第38節 《魔力を吐き出す洞窟の中で 魔女と魔導士に映るもの》3/5
洞窟内に陣取ってる怪しい魔女達とのトラブルが最初に発生しますが、今回はレフィの存在があるので結構スムーズに事が進むかもしれませんw
レフィという魔女と共に洞窟へ
内部には不思議な魔力が眠っているという話
それを調べる為にリディア達は向かったは良かった
しかし、先客がいたようであり、道を塞いでしまう
相手はレフィとは異なる魔女の2人組であった
「あら、先にもう探索の手が入っちゃってたか。これは残念だね」
青い服装の魔女であるレフィであったが、洞窟の入口の目の前から突然現れた2人組の女性に対し、その日の探索に向かっていた人間が自分達よりも先に回っていた事を悔やむかのように声を漏らしていた。しかし、最初に代金の方を請求されており、それの影響もあったのか、表情はやや曇っていた。
「レフィさんそんな事より、この人達なんか通行料出せとか言ってますけど、どうしますか?」
水色のワイシャツに黄色のベストを着用している少女であるリディアは、意外と目の前の門番のような立場として振舞っている魔女2人に対してもあまり動じた様子を見せず、請求をしている代金に関してどのようにこちらからは対処するべきかと問う。
「リディアちゃん何その聞き方? 一発ぶっ飛ばしちゃいますか的な返事待ってない?」
レフィ自身は目の前の魔女2人を敵対者として認識している可能性が高かったが、リディアも2人の魔女に対して好意的な目ではまず見ていないという事がレフィに伝わっていたようである。そもそも相手に対する呼び方が何だか敬意の感じられないものであった事情もあり、もしかすると自分と同じ考えなのかと気分が乗ってしまった様子だ。
この場合の相手に対しては力でやり返す事も考えているという事なのだろうか。
「ってかレフィさんもかなり好戦的な表情してますけどね?」
リディアとは反対の位置でレフィの隣にいた、緑色の魔道服を纏っているシャルミラもレフィの態度が気になったのか、指摘する事を決めた。
レフィのすぐ隣にいた為、口元が吊り上がっていたレフィの表情をシャルミラは見逃さなかったのである。勿論、シャルミラ自身も目の前の魔女2人に敵対意識を持っているのは確実だ。
「なんかシャルもノリが良くなってきた? どう考えても払う必要のある相手じゃないじゃん?」
レフィは青い瞳で左にいるシャルミラを横目で見ながら、自分の気持ちを読んだ上で自分に合わせてくれていると感じたのか、目の前で入口を塞いでいる魔女2人に対する結果的な評価をここで聞かせた。
入る為の代金を渡すに値しない存在であると、それが評価である。
「あのさぁ、本人達目の前で言っちゃうの?」
シャルミラの隣で浮遊の状態でいる青と白の毛並みの小型の獣人であるバルゴは何を愉快で今のようなやり取りをしているのか、多少不思議に感じながらも、すぐ目の前には敵である2人の魔女がいる事を思い出させるかのように、やや呆れた口調で皆に伝える。
「おいおいあたいらの事馬鹿にする気かよ?」
橙色の髪の方の魔女が溜まりかねたのか、苛々したような口調でリディア達に問い詰める。払うべきものを支払おうとせず、杖の先端を地面に叩き付けながら、わざとらしい音を放ちながら舌打ちも行なった。
「払うもんは払うのがこの世の常識だぜ」
黒い髪の方の魔女も右手を伸ばし、その上に代金を置けとでも見せつけているかのような様子であった。しかし、いくらを渡せば良いのかはまだ喋っていない。
「なんかこの人達危なさそうだけど大丈夫?」
レフィの後ろの位置にいたメルヴィであったが、萱草色の髪の下から見えている緑色の瞳は何だか不安なものが見えており、出来れば怪しい魔女2人とは戦いに発展してほしくないと願っていたようにも感じられた。
「この人達も派遣された調査隊とかだったりするの?」
赤いフードの中で容姿そのものを影で隠したような姿のジェイクからすると、言葉遣いや態度は兎に角、洞窟の入口に陣取っている魔女2人もこの場所を調べる為にギルド等から派遣された関係者なのかと思ってしまったようだ。
――見張りの魔女はわざとらしい笑みと一緒に目を細め始める――
「そこのよく分かんない姿した奴、よく分かってるねぇ? そうなんだよ。わたしらが調査する事になったからここで見張りしてんだよ。邪魔が入ったら仕事が捗らなくなるからな」
黒い髪の方の魔女はジェイクの人間ならざる姿にも殆ど動じる事は無く、寧ろ理解の良さを褒めてやる事を決めたようであった。この説明を聞く限りでは、この魔女2人には他にも仲間が存在するようであり、そして他の者達は現在は内部にいる様子だ。
「それでも通るってんなら払うもんは払ってもらうからね?」
橙色の髪を持っている方の魔女は杖を持ち上げ、もう片方の手に向かって先端付近を下ろす素振りを見せつけた。まるでこの杖で殴ってやろうとでも企んでいるかのような威圧感の表現方法なのだろうか。通るつもりであるなら、力任せであったとしても代金を取るつもりでいるようだ。
「いや、ちょっとおかしいよね? この洞窟って別にギルドや国家で管理されてる訳じゃないんだから、そうやって個人で占領する方が違法になっちゃうと思うんだけどね? それでもお金、盗る?」
レフィは代金の要求には応えなかったのである。洞窟の事情は把握しているようであり、誰かが権利を所有している場所では無い為、個人や特定の団体がこの場所を掌握する事は認められる話では無いと捉えている様子だ。寧ろ今の行為を継続させる方が司法機関の者達を呼び寄せる事になると説明を聞かせてやった。
そして相手は魔女であるが、レフィ自身も魔女である為、魔力に関しては自信を持っているという事なのだろうか。
「レフィさんそれって、じゃあこの人達って、悪者ですか?」
