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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第36節 《破壊と異常な亀裂 宝玉を賭けたビスタルとの戦い》 3/5

ここでもビスタルとの戦闘が続いてます。今回は竜巻をどうするかという所でしょうか。ビスタルは力任せに竜巻も発生させられる厄介者らしいです。







        茶色の体毛を持つ獣人のビスタル


        敵対していたエンドラルと戦ったが


        砕いた地面を相手に被せる形で生き埋めにしてしまう


        しかしリディア達はエンドラルが最期を迎えたとは思っていない


        今は竜巻と化したビスタルを止める事が先決なのだろうか








「派手に来たわねこいつ。アタシのとっておきでもやっちゃおうかな」


 ツーサイドアップの青い髪を持った少女であるサティアは、目の前で竜巻のように回転を始めたビスタルに対抗する為の手段を思いついたのだろうか。


 緑色のノースリーブのブラウスの上には胸部を保護する役割を持った黄色の胸当てを装備しているが、そのすぐ横で右手を握り締め、自分の身体をまるで水そのものにさせるかのように徐々に身体を透明化させていく。ややゆっくりではあったが、確かに身体は水そのものになるかのように肉体も装備している衣服も色を失わせ始めていた。


「ん? サティアあんた何する気だい? その身体で突っ込んで大丈夫なんだろうねぇ?」


 下半身が存在しない、赤黒い影だけで構成された上半身だけの肉体が特徴のマルーザはサティアの行動を少々心配したかのような深紅の双眸(そうぼう)で見つめていた。


 しかし、身体が水のように透明になり始めていた為、単純に突撃する訳では無い事くらいは想像が出来ていたようだ。しかし、水のような形状になったとして、それが突撃しても都合の悪い展開に進まないと保証出来るかどうかまではマルーザには分からないはずだ。




「大丈夫だからこれから実行するつもりなのよ? 貴方はそこで黙ってるつもり?」


 自分を水の形状に変える事は自分にとっての武器である事をサティア自身は自覚しているはずだ。竜巻に突撃した後でどのように戦法を取るのかも既に頭の中で完成させているはずだ。


 そして、マルーザに対し、自分の戦法をただ見ているだけなのかと問う。今は白い仮面を装着しているサティアだが、横目で見ていた水色の瞳はマルーザの返答と勇気を求めていたに違いない。


「挑発する気かい? じゃあわたしも邪魔させてもらおうかな?」


 マルーザも自身の肉体を気体化させる事が可能だったからか、サティアに協力をする前提でビスタルの竜巻を凝視した。丁度なのか、竜巻は自分達を狙うかのように接近しているようにも見えた。




「……任せるわよ!!」


 サティアは自分の身体全体を水のような透明の形状へと変化させ、緑のロングスカートのシルエット等はそのままに、両手から水の双剣を伸ばした上で竜巻へ向かって跳躍を開始する。


「じゃあ任されちゃおうかな!」


 元々低空で浮遊を継続させていたマルーザも、サティアよりやや遅れる形で竜巻へと飛び込んでいく。流石にマルーザもそのまま飛び込めば肉体を負傷する事くらいは理解していたからか、何だか身体の色合いを薄くさせるかのような変化を施し、その上で竜巻へと向かう事を決めたようである。




――2人は無謀にもビスタルの竜巻に自ら飛び込んだ――




「うわぁサティアの奴かなり思い切った事しやがったな……。まあ信じてやるしか無いんだけどな」


 濃い紫のジャケットを赤いVネックのシャツの上から着用しているルージュは、ビスタル自身が生み出した竜巻に対抗する事が出来ない為か、離れた場所でそれを見ながらサティアの飛び込む様子を見ている事しか出来なかったようだ。


「その通りですね。私達気体化は出来ないから信じる以外ホントに何も出来ないですよね」


 リディアはもう知っている事だったのだろう。サティアの身体は気体のように形状変化をさせた上で相手からの打撃を受け流したり、すり抜けさせたりする事が出来るのだと。また、身体を水そのものの形に変える事も出来ていた為、能力そのものに驚く事はしなかったようだ。


