第11節 《血に飢えた盗賊の蹂躙 そして、黒の鳥》
お久しぶりです。今回はまた久々に荒々しい戦闘シーンとなります。メインヒロインであるリディアと、準ヒロインであるメルヴィのやり取りは何だか描いてて楽しいですが、戦闘の時はそれぞれが違った戦闘スタイルを見せます。しかしちゃんと次が続くのかどうか……。
空の旅は終わりを告げようとしていた
戦いを生業とする者達であれば、危険なトラブルを想像しただろう
平穏な空の旅は冗長だが、必ずしも凶悪な怪物に襲われるのもまたワンパターン
しかし、空の旅そのものは冗長でも、終わりの時に人を震えさせる事態が生まれている事もある
いつの時代でも、ならず者の存在は、頭を悩ませてくれるのだ
「え? 盗賊団、ですか?」
それはミケランジェロから聞かされた言葉である。
茶色の直綴を纏った、緑の皮膚の亜人から盗賊団の話を聞かされた為、リディアはもう眠気で頭をぼんやりさせている余裕は無かったと言えるだろう。
「町にいる仲間から連絡が届いた。研究所を留守にしてる間に盗賊達に攻められて、博士が捕らわれてるから注意深く来てくれって、さっき聞かされた所だ」
飛空艇の床を指差しながら、ミケランジェロは事の深刻さを説明する。床を指差したのは、今空を飛行している飛空艇の下に町がある事を想定しての事だったのだろう。同時に、それはこれからリディアに対し、次の目的地の場所を教える意味も見せていただろう。
「その感じだと、えっと、その連絡を直接した、その人は今の状況ではまだ捕らえられてないって事でいいんでしょうか?」
リディアは最初にその連絡を入れてきた者の事が気になったようである。連絡を入れてきたという事は、それは自身が捕らわれの身では無い事の証拠だと信じていた為、本当にその人物が無事なのかどうかを聞かずにはいられなかった。
「そうだ。だけど博士が捕らえられてる以上は無暗に反撃も出来ないから、こっちも何も考えずに戦うという事は許されないぞ?」
最初の答え方を見ると、連絡してきた者は無事であるようだ。
だが、その後に続く言葉を出している最中のミケランジェロの表情は真剣だった。盗賊団の考えは一般人の思考の斜め上を行く事が多い以上は、適当な戦闘では解決出来ないという事を予めリディアへと伝える。
「流石は盗賊、ですね。卑怯な事しかしないなんて」
当然ではあるが、リディアは盗賊団に対しては優しい感情を渡す事はしなかった。勿論、行為に対する同情をするつもりも無かった。一応リディアは道中で何度か、所属は異なるとは思われるが、それでも盗賊団という団体に襲われた記憶があった為、そろそろ怒りが表に出てきそうになったのかもしれない。
「お前の持つ盗賊の価値観の説明はどうでもいいけど、とりあえず、問題はどうやって博士を助けるか、でしょうかね?」
ミケランジェロの背後から、濃い緑のコートを着た男であるガイウスが現れる。きっとガイウスも盗賊団に対しては良い思い出は無いと思われるが、やはり今考えるべきなのは、救出の手段である。与えられている時間も非常に少ないはずだ。
「襲撃した理由も気になる所だが、まずは救出の手段を考えるのが先だな」
やはり、リディアの意見を無視しようとしたガイウスの発言に対しては何も言わないという方向を取ったようだ。
ミケランジェロも今大切な事は、言葉として出てきた通り、救出の手段であると考えたのである。
「ミケランジェロよ、また大変な仕事が来てしまったみたいだが、吾輩も良かったら助っ人するぞ?」
文字通りの厄介な事態に直面していたミケランジェロの横に、この飛空艇を貸してくれた者が歩み寄ってくる。灰色の皮膚を持った亜人であるエンドラルは、仲間がこれから戦いに向かうのかと思うと、助けずにはいられなかったようだ。
しかし、薄紅色の開襟シャツを纏っただけのこの男に、戦うだけの能力はあるのだろうか。
「いや、今回はオレの方で解決させるつもりだ。エンドラルも暇人じゃないだろ?」
ミケランジェロからは拒否の意見が出されたが、決して服装で決めた事では無いだろう。仲間である以上は、そのラフな服装の裏に隠された戦闘能力を理解しているはずであるし、そしてこの言い方は、あくまでも自分達の面倒事に巻き込みたくないという配慮だったのだろう。
わざわざ飛空艇まで借りているのに、更に戦いの手伝いまでをさせる気にはならなかったようだ。
「実はその通りなんだよな。仲間のピンチに手助けに行けないのは残念だが、実を言うとその通りだ。1つ仕事が出来たからな」
エンドラルには今自分がしなければならない事が1つあったのだが、それを見破っていたミケランジェロに関心してしまったらしい。
自分と仲間、どちらを優先にすべきかという悩ましい選択肢を迫られそうになったが、ミケランジェロの方からどちらを選ぶべきかを決定されたのである。
「ま、エンドラルさんはおれらの事は心配しなくていいっすよ。これだけメンバーいりゃ戦ってまず負けるって事は無いっしょ」
ズボンのポケットに手を入れた状態で、ガイウスは自分達が無力では無い事を伝えた。確かに今は戦闘に参加出来ると確定している者が3人は存在するのだから、盗賊団ぐらいであれば対処は出来るだろう。
ミケランジェロとガイウス、そしてリディアは戦闘能力を持っている事が確定しているが、今回初めて出会ったジェイクとメルヴィはまだ分からない。それでも、ガイウスにとっては3人いればそれで問題は無かったようである。
「それだけ心強ければこっちも自分の仕事に専念出来るってもんだ。それより、フィーネ、そろそろ着陸に入るって言ってたよな?」
エンドラルは僅かながらミケランジェロ達一同を心配していたようである。だが、ガイウスの自信に満ちた言葉を受け取った事により、自分が今すべき事に集中が出来るようになったからか、元々軽そうな表情に笑みがうっすらと浮かばれる。
陸地へと近づいてきた事を悟ったからか、操縦桿を握っている緑の髪を持った少女であるフィーネに確認を取る。
「はい! 後数分で降りる準備が出来ると思います!」
動きの全てを把握しているフィーネであれば、どれだけの時間を必要とするのかを答えるのは容易い。陸に近付くまでの時間は短い事をエンドラルを始めとした他の者達に声を張り上げて伝える。
「あ、そうだ、所でミケランジェロさん! 今仲間から連絡って言ってたみたいですけど、町の詳しい状況とかは把握出来てるんですか?」
リディアもこれから自分の命を失う可能性のある戦いに出る為の心の準備をしていたが、いきなり気付いたのか、これから向かう町が今盗賊団達にどのようにして襲撃されているのかをミケランジェロへと聞こうとする。
既にぶつかり合い等が発生しているのかとかを聞きたかったのだろう。
「いや、ただ襲撃されて、博士が捕らわれてるっていう情報しか貰ってない。具体的な町の状況まではまだ聞いてないな」
リディアとしては、これからの潜入の為の情報として頭に入れておきたかったのかもしれないが、残念ながらそれは叶わなかったようだ。