リディアは何となく目の前にいる魔女2人の正体を怪しむようになってしまう。元々の女性としての品格を疑うような言葉遣い等も、信用が難しくなる要素であった。前日に共に行動をしていたルージュも少女ながらやや口調は男勝りで乱暴な印象もあったが、ルージュの場合は友達思いな部分も非常に強かった為、寧ろあの態度は勇ましさの表れとして見られていたかもしれない。
「それ以外全く考えられないね。という訳で、早くどいて? 邪魔!」
リディアの質問に対しては、レフィはその場で首を縦に何度か振るが、その後でまるで見張りの魔女達を目障りな対象として見るかのように、言い捨てるような口調を飛ばしてやった。口で言っても言いなりにはならない事を薄々理解した上での発言だろう。
「ってレフィったらいきなり攻撃的な態度になるの?」
高圧的な態度を取る相手には同じような態度で対処をしようと決めたレフィを見ていたのはバルゴであり、相手の魔女2人を怒らせてしまうような言動に多少の違和感を感じたものの、それでもレフィの味方から外れる事はしなかった。態度から見てもレフィを避けるような様子は見て取れないはずだ。
「どけろだって? どけたらあたいらが見張りやってる意味無くなるだろ」
レフィの言い分を呑むとはとても思えない見張りの魔女であったが、本当に言いなりになるつもりは無いようであり、入口の前で決してその場から立ち退こうともせず、それ所か前後左右どの方向にも一歩も踏み込んですらいなかった。黒い髪の魔女は舌打ちをする。
「それとも痛い思いしたいって事か? 叩きのめしてからお前らの所持品全部奪ってやってもいいんだが?」
橙色の髪の女は杖の先端をレフィへ向けながら、ただその場で始末をするだけでは無く、更にその上で身包みさえ剥がすと忠告までしてきたのである。魔法を力尽くという名目で使ってやろうと考えている最中なのだろうか。
「随分自信あるみたいだけど、こっちは一応6人だけど、貴方達って私達相手に勝てるって保証はあるの?」
元々悪人には屈しないリディアであったが、見張りの魔女は2人であり、逆にリディア側は実質的に3倍の人数で揃っているのである。リディアであれば仮に自分が単独だったとしても戦わなければいけないのであれば引き下がる事をしないと思われるが、今の言い方はある意味では相手の身を想った上での発言だったのだろうか。
あまり痛い思いをさせてやりたくないという配慮だったのだろうか。
「それとも見張りを任されてるから引くに引けないだけかもしれないわよ?」
リディアに合わせる気でいたのか、シャルミラも何となく魔女2人の現在の心境を読み取るかのように、今ここで強気でいる理由を悟ろうとした。今洞窟の中にいる他の仲間達の一部に自分よりも立場が上の者がいるから、ここでの見張りを失敗する訳にはいかないという事なのだろうか。
しかし、シャルミラも炎の魔力で戦う魔導士である。本当に戦う事になるのであれば、自信はあるのだろう。
「随分ナメた態度取ってんねぇ?」
シャルミラの服装を見れば魔法で戦う女の子だという事は分かったのかもしれないが、黒い髪の魔女は相手が確実に自分よりも年下だと感じたからか、そこから来る年齢差によるストレスから苛立ちを感じたのだろう。
魔力でシャルミラに勝つ事が出来る自信があるのか、まるで杖から魔法でも放とうとするかのようにゆっくりと持ち上げるような動作を見せつけてきた。
「人数いりゃ勝てると思うなよ? じゃあ本気見せてやるか?」
橙色の髪の魔女は過去に人数の差で不利な状況であっても勝利を収めた事があったのか、自分の力で威圧する様子を直接見せる為に一歩踏み込み、杖を突き付けたのである。
「あ、ごめん。遊ぶだけの時間用意してあげようとは思ってないから、とりあえず……」
しかしレフィはまともに戦いを交えるつもりは無かったようであり、何かを隠しているかのような笑みを一瞬作り、右手を持ち上げた。
――レフィは人差し指を下から上へ持ち上げるような動作を行ない……――
「ほいっ!」
動作自体はやや単調にも見えるレフィの姿であったが、指先に強い魔力を集中させていたのだろうか、その瞬間に魔女2人の足元に強い風が直接白色として認識出来るような形として出現し、そのまま蛇のようにうねりながら、そして2人纏めて包み込む。
その後であった。
――魔女2人は瞬時に宙吊りにされてしまい……――
「きゃっ!!」
「いやっ!!」
魔女2人は瞬時に足を空に向かって引っ張られ、当然体勢も上下逆になってしまい、そして洞窟の入口の上部へと吊るされてしまったのだ。入口の上部と魔女2人の脚を連結させている縄はレフィの魔力で実体化させられたものである。
引っ張る速度は相当に速かったからか、頭が地面の側へ向く時は頭部を地面に接触させる事は無かったが、どちらにしても魔女2人の表情が明るくなるはずが無い。今は吊るされる形で拘束されているのだから。
「ごめんね~、魔法ならわたしの方がず~っと強いって個人的に思ってるので! ってか態度で相手の事ビビらせてる割に可愛い悲鳴出すんだね?」
レフィは先程風の魔力を放ったであろう右の人差し指を自分の顔の隣で、まるで輪っかでも回しているかのように振りながら宙吊りとなった魔女2人に自分の実力を思い知ったかと見上げ続けていた。
そして吊り上げた時の悲鳴を聞き逃さなかったレフィは、嫌味のようにあの僅かな瞬間を2人に思い出させようともした。
「お、おい! 何しやがる!!」
「下ろせよ! ただで済むと思うか!?」
見張りの魔女2人はそれぞれ異なる魔力の縄で逆さ吊りにされたが、予期せぬ拘束による驚きと、そして敵対している相手に負かされた苛立ちでただ乱暴な声を上げる事しか出来なかったようだ。
