魔物がいるという状況を理解しているからこそのものだったかもしれない。
そして、第一印象の話だったのか、特に言葉の使い方はレフィにとっては穏やかに感じられなかったようであり、それでも自分にとって敵では無い事は分かっていた為、直接手は伸ばさない形で握手を求めるかのような笑みを送った。
「お前オレん事そんな風に評価してんのか……?」
恐らくはディマイオも自分が決して優しい言葉遣いをしていないという自覚はしているはずだが、直接、そしてほぼ真っ直ぐに言われると何か突き刺さるものを感じるのも無理は無いだろう。
最低限、野盗達と同じような悪人扱いだけはしていない事だけはまだ救いだったのかもしれないが、色々と荒れていると言われれば素直に喜ぶのは無理なはずだ。
「いや、あんたのその喋り方見たら誰だってそう思うはずだけどね?」
隣からはコーチネルの正論に近い言葉がやってくる。
とは言え、ディマイオの性格を考えると敬語等のような多少相手より下になるような喋り方なんて無理だと読んではいたかもしれないが、実際に本能そのままで喋りさえすれば相手からは予想通りの結果が出されるものである。
「でもわたしフォローしたでしょ? 荒れてて性格悪そうだけど悪者じゃなさそうだって、言ったじゃん?」
レフィはディマイオを突き放すつもりも、否定で追い詰めるつもりも無かったようであり、味方として認めていたのは事実だったようだ。
所謂短所と長所を併せ持った相手であると言いたかったようであるが、レフィの笑顔が伝わったかどうか。
「意味分かんねぇ言い方しやがって。それに性格悪りぃって何付け足して……ってもう遊んでる場合じゃねえわ。あいつもう復元されちまってるぞ」
貶しているのか褒めているのかの判断に困るような言い方をされていたディマイオであったが、スライムの魔物が損傷した身体を復元させていた事に気付いた為、いちいち言い返すのをその場でやめてしまう。
もう時機に両手に持った拳銃が吠える時が来るのだろうか。
「うわっ、ホントだ。まあスライムだから元に戻るのも簡単って訳ね」
先程まではディマイオとのやり取りに意識を向けていた為、スライムの状態をまともに把握していなかったコーチネルであったが、スライムの話に切り替えようとしたディマイオに続くように視線をスライムの方に向けると、そこには胴体の穴も裂傷も全てを自己再生させてしまっていた相手の姿があり、そして元々身体を復元させる性質に特化している事をコーチネルも知っていたからか、寧ろ単調な攻撃だけでは簡単に終わらせるなんて無理だというのは分かっていたようだ。
「なんか随分盛り上がってたみたいだけど、あいつも仲間に入れて欲しいみたいだぞ?」
ガイウスは、ディマイオと少女2人のやり取りをそこまで遠くも無い距離で傍観していたが、あまり表情を読み取る事が出来ないはずのスライムを見て、どことなくガイウスはスライムの心情を想像してみたようである。その場で歩き出す様子も、前進させる様子も見せておらず、立ち止まってはいたが、こちらを見下ろしているのは確かであった。
尤も、本当に見ているかどうかをガイウス達側が判断出来るのは、人間のような形状をさせている部分が自分達と向き合っているからなのだが。
「まずはあの変な化けモンの始末だ。それからここで何やってんのか調べるってプランでいんじゃねえのか?」
まるで向かってくる事を待っているかのようにその場に留まり続けているスライムの魔物の全体像を目視しながら、ディマイオは自分の口では言ったものの本当に弱点らしい弱点が存在するのかという疑いも持っていたかもしれない。
どちらにしても、ここで野盗達がどのような活動をしていたのか等の調査を安全に行うにはスライムの魔物を片付ける事が必要なのは分かっていたようだ。
「あいつ殺した瞬間にここが崩壊する、とか小細工が無けりゃの話にもなるけどな」
フィリニオンは勝利を収めた後に発生するであろう災害を勝手に思い浮かべ、それが事実になった時に自分達に何が起こるかもうっすら考えてしまったようだが、寧ろそうなった方が笑い話になるかのような態度を見せていた。今もただ喋っているだけで笑いが零れそうになっていた。
「崩壊とか一昔の魔王の城とかじゃないんだから変な想像とかしないでよね」
コーチネルは小さい頃に読んだフィクションの話等を思い出したのだろうか。確か城の主に勝利をするとどういう訳か拠点である城が崩れるという展開をふと思い出したのかもしれないが、どのような原理で崩れるのかは正直今でも分かっていない事である。
しかし、この空間もスライムの魔物が滅んだ時に崩壊が始まると思うと、それではここの野盗達の目的を調査する事が出来なくなってしまう為、都合が悪くなるとしか言えなかった。勿論崩壊が実際に始まるとは思えなかったが。
「崩壊したら逃げればいいだけの話じゃん? ま、わたしとしてはそこの男達3人の実力を見るのが楽しみなんだけどね!」
レフィからすると崩壊が始まったのであればただ脱出をすれば良いと考えているようである。逃げ足に自信がある証拠なのかもしれないが、この場での調査とかは考えていないのだろうか。それとも、既に調べる事は調べているという証明でもあったのだろうか。
そして今は倒した後の事よりも、初めて出会った3人の男達の戦う姿を期待していたようであり、そして自分の魔力もここで存分に見せつける事で実力を認めさせてやろうというある種の野望も心で燃え上がらせていた可能性もある。
言葉を発する事をしなくなったスライムは、人間の部位の方でまるで槍のような物体を手元に生成させていた。
本格的なスライムの魔物との戦闘が始まりますが、たかがスライムとは言っても、RPGで出るような奴と、実際にこうやって対面するスライムとでは雰囲気は異なると思いますし、奴らも本気を出すとやっぱり消化液とかで閉じ込めた相手を溶かしてしまうみたいですし、そして今回登場してるスライムは戦いやすいように姿をそれなりに変形させた上で襲い掛かってきます。複雑な動きを見せる奴を小説で表現するのはなかなか難しいですが、作中のキャラ達には頑張ってもらいたいですね。




