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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第25節 《完了を果たした魔窟での地獄 関わりがあったのは暴戻の野盗》 4/5

今回からはガイウスサイドでのシーンが本格的に始まります。野盗達のアジトに乗り込むシーンが始まりますが、今回も結構長くなりそうです。気温も暑くなりつつあるので熱中症に注意しながら活動を続けております。




       これはリディア達とは別行動を取る事を決定させた2人の話


       洞窟の最深部に潜む魔物と、そして産み出された卵の駆除を引き受けた者とは別の道


       人攫いが出没した為、それを排除する使命を請け負った2人の話


       人間の男性と、鳥人族の男性の2人がこれから向かうのは……








「人(さら)いって言ってたけど、どうせまた山賊だの盗賊だのそういう連中なんだろうなぁ」


 リディア達と一旦分かれてからしばらく歩いていたガイウスである。濃い緑のコートを着用し、林の中を流れるやや冷たい風の影響を遮断させながら、野生の動物1匹存在しない林を歩き続けていた。


 元々人攫いを不羈(ふき)の娯楽のように実行させる危険な人物達が住み着いている空間である。動物達も危険な臭気に怯えて離れてしまったのだろうか。


「あっち行ったら全員仕留めるだけだぜ。あの連中って元々治安局からもマークされてるような連中だから、派手にやったって罪なんかにゃなんねぇだろうしな」


 黒のコンバットスーツを纏っている鳥人族の戦士であるフィリニオンは、初めから人攫いに携わるならず者達を全滅させるつもりでいるようであり、そして元々野盗として社会からマークされていたり、それに携わる暴挙を行う者の命を奪ったとしても、この世界では殺人罪等に問われる事は無く、寧ろ世間を(おびや)かす存在を排除した者として評価されるのだ。


 無論、この場合はギルド等の司法に関わる機関に届け出をしないと後々に面倒な事になってしまうが。




「そうだな。野盗どもに人権なんかねぇからな。寧ろ騎士団とか司法でもさっさと絶滅されちまえってしか思われてねぇしな」


 ガイウスも野盗に該当する野蛮な者達を嫌っているようである。相手は元々一方的に善良な一般人等から金品を強奪したり、挙句には平気で命を奪う連中だ。このような人種がいては世界が(おびや)かされるばかりである。いなくなってほしいと思われるのは当然である。


「所でさっきから色んな場所で誰かの服とか散らばってるけど、連中どもがやった跡なのかこれ?」


 フィリニオンは先程から歩きながら左右に視線を向けていた。地中に根を張っている木々の周囲に、人が着用していたと思われる服の残骸が無造作に捨てられていたのだ。血液の確認は出来なかったが、それでも元が衣服の類だったであろう布の散らかり方はとてもこの空間が普通であるとは思えない惨状そのものである。




「その読みは正解なんじゃねえかな。どう見てもこれ女もんだし」


 ガイウスも散らばる服の事は理解していたはずだが、フィリニオンに言われてから改めて意識しようと考えたのか、側にあった布を1枚持ち上げてみたが、どこか女性としての雰囲気を思わせる赤を基準とした色合いや、重さを感じさせない薄い生地を見てそれが元々女性が着用していた物なのかと推測をする。


 勿論これを散らかしたのは、これから出会うであろう野盗の仕業、と考えても間違いは無いはずだ。


「想像以上かもな。連中の脳味噌の出来が気になってきたわ」


 フィリニオンは衣服が散らばっている事の意味を理解していたのだろうか。服を散らかす者達の行為を思い浮かべた途端に、知能の著しい低さが浮かんできたのかもしれない。出会った時に頭の悪い対応でもされるのではとすら想像していたかもしれない。




「元々野盗やってる奴にまともなのなんて期待出来ねぇだろ? まともじゃねえから野盗やってんだから」


 フィリニオンの言い方は下手をすれば差別を含んだような言い方になっていたかもしれないが、ガイウスはそれを止める気持ちにはならなかった。


 寧ろ、社会的に忌み嫌われるような乱行を繰り返すような思考しか思いつかないからこそ、野盗という同族の集まりに加わる事が出来ているのだから、ガイウスはあの集まりに対しては一切の同情等を持つ事はしない。


「言われてみりゃ確かにそうだな。あんなんだから治安局からも見放されて殺されてもいい対象に区別されちまってる訳だし」


 フィリニオンは嘴の形状となっている口で鼻で笑うような音を漏らさせた。思考に問題があるだけなら兎も角、それを他者に危害を加える為に動くのであれば生命の尊重の対象にはされないというのも納得が行くし、そして問題があるから野盗と化すというのも尚更納得が行く話である。