しかし、怒声を上げたからと言ってレフィ達に何か攻撃が出来る訳でも無いし、当然縄そのものにも変化が表れる訳でも無い。
「何って……わたし達が通るのを邪魔したから仕返ししただけなんだけど? 魔女ならそれぐらい解けないの? まあわたし特性の小細工仕組んでるから魔力自体を跳ね返す特殊仕様だけどねその縄」
レフィは洞窟の入口を通り過ぎながら、そして吊るされた身張りの魔女2人の下を堂々と通り過ぎた。
そして見張りを吊るしている縄はレフィ特製なのだろうか、自分以外の者が使う魔法そのものを受け付ける事が無い面倒な仕様となっているようだ。洞窟内に向かって進む足を止める事無く先へと向かおうとするが、宙吊りの状態で下半身の服装を必死になって両手で押さえている姿そのものには敢えて口出しをしなかった。
「とりあえず、レフィさんお疲れ様です。言いたい事があるけど……いや、いいです」
手早い拘束を披露してくれたレフィに対し、見事さを褒めたのはシャルミラであった。一緒に洞窟の入口を通り過ぎるシャルミラではあったが、やはり見張り2人の下半身を必死で押さえながら身を硬直させている姿が気になったようだが、喋るのをやめる事を決めたようである。
「ん? シャルなんか思ってる事でもあるの? あぁな~んか分かった気がする。パンツ見られるの気にしてるとこでしょ?」
レフィは元々自分に対して言葉をかけられていたのだから、例え聞くのをやめられたとしても言葉そのものは聞き取っていたのだから、本当は何を聞こうとしていたのかを想像してやろうと思ったらしい。
ふと背後を見直し、吊るされた見張りを見直した途端にすぐに思いついてしまったようだ。シャルミラに聞いた内容は、恐らくレフィも同じ女性であるからこそ言えた内容だったかもしれない。
「あのいちいちそんな事口にしないでもらえますか!?」
考えていたのは確かだったのかもしれないが、実際に言葉にされて聞かれる事を快く思う訳も無く、シャルミラは怒ったような表情でレフィに言い返してしまう。聞いてきたのは確かに同じ女性同士の相手ではあるが、周りには一部異性も存在するのだから、尚更気分の良い話では無かったのだろう。
「でも……あんな野蛮な奴のなんて見たいと思う人っているの?」
リディアではあったが、それはシャルミラに対するフォローだったのだろうか。リディアとしては元々あの見張り達の人間性を評価していなかったようであり、あの者達の恥ずかしい姿を見たとして、それを得と思う者がいるのかどうか、それがリディアにとっての疑問点だったのかもしれない。
「リディアちゃんもいい事言ってくれるねぇ! まあ答えとしちゃあいないっしょ! わたし言葉遣い悪かったり粗暴だったり表情悪い女のパンツなんか見てもちっとも嬉しくないし興味を持ってやろうとも思わないからね。まあ清楚な女の子だったらその日は宝籤でも当選したような気分になれるけどね!」
レフィとしては清楚な女の子だからこそ価値があると考えているようであり、相手が女性だからと言って見たからと言って必ずしもそれが喜びに繋がるとは限らないようだ。
しかし、それは正義として成り立つのかどうかは分からない。
「レフィさあもう自分の趣味の事はいいから。所で、門番はもう足止め出来たから早く奥を調べようよ? 暗くなっちゃったら色々大変だよ?」
バルゴからすると何かと自分の性癖に関わる話に繋げようと話を進めるレフィを止めた方が良いのかと感じたようだが、やはり洞窟の奥へ進む事に集中しなければ日も落ちてしまい、暗さによる視界不良という危機に直面してしまう為、まだ光が残っている内に探索を済ませるべきだと言葉を渡す。
尤も、洞窟内に入れば暗さに悩まされるのは確かではあるが、洞窟から帰還した後の事を意識していたのだろう。
「その通りだね、じゃあ突撃開始って事で。所でメルちゃん、ジェイ君がこの2人のあの部分見ちゃった事に関しては勘弁してあげてね! わたしに免じてお願いね!」
言われた事を意外とすんなり受け止めたレフィは、ただ何となく洞窟の入口を通り、歩いていただけのつもりであった気持ちを、改めて探索と発見の為にいくらか命を懸けるつもりで突入するという気持ちに切り替えた。
それでもやはり見張りとして引き受けていた魔女2人の事がどうしても頭から離れなかったのか、そしてやはりどうしても実際に見えたそれぞれ赤と青の布地の下着を忘れる事が出来なかったのか、それをメルヴィにまるでジェイクを庇うかのように願うが、レフィの気持ちは伝わるのだろうか。
「いや……あの……別に……。所でジェイ君って本当に、見たの?」
メルヴィは元々見張りの2人が吊るされた際に露わになった部分に対しては意識すらしていなかったのかもしれないが、無理矢理言わされるかのような状況になって、それで言葉選びに戸惑ってしまう。
それでもやはりジェイクの事を考えると、いくら相手は敵対者と呼んでも差し支えない粗暴な態度が特徴的な存在であったとは言え、一応は女性であった為、あの光景の中から見えた隙を本当に直視してしまったのか、ジェイクを温く睨むように見つめながら訊ねた。
「い、いや! そんな事は無いよ! 勝手に見えちゃっただけだよ!」
本当はあの様子を目視した事に関して、沈黙を貫きたかったのかもしれないジェイクであったが、聞かれてしまった以上は答えるしか無くなったようであり、青い双眸を左右にキョロキョロとさせながらあれは所謂不可抗力に近いものであったと言い訳がましく言い返した。
「ってそれだと見た事になるよ?」
やや冷酷とも言える言い訳を封じるかのように、リディアの言葉がジェイクに突き刺さったのだ。リディアによる意外な言い方ではあったが、表情の方はメルヴィとは異なり、何かを疑ったり嫌らしさを含んだものは見えていなかった。仮に見たとしてもそこまで責めるつもりも無かったかのように感じられる。
