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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第26節 《野盗の巣窟への進撃 要塞の中は異形の亜空間》 2/5

今回はこの物語のかなり序盤に登場したとある少女キャラが再び登場してくれます。既に要塞の奥に侵入した先から連絡をしてくる形にはなりますが、間が開いてしまったキャラの場合は過去の話の時とキャラ設定がずれないようにしないといけないのでその辺が多少苦労しましたが、何とかブレないように描けてたと信じたい所です。


そして後半はちょっとその少女キャラメインの視点になると思います。









           無機質な石造りの巨大な要塞


           これから内部へと3人は突入を試みる


           外見から想像される内装は、恐らく3人が想像するものとは一致しない


           しかし、内部に人(さら)いを犯した野盗がいるのは確か


           これらを殲滅する為にも、内部構造で躊躇している余裕は無いのだ










 要塞へと繋がる扉を左右に開く形で開いたディマイオと、そしてそれに続くガイウスとフィリニオン。


 扉を潜った瞬間に一気に外の青空が一変するかのような感覚を覚えさせられる。扉を境目に外の青い空の背景と、要塞の内部のこの2つが入り混じる事を拒絶するかのように、一気に周囲が後方へ流れるように変貌してしまう。


 やがて3人は内部の構造を目の当たりにする事となるが、当然遊びに来た訳では無いのだから、リアクションはそこまで大層なものでは無い。




「なるほど、な。こりゃ確かに変な空間って言い方がしっくり来るだろうな」


 ガイウスはまず要塞の壁の構造及び、天井と言うべきなのか、上部の作りを見るなり単刀直入な気持ちを口から漏らす。壁はまるで液体を固めて作ったかのような異形の造りとなっており、それが通路を作り上げている。床も壁も全てが固められた液体である。


 そして本来は室内であるのだから見上げれば必ず天井が視界に入るはずであるが、広がっていたのは星々が無数という言葉ですら生温いのでは無いかと思えてしまう程に点在する夜空であった。そもそも外はまだ昼間であったはず。何もかもがこの空間ではおかしい事になっている。


「随分気持ち悪りぃ壁だなおい。樹液が固まったやつかこれ? ってかなんで空もなんか夜になってんだよ」


 フィリニオンはさり気無く液体が固まって出来上がったような造りの壁を手で触ってみたが、心地良さの感じられない滑らかさが伝わってきた。樹液のようにも見えたようだが、上に視界を向けるとまた違う気持ちが現れた。星々からどことなく漂う美しさに関心する訳も無く、ただ空が暗い事だけに気が向けられていた。


 しかし、空を見れば夜である事は理解出来るが、それにしては周囲が暗くなっておらず、相手の姿も周囲の壁や床も太陽等の光に照らされているかのようにはっきりと映り続けている。




「こんな変なとこにいたら頭までイッちまいそうになりそうだぜ。さてとまずコーチネルの奴に会いに行くか。あいつどこいんだろうな」


 ディマイオもこの空間では神秘的だとか、ロマンチックだとか、呑気な感想を出すつもりは無かったようで、寧ろ外とあまりにも変化が激し過ぎる異形の空間のせいで頭の整理が出来なくなりそうになっていた様子でもあった。それでも、この要塞でまず最初にすべき事を見落としてはいなかった。


 正面を見るが、やはり樹液で作られたような壁や床が伸びているだけである。




「それって通信機で聴くのは無理なのか? こんな場所でも電波は効くだろ?」


 ガイウスも通信機の機能は理解している事だろう。わざわざ対面をしなくても、今この場所で起動させた上で場所を聞いてしまう方が効率的では無いかと訊ねる。要塞の外にいた時も内部にいるであろうコーチネルと連絡を取り合う事が出来ていたのだから、電波が繋がらないという事はありえないはずだ。


「おいちょい待て。喋ってる場合じゃねえかもしんねぇぞ。誰か来るぞ」


 フィリニオンは物陰に何者かが隠れている事に気付き、通信機で連絡を取っている場合でも、通信機を使う提案を出している余裕は無いかもしれないと2人に伝える。


 形は人間だったであろうその隠れている何者かの頭部がフィリニオンにしっかりと目撃されていたのだ。普段から上空から敵対者を見つけながら戦う性質上、些細な部分にも眼はしっかりと動くのだ。




