第20節 《地獄から降りた炎の仏デストラクト 卵が産むのは魔の未来》1/5
今回はリディア一同の話ではありません。後半までリディア達は一切登場せず、前半はミケランジェロと彼の仲間のシーンになります。ほぼバトルシーンで構成されてまして、序に言いますと純粋な人間系のキャラは一切登場しないと思います。まあバトルシーンが終わると出てはくれると思いますが、今回は人間キャラは一切登場しません。
暗闇の森の中に建設された、古びた神殿がそこに存在する。
背の高い木々が視界を遮り、見上げなければ天辺を知る事が出来ない神殿を軽々と隠す事が出来るのがこの森。
神殿からは瘴気が放たれているのか、神殿に隣接する木々は通常の緑から、不気味な赤に変色してしまっている。
見るからに怪しいこの建造物の内部には、侵入者に死を与える邪悪な魔物が潜んでいたのだが。
地獄から舞い降りた仏がこの神殿に侵入し、魔物の卵を奪い取ったのである。
卵から孵ると、魔物の子供が産まれるのは言うまでも無いが、それが組織の手に渡れば悪用は確実だ。
地獄の仏と戦っているのは、雷撃の魔人と言った所なのだろうか。
――神殿の内部で、一発の炎が吹き荒れる――
神殿のエントランスともいうべきか、四方に各部屋へと連結されているのであろう階段や通路が見える空間に、風のように周囲を包み込む激しい炎が放射されていた。
石の柱や床は炎を受けても燃え上がったり、焦げ目を作る事をしないが、炎を受けた者がいた場合、確実にただでは済まされない。
しかし、炎の嵐は1つの竜巻のような風1つによって、消し去られてしまう事になる。
炎が向かっていた場所から現れたのは、1人の亜人であり、Vネック型の黄色の胸当てと、その下に真っ赤な半袖シャツを着用している。
炎を竜巻で消し飛ばした、灰色の皮膚を持つ亜人は、両腕に電撃を走らせながら、炎の主に言い放つ。
「残念だったなぁ。そんな程度で吾輩は沈まないぞ?」
黄色一色で覆われた目を、火炎放射を炸裂させた主に真っ直ぐ向けている。
神殿特有とも言うべきか、無機質な薄い灰色の石製のタイルの上で、炎が自分に効果的では無い事を伝えて見せる。
「今の炎でやられねぇって分かってたからオレの邪魔しに来たんだろ? 見りゃ分かる事だ」
先端が膨らんだ形状をした金色の出力装置、外観は杖にも見えるそれを肩に担ぎながら、青い皮膚を持った人型の何者かが言い返す。
杖にも見えるその装置の先端からは軽く炎が立ち上がっており、恐らくはその先端から先程の炎が放出されたと予測出来る。杖を操っていたのは、金の螺髪で髪型を作り、仏という神のイメージに反発しているかの如く装着している真っ黒なサングラスが特徴的な亜人である。
派手に炎を撒き散らしたが、それでも確実に敵対者を殺害出来るとは期待していなかったようだ。
「そんな事はどうでもいい。卵なんか持ち出すなんて認める訳にはいかないな」
自分が進んできた通路、恐らくはそこが出入口へと繋がる場所なのかもしれないが、電撃を扱う亜人は数歩、進んでから青い亜人にそう言った。
「あぁ? お前そんな事の為にわざわざここまで飛んできたのか? ご苦労さんなこったぁ」
卵の持ち出しを阻止する目的で神殿にやってきたのかと思うと、青の亜人は鼻で笑わずにはいられなかったようだ。頭部と同じ程の太さを誇る首を僅かに倒しながら、目の前の敵対者の苦労を想像してみる。
「吾輩のとこの監視グループがお前がここに来るのを発見したんだよ。孵化させて自分らの手下にするつもりだろ?」
電撃を扱う亜人は、青の亜人が肩から斜めにかけている黒のショルダーバッグから目を離そうとしなかった。その中に、外に持ち出すべきでは無い卵がしまわれているのは間違いは無い。
「ペットとしてただ飼うだけかもしんねぇじゃねえかよ? 疑り深い奴だなぁ」
水色のクォーターパンツの下からは、青の皮膚で覆われた脚が伸びている。古代の財宝のような装飾をあしらった金のブーツの裏で、足元に転がっている石の欠片を踏み潰す。
自分の計画を邪魔する奴は、足元の欠片のような運命をお前も辿る事になるぞと伝えようとしていたのかもしれないが、きっと伝わっていなかっただろう。
「兎に角、その卵は置いてってもらおうか? 自分でも飼う事だけが目的かどうか分かってないような口振りだな」
