第24節 《熱気に塗れた卵嚢の地獄 番人は暴力と臭気で迷子を狂わせる》 1/5
今回は結構色んなリョナ系の作品で取り上げられてる生物の体内のシーンになります。まあ流石にこの物語では主要キャラは凄惨な最期を迎える……なんて事は無いとは思いますが、体内特有の気持ち悪さと、気持ち悪さの影響を受けたような敵対者も現れます。何故か体内に入れられるのって少女キャラが多い傾向にあるみたいですが、この作品でも結局少女キャラが起用される事になりましたが、何とか脱出はしてもらうつもりです。
卵嚢の外は、外の光が入らぬ冷気の世界
外ではあるが、卵嚢から出た所で、そこはまだ洞窟の内部
そして、卵嚢の内部は蒸し暑さと吸収用の触手が蠢く理解の出来ない世界
卵嚢もまた、ある種の危険地帯として機能していたようだ
吸い込まれた少女2人に最期を提供する立場にあるのは、真っ赤な体色を持つ人間のような生物だ
頭部に該当する部分から更に2本の腕のような器官が生えており、嫌悪感を出すには充分
「こいつって……ただ殴ってくるだけの単細胞だといいよね」
黒の儀礼服にも似た戦闘服で身を包んでいるリディアは、目の前にいる真っ赤な人型の生命体を凝視しながら、シャルミラに自分達の都合の良いような戦い方をしてくれればそれ以上は何も無いかのように、シャルミラに聞く。
「それだけだったらあたしでも普通に相手出来るからいいけど、凄い気持ち悪い……」
緑の魔道服の少女はシャルミラである。単に肉弾戦だけを行う相手であれば、肉体的にはそこまで屈強とは言えないシャルミラでも戦う事に苦は無いのかもしれない。単純な殴打や蹴りの類であれば、自身の魔力でいくらでもやり過ごす事が出来るのである。
「まあでもこいつの事倒したら多分ここから出られるだろうから、あ、それとシャル立ち止まらないで。下がるの続けて!」
リディアはこの卵嚢の内部の事情を常に把握しているからこそ、真っ赤な人型の生命体と対面している間も、常に小さくではあるが後退を継続させていた。
この場所では、同じ場所にい続けると足元から触手が這い上がり、人間を肉壁の内部へと引き摺り込んでしまうのだ。
「ってかこいつ見た目も気味悪いし気持ち悪いし、しかもなんか凄い臭いんだけど。おっさんの汗臭いあれより倍以上じゃん」
シャルミラは自分が立ち止まっていた事を指摘されたが、それを直接返事で自分の行動を直した事を伝える事はしなかった。しかし、止めていた足自体は後退という形で動きを再開させる。
そして、真っ赤な生命体が現れると同時に感じた、覚えがあるような不快な臭気が尚更目の前の生命体への憎悪を増幅させる事になる。
「そういう言い方あんまり良くないよ? 男の人全員敵にするような言い方駄目だと思うけど?」
あくまでも敵対者であるからこそ出てきた言葉だったのだろうが、この状況であっても、リディアは直接自分達を敵にするような振る舞いを見せてくる訳では無い健全な男性達を庇うかのように、シャルミラに諭す。
「分かってるって。昔あたしの事捕まえようとしてきた変な山賊どもと同じ臭さだったって言いたかっただけ!」
シャルミラにとっても、男全員を敵として意識している訳では無かったようであり、過去に自分に因縁を付けてきた汚らわしい世界に生きた男達と今目の前にいる生命体が重なって見えていただけだったらしい。
彼女からすれば、罪の無い自分等を捕らえようとしてくるような悪人の男は知能の無い魔物と同類でしか無いのだろうか。
「そう……なんだぁ。それと、もう来るみたいだよ?」
恐らくは山賊に狙われた過去を持つ事に対し、リディアはシャルミラも1つの苦労を背負っていたのかと感じたが、2本の足で立っていた魔物が突然両手を地面に下ろし、総計4本の足と手で構え始めた為、もう残り秒単位で戦いが始まる事を想像した。
「さっさとぶちのめして出口見つけちゃおうね! こんなのに負けたら一生恥よ!」
シャルミラはもう殆ど目の前の生命体を自身の魔法で叩きのめしている様子しか想像しておらず、早くこの異様な空間から脱出してしまいたいと考えていたようだ。
表情は強気で溢れているが、呑まれる際に受けた殴打の痛みが脚に残っているせいで、もしかすると本来の力の全てを出す事が出来ないかもしれないという不安も心の奥には残っていたが。
――生命体はその場で濁った雄叫びをあげる――
「う゛う゛う゛ぅぅぅ」
どこから出しているのか分からないが、想像の付かないような場所から雄叫びをあげていたのかもしれないが、それは少女2人に対しては特に効果を発揮しなかったようだ。
