第25節 《完了を果たした魔窟での地獄 関わりがあったのは暴戻の野盗》 2/5
投稿が1ヵ月ぐらい空いてしまいましたが、今回も帰ってきた者達が戦った先で得た情報を提供するような話となっております。戦いが終わった後だからあっさり終わればいいのかもしれませんが、エルフの亡骸の発見や、盗賊達の報告もあるのでそう簡単には終わらせられない部分なんですよね。
省略は出来る気がしますが、どうしても描きたい部分があったので手を抜かずにとことん描いてしまった結果がこれですね。
ギルドにて、一同は任務の成功を説明する
多くの犠牲を生んだであろうヒルトップの洞窟
蜘蛛の魔物は多くの者達を亡き者にしたであろう
それらを統括する骨の外殻を持っていた魔物は更に多くの犠牲者を生み出した
主は潰したが、亡くなった魂は戻ってくる事が無い
残念ながら、死者となった者達の詳しい名前も調べる事が出来ない
それでも、彼ら彼女らは報告をする義務がそこにある
「とりあえず、内容の通りの洞窟の主の始末と、卵の始末の両方を完了させたって事で」
マルーザは受付のカウンターの端で、カウンターを挟んだ向こう側にいる受付の女性に任務の完了を説明していた。ギルドの建物の内部にはほぼ人間の戦士しかおらず、影のような異形を見せているマルーザの存在はやや異質ではあったものの、彼女は周囲の僅かな視線を一切気にする事も無く、説明を済ませた。
「お疲れ様です。では、こちらに完了のサインを記載お願いします」
受付の女性からカウンターの上に用意された契約書に指を差しながら、マルーザに記載を求める。指を指されているのは、契約した任務を達成した事を証明するサインを記載する欄であった。
「はいはい。それと、わたしの連れが魔物の中で面白い物を見つけたっていうから、調べてもらえるか?」
カウンターの上に予め用意されていたサイン用のペンを使い、言われた通りに自分の名前を表記するマルーザであるが、ただの成功の報告をするだけでは無く、自分達からの土産も存在する事を伝えた。それは自分自身では無く、仲間が見つけた物を紹介するという形になるが。
「面白い物、ですか?」
受付の女性は、それを聞いて首を傾げる事しか出来なかった。
「面白いって表現はちょっと不謹慎かもだけど、シャルミラ、見せてやってくれ。持ってるだろ?」
受付の女性はマルーザの言い方に疑問を感じた訳では無く、純粋に何か物品を持ってくる事に対して疑問を感じたのだと思われるが、マルーザからすると言い方に問題があったかのように感じてしまったらしい。だが、実際に問題の物品を所持しているのはシャルミラである為、後ろにいたシャルミラにカウンターの前にやってくるように手で招く。
「あ、はい。……よっと、はい、これです。あいつの体内でサークレットみたいなのを見つけたんですよ」
マルーザに呼ばれた為、返事をしながらカウンターの前に歩み寄る。そして受付の女性の目の前で両手を持ち上げるなり、魔力を込めながら両手の間からサークレットを出現させる。宙に浮いた状態の金のサークレットを手で掴み、そしてカウンターの上へ置いた。
それは、『FIERY HEART』と刻印をされたものであった。
「これですか? サークレットですね。えっと……ファイアリー……ハート、と書かれてますね。あれ? これって確か……」
受付の女性は両手で金のサークレットを目の前で回しながら、周囲と内側を確かめる。外側には例の文字が彫り込まれており、それを見た際に記憶の奥に眠っていたものが蘇ったようである。
「何か知ってるんですか? ファイアリー……ハート、でしたっけ?」
シャルミラはその文字の意味をどうしても知りたかった為、テーブルの方でメルヴィとジェイクに待ってもらっている事もあまり意識せず、知りたい事を何とかして教えてもらおうとしていた。