「さてとそろそろじゃねえか? 馬車のおっさんが言ってた森の奥って多分あそこだろ。なんか怪しい空間見えてきたぞ」


 ガイウス達は林の道を一直線に歩いていたが、木々の隙間を凝視すると、木々が目立たなくなる空間を発見する。代わりに白色とも、灰色とも言える無機質な色合いをした壁のような物が見え始めた。


「わざわざ歩いた甲斐があったってもんか。空からだと連中にバレっかんな」


 目的地に到着したと感じたガイウスと同じく、フィリニオンもここで自分達の任務が始まるのかと、心に覚悟を決める。そして、自分が鳥人で翼を持っているのにも関わらず、徒歩でここまで来たのは、それは空から進めば敵のアジトから目撃されてしまう可能性があったからであるらしい。


 だが、決して徒歩でも本人に疲労等の負担が見られない為、飛行だけが彼にとっての移動手段という訳では無いのだろうか。




――林を抜けると、そこには金網で囲まれた巨大な要塞が聳え立っていた――




「如何にもな建物じゃねえかよ。ここに閉じ込められてんのか。攫われた連中は」


 木々の間を抜けると一気に空気が変わるのをガイウスは感じた。今までは木々を貫通した風が自然の香りを乗せながらガイウス達に接触していたが、抜けた後はもう木々の香りは無くなり、ただの風そのものの無機質な無臭へと変わってしまう。


 目の前には、灰色の石で作られた壁が特徴としか言えないような、何かの要塞にも近い建物が建っており、それを包むように緑に塗装された金網が設置されていた。強引に入るのであれば、ガイウスならよじ登る必要があり、そしてフィリニオンであれば自らの翼で飛行した上で超える事が出来るだろう。


「ここにいなきゃどこにいんだよって言いたくなるけど、まずはここを攻めてやらねぇとなんも始まんねぇだろうなぁ」


 この建物以外に攫った者達を閉じ込める場所は無いとしか思えなかったフィリニオンは、一応として建物の周囲を見回すが、他に目立った建物等の様子は見えず、やはりこの建造物の内部で不幸にも野盗に捕まった者達が幽閉されているとしか思えなかった。


 これからこの要塞の入り口を見つけ、そして内部へと突入するというプランはもう頭で描いているが、実行に移すのはまだ早いだろう。




「攻めるのは当たり前だけど、流石に突入はぁ……不味いだろうよ。多分人質もいるだろうから下手に盾にされたら終わるぞ」


 ガイウスは人質が敵側に存在する事による弊害を体得しているのだろう。もし人質を盾のように扱われてしまえば、自分達の思い通りの戦いが出来なくなってしまう。


「じゃあ、こっそり忍び込んで人質だけ解放させる方法で行くか?」


 人質の存在が厄介である事はフィリニオンでも分かるはず。だとすれば、敵達が人質を盾として利用する前に救助する道を探すべきなのかと計画を計らう。


 内部からは特に怪しい音等も一切響かせない要塞を眺めていた。




「ホントはそれが一番なんだろうけど、中にいる以上は野盗連中との何かしらのぶつかり合いは避けられねぇだろうな」


 ガイウスとしても本当であれば野盗との接触を無しに人質を解放したい所だが、避けながら人質の場所に到達するのは簡単な話では無い。思い通りの突撃は難しいだろうと言い返す。


「そんじゃ、結局は力尽くで取り返すって戦法で行くしかねぇって事だな。オレはそれでも平気だけどな」


 潜入する形で人質の元まで進む事が無理なのであれば、武器と武器をぶつけ合う殺し合いで進む覚悟を決める必要があるのかとフィリニオンは感じたようだ。しかし、今までも同じような戦いを繰り広げていたからか、恐れる様子を見せる事はしなかった。




「また血みどろの戦いになるのか。まあ野盗相手なら普通か。さて、じゃあまず入り口探しに行くとするか」


 ガイウスも普段から戦いの世界に身を置いているとは言え、周囲に血が飛び散るような戦いを見る度にいつかは自分も血を流すような立場になるのかと想像をさせられる事だろう。