 とは言え、相手は地面の欠片を巻き込んだ上で竜巻を発生させており、そんな危険な場所へ飛び込む勇気だけは素直に評価したいと考えていたようだ。リディアには出来ない芸当である。




「あ、所でエンドラルさん大丈夫なんでしょうか? 今の内に助け……って厳しいでしょうか?」


 再びリディアは思い出すように別の話を持ち出したが、竜巻のすぐ傍らで山となっている瓦礫の中にいる人物の安否が不安になってきたようだ。竜巻の風圧に耐えるような重量がそこに存在したのか、瓦礫の山は崩れる様子を見せていない。


「まあ今は近づかない方がいいと思うぞ? なんで竜巻の近くで埋まっちまうかなぁ……」


 流石にルージュも危険な竜巻の真横に自分から接近する気持ちを持つ事なんて出来なかったようで、そしてもう少し竜巻から離れた場所で今の状況になってくれなかったのかと今頃としか言えない願望を口にし出す。




「ん? ちょっと待ってください! なんか今サティアさんの声がしたんですけど」


 何か自分の精神の中に聞こえるものがあったのか、リディアは一度ルージュとの対話を止め、聞き覚えのある声の持ち主の為に気持ちを集中させた。


 それは聞き間違いでは無く、そして誰の声なのかも分からないはずも無く、次に届けられるであろう声の為に待つ事も決めていた。


「なんだそれ? まさかテレパシーか?」


 ルージュからするとリディアが何をし始めたのかが理解出来なかったのか、リディアの行動や動作等で何をしているのかを想像するしか出来ず、それが正解なのかどうかを確かめる為の質問がこれである。




「多分そうですね!」


 本人が目の前にいない状況で声が届けられたのだから、テレパシーで間違いは無いはずだが、リディアの答え方は絶対とは言い切れないような形であった。


 それとも無意識に口に出てしまっただけだったのだろうか。黒のハットと同じく黒のマスクの間から覗いていた青い瞳を閉じながら、サティアからの次の言葉を受け取った。




(リディア! 悪いけどそっちから氷の力飛ばしてくれる!? この竜巻凍らせてやりたいからさ!)


 リディアの脳裏に聞こえてきたのは、サティアの歌手としても通じるであろう澄んだ声であり、テレパシーという力で届けられているものだったからか、何だか跳ね返るような独特な聞こえ方がしたが、言葉そのもの、そして意味はしっかりと受け取っていたのは確かだ。


 どうやら竜巻そのものを停止させる為に、リディアの冷気の力が必要であるようだ。




「やっぱりテレパシーです! じゃ、言われた通りに……」


 リディアはサティアの方が自分に対してテレパシーを送ってくる事を始めての行為として意識していたのだろうか。


 もしかして今回が初めてだったのかもしれないが、どちらにしてもテレパシーであるのは事実であるようであり、そして指示を出されていた為、今はその通りにするしか無いはずだ。


「お前なんか言われたのか? わたしにはなんか要求とか無かったのか?」


 やはりルージュには聞こえなかったのか、リディアからそれを聞こうと質問をするが、今のリディアは両手から氷の力を出現させ、それを球体状に固めながら投げるような準備をしている最中だ。




「ルージュさんごめんなさい! それは分かんないです! 今は凍らせてくれって頼まれたんですよ!」


 リディアは右脚を引き、まるでこれから肉弾戦でも開始するかのような姿勢で両手の間に氷の力を溜め込んでいたが、集中していたからか、ルージュからの問いに対してはあまり柔らかいとは癒えない返答を聞かせてしまっていた。実際にルージュの名前は一切出されていなかった為、事実と言えば事実になるだろう。


「そうかいそうかい」


 自分には何も頼んでくれなかったのかと、ルージュは少しだけ寂しい思いをしていたが、多少落ち込んだ表情をしているルージュの隣では、もうリディアによる氷の力の蓄積が完了されていたようで、リディアはそれを竜巻に向かって放つ段階に進めていた。