少しばかり時間を使ったとしても、2人は文句を言ってこないものだと信じながら、話の続きを期待する。
「はい、確かこのグループ名は女性の騎士団で、いずれも多少ながらエルフの血を受け継いだ由緒ある精鋭の集まりだったんですよ」
受付の女性は、サークレットの刻印で思い出しながら、エルフの女性騎士団の事を説明する。話す限りでは、戦闘面では優秀は功績を残す集まりだったように聞こえるはずだ。
「その精鋭どのこのってのは知りませんけど、洞窟に入って全滅……しちゃったんですかね?」
実力がある騎士団だったのかどうかはシャルミラには分からない話である。しかし、あの洞窟で偶然見つけた女性の騎士は既に絶命しており、あの姿を見る限りでは他の者達も同じ運命を辿っていたとしか思えず、僅かに表情を曇らせながら訊ねる。
「結論から言えばその通りです。実際にはグループの誰1人として帰還しなかったので、行方不明として処理してたんですが、このサークレットで真実が判明した事になりますね」
受付の女性の話は現実的であった。ヒルトップの洞窟から帰還した者の話を聞く事が無かった為、帰還しなかった者を言葉通りの行方不明者として扱っていたのだが、今日の新しい遺品の発見によって、正式に彼女達の死亡が確定したようである。
洞窟から出て来なかっただけで生死の決定をされるのもどうなのかと一瞬シャルミラも思ったかもしれないが、実際の洞窟の内部を知ったシャルミラであれば、あの洞窟で生き延びる事がどれだけ奇跡に近いものなのかを思い知っていた事だろう。戻ってこない者を死んだ者として扱いたくなってしまうのも無理は無いだろう。
「最初それを持ってた女性の人のあんな姿見た時はぎょっとしましたけど、そんな経緯があったんですか」
シャルミラはふと卵嚢の内部で見つけた赤髪の女性を思い浮かべ、一体何をされて絶命をしてしまったのか、それを想像してみるが、答えは見つからなかった。しかし、ファイアリーハートに所属する女性騎士団が洞窟の探索に出向いていたという事実は知る事が出来たのだ。
「そうなんです。折角華麗に討伐を決める予定だったとは思いますけど、現実は凄く厳しかったみたいです。全員が残念な最期を迎えちゃった訳ですから」
もしかすると、世間的には彼女達は外見の方でも注目を浴びていたのかもしれないが、戦闘の世界では容姿の秀逸さ等が助かる理由にも生き残る補助にもならない。そして実際、二度と表の世界で生きた姿を見せる事が出来なくなってしまったのだ。ここで悼んでも、残念に思っても、彼女達はもう生きた姿を見せる事は無い。
「あの、洞窟に向かった人達の記録っていうのは全部ギルドで管理してる感じなんでしょうか? もう1つ気になるのがあったので、教えてもらえますか?」
シャルミラの隣で話を聞いていたリディアであったが、ファイアリーハートの女性騎士達の者以外で引っかかっていたものがあったらしい。
黒の戦闘服はそのままで、そして今はもう戦闘では無い関係でマスクもハットも外しているが、これらは顔を防御する意味合いを持っていた為、戦闘で付けられたような顔の傷は無いに等しかったようだ。
「あら? 貴方も何かご希望ですか? 教えて欲しい事とは?」
詰襟の白の袖の長いシャツを着用している受付は、初めて口を開いたリディアと目を合わせながら、要求を聞く心構えに入る。
「まあ、実はなんですけど、卵嚢、まあその辺は話すと凄いゴチャゴチャになっちゃうんですけど、そこでなんていうか、盗賊みたいな連中に会ったんですよ。まあそいつらも……卵嚢の中で身体を溶かされてたみたいで外見的にはゾンビみたいになっちゃってたんですけどね」
リディアは自分でも自覚しているであろう長い話になるそれを、人差し指を関節を軸に振り回しながら事を説明する。卵嚢の中で出会った話をしなければ、誰にも理解もしてもらえないままこのギルドの酒場を出る事になってしまう為、受付の女性には話すべき内容だった事だろう。
