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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第19節 《魔石の行方 守護者は侵略者を地獄へ落とす》1/4

遂に19節に入りました。最初は主人公一同は登場しません。今回は突然敵の幹部ととある敵との戦いから入ります。





   人間は普段、動物や植物等を食す事で自分の命を繋いでいる


   しかし、もし立場が逆になった時、人間は何を思うのだろう


   言葉を発する人間であれば、明確に状況を文章に出来る


   そこで、人間が感じる苦痛を第三者は読み取れる


   しかし、人間がそれを怖がるという事は、動物や植物も同じだという事にもなる


   無意識の内に、人間は動物や植物に恐怖を与えながら殺しているという事なのだろうか








◆◆ 辺境の洞窟内部にて ◆◆


 岩肌で包まれた空間で、何やら巨大な生物が大きな糸の塊を8本の脚で器用に横に回転させている。


 糸の塊は細長く、そして本来であれば細いのかもしれない糸を無数に束ねているのか、その束ねた太い糸1本が天井に繋がっている。糸の塊は天井にぶら下げられているのだ。


 そして、その8本の脚を持つ生物は、外見としては巨大な蜘蛛であり、サイズとしては一般の人間のそれをやや上回るものだ。威圧感を誇示する為か、前後に向かって胴体に赤いラインの入った銀色の甲殻が洞窟内で派手に目立っている。


 よく見ると、口から糸を吐きながら糸の塊を回転させていた。その塊の内部には獲物が捕らえられており、逃げる事が出来ないように最後の仕上げをしていた所なのかもしれない。




 そして、獲物にとっては最期とも言える時が来たようだ。


 蜘蛛は糸の塊にしがみ付くように密着し、口から突き出ている牙を糸の塊に突き刺そうとする。


 周辺を見れば、現在しがみ付いている糸の塊の他にも、同じ塊が転がっている。どれも細長い形状をしており、そのどれもが人間と同じだと言っても良いであろう大きさだ。いずれもが塊のほぼ中心部分に穴が開いている。


 穴の大きさはこれから目の前の塊に突き刺そうとしているこの蜘蛛の牙の直径とほぼ同じである。


 風化してしまった糸も転がっており、更には人骨さえも転がっている。犠牲になってしまった人間が更に年月を経過させてしまった姿なのだろうか。




 これから牙を突き刺し、内部に酸性の猛毒を注入し、溶けた内部を吸い上げようと、無数の眼が存在する頭部を糸の塊へと接近させる。




――糸の塊の内部が突然真っ赤に光り出し……――




 糸の壁を突き破り、真っ赤な炎が直前上に発射され、それが蜘蛛の顔面を直撃させる。


「ピギャァアアアアア!!!」


 熱に弱いのか、それとも予想外の事態に驚いたのか、蜘蛛は糸の塊を蹴るようにしてその場から飛び退いた。火炎ではまだ致命傷には至らなかったのか、8本の脚でそのまま塊から離れるべく、後退する。


 そして、火炎によって焼けるように開いた糸の穴から、2つの手がそれぞれ手の甲を向けるように現れる。




――茶色の毛を纏った物々しい手が、糸の穴をこじ開ける――




 5本の指の先端には、太さがあり、頑丈さを見せつけたかのような爪が生えており、出てきた者はやはり、人間の姿はしていなかった。


 両手で無理矢理に穴を広げ、そこから形だけは人型をした者がそのまま糸を脱ぎ捨てるようにして糸の塊から抜け出す。


 後方に反り返った一対の角の先端は中心に纏まるかのように丸まっており、偶蹄目(ぐうていもく)のような前方に突き出した口部を持っている。人間のように細かい虹彩等の映らない深紅の目が、自分を捕食しようとした人食い蜘蛛を真っ直ぐ見つめている。


 まるで羊が人間の体躯を持ったかのような形をしたその亜人の肉体は筋肉で引き締まっており、腕と脚の付き方が特に顕著で、その腕であれば蜘蛛が吐き出していたであろう針金並の強度を誇るであろう糸も力任せに引き千切る事が出来るのにも納得が行くかもしれない。


