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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第23節 《蜘蛛達の楽園 糸の牢獄に走る冷気と恐怖》 2/5

再び更新頻度が落ちてしまってる現状ですが、私事の方に負けないように更新を頑張ってるつもりです。私事に押されながらも毎日少なからず執筆自体はしてる状態です。何とか頻度を保ちたいですが、私生活と創作活動の両立は思ったように行かないのが辛いです。


今回はまた蜘蛛と囚われたメルヴィのシーンですが、よくあるリョナ作品のような最期には……なるんでしょうか?







        深淵の空間に光る6つの魔眼


        空間で食糧を管理する立場にある、表社会から忌避されている存在


        目的があって、侵入したであろう者達を食糧として拘束してしまう


        救助を求める悲鳴すらも外に届かぬまま、捕らわれた者達は干からびるまで連中に体内を吸い尽くされる


        勇気ある者が洞窟に入らない限り、死者と化した事すら認識する事が出来ない


        これから食事の時間にするはずだった蜘蛛の魔物は、とんだ邪魔者に遭遇する事になるのだ






「ジェイク、悪いけど……のんびり探すのは無理かもしれないよ?」


 青い毛並みを持っている小型の浮遊生物であるバルゴは、普段は仲間達にまず見せる事が無いような、敵意を見せた目付きを作っていた。それはジェイクでは無く、天井に向けられていたが、ジェイクに言い渡している言葉も決して軽いものでは無い。


「どうして? 場所は特定出来たんだよね?」


 ジェイクはバルゴの向けている視線の方向を気にする事無く、探索が無理である事を説明された理由を求めようとする。青の双眸はバルゴの姿を捉えているが、バルゴの視線の方向にまでは未だに気持ちが向かないようだ。




「悪いけど、嫌な奴が戻って来ちゃったみたいだよ。上を見て」


 何だかバルゴは身の危険を意識して縮こまっているようにも見えていた。天井からは決して目を離す事をしなかった。


 理由は、ジェイクも一緒に天井を確認すればきっと理解出来るはずだ。


「上に何かいる……ってあれさっきの奴!!」


 やっとジェイクも暗闇の洞窟の中で、天井を見上げるが、そこにいたのは見覚えがある8本の脚を持った魔物であった。2部の体で構成された黒いそれは、6つの目を思わせる真っ赤な複眼でジェイク達を真っ直ぐ見つめていた。




――2人は覚えていたのだ。自分達をここに連れてきた奴の姿を……――




「この繭とかって全部あいつが運んできた物だったんだぁ……あ、駄目だ! そっちは!」


 直接蜘蛛の魔物を見なかったとしても、塊を作っている糸という素材を見れば誰がこの無数の繭を転がしていたのかなんて安易に予測出来ていたかもしれない。


 バルゴは視界に入る繭から伝わる凄惨さを痛感していたが、蜘蛛の魔物は天井から床へと勢いよく飛び降り始めた。バルゴに背中を向けるように降りたが、進み出した方向が、バルゴにとっても、恐らくはジェイクにとっても非常に都合の悪い場所だったのだ。


 声を荒げるバルゴだが、蜘蛛は反応すら見せない。


「そっちって、確かメルちゃんの場所、だったっけ!?」


 蜘蛛の背後を追いかけるバルゴに付いていくジェイク。走りながら、その方向が自分にとって今探すべき人間のそれだったのかを聞く。




「そうだよ! 多分それ狙ってると思う! あいつを止めないと不味いよ!」


 一瞬だけジェイクと視線を合わせる為に背後を振り向き、そしてすぐにバルゴは身体を灰色に光らせながら魔力を込める。


 すぐ側に細かい岩の欠片を集合された塊を作り、宙に浮いた状態のそれを魔力を使い、蜘蛛の背中へと投擲する。しかし、蜘蛛はそれが命中した事すら意識しないかのように、1つの塊を前足で持ち上げた。


 その時であった。




(あれ? ジェイ君……なの? あたしの事見つけてくれたの? なんか浮いた感じがするけど)


 ジェイクの頭に伝わってきたのはメルヴィのテレパシーの声であった。言葉の通り、身体が宙に浮かんだような感覚を覚えた様子であったが、どうしてそれを感じていたのかは、ジェイクにもハッキリと認識出来ていた事だろう。


 蜘蛛の魔物は、糸で作られた繭を持ち上げ、それを不気味な頭部で凝視している所だ。




(あぁメルちゃん? 大丈夫だから! 必ずその糸から出させてあげるから!)