「あぁ? 敵か? どこだよ、あっちか?」


 ディマイオは一度通信機の使用を中断し、敵の存在を教えてきたフィリニオンに顔を向けるが、フィリニオンは入り口から真っ直ぐと続く通路の奥を見つめていた為、ディマイオもすぐに通路の奥に視線と顔を向けさせる。同時に装備していたハンドガンも右手で取り出し、いつでも急所を狙い撃ち出来るような状態にする。


「こいつが言うには向こうみたいだが、多分あっち以外にもいるだろうな」


 ガイウスもフィリニオンの指していた方向は把握していたが、そこ以外からも敵の気配がある事に気付いていた。


 天井は夜空のような絵が広がっているのでは無く、本当に無限の空間が広がっていたらしく、壁の上を伝いながら近寄ってくる何かの存在をすぐに察知する。




――上から飛び掛かってくる者の気配を感じたガイウスは……――




「ほら、そこからもな!!」


 ガイウスは魔力で実体化させた刀を、人間の形をしていたであろう敵対者に一撃を与える。縦に振った刀はそのまま相手の顔面から下腹部まで切り裂いてしまうが、それは悲鳴1つ上げる事をしなかった。


 それ所か、まるで溶けるように地面へと崩れ落ち、そしてよく見ればそれは人間の形をしているだけであり、実際は緑の液体がそのまま人間の形を作っていただけだった。




「なんだそいつ? スライムか?」


 ディマイオは地面の中へと吸い込まれるように溶けていく元は人間の形状をしていた敵対者の元へと歩み寄る。もう液体でしか無いとしか言えないような状態のそれを見下ろしながら、液体状の肉体で有名であるであろう魔物の名前を出した。


「見た目からしたら案外そうかもしんないな。まさか周辺こいつらだらけか?」


 ガイウスはもうスライムのような魔物では無く、スライムそのものが人型に化けた上で自分達に襲い掛かろうとしているとしか考える事が出来なかった。そして今襲ってきた個体だけで話が終わるとも思っておらず、自分達は今は囲まれているのでは無いかと警戒する。


 目を左右に動かしながら、最低限左右だけをその場で意識した。




「もうスライムって事でいいじゃねえかよ。それとあそこにいる奴ん事忘れてねぇだろうなぁ?」


 フィリニオンも今自分達に向かってきた魔物をスライムとして確定させるつもりでいるようだ。しかし、今始末したのはフィリニオンが最初に認識していた相手では無い。通路の奥で様子を窺うように物陰に隠れていた個体の事をまだ忘れていなかった。


 2人よりも前に歩き出たフィリニオンは双剣として扱っている短剣を右手に取り出し、本来の使い方をその場で発揮させる。




――前に出るなり、双剣の片方をその場で振り降ろし……――




 得意の遠距離攻撃だったであろう衝撃波を刃から発生させ、それを隠れていた個体に命中させる。


 衝撃波は柱をも貫通させ、隠れていた個体の恐らくは首元辺りなのだろうか、命中させたその次は人型の魔物をそのまま倒れさせる。


 柱から姿を見せるように倒れ込んだその個体も、やはり緑の液体そのもので作られた存在であり、先程の個体と同じように溶ける形で消滅していった。




「なんかここら辺はスライム連中ばっかに見えるな。ザコだからどうでもいいけどな」


 きっとこの通路を進めば再び人間の形状をさせたスライムの魔物が現れるだろうと予想するフィリニオンだが、衝撃波の一撃で簡単に崩れ落ちたあの個体の耐久力の低さを思い出すと、例え束になって襲ってきたとしても怖がる必要は無いとしか思っていない。


 肩に担ぐように右手の短剣を肩に乗せながら通路を、先頭に立って歩き始める。


「多分また攻められる訳か。所でディマイオ、あんな程度の奴らなら連絡する余裕ぐらいあんじゃねえのか?」


 ガイウスもこれでスライムの脅威が収まったとは思っていない。


 そして、スライムの弱さを実感したタイミングで、ディマイオに通信機を使うなら今の内では無いかと話す。歩きながらでも連絡を取り合う事は出来るはずである為、まだ追い詰められるような状況に無い今がチャンスであるはずだ。