「それより早く行こうよ! 僕にとって大事な情報が見つかるかもしれないし!」
これ以上少なくともジェイクからすれば都合の悪いようなこの話が続けば自分の立場が辛くなると悟ったのか、洞窟の奥を指差しながら、目的地に眠るであろう何か大きなものを手に取った時の事を深く想像する形で皆を急かした。
「ジェイ君あれは所謂不可抗力っていうまあそういうのだよね? 逃げ手段として今の言い分はまあまあって事にしとくけど、とりあえず行かないと始まらないから行こうか! そもそもパンツ見えるような服装してるあいつらが悪いんだからこれは自業自得ってやつだし」
レフィによる手助けがここで入るが、レフィとしてはジェイクを性的な意味での悪者として扱うつもりは一切無かった様子であり、それでも問い詰められた時の言葉の選択には多少の甘さがあったとも評価を下している様子であった。
まるでジェイクの気持ちに付き合うかのように洞窟の奥を共に意識するような素振りを見せるが、服装に関する話をする事でレフィ自身は今同行をしている者達全員から妙な目で見られてしまう。しかし、レフィは気付いているのだろうか。
「レフィちょっと黙ろうか? ずっと喋ってないと死ぬ病気でも患ってるの?」
人間では無い種族であるバルゴではあったが、なんだかレフィの時だけ皆より長い言葉で喋っている所が気になってしまったのか、多少でも静かにすべきでは無いのかと声をかけた。本当に病を抱えているとは重たくなかったかもしれないが、聞かずにはいられなかったようだ。
レフィの性格からすると、これを言われたからと言って特に傷が付くとも思えなかったようでもあるが。
「意外とそれは合ってるかも! 折角こんな可愛い娘達と再会出来たのに黙ってたら損するでしょ? 喋れる時に喋っとかないといざって時に一生後悔する事になるし!」
何故かレフィはまるでバルゴの疑いを否定せずに明るい表情で、そしてわざわざ親指でサムズアップの形まで作り、さらにわざわざ右目でウィンクまで決めながら受け止めてしまう。
寧ろレフィからすると、レフィの視点からすると眩しいとしか評価が出来ない女の子達が沢山いる状況で喋りたい事を我慢している方が寧ろ重い病気にかかってしまいそうな気分ですらあった様子であり、後で後悔するぐらいなら今とことん自分をアピールした方が良いというのがレフィの価値観であるらしい。
「死ぬ病気ってとこを否定しないなんて……。あ、でも一応ですけどレフィさんあの2人って頭から落ちたらちょっとそれは不味くないですか?」
リディアにとってはレフィの今のような所にある意味では関心をしているようだが、ふと思い出したのは入口で放置をした見張りの魔女2人の事であった。
逆さ吊りにされていた状態だと、もし何かの拍子に落下した場合は頭部を地面に激突させてしまい、ただでは済まない結果になるとしか考えられず、そこはどのように計画をしていたのか、聞かずにはいられなかったようだ。
「ん? あぁそれね、あの魔力の縄はね、時間経過でゆっくり降りるように出来てるから頭から落ちるって事は無いから一応大丈夫だから。リディアちゃん意外とあいつら相手に情けかけちゃうんだぁ?」
意外とレフィの作った魔力の縄は欠陥がある訳では無かったようであり、敵対者に対して扱う魔法にしてはさり気無く配慮も効いたものであったようだ。
尤も、長時間の魔力を維持させるのが面倒だから時間経過と共に魔力が消失する際にただ相手を掴む力を徐々に弱めさせる結果、それが突然の高所からの落下を防いでいるように見えてしまっているだけなのかもしれないが。
「いや、別にそういう訳じゃないですけど、あ、でも解放されたとして後ろから不意打ちとかそれは大丈夫なんですか?」
リディアは一応は自分達の命を狙おうとしていた可能性さえあるあの見張りの魔女2人に対しては哀れみの感情を向けてやるつもりにはなれなかったようである。
しかしここでふと思い浮かんだのは、あの魔女達が縄から解放された時にどうなるか、であった。そもそも洞窟内に入る事を許されていなかったのにある意味では強引に進んだ身である為、やはり追いかけられるとしか思えなかったのかもしれない。
「リディアちゃんさぁ、わたしの魔法1つであっさり宙吊りにされてしかもパンツ丸見え、まあわたしはあんな性格した奴らの見てもち~っとも喜びたいって気持ちにはなんないけどさ、そんな醜態晒すような奴がさ、わたし達にまた襲い掛かろうとすると思う?」
レフィは背後から狙われる事を恐怖として捉えておらず、寧ろ自分が放った魔力の縄だけで動きを封じられた見張りの魔女2人に対してはいつ狙われたとしても逆に返り討ちに出来るという自信を持ち続けていた様子であり、自分の顔の前で右の人差し指を天井に向けながらクルクルと回していた。
自分の魔法を放っていた時の様子を思い出しているのだろうか。
「ま、まあそういう風に考えるのもありって事ですかね?」
リディアは一応今のような答え方をするしか無かったのである。自分達にとって脅威とはならない相手に怯えるだけ時間の無駄という解釈が出来るのかもしれないが、やはりレフィの言う醜態を見せる行為とどういう繋がりがあるのかはここでは考えないと決めてもいた。
表情は明らかに困ったものを見せていた。
「うんそれで良し! それにリディアちゃんだってあんな程度のちょっと威圧的に振舞えば強いだろうって思い込んでるような奴に負ける気なんてしないでしょ? シャルだってさぁ、あんなのに負けたら魔導士として恥晒しでしょ? 盛大に突き飛ばされてパンツ丸見えにされるより恥ずかしいじゃん?」
