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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第26節 《野盗の巣窟への進撃 要塞の中は異形の亜空間》 3/5

今回はとある少女のエルフの救助劇が始まると思います。ただ、今回は救助される側のエルフ達からすると名前の分からない少女という事になるので、まあ前回の話で名前は出てたとは思いますが、今回メインで活躍してくれる銀髪の少女の名前は敢えてここでは出されない形で描写されます。






          男達の臭気が充満した小屋がそこに建てられていた


          男達は互いに異臭を出している事に気付いているのだろうか


          筋肉が膨れ上がった身体に(ふんどし)だけを付けた奇妙な姿


          人間のようだが、本当は人間とは異なる種族なのかもしれない


          しかし、野太い声色や高圧的な態度は一部の野蛮な人間の男性とまるで同じ


          何とかして、目の前の牢屋に幽閉された女性達を助け出したい






「う……うわぁ! ちょ……ビックリした……。あぁそっか、捕まってる人いたんだった……」


 本当であれば、捕らわれている者の存在は初めから知っていたはずだった少女だが、筒状の容器に入った金色の液体に集中してしまっていた為、一時的に捕らわれていた者達の存在を忘れていたようだ。


 弱々しい声で話しかけられたものの、唐突に声が耳に入った為、もしかするとこの空間を取り囲んでいる男達の仲間のものだと錯覚もしていたのかもしれない。


 一度飛び上がってしまった自分の物理的な身体と、そして気持ちを落ち着かせた上で、牢屋の中にいる女性達に改めて声をかける。




「それと、あたしはそうね。貴方達の事助ける為に来たの。あんな汚くて臭い男達に捕まってたらやでしょ?」


 格子を挟んで、少女は格子の奥にいる金髪の長い髪の女性と目を合わせながら、自分が来た目的と、そして男どもへの嫌味も言ってやった。荒れた髪からは尖った耳が出ており、恐らくはエルフの類として確認出来るが、長い間捕らわれていたからか、襤褸(ぼろ)切れの簡素で粗末な服自体は勿論、肌の方も随分と薄汚れてしまっていた。


 複数いた捕らわれのエルフの女性達は少女の姿を見るなり、最初の1人の隣に付くような形で格子の目の前に弱々しい足取りでやってくる。




「私達、助かるんですか?」


 恐らくは衰弱もしている事だろう。乱れた髪を見るとどれだけの時間をこの牢屋で過ごしてきたのかが分かるような気がしたが、今は少しでも力が湧いてくれていたであろう捕らわれた女性と純粋に目を合わせる事に専念する。


「早くここ開けてください。もうあんな男達の相手したくないです」


 エルフと思われる、この捕らわれた女性達は自分達がこれから自由の身にしてもらえると確信したのかもしれない。全てを少女に捧げるような気持ちすら抱いていたかもしれないエルフらしき女性は思わず男達に過去にされた事を思い出してしまったらしい。


 しかし、どのような形で相手をしたのだろうか。


「ま、まあ大丈夫だからそんなに急かさないでよ。ただ普通に歩いて脱出……ってのはちょっと危ないから、あたしちょっと方法持ってきてるんだよね」


 流石に少女だってここですぐに女性達の思い通りの脱出を実行させるというのは難しい話だろう。一度少女は小屋の扉に茶色の瞳を向けたが、一緒に歩きながら要塞の外まで向かうには危険度が高すぎると判断したらしい。言葉の通り、危ないようであるが、どうやら歩いて逃げるよりも効率の良い手段が少女にはあったらしい。




「何を……するつもりですか?」


 エルフの女性のその言い方だと、まるで自分が何か良くない事をされる事を悟っているかのような形に聞こえてしまうかもしれないが、少女は当然のように捕らわれたエルフ達が嫌がる事をしないはずである。