「じゃ、悪りぃな。させてもらうわ」


 歩行しながら、ディマイオは左の耳元に装着させている通信機を左手で触りながらコーチネルへと繋げようとする。


 繋がった事を確認する為なのか、歩きながらも意識を通信機の奥へと集中させるかのように一時的に無言となる。




「何となくあれだな。やり取りしてる最中に襲われて通信が切れるとこが想像出来たけど、気のせいだったらいいな」


 通信機を触っているディマイオを後ろから見ていたガイウスは、この後の展開をイメージしたようだが、それが現実のものになるかどうかは分からないだろう。本当にそうなれば、それはコーチネルの危機そのものとなってしまう。


「知らねぇよそんなもん。それに危ねぇ時に応答なんかしねぇだろ」


 フィリニオンはガイウスの言っている事が理解出来なかったようだ。何故通信の最中にまるでタイミングを狙うかのように危機がわざわざやってくる必要があるのかが分からなかったらしい。


 そして、目の前に本当に身の危険が迫っているのであれば通信に答える余裕が無いはずであると言い返す。




「ベタ過ぎたか? 反応冷えてるなぁ」


 もしかするとこの異様な空間から放たれているであろう邪気を紛らわす為にガイウスは面白い事でもぼやいたのかもしれないが、思ったような反応を貰えず、この場に合わなかったのかと少しばかり反省をする事にしたようだ。




――通信が繋がったのか、ディマイオから声が再び出る――




「おれだ。今これからお前のいるとこにおれらで行くから、場所分かるか?」


 通信が繋がった相手に対し、ディマイオは援護に向かうからどこにいるのかを教えるように促す。今は歩きながらでいるが、それが正しい方向へと進んでいるのかは分からない。




「思ったけど仮に場所聞いたとしてこんな場所じゃ道案内なんか出来んのか? 口だけで」


 フィリニオンはこの樹液が通路を作っている似たような背景が続くこの場所で道案内が出来るのか疑問に感じ始める。


 特徴のある場所を目印にしようにも、特徴そのものを探す事自体が困難なのがこの空間である。通信で相手の場所を聞く事は出来ても、自分達の足で相手の場所へ到達する事等、出来るのだろうか。


「こんなよく分かんねえ地形だとどこを曲がってとかそんな説明は無理だよな」


 ガイウスは何となく左右を見渡したが、樹液で作られた壁には色の違い等の特徴が無いに等しく、周囲の風景を当てにしながら進んだとしても、実際に進んだという実感すら湧かない可能性もある場所である。言葉での説明がここで通用するのか、ガイウスにとっても疑問の話だ。




「地下にお前いんのか? こんな場所で階段なんかあんのか?」


 ディマイオは通信機の先にいるコーチネルの居場所を聞いていたようである。地下と言う事は移動の手段は階段という考えが先に出てきたようであり、そしてこの樹液で作られたような不思議な空間に律儀に階段が存在するのかどうかを聞いてしまう。




「ワープ装置か? そんなもんで下に行くのか。それどこにあんだよ?」


 階段は設置されていないらしい。異なる方法で進むようだが、ワープ装置を使うにしても、今度はそれがどこにあるのかを聞く必要があるだろう。


 聞けば場所の説明されるだろうと期待をしているのか、ディマイオは装置の存在を知った後で次は場所を聞き出そうとする。ただ通信機を通じて話しているだけでは無く、適度に左右を確認しながら進んでいる為、周囲への配慮を怠っている訳では無い。




「ワープで行ったんだったら地下かどうかの判断なんか出来ねぇと思うけど……なんか来やがったな」


 フィリニオンもワープの特徴は理解しているようであったが、その場で特定の場所へと移動させられるのであればそれが自分が今いる場所から上へ行ったのか、それとも下へ進んだのかの判断が出来ない事も想像が出来ていた。


 もしかすると何か特殊な方法で判断が出来ていたのかもしれないが、深く考える間も与えられず、天井が無かったのであろう隣の部屋の壁から緑の色を帯びた人型の敵対者が這い上がってくる。


「元々スライム塗れの場所なはずだから、来られるのは当たり前か。とりあえずおれらで適当に始末しとくか。今は」


 ガイウスは元々ここにいるだけで敵達に囲まれているという前提で歩いていたから、壁の上からスライムの化け物が現れた所で、もう今頃驚いたりはしない。ただ、その場で斬り付けながら前に進むだけである。




