第25節 《完了を果たした魔窟での地獄 関わりがあったのは暴戻の野盗》 3/5
今回で一応酒場での集合とそれぞれの場所での出来事の話し合いは終わりになります。次回からはまた戦いのシーンに戻りますが、そのシーンに関してはどうしても物語の進行の関係上、実質的に回想シーンという形になります。
ヒルトップの洞窟にて、蜘蛛の魔物との激戦を切り抜けたリディア達
一方では、野盗との争いを繰り広げていた者達も同じ頃に完了をさせていたようでもあった
わざわざ情報を吐かせる為に、1人を生き残らせた彼らの手段は評価されるべきなのか
何はともあれ、別行動を取っていた男2人は、目的を達成した証を突き付けてきたのだ
「あれ? ガイウスじゃん? あの野盗の撃退、だっけ? それ終わらせたんだぁ?」
最初にフィリニオンと呼ばれる鳥人の男が1人の盗賊団の団員を担ぎながらギルドの酒場へと入ってきたが、その次に入ってきたのがガイウスであった。濃い緑のコートとオリーブグリーンの短髪の青年の姿を見たリディアが最初に名前を挙げた。
迎えの言葉としてはそれなりにあっさりとしているが、寧ろそれは生きて戻ってくるという前提が崩されなかったという意味でもあるかもしれない。いつの間にかガイウスの場所へと歩み寄っていた。
「おれらがこうやって戻ってきてるのが証拠になるだろうな。それとお前らもいるって事は、おれらと同じ立場って事なのか?」
ガイウスは自分を親指で差しながら言い返した。盗賊団との戦いに失敗していたのであれば、確実にここには戻って来ていなかったのだから。
そしてガイウスは酒場全体を見回し、少し離れた場所で席に付いているジェイクとメルヴィ、そして奥に設けられているカウンターにいるバルゴとマルーザの姿も確認し、彼ら彼女らも自分達と同じく無事に任務を遂行した上で帰還した事を実感する。
「まあ、私達の方もちゃんと完了はさせてるね。もう報告も済ませてるし」
頷きながら、リディアは返事をし、そしてカウンターを指差しながら、任務が完了した話を伝えている事も説明する。
ここで仲間達と任務の成功を対面して実感し合えるこの時こそが、リディアにとっては自分が今生きている証として感じられる瞬間なのかもしれない。
「なるほどねぇ。じゃ、フィリニオン、そいつ一旦ここに引き渡しちまおうか?」
やるべき事は既に済ませている事を知ったガイウスはそこまで気合が入ったとは思えない返事を見せた後に、未だに盗賊の団員を担ぎ続けているフィリニオンに視線を向ける。
「言われねぇでも分かってるって。オレだってこんなの担いでたら疲れてくるし。おい! こいつの事しっかり閉じ込めとけよ?」
鳥人の男であるフィリニオンは右の肩に乗せていた、縄で両手と両足を拘束した盗賊の男を肩から降ろす。そして乱暴に降ろされた盗賊の男はそのまま転びそうになるが、それをフィリニオンは乱暴に腕を縛っている縄を引っ張る事でバランスを保たせる。
そして受付の女性をやや乱暴な手招きで自分の側へと呼び寄せる。
「この人は……確か盗賊団の団員、でしたよね?」
やってきたのは、元々カウンターの奥に構えていた受付では無く、その受付がカウンターの奥に用意されているドアの中から別の職員を呼び、呼ばれた別の受付の女性がフィリニオンの元へとやってくる。
目の前で立たされているのは、わざとらしく自分の筋肉質な上半身を見せつけるかのような半袖のシャツや、元々はそこに武器でもしまいこんでいたであろう身体に対して斜めにかけられているショルダーベルト等が特徴のならず者の男であるが、両腕も両足も縄で束縛されている為か、受付の女性は男を見ても特に怯えるような様子を見せなかった。
「それ以外に見えるのか? 自分が如何にも盗賊だってアピールしてるとしか思えねぇ格好してんだからそれで間違いはねぇよ」
受付の女性はあくまでも確認の一環として盗賊なのかどうかを聞いたつもりだったのかもしれない。
しかし、フィリニオンとしては今まで何度も盗賊団と争った事があるからなのか、見た目ですぐに盗賊団であると確定してほしかったようでもある。確認をされる事自体を面倒だと感じていた節もあっただろう。
そして、気が付けば全身を鎧で武装した兵士が4人程、またカウンターの奥のドアからこちらに向かっていたのだ。厳密には、1人が先頭を歩き、部下と思われる3人を引き連れていると言った所か。
「この者は……盗賊団の一員で間違い無いんだな?」
恐らくはギルドに配属されている衛兵であると思われる。
腰にはいざという時の戦の為の剣を鞘に入れた状態で携えており、ヘルムの中から、縛られた男を凝視する。
「だからさっきから言ってんだろ? 折角こっちが縄でぎっちり手と足縛ってやってんだから後はちゃんとやってくれよ? これって衛兵の立派な仕事ってやつだろうよ?」
確認をしなくても見た目でもう盗賊団であると決定してくれとでも言わんばかりにフィリニオンは面倒そうにそれが正しい認識であると返答する。