 ジェイクはやっぱり今蜘蛛が持ち上げた繭の中に自分が求めていた相手がいる事を確信し、それでも本当の話をメルヴィには伝えるべきでは無いと思ったのか、状況を伝えず、事実を(ぼか)す形でただ救出は成功させるとだけ伝えた。


 恐らくは、メルヴィは自分の目の前に蜘蛛の魔物が迫っている事に気付いていないのだろう。




「バルゴ! やっぱりあの繭だよ! あの中にメルちゃんいるからね!」


 テレパシーを受け取った後は、すぐにバルゴに目的の繭がどれなのかを指を差しながら伝えた。ジェイクの目的は既に1つしか無いと言っても過言では無いはずだ。蜘蛛の魔物を止める事だ。


「あいつも生体反応とかが分かるみたいだね。よし、まずは黙らせる事から始めようか!」


 バルゴからしたら今日出会ったばかりの少女ではあるが、ジェイクの為にも絶対に救助しようと、気持ちを共有させる。


 魔力で岩を集めるが、それを細い矢のような形状に組み立て、鋭くした先端を蜘蛛の魔物へと向ける。




「行っけぇ!!」


 バルゴは小さな手を前方に突き出し、掛け声よりワンテンポ遅れながら、岩の矢が蜘蛛の魔物へと発射される。


 出力は目に見えない魔力なのか、岩の突起が蜘蛛に向かって直進する。




――背中に岩の矢が突き刺さる――




「ぐぉおぉお……」


 刺さったは刺さったが、甲殻は簡単には貫通を認めなかったようであり、僅かに先端が突き刺さっただけであり、奥深くにまでは刺さっていなかった。


 蜘蛛は繭を手放す事無く、自分を突き刺した者がいるであろう背後を振り向く。表情は読み取れないが、自分に打撃を与えてきた者の存在を確認する為だけに振り向いたのかもしれない。そして再び繭へと視線を戻し、行為に入ろうとする。




「あれじゃ効いてないみたいだよ! このままじゃメルちゃんが!」


 ジェイクも今は無我夢中で蜘蛛を止める事しか考えておらず、バルゴの岩の魔法が通じないならと、ジェイクは炎を手の上で作り、それを火炎放射のように発射させ、蜘蛛を炎で焼き尽くそうとする。


 蜘蛛の魔物は熱に反応したのか、まるで炎から距離を取るかのように後退るが、炎の操作が的確なのか、ジェイクは蜘蛛の魔物への軌道を逸らさせる事をしなかった。




「よし! これ効いてるかな?」


 ジェイクは巧みな手先の操作で炎を蜘蛛の魔物へと浴びせ続ける。魔物は炎を確かに避けようとはしているが、甲殻が燃え上がったり、動きが鈍ったりという様子は見えなかった。表にいた蜘蛛よりも肉体的に強化されている種類なのかもしれない。


「ジェイクそれ大丈夫なの!? 中のメルヴィは大丈夫なの?」


 バルゴはその光景に1つの不安を感じてしまう。炎で蜘蛛の魔物を追い詰めるのは良いが、蜘蛛は前足で繭を1つ保持しているのである。もしその中にメルヴィがいた場合、炎が持つ熱の影響が心配になるだろう。まさか通常の人間が炎が持つあの高温に耐えられるとはまず思わないはずだ。




(ジェイ君! なんか凄い熱いけど、今何が起こってるの!?)


 ジェイクの頭に響く、メルヴィの心の声。


 この熱さは確実にジェイクの放っている火炎放射である。それ以外に熱を連想させるものは今の環境には存在しない。




(ホントに大丈夫だよメルちゃん! もうすぐ自由にさせてあげるから!)


