第18節 《決着を迎えた一同 今後の戦略と青髪の青年の行方》2/4
こんばんは。
今回は4回分のうちの2番目の投稿です。今回は次の目的地を聞かされるという内容です。それにしても話し合いの部分でも長くなるのが自分の作風で、ただどこに行って、何をするという説明だけでも結構な量を使ってしまってますね。今回は調査に失敗してしまった者の説明もあったので、そこでまた量を使ってしまった感がありますが、そういう部分を抜いてしまったらどうしても次の目的地の危険度を表現出来なくなるので、どうしてもこうするしか無かったんですよね。
――宿に戻った時には、もう周囲は暗くなっていた――
重篤な負傷を負った者はおらず、そしてネインハルスの重たい一撃を受けてしまっていたリディアも、バリアで自身を保護していたおかげで思ったような重傷は受けておらず、宿のソファに座り込んでしばらく深呼吸を続けている内に痛みは引いてくれたようだ。
町人達に注意を促す役目を背負っていたジェイクとメルヴィも今は宿におり、無事に戦闘から帰還してきた彼らと彼女を見て、今日も無事に1日を過ごす事が出来るのだろうと安心したはずだ。
だが、今日は無事に過ごせても、明日も同じように無事に過ごせるかどうかは、まだ分からないのだ。
「実は、この先にあるヒルトップの洞窟にちょっとした魔力の籠った宝玉がある事が確認されたんだよ」
恐らく、ガリレオが特に伝えたかった話だった事だろう。来た理由は色々とあるはずではあるが、この話はガリレオ以外、誰も聞いてはいなかった為、この情報には大きな価値がある。
テーブルの無い広間で、椅子に座りながら皆に説明を投げかけている。
「じゃ、要するにおれらにそれを取ってこいってのが、次のおれらの任務って事になるのか?」
今は忍の姿を解除し、私服姿である緑のコートを纏った状態のガイウスは次の作業を想像し、ガリレオに問い掛ける。
解釈の仕方はそれで正しいと言えるだろう。
「いや、調達するというよりは……もう既に捜査隊が派遣されてたんだけど、実はその人達が返ってこなくなって、それで、あ、すまない、話がゴチャゴチャになったから最初からまた説明させてもらえるか?」
ガリレオの想定していた内容と、ガイウスの解釈に食い違いが出たようであり、実際の所は単なる宝玉の回収作業だけでは無いようだ。ただ、その経緯が複雑であったからか、ガリレオの中でどのように説明をすべきか、混乱してしまう。
「焦らなくていい。整理してから話してもらえれば問題は無い」
時間との戦いでは無いのだから、話す内容を頭の中で整えてから、相手が理解しやすいように説明してほしいとミケランジェロは催促する。
自分用の椅子が不足していたのか、ミケランジェロは木造の柱に背中を預けながら、その蜥蜴の頭部を鳥人へと真っ直ぐ向けていた。
「すまないな。その、捜査隊の行方の為に向かった別の派遣された者達が既に原因を突き止めてるんだよ。それと、多分その者達の名前を出したら、きっとそこに向かう理由が分かると思うよ。ガイウスだったら特にね」
ガリレオは右の指で目の前の何も無い空間をなぞりながら、言い終わる辺りでガイウスと視線を合わせる。
「おれか? もしかしておれの知り合いが探索に行ってたっていうやつか?」
ガイウスは興味を持ったかのように目の色を変える。名前を言えばガイウスなら分かると言われたのだから、本人が話の続きを求めないという事は無いだろう。
「フィリニオンとマルーザだよ。あの2人が洞窟の探索から戻ってきて、それでぼくに連絡をくれたんだよ」
もしかすると、この名前はガイウスとガリレオ以外には馴染みの無いものだったかもしれない。しかし、洞窟の情報を持ち帰ってきたとなれば、結果的にそれは他の者達にとっても有益な存在となるはずだ。
「あぁあいつらそんなとこに行ってたのか。まあとりあえず賊の連中からは逃げきれてたのかぁ……」
ガイウスは以前同行していた記録があるが、別行動を取った後の行方をここで初めて知る事になったのだ。山賊だったか、盗賊だったか、どちらにしても危険な臭気を漂わせていたならず者達に追いかけられ、そして無事に逃げ切る事が出来たのかと思うと、ガイウスは口から僅かな笑いを零さずにはいられなかった。