「はぁあ!!」


 マスクの下から力強い気合の声を放ちながら、リディアは両手で押し出すように冷気が籠った球体を竜巻を目掛けて発射させた。


 竜巻の内部では何が起きているのかは分からないが、今は自分が放った冷気がどうなるのか、それを目視するしか無いだろう。




――光線のように青い冷気が竜巻に放たれた事によって……――




 竜巻の外側が徐々に氷の粒で包まれるようになっていき、そして何だか竜巻の内部の方でも何か透明な硬い物が出来上がるようになっていた。


 外側と内側それぞれから冷気によって竜巻は機能を失いつつあったのだろうか。


「リディアいい仕事っぷりだなぁ。わたしは炎しか使えないから黙ってた方がいいのか……」


 ルージュはリディアの気合に感動でもしたのだろうか、思わず声を上げてしまうが、しかし直接の手助けは出来なかったからか、自分の炎を竜巻へと放つ事は出来なかった。冷気の邪魔をしてはリディアに悪いのだから。




「中からも凍ってるけど、もしかしてマルーザさんかな?」


 竜巻を外から見ている側であったリディアであるが、自分が放った冷気以外の力も竜巻の中で動いている事を読み取ったのか、竜巻の内部でマルーザも冷気の力を解き放っているのかと読んだのである。


「まあそう思うしか無いだろうなぁ。わたしは暇人って……なんかきついな……」


 竜巻の内部で氷の塊が増え続ける事によって、竜巻としての渦を巻く昨日が徐々に失いつつあったようだが、その様子をただ見ている事しか出来ないルージュは本当に自分にはもう出番が何も無いのかと歯痒い気分でいたはずである。




(リディア! ちょっと悪いけどルージュに思いっきり炎の弾ぶつけるように伝えてくれる!?)


 リディアの耳に入ってきたのは、サティアからの言葉であったが、それは直接渡されたものでは無く、テレパシーのようなもので精神の中に届けられるような声であった。


 内容はどうしても炎が必要だったようであり、その為にはルージュの力が必要だったようだ。




「え? あ、はい! あのルージュさんちょっといいですか?」


 テレパシーの方で要求された内容にリディアは声を出して頷いたが、勿論サティアの言葉はルージュには聞こえていなかった為、リディアによって伝えなければ永遠に届かない事になる。これから行う事は1つである。


「ん? なんだ? わたしにやっと仕事か出番か何かか?」


 話しかけられたルージュは、自分が役に立つ時が来たのかと、もうそればかりを頭で考えていたのかと思いたくなるような態度で期待を膨らませながらリディアからの答えを待った。橙色の瞳が妙に輝いていた。




「そうです! サティアさんからですけど、あの竜巻に炎をぶつけて欲しいってそういう要求ありました!」


 期待を持っていたルージュに答えてやろうと思ったのか、リディアはまずは真っ直ぐに肯定の返事を聞かせてあげた。


 そして次は要求の内容である。ルージュに炎を放ってもらうように頼み込むが、それはサティアからの要求であった為、ある意味ではルージュに拒否権は無いと言える。


「折角凍らせてる最中なのにか? なんでだよ?」


 ルージュは折角氷漬けにされようとしている竜巻に対して、今ここで熱の象徴である炎を放てば状況が悪くなるのでは無いかと思ったようだが、理由をリディアに聞くしか無かったようだ。




「いや、そんな事分かりませんよ。それと私の方からはサティアさんには言葉は届けられませんから、まあ言われた通りにするしか無いと思いますよ?」


 リディアは答えを出す事が出来なかった為、分からないものは分からないと言うしか無かった。そして、先程のテレパシーはサティアの方からの一方通行であり、逆にリディアの言葉を向こうへ渡す事が出来ない為、やはり指示に従うしか道は無いというのが現状であるらしい。


 先程はサティアのテレパシーを受けた際に頷いていたが、あの声はサティアには一切聞こえていなかったという事になるが、反射的にリディアの口から出てしまっていたのだろうか。


「分かったよ。じゃああいつの言う通りにしてみるよ。じゃ、はぁあああ!!!」


 しかし今は言われた事をその通りにやるしか無い為、ルージュはサティアを信じる形で右手の先に力を意識させた。




――右手の上に真っ赤な炎の塊が生成され……――




「どうなるか分かんないけどサティア、お前の事信じるからな!」


 顔の前に持ち上げた右手の上に生成されたのは、見るからに灼熱を持っていそうな炎の球体であり、ルージュの熱意がそのまま炎になったかのようなそれは、次のルージュの動的な指示を受けるのを待ち続けていた。