リディアの答え方は100%は賛成しようというものでは無かったと捉えたレフィであったが、それでもレフィにとっては満足だったようであり、そしてただ態度だけで相手を引き下がらせようとしている相手に怖がるリディアでは無いという強さへの評価も維持させたかったらしい。
そして次に喋る相手はリディアでは無く、同じ魔法を武器として戦うシャルミラへと移されたが、レフィからするとシャルミラでもやはり態度だけ一人前だと威張っているような相手に負けるとは思えなかった様子である。
敗北した時の恥ずかしさを違う状況で例えるように説明をしたレフィであったが、女同士とは言え、やはり相手からの対応は決して優しくは無かった。
「あのぉレフィさん!! そういう変な例えで聞くのやめてくれます!? 今男の子だっている訳なんだし!」
シャルミラも今のレフィの言い方を笑って流してやるなんていう配慮が出来る訳も無く、ただ歩いているだけのこの状況で尚且つ高所や強風等のスカートに危機が迫るような状況が一切無いのにも関わらず、両手で前を強く押さえながらレフィに対して声を荒げてしまう。
太腿と両手に挟まれるミニスカートが妙に可愛く映るかもしれないが、レフィの言い分はシャルミラにとってはマイナスでしか無いのは確かである。
「分かった分かったごめんなさい! だけどね、あの野蛮な魔女っぽい連中に負けるのはそれぐらい恥ずかしい事だって教えたかったの! じゃあ敢えてだけど、バルゴだってシャルの今言ったような姿になったら嬉しいなんて思わないよね? まさかやったぜぇ! なんて思わないよね? ね?」
レフィは目の前で右手を振りながら必死に謝り、何とか自分が最悪嫌われる形になってしまわないかを不安に思いながらも、どうしても今の言い方じゃなければ恥のレベルを説明をする事が出来なかったと主張をした。
それでもシャルミラの怒りが混ざった表情が消えてくれなかった為、逃げる為だったのか、バルゴへと問う形で恥じらいに関して返答を待つが、その内容は戦いに負ける事による恥では無く、服装の隙から生じた恥の話になっているようにしか思えなかった。
「あのなんでぼくに振るのそういう話……。ぼくはやだからね? それに元々はさっきの見張りに負ける事が恥ずかしいっていう話だったのになんか主旨がずれてるからもうやめようね?」
バルゴは獣人とは言え、人間のような明らかに困った表情を浮かべながら、ただ自分は否定的な意見であると伝えるしか出来なかった。
今の聞き方は単純にシャルミラの恥ずかしい姿に関する質問としか捉える事が出来ず、本来問われるべきだった敗北に関する内容等の全ての意味合いに対して否定的な意見を渡す事を確定させた。やはり何を中心に話をするかという部分で派手におかしくなっていた為、もう強制的に停止させるしか出来なかったようだ。何より、シャルミラの恥じらいさえ隠しているような怒りの表情が気まずかったはずだ。
――しかしふとジェイクに関して気付いた事があったようであり――
「所でジェイクってさ、その姿になってから結構経つの? 聞くタイミングずっと狙ってたけど、魔法も手慣れた感じに見えるし、教えてくれるかな?」
魔力の力で浮遊をしているバルゴであったが、ほぼ真後ろを向きながらジェイクと向かい合うような形を作り、ジェイクの姿と時間に関しての質問を渡した。奥へと進む前進に類する行動自体は継続させているが、背後の様子も気配等で上手に感知をしているのだろうか。
「あぁ僕? 一応……えっと、2年ぐらいかな。ついでに言うとこんな姿になって数ヶ月……いや、2ヵ月ぐらいだったかな、それぐらい経ってその時にメルちゃんとも出会ったんだよね」
唐突な質問だったのかもしれないが、それでもジェイクは時間の事を覚えていたようであり、天井に視線を向けて思い出すような素振りを見せ、そして実際に今の姿になってからの年月を答えた。
そして今の姿になってからメルヴィとも初めて出会ったという話も聞かせて見せた。
「へぇその姿になってメルちゃんと……か。でもメルちゃんと出会った話は『ついで』扱いするのは駄目じゃない? 寧ろそこはメインにした方がいいんじゃない?」
レフィからするとどのような話であっても初耳となるが、やはり男女の対面の事となるとレフィもあれこれ妄想もしたくなるのだろうか。
姿が変わってしまう事自体も大きな話になるのは確かかもしれないが、メルヴィとの出会いの方を付け足し気味で喋る所が妙にレフィからすると引っかかったようであり、得意とも言えるやや余計な口出しもしてしまう。レフィとしては本当の意味での意地悪をする訳では無かったのかもしれないが。
「レフィ、また話逸らせようとしてるよ? それはいいから、所でジェイクってその2年ぐらいの中でどんな感じで魔法の練習とか、勉強とかをしてたの?」
バルゴとしてはジェイクの姿の経緯を聞きたかったというのに、レフィのせいでメルヴィとの出会いの話に変わってしまいそうな気がした為、冷静にそして力の抜けたような口調でレフィに注意を渡した。
話題を変えさせないようにした上で、今度は魔法をどのような形で取得をしたのかを聞いてみた。
「特に……勉強らしい勉強はあまりしてないかな。ただ使ってると勝手に頭の中で使い方が思い浮かべれちゃうっていうか勝手に身体が動き出すっていうか……なんか元々この姿になる前だと絶対無理だった事も出来るようになってたんだよね」
ジェイクとしては魔法を使いこなす為に特別勉強に力を入れたという訳では無かったようであり、今の姿になった途端にまるで手足のように魔法を使う事が出来る身体になったようだ。不可能を可能にしてくれたのが現在だとも説明をしていた。
「はっは~ん、それってきっとジェイ君あれだよね? 元々魔力に長けた精霊とかの力を授かって、それで自分で無自覚に魔法のスペシャリストになっちゃってた~的なやつじゃない? 魔力と言えばやっぱり精霊とかだと思うし、そういう力を身体に取り込んで魔法をジャンジャン使えるようになるっていうのって結構ポピュラーだからね~」