わざわざ連れてきた者に対して確認を取らずとも、自分達だけの目で相手が一般世界で生きる者なのか、それともならず者として荒れた違法生活を続けている者なのかの判断出来る事こそが衛兵の証では無いかと疑うような言葉をぶつけるが、特にそれに対しては嫌な対応等はされなかったようだ。
「了解した。こちらに引き渡してくれるか?」
隊長格の衛兵は盗賊団とほぼ確定されているであろうこの男を眺めた後に、身柄の拘束を確定させる。
「そうしてくんねえとオレも疲れてくるわ。おらよっと」
フィリニオンは盗賊団の男の縄、後手で手首を拘束している部位を握ったままである。そもそも友好関係も一切無いような相手の近くにいるのもきっと億劫だった事だろう。
早く解放されたい為でもあったのか、フィリニオンは衛兵の真正面を目掛けて乱雑に片腕で押し出した。
「乱暴に投げつけないでくれ。さて、貴様は連行だ! こっちに来るんだ!」
衛兵は目の前から迫ってきた盗賊の男を受け止めはしたが、盗賊は腕だけでは無く、足にも縄が巻かれている。当然単純に歩く事すらも出来ない為、衛兵に寄り掛かるような形になったが、衛兵はそれを容易く受け止めるなり、部下の兵士に足を持たせる事で盗賊の男に直接歩かせる事をせずにカウンターの奥へと向かっていった。
「さて、あの生き残り野郎はもうほっといてだ、さて、リディア、じゃあ何話した方がいいと思う?」
無様な姿で運ばれていく盗賊の男を眺めていたガイウスだが、すぐにリディアへと向き直す。自分の中でも話としてここに出したいものは沢山あるのかもしれないが、敢えてリディアにリクエストさせるやり方を選ぶ。
腕を組んでいたが、周囲にはよりかかる事が出来る場所が無かった為、ただ組むだけで終わらせていた。
「いや……何って言われても……。とりあえずガイウスの方は人攫いからなんか、その、救うみたいな感じだったみたいだけどそれは成功したって事でいいの?」
突然話題を出せと言われたとしても、リディアも思うように頭も回らなかったようだ。迷ったように青い瞳を左右にキョロキョロとさせた後に、ガイウス達が達成した目的の事を思い浮かべた。人攫いというだけあるのだから、捕らわれてしまった人々という存在もあるだろう。
まずは捕らわれた人々が無事であったのかを聞きたかった。
「まあ、ざっと言うなら半分成功で半分失敗って結果だと思うぜ? 捕まってた奴らは救助出来なかったし」
事実を知っているガイウスであれば、あの場所の何が良かったのか、そして何が悪かったのかを明確に把握している事だろう。それでも自分達が直接害を浴びた訳では無かったからか、それなりにすましたような表情であの場の状況を思い出しながら答える。救助が失敗に終わったという辺りは、それは明るい話として説明をするのは無理だろう。
「そう……なんだぁ……」
救助が叶わなかった者達がどのような経緯を辿ったのか、リディアはそれに対してあまり想像はしたくはなかった。
ふと先日に見た、輸送船の内部で見た、培養曹に閉じ込められた人々を思い出してしまった為、もしかすると、なんていう嫌な予感まで過った為、自分からは捕らわれた者達がどういう経緯で助からなかったのかという話は求めない事に決めたようだ。
「ってかガイウスさん! あれって人攫いっていうか盗賊団だったって言ってましたよね? それに関してはなんか無いんですか? 例えばあたし達の探索で行った洞窟に関係あるとか」
リディアに続いてガイウスに近寄ってきたのはシャルミラであった。最初こそは人攫いが出たからガイウス達は別行動を取るという話で聞いていたが、ここで正体が盗賊団だったという話を聞いた為、シャルミラ自身が出会ったあの卵嚢の内部にいた者達との関係性を知りたかったのである。
盗賊団と洞窟の事で何か繋がりが存在する事を仄めかすような話を向こうで聞く事が出来なかったかどうか、それを求める。シャルミラの茶色の瞳は真剣な色に染まっていた。
「それかぁ。あぁ……なんか言ってたっけな。あの連中ども自分らの仲間が洞窟に行ったら戻ってこなくなったとか愚痴零してるのは盗み聞きした覚えがあるぞ」
ガイウスは盗賊団と洞窟に関連するものがあったのかどうかという質問をどことなく把握する事は出来た。そして、実際に盗賊団の場所でそれを思わせる話を断片だけ聞き取ったようであり、確かに洞窟との関連性は存在する事をガイウスも認めていた。
「それって、じゃああたしが会ったあいつらってガイウスさん達が戦った盗賊団の一味だったって事になるのかな……」
今のガイウスの話で出てきた洞窟とは、間違い無く自分が探索に赴いていたあのヒルトップの洞窟の事だとシャルミラは断定の手前にまで進む。
そして戻ってくる事が無かった、という話も、それは卵嚢に呑まれた事で永遠に外に戻る事が出来ないという残酷な事実がそれを密かに表現していたとも捉える事が出来た為、確信も出来ていた事である。
「あの洞窟にもいたのか? 盗賊どもが」