盗賊と思われるような柄の悪い者達が紛れ込んでいた事を伝えなければ、ならず者が洞窟に密かに侵入していたという事実が闇に葬り去られてしまう所だったのだ。
「盗賊……あ、そうです思い出しました! あの騎士団が洞窟に入った後にこっそり盗賊団も後を付けてたって話が何ヵ月か前にあったんですよ」
リディアの質問を受けてから改めて思い出したのか、受付の女性は特に書物等で調べる事もせず、記憶の中から盗賊に関する情報を探り始めた。
まだリディア達が調査に行く前から洞窟自体には問題があったらしく、数ヵ月前からリディア達の知らぬ場所で惨劇が起こっていたようだ。
「えぇ!? うっそぉ!? あの連中やっぱり盗賊団だったんだぁ!? もうちょっと派手に仕返ししとくんだったわ……」
声を荒げたのはシャルミラだった。確かに卵嚢の内部で賊であったかのような言われ方をされていたが、本当に盗賊団に所属している者達であった事を知った瞬間に怒りを着火させてしまう。
特にシャルミラは身体を攻撃等とは違う形で狙われていた為、怒りを覚えずにいるのは不可能に近かったのかもしれない。
「シャル、ちょっと今はそんな個人的な気持ちは抑えてよ……。でもそいつらが後を付けた理由って、やっぱり……そういう、あれ、とかでしょうか?」
リディアによってシャルミラは宥められる。肩を揺らされる事で我に返らされたシャルミラの横についたままで、リディアは盗賊団が洞窟に入った理由を思い浮かべてみるが、いかがわしいものしか想像が出来なかった。
実際にシャルミラに手を出していた様子はリディアも見ていたのだから、あの者達の本性を今頃考え直すなんて無理である。彼らは自分で自分達の性格を教えてしまっていたのだ。
「それについては詳しい理由は判明されてません。そもそも盗賊達はギルドに届け出もせずに侵入した訳ですし、詳しい理由は私達では調べようがありません」
基本的にあのヒルトップの洞窟はギルドを介する形で戦士や調査員達は赴いていたようであるが、中には手続き等をせずに勝手に入り込む輩もいるようだ。そうなれば当然ギルドには侵入した者の情報が行き渡る事が無くなり、理由や動機も一切知る事が出来なくなってしまう。
そこで不慮の事態で帰還すらしなかった場合、それこそ本当に彼らの内情を知る事は出来なくなる。
「まあこっちとしちゃあなんで侵入したのが盗賊団だって断言出来るのかが気になるとこだけど、まあ他の賊の話とかから流れてきたって言うなら断言出来る理由もまあ納得出来る気がするけど、まあ女の身体が目的の1つだったってのは事実だったんじゃないかい?」
マルーザは妙な所を怪しんでいたようだ。ギルドを介せずに洞窟へ入り、尚且つ行方不明になったのであれば、そもそも誰が入ったのかという情報自体が手元に届かないはずである。それなのに、何故勝手に洞窟へ入ったのが盗賊団として決定する事が出来ていたのかがマルーザは妙に感じていたが、ギルドが何かを隠していると疑う気にはならなかったらしい。
そして、やはりマルーザとしても、盗賊団の侵入の狙いに性的な欲求も含まれていたと疑いたくなったようだ。
「あくまでも目的の1つ、っていうのは正しいかもね。でも奴らだって盗賊だし、一番の目的は洞窟にあった魔石だったんじゃないかな。まさか欲求を満たす為だけにあんな危ない洞窟に入ろうとは思わないよ」
バルゴもカウンターの前で浮遊していたが、盗賊達には目的が複数あったが為に洞窟へと侵入していたのは間違いは無いと考えていた。しかし、それでも洞窟自体は人の命を容易く奪う事が出来る魔物が潜んでいるのだから、性的な欲求だけが目的で入るにはあまりにもリスクが高かったはずだ。メインの狙いであった魔石を第一に、そして女性騎士達をその次と意識していたと推測して見せた。
