第21節 《魔導の申し子 笑顔と無邪気の裏に秘められた想い》 1/5
今回から新しい話に入ります。目的の洞窟には到達した一同ですが、前回登場してくれた魔導士の少女であるシャルミラと仲良くなったのも束の間、今度は以前登場したとある2人との再会になります。
ファンタジー系の作品では洞窟と言えばやっぱりもう嫌な予感しかしないのはお約束でしょうか。
魔法のような不思議な力を扱う事に憧れを持った1人の少女
エナジーリングを使えば、自分が想像した形で戦う事が可能になる
もう1人の少女はそれを体術の強化に活用した
それぞれが異なる力の道を進んだ最中《さなか》で、2人は再会を果たした
異なる戦闘スタイルを取得していても、根の部分は両者とも殆ど変わらなかったようだ
「ってな訳で、メルヴィちゃんとジェイク君だから、バルゴもちゃんとフレンドリーに接してあげてね!」
緑の魔導服を纏った、茶色の髪を持つ少女であるシャルミラは男女のペアであるジェイクとメルヴィを紹介し終えた所である。自分の相棒であるバルゴと呼ばれる猫のような外観を持った浮遊生物に仲良くするように頼み込んでいた。
「シャルに認められるような人柄だったらぼくも安心出来るよ!」
バルゴは男女のペアを怪しむ等のような威圧感を一切灯らせていない瞳で見つめながら、シャルミラに振り向きながら自分の率直な気持ちを答えた。
きっと、誰が聞いても警戒心を持つ必要が無いような、丸みを感じさせる説明をシャルミラから聞かされたのだろう。
「あたしあまり戦闘には自信無いから……そこは、ごめんね」
萱草色の髪の少女こと、メルヴィはもしかしてバルゴの紹介を聞かされている時に戦闘が絡んだ説明も聞かされてしまったのかもしれない。
黒いアームカバーに守られた両手を互いに胸の前で握り合わせる。
「そこは僕らでサポートするから、今は戦いの事は考えないって事にしようよ!」
どうしても戦闘の事になると暗くなってしまうメルヴィであるが、それをフォローするのはジェイクである。赤いフードの少年はいつものように自分達に任せても問題は無いという事を説明する。出来ればもう少し仲間として交流出来る相手が増えた事に対して喜んで欲しかったと思っていた事だろう。
「ぼくもあまり戦いには貢献出来ないから何も言わないけど、それより、シャル、まずは洞窟の方に来てくれる? 大事な話があるから」
バルゴは自分の体格の都合もあるのか、他の前線で戦う者達のような爆発的な力は発揮する事は出来ないようである。
しかし、今は戦闘能力の公開よりも洞窟の内部で発生した事実を見せる事が先であったようであり、バルゴは一度今の話を打ち切り、シャルミラの右手を引っ張りながら洞窟の方へと行こうとする。
「洞窟、あ、そっか、そもそもあたし洞窟に用があるんだったよね。エリンさんって……」
シャルミラは引っ張られるがままに歩き出すが、今日普通の形で出会うはずだった1人の女性を思い出すなり、動かしていた足をそのまま止めてしまう。引っ張り切れなかったシャルミラの手はバルゴの両手から落とされてしまう。
「シャル、お前行くのやだって言うならおれらだけで見てきてやるけど、それでもいいんだぜ? おれもどうせ仲間と待ち合わせしてる訳なんだし」
ガイウスは洞窟の入り口で何を見る事になるのかは理解しきっているのだろう。それを見る事を拒んでいるかのような様子を見せているシャルミラに変わって、自分が見て、その上で状況だけを報告してやろうとシャルミラにどうするのかを聞く。
ガイウスにも、個人の事情があるのだから、自分の事情のついでにシャルミラの知りたがっている事実を持って戻ってくるぐらいはしてやれるのだろう。
「あぁいやいやそれは大丈夫ですよ! ちゃんとあたしも行きますよ! 人任せなんて駄目ですから!」
シャルミラは自分を置いて歩き出すガイウスの後ろを追いかけながら、取り乱した声を出した。ガイウスの隣に追いつくとほぼ同時に走らせていた足を歩きの速度に落とし込む。
「シャル、何かあったら私が何とかフォローしてあげるからね。それに多分洞窟の方でその、盗られた宝玉の事も聞く事になるから尚更皆で行かないと、じゃない?」
ある種の独断で勝手に歩き出したガイウスを共に追いかけていたリディアも、シャルミラの不安を何とか取り除く為に頑張る事をシャルミラに伝える。
