第19節 《魔石の行方 守護者は侵略者を地獄へ落とす》2/4
今回は少しショッキングなシーンが展開されるかと思われます。リョナ系の話でよく見る蜘蛛が人間を捕食するというシーンを描いてますので、それらが苦手な方はご注意お願い致します。
そして、怯えながら捕食される者の視点と、そしてそれを第三者として見る視点で描くという形を昔からやってみたいと思ってましたので、今回それを実現させてみました。戦いに慣れた者からすると捕食される事を分かって悲鳴を上げる少女を見ると呆れてしまうみたいです。
――洞窟から出た羊の亜人は、入り口に待機していた球体状の生物の目の前で立ち止まる――
前後左右、そして上下、全ての部分にびっしりと黒の目玉が張り付いた青い球体状の生物に対して、亜人は洞窟内で見つけた魔石を目の前に差し出した。
球体状の生物は無数に存在する目の1つから光を照射させ、魔石を上から下へとなぞる。
読み込みのような操作を終わらせた後、今度は全身の目を光らせた。
「そろそろ通信が届くか?」
――生物の上に、立体映像が浮かび上がり……――
上半身しか映らなかったが、体色や頭髪の色と言った色素は全てここで表現されており、映像だからと言って姿形が変わって見えてしまうという事は無かったようだ。
やや筋骨隆々な青の体色を見ると普通の人間とは異なる種族かもしれないが、獣のような体毛を備えている羊の亜人と比較すると、まだ外見的には人間に近いものがあるかもしれない。
仏のような丸まった髪をしており、それは金の色を見せつけており、そして仏という神聖的な意味を打ち砕くかのように、目元には真っ黒なサングラスを備え付けており、裸眼そのものをここで確認する事は出来なかった。
「よぉ、ビスタル待ってたぜ報告。あの魔石見つけたみてぇじゃねえか」
ならず者の姿をした仏、とでも言うべきか、青い体色の男は立体映像の中で自分の部下であるビスタルを誉める。
「はいデストラクト様。蜘蛛には多少手間取りましたが、返り討ちにしてやりました」
ビスタルは羊の形状に近いその頭部を立体映像のある、無数の目玉が付いた生物の上部に向けた。自分がここに戻ってくるという事は、それはそのままデストラクトに対する成功報告になるという事が予め理解されていたのだろうか。
報告を受ける事自体が、もうそれが成功の証という認識だったのだろう。
「お前だったらそんな虫の一匹や二匹に襲われたって平気だろ?」
ビスタルの戦闘能力が認められている証拠なのだろう。大した怪我もしていないビスタルの姿を見れば、洞窟内の蜘蛛との戦いですら暇潰しにすらならなかったのでは無いかとデストラクトは決め付けていた可能性すらある。
「おっしゃる通りです。あの程度でやられてたら自分も地獄で大恥を掻きますよ」
ビスタルは負けるつもりは全く無かったようであり、そして今はここで生きている。
恐らく、蜘蛛によって死体と化したあの人間達をただの恥晒しだとしか思っていないだろう。
「では、この魔石はこいつに運ばせた方が宜しいでしょうか?」
ビスタルは緑に輝く魔石を左手で持ち上げながら、立体映像を出している多眼の生物を右の指で差す。
「そうだな。まあ、出来ればオレもすぐ受け取りたいとこだけど、折角お前も苦労して見つけたやつだろ? お前ちょっと一回その魔石使ってみろよ」
デストラクトとしてもすぐに心眼の魔石を手に取りたいのかもしれない。しかし、苦労して見つけ出してくれたのはビスタルであるのだから、何か褒美でも渡すべきかと、デストラクトは魔石の使用を命じる。
「使う、ですか? 今はそのような余裕はあるんでしょうか?」
流石にビスタルも組織に属する人材である。魔石で遊んでいる余裕があるのかと、一度目の前にいる青い仏に確認を取る。