 自分自身が火炎の魔法で蜘蛛を追い払おうとしている、とは説明しようと思わなかったのだろうか。いや、もしかすると言えなかったのかもしれない。


 メルヴィからすれば、自分がいるのに炎を武器として選択する等、信じられない話として捉えてしまうはずだ。


(それは分かったから! 今外で何が起こってるの!?)


 勿論具体的な説明をしないジェイクに対して、メルヴィは窮屈な状態でありながらも、何故自分の周りが高温になり始めているのかを答えさせようとする。




「あのさぁジェイク! 炎使うならメルヴィの事も考えてよ!?」


 バルゴにはメルヴィの心の言葉は伝わらないが、炎の影響がメルヴィにまで及んでいる事は容易に想像が付く。僅かでもいいから、加減をすべきでは無いのかとジェイクに問う。


「分かってるよ! 蜘蛛は死んでもメルちゃんは死なないよ!」


 炎の威力を理解していると思われるジェイクだが、まずは蜘蛛を死亡させる事を第一に考えている為か、今だけはメルヴィに少しだけでも我慢してもらおうと考えていたようである。寧ろ、炎を止めて蜘蛛の捕食行為を再発させてしまう方が危険だと意識していたのだろうか。


 突き出している両手からは、一切の力を抜け落とさせていない。




「その言い方って……メルヴィに聞かれて大丈夫なの?」


 バルゴとしては不安に残る言い方だったらしい。


 死にはしないにしても、炎の影響で何かしらの怪我を負ってしまってはメルヴィにどう対面するのかと、バルゴもやや力が抜けたような気持ちを覚えてしまう。


「……それは分かんない!」


 本当は絶対に聞かれては良くないという事は理解していたはずだ。しかし、今は炎の手を止める事が出来ないのだ。止めてしまえば、蜘蛛が牙を繭に突き刺してしまう可能性があったからだ。




「もう……少しは大事にしようとか思ってよ……。じゃあぼくも手伝うよ!」


 バルゴはジェイクに加減をする事を学んで欲しいと願いながら、自身も魔力を溜める為に念じる。次に使った魔法は、岩の壁を地面から生やすものであった。


 それは、丁度繭と、蜘蛛の間に割って入るように突き出てきた。




――岩の壁は、繭と蜘蛛を強引に分離させてしまう――


 岩は蜘蛛の前足を下から突き上げる形で出現した為、繭自体には一切触れず、直接的な打撃は与えていない。


 バルゴも上手に出現場所を計画したのだろうが、立たされていた繭は再び倒れる形で地面を転がった。




(痛っ!! ちょっとジェイ君! 外で何が起こってるの!?)


 ジェイクは、突き上げられた岩の衝撃を受けた蜘蛛が明らかに怯んでいるのを確認した為、炎を停止させる。


 繭が地面に倒れてからしばらくすると、再びジェイクの頭にメルヴィの声が響いた。繭が倒れた際の衝撃がメルヴィに加わってしまったようだ。




(今度こそホントのホントに大丈夫だから! すぐそこから出してあげるから!)


 本来であれば地面に落下した際に走ったであろう衝撃の事を心配すべきだったのかもしれないが、ジェイクはメルヴィのものと思われる繭が蜘蛛から隔離された事に対する嬉しさや期待の方が強かったのかもしれない。


 激痛が走ってしまった可能性があったのにも関わらず、それでも蜘蛛に噛み付かれそうになるという1つの危機から遠ざかってくれたこれを好機として、このままメルヴィを繭から確実に開放させてあげようと気合を更に燃え上がらせていたのだ。




