第25節 《完了を果たした魔窟での地獄 関わりがあったのは暴戻の野盗》 1/5
今は大型連休の最中で、今は外出があまり推奨されてない状況でしたので、執筆の方を進めてる身でありました。今回の話で魔窟の話は終わりになると思いますが、脱出寸前でもまだまだ気は抜けません。よりによって相手は凶暴な魔物ですので、簡単には脱出を認めてくれないでしょう。
洞窟の最深部に潜んでいた骨の外観の魔物
この魔物に絡んでいたのは、法に従う善人ばかりでは無かった
目的は不明だが、社会的に除外される集団も関わっていたらしい
野盗であったが、この者達の思い通りにはならず
魔物に敗れ、結果的に卵嚢に取り込まれる惨劇に
一部の者は野盗の目的や正体を知る為に、洞窟の内部から生き延びる理由を意識する
「ちょっとシャル立ち止まらないで! 早くこっち来てよ!」
黒の戦闘服で身を固めているリディアは、折角壁の亀裂から卵嚢の外へと脱出したというのにその場で走る速度を弱めていたシャルミラに対し、手で自分の場所へと来るように振りながら呼びかけた。
「あぁごめんごめん! たださぁ、ちょっと気になる事があって。ねぇあれ見てよ。分かる?」
緑の魔導服を纏っている少女のシャルミラは自分が集中する原因となっていた場所を指差しながらリディアの元へと駆け寄る。
どうしても地面から湧き出始めている緑の発行色の液体を見て欲しかったのだ。
「あれって……。って何あれ……?」
リディアはシャルミラの指の先を辿るようにして目的の場所に目を向けるが、それは薄暗い洞窟の内部で目立つように光を見せていた為、すぐにリディアも発見する事が出来た。それは地面から湧き出ているが、水とも熱湯とも違う奇妙な色を帯びていたのだから、放置しても構わないという発想になる事は無かった。
「まああたしもあれが何かは分かる訳無いけど、皆にはちゃんと伝えた方がいいわよねあれ」
緑の発光色の液体の正体はシャルミラには理解が出来なかったが、きっと卵嚢の外ではまだ戦いを継続させているであろう他の仲間達に伝えた時に何かが分かるかもしれないという希望もあったのだろう。
――伝える前に、相手の方からやってきた――
「シャルぅ!! シャルだよね!? 無事だったんだね!?」
青と白の毛並みを持つ浮遊生命体の一種であるバルゴの声であった。卵嚢の側から出てくる様子を確認していたのか、浮遊しながら一直線にシャルミラの目の前にやってくる。骨の魔物と戦いながらも、ずっとシャルミラの安否を心配していたのだろう。
「あぁバルゴ! うん大丈夫! そもそもあたしが死ぬ訳無いでしょ?」
自分にとっては共に長い間旅をしてきた友達である。バルゴの事を見たシャルミラは、自分を待ってくれていた存在がいたという安堵と、そして折角待ってくれていたのにいつまでも戦いで消耗した体力を表情等でアピールする訳にはいかないという2つの事情が合わさり、乱れかけていた呼吸が自然と整い始めたような気分を覚えた。
生還するのが当たり前だ、とでも言わんばかりの笑みを見せながら言い返す。
「ぼくもそう言うと思ってたよ! それよりすぐあいつの近くから離れてよ! もう瀕死に陥ってるみたいだから、巻き込まれるよ! リディアもね!」
それは本心だったのか、自分の事を安心させる為の言葉だったのか。
しかしバルゴは卵嚢の主であった骨の魔物の近くからすぐに距離を取るように話す。シャルミラ達を発見する直前に明らかにその場に倒れ込みそうな程に悶え苦しんでいたのを目撃している為、近くにいれば確実に下敷き等の被害を負う事になるはずだ。
骨の魔物から離れる方向に指を差しながら、バルゴは自分が先頭を進むように浮遊移動を開始する。
「あいつが死にそうになったのは多分あたし達のおかげなんだけどね!」