「まあ、その魔石も今は盗賊どもより更に性質の悪い奴に持ってかれてるって話だったらしいけどね。でも盗賊連中からしたら魔石が無くても女達がいるし、エルフが相手だったら例え死んでも未練なんか無くなるだろうし」
マルーザは魔石の話を聞き、今の魔石がどこにあるのかを想像すると、やはり今の言葉しか出て来なかった。本来であれば調査隊が無事にそれを持ち帰り、後は自分達が今回のように深部で討伐を、という流れであったのかもしれないが、今回は調査隊から更に奪い取られてしまうという事態に発展しており、今回の戦いも犠牲者が出ている中でのものだった為、マルーザは兎も角、他の者達もどこか心に引っかかるものがあった可能性がある。
「いや、あんまりそういう生々しい事はどうでもいいですけど、でも洞窟から出てこなかったって事は……結局は盗賊どもも、騎士団の方々も魔物にやられたって事、ですよね」
リディアとしては盗賊達がエルフの騎士に対していかがわしい行為をしている様子を思い浮かべたくなかった為、思わずマルーザにやや遠回しにそれをやめるように口に出すが、どちらにしても洞窟から無事に生還する事の無かった両者であるのだから、悲劇である事には変わりは無かっただろう。
エルフの騎士団には敬いの気持ちを見せていたが、流石に盗賊達に対しては敬いを思わせる言い方をしなかった。
「だけどさぁ、盗賊の連中ってあの卵嚢の中でも女の人の身体ばっかり考えてたじゃん? 絶対あたし達以外の女の子も沢山襲ってたはずだし。どれだけやられちゃってたのかなって思うとなんかムカついてきたわ」
シャルミラは盗賊達の末路がどうしても受け入れられなかったようであり、卵嚢に取り込まれ、本来なら絶命するはずだったのにも関わらず、常人には理解出来ない手段で生き延びていたあの盗賊達に未だに怒りを覚えていたらしい。
卵嚢に取り込まれてしまった者、特にそれが女性であれば恐らくは今までも襲い掛かった上で欲望を満たしていたと考えると、連中だけが犠牲者達の中でも特に優遇されていたとしか思えず、やはり最終的に行き付く感情は怒りであった。他の犠牲者であれば、捕食等と言う明らかに肉体的な苦痛を伴うものばかりであったと言うのに。
「だからシャル今はそういう個人的な感情は出さないでって。それにあの変態連中だってもうああやって卵嚢も滅茶苦茶になってホントに死んだんだから天罰って事でいいんじゃない?」
リディアは再びシャルミラの肩を引っ張りながら気持ちを宥める。尤も、実際に手を出してきた者は既に洞窟の内部で滅んだのだから、直接怒りを拳等でぶつける対象がいないのだが、リディアはもしかすると誰かに手を出してしまうと思ったのかもしれない。
それはあくまでも自分のただの思い込みであると信じながら、リディアはある程度はシャルミラの心情に賛成するかのように、盗賊達が卵嚢の内部で遂に本当の意味での最期を迎えた事を改めて認識させようと言葉を渡す。死んだ相手にはどれだけの怒りや恨みをぶつけたとしても、相手はそれに対しては何の反応も見せる事は出来ないのだ。
「そういうリディアだって変態って言ってるじゃん?」
シャルミラはリディアの言い方を聞き逃さず、茶色の瞳を細めながら言い返していた。
「シャル、突っかかるのはやめてよ? 所で、エルフの騎士団の方々は残念でしたけど、盗賊団の方は何かご存じは無いんでしょうか?」
バルゴは2人の少女のやり取りを見ていると、なんだかシャルミラの手がリディアへと延びてしまうのではないかと嫌な予感が走ったのか、シャルミラの前に入りながらバルゴはシャルミラの一歩踏み出したその前進を止める。
シャルミラの表情が治まるのを確認すると、今度は受付の女性の方へと身体を向け、盗賊団の事で情報が無いかを訊ねる。何かが分かれば次の行動の有力な手掛かりになるかもしれない。