電撃を扱う亜人はどうしても気の荒い仏の言葉を受け止める事も、信用する事も出来なかったようである。ショルダーバッグを指差すその姿からは、卵を諦める様子を想像する事は不可能かもしれない。
「お前の我儘には付き合う気はねぇんだよ。しつこい奴は丸焼きだぜ?」
仏の立場で考えると、自分が今すべき任務を他者に妨害される事を好ましく思えないようである。肩にかけていた杖を降ろし、言葉の通りに相手を焼き尽くそうとしているのかもしれない。杖の先端がゆっくりと電撃を扱う亜人に向けられる。
「丸焼きの願望は叶わないと思った方がいいと思うが? もうすぐ吾輩の仲間が来るしな?」
灰色の皮膚を持つ亜人は腕を組む。もう既に彼からすれば、展開が約束されているようなものなのかもしれない。これから駆けつけてくるであろう増援が、尚更青の仏を追い詰める要因になっているのだろうか。
「おいおい、お前みたいなのが3匹4匹増えたって何も変わんねえだろ?」
青の仏も炎を殺人兵器として扱うような男である。敵対者が何人か増加したとしても、自分にとってはそれが重荷になるという事は無いようだ。
サングラスの奥では、きっと敵対者が焼け死ぬ様子を思い浮かべている事だろう。
「だったらまずは吾輩の事を止めて……」
いつまでもお喋りを続けていては何も解決しないと考えたのだ。雷撃を扱う亜人は自分から攻め込む事を決定し、敵対者の立っている向かいの通路の入り口へと歩き始める。
――身体に電撃を走らせ、青の亜人に飛び込んだ――
「みるか!?」
電撃が突撃の速度を激増させたのだろう。
自らが弾丸になったかのように仏の亜人目掛けて直進する。突き出された拳には更なる電撃の力が込められていた。
1秒と時間をかけず、コンマ単位の時間で仏の亜人に接触しようとしたその時、やはり敵対者も素直に殴られてはくれなかった。
――足元を炎上させると同時に自身をその場から消滅させる――
超速移動と共に突き出させた拳は何も無い空間を切り裂くが、誰もいない事が分かれば、直進する理由は無くなる。
まるで周囲の空気で自身の身体を押さえ付けるかのように、自身を強引にその場に止めてしまう。しかし、電撃を扱う亜人の背後から凄まじい温度を感じ、温度の正体を知る為に振り向いた。
所持者自体も炎上させてしまうのかと思えるような、派手に燃え上がった棒状の武器で、青の仏は叩き付けようとしたのだ。
――炎の杖が電撃の亜人を襲う!――
「やれるもんならやってみろ!」
炎に包まれた杖を薙刀のように上から振るい、炎に化けた杖で怒声と共に殴り付ける。
電撃を扱う亜人は腕が黄色に光り輝く程の電撃を溜め込みながら、杖の一撃を両腕で受け止める。
「だからやるんだろ? だから今ここにいるんだろ?」
電撃を纏った腕を盾のようにして仏の杖を防いだ雷神は、自分の腕に再び電撃の力を注ぎ込む。黄色の胸当てを装備した灰色の亜人の腕は、まさに戦う為に存在する兵器のようなものなのだろうか。
怪しくも、眩しくなり始めたその腕に対し、炎の仏が違和感や脅威を感じるのは決して遅い事では無かった。
これから自分に反撃を行なうのかと察知した仏は、後方へと飛び退いた。
――雷神を包むかのように、電撃の爆発が発生する――
跳躍をしながら、青の仏は雷神に向かって言い放つ。
「甘ぇんだよそんな小細工!」
近くにいたままだと、電撃の爆発を浴びていた事だろう。それを回避した青の仏は、その場から歩み出さない雷撃の亜人を自分の目の前へと近寄らせる為に、金色の杖に魔力を込める。
まるで悪巧みでも思い浮かべたかのように口元をにやつかせながら、杖の先端を電撃の亜人へと突き出す。
「距離なんか取っても状況は変わ――」
後退する青の仏を嘲笑う電撃の亜人であったが、背後から何者かに掴まれ、声を詰まらせてしまう。腰を抱き抱えられるように手を回していたのは、赤い皮膚を持った人間のような存在であったが、そんな者は神殿にはいなかったはず。
雷撃の亜人の戸惑いすらも無視するかのように、青の仏はこっちに来い、とでも言わんばかりに杖を持っていない左手、細かく言えば人差し指で手招きをしていた。
――赤の分身は青の仏が召喚したのだ――
「だったら来させてやるぜ? オレのプレゼントもあるしな」
赤い皮膚を持った分身に無理矢理自分の元へと押し出すように連れて来させている青の仏は到着と同時に攻撃を仕掛けようと、杖を横向きに構える。