「あるぜ。オレもこれから面倒な奴と戦う用事が出来たから、今送られてもオレはまだ触れねぇんだよ」
単刀直入な返答であった。
ただ、ここで試しに運用するだけの余裕があったのは、それはデストラクト自身にも用事があり、届けられたとしても自分がすぐに使う事が出来ない事が判明していたからだったらしい。自分に時間が無いのであれば、部下に実際の効力を確かめさせるのも間違った判断では無いだろう。
「いいからいいから、まずはお前使ってみろよ。そこの洞窟で使ったら、面白れぇもん見れるかもしんねぇだろ?」
ビスタルからの返答を待たずに、デストラクトは半ば強要する形で運用させようとする。デストラクトも洞窟に挑んだ先客がいる事を理解していたし、もしかするとそこで自分が見たいと思っていたものが映し出されるのかもしれないと、妙な期待を寄せている部分があったのかもしれない。
「お言葉に甘えさせて頂きますよ。では、使ったらすぐに送らせます」
言われたビスタルは偶蹄目のように突き出た口元をにやつかせた。試しに使う事を認められたビスタルは、使用後にすぐに送り届ける事を約束する。
「あぁそれでいい。あばよ!」
デストラクトは左手を持ち上げながらそのまま映像超しにいるビスタルに背中を向け、そこから立ち去ろうとするかのような動作を見せてすぐに映像が乱れるように消滅する。
映像が消滅して僅かに遅れて、多眼の生物の目の光が収まった。
「さてと、これどうやって使うんだ? こうか?」
ビスタルは早速緑の光を放つ魔石を運用しようと試みるが、詳しい使い方の説明は受けていなかったのか、まずは光り輝く硝子状の部分を爪で軽く押してみた。
あまり強く押せば割れてしまう可能性もあったからか、極力押す力は抜いていたが、押した途端に光の強さがより一層増していった。
「ん? これでいいのか? ん? また立体映像か?」
最初は光が強くなった事に小さく驚き、そして次は自分の目の前に広がる空間に何かが映し出される事に小さく驚いた。洞窟の目の前は広々とした空間が広がっている為、そこであれば何かが映し出されたとしても余計な障害物が映像の妨害をするという事も無い。
周囲の空間が見覚えのある石の壁に包まれる。これは先程の洞窟の内部の外観で、この立体映像はまず洞窟の内部を作り上げたのである。
そして、今度は先程ビスタルが仕留めた銀色の巨大な蜘蛛と、そして蜘蛛によって引き摺られている白い魔導服の人間の姿が映し出される。丁度今は、蜘蛛の吐いた糸が人間の脚に絡まっており、それによって蜘蛛の元へと脚を物理的に引っ張られる形で引き寄せられている所だ。
――ビスタルは淡々と洞窟の入り口の隣の壁に寄りかかる――
「あいつ、どっかで見た事あるぞ……?」
脚を糸で掴まれ、もがきながらもどんどん蜘蛛の方へと引っ張り寄せられている白の魔導服を来た人間は女性であり、長い金髪がビスタルの微かな記憶を復元させようとしていたようだ。記憶を掘り起こそうとしている最中、単に映像だけが映し出されていたこの空間で、今度は蜘蛛の奇妙な鳴き声と、そして引き摺られ、もがく女性の泣き叫ぶ声も一緒に聞こえ始める。
どうやら、単に映像だけでは無く、音声も出力されるようである。
「いやっ!! やめて!! 怖い!!」
蜘蛛は嫌がりながら怖がる少女の魔導士の脚を糸で束縛したまま、天井に向かって糸を吐く。天井から吊り下げられた糸を少女の脚に固定させ、そして少女を脚から持ち上げてしまう。引き摺られた影響と、直前の戦いの影響なのか、元々は色白で脚線美自体も魅力だったのかもしれない太腿には擦り傷や切り傷が目立ち、魔導服も至る場所が破け、血が滲んでいる。
逆さ吊りにされ、脚一本に全体重がかかっている状態で、少女の表情に苦痛も加わった。スカート状の下半身の服装の乱れを意識する間も無く、蜘蛛によって今度は胴体に糸をかけられ、回転させられながら糸を全身に巻き付けられていく。