バルゴの後を追いかける形で、リディアも駆け足で魔物から距離を取る。隣にはシャルミラもいるが、卵嚢の内部で暴れていた4本の腕を持つ赤い生命体が骨の魔物の生命を司っていたのは間違いが無かったのかもしれない。
「そうだ、一応バルゴにも伝えときたいんだけど、さっき地面から変な緑の液体が出てきてたんだけど、なんか知ってる?」
シャルミラはリディアが伝えなかった現状の話をバルゴの背中を見つめながら、そして走る脚を止めずに渡す。
それは地面から湧き出ていた緑の液体の話である。
「地面から液体……って多分あれだと思うよ! ぼく心当たりあるからここ、っていうかもう洞窟からは出た方がいいね!」
バルゴは地面から溢れている緑の液体の正体を理解しているのだろうか。
シャルミラには何故液体の事を理解しているのかは分からなかったが、説明を聞くには一旦この洞窟から脱出する必要があるらしい。事情を把握しているであろうバルゴを信じて付いていくしか無いだろう。
「あの液体の事なんか知ってるの!? ちゃんと分かるように教えてよ!」
バルゴの後を追いかけながら、シャルミラは後方に指を差しながら液体の話を求めるが、バルゴは止まってはくれなかった。
ただ、後ろだけは振り向いてはくれたのだが。
「悪いけど今は立ち止まって説明してる余裕は無いよシャル! まずはマルーザさん達と合流だよ!」
バルゴは確かに液体の事情は理解しているが、合流の方を優先にさせようとする。バルゴからすれば、シャルミラ個人に詳細な説明をここでしなかったとしても決してシャルミラにとって重篤な事態が発生するものとは思っていなかった事だろう。
しかし、シャルミラはバルゴの意識していた優先順位の意図を読み取っていたのかどうかは分からない。
――そう距離の遠くない目的の者達の場所へと辿り着く――
距離は離れているとは言えなかったが、突き出た岩や破壊したのであろう卵らしき残骸が視界を遮っていた関係で、いくらか進まなければ目的の場所自体を目視する事が出来ず、今まで消耗した体力の関係で実際の距離以上に長い道を進んでいたと錯覚をしていたかもしれない。
「マルーザさん! シャル達連れてきたよ!」
バルゴは何やらジェイクとメルヴィに何かを話している様子であったマルーザの影のような赤黒い背中を目視しながら呼びかけた。元々断りを入れた上でマルーザ達の元を離れていたのか、目的を果たした事をより明確にする形を取っていた。
「さて……見た感じはもう卵は全部おじゃんに……あぁバルゴか。ご苦労さん」
恐らくはマルーザもバルゴに呼ばれていた事には気付いてはいたと思われるが、ジェイクとメルヴィと話し合っている途中であったからか、切りの良い場所を見つけたかのようにバルゴへと振り向くと同時に、目的を果たした事を労う言葉を渡す。
マルーザの反応を見た事で、他の者もリディア達の生還を実感したようである。
「シャルちゃん無事だったんだぁ! リディアも何とかみたいな感じだね!」
赤いローブの内部から青い双眸を光らせているジェイクは今日初めて知り合った少女であるシャルミラを見るなり、言葉の通り無事に戻ってきた事を喜んだかのような声を上げた。
リディアに対してはどこか序と言う雰囲気が拭い切れなかったが、名前を出してくれた所を見ると、放置しようという目論見は無かったようである。
「無事で当たり前!」
本当の意味で無事かどうかはさておき、シャルミラは右手を腰に添えながら誇らしげに言い返した。しかし、緑の魔導服には卵嚢の内部で付けられたであろう小さな肉片が付着していたり、殴打の痕が顔や脚に見えていたりと、無事ではあるが無傷では無いのは明らかであった。