 野盗のような言葉で聞かせる事が出来ないような人種であれば当然の結末であるとは言え、血を見て喜ぶ性格では無いはずだ。


 今すべき事は、要塞へ入る為の入り口を発見する事だ。


「それ自体は簡単だろうけど、それともうオレら狙われてるみてぇだぜ。あれ見ろ。変なのが来てるぜ」


 フィリニオンは緑の塗装が施された金網がどこまで続いているのかを目で追うように確かめていたが、ふと視線を持ち上げると、空から自分達に向かって一直線に滑空をしている翼を持った生物が飛来していたのである。




――派手な赤の羽毛を持つ大型の鳥が空から向かってきていたのだ――




「監視役の鳥……じゃねえなあれ機関銃武装してるぞ!」


 フィリニオンに言われた通り、ガイウスも空を見上げるが、その鳥と思われていた生物が実は鳥では無いもっと別のものであると察知した。


 開かれた嘴の内部からは銃口らしき鉄製の筒状の物体が飛び出ており、そして両翼の上部にも、まるで外から無理矢理に装着でもさせたかのように筒状の機械が備えられていた。翼に装着されている方の武器は、1つの筒状の機具の更に先端に細かい銃口が円を描くように配置されており、そして羽ばたくのをやめた翼が外に向けて真っ直ぐ伸ばしたと同時に、翼の銃口が動きを見せる。




――銃口が光り出し、弾丸が連射される――




「やっぱ撃ってきやがったか!!」


 ガイウスは翼の上部に取り付けられていた銃口が僅かに光り出した事実を見逃す事をせず、危機を警戒していた為、実際に銃口から弾丸が連続で発射されると同時にその場から逃げ出す事に成功する。左に飛び退く事で銃弾で蜂の巣にされる事を回避するが、地面に着弾した弾達は残酷に地面を抉るように潜り込んでいた。




「狙いだけは適当じゃねえか。これは礼だぜ!」


 フィリニオンも右に避ける以外に銃弾を回避する方法が無かったが、右手に取り出した双剣のうちの一本を空にいる武装された鳥獣に向けて横に振る。勿論剣そのものは鳥獣には命中等するはずも無いが、狙いは直接斬る事では無い。


 得意の衝撃波を放つ事が目的であり、そして振られた勢いで放たれた真空の衝撃波は武装された鳥獣に直進する。




 回避する事を意識する間を与えられなかったのか、鳥獣は顔面から直撃し、身体を左右に両断されてしまう。恐らくはもうそれだけで命が絶たれた事である。だが、断面から見えたのは生物らしい骨や内臓等の(たぐい)では無かった。鉄の部品や歯車等のような、機械の構造であったのだ。当然、生物が見せるような出血もその鳥獣は起こさなかった。




「ってなんだありゃ……。マシンだったのかあの鳥」


 左右に広がる形で落下した為、その場から動かずともフィリニオンに直撃する事は無かったが、落下中の鳥獣の断面を眺めながら、フィリニオンは実は相手が生物では無かった事を実感する。


 言い切った辺りで両断された鳥獣は地面に硬い音を響かせながら落下した。


「おかげでグロいとこを見なくて済んだかもしんないが、今の銃声で絶対気付かれたぞ」


 落下した衝撃もあったであろう、鳥獣は体内から機械の残骸を付近に散らかしていたが、破壊された鳥獣を見つめながらガイウスは直視すれば生理的な嫌悪感に襲われるような光景に出会わなくて幸運だったと喋っていたが、鳥獣に備え付けられていた銃口から響いた音の事は忘れていなかった。


 上空からであった為、距離としてはそれなりに離れてはいたが、元々戦いとは無縁の世界にいるような一般人であればあの音1つで確実に身が(すく)んだり、あまりの音量に耳を塞ぎたくなったりするような音であった為、要塞の内部にも音が響いていた可能性は充分にあると言えたようだ。




「気付かれたって? あぁあん中にいる奴らに聞かれたって事か?」


 フィリニオンは銃声が要塞の内部にいるであろう者達に知られたのかどうかをガイウスへと問うが、恐らくこれは質問する必要性は無かったはずである。


 フィリニオンでも、銃声の音量が要塞を貫いている事ぐらいは意識していたはずだ。


「そうなるだろうな。あんな煩せぇ銃声だったんだからもう中にも聞こえてんだろうよぉ」


 ガイウスはまだ予測や想像でしか返答をする事が出来ないが、元々は監視役として配属されていたであろう鳥獣である。侵入者の存在を何かしらの形で要塞に陣取る者達に伝えるのは当然の話であるのだから、銃声が警報装置のようなものだと解釈してもそれは恐らくは間違いでは無い。