 本来元々の羊には渦巻のように巻かれた角は生えていないのだが、それがまたこの茶色の毛を持つ亜人を特徴付けるシンボルにもなっているように見えてしまう。




「おれを食おうとしたようだが、甘いぞ?」


 声色からして男性、雄なのだろうか。低くその戦闘に向いた外見に似合った声が目の前で構えている人食い蜘蛛に渡される。


 しかし、蜘蛛は人語を話す器官を持ち合わせておらず、ただ8本の脚をゆっくりと動かしながら相手の出方を窺う事しかしていない。


「きっとおれの味はこいつら人間より格別だと思うが、おれが欲しいなら殺してみろよ?」


 羊の亜人は周囲に転がっている糸の塊を見回しながら、蜘蛛の怪物を挑発する。その塊の中にはもう既に息絶えている人間達が入っている事をなんとなく察知しているのだろう。だが、自分はあっさりと敗北してしまうような人間とはレベルが違う事を誇っているのか、再び自分に襲い掛かるようにと、恐ろしさも交えた太い爪で手招きをする。




――蜘蛛は身体を屈め、亜人へ跳びかかる――


 純粋に体当たりをするのでは無く、宙に浮いた僅かな時間差の中で、蜘蛛は8本の脚を真っ直ぐ伸ばし、横方向への回転を加える事で、鋭い先端で亜人を切り裂こうとしたのだろう。


「そう来なきゃなぁ!!」


 亜人は蜘蛛の攻撃を評価するかのように声を張り上げ、そして体当たりに対し、回避もせず、その回転している脚の一本を右手で強引に掴み、そして同じく蜘蛛の動きを強引に止めてしまう。


 空中で身体の動きを止められた蜘蛛はそのまま地面へと降り立つ事になるが、脚一本を掴まれている状況は変わらない。




――亜人は蜘蛛を力任せに真上に投げ飛ばす――




 右腕だけで、蜘蛛の脚を振り回し、遠心力を使いながら真上へと投げる。蜘蛛の重量は人間のそれを確実に上回ると予測されるが、それをこの亜人は片手で投げ飛ばしたのである。天井にぶつかるかどうかという高さにまで上昇した蜘蛛はそのまま次は落下へと入るが、亜人は両手を開き、爪による追撃の準備をしていた。


 だが、蜘蛛だって人間を無数に地獄に送り届けてきた戦績を持っているはずだ。亜人等に負けてたまるかと言わんばかりに、落下しながら口から糸を放出させる。


「けっ!」


 顔面に糸をかけられ、一瞬で視界を奪われてしまう。上半身の殆どを糸で束縛されてしまい、両腕の自由も利かなくなってしまう。


 上半身の自由を奪う事に成功した蜘蛛は、羊の亜人の上半身へ掴みかかるように降り、そして上半身を8本の脚で締め付ける。銀色の胴体を持った蜘蛛の牙が、亜人の顔面と思われる部分に向けて伸びていく。




――亜人の両腕が糸から解放されてしまい……――


 亜人は力任せに両腕に巻き付いていた糸を引き千切ったのである。後は顔面を覆い尽くす糸だけであるが、亜人は蜘蛛の頭部を、太い爪が目立つ両手で左右から押さえ付ける。


「お前、おれに毒なんか流し込めるとでも思ってるのか?」


 きっと視界は真っ暗であるはずだが、掴んでいる者は確かに蜘蛛であるから、自分の正面に敵対者である蜘蛛がいる事は分かっていたようだ。そして、糸の内部を再び赤く染めるが、光に蜘蛛が気付いた時はもう、遅かった。




――蜘蛛の顔面に炎が放出される!!――


 亜人は顔面を糸の塊で封じられながらも、無理矢理に炎を吐き出したのである。目的は糸を焼き千切る事と、そして蜘蛛の顔面を焼き尽くす事で死傷を負わせる事だ。


 熱で強度が弱った糸を左手だけで引き千切り、そして再び頭部を両手で掴み直すが、最初に掴んでいた時の力よりも更に強く握り、爪を頭部側面に食い込ませてしまう。


 糸を引き千切る際に放射を弱めていた炎に再び力を込め、蜘蛛に高熱による激痛を与え続ける。




「ピギャァアアアアアア!!!!」


 苦痛を受けた際に叫ぶのは、魔物も同じであるようだ。人間が叫ぶ時と同じような甲高く、耳障りな鳴き声を張り上げるが、羊の亜人は炎を止める事をしなかった。


 口から放射される火炎は蜘蛛の複眼を焦がしていき、やがて銀色の胴体も黒く変色させていく。周囲に散る火の粉が薄暗い洞窟の内部を徐々に明るくさせていき、明るくなる度に放置された糸の塊の存在が鮮明になっていく。無数にそれは転がっているのだ。


