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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第23節 《蜘蛛達の楽園 糸の牢獄に走る冷気と恐怖》 5/5

まずは新年あけましておめでとうございます。去年は微妙な活動状況となっておりましたが、今年は、どうなるかは分かりませんが引き続き切磋琢磨しながら活動を続けたいと思っております。今後も宜しくお願い致します。


そして今回ですが、無事にジェイク達は地下の蜘蛛の食糧保管庫的なエリアから脱出する事に成功します。勿論それで終わりではありませんが、今度は卵嚢に閉じ込められたリディア達の救出作戦に入るのかもしれません。









            最深部であるはずだった洞窟の奥深く


            そこの更に地下が存在し、そこは蜘蛛の魔物が手に入れた食糧の倉庫と化していた


            本来であれば、ここで蜘蛛の魔物は新たに3人の食糧を手にしていたのだ


            しかし、3人には逃げられてしまい、挙句に地面に蓄積されていた酸性の液体によって元々の食糧を溶かされてしまう


            無事に窮地を切り抜けた3人はまだこれで平和を勝ち取ったという話にはならない


            まだ元々最深部として認識されていた場所に陣取っている主を殲滅しなければいけないのだ








「なんとか無事に帰ってきた気分だね」


 蜘蛛の食糧庫とも言えたであろう地下にある暗闇の空間から、ようやく脱出する事が出来たメルヴィは無意識に口から出してしまう。


 バルゴの作った筒状の通路と、そしてバルゴの念力で浮上させられていた足場のおかげで、空間から出る事が出来たのだ。しかし、まだ洞窟の内部で、目の前にはまだ主とも呼ぶべき魔物が残っている。


「その気持ちは分かるけど、まだあいつを倒さないとホントの意味では喜べないよ」


 本当であればジェイクも素直に喜びたい所であったが、骨の外殻を持つあの巨大な魔物を黙らせる事が次にすべき任務である事を自覚していた。ジェイクにしては珍しくメルヴィにやや否定的な意見を渡すが、メルヴィはそれに対しては特に不満を見せたような対応をしなかった。




「多分リディア……そうだ、リディアって大丈夫なのかな?」


 メルヴィはリディアの何を言おうとしたのかは分からないが、それよりもまずはリディアの無事を意識してしまい、それを恐らくは答えを知らないであろうジェイクに何故かそれを聞き出そうとしてしまう。


「それは僕じゃ何とも言えないけど、少なくともやられてるとは思えないね。リディアってなんだかんだで生き延びるような感じがあるし」


 ジェイクとしても、魔物のせいで負傷等をしていない事を願いたいものであるが、直接会っていない以上は正確な答えを出す事は出来ない。あくまでも憶測でしか答える事が出来なかったが、戦闘力の高さは確かであるリディアであれば、きっと元気な姿で自分達を迎えてくれると信じているようだ。




「さてと、2人ともお喋りは一旦終わりにしようよ。今戦ってるのって……あれってマルーザさんだったよね?」


 バルゴも遅れて現れる。自分で作った脱出用の通路を塞いだ後に、ジェイクとメルヴィに立ち止まっていてはいけない事を話すが、骨の外殻の魔物のそばで戦っている、黒と赤を混ぜ込んだ色の影を見てバルゴはその影の正体を確認しようとする。影そのものが自分の肉体として生成させているマルーザである。


 丁度今、長い脚でマルーザを踏み潰そうとしていたが、ワープをするかのように回避されたマルーザによって炎の斬撃を浴びせられていた。




「うん、確かそうだったはず。所でバルゴ、あの蜘蛛はもう大丈夫?」


 メルヴィもあの者の名前は憶えていたが、返答を見ると、僅かに自信の無さを感じさせてくる。間違いでは無いはずではあるが、それよりも、蜘蛛の結末を直接見ていなかったメルヴィはその後どうしたのかをやはり聞きたかったようだ。


 勿論ここで言う蜘蛛の魔物に対する大丈夫という意味としては、安否等では無く、死を迎えたのかどうか、というものだろう。


「それは多分上手く行ったと思うよ。あの柱崩してあの湧き出てた液体に落としてやったからね」


 実はバルゴ自身も蜘蛛の魔物が本当に死ぬ所までは見届ける事をしなかったのだが、自分が生成させた柱を崩す事で蜘蛛を落下させる事には成功させていた為、もう自分達に襲い掛かるだけの体力は残されていないだろうと推測する。