――その一方では、ディマイオは通信を途切れさせる気持ちになれずにいたが――




「まずは合流優先で考えとけよ? あんまり突っ込まれて、捕まったりでもしたらめんどくせぇし」


 これはディマイオなりのコーチネルを気遣った言葉なのだろうか。単独で無暗に行動に走った結果、敵達によって囚われの身となってしまえば言葉の通りになってしまうはずだ。聞き方によっては余計な労力を救出という形で使いたくないという否定にもなるし、大事な仲間に危害が入る様子を直視したくないという気持ちの表現にもなるはずだ。


 優先にしてほしいのは、自分達が来るまで出来るだけ安全な場所で待機してもらう事だったようだ。




「おれらんとこは平気だ。3人だぜ? 喋りながら銃撃で普通に余裕だって」


 コーチネルの方からも心配の声をかけられたのかもしれない。しかし、ディマイオ達は彼も含めた上で3人いるのである。そしてディマイオも別の事に意識を向けながらも愛用の拳銃を扱う事には慣れているのだから、尚更やられる理由は無いと通信機超しに話す。




「場所の説明出来ねぇのか? 教えられたらすぐそこ行くんだけどよ」


 ディマイオは真正面から道を塞ぐように現れた人型のスライム2体を軽々と1発ずつ命中させて絶命させながら、道案内を求めるが、要求を相手が答えてくれるのだろうか。そして、口で説明をする事なんて出来るのだろうか。ここは特徴の薄い外観の世界である為、口ではそう簡単には説明が出来ないはずだ。




「青い光……か? そんなもん、って意外とあったわ。まあそこ行きゃワープ出来るって訳だな?」


 どうやら道標(みちしるべ)になる物が存在するようであり、何かを言われたのだろうか、指示に従うようにディマイオは遠方をより一層強く意識しながら見回してみたが、どうやら存在したらしい。恐らくは地面から放たれているのであろう、一筋の青に染まった光が天に向かって伸びていた。


 そのまま宇宙にまで続いているのかと思いたくなるくらいに広がっている夜空に向かって光は伸びていたのだが、スライム達の相手をしていた3人の目には入りにくかったようだ。


 しかし、この場所は要塞という建物の内部である。内部であるのにも関わらず、空が広がっているこの異様な空間にはもう既に3人は慣れ始めていたのかもしれない。




「おれらがそっち到着するまで派手にやったりすんじゃねえぞ? 今捕まってもおれら(なん)もしてやれねぇぞ?」


 ディマイオはコーチネルのいる場所が具体的にどのような所なのかは分からないが、どことなく危険な場所にいる事だけは想像出来ており、自分だけで進み過ぎる事だけは避けるように伝えていた。距離があればピンチの時に手助けをする事も出来ないのだ。




「だからおれらは死なねぇって。丁度今も飛び掛かってきた奴撃ち落としたとこだしな」


 コーチネルから疑われているのだろうか。しかしディマイオも敵の親玉に会う前に絶命してしまうような哀れな最期を迎えるような弱者では無い。証拠なのかどうかは不明だが、目の前から堂々と飛び込んできた人型のスライムの怪物を銃弾で絶命させた所である。今の彼であれば、誰が来たとしても簡単には絶命をするという事にはならないはずだ。


 ディマイオの複眼のような特殊な形状の目の先には、近寄ってくる緑を帯びた怪物以外の者の姿も映っているのだろうか。しかし、今は直接会わなければ事実は分からない。













――ディマイオを待ち続けている者の目の前に映るものは……――




 異様な極彩色の植物が周囲を支配する異様な世界。それは室内というよりはもう1つの森林地帯であったが、空は気味の悪い緑に染まっている。天井というものを感じさせない無限の空間を感じさせるが、これもあの要塞の内部の世界なのだろうか。