ガイウスとしては、洞窟では魔物と戦うという話で受け取っていたが、あの中にも盗賊が潜んでいたのかと、シャルミラに真偽を問おうとする。今回の任務は両者共に盗賊団が絡んだ事件に挑んでいたのかとガイウスは考えてみるが、返答が来なければまだ何も分からない。
「いや、いたっていうよりは呑まれて化け物みたいになってたって言った方がいいんでしょうけど、多分ガイウスさんが出会った盗賊どもの仲間なんでしょうね」
確かにいたと言えばそれは正しい答えとなるだろう。だが、シャルミラが見たのは殆ど肉体を溶かされていた粗悪な外見に変貌させられた者達で、元々の姿は見た事が無いから何とも言えない可能性があるが、ここまでの情報が揃っているのであれば、もう洞窟にいた怪物のような外見の男達はやはり盗賊の一味と確定しても良いはずだ。
この時のシャルミラの視線が横に向けられていたが、自分に手を出してきた者達は既に天罰を受けたようなものであるから、あのまま滅んでしまっていい気味だと考えていたのかもしれない。
「いたのか。しかも化け物になってたってどういう事なんだよ……。こりゃ色々話が弾みそうだな」
もうガイウスからすれば洞窟の中にも一味がいたものとして決めてしまった方が楽だったのかもしれない。だが、化け物になったと言われればそこにどのような事情が絡んでいるのか気になるものである。もしかすると、今日は互いの話を持ち寄りながら酒場で夜を過ごすのも悪くは無いと企てていた可能性もある。
「その話は無理にさせないであげてガイウス。ってかそれよりガイウスの方が盗賊の連中の事を詳しく知れたんじゃないの?」
リディアも洞窟内で遭遇した変わり果てた盗賊の一味には色々と面倒な事をされており、シャルミラの気持ちもよく理解しているつもりである。あの話が盛り上がるとはとても考えられなかった為、ガイウスに対しては話の強要はしないように頼み込んだ。
それでもやはり盗賊に関する情報は今後の為に必要だと感じたからか、せめてその部分の話ぐらいは聞かせてほしいと求める。
「それってあれか? おれにあの盗賊団……あれ? フィリニオン! あの連中なんて盗賊団だったっけ? なんて言ってたっけあいつら?」
ガイウスはリディアに話の中心となって皆に説明をするように言われたと感じたのだろうか。しかし、話すにしても盗賊団の名称を思い出す事が出来なかったのか、いつの間にか適当に見つけたであろう空いている席で双剣の手入れをしていたフィリニオンに呼びかけるなり、覚えてくれている事を期待しながら盗賊団の名称を聞こうとする。
「おいおい覚えてねぇのか? あぁそん時お前忙しかったか。アルネリオン盗賊団、だったな。メッチャ胸糞悪りぃ連中だったから勝手に覚えちまったわオレは」
専用のオイルらしき液体を刀身に塗っていた最中だったフィリニオンは、面倒そうに剣とオイルの入った瓶をテーブルに置きながら、名称を聞くチャンスの時のガイウスの様子が頭に過ったが、まずは名称を言う事が大事であった為、それを教える事にしたようだ。
何が彼の気分を害するのかは本人にしか分からないと思われるが、盗賊団である時点で気分の良い存在では無いのは確かだろう。
「確かそんな名前だったっけ。お前に似た名前の団ってのが酷い話だろうけど、まあ連中がした事はここで喋るのはやめとくか。女性陣に害になるからな」
聞いてはいたが、記憶として刻み込んでいた訳では無かったから、ガイウスは教わるまで自分で盗賊団の名称を思い浮かべる事が出来ていなかったようだ。そして思い出すなり、どことなくアルネリオンという盗賊団の名称がフィリニオンと語感が似ていると喋り出すが、彼らの行為は社会的に認められるようなものでは無く、そして女性からすればそれはより一層残酷に聞こえてしまうものであるらしい。
酒場を見渡せば、男性だけでは無く、女性の客も席で仲間や友人と思われる者達と過ごしている。
――そこにやってきたのは、例のエルフの女性であった――
「あの……貴方達はアルネリオン盗賊団と戦ったんでしょうか?」
恐る恐ると言った足取りでガイウスの近くにやってきたのは、長い金髪のエルフの女性であり、盗賊団との戦いを済ませてきたという事を彼らの話の流れで理解したと思われる。そして、実際に戦いに赴いたガイウスに思い切って声をかける事を決めたのだろう。
相手が男性だからなのか、やや怯えたかのように両手を胸の前で合わせながら握り締めているが、瞳は真剣そのもので、聞かなければ次に進む事が出来ないと自分に言い聞かせているようでもあった。
「ん? 誰だ? あぁなんかメルヴィ達と喋ってたよな。それで、それがなんかあったのか?」
ガイウスは自分に対して声をかけられている事を察知した為、声の方向に勿論顔を向けるが、その姿には見覚えがあったからか、ガイウス自身の仲間であるメルヴィと話していた事を確認するような形で言った。
だが、今重要なのはメルヴィと対話をしていたという事実では無く、どういう目的で自分に声をかけてきたのか、である。
「アルネリオン盗賊団の事です。貴方達は戦ったんですか? あの盗賊団と」