そして、やはり洞窟の付近では宝玉に関するこれからの予定も説明されるのだから、自分にとって関係のある人物の事を除いたとしても自分だけ待機するという訳にはいかないのかもしれない。
「そうだったよね。宝玉の事も放置出来ない問題だったと思うし、それにエリンさんの事も、事実は事実だからちゃんと行かないと駄目か」
元々覚悟を決めた上で洞窟に向かう身だったシャルミラである。もし目的の人物であるエリンの凄惨な姿を見たとしても、それは友達からのフォローで耐え抜くべきだろうと自分に言い聞かせながら、歩く足を止めない事を決意する。
「まずは行くしかねぇだろうな。おれもあの2人待たせてるからさっさと行かねぇと何されっか分かんねぇしな」
ガイウスは歩きながら、鳥人族の兵士と、下半身の存在しない不思議な体組織を持つ亜人の姿を思い浮かべる。この2人が、ガイウスにとっての目的の人物であるのだから、ある意味では洞窟での戦死者の事はあまり関係は無いのかもしれない。
*** ***
洞窟の入り口にはやはり、多くの人間や亜人達が集まっていた。新しく派遣された調査隊なのだろうか、手に書類らしき紙の束を持ちながら話し合いをしている者達や、何かの魔物の脚らしき細長い物体の根元を確認している者等が集まっている。
ガイウスは丁度自分に背中を向けながら、調査隊と何か対話を交わしている目的の2人に向かって、手を持ち上げながら声を浴びせた。
「うぃっす! フィリニオン! マルーザ! 待たせたな!」
背中に一対の翼を生やした者と、下半身を持たない肉体の者、この2人がガイウスに名前を呼ばれた対象であった。
「あぁ? おぉガイウスじゃねえか。しかも友達もやっぱり連れてきたか?」
背後からの声に最初に反応したのは翼を生やしている方であった。紺色の羽毛を持ち、黄色のアクセントを加えた黒いコンバットスーツを着用したその亜人は、自分に声をかけてきた者の正体を眼で認識すると同時に、一緒に来ている者達にも視線を渡す。彼はフィリニオンである。
「洞窟の中で酷い有様になった連中を見てたから、やっぱり生きたあんたを見ると気分が晴れるよ」
もう1人の者もやはり人間とは思えないような雰囲気を漂わせているが、黒に赤の色を混ぜ込んだような影をそのまま人の形をさせたような異型の姿を作り出しており、容姿に関しては深紅に光る双眸が映るのみである。角のように尖った耳のような部分も見えているが、表情を読みにくいであろう眼だけの容姿は、初対面の相手を警戒させてしまう可能性もある。
そして、上半身より下はガスのような物質が立ち込めており、下半身は存在しないと見ても間違いでは無いような特異な身体構造を持っている。フィリニオンと比較しても明らかに魔物に近いような姿ではあるが、声色は女性のものであり、そしてガイウスと普通に言葉のやり取りをしている辺り、外見による差別をする必要は薄いと見ても良いだろう。
下半身を持たない異型の姿を持つこの者の方はマルーザである。
「その言い方だとやっぱり調査に入った連中は駄目だったみたいだな。皆ご苦労な事だぜ」
ガイウスはマルーザの言い方を聞いて、直接の表現こそは聞かされなかったものの、調査の為に向かった者達が絶命してしまっていた事を改めて実感する。彼ら彼女らの回収の為に労力を使った新しい調査員達を誉めずにはいられなかった。
「皆の事はさておいて……、えっと、フィリニオンさんもマルーザさんもお久しぶりです!」
本当は簡単な話であるかのように扱う事は良くない事をある程度は理解していたリディアであったが、顔見知りであるフィリニオンとマルーザに挨拶を交わす為には、どうしても今は置いておくしか無かったようだ。
ガイウスの横に出ながら、自分の幼さの映る容姿を見せた。
「リディアか。よく来たもんだぜ。結構変な連中にも絡まれたりしたんだろ? その感じだと」
紺色を保持している鳥の亜人であるフィリニオンは純粋にこの場に来られた事を褒める。近頃は周辺の治安が悪い事を意識しているからか、そのような悪化した道をよく無事に通り抜ける事が出来たと、感心を隠す気にはならなかったようだ。
「ま、まあ、色々ですね。でもあんな程度じゃやられませんよ私は」