 確信は出来ないが、あの蜘蛛の魔物も酸性の液体の耐性を持ち合わせていない事を想定した上での返答でもあった。




「蜘蛛の事はナイス、って言っとくよ! じゃ、そろそろマルーザさんの援護に行こうよ! まだ戦いはこれからだからね!」


 バルゴの柱を崩したという話を聞いて、ジェイクはもうそれだけで蜘蛛の魔物の息の根を止めたと確定しても良いと感じたのだろう。そして、蜘蛛の件を片付けたのであれば、今度は洞窟の主である骨の外殻の魔物との決着を付けるのが大事であると、妙な決め台詞を聞かせてくる。


 尤も、洞窟の主と戦うという話はバルゴが最初にしていた事なのだが。


「そうだね。ちゃんと討伐するまで帰れないから、その通りだね!」


 バルゴは武器としてなのか、魔力で作った岩を2つ、自分の左右を挟むように浮かせ、マルーザの戦っている場所へと向かう事を決める。


 ジェイクとメルヴィもバルゴの小さな背中を追いかけていく。主の居場所は冷気で支配されているのだが、3人とも寒さを思い出す事は無かったようだ。




――戦っていたマルーザは懐かしい者達の気配を察知する――




「ん? あんた達かい? どこに遊びに行ってたんだい?」


 特に心配をしていたような様子を見せる訳でも無く、マルーザは真紅の双眸をジェイク達に向けた。


 なかなか自分の元に戻ってこなかった為、一体何をしていたのかを訊ねてくるが、意識は殆どが目の前の魔物へと向けられていた。




「遊びになんか行ってないですよ。ただ蜘蛛の世界を見させてもらいましたけどね」


 マルーザは本当の意味で遊んでいた事を疑っていた訳では無かったはずだが、本当に遊んでいたと思われていると感じたからか、ジェイクは純粋にそれをまず否定する。


 実際は普段であればまず見る事が無いであろう蜘蛛の管理する餌の置き場所に連れられていたのだが、生きて帰ってこれた事がある意味で喜びの1つとなっている。


「あたし達蜘蛛に捕まって地下に連れられてたんですよ。もう怖かったんですからね?」


 メルヴィもジェイクに続きながら、蜘蛛の世界が純粋に恐ろしい世界であった事をマルーザに伝える。出来ればマルーザにも直接見てもらいたかったのかもしれないが、マルーザの視線はメルヴィ達の方を向いていない。理由は単純だった可能性がある。




「遊びってのは訂正だね。それと、あいつの脚が来るよ?」


 マルーザは2人の事情を把握したのだろう。だが、次に見せたマルーザの言動は、目の前を指差すそれであった。上部に向けて差されていた指の向こうには、洞窟の主が持ち上げていた1本の脚が映っていた。


 これから振り落とそうとしている証拠である。




――ゆっくりと持ち上げられた脚が、ゆっくりと落とされる……――




 先端を地面に突き刺すように脚をマルーザ達に目掛けて落とす。


 立ち止まっていれば正確に命中していた事だろう。しかし、落とす速度は遅く、戦闘の未経験者でも無い限りはまず回避されてしまうようなものである。


 後方へと下がって回避したマルーザ達であるが、マルーザは目の前の魔物の特徴を読み切ったのか、折角復帰してくれた者達に説明を始める。




「やっぱり来たか……。それと、こいつ意外と攻撃は鈍いから見た目に騙されない方がいいと思うよ」


 何に対して来たと言ったかと言えば、無論それは魔物の脚に対してのものであるが、巨体であるが故の弊害なのか、攻撃の速度が鈍い事を説明する。


 元々表情を把握しにくい真紅の双眸のマルーザであるが、魔物からは大して恐怖感を受けていないかのような余裕のある表情や態度を見せていた。




「そんな事もう理解しちゃったんですか?」


 ジェイクはマルーザの分析力を前に関心するしか無かった。確かにジェイク自身も魔物の脚による攻撃の回避に苦労する事は無かったが、助言があれば尚更気持ちも楽になる。


「そうなるよ。あんた達がいない間ずっとこいつと遊んでたから、大体は分かってきたよ」


 再び遊びという言い回しを使うマルーザであるが、マルーザ自身も決して本当の意味での遊びをここで演じていた訳では無いだろう。


 周辺にはこの魔物が付けたのであろう地面の凹みや砕けた岩、そしてこの魔物が操ったであろう他の幼体等の死体が散らばっている。遊びの気分では確実に切り抜ける事が出来なかったはずだ。マルーザも、ジェイク達がいない間、単独で生死を賭けた戦いを繰り広げていたのだ。




