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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第22節 《肉食の氷霧蟲 卵嚢に閉じ込められた少女達の末路は》 4/5

前回はとうとうシャルミラも卵嚢が放った器官によって呑まれてしまいましたが、今回はその後にどうなったのかという話になります。卵嚢は元々卵を生み出す臓器みたいな存在なので凄く気持ち悪いと思いますが、呑まれた以上はリディアとシャルミラの運命もしっかりと描いていきたいつもりです。




 遂に捕食が結構されてしまったのである。


 2人が骨のような外殻を見せた魔物の身体の一部である卵嚢(らんのう)に呑まれてしまった。


 そして、ジェイクとメルヴィ、そしてバルゴは蜘蛛の魔物によって、糸で拘束される形で地中に引き摺り込まれてしまった。


 誰にも捕食されず、拘束もされていない者が1人だけいるが、皆の事実を把握しているのだろうか。




「ふん……相変わらずな出し物、結構な事だよ」


 マルーザは幼体が集団になって生成された巨大な刃物2つに挟まれていたが、自分の両サイドを守るように氷の柱を作っていた為、自身の影そのものとも言える赤を混ぜた黒の肉体を守る事が出来ていた。


 しかし、氷の柱も完璧では無いらしく、マルーザは左右に腕を目いっぱい広げ、まるで柱そのものに力を分け与えているかのように力んでいた。力を緩めれば、幼体が集まった刃がマルーザの肉体を引き裂いてしまう可能性がある。


「だけどね、こっちも関心ばっかりしてる訳にもいかないんでね?」


 氷の柱を挟みながら潰そうとしていた2本の刃であったが、マルーザは柱として扱っていた氷に別の魔力を込める。


 冷気の塊を高熱の塊へと変質化させたのだ。つまり、それは氷を炎へと変えた事を意味し、氷を砕こうと左右から挟み込んでいた刃2本は忽ち炎に包まれる。


 それでも、氷を元々割るつもりで迫っていたのだから、塊から形の無い物質へと変わってしまうと同時に刃はそのままマルーザを挟み込む事になってしまう。だが、マルーザはその場から一瞬だけ姿を消す事により、刃の交差による切断を免れる。刃が燃え上がりながらそれぞれ通り過ぎるが、それを確認したかのように再びマルーザは姿を現す。




――炎は瞬時に刃全体を包み込んだ――


 通常の炎では無いそれは、魔力の力を借りて燃焼している。殺傷目的で発生させた炎は、より敵対者に引火しやすいように施されているのだろう。


 刃の形を作っていた幼体の集まり達は引火によって徐々に形を崩していく。外側に位置していた幼体は燃え上がる時間が早かったからか、生命活動を失いながら刃の形状から剥がれるように落ちていく。




「もう終わりかい? 生き残りはもっと頑張ったらどうだい?」


 マルーザはこれで終わるとは考えていなかった。燃え上がりながら刃としての形状を保てなくなっていく幼体の集団を深紅の双眸で捉え続けている。刃の中央の部分が折れ曲がり、もう見るからに刃として暴れる事が出来ないようにも見えてくる。しかし、必ず次が来る。燃え尽きて幼体達が全滅してしまうとは、マルーザは一切考えていないのだ。


 燃え上がる刃を見つめ、次の攻撃にいつでも備えられるように構えてはいたが、マルーザには向かってこなかった。


 しかし、燃え尽きようとしている刃からの攻撃の気配がまるで無いのにも関わらず、マルーザのヌンチャクは準備を始めるかのように回されている。




「やっぱりそう来てもらわないと困るねぇ……」


 目の前にいる刃達はただ燃え上がっているだけで、一切マルーザを襲おうとはしていなかったのにも関わらず、マルーザはまるで目の前から敵が迫っているかのように、両手にそれぞれ炎と氷の力を蓄積させていく。


 マルーザは全ての力を真上へと放出させる。敵対者は真上から攻めてきていたのだ。


「奇襲とはちょっとだけ考えたんじゃないか!?」


 両手を天井に向けながら、マルーザは炎の壁と、氷の粒を解き放つ。熱気と冷気が向かったのは、分銅のような塊と化していた幼体の集団であった。どうやら塊と化して押し潰そうと企んでいたのだろう。しかし、風を押し出すような音等がマルーザにしっかりと届けられていたからか、気付かれずに始末する事は出来なかったようである。