「ジェイク! 分かってるよね!? ぼくがあいつとやり合ってくるから、その間に早く出してあげて!」


 バルゴの視線はメルヴィの繭では無く、岩の壁でメルヴィを手放され、怯んでいる蜘蛛の魔物に向けられている。


 まるでジェイクに今自分がすべき事を把握しているのかどうかを自覚しているかを確認するかのように問いながら、バルゴは宙を浮きながら蜘蛛の魔物へと向かっていく。




「バルゴ頼むよ! こっちは任せて!」


 蜘蛛との戦闘をバルゴに託したジェイクは、地面に転がった繭の場所へと駆け込んだ。誰も邪魔をしてくる危険な存在が離れた為、救出するのであれば今である。


 勿論メルヴィを開放すれば自分も参戦するつもりだが、まずは開放と、メルヴィの容態の確認が先である。




――蜘蛛の相手になったバルゴは身体に魔力を溜め込み……――




「さっさと離れろよ! お前の好きにはさせないからな!」


 バルゴは岩を魔力で生成させ、それを蜘蛛の魔物へと追撃の形でぶつける。少しでもジェイクがメルヴィの救助をしやすくなるようにと、半ば力任せに距離を取らせようとする。


 自分自身に敵の目が向けば、尚更ジェイクは救出に集中しやすくなるだろう。


「助かるよバルゴ! さて……メルちゃんすぐ出すからね」


 メルヴィが閉じ込められているであろう繭に跨ったジェイクは、自身のローブの懐に持っていた白銀のナイフを取り出した。糸を斬るには物理的な武器が適切だと考えたのかもしれない。




――繭の中央部辺りからゆっくりとナイフを突き刺す――


 ゆっくりと先端を繭に接触させ、そこから慎重に力を加えながら奥へと突き刺していく。いきなり力を加えてしまえば、先端がメルヴィに届いてしまう危険がある。


 恐らくは腹部辺りであろうその部分から切り口を作っていく。手頃な大きさになった所で、ナイフを一旦懐へとしまい、両手で左右に開くようにして切り口を広げていく。


(なんか破れるような音するけど、これ何?)


 やはり伝わってきた。メルヴィには理解出来たのだろう。自分の腹部の締め付けが僅かに弱くなった事を。そして、自分の近くで糸の壁を破かれているという事も、音を通じて理解したようだ。


 しかし、メルヴィは外の詳しい事情を知らないのだ。ジェイクに尋ねて、自分の状況を教えてもらわなければ安心は出来ないだろう。




(あぁやっぱり聞こえてるんだぁ? 今ね、糸を何とか()じ開けようとしてる所! もうすぐだから頑張って!)


 この空間に転がっている無数の繭の中で、現在破られようとしているのは1つだけである。光らせている周囲から外れている場所は完全な暗闇であり、そこにも繭は転がっているが、目の前の繭が正解だと信じても良いはずだ。


 ジェイクはテレパシーで返事をしながら、口を開いていく。掻き分けるようにして細かい糸を引き千切っていき、そして糸とは明らかに異なる白以外の色が見えてきた。


 それは見慣れた色であった。メルヴィが着用していたシャツと同じ赤い色だ。










(メルちゃんちょっとごめんね! なんか触られてる感じがあると思うけど、分かる?)


 本当は好ましくない事だと理解はしているのか、それとも状況を上手く悪用してしまっているのか、ジェイクは糸の隙間から見えたメルヴィの着用している衣服と思われる部分に手を当て、それを何度も押して見せた。


 要するに、ここでメルヴィが何かに身体を押される感覚が本当に伝わっているのかどうかを確認しようとしていたのである。


(一応伝わってるけど、これ押してるの? ってもう分かったからやめて!)


 メルヴィ自身は自分の腹部を誰かが押している感触を感じる事が出来ていたようである。しかし、何度も押されていると呼吸のタイミング等が乱れる事もあるだろうし、何よりあまりしつこく触られたい部位でも無い為、まずはジェイクにやめさせるように言った。




(あぁごめんね……。じゃ、さっさと開けちゃうね!)