それでもシャルミラの今の表情だけは生気に満ち溢れていたと言える。
「悪いけど私だって死んでたまるかって思ってたからね」
シャルミラに続くように、リディアもシャルミラと似た態度でジェイクへと言い返した。恐らくは自分達が卵嚢の内部で養分と化した形で死んだものと思われていたのだから、そんな予測は外してやるのが私達だとでも言わんばかりの強気な態度を見せつけていた。
「とりあえずあんた達には伝えとくけど、もう卵の駆除は済んだからここに長居する理由は無くなったんだよ」
卵を全て破壊する作業自体はリディア達はまず目視をしていなかった事である。
駆除をしている最中はリディア達は卵嚢の内部にいたのだから、マルーザからの説明をされた上で初めて事を理解出来るというものである。
「なるほど、ですね。4人でやってくれてたんですね、私達がいない間に」
リディアは無理矢理に何かしら返事を渡すべきだと意識していたのか、無理矢理に何とか言葉を出していた。どちらにしても、自分達が卵嚢で窮地に陥っている間に外にいた者達4人が本来の目的を達成してくれていたのは事実だ。そこは感心すべき点と言える。
「所でシャル、さっき地面から緑の液体がって話を出しかけてたよね?」
バルゴは全員が集まったからこそ、シャルミラから少しだけ聞いていた液体の話をここで出すべきだと思ったのだろう。
シャルミラの正面に浮遊で移動したバルゴは、先程見たのであろう液体の話の続きをしてもらおうとする。
「うん、言ったけど、あれってやっぱりなんか不味い事なの? 事情知ってるみたいだったけど」
シャルミラにとっては地面から液体が出ているという事実をすぐに皆に伝えたかった事だろう。しかし、バルゴは疑問形でシャルミラに投げかけていたが、当のシャルミラも同じ疑問形でバルゴに訊ねていた為、やり取りの形としては、互いに質問を投げかけるようなものとなってしまっていた。
バルゴも本来であればどのような形で液体が地面から湧き出ていたのかを知りたかったのかもしれないが。
「シャルの言ったその液体だけど、この地下でも溢れてたんだよね。床が全部埋まるぐらいに」
バルゴは小さな手で自分のすぐ下に存在する岩の地面を指差しながら、シャルミラに説明をする。実際に地下には行っていないシャルミラは知らない話だった為、地下の状況をここで明かした。
「地下って、このすぐ下って事? なんでバルゴそんな事知ってんの?」
シャルミラは地下がどの場所に存在していたのかを確認する為に、右足で足元の地面を踏みながら質問をする。地下が具体的にどの場所に位置するのかという質問と、そして何故それについての理解があるのかを聞く。
「ぼくちょっと地下に行ってた、って言うよりは行かされてたんだよね。説明はここじゃ省くけど」
バルゴは蜘蛛の魔物によって地下に引きずり込まれていた為、その時に見た地下世界を思い出したのである。勿論本人の意図に反する形ではあったが。
当然、液体が溢れている現在はもう地下での出来事をここで悠長に説明している時間等は無い。
「でも、地下のあの液体が今溢れそうになってるって言うならじゃあここにいたら危ないんじゃない?」
それを言い始めたのはメルヴィであった。メルヴィの地下にある惨劇の世界を直接目にしていたのだ。液体が人体にどれだけの影響を及ぼすのかも、直接浴びなくても液体に浸かっていた地面や岩の姿を見れば分かる事であった。それらは煙を上げながら溶けていたのだ。
そして、今は酸性の液体が地下から漏れているというのだ。この空間で立ち止まっていれば、惨事は免れないだろう。
「ここはメルヴィに一理有りってやつだね。私は地下には行ってないけど、さっさと逃げないとわたし達も人生終わるだろうね」