エルフの女性は再確認として、まずはそれをガイウスに真っ直ぐ視線を向けながら戦ったという事実を確かめようとする。横から少しだけ聞いていた様子であった為、聞かなくてもそれは理解出来た可能性もあるが、やはり直接そうであると言われたかったのだろうか。
「まあそれはそうなるわ。一応人攫いしてたからそれを邪魔する為に向かったら偶然その連中だったって訳だけど、なんか随分興味あるみたいだけど、その辺はちゃんと聞かせてくれるだろうな?」
ガイウスは嘘を言う理由は無かったのだから、単刀直入に間違いは無いと説明する。そして、やはりガイウスも何故自分が関わった盗賊団の者達についてここまで喰い付いてくるのか、興味を持ち始めた為、詳しい説明を期待してしまう。
これに関しては、単なる個人的な興味だけでは無く、今後の旅の目的にも繋がる可能性もある為、聞く選択肢は誤りでは無いはずだ。
「それは、勿論事情はしっかりと説明させて頂くつもりです。実は……私の仲間があの盗賊団にさらわれて、私はその……何とか逃げ延びた1人、だったんです」
エルフの女性は勿論と言わんばかりに話はする気でいると伝える。自分から一方的に近寄った以上は自分に責任がある事を自覚しているのだろう。
今回ガイウス達の話に入ってきた理由としては、自分もその盗賊団に関係のある存在であり、そして自分だけが脱出に成功した唯一の存在でもあったからであるようだ。
「その言い方ですと、じゃあ貴方も最初は捕まってたけど、そこから何とか隙を見て逃げた、みたいな感じだったんでしょうか?」
リディアは目の前にいるエルフの女性が見た恐ろしい様子を想像してみたのかもしれない。
一度はアジトに連れられてしまったものの、団員達の目を盗みながらアジトから飛び出す姿を頭に思い浮かばせながら、エルフの女性にそれを聞く。
「そうですね。私だけ騒ぎの中であのアジトから逃げたんですが、あいつらも流石に私1人だけがいなくなったからってそれに対して人員を割く気にはならなかったんだと思います。特に外までしつこく追いかけてくる様子もありませんでしたし」
リディアの予想は的中したようであり、エルフは本当に脱出をした上で逃げ延びたようであった。エルフ自身は脱走した自分を捕らえる為に団員達が複数で執拗に攻めてくるのかと怖い想像をしていたものの、予想は外れ、寧ろ自分の存在が無くなった所で大した痛手にはならないと判断されてしまったのだと考えを訂正する状況に至ったのだ。
盗賊団の1人ぐらいならいなくなっても気にしないという考えのおかげで助かったこのエルフではあるが、それは喜んで良い話なのかどうかは、きっと彼女も判断に苦しむ所だろう。
「雑な連中だったんだな。攫う時は好き放題やるくせに誰かが逃げ出してもそっちはほったらかしにするって方針だったのか。まあおかげで助かった命もあったのは幸いなのか」
ガイウスは一言にも近い言葉であのアルネリオン盗賊団の性質を表現する。脱走されたのであれば単に自分達の何かしらの利益が減少してしまうだけでは無く、自分達の悪行等の情報を外に漏らされてしまうリスクも予測出来たはずだが、彼らはそこまで頭が回らなかったのだろうか。
尤も、欠陥のある集団であったからこそ、目の前にいるエルフの女性は無事に生還したのかもしれないが。
「所で、一応お前は聞いといた方がいいんじゃねえのか? 仲間達がどうなったかってのを。あいつらの見た目見たらどう考えてもお前の仲間だったと思うし」
椅子に座ったままのフィリニオンもエルフとの対話に加わる気でいたのだと思われるが、フィリニオンはエルフの心情を察知した所で、甘い話を渡すつもりは無かったようだ。多少は心に突き刺さるような事態になっても、事実を説明してやろうという彼らしい強い意志がそこに灯っていた。
手入れをしていた双剣の刀身とエルフを交互に見ながら言った。
「それは……何となく察知出来ます。それに助からなかったっていうお話も横で聞いてましたから」
何故かは分からなかったが、フィリニオンの言い方を聞いたエルフの女性は嫌な予感しか受け取る事が出来なかったが、もう既に直接事情を聞こうと声をかける前から既に話が漏れているのを聞いていた為、既に心の準備も出来ていたのだろう。
本当に仲間達が無事では無いという話を直接ここで聞かされたとしても、きっとエルフの女性は崩れたりはしないはずだ。
「どう助からなかったのかは敢えて説明は避けるけど、お前はこの後どうするつもりなんだ? オレらがあの盗賊連中相手に戦った話なんか聞いたとして、その後はお前は何がしたいんだ?」
フィリニオンは当然アジトの中での彼女達の悲惨な姿を見ていた事だろう。しかし、それは具体的には説明しない方向で決める。
気になったのはエルフのこの後の話である。自分達に盗賊団との戦いの事実を知った後に、何か行動を起こすのか等、ここで把握をしたいつもりだったようだ。
「それは……実はあまり考えてませんでした。本当は私だけででもいいからアジトにまた攻めて皆を助けようとも考えてたんですが、もうそれは貴方達が済ませてましたんですよね」