 悪い事をしたとは思ったが、これから殺されてしまうかもしれない緊縛された状態の中でもいつものような返答を貰えた事に多少の安心を感じながら、ジェイクは糸の切り口を徐々に上まで大きくさせていく。このまま行けば、メルヴィの頭の所まで開く事が出来るはずだ。


 開けばやはり本当にそれが、中にいる者の正体がメルヴィである事が明確になっていく。だが、単純に糸で全身を包まれていただけでは無く、一部の部分には細く束ねたような糸で縄のように縛られている部分も見えていた。二の腕辺りから、後方に周り込ませるように全身を包み込んでいたとは別の物と思われる糸で拘束されていたが、ジェイクはやはりメルヴィの視界を確保してやる事を優先させていたようだ。


 まずは繭として作られたこの糸の塊を開いてやる事を最優先させ、力任せに開いたその口は、そこまで疲労的な苦痛を帯びる事も無く、メルヴィの足首から頭の天辺まで全てが見える所まで開いたのである。


「メルちゃん良かっ――」


 メルヴィの顔面を覆っていた部分を開くように剥がすと同時にジェイクは確かにメルヴィと顔を合わせる事が出来たが、喜ぶのはまだ早かった。




――糸がメルヴィの口元を覆い尽していたのだ――


 まるで外部に助けを呼ぶ事を阻害していたかのように、後頭部を回り込むようにして口元を封じられていた。


 これでは対面を直接する事が出来ても、対話を直接する事は出来ない。しかし、メルヴィの表情からは恐怖が抜けきっていた。最も信用が出来る相手が近くに来てくれただけで、メルヴィは物理的にも、精神的にも救われた気がしたはずだ。


「ちょっと待ってね! 今口のそれ切るから。あ、動かないでね? 危ないからね」


 ジェイクは最初に使った白銀のナイフを再び懐から取り出し、慎重に糸とメルヴィの頬の間にナイフの先端を差し込んでいく。手元が狂えば糸は兎も角、メルヴィの顔に切り傷が出来てしまう為、切ってもらう側には静かにしてもらうように頼み込む。




――糸の一部が破れる――


 紙のような切れ目が出来たのを確認すると、ジェイクは再度ゆっくりと、メルヴィに傷を付けぬようにとナイフを引く。後は自分の手で破るだけである。切れ目を左右から千切るように裂いていく。


 無事に千切られたその糸は、力無く垂れ落ちる。口元が自由になったメルヴィはようやくテレパシー等では無い直接の声をジェイクへと渡す事が出来るようになる。


「はぁ……やっと……。ジェイ君遅いよ……」


 直接言葉を渡す事が出来るようになって、メルヴィは安堵から突然全身から力が抜けてしまう感覚を覚える。本当であれば余計な回りくどさ等を無しに感謝の言葉を渡すべきだったのかもしれないが、糸の繭に閉じ込められていた時の苦痛は本人にしか分からないものがあったのかもしれない。


「ごめんね、怖い思いずっとさせちゃって。とりあえず手と足の方も自由にさせるからまたあまり動かないでね」


 自由に喋る事は可能にさせたが、まだ手足の自由を開放させていない。これではまだ救助を完了させたとは言えないだろう。すぐにジェイクはそれぞれ一本で回り込むように締め付けている腕と脚の部分の糸の切断に入る為にまずは腹部の方へと身を屈める。


 メルヴィの横に付くようにしてしゃがみ込み、ジェイクはナイフを腕を縛り付けている糸に当てる。




「ありがとう。もしジェイ君がいなかったら――」

「そういう恐ろしい事考えるのは無しにしようよ? 僕やだからね。メルちゃんのそんな姿」


 メルヴィにとっては命の恩人にしか見えていない事だろう。


 厳密に言えばバルゴも蜘蛛の魔物自体を追い払ってくれているが、今は自分の束縛を解いてくれているジェイクの事で頭がいっぱいである。思わず誰も来なかった時の結末をメルヴィは口に出そうとしてしまうが、ジェイクは糸を切り離す作業を続けながら、メルヴィの言葉を遮った。


 ジェイクとしても、蜘蛛の魔物にやられた後のメルヴィの姿なんか絶対想像なんてしたくないはずだ。もしそんな姿を見たものなら、ジェイクであれば自分も一緒に後を追う形で自殺でもしてしまうかもしれない。




