第24節 《熱気に塗れた卵嚢の地獄 番人は暴力と臭気で迷子を狂わせる》 3/5
今回は卵嚢の内部で彷徨ってた人間の成れの果て達が準ヒロイン候補であるシャルミラを囲うという少し性的に危険なシーンが展開されます。流石に本当の意味では18禁にはなりませんが、それでも身体を狙われるのは少女キャラの立場で考えるとあまり良いものでは無いでしょう。法的な目が届く事の無い世界で生きる者達にとっては何をした所で一切の罪悪感を覚えません。
リディアはすぐに仲間でもあり、友達でもあるシャルミラを助け出さなければいけない
卵嚢の床の奥から現れた腐敗した人間達がシャルミラを取り囲んでいる
既に社会的に抹殺されたような者達であるから、法の裁きを受ける事もまずありえない
やりたい放題にその場で犯し尽くそうと企む者達の僅かな娯楽の時間の話がそこに存在したのだ
「オマエハワカッテルハズダ……。オンナハカナラズココデセンレイヲウケテカラトリコマレルゼ?」
実はもうシャルミラの身体、脚の方に別の個体が触れている事にシャルミラは気付き始めていたが、動揺しているシャルミラの目を離さず、馬乗りになり続けているゾンビはこれからの未来を伝える。
馬乗りになっているゾンビ自体はただシャルミラにこれから先を説明しているだけで、接触に該当するような行為はしていないと言っても間違いは無いが、他の者が実行をしているのだ。
「……って、何……してるのよ!? 触ってくるなっつの!」
シャルミラは遂に気付いたのだ。馬乗りになっているゾンビの背後で、別の個体が自分の脚に手を触れている事を。茶色の瞳に浮かんでいた怯えに近いような揺れからすぐに怒りへと切り替え、自分の足元に位置しているであろう自分の身体を触ろうとしているゾンビに蹴りを加えようと脚を暴れさせる。
軽装とも言える緑のスカートであれば、どうしても脚の露出は避けられず、社会的に抹殺されたに等しい存在であれば、折角の獲物の身体を味わってやろうと企むのは本能の仕業なのだろうか。
――ブーツの裏で確かにゾンビに一撃を加えたであろう感触を感じ……――
どこに命中したのかは分からないが、無抵抗な自分の脚に手を出そうとしたであろうゾンビの身体に仕返しの蹴りが命中したのは喜ばしい事である。
そして何とかして今度は自分の腕や首元、そして直接腹部に跨っているゾンビどもを何とか蹴散らしてやろうと意識を強くさせるが、蹴りを入れられたゾンビはそれで倒れていた訳では無かったはずだ。
「それに……あんた達もいつまで纏わり付いてんのよ!」
蹴りで自分の足元にいたゾンビを払い除けたと思ったシャルミラは今度は自分の腕や首元を押さえ付けているゾンビどもに炎の魔法で痛い目に遭わせてやろうと、直接押さえ付けられている訳では無いが、折り畳まれるようにして押さえられている右手の下に押し付けられるような形となってしまっている左手に炎を宿らせる。
何とか掌を、自分の右腕を折り畳むように拘束させているゾンビの方向へ向け、そのまま炸裂させてやろうと意識を集中させる。
このままでは自分の身が危ないのは言うまでも無い。悪臭の酷いこのゾンビ達から離れなければ気分にも害が及んでしまう。
――その時に、突然太腿を踏み付けられ……――
「んぎぃ゛い!!」
まるで骨にまで伝わるような鈍い激痛で身体が一時的に痙攣してしまい、同時に茶色の瞳も両方が強く閉じられる。左手に溜め込んでいた炎の力が消えてしまう程の痛みで、激痛の元となった一撃はそれで終わる事が無かった。