ミケランジェロの受け取っている情報は、あくまでも連絡を入れてきた本人の安否と、そしてその本人の仲間である博士が盗賊団の手によって拘束されているというものだけである。それ以上は無かったようだ。
「今は……連絡は取れるんですか?」
あまり的外れな質問をしてはミケランジェロを苛々させてしまうと感じてしまったからか、リディアのこの質問はどこか弱さが見えていた。折角これからの戦いの為の準備をする為に聞いているのに、どれもこれも狙い通りの情報を得られないとなると、リディアもここではあまり質問はすべきでは無いのかと、自分を抑え込んでしまう。
「悪いが、今は繋がらない状態だ。もしかしたら連絡の為に喋る声すら聞かれたら不味いんだと思うから、しつこく接続を続けるのは危険かもしれないな」
リディアの多少気まずそうな表情を悟ったのか、ミケランジェロは最初にリディアの期待を裏切った事に対する遠回しな謝罪を混ぜ込んだ上で、やはり今回も叶わず願いであった事を説明した。
連絡を取り合う手段はやはり言葉である為、盗賊団達から逃げているであろうミケランジェロの仲間の声が連中に聞かれてしまっては大変である。
「そんじゃ、町がどうなってるかはこっちでちょっとずつ調べながら行くしか無いって事でしょうかね?」
まだ現場を直接見ていないから、想像でしか状況を見る事が出来ないのだが、ガイウスの表情は何だか余裕な色を見せていた。確かに町の現状は深刻ではあるが、これから向かうというのに、身を震わせていてはいざ戦闘になったとしても自分の力を発揮する事は出来ないだろう。
「そうするしか無いな。下手に盗賊団を刺激したら最悪な事態になる可能性も無視出来ないからな」
力任せに盗賊達を蹴散らす作戦は避けるべきであると、ミケランジェロも考えていたようだ。目の前にいる1人の賊を倒したとしても、他の場所にいる別の者が町人に手を出してしまっては無意味である。
「そうだ、所で……ジェイク君とメルヴィって、なんか戦うその、能力的なものって、あったっけ?」
これから向かうのは町への訪問もそうだが、それよりも、最初にするのは恐らくは戦いである。その時にジェイクとメルヴィに戦うだけの力を出せるのかどうか、リディアはここで確認せずにはいられなかった。
だが、ガイウスの言い方を見ると、またリディアはタイミングを逃していたようである。
「お前はいっつも肝心なとこで寝てるから大事なとこ聞き逃したりすんじゃねえのか?」
背後からリディアの後頭部を指で弾きながら、相変わらずな今にも笑い出しそうな表情でガイウスは伝える。どうやら、リディアが休息を取っている最中に2人の戦闘能力の説明がされていたようである。
「え? ちょっ……ちょっと何ガイウスったら……」
後頭部に走る痛みのせいで、リディアの表情が多少歪んでいる。紫の髪はガイウスの一撃を吸収しきれていなかったようだ。
そして、リディアは自分が眠っている最中に説明をされていたという事実をまだ理解していないようでもある。
「なんでお前の為にまたいちいち説明し直す必要あんだよ?」
リディアに対して物を言う時は決まってガイウスの表情はにやけている。
本来であれば、何か説明がある時は全員が揃っていなければいけないのだが、相手がリディアであるからか、何かからかおうという企みが心の奥に潜んでいたのかもしれない。真の意味で叱責してやろうという形には見えない。
「ガイウスさんいいですよ? それとリディア、あたしはまだ使い慣れてないけど、ガントレットで戦うから、無力って訳じゃないわよ?」
メルヴィはガイウスの拒否を否定してくれた。ガイウスへ見せた丁寧な口調から変わって、リディアに視線を向けた際には同い年に対して相応しい上下関係をまるで見せない口調へと変えていた。
今は装着はしておらず、すらりと伸びた細い腕を覆っているのは、指先に穴の開いた黒いアームカバーである。戦闘の際にきっと見せてくれるのだろう。
「因みに僕は雰囲気で大体分かると思うけど、炎の魔術で戦うよ!」
ジェイクはそのフードを被った外見に合わせるかのような能力を持っていたようである。フードの闇から覗く青い光の不気味さとは対照的に、口調はメルヴィを安心させるには充分な柔らかさがあった。
「あっさり説明済んだんだったら別にガイウスに責められる必要無いじゃん。所で、メルヴィその、ガントレットって事は……肉弾戦って事?」
リディア自身も少女という性別と体躯でありながら、肉弾戦は得意とするが、メルヴィも自分と同じようなスキルを所持している事に対し、驚きを隠せなかったようだ。
その場では、メルヴィの戦っている姿を想像は出来なかったらしい。
「いや、そこまで大胆な武器じゃないんだけど、護身用として持ってるってだけ!」
メルヴィの発言からすると、そこまで相手に過激に向かって、重たい一撃を連発させるという訳では無いらしい。あくまでも、本人の発言の通り、自分を護る為に所持しているだけであるようだ。
もしかすると、それだけの武器があるなら先日の列車内で盗賊団に襲われた時に反撃出来なかったのかと、リディアはその場で問い詰めたくなっていたかもしれないが、その余裕を与える間も無く、ミケランジェロの言葉が入る。勿論、重要な話である。
「戦闘技術の話の最中悪いが、仲間の方から今新しい情報が来た。盗賊達が戦闘状態に入ったから、あいつも抗戦してる所だと。町に入ったら手当たり次第賊の奴らを殲滅してくれだと」
ミケランジェロはリディアとメルヴィが一体何の話をしていたのかは分かっていたようだ。その上で、間に入る事を小さく謝罪しながら、もうゆっくりはしていられない事を伝えてきた。
どうやら盗賊団の者達が武器を持って暴れ出したから、話し合いでの解決は無理になったようだ。戦う相手は、人間の姿をした理性の無い獣だと思った方が良いだろう。
「あ、もう連絡取れたんですか? それより……もう話し合いとかは無理な状況になっちゃったんですね」
リディアは話す相手をミケランジェロへと手早く切り替え、まずは単純に連絡が繋がった事を確認する。勿論それはもう確かめるまでの話では無かったと思われるが、言葉で平和に解決へと導く事が出来なくなった事に関しては、どこか諦めの感情も覗かせていた。
戦う時は自分の両腕を直接使うのは言うまでも無いが、その準備を腕に注ぎ込もうとしていたのか、両方の腕を胸の前に持ち上げて拳を握ったり開いたりを何度か繰り返す。
「そういう事だ。そろそろ離陸に入るから、降りる準備はしておけよ? そして、血生臭い光景を見る準備と覚悟も、だぞ?」
ミケランジェロはリディアを戦場へと連れて行く事に一切の戸惑いも心配も見せていなかったが、それは今までの旅で一緒に戦ってきた経験から得られた自信であると思われる。
しかし、それでも周囲に血が飛び散るような光景はあまりリディアには見てもらいたくないという内心もあったのかもしれない。
「分かりました!」
リディアはミケランジェロの内心を読み取っていた訳では無いが、それでも今の状況から逃げる様子を見せなかった。戦うのは自分の為では無く、弱い立場の者達の為であるから、目を背けたくなるような光景が広がったとしても、そこから逃げるつもりは無いはずだ。