「なんかガイウスの方で大変な事があったみたいだけど、んで所でガリレオさん、連絡の方は……明るいもの、なんでしょうか?」
左腕に少しだけ痛みが残っていたのか、リディアは水色のワイシャツの袖で包まれた腕を右手で撫でながら、ガリレオの話の続きを求めた。やはり連絡の内容が気になるようで、どこか内容の良し悪しをある程度は予測でもしていたかのように、あまり明るくない声色で聞く。
「結論から言うと、勿論明るくない話だったね。あの2人が見たものってのが、残念だけど巣に潜んでた怪物にやられて死んでしまった調査隊だったんだよ。それともう1つ、さっき言った宝玉の件も、誰かに持ち去られてしまってたんだと」
ガリレオは直接調査隊の凄惨な姿を見た訳では無かったはずだ。任務をさせてしまった事よりも、命を奪われた事の方がどうしても心に引っかかっていたのか、ガリレオの表情に苦しさが紛れ込んでいた。
命を奪われた調査隊も残念ではあったが、世間からの目としては、宝玉の回収が出来なかった事の方が大きな痛手として見受けられていた事だろう。ガリレオにとっては、命を奪われた事の方が心に強く突き刺さっていたのかもしれないが。
「持ってかれた、のか。怪物がいるってんなら持ってかれるってのがなんか納得しにくいとこだな。多分そいつが宝玉守ってたんだと思うし、ってかフィリニオン達あいつら襲われたりしなかったのか? その怪物に」
ガイウスは怪物の存在がとある部分に引っかかったようである。調査隊が宝玉の回収に向かって、そして怪物にやられてしまったのなら、じゃあ宝玉はまだ残っているはずなのではと、どうしても聞きたくなったようだ。
調査隊を調査する為に向かったフィリニオン達が怪物達に返り討ちに遭ってしまわなかったのかと、僅かに気になった様子でもあった。
「あ、ごめん、言い忘れてた。調査隊の死体もそうだけど、怪物も死んでたって言ってたな。なんか巨大な蜘蛛だったみたいだけど、焼死体になってたって言ってたな」
調査隊の生死の事に集中していたせいか、ガリレオは怪物がその後どうなったのかという所を説明不足にしてしまっていたようだ。
どうやら調査隊だけでは無く、蜘蛛の怪物も洞窟内で死亡していたらしい。
「なるほどな。調査隊がやられた直後にその誰かが蜘蛛の怪物を始末なりして、その上で宝玉を持ち去って、その後で確か、フィリニオンとマルーザだったか? その2人が洞窟に辿り着いたって事だな?」
ガリレオの不足していた説明を聞く事で、ミケランジェロは事の全体の流れを把握したようである。
しかし、フィリニオン達がもう少し早く到着していれば、蜘蛛の怪物を倒した者と出会っていた可能性もあったが、出会わなかった事は不幸中の幸いとでも言うべきなのだろうか。
「そういう事になるな。不足分の説明には感謝するよ、ありがとう」
本来であればここまでガリレオが説明すべきだっただろう。多少の自分の話し方の甘さに反省しつつ、言い終わる辺りで首を軽く縦に振る。
「あの、所で、私達が行く理由としては、結局の所はその奪われた、って言い方でいいのかな、その宝玉を取り返す為って事になるんでしょうか?」
少しだけ乱れていたのか、左側の紫の揉み上げを左手で引っ張るように正しながら、リディアは次のすべき事は宝玉に関わる事なのかと、ガリレオに問う。本当は既に向かうのかどうかという答えは出ていたはずだが、あの時は別の説明が邪魔をしてしまっていた為、最終的な答えが曖昧になっていたのである。
「結果的にはそうなると思う。実はそのヒルトップの洞窟の近くで危ない怪物、まあ洞窟にいた蜘蛛とは別の怪物だけど、近辺に影響を出しそうだっていう話がギルドから出てるから、是非向かって欲しいんだよ。勿論フィリニオンとマルーザにも会えると思うから、そこでまた宝玉の話を改めて聞いて欲しいかな」
問いかける毎に新しい情報が入ってくるが、どちらにしても周辺の村や町に危害が及ぶ可能性があるなら、黙っている訳にはいかないはずだ。仲間との合流もあるならば、そこで新しい情報を手にするべきでもある。
蜘蛛と異なる別種の怪物の事を想像したのか、ガリレオは難しそうな表情を浮かべていた。鳥の亜人でも、感情表現は人間に劣らないようである。