「オマエノアシハヒトヲキズツケル!!」
それは跨っているゾンビの声では無く、その背後にいるゾンビの声であった。声だけは聞き取ったシャルミラであったが、脂汗が滲む程の激痛の影響でまともに目を開き直す事が出来なかった。呑まれる時に触手に受けた殴打の痛みが殆ど抜けていなかったのだ。ここに来て僅かに引いていたはずの痛みがまた蘇ったと言えるだろう。
どうやら先程蹴られたゾンビが怒りを感じ、自分に痛い一撃を与えてきたシャルミラに力任せな仕返しを企んだのだろう。
「……っ……う゛……」
まともに脚を動かす事が出来るのかどうかも分からないぐらいの激しい鈍痛であり、力の強さは人間の大人以上かもしれないと意識してしまった程である。
――意識は保っていた為、諦める事だけはしなかった――
次に何をされるのかは分からないが、どちらにしても自分に有利な展開がやってくる事は無いとシャルミラは意識し、激痛で痙攣し始めた脚で何とか再び近寄ってきているであろうゾンビに蹴りの一発や二発を再び喰らわしてやろうと、感覚を失いかけている中で両脚を関節から曲げる形で引く。
激痛で弱気になっていたが、それでは相手の思う壺でしか無いと思い、弱気では無く闘志へと切り替えるように意識し、確実に近寄ってきているであろうゾンビに再び突き出すように蹴りを放とうとする。
「マダクルカ」
掠れた声だけでは無かった。
右脚を蹴りに使っていたが、ゾンビに足首を掴まれ、受け止められてしまう。掴まれた事は当然シャルミラも把握したが、引き戻そうとしてもゾンビの力には勝てなかった。
「また……変な事する気!? マジで殺すからね!」
喉の奥から無理矢理捻り出すようにシャルミラは怒声を放つが、いくら右足を引こうとしても、ゾンビが掴んでいる手から逃れる事は出来なかった。
合計で4体のゾンビに纏わり付かれているこの状況を抜け出す事が出来ればゾンビ達に手痛い反撃を与える事が出来るのだろう。しかし、ゾンビ達は自分達の思い通りにさせる道しか認めない。
「ジャアオマエガコロサレロ」
シャルミラとしては自分の右脚を押さえ付けた奴に対して言い放ったつもりだったのかもしれない。しかし、身体の位置や視線を自由に動かす事が出来ないシャルミラのその声は、目の前にいる跨っているゾンビに伝わってしまったようだ。抵抗が出来るような体勢では無い事を理解しているゾンビは、一度淡々とした口調を放つが、口調に反し、その後の行動があまりにも暴力的過ぎた。
――突然シャルミラを横殴りにする……――
「!!」
跨っていたゾンビからすれば、目の前の少女の言動が生意気に見えたに違い無い。自分達の命を奪うような暴言を飛ばしてきたのだから、言った本人に死ぬ程の苦痛を与えるべきであると判断したようだ。
最初はただ突然自分に入れられた激痛をそのまま顔に受けるだけであったが、シャルミラの中で痛み以外の感情も現れ始めてしまう。
一度だけの殴打で終わるはずも無く、続いての殴打が再開されてしまう。先程使わなかった左腕の先端にある手が握られ、シャルミラを横殴りにする。
「オマエハジゴクイキダ」
声自体は荒げている様子は無いのだが、押さえ付けられている少女を殴っている両腕だけは凶暴そのもので、この場所で少女を殴る鈍い音が短く響き続ける。ゾンビはまるで止まる事を見せる事も無くシャルミラを殴り続ける。
――殴打に歯向かう事も出来ず、シャルミラは……――
(う゛あっ゛……!! 誰……か! リ……ディア……!)