「また来ますよ! 脚!」


 主の魔物の意外な弱点を察知したマルーザだが、メルヴィからすれば再び持ち上げられていた脚の事を皆に伝えずにはいられなかった。回避が容易であるにしても、これから攻撃が来る事を知らなければ脚の餌食と化してしまう。


 指を差しながらメルヴィが叫ぶ。




「じゃ、また避けないといけないね。ちょっと距離取るよ! 話がある!」


 魔物の一撃を怖いと意識していないのか、マルーザは作業的に回避する準備をし、そして回避の(ついで)にとでも言うべきか、魔物の攻撃範囲外にまで後退するように皆に施す。これからの話の為をするには、回避をしながらでは無理があると思ったのだろう。




「話って言ってましたけど、マルーザさん話って、何?」


 ジェイクもやはりマルーザの言う話の中身が気になる所である。無事に骨の外殻の魔物からは距離を取ったのだから、内容を早く聞きたいと思うのは当然である。


「距離は取ったか。とりあえず話だけど、あいつ、ただ外から攻撃してるだけじゃまあ死なないね。ただの時間の無駄になる」


 マルーザの話した内容は、相手の外皮の硬さのそれであった。そして骨のような外見である関係なのか、純粋に外から打撃等を加えた所で相手には痛覚としてそれを伝える事が出来ず、そして内臓等が存在しているのかどうかも分からないような体組織である為か、急所を狙って弱らせるという事も出来ないようであった。


 ただ、相手の外観に傷が残るだけで、自分達が有利になる事が無いようだ。




「え? それってじゃあもう止める手段は無いって事ですか?」


 攻撃によって鎮める方法が通じないのであれば、もうあの主でもある魔物を静かにさせる事はもう不可能なのかとメルヴィは聞く。


 もしかすると攻撃以外の方法で魔物を黙らせる方法もあったのかもしれないが、それはメルヴィも気付かなかったようである。


「まあ外からは何やっても無駄だろうね。内側を狙えれば話もこの後も変わってくるだろうけどね」


 攻撃の範囲外に逃げてしまったマルーザ達を骨の外殻の魔物は見つめ続けているが、それを分かっているかのようにマルーザもまた魔物を睨み続けながらこれからの戦法を計画する。内部に弱点があるのではと予測するが、マルーザ本人は体内に入った事なんて無いのだから、確定は出来ない。




「そんな事言われても、じゃあどうやって内側を攻めるんですか? まさか食べられる訳には……」


 すぐに魔物を討伐したいという意識が強かったのか、メルヴィは内側、要するに魔物の体内から攻める作戦を受け止める形で決めたようであるが、そうであるにしても、ではどうやって体内を狙うのかが気になったようでもあった。


 どのようにして洞窟の主を黙らせるのかを考えていたが、そこに1つの影が近寄っていた。しかし、それに対して誰も敵対意識を持つ事は無かった。




――いつの間にか姿を消していたバルゴが皆の元へやってくる――




「やっぱりシャルがいないよ……。リディアもいないけど、マルーザさんあの2人って、見てない?」


 持前の浮遊の能力を駆使しながら、バルゴは洞窟の主の周囲を確かめていたようだが、ある意味で一番心配だった人物の姿が見えず、この中で唯一蜘蛛の襲撃を受けずに済んでいたであろうマルーザに2人の事を訊ねる。洞窟の主から一度も隔離された場所へ幽閉等をされていないマルーザであれば、2人の事情を把握しているのかもしれないという期待があったのだろう。


「あぁバルゴも生き延びてたか。それと、リディア達は知らないね。気付けばいなくなってたけど、あんた達と一緒じゃなかったのかい?」


 遅れて現れたバルゴを一目見たマルーザは生存していた事を意識したような言葉を漏らした後に、リディア達の本当の話を明かす。どのような経緯で自分の側から姿を消してしまったのかは把握出来ていなかったようだ。てっきりジェイク達と同じ危機を受けていたものと思っていたのである。