マルーザは腕を組みながら、メルヴィの逃げるという決断に賛成の気持ちを見せた。ふと視線をメンバー達から逸らせば、発光色を見せた緑の液体が地面から湧き上がっていたのが分かった。
骨の外殻の魔物は既に動かなくなっていたが、近くで緑の液体が噴き出ている。
「だったら早く逃げましょうよ!? 人生終わるなんて言ってないで早く逃げましょうよ!?」
死ぬという表現を回りくどく説明したマルーザとは対照的に、メルヴィは焦りを覚え始めていた。この洞窟の内部で何が起こるのかが分かっているのであれば、ここから立ち去る事を最優先にすべきだとマルーザと目を合わせながら訴えた。
「だね。じゃ、皆行くよ!」
もう洞窟の内部に滞在する理由は無いという事をマルーザは理解している。
すんなりとメルヴィの要求を受け取るなり、自分が皆を指揮するかのように影のように黒い指を自分の側へと引き寄せるように動かしながら、暗い洞窟からの脱出を決定する。
既に洞窟内の冷気の事等、ほぼ全員が忘れていた事だろう。
――こうして、一同は洞窟の最深部から地上へと戻る事となる――
もう目の前に太陽の光が差し込む出入口が見えてきたタイミングで、突然マルーザは皆とは異なる進行方向を選ぶ事を皆に伝え始める。
「ちょっと悪いけど、私は一旦あいつの所に戻らせてもらうよ」
先頭を歩いていた、というよりは浮遊していたと表現すべきかもしれないが、マルーザは突然宙で停止するなり、皆の方向へ振り向いたと同時に再び洞窟の奥へと用事の為に行く事を伝える。
先頭を進んでいたマルーザの停止によって、半ば強制的に他の者達の足も止められる。
「あいつって……もしかしてさっきの骨みたいな魔物の事ですか?」
リディアはマルーザの言うあいつとは誰なのかがすぐに分かり、まずはその上で本人の口から答えを出してもらう事にする。
「そうだよ。このまま逃げただけだとあの液体が地上にまで出てくる可能性があるから、様子見と場合によってはあの通路の爆破封鎖でもする為に戻るんだよ」
リディアの想像は正解だったようである。だが、マルーザの目的は洞窟の最深部から溢れ出した酸性の液体の現状を確かめる事であり、そして場合によっては地上にまで影響が表れぬよう、液体の噴出を止めるという大仕事まで計画していた様子である。
「言われてみればそうだね。ぼくも逃げる事だけ考えてたからそこまで思いつかなかったよ」
酸性の液体はバルゴ達を半ば無理矢理に最深部から追い出す程に溢れ始めていたのだろう。しかし、いざあの場所から逃げ出した後は、あの液体がどうなるのかという所が気になるのも確かである。
バルゴだって、あの液体が洞窟の内部全てを満たした上で地上にまで溢れてしまう可能性がある事ぐらいは想像が出来た事である。
「それは無理も無い話だ。普通生き物なんて酸性の液に入ったらまず助からないからね。とりあえず私は様子見してくるから、あんた達は先に行っててくれる? ギルドの方に伝える必要もあるし」
あの場では酸性の液体が地上にまで溢れたらどうなるかなんて考えている余裕は無かったはずである。
マルーザは誰を責める訳でも無く、寧ろ自分達の不始末をマルーザ自身で片付ける為に引き返すようでもあった。そして、これはギルドからの依頼である為、完了した事を報告する必要もある。
「外で待ってるってのは駄目? そんなに時間かかるの?」
赤いフードのジェイクは、自分達だけでマルーザを置いて町へと行くよりも、確認から戻ってくるまで皆が外で待っていれば良いのでは無いかと問いかけるが、やはり時間の問題もあるのだろうか。
「いや、もし爆破でもして塞ぐっていうなら時間はかかっちゃうんじゃない?」
マルーザの計画の中に混じっていた爆破という内容をメルヴィは聞き漏らしておらず、そしてそれ自体が楽な作業では無いという事も容易に想像する事が出来た。