 まるで集落のように複数の木造の建物が点在しており、その内の1軒がある少女に目を付けられていた。


 黄色や赤等の派手な色で塗られた背の高い草の中に身を隠しながら、窓として設置されているのであろう格子の奥を凝視していた。




 格子の外には内部からの声が漏れており、内部にいるのは外見からして力が非常に強そうな人相の悪い男達であり、少女は男達の様子を窺っているのだろう。


 男達の話し声が収まるのを、少女はずっと無言で待ち続けていた。草の間から銀色の髪が見えていたが、男達は当然それには気付いていない。


「なかなかいい身体じゃねえか。改造には勿体無ぇぐれぇだぜ」


 格子の奥にうっすらと人影が見えるが、複数の男の内の1人であった。肩幅からしてかなりの大柄であるのが分かる程で、そしてやや色白の頭には髪が全く生えていない。格子を超えて、少女はそこまで目視で確認をしている。所だ。


「しょうがねぇだろ。こいつらはちょっと筋肉が多すぎるから改造になったんだから」


 格子の奥には複数の男達がいるようだが、いずれも似たような外見である。そして、この男の説明によると体格によって何かを決定させているようだが、何を決めているのかを少女は把握しているだろうか。どちらにしても改造という言葉は少女からしても心地良い言葉では無いはずだ。


「確かこれだよな? なんか注入するってあのおっさん言ってたよな?」


 少女からは見えなかった可能性が高いが、この言い方だと、男が何かを持ちながら仲間達に確認を取っているというのが分かるはずだ。


 しかし、それが何なのかがよく見えなかった為、背の高い草に身を隠していた少女はしゃがみの体勢から立ち上がった。




「……見えない、かなぁ。駄目だ……見えないや」


 銀色のショートで纏めた髪の少女は立ち上がりながら格子の奥に集中するが、どうしても男達の身体で遮られている。何を持っているのかを直接目視した所で全ての謎が解ける訳では無いが、実物を見る事すら叶わない今の状況に苛々を感じていた少女だが、横から別の男の声が聞こえた為、すぐにしゃがみ直す。


 身を再び隠した少女の目の前を、男2人が横切ったのだ。女性らしき人間を肩に担ぎながら。




「これはかなり犯し甲斐があるぜ。身体が細くて良かったぜ」


 少女は男の肥満にも見える筋肉質な肉体を確認したのは勿論、担がれている女性らしき人間の姿も眼中に入れる。男の髪の無い頭部が邪魔でよくは確認出来ないが、衣服は殆ど破られ、所々で肌が露出してしまっているのが分かる。上半身が男の背中側になる形で担がれており、長い髪が重力に従う形でだらしなく垂れている。長い耳が見えた為、恐らくエルフである。


「おいおいあまり派手に突くんじゃねえぞ? 滅茶苦茶にしちまったら次の奴が使えなくなるぜ?」


 一緒に歩いていたもう1人の男も同じ形でエルフらしき女性を担いでいる。一体何の話をしているかは分からないが、分かる者が聞けばこの回りくどい言い方の意味が理解出来るのかもしれない。


 草に身を隠している少女は一瞬見たであろう。下半身はブーツより上から素肌が大きく露出しており、激しく破かれたであろう腰の部分の衣服が辛うじて下半身と呼ばれるようになる部位を隠しているようであるが、男のすぐ横に見えるその部位を男が今どのように直視しているかはあまり想像はしたくないかもしれない。




「いいじゃねえか。まだ代わりはいんだろ? 余る程あんだから硬てぇ事言うなよ」


 注意を受けた方の男は素直に聞き入れようとせず、代わりが存在する事を理由に自分の好きなように触れたいと主張する。


「だったら好きにやれよ。まあどうせ皆お前みたいな事ばっか考えてるから誰も気にしねぇだろうけどよ」


 ここの男達は暴力と性欲に忠実であるようであり、そしてまるで全員が統一されているかのようにスキンヘッドの頭と、殆ど裸にも近い(ふんどし)姿である。単に近寄る事すら躊躇いたくなるような荒々しくも、品の無い姿である。