「盗賊団の方ですか? そうですねぇ……。これは元々盗賊団自体も決して少なくないですから、特定は難しいと思いますよ?」
受付の女性は記憶を頼りにしているのか、天井に視線を向けながら考えてみるが、盗賊団の数が多いという事実もある為か、例え調べたとしてもどの賊が洞窟に向かっていたのかまでは調べるのは困難であると答えを出した。
「それは分からないですか。所で、ガイウス達が撃退するって言ってた野盗達は……今回の盗賊団と関連性は……う~ん、どうなんだろう?」
リディアは決して特定の強要をする訳では無かったが、ふとリディアは自分達と別行動を取る事を決定させていたガイウスの事を思い出す。ガイウスも確か野盗を相手にするという話をしていたはずだ。
そこにいた野盗達が今回の洞窟内にいた盗賊団との関わりがあるのかどうか、一瞬は有力な手掛かりを提供したかのような錯覚を感じたが、そもそも盗賊団の特定が出来ていないのだから、どちらにしても話が進まない事を実感してしまう。
「実際にガイウス達が相手してる野盗どもに会ってみないと分からないと思うよ。受付に聞いたってもうそれ以上は何も情報は入らないだろ」
マルーザはもうギルドでは盗賊団に関する新しい話を聞く事が出来ないと悟り、一旦この話はここでは打ち切る事を計画する。
ギルドの酒場の出入り口に一度、赤に黒を混ぜ込んだ色を見せた影のような顔を向けてから、暗躍していたであろう盗賊達の事を思い浮かべてみる。尤も、次の目的は盗賊では無く野盗である可能性の方が高いが。
「ごめんなさいね。私達ではもうこれ以上は情報による手助けは出来ません」
折角洞窟の中でまだ何か別のものに繋がる可能性のある有力な手掛かりを教えてくれたマルーザ達にそれ相応の応答が出来なかった事を受付嬢は謝罪する。しかし、やはり調べる事が出来ない話に関してはもうどうする事も出来ない。
「所で、もう日も暮れちゃってるけど、ガイウスさん達の方は上手く行ったのかなぁ? リディアはどう思う?」
シャルミラはふと窓に視線を向けると、空が橙色に染まり始めている事に気付き、自分達と違う任務に向かっていたガイウス達を思い出す。答えは凡そ想像は出来ていたが、リディアからの直接の返事を聞きたかったらしい。
「いや、まあ……ガイウスの事だからきっと上手くは行ってると思うよ? ただ、本人が帰ってきてないから確信はちょっと無理だけどね」
唐突にガイウスの話題を持ち出されたからか、リディアも最初は戸惑うような素振りを見せていたが、最終的な答えは無事であるだろうというものだった。それでも、やはり本人達の姿を実際に見なければ絶対という結論には辿り着く事が出来ないようであったが。
「もう夜になっちまってるけど、リディアだったらどうせ援護に行くとか言い出すんだろ? 行くならわたしも賛成するし、同行もするけどね」
厳密にはもうすぐで夜になる、と言った方が正しかった可能性があるが、マルーザからするともう殆ど夜の時間帯にしか見えなかったようだ。そして、リディアの性格を理解しているマルーザとしては、この時間からガイウスの所に行くと言い出すものだと予想していたらしい。
「ちょっと私達も疲れちゃってるけど、でもガイウス達がまだ苦労してるってなら行かないとなんか仲間としてちょっと悪い気がしますから、行くつもりではありますよ」
果たして、本当にリディアはこの時間からでも行こうと本心で思っていたのだろうか。
何となく援護に向かうものだと信用されていたから、話を合わせる為に行く事を考えていたと口に出していたように見えたのは果たして気のせいなのだろうか。
それでも、出入口を見つめながら、ガイウスの無事を頭でイメージはしていたようであるが。
「今からもう行っちゃうの? ちょっと休まないと不味くない? あたしは今からまた戦うのは……」