笑みの中に混ざった強さの見えた表情をリディアは作って見せる。
ライムの町から離れた場所へ着陸した飛空艇から、彼らは降りて行くが、最後に飛空艇を出ようとしたリディアの背後から声が届けられる。爽やかな声色だったが、当然その声は飛空艇の主であるエンドラルのものでは無い。
「あ、ごめんなさい! リディアさん! 良かったらこれ持ってってください!」
声をかけられた以上は、リディアだって無視をする訳にはいかないだろう。
ショートの緑の髪を僅かに揺らしながら走り寄ってきたフィーネから手渡されたのは、白いリングケースであった。振り向くのとほぼ同じタイミングで手渡された。
「え? あ、はい? 私? ってこれって、何なんでしょうか?」
飛空艇から降りる直前になって突然渡された為、理由も理解出来ず、返答にも困る所であったが、とりあえずそのケースの中を開く事にした。蝶番で連結された部分に合わせて開くと、その中には一対のピアスが入っていた。金色の金具で作られた本体に、紅の宝石がはめ込まれている。
「これって、ピアス?」
女の子のアクセサリーとして見た場合としては、リディアの表情には特に喜びを感じさせるようなものが見えず、寧ろ、どうしてこれを手渡してきたのかを疑問に感じているかのような表情しか作っていなかった。
ピアスの造形をさっと見回した後に、目の前に立っているフィーネへと視線を合わせた。
「はい、そうです! なんでも装着してるだけで毒に侵されなくなる不思議な魔力が籠った装飾品なんです」
ただの装飾品では無かったようである。危険な生物達の中には毒を武器として扱う者もいる為、それを防ぐ事が出来るのなら、持っていても損は無いはずである。フィーネは今日知り合ったばかりのリディアに、旅の助けになるかとピアスを手渡してくれたのである。
「えっと、その……なんで、私なんかにこれを渡そうと思ったんですか?」
あまり嬉しいとは思えなかったのだろうか。リディアは自分が受け取るべき立場であるのかどうかをフィーネに尋ねる。
「受け取るの……もしかして嫌でしたか?」
もしかするとリディアは好き嫌いを理由に質問をしてきた訳では無かったかもしれない。
だが、フィーネからすると、もしかするとピアスを拒否されてしまっているのかと、折角の好意だったのにそれを受け取って貰えず、残念に感じてしまう。気持ちが伝わらず、徐々に眼鏡の裏にある赤い瞳を弱々しく細め始める。
「いや、ま、まあなんて言うか……私ピアスは付けないので、持っててもしょうがないと思うんですよね。なんかピアスって不良っぽいイメージがあるので好きじゃないんですよ」
嫌いという訳では無かったようだが、自分自身で装着しようとは考えていなかったようである。
リディアの持っている不良のイメージを頭で思い出しながら伝える過程で、時折斜め上に視線を飛ばしたり、指で空間をなぞるような動きを見せたりしているが、リディアにとってはピアスは宜しくない行動を見せてくる人間が装着する物だと意識しているようだ。
そして、やはり結局はピアスを嫌っているようである。
「リディアさんは付けなくても、他の方でしたら欲しがるかもしれませんよね? 出来れば、受け取って頂きたいんですよ。何かの役に立つと思いますので」
そのピアスは決してリディアだけを理由で渡した訳では無かったようだ。仲間達全員の助けになる事を願った上での譲渡だったらしく、毒を防ぐ力が皆の役に立つと疑わなかったのだ。
「じゃ、じゃあそこまで言うんでしたら、受け取らせて頂きます! まあ私は付けないですけど、信じられる人に渡しますね!」
言い方を見ると、どこか妥協してしょうがなく受け取っているようにも見えてしまう。それでも、持前の明るさや表情の良さを駆使しているからか、相手に対しては今の時点ではそれほど不快感を与えてはいないようだった。
自分自身は装着しないという事を念押しした後に、ピアスの入ったケースを腰に付けているポーチにしまい込む。
「それでも構いません。お仲間さんの方々のお役に立てるならそれ以上求める事はありませんから」
本当はリディア本人に装着してほしかったのだろうか。だけど本人は理由が理由である関係で付けたがらなかった為、それをフィーネは少しだけ残念に感じていたらしい。それでも気持ちを押し殺しながら、他の者達の助けになる事を願いながらこの言葉を口に出した。
しかし、このやり取りに気付いていないリディアの仲間の内の1人が、またダラダラしているのかと勘違いし、リディアに向かって声を張り上げた。
「リディア! 何やってんだ? 早く来い!」
ミケランジェロの声である。どういうやり取りをしているのかは、彼らには理解する事が出来ない。
リディアも降りる必要があったのだから、ここは強引に呼び出して、さっさと降りてもらわなければミケランジェロも困るのである。
「あ! ご、ごごごめんなさい! えっと、フィーネさんからえっと、渡される物があるって言うかなんていうか、えっと……とっと、その、じゃ、じゃあこれ貰いますね!」
リディアはこの状況で、少なくとも2人をいっぺんに相手にしている為、両者に同じだけの気配りをするという関係でどうしても話し方に乱れが生じてしまうようである。遠方から来るように言われたが、まずはその方向へ今何をしていたのかを説明する。
しかし、気持ちが焦っているからか、今の場をお世辞にも丁寧とは言えない形で説明する事になってしまい、言葉は下手でもきっと相手には伝わってくれているだろうと必死で願いながら、しまい込んでいたケースをポーチから再び取り出し、そしてそれ見せるように持ち上げた後に、改めてそれを頂く事を決定する。
「あたしの方こそごめんなさい! 待たせたら悪いですから、では、それ宜しくお願いしますね!」
フィーネも突然呼び止めて、結果的にリディアに良くない結果を招かせてしまったのだから、軽く頭を下げるなり、まるでそのピアスが自分の子供であるかのように、リディアへと託した。フィーネ自身もそのピアスを凄く大切にしていたのだろうか。
「どうもです! では、行きますね! フィーネさんも、そしてエンドラルさんもお元気で!」
やっとリディアは飛空艇から出る事が出来るようである。一度取り出していたピアスの入ったケースも再度ポーチへとしまい込み、そして少女2人のやり取りを半ば黙って見守っていたエンドラルにも軽く会釈をし、搭乗口へと駆け足で向かっていく。
「おう! やられるんじゃないぞ?」
リディアの纏っている水色のワイシャツを背後から見ながら、エンドラルは無事に切り抜けられるように願いながら、言った。
1日足らずの時間ではあったが、ミケランジェロの仲間を見る事が出来たのだから、きっと満足は出来ていた事だろう。そして、次に待っている仕事の覚悟を決めたかのように、真っ直ぐとフィーネに視線を向ける。
「それじゃ、フィーネ。次はファル渓谷に向かってもらえるか?」
エンドラルにはエンドラルの任務がある。どうやらその渓谷で待ち構えているようだ。