「いやっ……いやっ!!」
ビスタルは金髪を見て、すぐに思い出したようだ。あの時の糸の塊の中で死体になっていた人間であると。
「あいつ……魔石持ってた女だよな?」
目の前の映像を、ただビスタルは壁に背中を預けたまま、見続けていた。助ける義理は無いし、仮に飛び込んだとしても相手は映像である。過去をただ映し出しているだけの空間に飛び込んだとしても、過去はもう変わらない。飛び込むだけ無意味である。
蜘蛛によって糸を巻き付けられ、遂に一切の肉体が見えなくなった時に、一度蜘蛛は少女の場から離れ始める。
離れるとは言っても、それは洞窟の外に出る等のような大層なものでは無く、隣に転がっていた別の糸の塊が目的だったのだ。恐らく、その塊の内部にも今捕らえられてしまった少女の仲間だと思われる人間が閉じ込められているのだと思われるが、内部でもがいている様子は見られない。
目的の塊にしがみ付くなり、蜘蛛は牙を塊の中央部辺りに突き立てた。
内部にいた人間は刺された事で意識が鮮明になったのか、低い悲鳴を飛ばしながら暴れ出す。しかし、糸の強度があまりにも強いのか、殆ど塊は揺れいなかったが、男性のものと思われるその悲鳴は本物で、突き刺された事で全身に激痛が走った事に疑いの余地は無い。
蜘蛛の方も、ただ牙を塊に突き刺しているだけでは無かった。銀色の胴体に熱が籠り始めたのか、胴体から煙が立ち上がる。まるで加熱でもされたかのような様子だが、糸の塊に突き刺している牙の端からまるで墨汁のように真っ黒な液体が零れ落ちていたのだ。
「消化液か? あれ。おれも毒で殺される所だったって訳か」
ビスタルは蜘蛛の行動の意味を整理していたようだ。
蜘蛛は自身の体内から分泌させた漆黒の毒液を獲物に注入し、体内を溶かしてからそれを餌として吸い上げる。体内の筋肉と言った組織や、心臓や肺等と言った内臓もこの酸性の消化液が全て溶かしてしまうのだ。痛覚を麻痺させる成分は一切含まれていないと思われる為、この最中、獲物の人間は極限の激痛を受けるのは確実である。
そして、逆さ吊りにされたまま、現在放置されている少女は、糸で視界を完全に覆われ、暗闇に包まれたその非常に狭くも窮屈な場所で、自分がこれからどのような末路を辿るのかを本能で察知する。
何故かこの少女の声だけは、ビスタルの耳に非常に鮮明な形で伝わるのであった。
「くる……しい……よぉ……。誰か……助け……て……よ……」
糸は純粋に獲物を閉じ込めるだけでは無く、締め付けによって獲物の呼吸も妨害する役目を果たしていたようだ。もう内部に誰が入っているのか想像する事すら難しいぐらいに糸が少女の全てを取り包み、何も知らない者がそれを見れば本当に細長い白い塊にしか見えない。内部に少女が閉じ込められている事なんて分からない。
「死にたく……ない!! まだ……死にたく……ないよぉ!!」
覆われ、真っ暗に包まれた場所で、何も見えない状態でどこから何が迫ってくるのか、それすらも想像する事が出来ないこの場で、少女は無駄だと分かっているのか、嗚咽を上げながら泣き叫ぶ。
「死にたくないって……。お前そんな覚悟で今まで戦ってたのか?」
魔石の影響なのか、糸で包まれている事によって声が遮断されるはずなのに、魔石を手に持っているビスタルのまるですぐ隣にいるかのような鮮明な声がビスタルに伝わっている。魔石には過去の空間の内部に存在する人間の声を拾う力が備わっているのだろうか。
蜘蛛によって身体を完全に拘束されるという状況で考えれば泣きたくなる気持ちも分からなくも無いかもしれないが、ビスタルからすれば命を懸ける事を前提にしているであろう者の発言とは思えなかったようだ。戦場に身を置いている立場である以上、自分が殺される事も常に覚悟しておくべきなはずだ。