「受けてみろ!!」


 動的な指令が炎の塊に届けられる時が来たようである。ルージュの気合が籠った声と共に、右腕が後ろに引かれる。それは投げ飛ばす為の段階の1つ目である。




――竜巻に向かって炎の球体が投げ込まれる――




 意図的に回避させるように投げたのか、偶然にも周囲を飛び交っている岩や氷の欠片を回避出来てしまっただけだったのか、炎の球体は竜巻の中心へと入り込んでいく。


 すると突如竜巻の内部で引火でもするかのようにそれは一気に炎に包まれた。しかし氷は決して溶ける事は無く、何だか氷が壁となって炎の膨張を防いでいるようにも見えたかもしれない。




「おいなんか爆発しそうだけど、中のサティア達大丈夫なのか?」


 ルージュは竜巻の内部で炎が引火し始めた様子を見て、思った通りの感想を漏らしたが、何となくリディアにあの竜巻の中に残されている者達のこれからに関して聞いてしまう。


 炎が内部を支配しようとしている中で、まだ仲間2人が残っているのだから、不安になるのは当然と言えるだろうか。しかし、ルージュは炎を放つように指示をされた身でもある。


「それは私も分かりませんね。でもサティアさんは確かに伝えてきたんですよ。炎飛ばしてくれって」


 リディアとしても竜巻の中にいて平気なのかどうかは判別が出来ないらしい。恐らく今の状況ではサティアからのテレパシーも来ていないはずである為、尚更安否の確認が出来ないのだろう。


 しかし、炎を要求してきたのは事実であり、その後の対策を計画していたと信じたいのもまた事実であるはずだ。




「っておいなんかマジで爆発しそうだぞ!」


 竜巻自体の回転は止まっていないが、炎が内部で充満し、竜巻の隙間から無理矢理に外に漏れ出そうと暴れ始めており、ルージュは少しだけ上半身を後方へ避けさせるかのように反らすが、やはり内部の仲間2人が戻ってくる気配は無かった。


「ホントにサティアさん達……大丈夫なの?」


 リディアも爆発しそうな竜巻のこの後を考えると、自分の身を守る為のバリアも考えた方が良いかと思い始めるが、やはり仲間2人の安否がどうしても気になるようだ。ルージュと同じで、炎が激しくなっている中で、本当に無事でいられるのかどうか、それが不安になるのは当然である。




――竜巻の中から、気体のような物が勢い良く飛び出してきた――




「ん? なんか出てきたぞ」


 ルージュは今にも爆発を起こしそうな竜巻の中から明らかに人の形をしているとは思えない物体が跳び出した様子を見逃さなかった。


 しかし、人間の形は確かにしていなかった為、ただ何かが跳び出したという事実しか把握する事が出来なかった。


「あれってマルーザさんとサティアさんじゃないですか?」


 状況と雰囲気でそれを察知したのか、リディアは今跳び出した人間では無いその物体の正体を見破っていたのかもしれない。


 竜巻に飛び込む際も身体に変化を加えていたのだから、脱出の時も変化を加えた上で実行させていたと読んでいた可能性もある。




「状況からしたらなんかそんな感じしてきたわ」


 リディアから言われてそう思うようになったのだろうか、ルージュは今跳び出してきた物体の正体があの2人なのではと疑う気にもならなくなってきたらしい。


「とりあえずは無事って事でいいんでしょうか?」


 元々竜巻から出てきた物体の正体はサティア達だと最初に言い出したのはリディアであったが、ルージュの方も納得してくれた為、尚更跳び出してきた正体を確定させても良いのかと自信も持てるようになってきたようだ。気体自体は即座に降りてきたのでは無く、何だか降りる場所を選ぶかのように彷徨っていたが、何かを確定させたかのように真っ直ぐとリディア達へと向かう事を決めたようだ。