どうやらエルフの女性は自分の仲間を攫った盗賊団の話をしていたから勢いで飛び込んできただけだったようだ。今後の予定は決めていなかったが、何かを言わなければ不味いとでも思ったのかもしれない。エルフは無理矢理に自分の口から盗賊団を相手に何かしらの反撃を企てていたかのような事を出したが、既にガイウスとフィリニオンによって済まされているのである。
「単独で行ってたらまあ絶対そのまま捕まって終了だっただろうなぁ。おれらが先に行ってて良かったかもな」
ガイウスは本当にアジトに突入するつもりだったのかどうかを疑っているかのような表情でエルフと目を合わせているが、実行をしていなかった方がガイウスにとっては都合が良かったのかもしれない。単独であれば自分の身を滅ぼしていたのは間違いは無いし、自分達の突撃が結果的に目の前のエルフを救った事にもなったのである。
すっかり日が落ちた外を、出入口の隙間から見つめる。
「それと、アジトの捕まってた奴らは治安局の連中が処理してる所だから、まあ行った所で邪魔になるだけだろうな」
フィリニオンの言い方だと、遠回しに行くなと伝えていたのかもしれない。行ったとしても、治安局の職員達が後処理を行なっている為、仕事の妨げになるのだから、行った所で自分が求める結果にはならないと説明をしたかったのだろうか。
しかし、やはり聞きたいのはエルフのこれからの行動、もとい予定である。
「あ、あの、えっと、エルフさんの方は……部族、でいいのかな? そこに帰るつもりは無いんですか?」
リディアとしてはエルフからすれば自分の住処に帰還してしまうのが一番なのでは無いかと感じたらしい。帰還という選択肢があったはずなのに、何故それを選択肢として決めようとしなかったのかが引っかかった可能性もある。
「最近は外も物騒だから、ホントにエルフさんも自分の居場所で安全に住んでた方がいいんじゃないんですか?」
シャルミラも自分の住処へ帰還するという意見に賛成だったのか、リディアに続く形で、自分達の住処こそが安全であると意識しているのであれば、何が潜んでいるか分からないような外では出歩かない方が身の為では無いのかと喋りかける。
「あぁ……それは……」
しかし、エルフの女性は表情を曇らせるばかりで、寧ろ帰還という選択肢が自分にとっては望んでいなかったものであるようにも見えてしまうかもしれない。聞きたくなかった意見、という解釈も出来るのだろうか。
「お前ら2人はどういう経緯でこいつの仲間が攫われたのか考えた事あんのか? 特にシャル、お前だったらリディアと違ってピンと来ると期待してたんだけどなぁ。ざ~んねん」
ガイウスは何故エルフの女性が帰還を意図的に避けていたのかを察知していたようだが、少女2人はそれを察知する事が出来ていなかった為、シャルミラの方を何故か優遇するかのような言い方をしながら目元をにやつかせていた。シャルミラの方がより奥まで意識したような思考を巡らせてくれると期待をしていたようだが、それは叶わなかったようだ。
「あのさぁなんで私がちょっと頭悪いみたいな言い方――」
「なんで……って、もしかして住んでる場所を直接襲われたって、事ですか?」
比較される形でシャルミラの名前を出されたリディアは、多少なりとも苦笑という形で笑みは無理矢理に作っていたが、それでも不満の方が大きかったのかもしれない。
ガイウスに何かしらの謝罪に近い返答をさせようとしたのかもしれないが、シャルミラによって右手でまあまあと言わんばかりに顔の前で遮られてしまう。右手と気持ちでリディアの不満を止めながら、シャルミラは何故エルフの女性が帰還を望まなかったのかを考えてみたが、そこで1つの答えが見つかった。
「シャルちゃん正解です~。まあそうなるわな。だからもう、あんまりこれ言ったらこの人にも悪いだろうけど、自分の住処はもう安全でも何でもねぇんだよ」
ガイウスはまるで子供を褒めるかのように、手を交差させて合わせる形で拍手をしながらだらしなく声を伸ばす。しかし、シャルミラの出した答え、エルフの女性からすれば事実そのものであり、そしてそれがエルフに対して心地良い言葉では無いという事を理解している上で、この場で正しい答えを考えさせたのだろうか。
エルフに対しては多少なりとも傷が付く可能性を想定しながらも、どうしても理解の薄かった少女2人に事実を知らせる必要があったのである。
「……なるほど、ね。じゃあエルフさんはこれから暮らす場所を探し直すのが最優先だったって事、ですかね?」
リディアはもうガイウスに仕返し目的で言い返す事を諦めていたようだ。しかし、エルフの事情が理解出来れば自然と怒りも消滅するだろうと自分に言い聞かせながら、住処以外の場所で尚且つ自分達に危害が及ばない所を見つける必要があるのかと確認する。
弱気になっていたエルフの女性ではあったが、必ず達成しなければいけない目的があるという事を改めて認識するなり、瞳に生気が灯り始める。