顔に激しい衝撃が連続で入れられ、抵抗も出来ずに痛みばかりが蓄積されていく中で徐々に恐怖が現れるようになっていく。
別の者に救助を求めたくなってしまうが、ここにいるのはリディアしかいないが、直接声を出す事は出来なかった。殴打の一撃が強すぎる為、叫ぶ事すらも叶わない。拳が命中した時に漏れる短い悲鳴以外が少女の口から出る事は無かった。時折混じるのは、口内で出血した血液だ。
「ソロソロダナ。アトハオマエガヤリタイコトヲヤッテヤレ」
シャルミラから抵抗や罵倒をするだけの力を奪い取るまで殴り続けた、跨り続けていたゾンビは背後を向きながら別の個体にだろうか、話しかけ始める。そしてシャルミラに向き直した後に、苦痛の中で荒い息遣いを見せ、尚且つ茶色の瞳からも生気が消えているかのように細くなった目元を確認するなり、ゆっくりとその場から離れてしまう。
離れた理由は、相手を解放する為とは考えにくい。背後にいた仲間のゾンビにバトンタッチでもするかのような言葉のせいで、シャルミラに入り込んでくる苦痛がまだ止まらない事を意味しているようにしか見えなかった。
「アリガトウヨ。ヒサビサノワカイコタイダ。オマエ、ワルクオモウナヨ?」
跨っていたゾンビがシャルミラの上から離れると、その背後に見えたのは先程シャルミラに蹴りを受けた別のゾンビであった。
感謝の言葉を渡す対象にしたのは、跨るのをやめたゾンビだったのだろう。そして、次の言葉を渡す対象にしたのは、勿論シャルミラである。人相も形も悪い目が真っ直ぐシャルミラの弱り切った表情を捉えている。
自分達ゾンビのような腐敗した皮膚とは比べ物にならないような生気の灯った身体を嫌らしい目で見回し、唐突にゾンビはシャルミラの足元で片膝を付きながらしゃがみ込む。
――突然両方の足首を掴み出し……――
元々は先程まで跨っていたゾンビからマウントパンチを受けた身である。殆ど満身創痍とも言えるシャルミラの状態ではあるが、確かに足首に圧迫感が加えられる事に気付く。殴られた事が原因で僅かに視界が霞んでいたが、それが鮮明に戻る時に、とんでもない形になろうとしていた事に更に気付くのであった。
脚を持ち上げられるのと同時に、広げられる事もされたのだ。
少女という性別で考えれば、それは絶対に無視も放置も出来ない仕打ちである。
「な……何……して……って何するつもりよ!!」
腕も押さえ付けられたままで、そして首元も押さえ付けられたままだ。まるで石像にでもなっているかのように無言で押さえ付けているままだが、今のシャルミラにとっては脚を無理矢理に広げられる事の方が何よりも精神的な苦痛であり、スカートの服装でそれをされればどうなるかなんて、僅かな思考を走らせるだけで理解出来る話だ。
何とかしてゾンビの力に逆らおうと、押し返すように脚に力を込める。しかし、ゾンビの2本の腕に勝つ事が出来ず、無防備になりつつあるみっともない部分への不安が瞬時に激増していく。
「クサラセルマエニオマエノカチヲミサダメテヤル」
この卵嚢の内部で長時間閉じ込められた時に、ここにいるゾンビ達のように肉体が爛れてしまうのだろうか。元々は人間だったからか、異性の人間への欲求は忘れていなかった様子であり、ゾンビの男は性別による欲求を果たしてからシャルミラをこの卵嚢の中で永遠の時を過ごさせようと計画したのだろう。
殴打等の影響で痣が目立つ太腿の付け根を包み込んでいる白の下着が残酷な程に目視出来るような形となって外に出てしまっている。スカートの効力は一切そこには存在していなかった。
「ふ……っざけんなっつの!! 見るな! 殺すぞ!」
シャルミラは少女として恐らくは当然と言えるような態度で、自分の両足を自分の顔の側にまで倒しながら下卑た表情を作っているゾンビに無駄な罵倒をぶつける。罵倒自体は全てが否定や殺意の籠ったものではあるが、直接手を使った抵抗が出来ず、自分の脚の付け根に顔を近づけるゾンビに対し、この場で今までまだ見せた事の無いような凄まじい程の怒りを蓄積させていく。
だが、いくら怒りを増幅させた所で、直接ゾンビをぶっ飛ばす等の反撃を一切行う事が出来ない以上はもう救いの無い光景でしか無かった。