――出てきた気体はリディア達の横へと飛んできた――




 気体は水をイメージしていたのか、本当に水色の色彩を帯びたそれと、そして何だか闇の世界から出現したかのような赤黒い気体、この2つがリディアとルージュの隣に降りてきたのである。


 それらは床に接触すると同時に、水色の方は瞬時に人型へと四肢を伸ばすように姿を戻し、そして纏っていた緑のロングスカートと同じ緑のブラウスと、そして黄色の胸当ても実体化させ、いつもの姿へと戻したその少女は勿論サティアであり、白い仮面で水色の瞳以外を隠している所も少し前の姿と変わっていない。


 赤黒い気体の方は完全には地面には降りる事をせず、一瞬だけ燃え上がるような様子を見せた後にいつもの姿へと戻したのである。それはマルーザの肉体そのものであり、両腕や特徴的な深紅の双眸が見えた頭部と尖った耳と、そして下半身が存在しない特殊な姿、これがいつもの姿ではあるが、これに戻したのである。




「ほいっと! ルージュ助かったわよ! あの中に可燃性の液体ばら撒いてもらったのよ。マルーザにね!」


 気体の状態からいつもの人間の姿へと戻ったサティアは、この姿へと戻ると同時に何かのノリだったのか、身体に圧し掛かっていた何かしらの違和感から解放された気分から出たものだったのか、特徴的な声を飛ばした後に、ルージュの攻撃が結果的に良い方向へと進んでくれる事が確定したと伝えて見せた。


「そろそろドッカンだと思うよ。まあそれで致命傷になるかどうかは分かんないけどね」


 姿を戻したのはマルーザも同じであったが、特にサティアのような何か注目を向けさせるような声等は一切出す事も無く、そしてルージュの放った炎がそろそろ最終的な結果そのものを見せる時が来たと説明をする。


 竜巻の方に振り返りながら、マルーザはこれから爆発が始まると予測し、しかしそれでも内部にまだ残っているビスタルがそれで重傷を受けるのかどうか、それに関しては期待をしていなかったようでもあった。




――竜巻の中心が真っ赤になり、氷の壁に亀裂が入り始め……――




「遂に始まるわね……。爆発」


 距離がある場所で位置していた4人であったが、サティアは仮面の下で確実に頬を緩ませたかのような口調で数秒後に発生するであろう事態を待ち続ける。


「サティアお前なんで楽しそうなんだ?」


 ルージュは何故かこのある意味では自分達にも危害が飛んでくるかもしれないという状況で妙に声にテンションが写り込んでいたサティアの様子を怪しく感じたらしい。


 橙色の瞳で、横目でサティアを見ながらルージュは何故今のような口調でいる事が出来るのかを不思議がった。




――竜巻は内側から派手に破裂し、周囲に氷と岩の粒を四散させる――




「うわぁホントにしやがった! ってか思ったより派手だなおい!」


 激しい爆発音が周囲に響き、そして爆発そのものが実際に発生した事をルージュは目の前で目視した為、思った事をそのまま口に出したが、炎が氷と岩を外に向かって押し出すかのように炎が内側で炸裂していた為、それがルージュからしたら想像していたよりも遥かに強い爆発だと認識していたようだ。


 ルージュ自身も元々炎を扱う属性でありながら、右腕で顔を覆うようにして爆発から気持ちだけでも自分の身を守っているつもりにでもなりたかったようだ。


「一応バリア貼っとくか……。えいっ!」


 サティアも流石に竜巻が爆発を起こしている様子を黙って放置する訳にもいかないと感じたのか、自分も皆も守る為に、手慣れた動作で目の前に水の壁を張った。それはまるで部屋のカーテンを閉めるような動作であった。見た目こそは水のように透き通った壁ではあったが、爆発によって跳んできた欠片を受け止めるには充分な強度も持っていたようである。




「なんか内側で火山でも噴火したみたいに見えますね」


 リディアは水のバリアの奥に見えている竜巻の内部を目視しながら、内側での炎の様子がどのように見えるのか、口に出していたが誰に喋っていたのだろうか。爆発自体は発生しているが、竜巻自体は収まる様子を見せていない。