 しかし、草に隠れながら様子を窺っている少女は男達に制裁を加える度胸は今は無い。単独であるのに、この無数の男達を相手にするのは無理だろう。




――目の前の男達が他の建物の影に姿を消した――




 少女は念の為に左右を確認した上で更に別の男が来ていないかどうかを確かめてから、再びその場で立ち上がる。


 しかし、やはり格子の中で男達が何を持っていたのかは確認が出来なかった。だが、今は異なる変化が訪れようとしていた。


 建物の中にいた男達が全員、外に出てきたのだ。


「面白いだろうなぁ。あいつらがどう騒ぐか」


 外見通りの乱暴な印象しか感じ取れない野太くも低い声で、歩きながらスキンヘッドの男が小屋の中で囚われているのであろう者達のこれからを想像していた。


「ぶち込まれたら頭イカれちまうんだもんな」


 別の男も何か物騒な発言をしているが、そのぶち込むというのは、小屋の中に閉じ込めるという意味では無いだろう。何かを投与する事で精神が普通では無くなるという意味で捉えるべきだろう。


「早く担当のおっさん呼んでこようぜ。おれ達じゃやり方分かんねぇからなぁ」


 スキンヘッドの男達では小屋に閉じ込めている者達に正しい投与が出来ないのかもしれない。専門の仲間を呼びに行くのだろうか、複数の男達は小屋を離れていく。それを草の中に隠れていた少女は見逃す事をせず、周囲に他の男がうろついていないかを確認してから草から飛び出した。


 紫の半袖シャツの上に黒の胸部を守るプロテクターを装備しており、同じく黒の色をした、手を保護するであろう指が出た手袋を装備している。軽装の姿の少女はそのまま軽やかに小屋の扉へと進んでいく。




 灰色のミニスカートを揺らしながら、性別特有の愛嬌も多少見せるものの、表情の方は真剣でそして凛々しいものがあった。木造のやや粗末な造りの扉の前に立ちながら、警戒を解かずにゆっくりと押す。


「さてと……誰か残ってない……だろうね?」


 尤も、それは格子から内部を確認していればすぐに把握出来る事だったかもしれないが、内部に入る事を最優先に考えていたようだ。


 扉の横に出来た隙間から内部の様子を確認する。内部はいくつかのテーブルと、そして何か資材等をしまっているのであろう木箱等が積まれているが、男の姿は一切確認出来なかった。いたとすれば、あの横に広がった身体が目立つ為、少女は内部には男の姿が一切存在しない事を確定させる。




――そして素早く小屋の内部へと侵入する――




 扉さえ閉めてしまえばもう外からは自分が小屋にいるという事を見られずに済む為、少女は小屋に入るなりすぐに扉を閉める。


 内部はあまり換気がされていないのか、やや埃が混じったような臭気と、そして男達のものとしか思えないような不快しか呼ばないであろう体臭が室内に漂っていた。


 室内の嫌な臭気で戸惑う訳にはいかず、少女はテーブルに置いてあったカプセルのような物体に最初に目が行った。




「これがさっき奴らが言ってたやつなの?」


 少女は駆け足、というよりは早歩きと言った方が良かったかもしれない足取りでテーブルに近寄り、筒状の透明の容器を持ち上げる。握力が強い者が持てばもしかしたら握り潰せてしまうかもしれない程のそれなりの細さの容器の内部には金色の液体が満たされており、更に凝視すると内部ではまるで炭酸のように泡立っているのも見えた。


 これを体内に取り入れられた時に身体に何か異常が発生するのかと想像するが、ここでいくら考えてもただの想像で終わってしまう。


「これは……悪いけど没収させてもらうからね」


 少女は右肩から身体を交差させるようにかけていた黄色のバッグに金色の液体が入った容器をしまい込んだ。


 少しこれからどうすべきかを考えていると、室内から誰かが声を発してきたのだ。




「あの……貴方は……助けに来てくれた人ですか?」


 少女は忘れていたようだが、出入口の扉を潜って左側には灯りが一切用意されていない牢屋が用意されており、そこには粗末な襤褸(ぼろ)切れのような服を着させられた耳の長い女性達が閉じ込められていた。1人が格子を両手で掴みながら、たった今この小屋に入ってきた少女に話しかけてきたのだ。







一応この物語はリディアメインではありますが、結構サブのキャラ達の活躍も描きたい気持ちでいるせいで他のキャラの視点にもどうしても重点を置いてしまいますし、水棲系亜人のディマイオと、純粋な人間の少女のコーチネルのやり取りも結構好きではあるんですが、囚われた者達を無事に助け出す事は出来るんでしょうか。上手くやれればきっと彼女の見られ方も変わるかもしれませんが、それはまだ分かりません。

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