「ざっくり説明するとワープ装置みたいなもの使うから。外の治安局の所に転送出来るようにしてるから、あたしがこれから皆の事を送るから、もう助かったと思ってね」


 少女はエルフの者達から疑われているという解釈をしなかったようだ。助ける為の手段を率直に聞かれているものと判断した少女は、ワープ装置という存在を口に出し、そして自身の背後を指差しながら説明を続けた。背後を指したのは、要塞の外にある治安局のある場所を表現する為だったのだろう。


 何か道具を持参していたようであり、もうここまで来たからにはエルフの女性達の救助を必ず成功させようと自信まで抱き始めている事だろう。助ける為に来たのだから、成功させなければ来た意味が無くなるとも言えるが。




「その前にまずはこの格子何とかしないといけないから……。鍵は……壊しちゃえ!」


 少女は格子の出入り口に目を向けるが、それは外見だけはそれなりに大きく、そして長い間使っていたからか、錆が見えた錠前(じょうまえ)が格子の開閉を塞いでいたのを確認する。


 だが、少女はまるでそれを自分の障害だと認識していないかのように、腰に装備していた鞘から短剣を取り出し、それを錠前目掛けて斬り付ける。


 電撃の魔力が込められていたのか、刃自体の質量と、そして電撃による威力の増加がされたのか、錠前はまるで溶かされるように鉄の部分が切断された。




――錠前が砕け、格子の出入り口が自由になる――




 小規模に煙を吐きながら錠前が無機質な木造の床に落下する。


 格子が開くのを確認すると、少女はエルフの女性達の安否を確認する為でもあったのか、自分も牢屋の中に入る。女性達には力が感じられなかった為、もしかすると自力ではもう牢屋から出てくる事が不可能であった可能性もあった為、自分が何かしら身体を支える等の作業が必要になる事を意識していたのだろう。


 入ると男達の放っていたであろう体臭とはまた異なる異臭が漂ってきたが、これは無理矢理に閉じ込められた結果のものであった為、少女はそれに対しては責めはしないのは勿論、一切口にも態度にも出さないように決めていた事だろう。


「さてと、さっさとこんな気持ち悪い男どもがウロウロしてるとこから脱出しちゃおうか。じゃ、今から準備するね」


 救助の為にこの小屋へと赴いた銀髪の少女は、紫の半袖シャツの左の袖を右手で軽く捲り上げ、二の腕に袖で隠すように装着させていたリングに右手を添えた。するとリングが光に包まれ、光がそのまま右手に移り、右手が光に包まれた状態になる。




「あの……それをどうするんですか?」


 エルフの女性からすると少女のしている事が理解出来なかった為、純粋に素朴な質問として聞くしか無かっただろう。リング自体に不思議な力が備わっている事は何となく理解出来ていたのかもしれないが、右手に宿した光で何をするのかまでは想像が出来なかったはずだ。


「これ? えっとね、こうやって光で纏った、ってか包まれた手を相手に向けてしばらく待つと……ん? あっちょっとごめん! 誰か来た!」


 銀髪の少女はまるで自慢をするかのように右手に宿した赤い光を軽く振り回しながらエルフの女性達に見せつける。それから本来の作業に戻る為に、少女は光を宿している右手をエルフの女性達の内の1人に向ける。


 どうやら手を向けた相手に魔力を与えるようであったが、扉の方から軋むような音が聞こえた為、少女はすぐに一度牢屋から一目散に抜け出し、そして壁の隅に無造作に詰まれていた木箱の影に身を潜める。


 何とか木箱と木箱の隙間に身体を潜らせるが、身体が細い影響もあったのか、引っかかる事も無く、無事に木箱の影に隠れる事に成功するが、丁度その時に扉も開かれた。




「めんどくせぇなぁ……。1人連れて来いって、別にこっからじゃねえでいいじゃねえかよ」


 特徴的な外見の男、太ったような肉体と(ふんどし)1つで身を包んだ姿が小屋に入ってきた、というよりは戻ってきたと表現すべきだろうか。


 どうやら外で誰でも良いから牢屋に入れているエルフの女性を1人連れてくるように命令をされたようだ。独り言は男が何をするのかを明確に説明していた。




(ヤバいかも……。鍵壊されてるって知ったらヤバいじゃん……)