右手の拳で、左手の開いた手のひらに拳をぶつけると同時に腕を包み込むような電撃が走った。どうやら、エンドラルは電撃を武器に扱う亜人であるようだが、リディア達は今回はその電撃の勇ましさを見る事は出来ない。
――*** ***――
「ふん!!」
「おらよっと!!」
――2人の男性が武器を振るった際に出た気合の声である――
最初にミケランジェロの装備した紅蓮の大剣が、植物の怪物を一撃で捻じ伏せる。
その次に、ガイウスの白銀の刀が同じ姿をした植物の怪物の頭部を刎ね飛ばす。
「グギャアアァアア……」
巨大な植物の茎が人間の胴体を形作っていた怪物達は、人間で言う頭部に該当する花弁を斬られ、或いはその花弁そのものを胴体から切断された事により、気味の悪い奇声を発しながら崩れ落ちていく。
「こいつら、明らかに町の方から来てましたよね?」
既に死体と化した植物の怪物は、丁度これから自分達が一直線に向かおうとしていたライムの町の方向から攻めてきていた。
ガイウスは恐らくは皆理解していると少しだけ悟りながらも、敢えてそれをミケランジェロへと聞こうとする。
「襲撃されてるという話が事実だったら、それは正しい事になるな」
町にいた仲間から聞かされていた情報をミケランジェロは当然、忘れてはいなかった。本当は町が無事である事を祈りたがっていた可能性があるが、怪物がやってきた以上、もうあの町の平和は脅かされていると認識しなければいけない。
「町の人達が犠牲にとかなってなければいいんだけど、どうかな」
たった今武器を抜いたのは、ミケランジェロとガイウスである。後ろで見ていたリディアは、今襲ってきた怪物の仲間が町民を殺していなければと願った言葉を口に出したが、それに対して反応を見せたのはガイウスだった。
「だからおれらが行くんだろうが。呑気に言ってんじゃねえよ」
リディアの意見を素直に聞き入れようとは思わないのだろうか。ガイウスの嫌味の交じった返事は相変わらずであったが、リディアは決して返答をしてもらう相手をガイウスに限定させていた訳では無かっただろう。
背後に向かって多少首を捩じり、残りは視線を右へと動かす事によって、リディアと目を合わせる。
「別に私呑気に言って――」
「2人とも、久々に激戦になるから、そんな格好だと力が出ないだろ? 戦闘服にチェンジさせた方がいいと思うぞ?」
リディアはガイウスに向かって自分は呑気な気分では無かった事を伝えようとしたようだが、ミケランジェロから戦いに備えるようにと、指示を受ける。ミケランジェロは元々亜人であるからか、その直綴の姿のままでも充分に破壊力を出す事が出来るようである。
「そうした方がいいでしょうねぇ。さっさとそうしとかないと次何出てくるか分からんだし」
まだ敵を1体黙らせただけであるから、疲れてはいない事だろう。ガイウスは余裕のある表情で、ミケランジェロの指示に賛成する。
「確かにそうですね。今度は町規模での戦いですからね」
リディアも最近は規模の大きな戦いには参戦していなかったのだろう。自分が本気の戦闘の時に着用しているあの黒の服を思い浮かべるが、最近は小さな戦いしか無かった為、今回は戦闘服の出番なのかと、心の中で気持ちを強く保とうとする。
「チェンジ……? あれ? ガイウスさん姿が変わったりするんでしょうか? あ、リディアも、するの?」
ガイウスとリディアからすれば聞き飽きている可能性すらあるチェンジという言葉も、新しくメンバーに入って間も無いメルヴィからすれば、それが一体何を意味するのかが気になる所だった。
しかし、聞き方や態度に関しては、明らかに差が見受けられる。
「ま、おれらはちょい特殊でな。戦闘モードってのに変化出来んだぜ? まあただ戦闘服を妙な力で瞬時に纏うっつうだけだけどな」
元々は戦う事を生業にしているような人間である。ガイウスも自分の戦闘能力を上げる為には、特殊な力に頼るべきである事はよく理解しているつもりなのだろう。
ただ、戦闘服を纏うのは兎も角、それを特殊能力を使い、一瞬で纏うという部分では、相手に何かしらの特異性を感じさせると言える。
「私もそうなんだけど、ってか……なんで私だけついで気味に聞くの……?」
リディアも戦う時は戦闘服へとチェンジする事が出来るが、ガイウスに対する言い方と比較すると、リディアへの聞き方には熱意や興味が感じられなかった為、それを不安に感じたようである。僅かに細い眉を顰めてしまう。
「そんな細かい事に拘らないで。ただ変身出来るのかどうか確認したかっただけ」
メルヴィはリディアのテンションには付き合ってはくれなかった。ただ、年齢的にはガイウスの方が年上であるから、ガイウスに気持ちを集中させていただけだったようだ。
それに、メルヴィは聞きたかった事を実際に聞く事が出来たのだから、それで良かったと思われる。
「また来たぞ。さてと、2人とも早く済ませて、戦える状態になってくれ」
ミケランジェロの警告が全員の耳に届けられる。
先程死へと至らしめた植物の怪物から流れる緑の血から立ち上がる臭気を嗅ぎつけたのか、町へと続く一本道の端にある草むらから漆黒の毛を持った狼のような外見の獣が3匹、やってくる。
これも町を襲っている盗賊達が飼い馴らしている獣なのだろうか。まるで獲物を見つけたかのように、3匹はリディア達を囲う。
「さっさと変身しちまうか」
肉食獣が相手であれば、ガイウスものんびりはしていられない。手を抜けば自分が相手の胃袋の中へと納まってしまうのだから。
「そうだね。すぐ終わるし」
リディアも相手の胃袋の中に納まってしまうのだけは避けたいはずである。変身自体は時間を使わないから、囲まれてしまった状況でも不利になるという事は無いようである。
――ガイウスは右手を顔の前で握り締め、一瞬念じるかのように目を閉じ……――
――リディアは右腕を縦に、左腕を横に、両腕を交差させ……――
2人は一瞬だけ白い光に包まれると、それぞれの姿へと変化を遂げていた。
ガイウスは紫の装束の姿へと変化する。顔は銀のフェイスガード、そして他の部分もマスクで覆い尽し、相手から表情を読み取られる事の無い装備を施されている。その姿は、まさに忍者とも言えるものである。
リディアは黒の儀礼服の姿に変わる。黒の服は袖の無い形状で、腹部と胸元が開いており、白いインナーが覗かれている。黒いハットを被り、鼻から下を黒いマスクで覆い隠しているが、青い瞳は覗かれており、表情を完全に隠している訳では無い。
――狼の1匹がガイウスへと飛びかかるが……――
「邪魔!」
装束を纏ったガイウスの顔面へ飛びかかろうとした狼の牙を目掛けて、ガイウスの刀が一振りにされる。しかし、牙の強度がガイウスの刀と同等のレベルだったからか、狼は身体を弾かれるだけで済んでしまう。飛びかかりには失敗するが、数歩後退し、体勢を取り直す。
「とりあえず、こいつらはここで黙ってもらおうよ!」
リディアは手袋の上で黄色に光り輝く小さな球体を魔力で作り出す。確実に相手の息の根を止めるより、この場で黙って貰った方が時間の短縮になると考えたのだろう。
――目を閉じ、敵の位置を思い浮かべ、右手を空へと伸ばす――
「はぁっ!!」
