第19節 《魔石の行方 守護者は侵略者を地獄へ落とす》4/4
お久しぶりです。1ヵ月以上間が開いてしまいました。申し訳ありませんでした。実は最近は絵画の方にも手を出しておりまして、主人公であるリディアを描いてたという事情もあって、小説の方が少し等閑になってしまってました。とりあえず、19節はこれにて完了となります。新しいキャラこと、シャルミラとの出会いの話を描いて、そしてこの節は完了です。
とりあえず、栗色の髪を持った魔導士の少女に突然抱き着かれたリディアは、まずは離れてもらおうと、魔導士の少女の両肩にそれぞれ手を添え、押し出した。
「やっぱりシャルだったんだぁ……。それより、ちょっと離れて! なんか気まずい!」
まるで人懐っこい家庭用の小動物のようにリディアに密着していた魔導士の少女を、リディアは距離を取らせる。同性とは言え、多少は癖になってしまいそうな緑の魔導服の布の手触りの感触とか、髪から伝わってくる少女らしい特有の香りが一瞬だけ気持ちを惑わせようとしていたようだが、リディアはそれらの誘惑を断ち切った。
「もう照れなくてもいいのに! 折角こうやって生きて再会出来たんだからリディアも素直に喜べばいいのに!」
抱き着く程の仲であるからか、太陽のような眩しい笑みを作りながら、密着させた影響で僅かに皺が出来てしまった緑の魔導服を上から下へなぞるように掌で正す。
「再会は確かに嬉しいけど抱き着くのはもういいから……。それより……」
リディアからしても魔導士の少女とは仲の良い存在として見ているのは間違いが無いと思われるが、その台詞や疲れたような表情を見る限りは、頻繁にスキンシップを受けてしまっているのだろう。
きっとこの道周辺を歩いていた理由を求めようとしたのだろう。一度表情を引き締めながらリディアは口を動かすが、魔導士の少女は次の人物の目の前へと移動しようとする。
「それよりって、あ、ガイウスさん! ガイウスさんもいたんですね!」
リディアの質問を半ば放置し、魔導士の少女はリディアを避けるように駆け出し、脚を組みながら椅子に座っているオリーブグリーンの短髪を持つ男性こと、ガイウスの正面に立つ。ガイウスとも面識があるのか、少女は丁度ガイウスを見下ろすような状態で、その存在を確かめる。
「一応おれはそいつの子守役だからな。所でシャル、お前もこれからヒルトップの洞窟に行くつもりだったのか?」
自分の隣から今は僅かに離れた場所にいるリディアを、手を拳銃のような形に作りながら指差した。そして、恐らくはリディアが丁度先程に聞こうとしていたであろう質問をここでガイウスがしてしまう。
「そうなんですよ! 調査隊の方々と会うっていう約束をしてましたから。所で、そちらの不思議な見た目の人と可愛らしい人は……ガイウスさんの知り合いですか?」
魔導士の少女は既に再発進をしている輸送車の進行方向に一度茶色の瞳を向けながら、向かう目的を短く説明する。視線を変えた際に、ガイウスとは反対方向の壁際に設置された椅子に座っている男女が視界に入り、その2人の関係もガイウスに訊ねる。
「次から次へと話題作る奴だなぁ相変わらず。まあ、知り合いっていうか……旅の途中でちょい会ったから一緒に行動してるってだけだな。まあ知り合いって言えばその通りかもな」
それが魔導士の少女の性格なのだろう。話す事を好む人間であれば、沈黙の状況を嫌うのは確実であるし、久々に出会った相手であるのであれば、聞きたい事で溢れるのも納得出来てしまうのかもしれない。
ガイウスは次の質問である、その2人の男女であるジェイクとメルヴィの関係を説明した。簡潔ではあるが、それで充分なのかもしれない。
「君ってリディアちゃんとは友達なの? あ、それと僕はジェイクって言うんだよ。宜しく!」
魔導士の少女の振る舞いが気になったのだろう。ジェイクは赤いフードの中から覗かせる青い光で少女を捉えながらリディアとの関係性を訊ねる。
振り向いてきたのと同時に、自分の名前を教えた。
「ジェイク君って言うんだぁ? 所で、隣の子はジェイク君のガールフレンドでいいのかな?」
ジェイクの特殊な外見には驚く様子を一切見せなかった。魔導士の少女はきっと、何度も似たような外見の者達と会っているから、今更驚くような様子を見せなかったのだろう。そして隣に座っているメルヴィの事も気になり、男女という事もあるから、勝手に関係性を想像した上で聞いてみた。
表情には決してからかいの色は見えず、純粋に男女の関係を知りたいという真っ直ぐな気持ちしか見えていない。
「あくまでもあたしは友達よ。まだそこまでの関係は無いんだから勝手に決め付けないでよ」
