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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第18節 《決着を迎えた一同 今後の戦略と青髪の青年の行方》3/4

お久しぶりです。


今回も前回と同じで対話が主体のシーンになります。どうしても話し合わないといけない部分が残ってしまってたから、そういう部分はどうしても対話という形で解決させないといけないと思いますし、逆にモヤモヤするような伏線をそのまま放置ってのも不味いですし。


 しかし対話以外で何とか伏線の方を解決させる方法は無いものか……勉強しないといけません。






 ガリレオが立ち去った後、やはりあの爆破装置の経緯が気になった者がいたようだ。リディアではあるが、早速と言わんばかりにそれをどのようにして手にしたのかを訊ねていたようである。


 今は全員、自分達の部屋に集まっている。




「なるほどねぇ、町の人が譲ってくれたんだぁ。なるほど」


 リディアは喋る過程で乾いた喉を癒す為に、テーブルの上に置いてあったグラスの中身を飲み干した。淡い赤の液体がリディアの喉を通っていく。


「そうなんだよ。危ないから海岸には近寄らないようにって伝えてたら、なんか修理の仕事やってそうな感じの人に渡されてさ、『これを使ってあいつを始末してくれ!』って言われたんだよ。メルちゃん確かそうだったよね?」


 テーブルの向かいにいるジェイクから説明された内容だった。自分達の任務であった、海岸付近で戦闘が始まるから、決して近寄らないように勧告を渡していたジェイク達が想像もしていなかったであろうプレゼントを、町人から渡されたのだと言う。


 勿論町を訪問した記念等というほのぼのとしたものでは無く、昔から因縁があった相手に決着を付ける為に長い期間をかけて開発された、危険な武器だったのだが。




「うん、間違い無かったよ。町の人達も今までずっとネインハルスっていう人を倒すチャンス、窺ってたみたいだったんだよね。でも今まで誰も戦ってくれる人がいなくて、いたとしても今日までずっと皆やられちゃってたって話も聞いちゃってさ」


 ジェイクの隣に座っているメルヴィからも話を聞く事が出来ていたが、ネインハルスとの因縁は自分達が想像しているものより遥かに長かったようだ。


 萱草色の揉み上げを左手で引っ張るようになぞりながら、メルヴィは敗れていた者達の末路を想像していたのだろうか。恐らく、敗れた者達はもうこの世から存在を消滅させられている事だろう。


「まあそりゃ敵の幹部なんだから、多少戦士とか派遣したぐらいでやられるような奴じゃなかったんだろうな。まあおれらはそいつに勝ったんだけどな」


 3人に椅子を譲っていたのか、それとも奥行きがそれなりに広い窓枠の方が好きなのか、ガイウスは窓に身体を嵌めるかのように、横を向いた姿勢で座り込んでいる。


 ネインハルスも敵の組織に属する幹部なのだから、適当な実力の戦士等に負けていたら話にならないのでは無いだろうか。今であるからこそガイウスはやや気の抜けたような言い方ではあるが、下手をすれば自分達も他の者達と同じ最期を迎えていたという事だけは忘れてはいなかったはずだ。




「でも結局私達もあの爆破兵器があったからこそギリギリで勝てたようなものだし、兎に角、あういう補助が無かったら私達も今まで戦った人達みたいな末路……辿っちゃってたのかなって、思うよね」


 リディアは今自分がこのように生きてここで皆と対話が出来ている事をありがたく感じているのだろう。


 もう空になっているグラスの底を見つめながら、自分のまだまだ幼過ぎる年齢で死ぬ事だけは絶対に避けたいと心の奥で誓っているようにも見える。そして、亡くなった者達の中にはもしかすると自分と同じぐらいの歳の者もいたのかと、嫌でも勝手に思い浮かべてしまう。


「やっぱり頼るべきは仲間だって、よく言うじゃん!」


 弱々しくなったリディアを元気付けるかのような、ジェイクの張り切った声がリディアの耳に鮮明に響く。


 言葉自体は正しいと言えばその通りかもしれないが、ジェイクはもうリディアの事を信頼しているのだろうか。それとも、自分から見て異性の存在であるから、少しでも男性としての姿をアピールしてやろうとでも思ったのだろうか。