リディアが行くのであれば自分も同行する事になるのかと感じたシャルミラは、もう消耗しきった状態であった為、今の状態で戦う事に恐怖のようなものを感じていたらしい。まだ殴打を受けた痛みは完全には消えてはいないのだから。
「シャルはいいや。それだけボロボロだったらちゃんと休んでた方がいいって。その脚でよくここで立ってられてたよね」
最初の言い方はまるでシャルミラを見捨てるかのようなそれにも聞こえる可能性があったが、リディアとしてはただ痛みが残る身体では戦いの継続が無理だと思ったから、痛みを抑える事を優先させてほしいという配慮をしたつもりだったのだろう。
スカートの下から見えている脚の大きな痣は明らかに痛々しいそれをしており、普通に立っているだけでも非常に辛いとしか思えなかった。
「……じゃ、悪いけど、ちょっと甘えさせてもらうね。逆に邪魔になっちゃ悪いし」
今になって、ようやくシャルミラはカウンターに左の肘を乗せながら、体重をかけるようにして脚に自分の体重がかかるのを軽減させようとする。ただ立っているだけであればまだ耐えられたのかもしれないが、戦うのであれば全身に満遍無く負担がかかる為、脚に痛みを残しているのであれば、それは想像するだけで痛みが倍化してしまう可能性すらある。
これから予約を取るであろう宿屋の部屋で身体を休めるのが最良な選択だろう。
「そうだ、所でメル達って何やってるの? ずっと席にいるみたい……ってあれ? 誰かと喋ってる」
リディアはここでメルヴィとジェイクが席で座り続けている事に気付くが、ただ座っているだけでは無く、すぐ側で立ちながら話しかけている弓使いのような軽装の女性の姿も確認が出来た。何かを話している様子であったが、ここでは勿論話の内容は聞こえてこない。
「ホントだ。相手は女の人だからナンパとかじゃないのは確かか」
マルーザもリディアに釣られるようにメルヴィの席へ顔を向けるが、確かにそこには胸当てを装備した女性の姿があり、座っているメルヴィに何やら色々と話かけているような雰囲気を感じ取る事が出来た。ややふざけたような解釈をしているかのような素振りも見せるマルーザであったが、女性が女性に対してのナンパはあまり考えられない為、きっとマルーザもわざと言ったに違いは無い。
「見た感じはメルヴィの方がなんか訊ねてるみたいだね」
バルゴも同じくメルヴィの席を確かめる。見知らぬ女性側の方は立ち続けている為、最初こそは女性の方がメルヴィ達に話しかけていたのかもしれないが、興味を持ち始めたメルヴィによって更に詳しい話を求められているに違いないと想像する。
「ちょっと行ってみる?」
リディアもやはりどのような話をしているのか知りたいと思っているはずだ。シャルミラに声をかけ、共に席に戻ってみるべきかを聞いてみた。
「そうね、もう成功の報告はもうしたんだし、カウンターからは離れても大丈夫よね」
元々ギルドの酒場に入ったのは、任務の報告の為である。それが済んだのだから、シャルミラだってこのカウンターから離れたとしても何か問題が起こる訳では無いというのは理解していた。そして、シャルミラだって何を話しているのかを知りたいはずである。
――リディアは一旦カウンターから距離を取る――
「ねぇメルぅ!! 何の話してるの? 私にも教えてよぉ!」
リディアはメルヴィが位置しているテーブルに歩み寄りながらメルヴィに声をかける。テーブルに辿り着いたと同時に話を聞く事が出来るように計画したのだろうか。
「あぁリディア、報告の方は済ませたの?」
フレンドリーに寄ってくるリディアに対し、メルヴィの反応はややぎこちないものがあったが、まずは受付ですべき事を果たしたのかを聞こうとする。
長い付き合いであるジェイクの時のような態度はまだ見せる事が出来ないのだろうか。