一度話の輪から除外されかけたものの、それでもレフィは魔法に関する話題であれば多少相手から話を聞いて情報を取り入れれば、そこから自分の予測や知識を駆使する事で話に深みを入れる事が出来るようである。
元々何も能力を持っていなかった者が、外部からの影響を体内に取り入れる事によって、本人が持っていなかった能力をそのまま自分のものにしてしまうという現象は決して少なくは無い話であるらしく、レフィは実際にそのような目に遭った者と会う事が出来たのだから、それでまた気持ちが高ぶったと言った所だろうか。
「確かジェイ君そんな事言ってた気がするけど、レフィさんって魔法の研究とかそういうのに興味あったりする方なんですか? さっきから凄いハイテンションで喋ってますけど」
メルヴィは既にジェイクからは色々と話を聞いていたはずである。しかしそれよりもやはりレフィの態度であるが、魔法に関わる話を聞くと元々明るめな態度が更にヒートアップするような所になんだか妙な感情を覚え始めていたようでもあった。
レフィはそれを自覚しているのだろうか。
「そりゃメルちゃんさぁ当然じゃんねぇ? わたしだって魔女なんだから魔法の事になったらとことん食らい付きたいって思うものだよ? 折角これから見た事無い何かに遭遇するって訳なんだし、それにジェイ君のその身体の不思議に関してもやっぱり知りたいしさ!」
薄暗い洞窟の中でもレフィの眩しい笑顔はメルヴィへと向けられ、自分も魔法を武器として使う立場である事、そしてそれを象徴する職業でもある事を理由に魔法の話には積極的に触れ合っても許されるかのような言い方で自分の存在を周囲から目立たせようとしていた。
今のレフィからすると洞窟の奥の事もそうだが、ジェイクに関する謎も理解と発見を求めたい気持ちでいっぱいであるようだ。
「あのさぁ多分メルヴィが聞こうとしてたのってハイテンション云々って話だったと思うんだけど……」
バルゴは何だかレフィの捉え方が少しずれていると感じたようである。或いはわざと自分にとって突き刺さるものがある要素を無視しているのかと探ってしまったが、例え自分を悪く言う者がいたとしてもレフィであればそれさえも弾き返してしまうような強さを感じてしまったのは錯覚だったのだろうか。
人間では無いものの、人間に似たような呆れた表情を作る事しか出来なかった。
「バルゴったらさっきからわたしに対する態度が毒舌な気がするよ~? それと、わたしは正真正銘の魔女なんだから魔力どのこのって事になったらそりゃ……」
レフィは自分に向かってややきつい指摘を何度か渡してくるバルゴの横顔を指で突きながら、自分が魔法の話に対して無口でいてはいけない理由を説明するが、どうしても伝えたい気持ちがあったからか、突然そこで元々の性格を封印してしまうかのように静かになった。
――しかし、やや知的さも交えさせたような表情を作りながら……――
「テンション上がって当ったり前っしょ?」
バルゴに対して向けられたレフィの表情は、ギリギリで笑みを残したような表情に力みを加えたような形の中で真面目さを前面に押し出したようなものであり、しかし表情そのものは真面目であったのかもしれないが、言っている事はあくまでも自分の好みをただ曲げたくないというある意味での頑固な精神そのものであった。
やや強調させるかのような言い方も見せつけていたが、どちらにしても魔法に関する話であれば黙っていろという方が厳しいようだ。
「バルゴ、多分レフィさんにそういう話しても効かないわよ? やるだけ無駄だから」
シャルミラの言葉であったが、溜息を洩らしながらバルゴにそれは意味の無い指摘だと渡すしか出来なかったのである。レフィに対しては多少きつめな指摘を渡した所で通じない事の方が多い事をシャルミラは分かっていたようであり、過去の経験も関わっているという事なのだろうか。
「シャルなんで突然そんな冷凍室だと勘違いしちゃうぐらい冷たい態度になっちゃうの!?」
指摘自体は通じなくても、感情自体はレフィに感知されていたようであり、実際に受け取ったレフィはいつものようにわざとらしい悲しげな表情を浮かべながらシャルミラに反論をした。このままでは本当にレフィは態度による冷たさで心だけでは無く、肉体まで氷漬けになり、やがては砕け散ってしまうと青い瞳でシャルミラに伝えようとしているようにも感じられる。
「もう自分で考えたらどうなんですか? それにメルだとまだ慣れてない訳なんですから。慣れてないから都合がいい事もありそうですけどね」
シャルミラはまるでいつもの事であるかのように、これ以上振る舞いを意識させるような注意を渡す事を諦めた。シャルミラであればそれでもレフィの事をまだ自分の知人であり仲間であるという関係を絶つ気は無いと信じたい所であるが、初対面であるメルヴィはまだレフィに心を許している訳では無いと説明をしたが、これは伝わったのだろうか。
「そうだったね。さり気無いフォローをしてくれるのもシャルのいいとこだってわたし知ってるからね?」
言われてからメルヴィと初対面だった事に気付いたのか、それとも折角言われた以上は何かしらのそれらしい返事をすべきだと考えたのか、レフィは返答として確立されたものをシャルミラへと返したものの、余計な褒め言葉でまた相手を呆れさせてしまうのでは無いのだろうか。
「いや、フォローのつもりじゃなかったんですが……」
ただシャルミラは極普通に注意を渡したのと、そして本当に呆れていただけだったのかもしれないが、自分の傍らで常に浮遊する形で隣にいる青と白の毛並みを持つ小型の獣人のバルゴの様子が何だか変わり始めている事に何となく気付いたようだ。