「ま、まあそうだよね! ホントジェイク君達と出会えて良かったと思うよ! 流石に毎回毎回幸運ばっかりに頼るってのもあれだけど、兎に角、今は喜んでてもいいって事でいいかな?」


 突然のようにまるで自分の精神に共鳴でもするかのようなジェイクのテンションに、リディアはどうしても最初だけは苦笑いを作らずにはいられなかった。


 それでも、自分の事を本気で仲良しな存在として認めてくれたような気持ちになったのか、リディアもまたジェイクの今のテンションに合わせるように明るいというよりはやや騒がしい声で賛成の態度を見せつけた。


「リディアお前何ちょい戸惑ってたんだよ? 一瞬ジェイクの言い方に変な事思ったりしたんじゃねえのか? 普段のお前もあんな感じだろうよぉ?」


 折角のリディアのノリに水を差すような言葉を飛ばしたのはガイウスである。苦笑いを見逃さなかった彼は、リディアに他者の言動に対して抵抗を感じたりする筋合いは無いと、ガイウス自身も笑い出しそうになっていた。




「あのさぁ……そうやっていちいち変な事言ってこないで……。所で、やっぱり次のその、ヒル……何とかっていう洞窟、あれ? なんて言ってましたっけ? ミケランジェロさん?」


 水を差されるとリディアも折角のテンションを維持しようという気持ちになれなくなるだろう。


 ふと次の任務の事が思い浮かんだが、向かう場所の正式な名称を思い出せず、ガイウスでは無く、ミケランジェロに正しい名称を聞こうと、壁に寄りかかっているミケランジェロに青い瞳を向けた。


「ヒルトップ、だぞ。ヒルトップの洞窟な」


 ミケランジェロは特に表情を変える事も無く、寧ろ日常の出来事を軽く捌くかのように、淡々と正式な名前をリディアへと教えてやった。どうせ名称を聞き直してくるのだろうと、もう初めから身構えていたつもりでもあったらしい。




「そうそうそれですそれです! えっと、その洞窟になんか出たってガリレオさん言ってましたけど、やっぱりまたネインハルスみたいな強い幹部的な奴とまた戦う感じになるんでしょうか?」


 余計な回数と呼ばれても文句を言えない程に何度も首を縦に、小刻みに振りながらリディアはやっと思い出した事を盛大にアピールする。


 しかし、不意に洞窟で出会うであろう新しい敵の事が頭に浮かび、今日戦ったあの氷の兵士のような強い実力を持った者と出会うのかと、ミケランジェロから視線を離さずに尋ねる。


「可能性はあるだろうな。本当に洞窟に住み着いてた蜘蛛を殺したのが本当に幹部なのかどうかは分からないが、どっちにしても蜘蛛よりも実力があるのは事実だから、油断はまず許されないだろうな」


 ここではまだ推測しかする事は出来ない。それでも、調査隊達を全員葬るだけの力を持った蜘蛛の怪物さえも返り討ちにしたであろう者の存在に関しては、簡単な問題では済まされない事だろう。もし自分達が戦う事になるのであれば、また命の危険さえ出てきてしまう。


 ミケランジェロの推測はまずはここまでだ。




「それは、確かにそうですよね。ただ……」


 命の危険を背負いながらの戦いを予想させるような話になると、流石のリディアでも普段の軽く明るいノリで対応する訳にもいかないようで、それなりに細く整った眉を僅かに顰め、そして、不安を感じさせる言葉を漏らし、ミケランジェロに反応させる。


「リディア、お前なんか言いたい事でもあるのか?」


 誰がどう聞いても何かを言いたそうにしているとしか思えないだろう。


 ミケランジェロはそれを放置するという選択肢を一切取らなかった。




「いや、まあなんて言うか、今回はあくまでも私達の方から相手に出向かうっていう形で行ったから、ジェイク君とメルヴィには別行動っていう感じで、まあ、えっと、ある意味最高のポジションで挑めたっていうのがあったと思うんですよね」


 リディアの指の動きは、2人が別行動の為に自分達とは違う場所に移動していた事を表現させていたのだろう。指の動きは本人にしか完璧な理解が出来ないと思われるが、端から端まで動かしている所を見れば、それ自体が別行動を表現しているという事ぐらいは周囲の者達でも理解は出来るかもしれない。