3匹いた狼の足元から電撃が現れ、運動能力を奪い取る。
そのまま身体を痙攣させた狼達はその場で倒れたまま、動かなくなる。
「とりあえず、こいつらにはここで黙っててもらおうよ! 私達は急いだ方がいいよね?」
伸ばしていた腕を引っ込めながら、リディアは町へと向かう事を最優先にすべきだと皆に伝えた。マスクで表情が隠れていても、瞳には充分に真剣な色が込められている。
「まずは町の連中の安否を優先にするってか。お前にしては頭がキレてんじゃねえかよ」
ガイウスもリディアの提案は聞いていたが、今襲い掛かってきた敵達が動かなくなったからか、刀を下ろし、どこか油断を見せたような気持ちになっているようでもある。
とは言え、それは目の前の敵が行動不能になっているからであって、決して戦いに対して気を緩めているという訳では無いだろう。
「じゃあまずは町に向かうぞ。所で、そっちの2人も無理はしない程度に援護はしてくれよな?」
ミケランジェロは真っ直ぐと、道の上でこれから向かう町へ視線を向けるが、ガイウスやリディアのように姿を変えて戦闘能力を上昇させる手段を持たないジェイクとメルヴィに対し、フォロー程度の戦闘はするようにと言った。
「はい!」
両腕にそれぞれ装着したガントレットで拳を作りながら、メルヴィは短くも、覇気のある声で返事をする。
「任せてよ!」
同じく、ジェイクも拳を握り締めながら答えた。メルヴィとは違い、ガントレットの類は装備はしていないが、ジェイクは手から炎を生み出す事が出来るのだ。
町へと辿り付くその直前で、ミケランジェロは突然立ち止まり、仲間達に町での作戦を手短に説明した。思えば、町でどのように盗賊団達と戦うのかを話し合っていなかったから、時間が無くても、その話は纏めておかなければいけないだろう。
「潜入の事だが、オレは真っ先に博士の家に向かう。場所はオレが一番理解してるから。皆は出来る範囲で町の人達の救助も兼ねた上で、盗賊団と奴らの飼い馴らしてる怪物の駆除と殲滅だ。頼むぞ」
時間的にはもう余裕が無い。
全員の意見を持ち寄りながら時間を使うくらいなら、多少は身勝手だと思われても、自分が最も責任感のある任務を受ける事を条件に自分が取る行動を決定してしまった方が良いとミケランジェロは思ったのだろう。
「了解っす。もういちいちああだこうだって言ってる余裕無いもんな」
ガイウスは時間に余裕が無い事を理解しているのだから、ミケランジェロに反論する事はしなかった。寧ろ、ミケランジェロの作戦には納得の意思を見せているようでもあった。マスクの裏で、ミケランジェロの戦闘力を認めていたから、反論はしないという選択肢を選んだのだろう。
「オレはもう行く。ガイウス、皆の事は任せたぞ!」
ミケランジェロは真っ直ぐと町の中心へと目を向けたが、町を徘徊していた盗賊団らしき人間が自分の存在に気付いたらしく、斧を持ちながらこちらへと接近している事に気付く。
その者達を相手にするが如く、そのまま4人の仲間達を置いて走り去る。目的地へと向かうのと同時に、町を荒らしている者達に制裁を加えるべく、武器である大剣を再び握り締める。
「あぁ行っちゃったぜ。じゃ、おれらも行くぞ。とりあえず、二手に分かれるか?」
どうやらこの場を仕切るのがガイウスの役目であるようだ。今ここにいるのは4人である。4人で固まって行動をしていては、別々の箇所で何か問題が発生していたとしても発見を遅れてしまうと考えたのか、2人ずつで行動を取る事を提案する。
2人であれば、片方が負傷したとしても、もう片方が助ける事が出来るだろう。
「じゃもし分かれるとしたら、僕はメルちゃんと一緒でいいよね?」
フードを被った人間とは言い難い外見の少年こと、ジェイクは今まで一緒に旅をしてきたであろう少女とのペアを要求する。例え盗賊団と戦う事になっても、やはり自分自身の手で大事な女の子を守りたいと意識したのだろう。
「まあそれでもいいけど、その代わり、メルヴィの事絶対守れよ? 女を護るのが男の仕事だからな」
ガイウスは決して否定はしなかった。寧ろ、いつも一緒にいた者同士で戦う方が信用度も安定すると思われるから、尚更否定する理由は無かった。何かメルヴィに危機が走った時に、本気で守ろうと奮闘出来るのは、確実にジェイクであると思われるから。
「大丈夫! 僕もやる時はやるから!」
外見や言動はまだまだ未成年を思わせる雰囲気はあるが、炎を武器に戦えるという話は事実だろう。大事な人を守るという意志が強ければ、きっと炎は心強い武器として輝いてくれるはずである。
「じゃ、私はガイウスと一緒って事で、いいんだよね?」
二手に分かれると言っていたのだから、リディアは実質的にガイウスと組む事になるだろう。黒の儀礼服と、未成年の幼い容姿の半分を隠したマスクの姿でも、喋り方には威圧感や圧迫感は感じられず、心の奥に隠れている寂しさを思わせるような態度で、ガイウスを見つめた。
「心配はすんなよ? お前だけぼっちにはさせねぇからよ」
リディアと異なり、目元まで完全にマスクで覆い尽しているガイウスの態度もいつもと変わらなかった。リディアに嫌味を混ぜたような返事を飛ばし、また1つ余計なやり取りをさせるような環境を作る。
「別にそういう意味で聞いた訳じゃな、ってちょっと待って!!」
リディアだって、ガイウス達3人と、リディア自身1人だけになってしまうのでは無いかと考えてしまった訳では無いはずである。だが、ガイウスの言い方には不満を感じたのは事実である。
しかし、視界の端でどうしても放置する事が出来ない事態が発生しており、ガイウスの対応を待つ事無くその場から駆け出した。
――植物の怪物が男性に覆い被さっており……――
「うあ……あぁあああ!!!」
如何にも戦う力を何も持っていないであろう中年の男性を押し倒しているのは植物の怪物である。怪物は、花びらの頭部を男性の顔面へと接近させ、そのまま食してしまおうとしていたようだが、植物の怪物の背後をリディアの刃が斬り裂いた。
「こいつっ!!」
魔力で作り上げた刃で、リディアは町人を襲う怪物を斬り付けた。
一撃ではダメージが足りなかったと感じたのか、再度斬り付けると、そのまま怪物は町人から剥がれるように町人の横へと転がりながら倒れ込む。
「何とか倒したかな? あ、あの、大丈夫……って、大丈夫じゃないかも……」
怪物を黙らせたリディアだが、視線を男性の方に向け、心配をするも、男性の顔を凝視すると同時にもう既に助からない事を察知してしまう。
――顔面に貫かれたような穴が開いており……――
「普通はこんな怪物に襲われたら悲惨な最期になっちまうもんだぜ?」
たった今殺されてしまった男性を目の前にして呆然とするリディアの隣に、ガイウスの姿が現れる。リディアの行動は既に把握していたらしく、何も言葉が出てこないであろうリディアに現実を教える。
「ん? あぁガイウスか。所でメルヴィ達は?」
男性、勿論今殺されてしまった男性とは別のそれの声色を聞き、右を向くなり紫の装束姿が眼中に入った為、それがすぐにガイウスであるとリディアは気付く。しかし、先程まで一緒だったジェイクとメルヴィの姿が見えなかった為、2人はどうしたのかを聞く。