見る見る内に杖の先端には神殿のそこら中に転がっていた石の欠片が集まっていき、やがてそれは1つの塊となり、元々膨れ上がっていた杖の先端が更に巨大と化す事となった。
そろそろ自分の元へと到着する、赤の分身に連れて来られた雷撃の亜人を杖の先端で殴り付けようとするが、標的にしたのは、雷撃の亜人では無かった。
正確には、途中で狙うのを辞めたと言うべきである。
――力任せに背後へと塊を投げ飛ばす――
作られた塊には妙な魔力が練り込まれていたからか、ただ投げ飛ばされるだけでは無く、一旦中心から開くかのようにバラバラになった後、勢い良く最初に電撃の亜人がやってきた通路目掛けて飛んでいく。
破片は尖った形を武器に、通路からやってくる別の誰かを串刺しにすべく、飛んでいく。
――しかし、破片は凍り付いたかのようにその場で止まってしまう――
空中で全く動かなくなった破片はしばらくするなり、力無く重力に引っ張られながら石造りの地面へと落下していく。
歩きながら現れる、茶色の直綴を纏った、緑の皮膚を持つ蜥蜴のような亜人は前方に突き出していた右手を降ろす。きっと右手から魔力を放ち、瓦礫の破片の動きを停止させたのだろう。
「エンドラル! すまなかったな遅れて!」
――電撃を交えた瞬間移動で彼の隣から現れる電撃使い――
「ミケランジェロか! 遅刻とは言わない事にするぞ!」
通路の奥から駆けつけてくれた蜥蜴の亜人の隣に現れる、電撃使いの亜人こと、エンドラル。
電撃を纏った瞬間移動によって、青の仏が召喚した赤い分身の束縛から逃れると同時に、仲間の隣に瞬時に移動したのである。
「思いたいなら好きにしてくれ。敵はデストラクトだったのか」
大剣を空間の中から引き抜きながら、ミケランジェロは青の仏を真っ直ぐと見据えている。
「やっと友達が揃ったか? 戦いってのは過剰に派手じゃねえとつまんねぇもんなぁ?」
左手で指を鳴らすような動作を行うデストラクトだが、同時に自身の背後で立ち往生していた赤の分身は煙と共にその場で消滅する。
分身による攻撃は失敗に終わったが、敵対者が2人に増えた所で、サングラスの奥にある目付きが弱まる事は無く、寧ろ盛り上がりが更に倍化してくれるものとして、新しく表れたもう1人の相手を称賛したい気持ちも隠し持っていそうである。
「聞くまでも無いとは思うが、呼んだ目的はあいつを黙らせる事か?」
大剣を持つ手の握る力を更に込めながら、ミケランジェロは敢えてエンドラルにここでの目的を訊ねた。視線を真っ直ぐにしたまま。
「確かにそうだが、一番の目的はあいつが持ってる卵の奪取だ。それを最優先に頼むぞ!」
ミケランジェロの質問は敢えて出していて正解だったのかもしれない。目的は純粋に相手を倒す事では無く、神殿から持ち出そうとしている卵の奪取であり、それが予想外であったのであれば、ここでの質問は間違いでは無かったと言えるだろう。
ここでの戦う理由は、卵を取り返す事ただ1つなのだ。
「卵卵うっせぇなお前ら。卵マニアなのかおい?」
デストラクトは自分がショルダーバッグに収納している卵の事を延々と意識されている事に対し、苛立ちでは無く、ある種の執着心を持っているのかと考え始め、拘る部分をからかうかのように、デストラクトは言う。
それでも、やはり油断をしている訳では無く、杖の先端からは弱火のような小さな炎を放出させている。
「じゃあマニアぶってんだったら頑張って奪ってみろよ?」
デストラクトは歩き出す。杖の先端を石の床に落とし、引き摺りながら。
引き摺った部分には炎が残るが、小さかった炎は時間の経過と共にまるで油でも継ぎ足したかのように大きくなり、やがてそれはデストラクトの背後を守る背後霊のように、不気味な形を作り始める。
――炎の背後霊を味方にし、デストラクトは杖の炎を奇妙な緑に染め始める……――
魔法とか超能力的な力で戦うのはファンタジーの世界では王道だとは思いますが、人間外の者同士の戦闘となると一旦人間としての常識を捨てないといけないと思いますので、そこでちょっと苦労してた覚えがあります。でも折角人間外の者同士の戦いである事に加えて、世界観自体が魔法とかを許される世界なので、好き放題やってしまう方が物語としては盛り上がるかと考えてもいます。