壁に寄りかかったまま、腕を組んでビスタルは鼻で笑う。
「もう……駄目……なの? 終わり……なの……?」
呼吸もままならない場所で、少女は無理矢理に泣き叫んでいるが、糸が身体を無理に圧迫させているのか、徐々に少女の声が掠れ始めていく。糸による腹部への圧迫は、肺が膨らむのを妨害し、それによって少女の腹部に疲労を蓄積させ、それを痛みへと変化させる。
指すらも動かす事の出来ないここで、少女は外の状況を把握する事も叶わず、次は自分が何をされるのかも分からない。だが、最終的に行きつく先が死である事は理解していたようだ。
「やだよ……こんな終わり方……。死にたくない……よ……! 助けて……よ……!」
自分が望まない形での敗北、そして同じく望まない自分の死を受け入れる事等、出来る訳も無かった。自分がこれから迎えるであろう最期を必死に否定するが、身体は動かず、そして魔法等のような能力を使う事も出来ない。
「哀れな最期だな。こんな終わり方ってなんだよ。主人公気取りか?」
ビスタルは分かっていた。これは過去の映像であるのだから、この泣き叫んでいる少女が最期にどのような姿になってしまうのかを。あの死体を思い出すなり、言葉の通り、本当に哀れな終わり方であると、自分には無関係と言わんばかりに、冷たい態度で口に出す。
自分にとって理想の最期を意識していたかのような最期の悪足掻きも、ビスタルからすれば呆れすら誘う無意味な言葉でしか無かったようだ。そして、本当に主人公であるのであれば、野良の怪物でしか無いような蜘蛛に敗れる訳が無いはずだ。
――蜘蛛が先程の少女の元へと近寄り……――
地面に転がっていた糸の塊の捕食を完了させたのか、蜘蛛はその塊から力任せに牙を引き抜き、8本の脚を気味悪く奇妙に動かしながら、地面に吊り下げられている少女の糸の塊へと攀じ登る。
蜘蛛がしがみ付いた際に力が加わった事は、魔導士の少女には伝わっているのだろうか。
糸の締め付けは少女の動きを完全に拘束しているが、糸は弾力で強度を作っているような物質である為、鋼鉄のような硬さは無いようだ。つまり、しがみ付かれた事による圧迫感を糸の上からでも、確実に少女には伝わるという事である。
「何……いや……いやぁ!! いやぁあ!!!」
視界には何も映らないが、そもそもたった先程、蜘蛛が自分を糸で拘束したばかりなのだ。糸の上から圧迫してきた者が誰なのか、それを予想出来ない少女では無かった。
視界を奪われ、何倍にも膨れ上がった恐怖と、そしてこれから蜘蛛に手を下されるというこの条件が揃った時に、少女は恥もプライドも弁えずに最期の悲鳴を上げる。
「耳障りだな……。人間は弱過ぎる」
ビスタルは少女の悲鳴を面倒そうに聞きながら、人間の弱さを改めて思い知る。ビスタルが拘束されている立場だったとしても、恥しか撒き散らさないような悲鳴を飛ばす事はしないだろう。
呆れている間に、蜘蛛は再び牙を突き立てようとしている。胴体からも再び煙が立ち上がっている。
――遂に牙が逆さ吊りの少女の身体に突き立てられた――
「う゛わぁああ゛あぁ゛ああ゛ああ!!!」
身体に鋭利な物を突き刺された事で、誤魔化しの通じない激痛が少女の中で暴れ回る。激痛によって叫び散らす少女だが、牙を突き刺されるだけで終わりでは無かった。
牙は場所からすると、腹部辺りだろうか。そこから漆黒の毒液を糸の内部にいる獲物へと注入している。漏れた毒が糸の塊の表面を滴り落ちるが、通り道を溶かしているのが見えた。直接体内に毒を入れられる事となった少女は更なる悲鳴を糸の内部で上げる。
「あぁ゛あ゛あぁああ゛あ゛ぁあ!!!」