もし通路を岩等で埋めてしまう作業が必要になるのであれば、僅かな時間では達成が出来ないとメルヴィは考え、ジェイクにそれを説明した。
「でも、マルーザさんだけで平気なんですか? 誰かと一緒の方が――」
シャルミラは単独行動をしようとしたマルーザに対し、同行者を求めるべきでは無いかと提案をしようとしたようであるが、途中で遮られてしまう。
「悪いけどわたしだけの方が都合がいいの。わたしは浮いてるからいざって時は足元がどうであろうが関係無いし。じゃ、こうしようか。5分経って戻ってこなかったらギルドに報告に行ってちょうだい。案内はバルゴだよ」
折角助けの手を伸ばしてもらえる可能性があったというのに、マルーザはそれをあっさりと拒否してしまう。自分の特異な身体的な特徴が足元の影響を受けない特性がある事を自分で理解しているからこそ、地面に足を付けている人間達がいると逆に足手纏いになると思ったのだろう。
浮遊が出来る以上、本当に酸性の液体が地面を支配していたとしても、一切の影響が無い者こそが適任なのだろう。
「ぼくは確かに町までの案内は出来るから、ぼくは洞窟の奥には戻らない方がいいのかな」
ギルドに報告に行くとは言っても、ギルドが設置されている町への道を把握しているのは、この場ではマルーザとバルゴしかいないのだ。
マルーザが抜けるとなれば、道を知る者はバルゴだけになってしまう為、案内する者を残すという意味ではバルゴは洞窟の深部の確認には行くべきでは無いのかもしれない。バルゴは自分も浮遊が出来るとは言え、マルーザとの同行とは別の任務を請け負う事に対しては不満の様子を見せる事は無かった。
「じゃ、わたしは確認してくるよ。命と縁があったらまた会おうね」
バルゴに皆の町への案内を任せると、マルーザは洞窟の奥へと再び姿を消してしまう。元々肉体が影のような形状であった為か、明るさが無いに等しい暗い洞窟の奥へ行けば行く程に、自身の肉体が洞窟の暗闇の中へと混ざり込んでいく。命が次また会う時まで保たれているのか分からない事を暗示させるかのような言い方を残しながら。
「いや、そこまで命の危険は無いと思うけど……」
再び洞窟の最深部まで行って確認する行為に全くの危険が伴っていないとは言い切れないかもしれないが、それでもリディアからするとあそこまで言う程では無いと思う事しか出来なかった。
苦笑いを浮かべているリディアではあるが、あれはマルーザ特有の性格である為、ただ聞き流すしか方法は無かった。やめろと言った所で、本人は聞かないだろう。
「まあいいやリディア、一応マルーザさんもああ言ってる訳だから外に出ちゃお? あたしもそろそろ座り込みたいからさぁ……」
相変わらずだなという表情を作っているリディアの後ろから肩を引っ張ったのはシャルミラであった。
マルーザであれば単独であったとしても、帰らぬ者になってしまう可能性は低いだろうと読んでおり、そして洞窟内での戦いでシャルミラは随分と消耗もしていた為、洞窟から出るなりすぐに身体を楽にさせたいと本音も零す。
気味の悪い触手やゾンビと化した賊達からの殴打は、未だにシャルミラの身体に痛みとして記録されている為、遂に洞窟から本当の外の世界に出る事が出来ると考えた途端に、突然身体から力が抜け始め、思わず右足が一歩乱暴に前に踏み出された。
それは前方に倒れそうになった身体を何とか支えようとした為だ。
――洞窟の最深部へと戻ったマルーザは意外な光景を目にしていた――
「あれって……氷漬けになってるのか?」
既に道中には何もいない事を理解していた為、マルーザは浮遊した肉体を滑らせるように高速で最深部へと戻ったが、最深部へと繋がるやや狭い通路を通り過ぎた時に妙な光景を目視する事になった。