 元々の銀色の胴体と明確に区別でもされたかのように上半身を真っ黒に焦がされた蜘蛛の怪物は力無く8本の脚を亜人の胴体から滑らせるように離させた。力を失ったのだろう。




「元々虫のくせに虫の息になったか……。ゆっくり地獄に送ってやるわ」


 亜人は左手だけで、蜘蛛の怪物を持ち続けていた。蜘蛛の脚は確かに亜人からは離れたが、亜人の方が手を放していないが為に、蜘蛛は地面に落ちる事を許されなかったのだ。口元から煙を立たせながら、右手にまるで力でも込めるかのように一度握り、そして再び開いた。


 手刀のような形を作り、右手を蜘蛛の腹部目掛けて突き刺した。




「ふんっ!!」




――爪は見事なまでに蜘蛛の胴体を貫き……――


 銀色の甲殻はまるで硬い物が割れるかのような音を響かせながら、亜人の爪の貫通を許してしまった。


 緑色の不衛生さを連想させる血液、そして胴体の内部の肉が、貫通した爪に貼り付いていた。蜘蛛は痙攣しながら鈍い動作で脚を動かしていたが、抵抗は叶わず、見る見る生気を失っていく。


「残念だったなぁ? おれなんかを食おうとしたらそうなるんだぞ? 多分待ってると思うぜ。お前に地獄に落とされたそいつら人間達がなぁ?」


 羊の亜人は勝利を確信したのだろう。


 周辺に放置された、糸の塊の中で息絶えているであろう人間達を一瞥しながら、捕食されてしまった人間達が今頃地獄でこの蜘蛛を憎みながら待ち構えているのでは無いかと想像する。


 この亜人自身も人間達と同じ運命を辿る所だったのだから、ここで蜘蛛の命を奪った事に対しては何かしらの優越感を感じているに違いない。




――勢いに任せるように右手を引き抜き……――




 蜘蛛にはもう抵抗する力も、純粋に生命を維持させる力も残っておらず、右の爪を引き抜き、そして左手を蜘蛛の頭部から放すと同時に力無く蜘蛛は地面へと落ちた。


 右手に付着した血液と肉を取り除く為に、亜人は自分の右手に炎を吐きかける。


 焼く事によって自分の右手を洗浄しているのかもしれないが、どうやら自身の炎では肉体が負傷するという事は無いようだ。炎の放射が終わった時には、もう右手の血液や肉は消え失せており、そしてこの亜人のもう1つの作業が始まった。




――周辺の糸の塊を1つ1つ開いていく――


 散らばっている糸の塊に両手の爪を突き刺し、左右に開くようにして個々の塊の内部を確認していく。


 内部に残されていたのは、やはり人間の死体ではあったが、亜人はそれを数秒程見回すなり、すぐに次の塊へと足を運んだ。体内に酸性の毒を注入され、吸い尽くされてしまった影響か、まるで干からびたかのように皮膚はふやけており、そして着用していた服も漏れだした毒の影響なのか、溶けたり、焼け爛れたりしていた。




「心眼の魔石……だったか? 誰が持ってやがる……。にしても酷い有様だな」


 初めからこの洞窟で誰かが魔石を発見したという話を聞いた上で、この亜人も洞窟の内部へと足を運んでいたのだろうか。そして、もし所有している人間がいれば一目で分かる事を把握しているかのように、糸の内部を少し眺めるなり、すぐに次の塊へと移動する。


 糸を全て取り除き、死体の身体の全てを確認しようとは考えなかったのだろうか。




――壁に貼り付いている塊に目を付け……――




「ん? あれだな。光ってるからあれだな」


 深紅の目は真っ直ぐと、壁に貼り付けられた糸の塊を捉えていた。立たされるように張り付けられていたその塊は、やはり人間を閉じ込めているのか、細長かった。


 手を伸ばしても届かない高さであった為、亜人は跳躍し、壁の出っ張りに右手を引っかけ、そして空いていた左手で強引に壁に貼り付いていた糸の塊を剥がす。地面に落下した塊は鈍い音を響かせながら僅かな距離を転がった。