「うん、それは今済ませた所! 所で、そこのお姉さんと何の話してたの?」
リディアのテンションに合わせてくれないメルヴィであるが、それでもリディアはまだ何かを信じていたのかもしれない。メルヴィのまだ避けているかのような態度に対しては一度目を瞑るが、やはり聞きたいのは話の内容だ。
テーブルに到着してから気付いたが、その女性は外見は人間に似ているが、よく見れば耳が尖っており、エルフの特徴を見せつけていた。
「折角なんだからあたしも聞きたいかな。別に不味い話をしてたって訳じゃないでしょ?」
シャルミラはテーブルに左手を押し付け、それを杖のように体重をかけながら話を求める。決して秘密の話をしていたとは思えなかったから、ここで話の全てを明かしてほしいつもりだった。
そして、どこかで見た覚えのある軽装の装備と、そして特徴的な尖った耳を見ると、自分達が見たあの惨劇の続きを更に知る事が出来るのだろうかと一瞬思い込んでしまったようでもあった。
「それは別にいいんだけど」
メルヴィは話を受け取っていただけであり、それを仲間達に話しても良いか駄目かの決定をする権限は無いだろう。座りながら、話をしても構わないと答えたが、途中で止められていた話の説明をし始めたのはメルヴィでは無く、メルヴィと対話をしていた女性の方であった。
「実は私、あの洞窟に調査に向かったファイアリーハートの騎士――」
エルフの種族と思われる長い金髪の女性はどこかに恐怖を抱き続けているかのようなやや弱々しい口調で、また聞き覚えのある名称を口に出そうとしたが、それは出入口から響いた大声が妨害する事になってしまう。
――突然酒場のドアが開かれると同時に、派手な音量の声が内部に届けられる――
「突然悪いな皆ぁ!! 突然だけど、盗賊団の1つ潰してきたのと、そんで見て分かると思うが、土産も持って来たぜ!!」
大声を放っていた本人は出入口の前に立ったまま、自分の功績を誇らしげに受付の職員に伝えるが、出入口とカウンターの距離の間の位置にいる他の客達にもハッキリと伝わっており、実質的には酒場の者達全員に説明をしている事になるだろう。
功績を大声で言い放った者は、よく見ると形だけは人間の形をしていたが、頭部には鳥を思わせる灰色の嘴を携えており、頭部を覆うのは紺色の羽毛で、鳥の人間、即ち鳥人である事が分かるが、誰が聞いても男性であるとしか思えない勇ましい声が酒場内に満遍無く響き渡ったのだ。
更によく見れば、鳥人の男は黄色のアクセントを付けた黒のコンバットスーツを着用しているが、男の左肩には何か大きな物が担がれていたが、それは縄で両腕と両脚をきつく縛り付けられた人間の男であった。鳥人の左肩に腹部を接触させる形で、頭部が下になるように、そして鳥人と同じ方向に頭が向けられていた。鳥人の男の言葉を察すると、盗賊団の団員の1人なのだろうか。
「とりあえず、職員誰でもいいから、こいつの連行頼むわ! もうこいつ以外全滅させちまってるから」
もう1人、外から男が入ってくる。今度は鳥人では無く、純粋な人間の男性であり、濃い緑のコートを着用した成人程度の年齢だと思われるその男性は、鳥人の男の左に位置するなり、担がれている盗賊団の男を指差しながら、鳥人の男程では無いにしろ、それなりの音量の声で盗賊団の男の拘束を頼み込む。
その2人の姿は、リディア達であれば見覚えが無いはずが無かったと言えるだろう。
実は最近はモンスターハンターRISEの発売とかで小説作業が停滞しておりました。以前はモンスターハンターの小説も、まあ何年も前の話ですが、執筆してた時はゲームでよくネタを探してました。今はオリジナル作品なのでありとあらゆる方面からネタを探してますが、新作ゲームが出るとどうしてもそちらに時間を取られるせいで投稿頻度も……。本当は駄目な事ではあるんですが、これは治らない症状かもしれません……。