「いまいちお前が言いたい事が伝わってこねぇぞ? お前何が言いてぇんだよ?」


 ガイウスは確かに今回のネインハルスとの戦闘では自分達の都合の良いメンバーで揃えた上で戦えたという話だけは理解する事が出来たようだ。


 しかし、そこから何を皆に伝えたいと思っているのか、それをガイウスは出来なかったらしく、力の抜けたような声で詳しく説明をさせようとする。




「ん? えっと、まあ要するに、もし今回と違って向こうの方からいきなり襲撃、みたいな感じになっちゃったらさあ、実質的に……まああまりこういう事って言わない方がいいかもしれないけど、メルヴィってあまり過度には戦えないって感じ、じゃん?」


 あまり上手な説明が出来ないリディアは焦ったような表情を作り始める。先程まで振り回していた人差し指はもう両手を握り合わせるような形で押さえ付けられており、もしかすると自分から話を出さない方が良かったのかもしれないと後悔まで考えている可能性があった。


 そして、唐突にメルヴィの話になり、戦闘力に関する話へと変わる。


「一応だけどリディアね、あたしだってちゃんと戦えるからね? 足手纏いみたいな扱いなんかしないで」


 自分を否定されたと感じたメルヴィは、面倒そうに頬杖を突きながら、緑の瞳でリディアを見ながら、それを細めた。そもそも、どうしてリディアに突然自分がお荷物であるかのような扱いを受けなけばいけないのかと、リディアと同じく細く整えられている眉が不満で歪んでいる。




「いや、それは分かってるけど、ただ、でもホントに単独で、それで尚且つその、まあ、どうしよっかな。じゃ、じゃあ(おおかみ)的な怪物、じゃあ5匹って事にするか。5匹とかに囲まれて、それ1人だけで全部対処出来る?」


 勿論リディアはメルヴィの悪口を言うつもりでは無かったはずだ。だが、相手はどう考えても悪口として受け止めているようにしか見えず、何とか誤解を解く為に、例え話を持ち出し、その状況でメルヴィは果たして突破する事が出来るのかと、リディアは再び指で空間を乱暴に描きながら説明をする。


 メルヴィの不満そうな表情に対し、リディアの表情は焦りと苦笑で支配されている。


「そんな極端な状況なんてまず無いじゃん? それにあたしはジェイ君といつも乗り越えてたんだから、変な風に疑うなんてしないで」


 決してメルヴィだって物分かりが悪い訳では無い。リディアの言う通り、狼の魔物に囲まれた時の様子自体は想像する事は出来たが、そのあまりにも限定されたようなシチュエーションを押し付けてくる理由を理解する事が難しかったようでもある。


 今までは人間とは少し違う外見を持った、フードの奥から見せてくる2つの青い光を目として機能させているジェイクと2人で乗り越えてきているのだから、これからも2人で共に危機も乗り越えるつもりであると、リディアの持ち込んだ例え話を快く受け入れようとはしなかった。




「いや違うって! そういう事言ってるんじゃなくて、ホントにいざっていう時のその、窮地っていうのかな? そういうのをちゃんと切り抜けられるのかなって思って」


 どうしてもリディアの意図が伝わってくれない。


 必死になりながらも何とか伝わるように、多少声を荒げてしまいながらもメルヴィに真っ直ぐ視線を向けながら説明を続ける。メルヴィだけでは無く、他の者達からも向けられているであろう視線が妙に痛く感じている可能性もある。


「今言ったじゃん? ジェイ君とちゃんと乗り越えてるって」


 リディアの気持ちが伝わらないばかりか、メルヴィの方では徐々に苛立ちさえ沸き始めていた。頬杖を付いたまま、微小な溜息を漏らしてしまう。




 ここで、リディア本人では無い別の者が、より明確に説明をする事になる。




「メルヴィ、いいか? リディアはなぁ、お前個人の能力の話をしてるんだよ。本当に誰も助けの入らない1人だけの時に、自分の目の前だけじゃなくて、背後とかにも意識しながら複数の敵達の対処が出来るかどうかって事だよ。誰の手も借りないで目の前の敵の対処が出来るかどうか、それだぞリディアが聞いてるのは」