 亜人自身も塊に付いていくように地面へと降り立ち、今度は他の塊とは異なり、上から下まで爪を通し、内部の全てが開いた瞬間に見えるように切れ目を作る。


 糸は分厚い壁として出来上がっていたが、亜人の爪が深く食い込んでいた為、多少の苦労はあったものの、後は再び両手でそれぞれ左右に切れ目を開くだけだ。


「こいつが魔石を持ってるんだったな」


 内部の状況はもう予想が出来ている。蜘蛛の怪物に毒を流し込まれ、そして吸い上げられる事によってミイラのように肉体を荒らされた姿に怖気付く事もせず、作業的に亜人は無理矢理に糸の内部を開いた。




――まるで風化したかのような、人間の死体がそこにあった――


 間違い無く元々は人間だっただろう。しかし、人間が持つ血の通ったあの肌は既にどす黒く変色しており、老人が持つ皺のように荒れていた。


 辛うじていくらかの肌は残っているが、体内に毒液を注入された影響か、部分的に多く溶けた影響で、体内の骨までも浮かび上がっている部位も存在した。鎖骨や肩甲骨辺りは特に強く溶けたのか、これらの骨は露出してしまっていた。


 白の魔導服を着用していたのだと思われるが、もうそれも毒液の影響か、殆どが焼けてボロボロになっており、黒く変色した肌が至る場所で露出してしまっている。初めから露出するような状態であったであろう腕や脚も、毒液の影響でまるで無理矢理に減量でもしたかのように細くなってしまっている。


 先端に装着されていたブーツや手袋もやはり毒液の影響で焼け爛れていた。


 胴体はもう見るも無残に、体内へと注入された毒液によって爛れてしまっており、もう殆ど年齢や性別も出来ないような外観になっている。




「女だったのか……。地獄で今の顔見たら何思うんだろうなこいつ」


 羊の亜人は、死体となったその人間の頭部に視線をずらす。まだ辛うじて髪は残っていたようだが、金色のその長い髪はどことなく女性を連想させる。所々に頭皮が剥き出しになってしまう程に毒で溶けてしまっているのは美貌を意識する女性からすると痛々しい話だ。


 強い酸性だった事を象徴していたのかもしれない。眼球が収められていたであろう部分には、もう眼球そのものが無かった。代わりに、眼窩(がんか)、つまりは目の部分が窪みの形状となってしまっているのだ。頭蓋骨は元々そのような形状をしているが、生きている時はまずその部分を自分で見る事も、相手から見られる事も無いはずだ。


 醜い死体と化してしまったその女性の腰辺りの場所に、亜人は右手を伸ばした。




――赤いポシェットを引き離す――


 羊の亜人はそこまで強い力を入れた訳では無かったが、死体の腰に装着されていたポシェットはあっさりとベルトから引き剥がされた。衣服すら溶かすような毒を流し込まれていたのだ。ベルトとポシェットを接続していた部分が弱くなっていたのだろうか。


 チャックを開けばそこには目的の魔石がしまわれていた。角ばった形状をした石であるが、先端部分だけは硝子ガラスのように緑に光り輝いている。この光のおかげで、亜人はこの石の持ち主を察知する事が出来たのだろう。


「見つかったらもうここには無用だ。デストラクト様にご連絡しなければ」

以前から描いてみたかったのが、蜘蛛の怪物に捕食される……という鬼畜なシーンでした。ただ、今回戦ったあの亜人は糸の束縛から自力で抜け出してましたが、実際あれを人間が受けたらもう脱出なんか出来なくなって、そして残酷で痛々しい形で捕食されてしまうとの事です。たまに他の同人誌等で見ますが、大抵は……泣いたりしながら抵抗するも、最期はやっぱり壮絶な終わり方を迎えてしまうようです。因みに自分としては、そのまま捕食される場面というよりは、捕食を逃れて、逆に返り討ちにしてしまうという場面を描きたかったんです。

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