 錠前を破壊した少女は格子の扉に手を伸ばされる事だけはして欲しくなかったのだが、元々ここに戻ってきた理由がエルフの女性を最低1人連れて行くというものであったのだから、格子を開く行為を取ろうとしていたのは当たり前の話であるだろう。


 戻ってきた男は真っ直ぐに格子の扉へと向かっていたが、まだ錠前が破壊されている事に気付いてはいないようだ。




「あぁめんどくせぇなぁ……」


 嫌々な気持ちで戻ってきたのか、声の方にも、そして歩く速度の方にもやる気が感じられなかったが、扉に近づいている事は事実だ。目の前にまで来られてしまえば確実に錠前が破壊されている事に気付かれてしまう。同時に誰かがここに来たという事も疑われてしまう事になるだろう。


(どうしよ……。もう諦めるか……。戦うしか無いかな……)


 男は意外と鈍かったようで、未だに格子の錠前が壊されている事に気付いていなかったが、どちらにしても格子に辿り着いてしまえば、もう少女は諦めるしか無くなってしまうだろう。それとも、強行手段に出るべきか。


 しかし、少女が祈るような思いで男の足が止まる事を願っていると、明らかに小屋の外から鳴り響いたであろう轟音が響いた。一瞬この小屋自体も激しく揺れたが、少女は悲鳴を飛ばしそうになったのを堪えた。




――突然小屋の外から妙な爆発音が響き……――




「あぁ? 爆発か? 誰か実験でも失敗したのか?」


 もう少しで男は格子の出入口に到着してしまう所であったが、男の意識はすぐに小屋の外から鈍く響いた爆音に向いた。もう格子の事を考えている余裕等無かった。


 爆発の心当たりがあったのだろうか、何が原因だったのかを想像していたのかもしれないが、この小屋の出入り口にまで戻りながら爆心地であるだろう方向を眺めていると、他の同じ格好をした男に声を浴びせられた。




「おいお前呑気に何やってんだよ!? 敵だよ! 敵が攻め込んできたぞ!」


 別の男からすると、小屋からエルフを連れ出そうとしていた男がただのんびりと小屋の出入り口で立っているだけのようにしか見えなかったのだろう。だからこそ、敵対者が現れたのだから気持ちを引き締めるように怒鳴るように伝えてきたのだろう。


 伝えてきた男の右手には大振りの斧が持たれており、いつでも敵対者に致命傷を与える事が出来るであろう体勢を作っていた。


「何だって!? でも俺はここの担当にエルフ連れて来いって言われたんだぞ!」


 小屋の中から出ていた男は爆発の正体を知るや驚いた様子を見せるが、しかしこの男にはエルフを連れるという役割を任せられていた為、それを放棄する事は出来なかったようだ。




「今は後だ! まずは侵入してきた奴を始末するのが先だ! 皆向かってるとこだぞ!」


 この空間では男達のルールがあるのだろうか。敵対者が来た時は必ず排除を優先にしなければいけないのかもしれない。まるでここでの規則に従うかのように、小屋に戻ってきていた男は気持ちを切り替え、今自分がしなければいけない事をしようと、声を荒げる。


「分かったぜ! 久々に腕が鳴るぜ!」


 元々はエルフを連れてくるように命じられていた事で苛々が心に灯っていたのかもしれない。しかし、男は武器を持っておらず、それは小屋の内部に設置されていたらしく、再び小屋の中へと入っていく。




(あいつ行くのか出るのかどっちなのよ……)