「そうだ、シャル。分かってると思うけど壁とか床とかの方も注意しといてね! なんか変な風に動いてるから」
リディアは生命体の存在だけに集中していた訳では無く、肉壁も生命体の登場に共鳴するかのように動きを見せていた事に気付いていた。なんだか壁から何かが突き出てくるかのような動きをリディアは鮮明に捉えていた。
「壁? あぁホントだ。なんかボコボコなってるね。分かった、注意しとく」
シャルミラは気付いていなかったのかもしれない。
しかし、リディアに注意を受けてから自分で確かめると確かに壁が動いていた事を察知する。
――そして、無造作に生命体は歩くように攻め寄ってくる――
「来る? 来たら斬ってやるからそのつもりで……!!」
いつ来られても良いようにと、自身の得意武器である魔力で構築させた刃を両腕から伸ばす。
相手は歩くように近寄ってきていた為、対処は楽だろうと神経を完全には引き締めておらず、生命体の人間で言う頭部に該当する場所から生えていた2本の腕が突然伸びた事に対し、対応が遅れてしまう。
――異様な速度で腕がリディアに向かって伸び……――
目で速度を捉えるのは不可能なのかと思えるような速さで、頭部から伸びていた2本の腕がリディアの足首を乱暴に掴む。
左の足を掴まれ、勿論そのまま黙っているはずも無い。
「やっぱりそう来たか……。だけど……」
左足を引きながら後退しようとするが、簡単には引き離せず、束縛をした状態で生命体が追撃を仕掛けようとしていたのをリディアは見逃さなかった。
生命体は頭部の腕の残っている方を強く握り締め、動きを封じているリディアへと殴りかかろうとする。
リディアも直接回避する事が出来ないと諦めたが、代わりにその場で保護膜を顔の前で作り、攻撃を受け止める。
――殴打を加えた後に、その手は次の目的に移る――
バリアのせいで殴打が無意味だと悟ったのか、それとも初めからその場で殴りつけて黙らせようとしていた訳では無かったのか、殴打に使った手をそのままリディアの右足へと移動させる。そしてそのまま掴み掛り、これによって頭部から生えた2本の腕によって、リディアは両足を掴まれる事となる。
「!!」
息を漏らすような声を零す事しかリディアは出来なかった。
当初の目的がリディアを持ち上げる事であったのだろう。それを実行する前に、生命体は両腕を乱暴に引っ張り、リディアをそのまま背中から転ばせてしまう。
「う゛ぅ゛!」
地面とは言っても、肉で作られたそれであった為、岩肌の地面と比べればまだ柔らかかったかもしれない。それでもリディアの背中に入った鈍痛の強さは相当なものだ。そしてそれだけでは終わらず、転ばせたリディアを足から持ち上げ、逆さ吊りの状態にさせてしまう。
足を別々の腕に掴まれ、少女であれば抵抗すら覚える程に開かれた状態にされているせいで、生命体に対して背中を向けた姿勢となり、生命体と向かい合う事は出来なかった。
――リディアを離させる為にシャルミラも黙ってはいない――
「何リディアに変な事やってんのよ!?」
シャルミラとしては宙吊りにさせている事よりも、脚を開かせている事に憎悪を感じたようであり、それはまるでリディアに対して性的な乱暴を働こうとしているかのような光景であった。怒りに身を任せるかのように右手に火球を作り、それを直立でリディアを持ち上げている真っ赤な生命体に投げつける。
火球は生命体の上半身を包み込むように接触し、規模の小さな爆発を見せる。
元々人間でいう顔が存在しないせいで、炎が効いたのかどうかは分からない。しかし、生命体はリディアを降ろそうとはせず、通常の人間と同じ場所、つまりは両肩から伸びている方の両手を使い、背中を向けているリディアの背中を殴り始める。
まともに相手の姿を確認出来ない状況で背中に入ってきた2度目の鈍痛に表情を歪める。
「!! こいつ……! 好き放題してくれるじゃん!!」
力は決して一撃で身体が破壊される程の威力では無い。
リディアはこのままサンドバッグのように殴られる訳にもいかず、上体を持ち上げるようにして反撃を試みようとする。
自分の両足の間から顔を出すような形になりながら、束縛されていない両手を生命体に突き出すように向ける。
――手から雷撃を放ち、生命体を黙らせようとする――
「さっさと離したら!? 疲れるこの体勢!」
上体を持ち上げている姿勢である為、腰に疲れが蓄積されていく。生命体の手の力が緩んでくれなければ、リディアは宙吊りのままだ。まるで愚痴のように怒鳴り散らしながら手から雷撃を放ち続けるが、生命体は怯みすらせず、まるで怒りでも覚えたかのようにリディアの足を掴んだまま、地面へと叩きつける。