「ちょっと待って! なんかあの物陰に誰か倒れてない? あれって、腕かな?」
突き出た岩の影から何かが見えたと声を上げたバルゴであったが、見えていた何かとは、それは人間のものと思われる腕であった。流石に切断されたものでは無く、倒れている状態で腕だけがバルゴ達の方向から見えていたという状態であるのは確かである。
皆から離れるようにバルゴは浮遊を継続させながら、腕だけが見えている場所へと近づいていく。
――確かに腕であり、うつ伏せで意識を失っている様子であった――
「ちょっとバルゴ! いきなり近づいたら危ないわよ!」
シャルミラは相手が誰なのか詳しく分かっていない状況で一気に距離を縮めようとしてしまったバルゴを止めようと手を伸ばしながら走り出すが、既に倒れている者の傍らに到着していたバルゴの表情には余裕のあるものが見えており、バルゴの視線に映っていたのか、見張りの魔女達と似たような雰囲気の服装の女性であった。
「いや、これに関しては大丈夫だよ! それとこの人って……さっきの見張り達の仲間?」
バルゴは自分の隣にまで走り寄ってきたシャルミラに対して一度、対象となる相手に近寄ったとしても実害は無いと説明をした後に、うつ伏せで倒れている女性の姿、特に服装面から先程の見張りの魔女達と関係のある人物なのかと疑った。
「まあ確かに……服装は魔女……ってちょっと何あれ!?」
シャルミラはうつ伏せで倒れている女性を見下ろしていたが、殆ど上半身の背中にばかり注視していた為、それより奥の事にはあまり意識が向いていなかったのだが、服装が魔女のものと理解した為、視線も上半身から下半身の方へとなぞるように移動をさせたが、下半身の方へと視線が映った途端にとんでもないものを目にしてしまう。
「ん?」
バルゴは何故声を荒げたのかが分からなかったかのように疑問を感じてしまう。まだバルゴは気付かなかったのだろうか。倒れている魔女の何か妙な部分に対して。
「ちょっとシャルったら何悲鳴とちょっと違うタイプの大声出してるの?」
レフィも実際に倒れている者の姿を確かめたい事と、そして距離を取ったままにする訳にもいかないと思ったのか、シャルミラの隣にまで駆け足で寄りながら大きな声を出した理由を問おうとする。
今の大声は確かに恐怖を示すような類のものでは無かったのかもしれないが、聞き方はやはりレフィらしいと言えるのだろうか。
「シャルなんかあったの? 別に襲われそうになった訳じゃないみたいだけど」
リディアも心配になったのか、シャルミラの傍らへと近寄るが、身の危険を感じたから出した声では無いという事はリディアは理解していたようだ。
シャルミラの逃げるような様子も無かった為、そこに危機そのものは存在していないと確信も出来たようでもある。
「いや……なんていうか、なんで脚の方凄い服千切られてんのかなって……思って」
心配される形で寄ってくる皆の事を意識した途端に、シャルミラはやはり今目の前で広がっている事を理由に大きな声を出してしまう事が間違いだったのかと僅かながらに反省をしたが、とりあえずは理由を説明した方が良いかと思い、倒れている女性の足元を指差しながら、疑問という疑問に支配されているかのようにやや小さめな声でリディアに伝えた。
「ん? あらら確かにそうだね。ってかもうパンツまでギリギリ繋がってるって雰囲気だけど、これ奥でなんかあったとしか思えないね」
シャルミラとしては本当はリディアに伝えたつもりだったのだが、実際に倒れている魔女の下半身に目を向けるとそこには、スカートやニーソックスを派手に引き破られた状態が映っており、そして無かったら女性の恥となっていたであろう下着もただ露出しているだけなら兎も角、一部が破けているせいで少し引っ張ればそのまま外れてしまうような危険な状況でもあったようだ。
レフィとしてはやはり洞窟の深部には穏やかでは無いものが潜んでいるとしか考えられず、そして魔女の破けた衣服にばかり注目が集まりそうではあったが、よく見れば脚にも引っ掻かれたような傷が小さいながらも見えていた。
――レフィはしゃがみ込み、意識があるかどうかを確かめる――
「ちょっとそこの魔女さん? 見た感じ重傷とかは負ってないみたいだけど、意識ある? 大丈夫?」
うつ伏せの魔女の頭の近くで片膝でしゃがみ込んだレフィは、肩を叩きながらまだ意識が残っているかどうかを確かめながら声をかけた。
衣服は破られているが、目視では目を疑いたくなるような重度な深い傷自体は見えなかった為、死んでいるとは考えなかったようだ。ただ地べたで眠っているものと勝手に決めつけるかのように、レフィは肩を叩く行為から今度は揺らす方向へと変え、返事が来るまで揺らす事を続けた。
「……あんた……誰よ?」
ゆっくりと重たそうに頭を持ち上げた魔女であったが、何だか睨みつけるような目付きでレフィの存在を目視する。敵対者だと思ったのか、友好的とは言い難い態度の口調で聞いてきた。
「いや、誰よって、心配で声かけたのにいきなりそれなの? あぁやっぱり見張りの連中の仲間だから性格も所詮は似た者同士って事?」
レフィとしては自分達は善意で声をかけたのと同時に、状況次第ではこの者を救助しようとも計画をしていたのかもしれないが、怪しい者を相手にしているとしか思えない口調に違和感を感じ、やはり先程出会った見張りの魔女達の仲間であるから、元々相手を見る目も酷似してしまっているのかと無理矢理自分を納得させていた。
「それより……助けてよ……あたしらの……ボスをさぁ」
青い髪をしたその魔女であったが、呼吸を荒げている辺り、逃げ切ったはいいが体力を失い、そのまま意識を失わせていたのだろうか。