崩れ落ちた骨の外殻の魔物の周囲に広がるように、氷が地面を冷凍させており、それに伴い、これから溢れ出ようとしていたのであろう件の緑の液体も氷漬けになっていた。まるで氷が地面に対して蓋をしているかのように、それ以上の液体による浸食を食い止めていたのだ。
「じゃあ別に慌てる事も無いみたいだね。あいつも死んだし、ここは平和になったって事でいいのか」
骨の外殻の魔物も卵嚢で命を繋いでいたのかもしれないが、それを破壊された事で絶命に至ったのだろう。絶命と同時に体内から激しい冷気を放出させる事で、周囲を氷漬けにさせたが、それによって地下にある液体までも冷凍させたのだろうか。
勿論とでも言うべきか、これは骨の外殻の魔物が地上に住む者達が酸の液体に脅かされる事を防ぐ為に身体を張ってそれを防いだ、という訳では無いだろう。絶命する時に周囲に冷気を放つ体組織を持っていた、と予想するのが妥当である。
「一応ここの出入り口は封鎖しとくか。最低でもここだけは解放させてたら次何が起こるか分からないしなぁ……」
マルーザは何となく背後、自分の後ろに存在していた最深部への出入り口を横目で視界に入れると、この後に行う自分の行動をイメージしながら、魔力でヌンチャクを実体化させる。
浮遊しながら華麗に後退をしながら出入口を通り、通路を滑るように駆け上がり、そして最深部の1つ手前の繭で閉じ込めた獲物を保管する部屋の所にまで戻った。
ここでする事は1つであった。たった1つの最深部への通路の天井の岩を崩し、封鎖する事であった。
――左手を天井へ向け、炎の力を蓄積させる……――
通路から距離を取っているマルーザであるが、前方の斜めに向かって伸ばした左手の先に持っているヌンチャクを腕と垂直になる形で回し、圧縮させた炎を形成させる。それを力任せに天井へ向かって投げつけるように左腕を振りかぶる。
生成された炎は爆弾のように天井で砕け、崩れた岩が見事に最深部への出入り口を塞いだのである。もうここまでやれば自力では岩を避けるという事は不可能に近い。
元々液体は氷漬けになり、もうあれ以上の浸食は見せないものと予想はされていた可能性があるが、何かあった時の為に、最深部へ入る事自体を不可能にさせてしまうのは間違いでは無い判断と言えたはずだ。内部にいたのは危険な魔物と、そして残念ながら死を迎えてしまった捕らえられた者達で、そして今は地下が酸性の液体で充満した後なのだから、死体そのものも溶けてしまった可能性の方が高い。
「さて、帰るか。ギルドの連中はなんて言ってくんだろうねぇ」
確かに卵の駆除と洞窟の主の討伐は完了させたが、犠牲となっていた者が存在していた事を伝えると何を言われるのか、想像すると面倒な気持ちになる。
洞窟の出口へと向かいながら、犠牲者がいた事をどのように説明すべきなのかを考えていたが、それはあくまでも自分の仲間達が見た光景であったし、マルーザ自身はそれらの犠牲者を直接目にした訳では無い。そして目の前に魔物がおり、そして酸性の液体による突然の浸食もあれば、死体を救い出す事も楽な作業とはならない。
洞窟を出る理由は2つある。
1つはギルドへの報告の為に我が身をその場所へと届ける事。2つは自分と共に危険な世界を身に受けた仲間達に自分の姿を見せる事である。
それにしても魔窟での話が長かった気がしますが、どうしても内部の凶悪な環境を描きたかったのと、それぞれのキャラの活躍を描く関係でどうしても長くなったのかなと思ってます。投稿頻度も問題があった気がしますが、これは永遠の課題になるかもしれません。本来は毎日投稿すべきらしいですけど、あの文量ですと多分難しいかも……。