「じゃあ結局は正面突破でやるしかねぇって訳なのか」


 フィリニオンは1つの覚悟を決めていた。両手にそれぞれ構えていた双剣を握る力をより強め、いつ誰が来ても対処を出来るように意識していた。


 しかし、要塞の内部から誰かが出てくる様子は未だに無い。


「やるしかねぇわな。まだ奴らが来る気配は無いが、そろそろ見張りがやってくるかもだな」


 ガイウス達は元々は戦う事を前提で野盗のアジトへ足を運んだのである。


 まだ武器を構えてはいないガイウスではあったが、普段は魔力によって武器を隠しているだけである為、エナジーリングによって魔力を発動させればすぐに刀を取り出す事が出来る。戦闘準備は整っていると言えるだろう。




「ちっ……。どうなっちまうんだろうなぁ。人質どもになんかあったらオレら責められんだぞおい」


 舌打ちをフィリニオンは飛ばす。本来であれば、人質は解放する事を目的として考えるものなのかもしれないが、フィリニオンとしては人質という存在があるせいで自分達の評価に響く可能性がある存在として、卑しいものとして見ているようだ。


「出来るとこまでやるしかねぇっしょ。まあホントに人質が殺されるって決定された訳じゃねえし」


 ガイウスはまだ人質達が絶望する事が確定した訳では無い事をまだ信じる事が出来ていた為、それしか言う事は無かった。


 今は金網に阻まれている関係で歩いての前進が出来ない為、空を眺めながら先程の鳥獣のような監視役がいないかどうかを確かめる事しか出来ない。




「とりあえずだ、まずはこの網の向こう行こうぜ? 入る場所探すなんて面倒だし、お前でもこれぐらいなら飛び越えられるか?」


 フィリニオンは金網を指差しながらガイウスへ言う。金網は2階建ての建造物に匹敵する高さであり、飛行する力を持たぬ者であればまず超えられたものでは無い。フィリニオンは翼があるのだから金網はただ邪魔なだけで、進行の障害物として見る事は無いはずだ。


 しかし、ガイウスには翼は無い為、対処法があるのかを聞こうとする。


 尤も、共に戦った経験がある相手にそれを聞く必要があったのかは疑問ではあるが。


「まあ余裕だろうな。おれは跳躍力の方に小細工する形にはなるけど、この高さなら余裕だな」


 金網の天辺を見上げるガイウスであるが、特に困った表情を見せる事も無く、普通に飛び越える事が出来ると答えた。


 エナジーリングの力で跳躍力を倍化させる事くらいは容易いのだろう。




――ガイウスは膝を曲げ、跳躍の準備に入り……――




「おらよっと!!」


 まるで力仕事でもするかのような掛け声と共に飛び上がるガイウス。それは常人であればまず届く様子すら想像が出来ないような高さにまで上昇し、金網をそのまま飛び越えてしまう。


 フィリニオンはガイウスに付いていくように翼で飛び上がり、ガイウスの着地した場所の隣に軽やかに降り立った。


 金網の内側へと侵入した2人であるが、この2人を要塞の物陰から覗き見する者の姿があったのだ。




――2人が知らない物陰に、拳銃を持った誰かがそこに存在した――




 要塞は所々に身体を隠す事が出来るように壁が突き出た構造となっていた為、ガイウス達の視界に入らない場所で隠れ続ける事が出来ていたようだ。


 所々に機械の部品が装着された特殊な構造の拳銃を片手に構え、いつでも相手の顔面に向ける事が出来る状態でいた。服装は軽装で装甲と言うにはほど遠い物ではあったが、それは人間の類では無かった。


「誰だよあいつら……。まさか連中どもの仲間でも帰ってきやがったか……」


 もしかすると、ガイウス達を野盗の仲間と勘違いしているのかもしれないが、警戒を怠れば突然自分に武器を飛ばされる可能性があると疑うのも無理は無いはずだ。知らない相手である以上は、敵である事を前提で対処するしか、自分が生き残る道は無い。








今回はガイウスサイドではありますが、丁度この頃はリディア達が洞窟探索をしてる最中だったと思います。二手に分かれて行動する場合はそれぞれを描画したくなる事も多いですが、場合によってはどちらかを省くという手法もあったような気がしますが、やはり今回はどちらも主要キャラの話ですので、どうしてもここは省く訳にはいかないんですよね。

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