 初めは氷の粒がその鋭さを持って幼体達を傷付け、場合によってはそのまま絶命へと追いやり、続いて迎撃として身体を燃やす程の熱が全体を包み込む。


 幼体達はまだ至る所に隠れているのだろう。


 まだ幼体達は隠れた場所に潜んでいる。そう睨んでいるマルーザは、たった今自分の真上から落下しようとした幼体達の集団を始末したからと言って、それで終わるとは考えなかったが、今は自分は単独である。


 一緒であった者達が今どうしているのか、それだけは気になる話ではあったが、次の来客は時間を待ってはくれなかったようだ。




(所で……リディア達大丈夫なのか? 食われてなきゃいいんだが)


 リディアを初め、その他の者達の無事を願うが、心で考えている最中のマルーザを、まだ死に絶えていない幼体達が刃の形を作り、それで横に薙ぎ払う形でマルーザへと襲い掛かる。




――瞬時にマルーザも氷の柱で刃を防ぐ――


 氷の強度は、幼体の集団によって作られた刃の非常に重たいであろう一撃を見事に防いでくれた。






*** ***




(これ……いつまで……続く……の……!?)


 リディアは骨のような外殻を持つあの巨大な魔物に備えられた卵嚢から伸びた管に呑み込まれ、今は肉壁の中を進まされている最中だ。腰から折り畳まれるような形で背中の方向に向かって吸い込まれている最中であり、窮屈な体勢ではあるが、リディアは何が何でも最終地点に辿り着くまでは決して意識を途切れさせぬよう、気持ちに鞭を入れ続けていた。


 目の前は暗くて殆ど何も見えない。加えて、黒のフェイスマスクを突き抜けて漂ってくる嫌な臭気も無視が出来なかった。マスクが無ければどれだけの悪臭だったのかは想像しない事を決めていたリディアであるが、今は呑まれる力に逆らう事も出来ず、兎に角今は最終地点を待つだけであった。




 時間にして数分だったのかもしれない。


 腰から『く』の字に折り畳まれるように呑まれていたが、突然尻の方の圧力が無くなるような感覚を覚える。そして数秒とせずに今度は腰から脚にかけてどんどん圧力が消滅していき、最後は肩の部分まで一切の圧力が消滅する。


 ようやく出口にまで到達したのだろう。最後の辺りになる頃には頭部にかかる圧力も無くなり、空間の把握を視覚で確認する事も出来るようになる。すぐにリディアは後ろを振り向くが、そこに広がっていたのは、ピンクの肉壁という点ではリディアを呑み込んでいた管と同じではあるが、出口として送り込まれたのはその肉壁に包まれた広々とした空間であった。


 管の肉壁によって束縛されているのはもう残りは腕と足だけである。それが離れればリディアはそのまま肉壁の部屋へと落下する事になるが、高さは1階建ての建造物の屋根程のものであり、普通に落下すれば無事では済まない可能性がある。




「やっと出られた……。って何ここ……」


 リディアは高さに対しては特に驚く様子を見せる事は無かった。高所から落下するような場面でも、それに対処する為の手段を持ち合わせているのだから、この程度では何も脅威にはならなかったようだ。


 ピンクの肉壁に包まれた部屋は非常に気持ちが悪かったが、まずは上手に降り立たなければいけない。空中で上手に体勢を整え、そして落下速度を低下させる為に両足に魔力を秘めさせながら、とりあえずは網目のように敷き詰められた独特な深紅の床に降り立った。


 壁こそはまるでピンクのクッションを敷き詰めたかのような、ベタ塗りとも言えるようなピンク一色で支配されているが、床だけは外観がはっきりと異なるものとなっており、これが本当に卵嚢という生物の器官の内部であるのかを疑わせるかのような異質さを見せていた。


 内部は外からの光を吸収する事で内部に光を漏らしているのか、自分で光源を用意する必要は無いだろう。




「うわぁ……これってさっきの怪物のあの変な袋の中……だよね」


 とりあえず、まずリディアは自分が今どこに送られてしまったのかを分析する事にした。見回すと、そこに広がるのはやはりピンク一色の壁で囲まれた部屋で、自分の前後に奥へと続くであろう通路のような道が伸びている。天井を見上げると何かが出てくるのでは無いかと思わせてくるような塞がった穴が無数に存在していた。


 自分もその無数の穴の内の1つから丁度今落とされた事にリディアは気付く。


「まあいきなり消化とかにならなくて良かったけど、どうしようこれ……。。脱出出来るんだろうね……?」


 勿論この空間にいる事自体が不幸そのものなのは言うまでも無いが、リディアとしてはまだ自由に動き回る事が出来るだけの余裕を与えてくれたこの卵嚢(らんのう)のある意味での隙や欠陥に安心をしたかったのだ。とは言え、生物の体内にいる以上は何とかして外へ脱出しなければいけないだろう。