「いや、リディア達はあたしも見てないですね……」


 答えたのはメルヴィであったが、やはりリディアの行方は全く知らないようである。見ていないものは答えようが無い。


「違うんだよ。リディアは、ってかシャルもだけど、あの2人は今あの卵嚢に閉じ込められてるんだよ!」


 しかし、バルゴの意見は違っていた。そもそもバルゴは少女2人がどういう末路を辿ってしまっていたのかを目視していた為、マルーザに対して明確な答えを示す事が出来たのだ。


 卵嚢から伸びた筒状の器官によって丸呑みにされてしまう様子は決して忘れない。




「らん……のう? え、何それ?」


 ジェイクは『らんのう』という言葉を聞き慣れていなかったのだろうか、それが何を示しているのかを理解出来ていなかった。


「ジェイク知らないの? えっと、あいつの下に見えるあの巨大な袋みたいな器官の事だよ」


 知らないのであれば説明をするしか無い。バルゴはまずはその『らんのう』が何を示すのかを教える為に、骨の外殻の魔物の下部に位置している茶色の巨大な袋を指差した。魔物自体は白色(はくしょく)をしているが、袋の色がはっきりと異なる色をしていた為、袋自体を目視出来ないという事態にはならないだろう。




「あの中にいつの間にか、まあどういう経緯で入ったかはいいとして、でも体内にいるとなるとちょっと期待はしたい所だね」


 事実を受け止める事を決めたマルーザではあったが、平屋を前後に長く伸ばしたような非常に巨大なあの卵嚢(らんのう)に吸収されてしまったと言うのに、何故かそれを好機として意識していたのである。


「期待って……あの中で何が起こってるかも分からないのにそんな事言っていいの?」


 内部で既に死んでいるとは想像をしたくないが、かと言ってまだ生きているという保証も出来ないのが卵嚢の世界だ。バルゴは焦る様子を感じさせないマルーザに言い返してしまう。




「体内にいたら直接相手の急所を狙えるだろ? それと、まあ結局は呑まれたんだろうけど、だからっていきなり消化されるようにも見えないしね。あの雰囲気だと」


 確かに生物である以上は体内にある内臓を直接狙われてしまえば大きな苦痛を与える事が出来るはずである。そして、リディアの持つ特殊な覇気なのかどうかは分からないが、マルーザからすると呑まれるというとんでもない事態であっても何故かあっさりと死んでしまうとは思えなかったらしい。


「ちょっと何言ってるんですか? あんな卵嚢に取り込まれて無事な訳無いですよね?」


 メルヴィはマルーザの焦りの見えない口調に納得を感じる事が出来なかった。勿論リディアの死を認めようとしている訳では無いが、それでも魔物が管理する卵嚢の内部に吸収されてどのようにして助かっているのかを想像が出来なかったのだ。




「リディアの事を考えたらあっさり消化されて終わるとは思えないんだよ。悪いけど、誰かリディアかシャルミラとテレパシーかなんかで連絡って取れないかい?」


 マルーザはリディアを信じているのだろうか。仮に消化されるような環境であっても、リディアであれば意地や根気をフルに活用する事でそれらを払い除けてしまうような、そんな気すらしたのだろう。


 とは言え、やはり本当に生存しているのかどうかはマルーザ自身では確認をする事が出来ない。周りを見渡しながら、遠方の者達と繋がる力を持つ者がいないかどうかを確かめる。


「僕は……メルちゃんとしかそういうのは出来ないんだよね。他の人じゃ出来ないよ」


 ジェイクは一応テレパシーの能力を保持しているが、限定された相手としかそれが出来ないようである。誰かの口から勝手に喋られる前に、自分自身で説明をした方が能力の限界を相手に知らせやすくなる為、自分から先に話す事を決定させていた。


 卵嚢の中にいる2人とは連絡を取り合う事は出来ないのである。




「ぼくだったら言葉のやり取りは出来ないけど少なくとも生体反応の確認だけなら出来るから、ちょっとあの中確認してみるね」


 まだこの場で諦めるのは早かったようだ。バルゴであれば特定の場所での生存の確認が把握出来る為、それをこの場で活用すべきだと意識する。確認の為にバルゴは宙に浮いた状態で両目を閉じた。身体もうっすらと灰色に光る。