 ミケランジェロはリディアの纏まりの無い説明を自分の中で整理していた為、それをリディアに代わって、メルヴィに説明する。


 自分自身の戦闘能力が、単独でも活かされるのかどうか、それが今ここで明らかにさせたい情報だった事だろう。


「そういう事、ですか? それは……正直に言いますと、あまり自信は無いです。1人だけで戦った事はまだありませんので、ちょっと、分からないです」


 整理させた形で改めて説明してくれたミケランジェロのおかげで、メルヴィはようやく話の中身を理解する事が出来たようだ。


 頬杖の状態から右手をテーブルの上に置きながら、メルヴィは一度自分を見直した後に、素直な返答を渡した。テーブルの上で寄せられた両手がゆっくりと握られていく。


 自分が単独になってしまった時に本当に次の日を迎える事が出来るのか、それが心を不安の色に染めているのだろう。




「だったら、皆はメルヴィの事を出来るだけ守るように戦う方針で決めた方がいいな。偏見に近くなる可能性もあるが、ジェイクに頼る形で切り抜けてたようにもオレは感じる」


 ミケランジェロは犠牲者を出さぬようにと、1つの案を皆に出した。


 言葉の通り、メルヴィを保護しながら、他の戦闘に自信のある者が前に出ながら戦うというものである。護られる少女という形は、一部の男子にとっては憧れの対象として考えてしまうのかもしれないが、ミケランジェロは単純な思考で事を捉えてはいないだろう。


「確かにその通り、ですね。多分あたしだけじゃ……怖いですので」


 メルヴィは確か護身目的でガントレットを装備していたと話した事があった。最低限自分を守る為の手段は学んでいる様子ではあるが、やはり敵のアジトを単独で制圧するとか、強盗目的で集団で襲ってきた盗賊団を掃討するとかは無理だろう。


 自分だけこのままで良いのか、自分の戦う姿を思い浮かべるかのように、黒のアームカバーが映る両手を見つめる。




(初めて会った時は1人だったみたいだけどあれは大丈夫だったの?)


 突然リディアは初めてメルヴィと出会った時の事を思い出したが、あの時はジェイクの姿は無く、本当に単独であった為、あの時はどのような対策を考えていたのか、それが気になったのだが、敢えてここでは口には出さない事にした。


 またメルヴィから嫌な感情でも向けられてしまったら怖いだろう。


「あ、そうだ、それとミケランジェロさんちょっといいですか?」


 心での呟きの後に、リディアは心残りのあったとある件の事をミケランジェロに話そうとする。皆がいる間に聞いてもらった方がいいだろうと思ったのか、リディアの瞳に真剣な色が入り始める。




「ん? なんだ? メルヴィの話じゃないようだが?」


 まるで相手からの許可を促すような聞き方をされたのだから、ミケランジェロはどうしても聞いてほしい話があるのだとリディアの気持ちを受け取ってやった。気持ちを察しているのだから、全く異なる話題を持ち出そうとしている所も、リディアの言い方から察知していたようである。


「ま、まあそうなんですけど、今日私とガイウスで貨物船に乗り込んだ、じゃないですか?」


 流石はミケランジェロさん、とでも言わんばかりに笑みを浮かべて首を縦に何度も振りながら、リディアはその椅子の上に座っていた身体をミケランジェロに真っ直ぐ向け、貨物船の話を始め出す。


 台詞の中でガイウスの名前を出す時に背後にいるガイウスに一瞬だけ視界に入れようとしたが、目を向けただけでまるで微塵も視界には入らなかったが、喋る障害にはならなかった為か、さほど気にする様子は見せなかった。




「確かに乗ったな。そこでの話は聞いたはずだぞ。培養槽の話は」


 ミケランジェロは確かにリディア達が貨物船に乗り込んだ事は理解していたが、どうやらここで1つ、勘違いをしていたようである。訂正は、ガイウスによってされる事になるが。


「あぁミケさん多分こいつが言いたいのはそれじゃないんすよ。多分変な男と出会ったって話だと思うんすよ。リディアお前そうだろ?」


 貨物船で突然出会った男の事を、ミケランジェロが知っているはずも無い。どのような内容の話をしてくるのか、それをガイウスはミケランジェロに明かし、そしてリディアにそれが正しい考え方だったのかどうかを訊ねる。