そしてまだこの魔女から見てレフィ達が自分達にとって手を貸してくれる存在なのかどうかの確認もせず、弱々しい口調でありながらも救助を求め始めた。対象は自分では無く、自分を指揮する存在に対してであった。
――魔女の表情は何だか哀しみを映し始め……――
「なんか一方的に助けてって言われてるけど、そもそも後から入ってこようとした人からお金取ろうとして入れないようにしたりしてるくせに自分らがピンチになったら助けてって……随分都合のいい連中だね? さて所でリディアちゃんだったらどうする? 一応リーダーみたいな雰囲気なんだからここはズバって答えちゃって!」
レフィが単独でこの場にいた場合、問答無用で拒否をしていたという事なのだろうか。
溜息も漏らしながら、そして意図的に相手の魔女から目を逸らすと同時に適当に周囲も見回しながら、本当に自分達は何を目的でこの洞窟に踏み込んだのかを見失いそうに感じていたが、それを思い出す為なのか、それともこの場での適切な答えを出す事が出来なかったのか、ここはリディアに頼る事を決めたようである。
「え? な、なんで私がリーダーなんですか?」
リディアとしては自分に対して決定を求められる事よりも、自分が皆の中で一番上にいる存在として勝手に決めつけられていた事の方が衝撃は大きかったようであり、勝手にリーダー扱いされる事に戸惑ってしまうが、それに対する答えはしっかりと用意されていたようである。
「いいから答えちゃってよ! こういう時は真っ直ぐな気持ちが自慢のリディアちゃんだけが頼りなんだから!」
レフィによる答えの求め方は何だか短絡的且つ強引にも聞こえたかもしれないが、後から出された理由としてはリディアの正義感を信用しているからだったようであり、リディアの心こそが皆にとって最高のゴールへと導いてくれる存在であると信じたかったらしい。
目の前にはまだ完全な敵なのかどうかも分からない弱った魔女がいるというのに、呑気な笑顔そのものであった。呑気なのは内面だけであり、表面上の笑顔は眩しさすら感じられた。
「……まあそんなに言うなら、まあでも元々私達ってこの洞窟の奥が目的ですし、じゃああくまでもついでっていう形でこの人のボスに該当する人も助けるっていう形でいいんじゃないんですか? まあこの人達もそこまで本当の盗賊なのかどうかもちょっと怪しいですし、一応は助けてあげるって事でいいんじゃないんですか?」
レフィに対してはここまで期待を持たれている以上はもう引き下がる事は出来ないと実感したのだろうか。
リディアは元々の自分達の目指していた目的と、そしてそこに存在する相手が抱えている問題が重なっている為、ここにいる魔女の気持ちを信用する正に善意そのものでこれから向かう事を確定させるつもりでいるようだ。やはり奥で困っている者がいる事が分かった以上はそれを無視するのも人間として冷たいと思った可能性もある。
「リディアが言うなら、じゃああたしも一応は賛成って事で。本当は助ける義理は無いと思うけど、まあ直接あたしらに危害加えてきた訳じゃないから、リディアに賛成って事でじゃあ確定ね」
シャルミラもリディアに合わせる形でいるらしく、自身の意見としては元々自分達を払い除けた者達の仲間である以上は本来であれば無視しても罰は当たらないと思っていた様子であるが、これはリディアを信じた結果である。
同じ魔法を使う者同士ではあるが、やはりシャルミラとしては目の前で立ち上がる事が出来ていない魔女の事をどうしても好きになる事は出来なかったようだ。見張りの者達の仲間であるだけでここまで印象が悪くなっているとは。
「ぼくも一応それでいいかなって思うね。でも奥に何がいるかぐらいは教えてくれるよね? 教えてよ。奥に何がいるの?」
バルゴとしては皆の意見を元に動く様子であるが、しかしまだ内部の誰が目の前の魔女に今のような状態にさせてしまったのかを聞いていなかった為、まだ喋る体力だけは残っているはずであるこの魔女に聞く事を決めた。
「それは……女を見たら……興奮する奴らで……」
うつ伏せのままで何とか両腕で上体、特に顔を持ち上げたような姿勢で魔女は答えたが、それは恐らくは人間であろう女性に興味を示す集団であるらしいが、詳しい種族の説明はされていない。
「あぁなんか分かってきた気がするね。それってゴブリンかオークって事? ってか入る前にその辺の確認とか出来なかったの?」
レフィは女性に対して興奮するという説明だけで何となく見当が付いたのだろうか、思い付く野蛮な種族の候補を挙げたが、気になったのは洞窟内に潜む魔物等の存在を事前に調査しなかったのかという点であったが、それはレフィ達も今現在知らない情報となっていた為、あまり人の事は言えたものでは無かったのかもしれない。
――洞窟の奥で鋭利な武器が引かれていたが……――
「待って! 誰かいるよ! ちょっとごめんね!」
ジェイクは暗闇の中でも状況を目視する事が出来たのだろうか、誰も気付かない中で、自分だけが通路の奥から武器で狙われている事を把握し、皆の盾になるように皆の前に向かって駆け出し、そして力強く立ち止まるなり、右手を突き出し、炎の球を生成させた。
「ちょっ……ジェイ君!?」
メルヴィのその声は、ジェイクの突然の危険を察知した声と、それと同時に走り出した行為に対して驚いた様子そのものだったのかもしれない。ジェイクはそれをきっと耳にはしていたかもしれないが、それに対して返事をする余裕は無かったのかもしれない。
――ジェイクの手から火球が勢い良く発射された!――
レフィが登場するとどうしても台詞の方にちょっとエッチなものが漂うようになりますが、これでもほんのりエッチなのはいいみたいだけど18禁は絶対に妨害して見せるのが彼女なので、ちょっとピンチなシーンでも何とかしてくれると思いますw