「オレハモウシンデルヨウナモノダ。ソレニシテモヒサビサナゼッケイダナ」
ゾンビはシャルミラから殺害を仄めかすような罵倒を受けたのにも関わらず、怒りに身を震わせているはずの少女の下半身に顔を近づけていく。無理矢理に脚を押し倒している両腕の力を一切抜かずに、白の布一枚だけで隠されたデリケートな部分を非常に近い距離で凝視する。滅多に卵嚢の内部に人間がやってくる事が無いのか、久しい獲物だからこそ堪能してやろうと、本能がそう叫んでいるのだろうか。
「やめ……ろって! この変態! ってか匂い嗅ぐなって!」
シャルミラの望みはゾンビが自分の場所から離れる事であったが、ゾンビがそれを受け入れるはずが無い。微かに自分の脚の付け根に鼻息がかかるのを感じたが、ゾンビはただデリケートな部分を凝視するだけでは無く、白の下着に鼻が接触するのでは無いかというくらいの距離で何かを確認していた。
醜い外見の怪物から、自分にとっての性的な部位を見られるだけでも嫌だと言うのに、更に嗅覚でも調べられたりする等、もう今まで感じた事の無い羞恥心が心臓の鼓動に影響し始める。
「ナニヲシヨウガオレノカッテダ。オレタチニクサイダノイッテ、オマエモドウルイナニオイガスルゾ?」
手で触られていないだけまだマシなのかもしれないが、脚を押さえ付けている為に使っている両手の代わりに鼻を使うとは、ゾンビも妙な欲求を果たすものである。わざと相手を辱める為なのか、元々見られる事でさえ拒絶したいと思うような部位に対し、不快なものが漂っていると伝える。嗅覚自体は失われていないからこそ、伝える事が出来た言葉の攻撃だ。
「勝手に言ってれば!? 少なくともあんた達よりは数倍マシだっての! あんた達なんて見た目も考えてる事も全部汚いでしょ!? あんた達とあたしは違うから!」
言い方がどうであれ、シャルミラからすれば自分の事を臭いと言ってくるゾンビに言われるがままに納得する気持ちになれる訳が無かった。誰が負けるかと言わんばかりにシャルミラも必死に罵声で対抗し、自分に対する侮辱文句はあくまでもゾンビ達しか思い浮かべる事の無いそれであると言い返す。
少なくとも、外見と思考が正常である自分がゾンビどもと同じ悪臭を出しているとは思いたくなかったはずだ。
「ツヨガルナヨ。オマエノアシハアジガウマソウダカラ、ココデアジミシテヤル」
シャルミラのみっともない姿で晒されている白い下着を未だに嗅覚で確認していたゾンビだが、股関節から伸びている脚の程良く引き締まった太さ加減や、殴打の痕や汗で濡れたその質感を眺めながら、実際に出された言葉以上に重たい行為を始めようとする。
今行なったのは、シャルミラの太腿を荒れた舌で舐め上げる行為だ
「いやっ!! ふざ……っけんなって! マジで殺すから!」
同じ人間同士でもまずされる事が無いであろう舌で舐められる行為を、人外と化した相手からされているのだ。
シャルミラは相手が自分の脚からなぞるように付け根にまで舌を移動させているのを見逃さず、別のゾンビに押さえ付けられている両腕を力尽くで引き剥がそうと力を込めようとするが、怒りは腕力そのものに変換はされてくれなかった。とうとう舌は脚の付け根付近から下着の上にまで達してしまう。
「シヌノハオマエダ。ソノマエニオマエノアジヲシルノガサキダ」
ゾンビはわざわざ言い返す為に一度舌を口に引っ込めていたが、言い終わった途端に再び相手の恥ずかしいであろう部分に舌を接触させる。
無法地帯である卵嚢の内部であれば、何をやっても許容されてしまうのだ。相手が反撃さえしてこなければ。
「ふざ……けんなお前……! ホント殺す……!」
――しかし、ゾンビの表情が突然変わり……――
「オマエ……コトバヅカイ……サイテイダナ!!」
恐らくは殺すという言葉がゾンビの神経に触れてしまったのか、先程までは少女の恥ずかしい部分を舌で触っていたが、神経に触れる言葉を聞いた後にまるで時間でも止めたかのように舌での行為も停止させ、対面している相手の顔の前に自分の荒れた顔を持っていく。