「そういえばバルゴって生体確認ってのが出来るんだったね。でもそれってあの魔物とかにも反応しちゃうんじゃないの?」


 ジェイクは実際にバルゴの生体反応の確認をする様子を見た事があった為、バルゴの能力に対しては信用が出来ると確信していた。実際、この能力があったからこそメルヴィの救助も出来たのだから。


 しかし、生体反応となると、卵嚢もそうであるが、魔物そのものにも反応してしまい、細かい確認が出来なくなるのでは無いだろうか。




「その辺は上手く調整もするから心配無いよ! とりあえず卵嚢から生体反応が出るか調べてみるね!」


 生体反応の確認はバルゴの方で細かい調整が出来るようであり、余計な反応を取り除いた上で、必要な場所からの確認が出来るようだ。


 どちらにしても、調べない事には何も始まらない。




――しばらくすると、バルゴから答えが出てきた――




「よし、とりあえず結論から言うと、あの中から生体反応は確認されたよ! ただ、2人は確実にシャルとリディアだけど、もう1人分が確認……されたんだよね」


 灰色の光を消滅させると、バルゴは結果を皆に話す。確実に卵嚢の内部で2人の少女が生きている事を説明するが、正体の予測出来ない存在も確認されていた為か、表情は難しくなっていた。


「要するに、3人分が確認されたって事だね? もう1人って誰なんだい?」


 結論はそれであるはずだ。マルーザはその残りの1人がどういう存在なのかは大方理解をしていたが、生体反応を確認出来るバルゴであれば、具体的な姿等も知る事が出来るのでは無いかと睨んでいた為、もう少し詳しい中身まで確かめようとした。


 3人目はどう考えてもリディアとシャルミラを追い詰める存在であるとしか考えられなかった。




「流石にそれはぼくも分かんないけど、反応の仕方がなんか普通の人間とは違うんだよね……。なんか魔物みたいな反応だね」


 誰と言われてもそれを説明するのは難しいだろう。名前は確実に知らないはずであるが、人間とは異なる生体反応の形を見せている事は確かであったようであり、マルーザの予測の通り、バルゴの口からもそれが魔物の類だと話された。


「そもそも卵嚢があいつの所有物なんだから、3人目なんて魔物みたいな、じゃなくて魔物そのものでいいだろ? それ以外思いつくものがあるかい?」


 マルーザはもうバルゴの言う魔物である可能性という言い方を、確定で良いのでは無いかとやや強引に纏めてしまう。ただ、卵嚢にはもしかしたら他にまだ命を繋ぎ止めていた生還者が残っているかもしれないという考えは思いつかなかったのだろう。




「じゃあそれでもう決定するとして、ぼくらはどうしよう? やっぱり何とかして脱出させてあげないと絶対不味いと思うよ」


 決定というのは、勿論3人目の生体反応の正体が敵対者であるという話だが、バルゴは自分達の力で卵嚢の外に出る事が出来るように何かをすべきでは無いのかと考える。


 茶色の巨大な袋は不気味にゆっくりと小さく膨らんだり、萎んだりしているが、あの中の様子を想像すると嫌な事しか思い浮かばない。


「わたしらであの卵嚢を破ればそれで済むと思うけど、あいつが黙ってないだろうね」


 卵嚢は外観からするとそこまで耐久力があるとは思わなかったのか、マルーザは自分の氷と炎の攻撃を連続させれば穴を開く事が出来ると想定していたのかもしれない。しかし、卵嚢を破るにしても、それの持ち主が破壊行為を認めてくれるとは思っていない。


 寧ろ、持ち主の妨害があるからこそ、卵嚢を壊す事は無理だと意識もしているはずだ。




「そんな事言ってたら……じゃあ2人はどうするつもりですか?」


 妨害されるという話ばかりをしてくるばかりで、マルーザは卵嚢を破る為の作戦を一切説明していない。


 メルヴィからすると、卵嚢に閉じ込められている2人をどのように助け出すのかが見えず、この後に来るであろう返答をどうしても聞き逃す訳にはいかなかった。やはり、どうしてもリディア達の最期なんて絶対に目にはしたくないのだろう。


「2人ならあの中で上手くやって生還してくれるって。大丈夫だ、リディアっていっつもなんだかんだで絶対帰ってくる奴だったし、大丈夫」


 マルーザは自分達が助けるというよりは、内部に閉じ込められているリディアとシャルミラの実力を信用していた様子だ。自分達の干渉が無かったとしても、あの2人の実力があれば卵嚢程度の脅威ぐらい蹴り飛ばす事が出来ると、信じる気持ちだけを貫こうとしていたようである。