「とりあえず進むしか……ってあれ?」


 まずは前進すべく、一歩を踏み込もうとしたが、右足が持ち上がらなかった。勿論着地の時に足が床に埋まってしまった訳では無い。しかし、足元を確認したリディアの青の瞳に飛び込んできたのは、想像すらしていない光景だったのだ。




――足首に細い物体が絡み付いており……――


 床から這い出てきたのであろうその細い物体、それは触手と呼んでも良い存在であった。


 リディアの足首に絡みついており、まるでその場から逃がさないようにしているかのようでもある。勿論リディアはそこから抜け出そうと力を入れるが、触手は離れなかった。


「な、何これ!? また触手!? いや、離せないし……これ……!!」


 強引にその場で飛び跳ねるように足を動かしてみるも、ただ引っ張るだけでは触手が離れる様子は無かった。気付けば徐々に触手は足首から膝、そして太腿まで伸びようとしていたのだ。白のニーソックス型の装備の上から締め付けてくる触手にリディアは嫌悪感を覚えるが、今は斬り離す事だけを考えなければいけない。




――右手に刃を生成させる――


 これはリディアのいつもの対抗手段である。何かに束縛された場合は、すぐに手から刃を魔力で作り、そして自分を束縛している対象を斬り刻む。しかし、今回は自分の脚を包むように巻き付いていたから、自分の脚には傷を付けぬよう、加減を加えながら根元から斬り付けた。


 触手は締め付ける力こそ強かったが、耐久力はそこまで高い訳では無かったらしく、刃物で軽々と切断する事が出来た為、リディアはその場に拘束されずに済んだ。


 とりあえず、触手が出現していた場所に危機感を感じていた為、その場からは駆け出すようにして今いた場所から距離を取る。


「あっぶなっ……。あれ掴まれたらどうなっちゃうんだろ……?」


 触手はやはりリディアの予想の通り、足元から、網目状の隙間から伸びていた。切断された触手はゆっくりと床の中に戻っていくが、卵嚢(らんのう)の内部で(うごめ)く触手に拘束されてただで済むとはとても考えられない。


 勿論確かめる手段は無いし、自分の身を使った時は、それは自殺を実行するようなものだ。しかし、この空間は居心地が悪いのだから、まずは通路として奥に伸びている以上は何かがあると信じながら進むべきなのかもしれない。


「まあとりあえず行……って……!!」


 ゆっくりと床の中へと戻っていく触手を眺めていたリディアだったが、再び歩き出そうとしたら再び先程と同じ力を足に感じたのである。反射的に足元を見ると、やはり先程と同じ触手が足首に絡みついていたのだ。




「うわ何!? また!?」


 リディアは気持ち悪さすら覚えながらも、冷静に再び右手から魔力の刃を作り、触手を根元から切断した上ですぐにその場から飛び退いた。


 飛び退いた後は再び触手は床の内部へと引っ込んでいくが、リディアはどのようにして触手が出てくるのか、それを確かめようと心を引き締める事にしたようだ。


「これってどういう風に……出てくるの?」


 リディアはしばらく足元に視線を落とし、足元を凝視していたが、やはり触手自体は網目状の床の間からゆっくりと現れようとしていたのである。


「やっぱりここから……出てたんだぁ……」


 数歩、後退するリディアだが、すると触手は特に伸びながら追いかけてくる事もせず、何も標的がいない事を物理的に手探りするかのように(うごめ)いた後に、ゆっくりと床へと戻っていく。ここでリディアは1つの憶測を手にする事になった。




「まさかじっとしてたら、狙われるってやつ?」


 もしかすると、その場で立ち止まっていたらそこに触手達が集まってくるのだろうか、とリディアは推測を立てたのである。この推測の為に立ち止まっている間も、やはり触手はリディアを足元から狙おうとしていた。勿論リディアはその場から数歩後退する事で自分を取り囲もうとしていた触手を回避する。


 逆に言えば、常に動いてさえいれば取り囲まれずに済むという予測がリディアの思考の中で走り、リディアは再び奥へ向かって歩き出す事を決めた。単に目的地を目指す為だけでは無く、立ち止まる事によって触手達に囲まれる事を防ぐ理由もそこにはあると見て間違いは無い。




(ホントに出口なんてあるのかな……。ここ。早く皆の元に戻らないといけないのに)