「そうそう、ガイウスよく分かったね。まいいや、それより、なんかその男なんですけど、私の事を敵に引き渡そうとしてきたんですよね」


 あまり誉め言葉には見えないような口調でガイウスを誉めるリディアだが、すぐにミケランジェロへと顔の向きを戻す。


 しかし、あの整った容姿とは裏腹に、自分に行なってきたあの暴力的な行為を受け入れる事が出来ていなかったのだろうか、それを話す時のリディアの顔にはもう二度とあの男には近寄りたくない事を示すような苦しみや苛立ちが映り込んでいた。


「お前の事を捕らえようとしたって事か?」


 ミケランジェロは自分の表現方法でリディアに確認を取る。




「そうなんですよ。まあとりあえずこっちでそれなりに対処して、もうあっちはあっちで好きにさせてやりましたけど」


 一度普通な形で頷いたリディアは、大雑把な説明ではあるが、男からの魔の手を難無く払い除けた事を話した。ここにリディア本人がいる事が、事を無事に解決させた証拠だろう。


 尤も、相手との関係性の部分は今も抉れたままではあるのだが。


「お前そんなんじゃ意味伝わんねぇだろ。まあミケさん、一応おれ達はそいつと普通に話し合いで解決した上で別れたんすよ。その後そいつが何やってるのかとか、どこ行ったのかとかは全く分からんって状態なんすけどね」


 ガイウスはリディアの大雑把な説明を認める事も放置する事もせず、一度それをリディアに指摘するなり、ガイウス自身で事の詳しい中身をミケランジェロに説明する。


 一応は言葉で相手を納得させ、その上で男と離れたという事実をはっきりと説明しなければいけなかっただろう。それでも、やはり初対面の男である以上は、詳しい動機やあの後の行動の推測は難しいものがあったかもしれないが。




「そいつ、ネインハルスの関係者だったっていう訳なのか?」


 ミケランジェロの推測ではどうしてもそのような答えしか思いつかなかったようだ。そもそも捕らえようとしていた辺り、何かしらの形でネインハルスの下にいたと見て間違いは無かったはずであるし、それをリディアに聞かずにはいられなかった。


 ただ、リディアに聞いたとしても確実な答えが返ってくるかどうか、ではあったが。


「多分そうなると思います。私の事を引き渡したら……えっと、確かリゼって言ってたかな、その、リゼって名前の彼女さんが助かるみたいな事言ってたんですけど、今考えたらなんかホントによく分かんなかったんですよ」


 それでもリディアは直感で、ネインハルスとの係わりは存在したと判断出来たようだ。自分と引き換えにあの男は自分の恋人を救い出そうとしていたという事を説明するが、やはりこの宿屋の中で考えてみると、当然の事ながら、分からない事だらけである事を理解したようだ。


 捕らえる存在がどうして自分に限定されていたのか、自分の存在がどういう形で恋人を救う形になるのか等、ここではいくら考えても答えは返ってこない。




「本当に放置しても良かったのかどうかが疑問だが、お前のその様子なら、別に過度に追い詰められたっていう訳でも無かったみたいだな。所で、そいつの名前は聞いたのか?」


 リディアを狙おうとしていたのであれば、その場で対処が出来たからと言ってあっさりと置いて行ってしまって大丈夫だったのかと、ミケランジェロは僅かながら心配になる。


 いくらその場ではリディアに及ばない力しか出せていなかったとしても、時が経過した後に再び現れる可能性が無いとも言い切れないだろう。そして、ふと感じた疑問をリディアから聞こうとした。


「いや、駄目でした。結局最後まで聞けないで別れる事になりましたし、それに私あういうタイプは嫌いですので、別に知らなくてもいいです」


 リディアからすれば嫌な思い出だったのだろう。誰が見ても分かるような嫌な事を示す表情を作りながら、リディアはあの青年の名前を聞く事は出来なかったと説明した。普段はあまり人を嫌うような事をしないリディアでも、やはり好きになれないような人間の性格は存在するようである。