 隠れていた銀髪の少女は男が小屋から離れてくれる事を期待していたのだが、再び小屋の内部に戻ってきた為、希望から再び絶望へと変わってしまうと同時に、どちらにするかをはっきりとさせない事によって苛々すら溜まり込んでしまったようだ。


 しかし、ここで声を出す訳にはいかない。




――しかし、あっさりと男はいなくなってしまった――




 どうやら出入口のすぐ横に武器を壁に立て掛けていたようであり、斧を右手に持つなり、あっさりと小屋の外へと走り去ってしまう。


 あっさりとはしていたが、それでも小屋から出て行ってくれた事には変わりが無かった為、少女はここで1つの安心を抱く事が出来た。爆発の原因も少しは気になるが、まずはエルフの女性達をワープ装置で転送するのが先である。物陰として利用していた複数の木箱の隙間から抜けるなり、再び格子の中へと少女は入っていく。


「とりあえずじっとしててくれてありがと! おかげでさっきの気持ち悪い男にバレなくて済んだし」


 牢屋に入った少女はまずはエルフ達も静かにしてくれていた事に対して礼を言った。下手に動き回ったり、錠前の壊れた出入口を下手に触ったりしていてはあの監視の男に気付かれてしまっていた可能性があっただろう。銀髪の少女は再び左腕の袖を捲り上げ、右手に光を宿そうとする。


「やっとここから解放されるんですね」


 エルフの女性の1人がこれからワープの対象にされる事を意識した上で、ワープされた時こそが自分の自由が保障されるのだと、何故かここではどこか淡々としたような言い方をさせていた。




「まあそうね。そろそろワープが発動する頃だからもうちょっと待ってね。これちょっと時間かかるの」


 銀髪の少女は右手をまずはエルフの女性の1人だけに向けながら、まるで頭の中で何かを念じるかのように茶色の瞳を閉じる。転送もあっさりと済むような簡単な原理では無いようであり、どうしても精神を集中させる必要もあったようである。


「所で、お姉さんなかなか綺麗な脚してますね。羨ましい……」


 銀髪の少女は目を閉じていた為、他のエルフ達がどのような行動を取っているのかを目視する事は出来なかった。その中で、まだ転送の対象にされていなかった他のエルフが何やら銀髪の少女の傍らにしゃがみ込んで、少女の灰色のスカートから綺麗に伸びたと表現しても間違いは無いであろう太腿を眺めていた。


 元々幽閉されていたせいで瞳には生気が灯っていなかったはずだが、何故か少女の脚を眺めている時だけは、瞳に生気が灯るというよりは、まるで獲物を見つけた肉食獣のような目つきを作ったと言った方が良かったかもしれない。そのような目つきを見せていた。




――あまりにも妙過ぎるそれを聞いた少女は勿論……――




「ん? ちょっと何やってんの? 今集中してんだから邪魔しないで」


 エルフは人間と外見こそは似ているが、思考までは完全に同じという訳では無い為、興味の対象も人間とは異なるのだと言う事はこの銀髪の少女も分かっていた事だろう。しかし、自分の脚に興味を持つエルフに何か違和感を感じたのは、それが事の始まりでもあった事はまだ理解していなかったはずだ。




「ふふふ……、その脚……素敵……」


 見つめていたエルフは少女の注意が耳に入っていないかのように、少女の色白な太腿を凝視していたが、両腕を密かに動かしており、そしてそれは少女の脚に接触する。


 それは触るという生温いものでは無く、無理矢理に抱き抱えると言った方が正解だっただろう。




――持ち上げるように、エルフは少女の脚に掴み掛り……――






エルフが出るシーンになりましたけど、多分いくら美貌が特徴の種族とは言っても何日も監禁なんかされてたら勿論汚れて酷い見た目にもなってしまうんでしょうね。それは生きてる以上はしょうがないんでしょうけど、だけど少女は助ける為にやってきたので今はエルフ達の外見を気にしてる余裕は無いはずです。まあでも後半がちょっと怪しかったですが……。

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