そして、今までは性の玩具のように見ていたであろう少女に対し、殺意すら交えたような怒りの表情を作るなり、両方の足首を押さえ付けていた両手を離した。
決して解放の意味を込めた行為では無く、最後に言葉が文字の通りに荒くなった事を単に音量だけではなく、別の行動で何がどのように荒くなったのかを説明してしまう。
――無抵抗な少女の腹部に拳を入れる――
「うう゛っ……! な……に……今度……は……!」
シャルミラは華奢な腹部に相手の重たい拳の一撃を受けながらも、それを怒りと気合で耐え抜いたのか、弱みを見せぬよう相手に言い返す。
相手の肉体は全身が荒れている為、元々筋肉質だったのか、そこまで筋肉に恵まれていた訳では無い体格だったのかは把握しにくいが、今の一撃は普通の少女であればその場で崩れ落ちる威力と見て間違いは無い。
「オマエハゴチャゴチャウルゼェンダヨ。コンナトコニトジコメラレナカッタラオマエイガイノオンナモオソエタノニナァ」
どうやらこのゾンビと化した男は元々この卵嚢に閉じ込められる前から反社会的な世界で生きていたようである。もしかすると、この卵嚢に閉じ込められていたのは社会的には都合が良かったのかもしれない。ある種の監獄のような場所としても見る事が出来る可能性すらある。
「何……よ……。その……賊が言いそうな言い方。ってかあんた達って盗賊かなんか?」
掠れた声であっても、シャルミラはそれを聞き漏らしたり、逃したりするといった事はしなかった。まるでこの卵嚢に閉じ込められたせいで外にいる女性達を自分の思い通りにする事が出来なくなったかのような言い方をする相手の邪な心を想像すると、どうしても盗賊の類にしか感じ取る事が出来なかった。
「オマエニハドウデモイイコトダ!」
ゾンビはシャルミラの質問に答えようとせず、寧ろ事実を探られた事に焦るかのように必要以上に大声で言い返す。明確な答えを出す事を本当に拒んでいるかのように。
「やっぱり盗賊でしょ? 逆に閉じ込められて良かったじゃん?」
相手の態度を見てシャルミラは感じたのだろう。元々は盗賊で、自分の知らない場所で様々な悪事を働いていた存在であるからこそ、この牢獄とも監獄とも言える可能性すらあるこの卵嚢で人生を半分以上奪い取られた事を好都合であるかのように言い返してやったが、その瞬間に相手は再び感情のままの行動を取る。
――再びゾンビはシャルミラに殴打を……――
「オマエハコトバヅカイガナッテ――」
ゾンビの男は元々荒れている表情に怒りを灯らせ、そして握り締めた拳で無抵抗なシャルミラの顔面を狙うが、右腕を後方へ限界まで引いた所で突然腕が動かなくなってしまう。
ゾンビ自身は自分に何が起きたのか、腕を確認すると凍り付いているのを見る事が出来たが、シャルミラはそれを見てまるで救世主に助けてもらえたかのような非常に安堵の見えた表情を見せ始めた。緊張感が抜けた表情とも言うべきか。
ゾンビ自身は腕が氷漬けになった事にただ驚きの声を漏らすしか無かった。
「ナ……ナンダコレハ」
ゾンビの男は氷漬けになった腕にしか視線を向けていなかった為、突然腕が氷に包まれた、という認識しか出来ていなかった事だろう。
だが、ゾンビの視界には入っていなかったのかもしれないが、腕を氷漬けにさせた張本人がもうすぐ隣にいたという事に出来ればすぐに気付くべきだったはずだ。
「悪いけど、これ以上私の友達痛めつけないでくれる?」
ゾンビの男のすぐ右に立っていたのは、黒の儀礼服にも近い戦闘服を着用した少女であった。今は手の先から冷気を思わせる青い光線のようなものをゾンビの右腕に浴びせており、そしてそれを縄でも掴んで引っ張っているかのように右手を握り締めている。
黒のマスクの上に存在する青い瞳はしっかりとゾンビを捉えており、氷による束縛は友達への次なる攻撃を妨害するだけでは無く、ゾンビ本人への仕返しとしての反撃の意味も込められていたはずだ。
「オマエガヤッタノカコレ」
右腕を氷漬けにされているというのに、苦痛を思わせる口調にはなっておらず、純粋に動きを封じられた事に対する不満しか覗かせていなかった。身体を低温にされれば身体に激痛が走るはずであるが、激痛を感じている様子が表情や口調からは見えていなかった。