「!!」
背中にばかり痛みが走るが、生命体はリディアの痛みを意識もせずに、リディアから足を離したと思えば、今度はまだ起き上がる余裕すら作る事が出来ていなかったリディアの上に馬乗りになり、通常の人間と同じ場所に生えている方の両手でリディアの顔を両端から押さえつける。
「……今度は……何?」
馬乗りになられたリディアは、恐らくは連続で殴打でも受けるのかと想定し、それに備える形で消滅させてしまっていた刃を再び両手から出させていたが、されたのは殴打等では無く、ただ自分の顔を両手で押さえ付けられ、頭部から生えた2本の腕の連結部分をリディアの顔面へと近づける。
恐らく人間でいう頭部というその箇所自体が人間で言う顔に該当する部位で間違いは無かったのかもしれないが、表情が見えない以前に、そもそも生物として最低限備わっているはずである目や鼻等の器官も一切存在しないただの赤い皮膚だけの外見であったせいで、リディアからすれば何を近づけられているのか、一瞬だけ理解に迷いが生じる程であった。
「私の顔なんか見つめてどうする気?」
リディアは鼻から下をフェイスマスクで隠しているが、果たして自分の目を見つめられたとして、それが生命体にとってどのような価値があるのかが理解出来なかったようだ。特に見つめながら何かをしてくる様子も見えず、リディアもさっさと何かしらの一撃を加えてその場から突き飛ばしてやろうと両手に力を込めていた。
しかし、リディアの反撃よりも先にシャルミラの魔法が生命体の身体を横殴りにした。
――炎の風が生命体を引き剥がす――
右手を突き出し、そして右手に全ての神経を注ぎ込むかのように表情にも力を込めながら、右手の目の前に半透明の真っ赤な円形状の壁を作り、そこから熱を含んだ強風を放っていた。
それは風ではありながらも、風圧という形の鈍器で何度も殴りつけるようなものであり、生命体は馬乗りのような姿勢からリディアの横へ向かって転がるように押し飛ばされていく。
「リディアさっさと立って! なんか下から出てきてるわよ!」
シャルミラは目の前に作り上げていた円形状の壁を縮小させるように消滅させながら、リディアに警告のように言葉を渡す。シャルミラはリディアの周囲から細かい触手が伸び始めているのをしっかりと目視していた。
「うわぁホントだ! 危なっ!」
リディアは言われてから改めて意識して自分の周囲の床から湧き出ていた小さな触手を確認する。馬乗りにされていた時はその場から全く場所の移動を出来ていなかった為、肉壁に隠れている触手達に狙われ続けていたのだ。シャルミラの場所に向かって転がるようにその場から離れ、立ち上がるなりシャルミラの横に付く。
「所であいつどうやって黙らせた方がいいと思う? 今の攻撃もあまり効いてない感じだし」
シャルミラは無様に転がっていった赤い生命体の体躯を見る限り、自分の風の魔法程度では倒れてくれるとは思わなかったようだ。人間に似た身体を持っているが、筋肉で身体の所々が膨らんでおり、外見的にもただ殴っただけではとても黙ってくれるとは思えなかった。
肉弾戦のような戦い方ではまず終わる事が無いと、何となく予測も立てていた。あの妙な筋肉が邪魔だ。
「また来るみたいだけど、斬る方がいいかもしれないよ?」
特に痛がった様子も見せずに平然と立ち上がる赤い生命体に対する有効な手段を考えたリディアは、手に生成させていた刃を、手の甲から伸ばしたような形状から、刀や剣のように直接握り締める形で持つ形状へと変えた。リディアは右利きである為、右手に1本だけ、適度な長さの剣を魔力で生成させた。
――真っ赤な生命体は跳躍し、飛び掛かってくる――
だからこその用意した剣だったのだろうか。
リディアはシャルミラの盾になるように前に踏み込み、そのまま掴み掛ろうとしていたであろう赤い生命体に向かって剣の一撃を浴びせようと構えていた。
そしていざ攻撃の前に……
「シャルはそこから避けてね!」
一言口に出すなり、リディアは跳躍の真っ最中である生命体にそのままぶつかるようにしてリディアも跳び、そして魔力で作った剣で生命体の胴体を斬り付けるが、その瞬間にリディアはエナジーリングを駆使した瞬間移動も発動させる。
――生命体との接触を避ける目的がそこにあった――
生命体と接触する瞬間にリディアは姿を消滅させ、そして生命体の背後から再び現れる。リディアは斬撃と、瞬間移動のこの2つを1秒と時間を使わずにこなし、確実な痛手を相手に与えたのであった。