「ちょっと派手に撒いといたからな。可燃性のガスってやつをね」


 どうやら炎の勢いが強くなるように仕掛けたのはマルーザだったようである。右手には炎の属性を纏ったヌンチャクを構えたままであったが、肘だけを曲げて持ち上げるなり、ヌンチャクをその場で小さく回して可燃性のガスをヌンチャクから漏らさせた。


 これが爆発の正体だと皆に教えたかったのだろうか。




「まあけど無理だったみたいだね。あいつ自身の撃破は、ね?」


 皆の返事等を一切待たず、マルーザは竜巻の内部で発生している爆発がまだ全てを終わらせた訳では無いと喋るなり、元々宙を浮いていた身体を更に上昇させようと力を込めた。




――マルーザは突如浮遊を開始し、竜巻の天辺を目指す――




「え? ちょっとマルーザどこ行くのよ!?」


 サティアも元々はマルーザと同じく竜巻の内部にいた為、あの爆発で全てが完了すると信じていたのかもしれない。


 しかし、まだやるべき事が残っているからと竜巻へと再び戻っていくマルーザを見上げながらサティアは呼び止めようとするが、恐らく相手は止まる気なんて無いだろう。




――竜巻の天辺から誰かが跳び上がるように現れ……――




「あんな小細工でオレが死ぬと思ったか!?」


 竜巻の内部から跳躍で抜け出し、今は天辺さえも超えるかのような高さに現れたのはやはりビスタルであった。竜巻から発生している風圧で今の高さを維持させているのだろうか、竜巻の天辺から落ちる様子も、逆にそれ以上上昇する様子も見せなかった。


「思わなかったから迎えに来てやったんでしょ?」


 ビスタルは元々マルーザが竜巻の天辺にまでやってくる事を竜巻の内部から確認していたのかもしれない。


 そしてマルーザの方も、まだビスタルに致命傷を負わせてはいないという事を自覚していたからわざわざ天辺にまで浮遊してきたと、深紅の双眸を細めて見せた。




「そうか……だったらお前が……」


 ビスタルはマルーザと同じ目の色を持っていたが、自分に致命傷を与える気でいたであろうマルーザに対し、逆の展開を見せてやろうと企み始めたのだろうか。


 竜巻の天辺を維持し続けていたビスタルは両腕を外に向かって広げ、竜巻の中にまだ残っていた地面の欠片を腕に吸いつかせる。過度に蓄積されたとは言えない量ではあったが、密集した欠片に包まれた腕でそのままマルーザを狙う。


 その方法は勿論腕そのものを使う行為ではあったが。




――マルーザに飛び掛かり、両腕で挟み込もうと試みた!――




「死ねぇえ!!」


 竜巻から離れ、わざわざ自分の目の前に現れたマルーザを、岩を纏った両腕で挟み込む形で両腕に力を入れた。マルーザは挟まれてしまい、ビスタルの腕と腕が完全に閉じると同時にマルーザ自身の姿も消滅してしまう。


 潰された様子はビスタルも確実に見ていたが、ビスタルの表情には満足の色は浮かんでいなかった。


「悪いね? 死ぬには物足りないね」


 マルーザはビスタルの背後に回っていたようだ。消滅したのは挟まれた事によるものでは無く、挟まれる前に実質的に回避をしていたから、というべきだろうか。


 浮力を失ったビスタルはこれから落下、尤も、ビスタルの場合は着地の為の体勢を用意すると思われるが、背後から攻撃を仕掛けようとしていたマルーザに対し、ビスタルは純粋に振り向いた。




「足りなかった、か?」


 ビスタルはマルーザを潰す目的で閉じさせていた両腕を再び開きながら、背後にいるマルーザに首だけを向けていた状態であったが、やや淡々とした言葉の裏で、喉の奥に攻撃の為の力を蓄えていたのである。それが放たれるのは、本当にすぐ後の話であった。