「あいつらは向こうから攻めるってよ。それより、お前も油断してたら顔面食われてこうなるぞ?」
どうやらジェイクとメルヴィはガイウスとは逆に方向から進むという事である。ガイウスの背後へと突き付けられた親指が方向を語っている。
そして、件の植物の怪物に襲われていた男性は、顔面を筒状の物体でも突き刺したかのように貫かれており、もうそのまま一生を終えてしまっていたのである。
「私はそうならないから……。それに、この人に失礼だよその言い方」
リディアは怪物程度の攻撃でこの世を去る真似はするつもりは無いようである。そして、ガイウスのその悪い手本にでもしているかのような言い方には納得は出来なかったらしい。言葉を選べと、細められた青い瞳が語っている。
「あっちでも騒がしい事になってるから急いだ方がいいな」
リディアの要求は無視し、ガイウスは次に向かうべき場所へ向く。怪物は他の場所にもいるのだから、立ち止まっていても殲滅は不可能である。
「ま……まあ確かにそうだね。犠牲者なんか出さないように……急ご!」
亡くなってしまった男性への言い方を訂正しなかったガイウスだが、リディアはそれを不満に感じてしまったのだろうか。声の詰まりがどことなくそれを連想させてしまうが、次の犠牲者を出したくない気持ちはリディアもきっと同じである。
男性の事はもうどうする事も出来なかった為、その場で見捨てた上で進むしか無かった。
「だな」
ガイウスもリディアの気持ちに答えるかのように、隣に付きながら駆け足で進む。
*** ***
「たぁあ!!」
メルヴィも決してただの足手纏いという訳では無いようである。
銅に輝く装甲のガントレットを装着しているメルヴィは、目の前から迫ってきた狼の怪物の顔面を殴り付け、怯ませるのと同時に後退もさせる。
「ふん!!」
怒りに駆られたのか、牙を剥き出しにし、牙の隙間から唾液を垂らし始めた狼の怪物に追撃として、ジェイクの炎が飛ばされる。
メルヴィの隣へと立ち位置を決めたジェイクの念じた炎は、狼を確実に黙らせる。
「よし! 大丈夫だったかな? メルちゃんは無理はしないでね!」
突き出していた右手を引き戻すジェイク。そして、メルヴィの援護をした後であったから、疲労や体調を気遣う言葉を渡してやった。
「うん! ありがとう! 大丈夫だから!」
メルヴィは過度な戦闘は得意では無いのかもしれないが、自分に迫り来る怪物に対抗するだけの力は持っているのである。いざという時に助けてもらえるのは安心が出来るが、露骨に自分が弱いという所は見せるつもりは無いようである。
「所で、僕達だけでやられたりしないかなぁ? ガイウス君達と一緒の方が良かったとメルちゃんは思ってる?」
その場で立ち止まり、ジェイクは自分達の戦闘能力を疑い始めてしまう。決して深手を負ってしまったという訳では無いが、どうしても戦いにギリギリな何かを感じてしまったのか、自分達の力が不足しているのでは無いかと、メルヴィで確かめようとする。
「あたし達だって今までピンチとかは乗り越えてきてたんだから、あたし達だけでも大丈夫よ! 自信持ってよ!」
不安を覚えるジェイクに対し、メルヴィは女子特有の高い声色を生かした声で不安を引き抜こうとする。両腕に装着されたガントレットの中で拳を握った状態で、緑色の瞳をジェイクに向けている。
「確かに今までもそうだったよね! 今は僕達が出来る事をしないと、だね!」
自分は何を言っていたのだろうかと反省をした事だろう。ジェイクは自分が護る立場にいる事を一時的に忘れていたのかもしれないが、大事な相手の言葉のおかげでそれを思い出す。
ミケランジェロの率いる団体に加わった以上は、役に立つ戦闘を続ける必要があるだろう。
「じゃないとリディアに笑われちゃうしね」
メルヴィは今回出会った紫の髪をした少女をふと思い出した。戦闘の方ではあまりリディアより強いとは言いにくいかもしれないが、それでも何故かリディアよりは下にはなりたくないという気持ちがその場で出来上がったのである。
「リディアちゃん? なんかリディアちゃんにあったの?」
何故かリディアの名前を唐突に出してきたメルヴィに対し、ジェイクはその理由を問い質そうとする。ジェイクとしては、リディアの事をそこまで違和感のある人物として捉えてはいないようであるが、女同士じゃなければ分からない話もあるのかもしれない。
「いや、そうじゃないんだけど……。煩い所があるから、どうしても遅れは取りたくないの」
もしかすると、メルヴィはリディアの騒がしい性格を好ましく感じていなかったようである。折角戦闘能力は評価しているというのに、焦るように喋るあの口調がどうしても多少ながら耳障りに聞こえてしまうらしい。
だからリディアに対しては僅かながら避けるような素振りを見せていたのだろうか。
「メルちゃんなりの考えって事、でいいのかな?」
ジェイクは女の子に対しては誰が相手でも邪険な見方はしないと決めているのか、リディアの振る舞いに関してはそこまで嫌な風には感じていなかったようである。だが、メルヴィの話した事は事実であると思ったからか、それを否定する事も無く、あくまでも1つの意見として認める事にしたようである。
「そういう事になるかな。悪い子じゃないのは分かるけど、もう少し落ち着いてほしいかなって思う所も多いから」
出来れば問題点を直接リディアに伝えるべきだっただろう。メルヴィの緑の瞳は面倒な奴の相手をしている時のような細さを見せつけていた。あまりリディアの目の前では今のような表情は見せるべきでは無いだろう。
――空から硬質と思われる物体が足元へと落下する……――
「!!」
なんとなく踏み込んだ一歩のおかげで、飛んできた銃弾を回避出来たメルヴィであった。地面は岩であったが、それを砕く威力である以上、もしそれがメルヴィの脚に命中していたら、動く事さえままならなくなるような重傷を負っていたはずだ。
「偶然避けやがったか? お前ら、こんな町でデートかよ」
民家の屋根から狙っていたのである。半袖の赤い服を来た人相の悪い男が拳銃を持ちながら、ジェイクとメルヴィを見下ろしている。物理的に上から見ている事に加え、心の方でも見下したような気持ちを持っているのは間違い無いだろう。
「……な、何……? もしかして、盗……賊?」
洒落っ気をまるで感じさせない無造作に伸ばされた髪の男を見るなり、メルヴィはその男がすぐにこの町を襲撃している盗賊の1人である事を察知する。無精髭も見えており、汚らしい見た目が強制的にメルヴィに1つの不安と、そしてもう1つ、確信を抱かせたのである。
「さっき聞かされた奴らだと思うよ」
ジェイクは建物の影から、他の仲間らしき盗賊団の男達が現れるのを直接目で確認し、いつでもメルヴィを護れるようにか、身体が接触してしまう程の距離へと、横に着く。
無精髭の生やした姿は、同じ性別であるはずのジェイクでも嫌悪感を持たずにはいられなかった。
「ここはガキが来るとこじゃねえぜ? まあいるからにゃあ生きては返す気はねぇけどなぁ」