「見れば分かるでしょ? それと、これはシャルにやったセクハラの……」
リディアはどこまでシャルミラへの行為を見ていたのだろうか。
しかし、数体で1人の少女を囲んでいる所を見ればどうしても卑猥な様子しか思い浮かべる事が出来ず、右腕を氷漬けにさせた相手に怒りの象徴とでも言うべきか、左脚による一撃をその場で与えようとする。
僅かに後退し、適度な距離を作った上で左脚に力を入れる。
――ゾンビの頭部を狙ってハイキック!――
「罰だからね!!」
リディアの鋭い蹴りがゾンビの横顔を狙う。
蹴撃と同時にそのままゾンビをシャルミラから離させてしまおうという計画もあったのかもしれない。
だが、ゾンビは背中を向けた体勢のまま、左腕でリディアの蹴撃を防いでしまう。
「オットアメェゼ? オレタチガヤワダトオモッテタカ?」
リディアの想像をぶち壊すかの如く、ゾンビは余裕を見せた表情のまま、左手で蹴撃を防いだ後にふり返る。リディアは体術だけではゾンビ達を黙らせる事が出来ないのかと、相手の威圧感に押される形で後退してしまうが、シャルミラを放置する訳にはいかず、下がり続ける事だけはしなかった。
しかし、リディアの蹴りを防いだゾンビは右腕がまだ凍り付いている状況で、リディアと向かい合うなり、一切の思考も計画も持たないかのような形で真っ直ぐリディアへと向かっていく。
――自分を叩きのめす為に近づいている事は分かっていた――
「柔かどうかはどうでもいいけど、こっちはあんた達に負ける気なんか無いから!!」
リディアは真っ直ぐ向かってくる相手がどのように次の攻撃をしてくるのかを予測する事が出来ていた為、力任せに放たれた顔面へのパンチを回避するのはあまりにも簡単な事であった。
そのままゾンビの後方へと回り込み、再び氷の力をゾンビへと放つ。今度は右腕だけでは無く、背中全体が氷漬けになり、そのまま動きを封じる事に成功する。殴りつけるように右手を相手の背中に命中させ、渾身の力で氷の魔力を発動させたのだ。
――次の目的にすぐに切り替える――
自分に近寄ってきたゾンビは一時的に氷で動きを封じている為、もう後はシャルミラに纏わり付いている3体のゾンビを引き剥がすだけである。
視線だけを変えればもう対象は目の前だ。今回は氷の力に頼ろうと考えたのか、リディアは両手に氷の力を溜め込みながらシャルミラに纏わり付いている3体のゾンビに言い放つ。
「さてと、あんた達も離れてくれる? 離れないなら冷たくて痛い思いする事になるけど?」
リディアはすぐに力を炸裂させる訳では無く、まだ言葉が通じる相手に対して猶予を与えるかのように、その場から引き下がるチャンスを与えてやる事にした。
しかし、黒いマスクの中に隠れている表情は真剣だ。
「ハナレロッテ、コイツカラカ? ムリナヨウキュウダ」
3人がシャルミラを取り囲んでいたが、その内の1人だけはシャルミラの横に立っていただけであり、実質的にリディアと右腕を冷凍されたゾンビのやり取りを傍観していたと言った所だろうか。
倒されるような形で押さえ付けられたままのシャルミラを指差しながら、ゾンビの男はリディアからの要求を拒否してしまう。
「あんた言われた通りにすれば? あたしもいい加減この状況疲れるし怠いんだけど?」
シャルミラも床に押さえ付けられるようにして拘束され続けているが、リディアの登場で少しだけ勇気が湧いたのか、睨みつける視線と口調には強いものを感じ取る事が出来た。
「オマエハダマッテロ」
横に立っているだけだったゾンビはシャルミラを見下ろしながら一言吐くが、態度そのものが気に入らなかったのかもしれない。
突然右足をゆっくりと持ち上げたが、リディアはそれが何を意味するのかを察知した為、力尽くによる行為を発動させる。
――苛烈な拳をゾンビの横腹に直撃させ……――
リディアはゾンビがシャルミラの腹部辺りを踏み付けようとしたと察知した為、それを防ぐ為に氷の力を溜め込んだ拳をゾンビの脇腹に命中させたのだ。