メルヴィにはメルヴィの硬い意思があるのか、今の関係性を真顔で伝える。何だかリディアに共通するような雰囲気があるからか、この数分のやり取りを見てメルヴィはどこか心の底で疲れを感じていたのかもしれない。
出来れば、また煩い人間が一人増えたと思っていない事を願いたい所である。
「あぁいやいやごめんなさい……。折角初対面なんだからそんなに嫌な顔しないでよって……。所で名前の方、聞いていい……よね?」
勝手に恋人同士にしてしまった事を少女は謝罪する。折角仲良くなろうとしていたのに、と言いたげに気まずい笑顔を作り、それでもメルヴィからのやや鋭い視線に恐怖を感じてしまう。だが、やはり仲の良い関係をこれから築き始めたいという純粋な心からか、
「まあ、あたしはメルヴィ」
事務的にメルヴィは自分の名前を明かすが、やはり第一印象の方で良い印象を受け取る事が出来なかったのかもしれない。
リディアと比べると、魔導士の少女との出会いを喜んでいるようにはとても見えない。
「メルヴィちゃんって言うんだぁ。あ、そうだ、あたしの方の自己紹介まだだったよね。あたしはシャルミラって言うの! 見ての通り魔法で戦うから、戦闘の時はちゃんと頼ってね! それと勿論あたしはリディアの友達よ! 友達っていうか親友! 大親友! ベストフレンドね!」
まだまだ諦めていない魔導士の少女は、細くか弱そうな人差し指を自分の細い顎の下の方で差しながら名前を明かした。そして、自分の戦闘スタイルの説明もここでしてしまうが、着用している緑の魔導服の全貌をアピールするかのようにその場でバレリーナのように一回転を決める。
そして遅れていた情報と言うべきか、リディアとの関係もここで相手に無理矢理埋め込ませるかのように様々な言い方を駆使する。
遠心力で服が軽く乱れるが、横から見ていたリディアは何となくジェイクの目が下心を灯らせていたような感じを覚えた。
「あれ? でもさっきはシャルって言われてなかったっけ?」
ジェイクは魔法を駆使して戦うシャルミラの外見に惚れたのかどうかは不明だが、ここで出した質問は、名前の呼ばれ方の事だった。本名と実際の呼ばれ方で僅かな違いがあった為、その真相を聞こうとする。
「あぁそれあたしの名前がシャル、ミラでなんかいつの間にかリディア達からはミラって部分はぶられちゃってたんだけど、まあいいかって思って、その呼び方でいいって事にしてあげてるの」
シャルミラは再びか弱そうな人差し指を使い、名前を2つに分けるかの動作を見せつけた。顔の前で2つの物体があるかのようにそれを指で分ける動作を行い、そしてシャルミラから見て右側にずらしたその見えない物体を外に弾き飛ばすような動作をする事によって、名前の後半部分に存在するミラという文字を省略された事を上手に説明する事が出来たようだ。
言葉だけでも充分かもしれないが、指の動作もあればジェイクからすれば可愛い言動として評価したくもなるのかもしれない。
「所でシャルお前、今調査隊どのこのって言ってたよな?」
話す機会を窺っていたのかもしれない。だが、放置しておけば延々と自分の話題を続けてしまうだろうと考えたのかもしれないガイウスは、シャルミラに一度問う。内容は言葉の通り、調査隊の事である。
「え? あぁはい、言ってましたね。今日会うっていう約束してましたので、それで今向かう所だったんですよ」
背中から声をかけられ、シャルミラは顔を振り向かせた後に華麗に身体を捩じるようにしてガイウスに身体も向かせた。輸送車の進行方向を指差しながら、説明をする。
「調査隊の話って、お前聞いてねぇのか?」
爽やかな表情を見ながら、ガイウスはある種の不安を心で抱え込みながら、再会の約束の後の出来事を把握していなかったのかどうかを訊ねる。シャルミラの何も知らない事で作る事の出来る愛らしい笑顔を見れば、聞かなくても理解出来る可能性の方が高かったが。
「話……ですか? なんかあったんですか? 今頃は調査も終わって近くの町に戻ってるはずですけど?」
どうやらシャルミラは新しい情報を全く仕入れていなかったようである。ガイウスの真剣な表情から、何か良くない事態でもあったのかと、シャルミラでもそろそろ予測を始めるが、やはり直接は聞いていない以上は、自分の中にしまわれている予想を口に出すしか無かった。
「シャルお前ってその調査隊の連中と友達とか、長い付き合いとかだったりするか?」
突然の内容ではあるが、ガイウスからすればシャルミラと調査隊との関係をどうしてもここで確認したかったようだ。これによって、事実を話すべきなのかどうかを決める事が出来るのかもしれない。