「なんかあんたに無理矢理任務押し付けられてるような気がするけど、そこは言わないで置く事にするか」
今まではどの場所で緊急事態が発生しているから、自分達が自主的に食い止めに行くという形が殆どだったのかもしれない。
しかし、ガイウスはこの場ではガリレオから依頼を受けているようにしか感じられず、なんだか強制的にやらされている気持ちになってしまったようだ。言葉の通り、口には出すべきでは無いものだったのかもしれないが、直接この空間にそれが言葉として出されてしまっている。
「もう口に出してるだろ……。本当はぼくも情報を提供して皆に次の仕事を作ってしまった以上は同行したかったんだけど、あの培養槽の人達の調査と身元確認の作業があるから、ぼくはどうしても一緒にはいけないんだよ。申し訳無い」
苦笑いを浮かべながら、ガリレオは自分の説明には責任が伴っている事を自覚していた事を説明した。だが、自分にも別の仕事がある関係で、どうしてもヒルトップの洞窟周辺には向かう事が出来ないでいるようだ。
役割分担とでも言うべきか、ガイウス達は戦闘、そしてガリレオの方は調査を請け負うという形でこのまま進むべきなのだろうか。
「ガリレオだっていつも暇だっていう訳じゃないだろ? こっちの事はオレ達に任せろ。お前は救出した人達の調査に専念してくれ」
ミケランジェロは理解している。ガリレオは押し付けてきたのでは無く、あくまでも状況を提供しに来ただけである。ガリレオにはガリレオの作業がある事も理解しているし、自分達もガリレオの行なうような培養槽の液体の成分の調査等のような、科学的な部分は恐らくは出来ない事だろう。
それぞれ各自が、自分達に出来る事をすべきであると、ミケランジェロはガリレオの謝罪を快く受け止めているのだ。そもそも謝罪の必要性すら感じていないのかもしれないが。
「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃ、そろそろぼくはここを後にするよ。あの貨物船でそのまま町に帰らせてもらう」
自分の忙しさを他者に無理矢理理解させようとは思っていないだろう。それでも、自分が心の内に抱えている忙しさを理解してくれるミケランジェロには言葉の通りの感謝を見せる以外無い。
そして、自分が決して暇では無いという事を表現するかのように、ガリレオは椅子から立ち上がった。あの刃物が装着された特徴的な白い山高帽を被っていない黒い頭部は、夜の空間と宿の室内を遮断している窓へと向けられた。窓の奥には他の建造物が見えているが、その更に奥には、きっと貨物船が停泊している事だろう。
「分かった。念の為だが、あの貨物船は元々海賊、かどうかは分からないが、ならず者達が使ってた物だ。狙われたりしないように注意しろよ?」
ふとあの貨物船の持ち主の事を思い出したミケランジェロは、それを奪い返されないように気を配るようにと、これから歩き出そうとしたガリレオの横顔を見ながら伝える。
貨物船そのものは確かにならず者達に所有権があるのかもしれないが、詰まれている培養槽の人間達は事実上、違法という形で収集した者達だ。船自体を今頃勝手に使った所で誰もガリレオを責める事はしないはずだ。それは勿論、ならず者達以外の者からの視点の話だが。
「それは注意するよ。それと、ジェイク達もあの爆破装置を用意してくれててとても助かったよ。町の人達も対策を練ってたとは意外だったし、おかげで良い方向に進んで良かった。それじゃ、皆、ぼくはこれで後にさせてもらうよ。それじゃ!」
初めから意識はしていたのか、それとも言われてから初めて気が付いたのか、ガリレオは特に深い意味を感じさせないような短い言葉で返す。
これからのプランの話を黙って聞いていたジェイクとメルヴィ達にも感謝をしなければいけないのがガリレオである。ネインハルスに決定打を与える為の装置を用意してくれたのは、実はジェイク達で、そしてジェイク達の方にも何かと色々なやり取りがあったようである。
ガリレオは宿の出入り口へと、真っ直ぐ歩き始める。
――黒の羽毛を持った亜人が、宿を後にした――
今は世間ではGWだと思いますが、皆さんも事故や病には注意しながら過ごしてください。自分もこの後にネタ集めに走ります。