「その過信が本当になればいいですけどね」


 メルヴィはまだリディアと知り合ってから数日しか経過していないが、マルーザであればもっと長い付き合いをしている事である。


 だからこその信用だったのかもしれないが、メルヴィからするとやはりマルーザの言い分を素直に受け止める事が出来なかった。信じる為の根拠がまだ弱かったのだろう。


「なんだメルヴィ、随分リディアの事心配してるみたいだけど、そりゃ友達が死ぬ所なんか考えたくないか」


 何かとリディア、もしかするとシャルミラの方だったのかもしれないが、気にかけているとしか思えないような言い方にマルーザは気になってしまったようだ。


 まだ仲良しなのかどうかは判別は出来ていないようでもあるが、リディアも自分の安否を気にかけてくれる人間がいる事を喜ぶべきであるとマルーザは表情の見えにくいその裏で笑みを見せていたのかもしれない。




「別にそうじゃないですけど……」


 メルヴィはリディアを意識していると悟られたくなかったのか、否定的な意味を表した態度を見せる。まだ友達としては認識したくないのかもしれないが、それでもやはり生きては帰ってきて欲しいと心のどこかでは願っているのだろうか。


「それより、わたしらもこんなとこでぼけーっとしてる訳にもいかないよ。元々この洞窟の卵を全部おじゃんにさせるのが目的だから、あの2人が帰ってくるまでの間は大掃除になるね」


 マルーザは骨の外殻の魔物の周囲に配置されている無数の卵達を眺めながら、これからすべき任務を口に出す。リディア達は自分達で脱出してくる事が前提になっているから、その間を使い、自分達が卵の殲滅(せんめつ)をするのである。


 一撃を加えて破裂させた卵の事を想像でもしているのか、マルーザは両手のヌンチャクをその場で振り回し始める。




「卵って、あぁあそこに見えてるのがそうなのかな」


 今まではジェイクも巨体で雰囲気的にも非常にインパクトの強い骨の外殻の魔物の体躯にばかり気を取られていたが、地面に接している卵嚢よりも更に下に視線を落とせば確かに球体状の物体が気味悪く並んでいたのが分かる。やや高級感を感じさせる銀色の殻を持っているが、内部にいる存在の事を想像すると安易には近寄りたいとは思わないかもしれない。


「卵の破壊を掃除って……まあいいけど」


 掃除と呼べるような簡単な任務では無いとバルゴは思ってしまったが、マルーザの過度に緊張感を持たず、そして神経質になり過ぎない戦闘スタイルや思考も決してマイナスの方向に事を進ませている訳では無い事を少なからず理解しつつあった為、その楽観的な考え方を受け入れる事にした。




「じゃ、一応は注意しといてよ? あんまり近寄り過ぎて壊したらいきなり飛び出してくる事もあるだろうから、遠距離攻撃メインで、ね? それとあのデカブツの事も考えながらね」


 マルーザはこれから卵を破壊し尽くす為の準備として両手にそれぞれ炎と氷の力を集中させる。焼き尽くして卵を死なせるのも良いだろう。或いは氷漬けにして超低温で駄目にさせてしまうのも良いだろう。今までは孵化した魔物が成長を遂げる事で、何人もの人間達を地獄へと送り届けていたのだ。


 惨劇の始まりの前に、始まりそのものを潰す。これが今の彼ら彼女らの行うべき任務だ。


 自分だけの身では無く、他者にも身の危険を意識させるのは、それはもう自分にとっては赤の他人では無いからである。

骨の魔物こと、洞窟最深部の主ですが、意外と思ったような苛烈な攻撃はしてなかった気がします。寧ろ、周囲の取り巻きや卵嚢の内部と、そして卵嚢に取り込もうとしてきたあの管状の器官の方が恐ろしかった気がしますが、まああの主は異様に巨大なので、本気でリディア達に殴り掛かったりしたら一撃で身体を潰されてしまうからそれでは戦いにならないし、ダメージという形で負傷する描写を描く前に即死にすらなってしまいますから巨大系って意外と描写が難しいんですよね。


でもそんなこんなで23節も完成です。

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