「そうですね。私だって寝床が無いと生きられませんから。でも頼る当てがどうしても見つからないのが今の悩みでもあるんです」
生気を復活させたエルフではあったが、目的の方は本当に達成が叶うのかどうかが分からないし、そしてもう夜である。リディア達のやり取りと、そしてリディア達という存在そのものが何かしらの力となったのか、言葉の通りに悩んでいたとしても、決して暗くは無い未来が保証されたような気分になっていたようだ。
「見つからねぇとか言って、ホントはさり気無くオレらに期待でもしてんじゃねえのか?」
双剣の手入れが終わろうとしていたのか、砥石や研磨用の液体が入った小瓶等を懐にしまう段取りをしていたフィリニオンは、何となくエルフの女性が考えている事を読み取る事が出来てしまったらしい。
わざと自分達の前で困っている様子を見せつけた上で、助け船を出すべきなのかと惑わせるようなやり方を、恐らくフィリニオンは様々な場所で聞いた事があるのかもしれない。
「え? いや、私はそんなつもりはありません」
エルフの女性も人間社会での触れ合いはそれなりに長いはずであり、そこでの付き合い方もいくらかは取得しているはずである。本心では何かしらの手助けを期待していたのかもしれないが、ここで堂々とそうであると返事をする事は出来なかった。
とは言え、首を横に振りながら否定した所で、皆がそれを信用するとも思えない。
「あぁいいぜ。無理はしなくて結構だ。おれらはそもそも助ける為に盗賊のアホどものアジトに乗り込んだ訳だし、今ここにいるエルフさんだって助ける対象になってると思うし、安全な場所が見つかるまでおれらと同行で良くね?」
ガイウスは初めからこのエルフの女性を、特に今日の晩を安全な場所で睡眠させる事前提で計画をしていたようで、余計な気遣いのような振る舞いは必要が無いと伝えた。
生活の為にギルドの依頼を受けるという側面もあるが、目の前で困っている者達がいるのにそれを対価が無い事を理由で放置するような真似をしないのもガイウス達の性格なのだろう。
「あぁあっさり……そんな事決めちゃうの? まあ私は歓迎だけど」
ガイウスの一切の躊躇いも疑いも持たずにエルフの女性を自分達と同じ場所で睡眠を取らせる事を決定してしまう話に対し、リディアはガイウスであるなら信用しても問題は無いと考え、そのまま自分自身も賛成である事を伝えた。そもそも部族を破滅させられてしまった中での生き残りである。味方になってくれている者が近くにいた方がきっとエルフの女性にとっても安心出来るはずだ。
「あたしも一応は文句は無いけど、ガイウスさん大丈夫なの? そんなにあっさりと決めちゃって」
シャルミラも否定をする理由は無かったようだが、殆どガイウスが単独で決定してしまったようなものである。1人で全てを決めてしまっても良いのかと一応として、確認はするが、返事の中身は大体分かっている事だろう。
「リディアもシャルもいいのか悪いのかどっちか分かんねぇ聞き方すんじゃねえっつの。それにこういう時って大抵リディアの方から『いいよ! 私が一緒にいてあげる! てへっ!』とか言うと思ったんだけどなぁ。おれの読み外れちまったか」
最初にガイウスから言われたのは、それが肯定なのか否定なのか、どちらに限定された言葉だったのかを理解出来ないというものだった。本当はリディアの気合の籠った肯定を期待していたのだが、それが実現される事が無かった為、自分の中での想像上のリディアの様子をこの場で表現する行為をし始めた。
勿論相手がまず見せてこないであろう変な言い方を敢えて表現させておくというやり方もガイウスは忘れなかった。
「いや、ホントは私も何とかしてあげたいとは思ってた……けど……ってか私別にてへとかそんな作り笑いみたいなわざとっぽい言い方しないから!」
出来ればリディアの方から最初に助けの手を伸ばすべきだったのかもしれない。それがガイウスにとっての望みでもあったのかもしれないが、やはり奇妙な言い方を表現された事に対しては言い返さずにはいられなかった。
「その反発待ってたぜ。それと、仮にこいつが悪人だったとしてもお前って相手が嘘かホントかの区別が魔力で分かるって話なんだから別にこれから一緒に動くって話になったって問題はねぇだろ?」
怒った対応をされる事を前提にしていたようであったガイウスは、エルフの女性がどのような人物であったとしても、決してリディアの魔力を含んだ目を誤魔化す事は出来ないはずであると、単に対話の為とは異なる意味合いも含めた形でリディアと目を合わせ続けていた。
「まあ確かにそうかも、だよね。それにこのエルフさんが私達に何かしようとかそんな事考えてるとは思えないし、疑いたくも無いし」
リディアはエルフの女性を、独自に所有している相手の真実を見破る力を発揮させずに見つめたが、やはり何か悲しさを隠しているかのような表情を浮かべ続けているこのエルフが悪意を隠しているとは考えたくは無かったようだ。