やや低い位置への狙いだった為、下から突き上げるような殴打のやり方になったが、氷の力がそのまま広がり、拳が接触した場所を中心に氷が一気に広がった。
「黙るのはあんただから!」
氷で身体の一部を不自由にした後に、リディアは今度は腕では無く、脚を使って次の一撃を食らわした。
その場で小さく跳躍し、回し蹴りでその場から力任せに蹴り飛ばす。
ゾンビもこの一撃には堪える事が出来なかったのか、それでも悲鳴のようなものは一切出す事は無かったが、身体の方はシャルミラから距離を取るように吹き飛ばされてしまう。
「次はあんた達2人だけど、さっさと消えてくれる?」
残りは2人である。シャルミラの首元と腕を押さえ付けているゾンビさえどうにかしてしまえばシャルミラの拘束は完全に無くなる。
「オマエハランボウモノダ」
「オマエハオカスマエニコロス」
2人は目の前で仲間のゾンビがリディアの回し蹴りによって吹き飛ばされたのを目撃したからか、殺意の眼差しをリディアに向けながら突然立ち上がる。シャルミラの拘束も忘れながら、というよりはもうシャルミラの事なんかどうでもいいとでも言っているかのように、リディアだけを標的にする。
武器は一切所持していないゾンビ2人であるが、2人とも右手を手刀のように構え、まるでそれでリディアを斬り付けるかのようでもあったが、リディアはそれを脅威として受け取らなかった。
「乱暴でも犯そうとか勝手に思えば!?」
自分に近寄ってくる2人のゾンビが先程言った言葉を、やや文法的に違和感があるような形でそのまま返しながら、迎え撃つ体勢を作る。
両方の拳を握り締め、いつ自分に攻撃の手を伸ばされても対応出来るようにリディアはしていた。
自分を放置されるような形で突然身体を押さえ付けられる事が無くなったシャルミラはようやく自分の身体に自由が利くようになった事を実感し、やや怠そうに上体を起こす。
「あぁやっと邪魔者いなくなってくれた……。臭いのに近寄るなっつの……」
殴られた痛みはまだ残っているが、リディアという助け船のおかげで痛みが引いていくような錯覚さえ感じ、まずは上体を起こし、続いて尻を床から浮かそうとするが、やはり脚部に残っていた痛みはまだ本物であった。
身体を倒れさせられる形で束縛されていた時はあまり脚に力を入れる事が出来なかった為、殆ど意識をしていなかったが、やはり立ち上がる等の脚に直接自分の体重がかかるような状態になると痛みがまた蘇ってしまうようだ。それに連携でもするかのように、たった今殴打を受けた顔や腹部に加えられた痛みが更に強くなったような気持ちさえ覚えてしまった。
(痛った……! あいつら……散々殴って……くる……から……)
顔と腹部を殴ったのはこの空間のゾンビ達であるが、脚の鈍痛を与えてきたのは卵嚢の外で蠢いていた触手達だ。しかし、今のシャルミラからすれば誰がどの部分に痛みを残してきたのかなんてどうでも良かった。しかし、立ち上がろうと必死で身体を起こしている最中にすぐ側で氷が割れる音と、人間に似た体躯の者が床に倒される音が聞こえた。
いつまでも倒れ続けている訳にはいかないから、痛い事を理由にし続ける訳にはいかなかった。
「シャル、もうあの変な連中はぶちのめしといたから! 所で、大丈夫? 結構派手にやられたみたいだけど」
起き上がる事に苦労していたシャルミラの側にリディアが近寄ってくる。背中を支えるように右腕を伸ばし、顔に痣の見えるシャルミラに心配の声をかける。
「多分……大丈夫だと思う。こんなとこで痛がってたらこいつらに笑われるよね」
これ以上殴られていたら本当に立ち上がる為の体力も全て奪われていたかもしれない。それを考えるとリディアの助けがどれだけ自分にとって大きな支えであった事だろうか。自分が立ち上がる為に手を貸してくれているリディアの存在がより一層自分にとって無くてはならない存在である事を思い知らされる。
しかし、痛みそのものは無視出来るものでは無かったようであり、本当に手を貸してくれていなければ立ち上がる事は叶わなかった可能性すらあったようだ。殴られた顔もまるで追い打ちをかけてくるかのようにゆっくりと鈍痛が内側から表れ、腹部へと放たれた殴撃も内部に残り続けるような鈍い痛みとして潜み続け、やはり脚に酷く残り続ける打撲とも言える深い激痛は立ち上がる際に非常に大きな妨害となる。