一方で、取り残されていたシャルミラはリディアの言いつけの通りの事は守ろうとしたが、目の前から真っ赤な肉体が迫ってくるものだから、冷静に対処という訳にもいかなかったようだ。
避けろと言われていたのだから、心の準備はある程度はしていたシャルミラではあったが、腹部に斬り傷を作った生命体からの体当たりを避ける為に左へと身体を飛ばす。
「うわぁ危ない!!」
生命体は体格的には大人のそれである。まともに体当たりを受けては身体の細いシャルミラであれば確実に押し飛ばされてしまうだろう。
生命体は目的の場所へ着地した後の制御を考えていなかったのか、シャルミラに避けられた後にそのまま肉壁へと激突してしまう。弾力があったのか、僅かに跳ね返っていたが、自分から壁に激突する様子はどこか間抜けにも見えた事だろう。
(リディア……盾になってくれる訳じゃなかったのね……)
常にリディアに頼ってばかりではいけないのは分かっていたが、シャルミラはリディアが自分の身を盾にして赤い生命体を逆に弾き返してくれるのかというある種の過剰な期待をいつの間にか抱いてしまっていたらしい。
しかし、現実は斬り付けると同時に生命体の背後へと瞬間移動を決めただけだ。
「でもこいつどうしよ……。あたし斬るような魔法なんか使えないし、炎で痛い目遭わせるしか無いかな」
シャルミラはリディアのような肉弾戦を得意とはしておらず、刃物のような鋭さを見せた攻撃を放つ事は出来ないようである。だとすれば熱で相手の身体を燃やす戦法に集中すべきかと、まだ手には炎の力を溜めず、炎の魔法をメインで行こうと頭で意識する。
手にはまだ炎の力を宿していなかったが、生命体から離れるように後退しながら炎の塊でもぶつける為に手に力を注ぎ込もうとする。
――突然足元で何かにぶつかるような感触を覚えたが……――
床は凹凸の無い平坦な形であった為、何かにぶつかる事はありえないはずであったが、ぶつかったというよりは、掴まれたと言うべきだっただろう。
シャルミラは最初こそは何かを踏んでしまったのかと、反射的に下を確認したが、そこで見たのは想像すらしていなかったような物体である。
「ん? 何か……って何これ!?」
下に存在していたのは、それはシャルミラが誤って踏んでしまったもの、ではなく、意図的にシャルミラの足元を拘束する為に現れた者であった。
それは、激しく皮膚が腐敗した人間のようなものであった。いや、形も実際も人間であったものとして間違いは無かっただろう。しかし、それはもう命を灯しているとは思えない程に皮膚は腐敗し、そして頭部は殆ど頭蓋骨が見えているような異常な状態だ。
突然床から上体だけを出しながらシャルミラの両足を抱き抱えるように押さえ付け、ただ1つのそこから一切移動させないという目的を単純にこなしていた。
単純な束縛行為ではあったが、束縛をされている者からすれば、それは単純な問題では無い。
「何これ!? ゾンビ!?」
シャルミラは自分の脚を直接相手に触られているという性的な羞恥心よりも前に、自分を押さえ付けている者の外見に対する恐怖が先に感情に出てきており、骨が見える程に崩れた皮膚を見て平然とする方が無理に近かった。腐敗の影響で緑色等のような人間の肌の色として考えれば異常としか言えないような色が所々に映り込んでおり、死にながら生きている存在として捉える事しか出来なかった。
床から現れた死人のような人間からの拘束を受けたのはシャルミラだけでは無かったようではあるが。
――リディアもシャルミラの拘束を目視しており……――
「なんか出てきた!? シャル! 今何とかしー―」
リディアの持前の正義感から、シャルミラを押さえ付けたゾンビのような存在を引き離す為に、距離を置いていたリディアはすぐにその場へ駆け出そうとしたが、ゾンビは目の前にいる1体だけでは無かったらしく、リディアもまた、視界の外から現れた拘束によって、言葉を無理矢理遮られる事になる。
気付く事が出来なかったリディアだが、それは無音で床から現れたからである。シャルミラの時は足元を掴まれただけであったが、リディアの場合は上半身から押さえ付けられてしまったのだ。当然ゾンビの方も全身を床から出現させており、両腕をそれぞれ肩と横腹から絡みつかせるようにしてリディアにしがみ付く。
「!!」
片腕はリディアの口元、マスクの上から更に押さえ付けていた為、リディアの時は喋る事すらも塞がれてしまったのだ。ゾンビの力は非常に強く、リディアも両手を使い、まずは自分の口元に巻き付いている爛れた皮膚の腕を外そうとするが、思い通りにはいかなかった。
(な……に……これ……!! ちか……ら……強……す……ぎ……!!)