「あたしも正直このエルフさんが誰かに雇われた悪い奴……とは思えないからね。それにリディアだったらこっそり背後から刺されそうになっても逆に相手の事メッチャクチャにぶちのめせられるじゃん? リディアって格闘技も凄いからなんかあっても大丈夫じゃん?」
シャルミラには相手の真実を見破る力は備わっていないが、リディアの意見を聞くと、やはりシャルミラもエルフの女性を疑う必要性は薄いと思ったようである。
そして、さり気無くリディアの護身術の実力を喋るが、これを直接聞く事になったエルフの女性は何を思うのだろうか。
「だからこの人は悪い人じゃないってのはもう見れば分かる事だから! さりげなく警告みたいに飛ばす事しないでって!」
リディアはシャルミラの肩を押しながら、エルフの女性を悪人だと疑うような言い方はしないで欲しいと訴える。そして自分が危ない人間である事を自慢げに話されても嬉しくは無かったようでもあった。
「い、いえ、私は本当にそんな悪い事なんて出来ませんよ……。あったとしても皆さんには絶対に敵わないと思いますし」
エルフの女性も今までリディア達がどのような旅をしてきたのかを想像してみた為、自分を疑ってくる気持ちが分からなくも無かった。事実上初対面の相手を何かしらの形で疑うのは当然の話であるし、それに関してはエルフは文句を言うつもり等無かったはずだ。
しかし、相手は多数である。自分は単独であるのだから、本当に悪意を持っていたとしても返り討ちに遭うのは確実だ。
――ここで、席で待っていたメルヴィ達も話が長い事に気付いたのか、歩いてやってくる――
「ねぇガイウスさん。今この方と一緒にこれから行動するって聞こえてきたんですけど、今日はこの方と一緒にこの町で泊まるっていう事なんですか?」
メルヴィはエルフの女性の隣にやってくるなり、やや目立ちにくい形を取るかのように自分の腰辺りの高さまでしか手を持ち上げずにエルフを指を差しながら、エルフとの同行を決定させたのかを聞く。
表情には特に不満を思わせるようなものは見えてはいなかった。
「あぁやべぇな。2人の事ほったらかしにしちまってたぜ。なんか悪いな長話なんかここでしちまってて。マジすんません、ホント」
ガイウスは答える前に、メルヴィとジェイクをそのまま席に放置してしまっていた事を思い出すなり、わざとらしく妙に丁寧に、自分が相手よりも下になったかのような態度で謝罪を渡す。勿論、これはわざと作り上げた感情であるというのは説明するまでも無いだろう。
「いや、大事な話だったみたいですからあたしは構わないんですけど、それよりこの方もあたし達と一緒に泊まるって事で間違いは無いんですか?」
メルヴィは首を横に振りながら謝罪をする必要は無かったと短く説明をするが、気になるのはエルフのこれからである。
共に夜を過ごす者が1人増えるという事実を確かめたかったのかもしれないが、話を横から聞いていたのであれば、泊まるのかどうかを聞く必要は無かった可能性もあるが。
「それはマジだわ。こんな夜なのに野宿でもしろってのは無理だろ。それに盗賊との絡みもあるならもしかしたら次の目的の手がかりになるかもだしな」
念の為なのか、ガイウスも改めてエルフの女性が夜を共に過ごすという事を説明する。元々自分の種族を滅ぼされた身である。1人でこれから眠る場所を探させるというのは、それは酷な話だ。
それよりもガイウスはエルフの女性から何か話を聞き出す事によって、新しい手掛かりや道が見つかる可能性の方を期待していたらしい。
「それって宿泊費はこっちが払う代わりに次の旅路の情報的なのを対価として貰おうとしてるっていうやつ?」
リディアはガイウスの思惑を察知したのだろう。ある意味ではただで宿泊費を出す訳では無いという対価を求める手段は、金銭で自身の行動や生活を買うこの社会では当然の話と言えるだろう。
表情こそは怒っている訳でも無ければ、相手を疑うようなものを作っている訳でも無いが、対価に関しては否定している様子では無いのかもしれない。
「お前にしちゃ凝った解釈な感じもするけど、実際そうだろうなぁ。寧ろこの人だってホントにタダでやってもらうなんて気まずく思うだろうしな」
ガイウスの計画していたエルフの女性からの情報の供与までの道筋をリディアに上手に読み取られた為、ガイウスはエルフの女性と目を合わせながら、今女性の方がどのような思考を巡らせているのかを想像してみたようだが、恐らくは何も理解出来なかった事だろう。
「僕は大歓迎だけどね! エルフって凄く人気がある種族だって言うし、そんな子と一緒だなんて最高じゃん!」
突然ジェイクはエルフの隣に現れながら、赤いフードの奥で全くの不満を見せつけない笑みを作りながら声を張り上げる。ジェイクの場合はエルフから次の道標を授かる事よりも、純粋にエルフという存在の近間にいられる喜びの方が大きかった事だろう。
仲良くなる事が出来るかどうかはまだ考慮はしていないようであるが。
「ジェイ君……まさかやらしい事とか考えてないだろうね?」