一撃で相手を切断出来るような鋭さと輝きを見せた鉈を持った男が、明らかに見下したような視線で2人の少年少女を捉える。2人の態度次第ではそのまま殺害に走ってしまいそうな殺気が視線から感じ取る事が出来るだろう。
「おいそれより、そこの女結構可愛いんじゃねえか? 土産に持って帰るか?」
ジェイクの隣で僅かに震えたような素振りを見せていたメルヴィであるが、それが男達の欲求を刺激する事になってしまったようだ。メルヴィの緑の瞳を見つめると、男はそれを自分の手元に置きたいという欲望に駆られる。
「それはさせないよ! 僕はそれを認めないよ!」
メルヴィの盾になるように、ジェイクはメルヴィの前に出て、そして鉈を持った男に強く言い放つ。男が襲い掛かってきたら、全力で自分が戦うつもりでいるのだろう。
「あぁなんだお前は。お前は関係ねんだから消えた方が怪我しねぇで済むぜ?」
盗賊の男達は、同じ性別であるだろうジェイクには興味を持っていないようである。特に難しい意味を含めようともせず、思い付きとでも言わんばかりにジェイクに立ち去るように言い放つが、盗賊の言い分を素直に聞き入れるとは思えない。
「いや、関係はあるよ。僕はこの子の友達だし、仲間でもあるから」
確かにジェイクの言う通りである。無関係であるなら、そもそも一緒に行動はしていないだろう。盗賊達の言いなりにも、思い通りにもなるつもりは無い事が、ジェイクの真剣な表情から察知する事が出来る。
「けっ、一丁前の事ほざきやがって。お前には用はねぇんだよ。消えろよ」
ジェイクの事が純粋に邪魔でしょうがないようである。自己中心的な理由だけを武器に、ジェイクに荒々しく命令を飛ばす。
「この場で言う通りにする人はいないと思うよ? 僕だけで逃げるなんて出来る訳無いよ」
盗賊の男達から放たれる威圧感に怖気付く事もせず、ジェイクは普段のメルヴィに対する態度とは明らかに異なるそれを向けていた。
自分だけが助かるぐらいなら、自分も一緒に死んでやる、ぐらいは思っていそうである。
「だったら、じゃあお前から死ぬか?」
拳銃を持っていた男は屋根から降りていたが、銃口をジェイクへと向けている。
その銃口を何とか別の方向に向けるか、或いはそれ自体を使えなくしてしまおうと考えていたのは、メルヴィであった。
――ひゅん……――
「ってっ!!」
男の拳銃が突然弾き飛ばされてしまう。当然の話である。空気弾が拳銃に命中したからである。
それを発射させたのは、メルヴィである事が分かるだろう。ジェイクの前に立っており、そしてガントレットを拳銃を持っていた男へと向けていたのである。ガントレットからはうっすらと煙が立ち上がっており、そしてメルヴィ自身の緑の瞳には何か怒りのようなものが映り込んでいた。
「そんな物あたしの友達に向けないでくれる?」
どうやら、メルヴィの装備しているガントレットは簡易な遠距離攻撃にも対応しているようだ。それでも、相手を怯ませる程度の威力であるから、メインの攻撃としては使いにくいかもしれない。
緑の瞳には、怒りが灯っている。
「いってっ……。お前誰に向かってそんな事やってんだよおい?」
拳銃を持った男は手首に激痛が走るのを覚え、手首を押さえながらメルヴィに怒りと悔しさを混ぜた目付きで睨みつける。拳銃は足元に落ちている。
「あ? なんかお前されたのか?」
後から現れた、ナイフを左手に構えている男が事情を聞こうとする。恐らく、何故手首を痛がっていたのかを理解する事が出来なかったのだろう。メルヴィのガントレットに遠距離攻撃の機能が備えられているようには見えなかったのかもしれない。
「そこの女だよ。なんか変なもん飛ばしてきやがったんだよ」
手首の痛みがまだ引いてくれないのか、男の声には苦しさも滲み出ていたが、男をここで黙らせておかなかったら、メルヴィ達に嫌らしい手が伸びていた事だろう。だが、今の展開や状況は有利なものとは言えないだろう。
「心配すんなよ。もうすぐお仕置きの時間になるからよ?」
ナイフを持った男は、仲間である拳銃持ちの男の抱えている痛みと、そして男に痛い思いをさせたメルヴィのこれからを既に見透かしているかのように、後にやってくるその時間を期待する。
まるで、その時間が来てしまえば、手首の激痛さえも忘れる事が出来るかのようでもあった。
「お仕置き……? どういうこ――!!」
もしかしてこのまま男達が一斉にジェイクと、そしてメルヴィを襲うのかとややワンパターンにも近い光景を連想するジェイクだったが、背後からやってきた妙に温い風を察知し、そして振り向いた瞬間に双眸が大きく開かれた。
――飛んできたのは、鎖であり……――
「メルちゃん!!」
メルヴィだけは守ろうと、鎖の範囲外へとメルヴィを咄嗟に突き飛ばす。
メルヴィは救えたが、代わりに鎖の餌食になったのはジェイクであり、その爬虫類の舌のように伸ばされた鎖は、ジェイクの腰に巻き付くなり、ジェイクをそのまま引っ張り寄せてしまう。
「ジェイく……!!」
突き飛ばされても尚、脚を開く事によって転倒は免れたメルヴィであった。ジェイクの状態を見る為に素早く背後に振り返るが、ジェイクの状況よりも先に視界に入ってきたものが1つ、存在した。
それは鎖ではあったが、舌のように伸ばされた物では無く、まるで飛びかかるように、1本のそれが飛んできたのだ。
――少女の身体を左右から乱暴に包み込み……――
「うっ……!!」」
投擲されたのだろうか、その鎖はメルヴィの上半身を両腕ごと縛り付けてしまう。鉄の持つ硬質な力がメルヴィの二の腕に痛覚を走らせ、抵抗する力を奪い取る。
縛り付けられたのはあくまでも上半身、特に両腕だけではあったが、拘束されてから2秒と経たぬ内に脚を震わせ始めてしまう。
まるで脚に備え付けていた支えが全て奪い取られてしまったかのように、メルヴィは背中から地面へと倒れ込んでしまう。腕の自由を奪われていた為、意図しない背中への強打に思わず表情を強張らせてしまう。
「いったっ……!!」
身体に巻き付いていた鎖が衝撃を僅かに防いでいたのかもしれない。だが、鎖自体が硬質である為、実質的にメルヴィに入ってしまった衝撃は無視出来ない強さだったはずである。
「やっと来たか。言ったよな? お仕置きするってよ?」
メルヴィに先程遠距離から攻撃を受けてしまった男は、鎖を放った者の場所だろうか、メルヴィとは反対の場所へと視線を飛ばすなり、そして地面に背中を預けてしまっているメルヴィの横にまで歩み寄り、しゃがみ込む。
どうやら、メルヴィを拘束した鎖は、捕らえた者の脚から力を奪い取る毒気でも放たれているらしく、それでメルヴィは一時的に立ち続ける力を抜き取られてしまったようである。
「あのゴーレムがやったのか。おいお前、お前の友達はあいつと遊ぶから、お前はおれらに付き合えよ?」
そのゴーレムの姿は、恐らくメルヴィは見ていない事だろう。しかし、メルヴィに迫ってきたのは、自分を拘束した鎖を飛ばしてきたゴーレムでは無く、無精髭の汚らしい男であった。最初にしゃがみこんでいた男と反対側に位置するように、付き合えと強要してきた男がその場所へと近寄ってくる。しゃがむ事はせず、真っ直ぐとメルヴィを見下ろしていた。