「お前が無事だったならそれでいいかもな。だけど注意はしとけよ? もしどこかでばったり出会ったらまた妙な因縁付けられる可能性もあるからな」


 ある意味では思い出したくない記憶だったのかもしれない。ミケランジェロはあまり思い出させない方が良いと思い、それ以上は追及しない事にした。リディアであれば、例え再会してしまったとしても1人でまた対処する事が出来るはずであると、信用もしていた。


「それは注意します。まあ……ホントにまた会ったとしても無視しますけどね」


 しかし、言葉の通り注意は注意である為、リディアは一度頷きながらそれを素直に受け取った。


 それでもあの青年を少なくとも好きという枠組みには入れないようにしている事には変わりは無いらしく、細くなった青い瞳には、もうあの青年の過去に見せた横暴な行為しか映っていなかった。




「じゃあその話はそろそろ終わりでいいか? オレの方からも皆に伝える事がある」


 自分の順番を待っていたかのように、ミケランジェロはリディアの機嫌の事も意識してか、いくらか無理矢理に話を終わらせるなり、自分自身の事で皆にそれぞれ視線を回す。


「なんかミケさんありましたっけ?」


 ガイウスは窓の枠組みの上で座り込んだままで、皆に何を伝えようとするのかを聞こうとする。




「実はオレの仲間の方から援護を頼まれたんだよ。今は少し離れた場所で仲間が戦ってるんだが、どうしても力が欲しいって、さっき通信が来た」


 テーブルに歩み寄り、ミケランジェロは簡潔にではあるが、自分がこの場所を去らなければいけなくなった理由を話した。戦闘の為の援護だと思われるが、どうしても力がある者でなければいけなかったらしく、ミケランジェロに限定される理由がそれだったのだろう。


「それって私達……ってそれ無理なのか。さっきガリレオさんからもえっと、ヒルトップ、だったかな? そこに向かってくれって言われてましたからね」


 一瞬だけ、リディアは全員がそこに行けばいいのでは無いかと考えたのかもしれないが、すぐに先程言われた事を思い出す。次の目的地はヒルトップの洞窟と説明されているのだから、必ず誰かはそこに向かわなければいけない。


 ここでは分かれて行動という選択肢が出てくるのは言うまでも無いのだろうか。




「また別行動になるって言う事だな。オレは1人でも大丈夫だけど、皆は4人いた方が何かと心強いと思うから、皆は4人でヒルトップの洞窟の方に向かってくれるか?」


 どうしてもヒルトップの洞窟へ向かう計画は曲げる訳にはいかないだろう。人数がいる分、もし別の用事が入ったのであれば分かれる形で行動を取る事が必須になるだろう。


 ミケランジェロはこれから単独で、援護を要請してきた仲間達の元へと向かう事を決定させたのである。勿論、通信を直接受けたのはミケランジェロであるのだから、本人が行かなければ話にならないのだが。


「分かりましたよ。こいつらの事はおれに任せてくださいよ」


 ガイウスは快くミケランジェロの離脱を受け止め、自分が責任者として、皆を纏める事を自ら引き受ける。


 同時に窓の枠組みから滑るように降りる。




「ガイウスだったら、3人の面倒は大丈夫だろう。リディアは分かってるだろうからいいとして、ジェイクとメルヴィもちゃんとガイウスの言う通りに動くようにな?」


 一度ミケランジェロはガイウスを除く3人を見回しながら、ガイウスを信用する。


 ジェイクとメルヴィはまだガイウスと出会って間も無い為、ガイウスを慕ってくれるのかが少し心配になるが、それでも共に行動する以上は相手を信用する必要があるだろう。2人がガイウスを大事に扱ってくれる事を心で祈りながら、2人の男女に言った。




「大丈夫ですよ!」

「分かりました」


 ジェイクとメルヴィは順に返事をする。


 2人にはガイウスを否定する理由は特に無いはずであるし、ガイウスであれば自分達を安全な形で導いてくれるだろうと信用もしていると思われる。ただ、リディアに対してはどう思っているのかが少々気になる点かもしれないが。




「所で、外はもう暗いですけど、明日の早朝とかに向かうっていう感じでしょうか?」


 リディアは窓を見るなり、勿論のように夜の時間である事を意識するが、ミケランジェロに出発の時間の事について質問をする。夜遅くに出発するのは危険では無いのかと感じたのか、次の日の朝に出発をする事を前提であるかのような聞き方である。