もしジェイクの意識の中でメルヴィの存在が一時も忘れる事が無ければ、エルフに関する下心を想像させる言葉なんて放つ事が無かったのかもしれない。
しかし、メルヴィの望みが通る事が無かったようだった為、メルヴィは疑っているとしか思えないような態度と表情をジェイクに向けながら、一応は聞いてみた。殆どそれは、分かっている上で聞いている行為に過ぎないのだろうが。
「あ、いやいや! メルちゃんそんな訳無いじゃん! メルちゃんがいるのにエルフのこの人にやらしい事なんて……」
メルヴィの視線が凄く痛かったのだろう。ジェイクはエルフの女性に何かをするつもりでは無かったようだが、折角首を横に振りながら説明をしているとは言え、これではメルヴィがいるからエルフの女性に手を出さない、という妙な解釈も出来てしまう可能性があるだろう。
「その言い方変だろ。まあどうでもいいけど、今日は宿に行く人間……じゃなかったか、まあもう1人増えるって事で店主に伝えなきゃいけなくなったな。そんでメルヴィ、あんま怖い顔しないでやってくれ。ジェイクだってただの出来心だから」
ガイウスはジェイクの言い方を解釈するなり、やはり吹き出しそうになっていた。それでもジェイクらしいと心で思いながらも、宿屋に帰った時にすべき事を頭に入れておく事にしたようだ。
そしてやはりメルヴィの目付きがジェイクにとって毒になり兼ねないものと化しそうになっていた為、フォローの為に一言渡す。
――カウンターの方では、まだマルーザとバルゴが受付の女性と話し合っていた――
「それで、今はその自然公園に陣取ってる形なんですか? それは」
青と白の毛並みの浮遊生物であるバルゴは、カウンターを挟んで向かいにいる受付の女性と何やら話し合いを行なっていた。この町の付近に設立されているであろう自然公園に何かが潜んでいるのだろうか。
「はい、間違いはありません。まあ植物ですから、こちらから近づかなければ害は無いとは思いますが、やはり排除はした方が宜しいかと思われますね」
受付の女性は書類とバルゴを交互に見ながら、自然公園に関する情報は正しいものであると話す。対象となっている障害は植物が何かの影響を受けて危険な存在と化したのかもしれないが、それを止める事が次の目的となるのかもしれない。
「動かない相手とは言ったって、そいつ悪臭なんか飛ばすんだろ? だったら環境が汚染される訳だから無害ってのはまずありえない話だね」
マルーザは相手がその場から移動を行わないからと言って、それが安全をいくらか保証されている理由にはならないと言い返す。受付からはもう説明はされていたのだろうか、悪臭が及ぼす害はただの気持ちの問題では無く、環境に直接的な被害を与えるのであれば、物理的に移動をしないからといって、それを放置しても許される道理は通らないと考えていたのだろう。
「確かにその通りです。ただの悪臭なら良いのですが、近隣の生態環境も破壊してしまいますし、事情を知らない遠方からの旅人がうっかり踏み込んでしまえば大惨事にもなりかねません」
受付の女性もマルーザの意見には賛成の気持ちを見せていた。そもそもギルドとしては依頼を受けてくれる者を探す為に貼り出していたのだから、任務に向かってくれる者がいなければ貼る意味が無い。気持ちを理解してもらえるだけでも女性からすれば嬉しかった事だろう。
「だったら、じゃあ僕らが次に受ける任務はそれになりますね。マルーザさんもそれでいいよね?」
バルゴは自然公園に巣食っている植物、恐らくは魔物のように牙を向いてくるであろう存在を相手に立ち向かう事を決心していたようであり、任務に関しても引き受ける事を前提に、マルーザにも覚悟を問う。
「まあ、断る理由は無いし、寧ろわたし達を誘ってるようにも感じるし、行くしか無いだろうね」
折角目の前で明らかに怪しい雰囲気を漂わせている依頼を提示されているのであれば、乗るしか無いものだとマルーザは意識しており、依頼そのものに呼び込まれているような錯覚すら覚えていた為、それを受ける事を決心する。
依頼内容が書かれているであろう書類を見つめるマルーザであるが、もしかすると最近は魔物との戦いが増えてきていると感じているのかもしれない。人間では無い相手であれば意思の疎開が出来ない為、暴れる目的等を探る事も出来ない。ただ自分達が生き残る為に、息の根を止めるしか無いのである。
「分かりました。ただ、詳しい話は分かりませんから、ただ怪奇植物が公園を支配してる、というだけの認識で行くような事はしないでくださいね」
受付の女性は依頼の受注を認めたが、どうやらギルドの方でも完璧に状況を把握していた訳では無いらしく、植物の存在以外の部分にも注意をするように促してきた。これは一体何を意味するものなのだろうか。
次回から再び探索と戦闘の話になると思います。そして今回は前回のような魔物との戦いより、人間と人間の戦いという構図が出ると予想もしてます。でもまた色々と内容が長くなるような気もします。