「あぁそ、そうだったね。でもホントに怖かったんだから、ね?」


 声を詰まらせながらではあったが、それでもメルヴィからすれば閉じ込められている間はもう恐怖でしか無かったのである。


 ジェイクとテレパシーで通じ合う事が出来た時はどれだけの助けになった事だろうか。


「よし、手は自由になったね。じゃあ最後は足の方の切るよ」


 メルヴィの腕を束縛していた糸を上手に切り落とした為、メルヴィの両手にはいつものような自由が効くようになった。ジェイクは最後の作業として、足首を一周するようにして纏わり付いている糸の束の場所へと移り、そして最後のナイフの作業に取り掛かる。




「助かるわ。ありがとね」


 両手が自由になったメルヴィは、ガントレットを装着したままの両手で、とりあえずは上半身に纏わり付いていた細かい糸を振り落とす。時間で言えばまだ1時間も経過はしていなかったと思われるが、閉じ込められていた本人からすれば実際以上の長い時間を感じていた事だろう。


 纏わり付いていた細かい糸を払い落す事は、今までの拘束の間に蓄積させられていた恐怖も一緒に払い落としているような気分にもなっていたのだろうか。




「あれ……? 何、これ?」


 足元は現在ジェイクによる糸の切断作業があるから、あまり動かさないようにじっとさせていたが、メルヴィは横から何か黒いものが這い上がってくるのを確認した。ジェイクの近くであるから周囲はそれなりに明るくなっているが、奥に広がる空間は真っ暗なままだ。


 まるで奥に広がる空間に重なるような黒い色をしたその物体は、それを見た者に対して最初は疑問形を覚えさせるが、後にそれが畏怖へと変貌させる事となる。




「う、うわぁああああ!!! ジェっジェジェジェイ君!!」


 メルヴィはすぐにそれに気付いたのである。単なる黒い物体では無く、それは8本脚を持った、サイズだけは人間の拳程度の小さなそれではあったが、形が形であるだけに、少女であれば滅茶苦茶な悲鳴を飛ばしてしまうのも納得が出来る衝撃が存在していた。


 それは、1匹だけでは無かった。確実に数えている余裕等が無い程の数だ。


 顔に迫ってきそうになった小さな蜘蛛を手で弾き飛ばす形で払い除けるが、全身に走る緊張感の関係で、払い除ける為に動かす必要が無いであろう下半身の方にも神経が走ってしまう。


「ちょっと何メルちゃん!? 暴れな……うわぁなんだこれ!!」


 足首に巻き付いた糸を切ろうとしていたジェイクだが、足を暴れさせられてしまえば慎重な切断が出来なくなってしまう。まだ事情を理解していなかったジェイクは静かにしてもらうようにメルヴィの側を向くが、一瞬で暴れ始めてしまった理由を理解する事になる。


 気付けば、ジェイク自身も、自分の拳程度のサイズの小さな蜘蛛達に囲まれており、もう既に何匹かが自分の脚を伝って上半身に迫ってきていたのだ。




――自分の身体に纏わり付く蜘蛛達に全ての意識を向けられる――




「こんなのもいたのか! うわぁあ気持ち悪い!!」


 生理的な嫌悪感を感じながら、ジェイクは自分の脚を伝いながら上半身にまで迫ろうとしている真っ黒な小さな蜘蛛の大群を無我夢中で両手で弾き飛ばしていく。しかし、数が多いせいで弾くスピードよりも蜘蛛達が登ってくる速度の方が速かった。


 毒等のような、肉体に害を加えるような成分を蜘蛛達が所持しているのかも問題ではあるが、自分が蜘蛛の気持ち悪さに包まれている最中(さなか)で、自分だけでここから逃げ出してはいけない事を思い出す。


 メルヴィを残してその場を去る訳にはいかない。




蜘蛛の魔物に糸で包まれて、数時間後に捕食される事を分かってたら一体捕らえられた人間は何を感じるんでしょうか。だけどだからこそ助けられた時は凄い安心感を覚えると思いますが、大抵蜘蛛に捕らわれた人ってまあ基本的に助からない事も多いですし、寧ろこれから食されるという絶望的な状況に置かれた者の心境を見せるケースも他のゲームとかでは多かった気がします。


まあメインキャラをそうする勇気は作者である自分にはありませんが、その代わり実際に描写されてる物語の外では今日も誰かが蜘蛛の魔物によって犠牲になってしまってるんでしょうか?

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