野盗等の危ない集団に狙われた事をリディアは思い出したが、野盗のような数とただの馬鹿力と怒声だけを武器にしているような者達に敗れる訳が無いと、ノリが効いたような口調で言い返した。
「よく言った。そんぐれぇの根性ねぇと戦いなんかやってられねぇからな」
フィリニオンはリディアがただの未成年では無い事を実感させてもらったからか、堂々と自分が修羅場を切り抜けてきた事を伝えてきたリディアに言い返したのだ。
根性があるからこそ、戦闘に踏み込めるのであって、根性が無ければもうきっと命なんてとっくの昔に果てていた事だろう。
「所で、ここに来た理由って、あんた達もやっぱり調査隊の事なのかい?」
マルーザは特にリディアの苦労話に興味を抱かなかったかのように、赤黒い色を帯びた禍々しい腕を組みながら洞窟の目的を聞こうとする。声色は女性のものではあるが、決して歳若い可愛さを連想させるものでは無く、怖い部隊長にでもいそうな威圧感のあるそれだ。
「それも……まあ一応あるんですけど、やっぱり一番の理由は奪われた宝玉、でしたっけ? それですね。私的には」
リディア自身は犠牲になってしまったであろう調査隊の者達が一番の目的では無かったが、自分の友達がそれを気にしていた為、自分にとっても完全には関係が無い訳では無いと声を詰まらせるようにして相手にそれを表現する。
だが、やはりリディアにとっての目的は宝玉であった事には変わりは無かったらしい。
「やっぱり聞かされてたのか、宝玉の件は。まあ最近暴れてる変な組織の連中が関わってるのは間違い無いんだけどね」
リディア達が宝玉目的でこの洞窟に来たという事はまだマルーザは聞いていなかったのである。ここで初めてそれを聞かされ、そして宝玉を奪い去ってしまった者の正体を何となく想像するが、それが誤りでは無い事を自信ありげに言った。
「変な組織って、私が何日か前に戦ったあいつも関係してるって事なのかな」
恐らく、リディアの言った『あいつ』というのは、エボニー海岸で戦った氷の兵士であるネインハルスの事だろう。
あの者も今回の洞窟での事件に関わった何者かとの関係があるのかとガイウスを見ながらそう言った。
「もしかしてお前ら2人も連中に関係するような奴らとまた出会ったりとか、そういうのあったりしたか?」
ガイウスはしばらく別行動を取っていたフィリニオンとマルーザに、自分と離れてから組織の者達と鉢合わせになったりしなかったのかどうかを訊ねる。
「したよ。昨日だったかな、リザードマンの外見した連中に変な因縁付けられて消されそうになったけど、逆にわたしとこいつで逆に消してやったけどね」
あっさりとした返答をしたのはマルーザの方だった。そして内容と結果は言葉の通りだったのだろう。2人であれば、言いがかりを付けられた上で武器を向けられたとしても、逆に相手に地獄を見せてやる事が出来るはずだ。
「なんかオレ達の仲間に手を出したからここで死んでもらう、みてぇな事言われたっけな。そもそもこっちは集落1つ守っただけだったってのによぉ」
フィリニオンの追記とも言える説明によって、1つの集落を守ろうとした際にリザードマンの姿を持った者達に襲撃されたという事実を改めて理解する事が出来たのかもしれない。これを聞くと、集落を襲ったリザードマン達に非があったと見ても誤りでは無いだろう。
「自分に都合のいいような因縁付けてくんのが敵ってもんだからなぁ。っていうか、おれ達みたいに宝玉奪われた事で危機感感じてくれる奴が他にもいて助かったぜ」
ガイウスにとっても、自分を敵として見なした上で襲い掛かってくる者に優しさを思わせる感情を渡す気は無いだろう。適当な理由をこちらにぶつけてきた上で命を狙われるのだから、狙われる方からすればたまったものでは無いのは確かだ。
それよりも、ガイウス達は元々宝玉の調査の為に来ていたのだから、同じ志を持つ者がいてくれた事に対しては素直に感謝を見せるしか無かったようだ。
「そりゃそうだろうなぁ。あの奪われたやつってなんか少し過去の事を見れるっていう代物らしくてだ、そんなのが無断で奪われたんじゃあそりゃギルドだって黙る訳ねぇからな」