身体を牙で刺された激痛に続いて、次は酸性の毒によって体内を溶かされる激痛が少女を襲う。
最初は体内が焼ける地獄の激痛を受けていたが、徐々に内臓が融解される事によって、身体の機能に障害が発生し、意識すらも遠のき始める。
「抜け出さなかったらおれも溶かされてた訳か……」
ビスタルは少女の悲鳴に同情はせず、寧ろ糸の束縛から抜け出す為の力を持たない少女を哀れむかのように赤の目を細める。ビスタルは自らの体内で生成させた炎で糸を焼き切ったが、少女は束縛された途端に無力となっていたのだから、人間の戦闘力の低さと、追い詰められた時に平然と悲鳴を飛ばす心の弱さがどうしても好きになれなかった。
ビスタルの表情は、あまり楽しさや期待を感じさせないもので、目の前の人間からすれば壮絶としか言えないような光景も、この羊の亜人からすればただ弱者が無様な最期を迎えている様子にしか見えていないのだ。
「これって……もしか……して……ただの……夢……なの……かな……」
内臓が溶かされ始めていたからか、普通に声を発する事もままらなくなっていたのだろうか。濁りと詰まりを感じさせる声を無理矢理に絞り出しながら、突然現実逃避でもしているかのような言葉を少女は出す。
もう泣き叫ぶ程の体力は残っていないようである。
「何言いだしてるんだこいつ?」
ビスタルは今の状況を夢として扱っている少女の思考を理解する事が出来なかったようだ。それでもビスタルの退屈そうな視線は変わらなかったが。
「今頃……まだ……ベッドの……中で……」
内臓機能が破壊され、意識が揺らぐ中で、少女は糸の塊の中で自分が今本当にいる場所がどこなのかを思い浮かべたようだ。本当に睡眠中で、これがただの害悪な夢であるのであれば、どれだけ幸せな事なのだろうか。
もう激痛に対して叫び狂う力も残されていないのだ。
「起きたら……こん……な……あ……く……む……か……ら……抜け……」
体内の融解は深刻になっているのか、もう声色は少女特融の透き通ったものでは無く、声帯を破壊されたかのような野太く、汚らしいそれに変貌していた。それでも少女は、今の状況をただの悪夢として信じ続けていた。
だが、これを最後に一切の言葉を発さなくなってしまう。
「終わったみたいだな。どうせ戦うなら、自分が縛り付けられた時に逃げ出す方法も考えとくべきだったな」
糸の塊そのものは殆ど溶けていなかった為、内部がどのような惨状になっているのか、それをビスタルは確認する事は出来なかった。
しかし、あの悲鳴や、流し込まれた毒液の事、そして洞窟で直接見たあのミイラのような白骨死体を見れば、あの塊の内部で何が起きているのか、想像する事は難しくないだろう。あの酸性の毒液が少女の体内を溶かし尽くしたのだ。
もしこれが単なる悪夢であれば、魔導士の少女にとってはある意味では幸せな事だったのかもしれない。しかし、これは現実であり、酸性の毒液を流し込まれた少女は体内から融解され、そのまま内部を蜘蛛によって吸い上げられるという壮絶な最期を迎えたのであった。
「さてと、じゃあおれもそろそろここを離れるか」
魔導士の少女がどのような形で最期を迎えたのかを知る事が出来た以上、この魔石で遊んでいる時間を作る理由は無い。身体を跳ね上げるようにして洞窟の壁から背中を離し、多眼の生物の傍に近寄り、魔石を生物へと差し出した。
目的の人物へと転送する為に。
大型の蜘蛛に捕まってしまうと、やっぱり人間だともう太刀打ち出来なくなるみたいです。蜘蛛の糸って確か飛行機すらも受け止められるぐらいの強度があるって言われてますので、確かに人間が縛られたらもう逃げられなくなるのも納得が行くかもしれません。そしてやっぱり体内に消化液を流し込まれるというのは……。主人公サイドの者達には絶対に迎えて欲しくない最期ですよね。