もし親友等のような非常に深い関係であれば、続きの話をするのが困難になる。
「なんで、ですか? なんでそんな回りくどい言い方するんですか?」
質問の意味は理解出来ていただろう。しかし、シャルミラとしてはやはり遠回りをするかのような質問の意図を掴み取る事が出来ず、茶色の瞳から徐々に明るさや爽やかさを消滅させていく。
「いいから。付き合い長いかどうかそれだけ言え」
関係性を聞かなければどうしても次には進めないのだろう。
ガイウスは目を細めながら、命令口調でシャルミラに返事を催促する。どうしてもここでは関係性を知る必要があるのだ。
「もう……どうしたんですか? まあ、長いって訳じゃないですね。ただ1回だけ会って、じゃあ次は調査が終わった後に会いましょうねみたいな感じで別れた後だったので、実質的にはまだ1回しか対面はしてないんですけど、もう何があったのかちゃんと話してくださいよ?」
下手したら怒り出そうにも見えていたガイウスの表情を真っ直ぐ見つめていたシャルミラは、一度は宥めるような言い方を見せるが、質問には答えなければ本当に想像していた感情が事実になってしまうだろう。
少しだけ感じた恐怖を何とか持ち前の明るさで押し退けながら、シャルミラはまだ一度しか顔を合わせていない事を説明する。だけどやはり知りたいのは、何故あそこまでして調査隊の説明を渋っていたのかである。瞳にはやはり不安しか映らない。
「じゃあ言わせてもらうわ。調査隊はなぁ、やられたんだとよ。おれらはそういう風に聞かされてるぞ」
一度ガイウスは1秒程、強く目を閉じた後に、事実を説明する。
目の前の緑のローブを着た少女から何を思われようと、これだけは言わなければいけなかったのだ、とでも言わんばかりの真剣な目をしている。
「えぇうっそぉ!? それホントなんですか!? エリンさんって凄い実力派の白魔導士の方だったのに!?」
シャルミラは両手を強く握り締めながら、まるで事実を知るガイウスにそれを取り消させるかのように僅かな低さを思わせる声色を荒げさせてしまう。シャルミラからすれば、並大抵の事ではまず任務に失敗しないはずの者だったらしい。
輸送車は走行を続けているが、それなりに見事なバランスを保っているようであり、立った状態でも転びそうになる様子を見せない。
「そんな事おれに言われたって知らねぇよ。おれだって初めて調査隊の事自体聞かされてたんだから」
ガイウスは腕を組みながら、シャルミラの必死な態度を上手にあしらう。ガイウス自身だって、ヒルトップの洞窟に向かった調査隊との面識があった訳では無いし、そして彼が対策を立てようにも、それは無理な話である。責められているような気分になり、苛々し始めてもいたのだが、面倒そうな表情を作り、何とか誤魔化していたようだ。
「ま、まあシャルさあ、ちょっと一応は落ち着こうね?」
見ていて辛くなってきたのか、リディアはシャルミラの視界を遮るかのように近寄り、そして右腕をシャルミラの目の前を覆うように伸ばしながら肩に手をかけ、そして軽く引っ張った。気が動転しようとしていた可能性のあるシャルミラに優しい声を渡す。
しばらくは自分の振る舞いを考え直していたかのように黙り込んでいたシャルミラだったが、リディアは再び口を開いた。
「それに、ショック受けてるのはシャルだけじゃなくてそのエリンさんだったっけ? その人の知人とか家族の人も同じ思い受けてると思うからまずシャルは落ち着こうね?」
茶色の瞳から力が抜けていると感じたリディアだったが、今はここで落ち込んだり、意見に対して声を荒げたとしても結果は変わらないし、そしてこの件に関して心に闇を灯してしまっているのは一人だけでは無いと説明した。
殆どは憶測でしか無い言葉ではあったが、リディア特有の相手を安心させるような優しい少女の声色が更に説得力を上乗せさせていたのかもしれない。
「……うん、確かにそうだったよね。所で、まあ当たり前……だとは思うけど、やられたっていうのは……要するに、死ん……だ、って、事?」
リディアの青い瞳からは、頼むからここで怒鳴り散らす段階にまでは進まないでくれ、とでも言っているかのような雰囲気がシャルミラからは感じ取れたようであり、無理に笑いを言葉の端々に混ぜ込みながら、リディアの気持ちに応える事にした。
そして次は輸送車の中で立ったままの状態で、シャルミラは視線をリディアからガイウスへと移す。多少回りくどい言い方であった部分が残っていたから、その意味が現実的なものなのかどうか、出来ればそこだけは何か和らげてくれる寛大な事情があればと願いながら恐る恐る聞く。