 歩き出して数秒立たずして、リディアの頭の中で不安が膨れ上がってしまう。自分だけが大型の生物の体内に閉じ込められてしまい、今は他の皆がどうしているのかも目視する事が出来ない。もしかすると自分が死んでしまったと思われているかもしれない。そのような不安さえも込み上げてくる。


 僅かでも良いから、すぐにこの場から脱出したいと、それでも体内である以上は何が起こるのかが分からない為、今はこの場の状況を探りながら進むしか無い。それが、走るという動作では無く、歩くという動作なのである。




 しかし、不安を感じてすぐにまた異なる空気が空間に流れ込む。恐怖や動揺のような心の乱れでは無かった。1つの通路のような形状のこの部屋の天井の部分がゆっくりとうねり始めたのだ。


 ゴムが擦れるような鈍い音が響いた為、リディアは何となく後方を振り向きながら天井に視線を上げる。音が鳴り響くに相応しいような動きをリディアの目の前で披露させていた。勿論それはリディアの退屈を凌がせる為のものでは無い。リディアと同じ運命を辿ろうとしている者がここに送られようとしていたのだが、リディアはそれを知る(すべ)は無いだろう。


「なんか不気味な動き……。まさかこの部屋締め付けられるとか、無いよね?」


 リディアはあくまでも歩く速度をゆっくりにした上で、決してその場で立ち止まる事をせずに天井を凝視する。よく見れば天井が下がっているようにも見えたが、下がり続けている訳では無く、上下に弾んでいるだけであったようだ。しかしどうしても気になってしまう。何があってうねりを見せているのかを。


 それはリディアのある程度の予測もあったのかもしれないが、うねりにはリディアにとっては無視する事の出来ない理由が含まれていたのだ。


 薄暗いせいではっきりとはすぐに確認する事が出来なかったが、天井から何やら毛が生えた球体のような物が出てきたのである。それは何かとリディアは一瞬その場に止まりそうになってしまいながらも、出来るだけ同じ場所にい続けぬよう適当なステップを踏みながらそれを目を凝らして確かめる。


 その毛は茶色であったが、よく見ればそれは球体等という粗末な存在では無く、頭部であった。茶色の毛とは髪であり、そしてその者の事をリディアが知らないはずが無かった。




「ってあれって……シャル!?」


 リディアと違う場所で呑まれてしまった魔導士の少女である。リディアより遅れてこの卵嚢(らんのう)の内部に送られてきたようだが、リディアが声を荒げるようにしてシャルミラの名前を出すが、返事をしてくる事は無かった。


 表情を見ると、意識を失っているようにも見えており、見方によっては生気を失っているようにも見えてしまう。頭を下に向けた状態で徐々に上半身も天井から現れ始め、両腕が出てくる際にそのまま重力に引っ張られるように伸び切るのかと思いきや、まだ意識は辛うじて残っていたのか、両腕を重力に引っ張られぬよう、いくらかは力を込めていた。もし引っ張られれば万歳をしているかのようなピンと伸ばしたような形になっていただろう。


 ようやくあの狭い空洞から解放された事にはある程度の認識はしているようではあるが、身体の方は腹部から腰、そして脚までも天井から現れ始める。逆さ吊りの状態で天井から搾り出されている為、脚の付け根が出た辺りから緑のスカートの方が悪い形で乱れていたが、そろそろ全身が天井から解放されようとしていた所で、リディアは焦った様子を見せながらシャルミラの落下地点へと駆け出した。




「あの状態で落ちたら……!!」


 シャルミラは床に対して頭を下に向けた姿勢である。その状態のまま落ちれば頭から落下する事になる。それだけは絶対に避けなければいけないと咄嗟に意識し、リディアは受け止めるべく、決して遠くは無い目的地点へと走り出すが、走り出した時にはもう既に落下が開始されていた。

生物の体内というシチュエーションはリョナゲーによく見られるような感じがあります。勿論あっちの世界では胃液等のような酸性の消化液や、何故か体内に潜んでる謎の生物とか、いずれも生きて返す気が全く無いような極悪な中身になってる事が多かったと思います。まあゲームだからあの世界だといくら死んでもやり直しは効きますが、小説の登場人物からしたら初めての空間でありながら当然死ねばそこで物語は終了してしまいますから全ての状況で油断をするなんて事が出来ません。


下手にやり過ぎると年齢制限が入るようなグロ作品になる危険がありますのでそこは注意しながら続けるつもりでもあります。

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