リディアは過去にも背後から押さえ付けられるような経験を受けた事があった可能性がある。昔の件と比較しても、今回のは自力で振り解くのが難しい程に相手の力がリディアのそれよりも勝っていたのだろう。単に動きを封じられるだけでは無く、身体を潰されるとしか思えないような非常に強い圧迫をされていた。
そして、拘束されている中で、リディアは真っ赤な生命体がシャルミラを狙っている事を確認する。
助けに行こうにも、押さえ付けられている関係で何もする事が出来ない。
真っ赤な生命体は恐らくは床に潜んでいたゾンビのような何かと連携を取っていたのかもしれない。まるで命令でもしていたかのように、動きを封じられているシャルミラを狙い、数歩、歩み寄っていた。
「何する気? 近寄ったら焼き殺すからね!」
シャルミラはまだ上半身は自由である。その場から逃げられないシャルミラに近寄ってくる真っ赤な生命体に反撃を試みる為にシャルミラは当初から計画していた炎の魔法で生命体を終わりにさせてやろうと、右手に炎の力を溜め込んだ。
炎をぶつけると同時に爆発でもさせてやろうと、ボールでも投げるような動作を取ろうとしたその時だ。
――突然太腿に鈍器で殴られたような激痛が走り……――
「う゛あぅ゛っ゛!!」
ここの卵嚢に閉じ込められる前の、筒状の器官に呑まれている最中に触手達から受けた殴打の痛みがまだ脚に残っていたが、そこに突然加えられた視覚の外からの激痛がシャルミラの集中力を一気に削ぎ落とす。実際はシャルミラの脚にしがみついていたゾンビのような生物が片手を使い、唐突に殴打を与えたのだが、シャルミラ本人はそれを理解していたのだろうか。
本当はもうその場に倒れ込みたくなる程に力を奪われていたのかもしれないが、ゾンビの束縛は脚を完全に押さえ付けており、倒れる事すら許さなかった。単に体勢が前に倒れそうになるだけで、無理矢理踏ん張られるような形だったと言える。
真っ赤な生命体はまるでゾンビとの連携を取っていたかのように、反撃の為の魔法を放つ事が出来なくなったシャルミラに対し、あまりにも重たいとしか思えない凄まじい一撃を拳で与えたのだ。
――握られた拳はシャルミラの顔へと放たれた――
力のある大人が力の無い子供を殴るが如く、生命体はシャルミラを乱暴に殴りつけ、そのまま少女の視界を恐ろしい程に激しく揺らした。
脚を束縛していたゾンビの腕すらも引き剥がされる程に、緑の魔道服を纏った少女は激しく飛ばされた。
体内という場所自体がもう常軌を逸脱した空間なので、そこで現れる何かしらの敵もやはり常軌を逸した姿だったり、妙な性質を持ってたりと、閉じ込められた者がまず絶望しか感じないような雰囲気しか与えて来ないんですよね。そして体内なので悪臭を持った敵も多い気がしますが、少女からすれば悪臭なんて最悪以外の何物でも無いんでしょうけど、そいつらと戦わないと彼女らは脱出が出来ないので、それは何とか耐えてもらうしかありませんし、意外と少女キャラが苦痛を受けながら戦うシーンは個人的に好きだと言うのは内緒です。