「や……やめて……触らないで」
メルヴィは太腿に何かが突き刺さるような錯覚を覚えるが、それは男の人差し指である事を目で確認する。
赤いスカートの下から伸びた色白な太腿を男が指でなぞっていたのである。まずは反応を見るかのように、弾力を確かめている。
「うるせぇよ。てめぇさっき俺に手荒な事しやがっただろ? 仕返しぐれぇ許せよおい?」
盗賊達は自分達の存在及び、活動そのものが重罪である事を意識する事無く、そして今メルヴィの脚に手を出している男は、指1本から、今度は手全体を使い始める。
脚を手のひら全体で掴み始める。
「や……やだ! やめて!」
嫌らしいとしか思えないであろう男の手から伝わってくる体温と、そして触られるという生理的な嫌悪感がメルヴィの奥から悲鳴を上げさせる。だが、鎖によって動きを束縛されている為、その場から逃げ出す事は出来ない。
「うわぁお前やっぱそこ狙うのかよ、っはっはっはは!!」
メルヴィから距離を離したままであった他の男は、まるで予想でもしていたかのように仲間の性欲を笑い始める。責めているようにも見えるが、男特有の性癖による喜びも表情の横から覗かれていた。見ているだけでも愉快な気分になれるのだろうか。
「触ってもらう為にそうやって丸出しにしてんだろ? いいじゃねえかよ」
最初こそはにやけていた男だが、距離を離していた男から渡された笑い声によって気分を悪くしてしまったのか、表情には怒りが映し出されていた。自分の性欲がばれた事による悔しさなのか、それとも純粋にメルヴィに対する復讐の怒りなのか。
脚に触れているその汚い手は、徐々に根本へと近づいていたのである。
「だから……やめてって!」
立っている事すら出来なくなるような毒気にやられていたからか、メルヴィは脚を暴れさせる事で抵抗すると言う事も出来なかったのである。尤も、上半身を拘束されている状態で相手を逆上させるのもまた危険ではあるが。
「おい、開いてやれよ?」
脚を触っている男の横にいる別の男が言った言葉である。スカートの内部を明確に見てやろうと思ったのか、手を出している男に言ってやったのである。恐らく、暇潰しには丁度良いと感じているのだろう。
「こうか? はっはっははは!! もうヤッてもいいだろこれ!?」
片手しか使っていなかった男だが、ここまで来たなら抑える必要は無いのでは無いかと、もう片方の手も使い、メルヴィの見られたくないであろう部分を強引に露にさせる。
両方の脚がそれぞれ外に向かって広がるが、それは同時に男達の性欲を強く刺激する光景が広がるという意味も持っていた。
「いや……もう……やだ……」
時間として見れば十数分程度の出来事だと言うのに、メルヴィにとっては、それが永遠に終わらないような地獄のように感じていた事だろう。脚を開かれ、それを男に凝視されているのである。閉じるだけの力も入らず、男の倫理や良識を弁えない行為に思わず精神が崩壊してしまいそうな気分になってしまう。
――男の目の前を、何かが横切るが……――
「あ……あれ……なん……だよ……?」
メルヴィの脚を無理矢理開いていた男は、自分の両腕を観ながら、一体何が起きたのかを理解出来ていないかのような迷った声を呟いていた。
それは無理も無い話だったのかもしれない。何故なら、前腕部の半分より先が綺麗に切断されてしまっていたからである。勿論、両方の腕が、である。
皮膚も、筋肉も、神経も、骨もすっぱりと切断されており、男はジワジワと走る痛覚よりも、手そのものが無くなってしまった事に戸惑いを覚え続けている。更なる惨劇が男へと走ったが、その時が、男の最期となったのだ。
――男の頭部が宙を舞う……――
それはメルヴィも捉えていた光景であった。胴体に繋がっていたあの無精髭で塗れた顔が胴体から離れていったのだ。横から飛んできた何かが、その首を物理的に斬り飛ばしたのだ。
生命活動を無理矢理に停止させられた男の胴体は、そのまま背中から崩れ落ちた。
「え? ちょっと……何……これ……?」
血液を噴射させながら崩れる男の死体から、何とか力の入らない脚を動かして距離を取ろうとするメルヴィだが、自分は助けられたのか、それとも惨劇に巻き込まれるのか、とても喜ぼうという気にはなれなかっただろう。
周囲にいた男達も、今の腕や首を斬り落とされる光景に呆然としていたが、その者達も同じ目に遭う事になる。
――別の男が胴体を斜めに斬られ……――
「うわあぁああ……!!」
身体に非常に深い斬撃を受けた男はそのまま絶命し、別の男達も同じように、次々と斬撃を受け、その生命活動を停止させてしまう。
メルヴィは仰向けに近い体勢であったから、首を真横等に動かす力を使おうとは思えなかったのか、目の前に広がる視界に映る者達が斬られていく様子しか直接目で捉える事が出来なかったが、背後にいた者達も同じく斬撃で命を落とした事は、鈍い悲鳴を聞く事で大体は把握出来ていた。
「これ……誰がやった……の? ジェイ君……じゃ、無いよね?」
ジェイクには斬撃によって周囲の者達を斬り刻む能力が無かったのだろうか。まるで初めて見たような攻撃手段を目の前にして、メルヴィはそれがジェイクによるものでは無いと大体は把握する事が出来ていたようだ。
しかし、今の鎖で縛り付けられている状態では自分も同じ目に遭わされるかもしれない。いざという時に逃げる事も出来ない。
メルヴィの目の前で砂埃が風に舞い上げられる。その風がどうしても今発生した現象と無関係とは思えず、再びメルヴィに恐怖が圧し掛かる。
まるで砂埃を一つの地点として決めていたのか、上から何者かが降りてくる。どれだけの高度から降りてきたのかは確認は出来なかっただろう。だが、上からやってきた事には変わりは無かったが、その者はメルヴィに背中を見せる形で着地した。
装甲の施されたベージュのブーツに、裾の部分が広がった赤のガウチョパンツと、同じく赤の腰までの丈しか無いジャケットを着用しているが、インナーを着用していない赤い服の裏側の肉体を見て、それがすぐに人間の身体では無い事にメルヴィは気付いた事だろう。
身体を覆っているのは漆黒の羽毛であり、一言で言えばそれは鳥人間だったのである。
着地の為に屈ませていた上体を空に向かって引っ張り上げるなり、すぐにメルヴィの場所へと身体を向ける。鳥人間である事を証明するかのように、黄色の嘴が漆黒の羽毛に対してそれなりに派手に目立っていた。
瞬間移動でもさせたかのように、頭部に純白の山高帽を出現させ、そして、動揺しながら距離を取ろうとしている少女に一言、言ったのである。
「手荒な所を見せて済まなかった」
やっぱり亜人の描写は大変な気がします。人間であれば普通に容姿や服装を描写するだけでイメージしてもらえますが、亜人の場合はもう手足の作りとか、体毛や皮膚の雰囲気、そして容姿の所々人間とは異なる特徴まで描写する必要がありますから、なかなか大変です。
それより、次回の方で今回の話の最後に現れた鳥の亜人が助けてくれる……のかな?