「無理はしなくていいから。とりあえずはあの赤い変な奴を倒す事を考えた方がいいかな。ホントあいつさっさとやられてくれないかなぁ……」
リディアはシャルミラの周囲にいたゾンビ達を叩きのめす直前に一体何が起きていたのかを何となく察知していた事だろう。向かう時にその様子を青い瞳でしっかりと捉えていたのだから、そこで大事な友人が傷を付けられていた事はもう理解済みだ。
今は体力を消耗しながらの戦いであり、それを癒す手段は無いに等しい。今はまだまだ体力的にも余裕が残っている自分がフォローしなければと、リディアは感じているに違いない。
「なんかリディアごめんね。あたしのせいで絶対これ邪魔になってるよね……」
リディアに支えられながら、脚を痛みで震わせながら何とか立ち上がるシャルミラだったが、自分がこの場所にいなければリディアはもっと円滑に戦闘を進める事が出来たのでは無いかと、弱気になってしまう。
「そういうの私に言わないでくれる? 私に遠回しに見捨てろなんて言ったって無駄だからね?」
リディアは相手が弱気になった時に普段はどのようにして接しようとしているのだろうか。
あまり優しいとは言えないような口調ではあったが、どちらにしてもリディアは相手の事を過度に甘やかすつもりも無ければ、逆に自分だけが助かる為に動くつもりも無かったようである。
「あ、そ……そう? 分かった。ごめんね」
何か優しい言葉でも期待していたのかもしれないシャルミラであったが、僅かに期待から逸れたものが渡されたものの、それでも自分が立ち上がる為に支えになってくれているリディアには感謝をせずにはいられなかった。リディアはシャルミラの横腹に手を回しながら、そして持ち上げるようにしてシャルミラを立たせている。
本当は支えを無しで自力で立ちたかったが、今は頼っても罰は当たらないと信じても大丈夫なのだろうか。緑の魔導服は汗で激しく濡れてしまっており、この卵嚢の内部が如何に劣悪な環境であるか、そしてシャルミラの受けた暴力が如何に体力の消耗を促進させていたのかを理解させる要素となっている。
「とりあえずだけど、こいつらの相手しててもしょうがないから、あの赤い奴をぶちのめす事にまた集中して! そろそろあいつの氷溶けちゃうから急ご!」
リディアはシャルミラを立ち上がらせた後に、離れた場所で足元を氷漬けにされ、その場からの移動が出来なくなっていた赤い体色の生命体を指差した。
力任せに足に絡み付いた氷を引き剥がそうとしているが、生命体が持つであろう怪力を持ってしても、氷は引き剥がす事が出来なかった。今もその場で飛び跳ねようとでもするかのように上半身を揺らしている。
「え? あいつの事氷漬けにしてたの? 結構派手にやってたんだぁ……」
シャルミラは、赤い生命体を相手にリディアがどのように戦っていたのかを知らなかった為、氷で大胆に動きを封じ込めていた事になんだか驚きの気持ちを隠す事が出来なかったようだ。それにしても氷から必死に抜け出そうとしている生命体の姿がやや滑稽であると密かにシャルミラは思っていたかもしれない。
だが、床の下で2人の少女を狙っている無数の悪魔達が潜んでいる事実を、当の2人が理解するのは、床から手が突き出るように現れるのを目で確認してからであった。
――2人の周囲を囲うように、無数の腕が床から現れる……――
性的な暴力を飛ばそうとする悪い男に対しては必ず痛い目を見てもらうのが我が方針です。女性を性的な目で見るなんてそれは悪でしか無いので、他のヒロイン達が黙ってくれません。しかしリディアもやはり魔力を駆使しながら格闘術を披露するので、いざという時でも凄く戦闘面でも頼りになるような気がします。自分は強い少女キャラが好きではありますが、それは男に狙われた時に自分だけで払い除けられるようにする為で、か弱い少女のままだとそういう男の手が伸びた時に対処出来なくなりますからね。