「いや、もう出発する。行くって言っても足では行かないけどな。位置情報受け取って、そのまま瞬間移動で向かうまでだ。リディアお前は知らなかったか?」


 どうやらミケランジェロには一般人には不可能な手段を持っていたようであったが、リディアは理解していると思っていたのに、意外だったとでも言っていそうな表情を見せていた。


 リディアにおさらいでもさせるかのように、どのような手段を使うのか、そして手段の原理を説明してやった。そろそろリディアには思い出して欲しいと思っている頃だろう。




「あぁそういえば言ってましたね。そんなワープみたいな事が出来るって」


 一度は見た事があったのだから、リディアは説明をされてから徐々に頭の中で記憶が蘇るのを感じたようだ。少しはリディアもその能力を羨ましいと思っていたのかもしれないが、それを見せるような言葉はここには無かった。


「おれは直接見た事無かったな。所でリディアってお前ミケさんのその芸当ってやつ直接見た事あんのか?」


 窓の枠組みから降りていたガイウスだが、今は壁に背中を預けた状態で、リディアに実際のワープの様子を目にした経験があるのかどうかを訊ねる。やはりワープ自体が大掛かりな能力であるからか、頻繁には行わないように見える。




「私はあったかな。意外とそれなりに、ね」


 思い出せば様々な記憶が蘇ってくるようである。天井を視線だけを向けて見ながら、実際のミケランジェロのワープの様子を思い浮かべ始める。


「だったらじゃあこんな時間から歩いて向かうっていう想像は出てこねぇはずだろ」


 ガイウスはさっさと思い出さなかったリディアをまた責めるかのような言い方を始めてしまう。まあ精神的に追い詰めるつもりは無いとは思うが、ガイウスらしい発言手段である。




「いいからそういう嫌みっぽい言い方」


 いつもの嫌みを軽々と表情で払い除けるリディアだが、残り少ない時間でミケランジェロはもうここからいなくなってしまう。またそこには1つの何かしらの不安が募る事だろう。


「まあ兎に角だ。オレはもう向かわせてもらう。そうこう言ってる間に位置情報はもう受け取ってるから、後は力を込めるだけだ。ここじゃ危険だから外に出るぞ」


 ミケランジェロは自分がワープする姿がリディアの中で朧気(おぼろげ)になっていたからと言って、それを責めるつもりは無いようである。


 どうやら相手からはどこにいるのかというワープの為に必要な準備がもう出来ているらしく、そしてやはり大掛かりな能力になるからか、建物の外へと出ようと歩き出した。




 数分と時間を使う事無く、夜風がゆったりと空間を横切る場へとその蜥蜴の肉体を曝け出す。ただの外にいるだけでも、太陽が沈めば他の建物から漏れる光が空間を照らす唯一の手掛かりとなり、その限定された光で彩られた町は独特の美しさが漂っていた。


 小さな夜景に惑わされる事の無かったミケランジェロは、念じるように目を閉じた。真っ暗になったであろう視界の中では、もしかするとワープの先の世界が見えているのかもしれない。




――夜風を浴びながら、ミケランジェロは徐々に姿を消滅させていく――




(リディアはガイウスに任せとけば大丈夫だと信じてもいいだろうな。エンドラル、お前……オレが到着するまで死ぬなよ?)


 念じながらも、やはり我が娘として見ているリディアを心配に感じてしまう。だからこそのガイウスであるから、心配はすぐに取り除かれた事だろう。


 そして、これから向かう先で出会う仲間の生死を感じながら、少しずつ、自分の姿を消滅させていく。





準ヒロインであるメルヴィって本当にちゃんと戦えるのかどうか、結構気になってる点でありました。作者である自分でも本当にバリバリ戦えるのかはよく分からないですし、一応今は仲間達に助けてもらう形で切り抜けてますが、独りぼっちになった時にどうなるのか……。多分リディアみたいに派手に戦うってのは無理だとは思うけど、いつかはそういう単独で戦う話も出ると思いますので、その時までにどうするか考えないといけないかもしれません。

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