フィリニオンは視線を一度洞窟の入り口へと向けた。鋭さの見える嘴も一緒に動くが、眼孔の先に映るのは、奪い取られてしまった宝玉の力である。過去を映し出す能力を持つ宝玉はギルドの方で管理を受けていたのかもしれないが、奪われた後となればもう何を後悔しても遅いのである。
「まあ真面目な理由としては、この洞窟の更に奥に怪物の巣があるって話を聞いてさ、それを根絶やす為にわたし達来たんだけどね」
実はフィリニオンとマルーザがこの洞窟に来たのにはもう少し固められた理由があったようだ。
マルーザは外見上は口が見えないその赤を帯びた黒の容姿でそれを説明するが、今目の前に見えている洞窟にはまだとんでもない脅威が潜んでいる様子である。
「あ、あの、お話の途中でごめんなさい! あ、あたしはシャルミラって言うんですけど、その……」
ずっとタイミングを伺っていたのだろうか。ガイウス達の対話を遮るかのように、そしてガイウスの視界をも遮るかのようにシャルミラはマルーザの前に走り込みながら現れる。
緑の魔導服を纏った茶色の髪の少女は、ガイウスとの対話を遮ってでも聞きたい話があったらしいが、力任せに飛び込んだせいで、具体的に聞きたい事を口から出せずに詰まってしまう。
「ん? 名前はいいとして、突然どうしたんだい? 無理矢理自己紹介する以外にも要求がありそうだね?」
マルーザは目の前にいきなり現れた茶色の髪の少女の名前を知ったのはいいが、やはり何か質問があるという事だけは見抜く事が出来ており、とりあえず今は聞く姿勢に入る。
「洞窟の更に奥って……どういう意味なんですか? 洞窟にいた魔物って確か誰かにやられてたって聞いてましたし、それと……調査隊の人達って……」
洞窟の入り口に向かって、白く透き通った人差し指を向けながらシャルミラは本当にしたいと思っている質問を必死になって投げつける。動揺してしまっているからなのか、聞き手の処理能力によっては上手に伝わらない可能性があるような言い方になってしまっているのだが、シャルミラの表情は不安に駆られたものになっている。
「なんか纏まりの無い質問になってるねぇ。えっとだね、犠牲になっちゃった調査隊の連中が出会ったのは洞窟の最深部にいた蜘蛛じゃなかったの。多分産んだ親元から少し離れたとこに自分の巣なんか作ってただけなんだと思うよ」
どうしても聞かなければいけない事実を求めていると感じたマルーザは、下手な質問を何とか解読し、シャルミラの求めている情報を話してやる事にした。
洞窟内の魔物と、調査隊という2つの言葉の関連性と、そして自分が洞窟には更に最深部があるという話を出した途端に飛びついてきたこの事実を合わせた時に、今自分が説明すべき内容が浮かび上がったのだと言えるだろう。
最深部とそこから離れた、犠牲になった調査隊がいたであろうエリアの2つを、指を使って2つの丸を描くようにして表現しながら、シャルミラに説明を施した。
一度マルーザは自分達から離れた場所に顔を向けた。そこには簡易の白いテントが張られており、そこでは異なる作業に携わっている隊員達の姿があったが、それはまるで何かを思い出すかのようだった。再びシャルミラ達に視線を戻した上でマルーザは再び言葉を続ける。
「それと、その調査隊を皆殺しにしてしまった蜘蛛の住処の更に奥を調べたら最深部まで繋がってる事が分かって、そこを調べた奴の話によるとね、後数日で卵が孵化してしまうから、今の内に何とかしとかないと下手したら洞窟の外にまで影響及ぼす可能性があるんだと」
もしかすると、犠牲になった調査隊や、奪われた宝玉よりも重要な話がこれだったのかもしれない。
続けて説明されたマルーザの情報は、恐らくここにいる者達がここを離れようと思えなくさせてしまう内容だっただろう。
「うわぁ……そんじゃ、おれらの目的って宝玉追いかける事よりその孵化しようとしてる卵の撲滅って事になっちまう訳か?」
ガイウスは面倒な仕事を押し付けられたかのように嫌そうな表情を作りながら自分達が何をするのかを連想する。
どうしても久々の対面とかになってしまうと確実にそれだけで投稿1回分を使ってしまいます。新顔も見る関係でどうしても互いの関係とか、その辺を説明するとなるとやっぱりそれだけでそれなりに量を使ってしまいます。
次回からは徐々に洞窟に関する説明が明かされてく感じになると思います。