「多分そうなるだろうな。相手は蜘蛛の怪物だって言ってたし、そんな奴の前で倒れたらもう生かしては帰してもら――」
「ガイウスそんな言い方やめてって! ちょっとはその辺ぼかしてって!」
ガイウスの口からは直接死の言葉そのものは出てこなかったが、言い方を見る限り、シャルミラからすれば死を確定されているようなものだろう。
それでもシャルミラの心境を考えずに洞窟内での惨劇を話し続けたガイウスであった為、見兼ねたリディアによって無理矢理止められてしまう。
直接押さえ付けるような事は流石のリディアでも行わなかったが、少女らしかぬ剣幕は、ガイウスの発言を阻止するには充分であったし、もし何かしらの怒声をやり返していた場合、本当にリディアの方が手を出してしまっていたかもしれない。
「わぁったって。悪りぃ悪りぃ……」
リディアは人を追い詰めるような発言が嫌いな人間である。ガイウスもこういう時にリディアに言い返したり歯向かったりしても絶対引き下がってくれない事を分かっているから、ここは観念して謝罪をしておくべきだという事をガイウスはよく知っているのだ。
「リディアそんなに怒らなくてもいいから。それにどっちにしても町の方に着いたらホントの事全部見る事になっちゃうんだしさ」
シャルミラはリディアの怒りを抑える為に、リディアの肩を掴んで揺さぶった。発端は自分の発言であった事を心で反省するシャルミラであったが、リディアの身体が自分の想像以上に強張っていた事には驚きを隠せなかっただろう。
町に到着した時に真実と向き合う事になる訳であり、覚悟が出来ていなかった自分にも大きな問題があったのだと、シャルミラは考えていた。
自分の気持ちを落ち着かせる為なのか、それとも単に立ち続けてた事で疲れてしまったのか、ガイウスの隣に尻を落とすように座り込む。
「よっと、じゃ、ここ失礼しますね」
シャルミラはガイウスから了解を取る前に座ったが、その場所は先程リディアの座っていた場所である。本人がそれを理解した上で座ったのかどうかは分からないが、隣にお邪魔をするシャルミラの表情はとても明るかった。
「シャル、なんかおれ変な事言っちまったなぁ」
2度目の謝罪なのだろうか。
ガイウスは、気分を自らの意思で復元させる事の出来たシャルミラと目を合わせながら、これから上手くやっていける事を心の奥で願った。
「いいですよいいですよ。戦いってそういうものだと思いますから。きっとエリンさん達も覚悟はあったと思いますし、あたしだって本当に殺されそうになった事が何回もありましたから、明日は自分がそうなると思いながらじゃないと長生きは出来ないと思いますし」
一度はこの場の空気を乱しそうにしたのだから、シャルミラは精一杯の戦いの場で持つべき心得を口に出す。戦う以上は自分が死を迎える可能性が常に付き纏うという事なのだから、今回亡くなってしまった者達の分も、自分が生きるべきなのでは無いかと、そう考えた。
「尤もな正論……なのかなそれ。じゃあ町に着いたらそのエリンさん達の為にお祈りぐらいはしてあげようね」
リディアは立ったまま、今のシャルミラの言葉を耳で受け止めていたが、確かにその通りと言えばその通りであると、少しだけ長い台詞を整理しながら一応と言わんばかりの納得の仕方をする。
そして、リディアは元々は自分が座っていた場所をシャルミラに取られてしまっていたから、シャルミラの隣に座り込むしか道は無かった。
町に到着するまでの間は、シャルミラの魔法の話で支配される事になったが、移動中の退屈を凌ぐには充分過ぎるものであったし、これからまた一緒に旅をする以上は、互いの事を理解し合うのも悪くは無かっただろう。
勿論、シャルミラの装着しているエナジーリングも、リディアの装備している物と同じ原理であるが、リディアとは異なり、一般的に連想されるような魔法使いそのものの戦い方を想像する事で、自分も同じ魔法使いのような戦法を身に着けていたのだ。
魔法の自慢話や、エナジーリングの制約の話等をしている間に、あっと言う間に目的地であるヒルトップの洞窟が輸送車の窓から見え始めていた。
どうしても幼馴染同士の出会いの時って台詞のやり取りが長くなりがちになりますが、多分一般的なラノベとかだとそれなりに地文等は省略される形で描かれてると思います。ただ、自分の場合は折角自分のやりたい方法で出来る場所で活動してるので、地文等の省略をせずに1つ1つ自分なりに丁寧に描きたいと思っております。その関係でどうしても長くなってしまいますが、やっぱり台詞のやり取りを外すのは……自分には出来ないかもしれません。
次回はリディア達の場所とは違う場所からのスタートになります。