――突如冷気を纏ったブレスをマルーザへと浴びせる!!――




「ぶぁああああああ!!!」


 自分に放たれていた氷の成分を体内に取り入れていたのか、ビスタルは冷気の混じったブレスをマルーザの全身を包み込むように激しく浴びせる。


「!!」


 受けたと同時に身体が瞬時に凍り付いてしまい、そのまま氷の塊に閉じ込められてしまう。




――浮力を失ったのか、それとも氷の重量の影響なのか……――




 マルーザは元々人間のように口や鼻は無く、深紅の双眸(そうぼう)しか存在しない関係で表情が読みにくいのだが、氷に閉じ込められた中で焦ったような色を浮かべていたのは事実だったのかもしれない。


 冷気による重たい反撃を素直に受けてしまったマルーザは氷の重量に引っ張られる形で地面へと向かって落下してしまう。


「まずお前から殺してやるか?」


 自分を迎えようとしてきたマルーザを冷気で凍らせてやったビスタルであったが、落下するマルーザを放置する事を決めなかったようで、同じく落下で追いかける形でビスタルは頭を下に向けながら降下を開始させる。




「亜人だからって有利に行けると思ったか!?」


 落下しながら、ビスタルはマルーザへと接近していく。氷漬けになったマルーザをそのまま粉砕して絶命にまで至らしめてやろうと考えたのか、両腕を開き、そして両手も開いて爪を見せる。




――下にいた者達もそれを見ていた訳だが――




「っておいマルーザ不味くないか? 助けた方良くないか?」


 高所での戦いであった為、ルージュは何も手助けも出来ず、見ている事しか出来なかったが、氷に閉じ込められながら落下するマルーザを見ながらそう叫ぶしか出来なかった。


「でもどうやって助けるのよ? 無理矢理水圧でも放つ?」


 サティアも咄嗟に何かマルーザの手助けになる攻撃を使おうと考えたのか、手と手の間に水の力を溜め込むが、山になっていた瓦礫が少し揺れた事に気付いたかもしれない。




――突如そこに男の声が響き……――




「それは我輩の仕事だ! 安心せぇい!!」


 瓦礫の山を下から突き破るように上半身を強引に突き出したのか、上体を瓦礫の山から露出させたエンドラルであったが、自分自身に電撃を浴びせながらその場で一気に跳躍を開始してしまう。


 電撃そのものを跳び上がる力に変換させたかのように、一気に跳び上がり、目的の場所はやはり降下中のビスタルであった。


「え? エンドラルさん無事だったんですか!?」




「まあ見りゃ分かるだろって雰囲気だな……」




――マルーザも実は黙っていた訳では無かった――




(さっさと脱出するか……)


 氷に閉じ込められていても意識は残っていたようであり、マルーザは右手に握っていた炎のヌンチャクに力を蓄積させる事を決めた。


 ヌンチャクからは即座に熱が発生し、水蒸気と共に徐々に氷を溶かし始める。熱自体はかなり高温だったからか、目に見えて氷の周囲が本当に削られているかのように溶けていき、小さくなっていく。


 内側から熱を与えた事で単に氷そのものが小さくなっているだけでは無く、強度そのものも低下していたようであり、内部で動くだけの隙間が出来ていた事を察知すると、左手に持っていたヌンチャクにも力を込めた。そちらには氷の力が宿っているが、氷を生成させた理由は、内側から強引に破る為であった。




――氷を柱のように上下に伸ばし……――




 元々熱によって、マルーザを閉じ込めていた氷の強度自体も低下していたが、そこにマルーザによって生成された氷の柱が内部からそれを突き破る形となり、マルーザは自力で氷の中から脱出する事を成功させた。


「意外とあっさり済んだか……。ん? エンドラルか」


 氷から抜け出し、元々宙を浮く性質であるマルーザは氷を打ち割った後も無防備に地面へと落下するという事は無く、宙に浮いたまま平然と体勢を真っ直ぐに戻すが、地面の方から電撃を纏った何かが高速で飛んでくるのを目視し、それの正体もすぐに察知する。


 しかしそのままの場所にいてはエンドラルに体当たりをされてしまう為、焦る様子も特に見せず、マルーザはそのまま転移でもするかのように左へとずれ、エンドラルの軌道から反れた。




――すぐ隣をエンドラルが通り過ぎ……――




(あいつ自力で抜けたか。まあいい、後は我輩に任せろ!)


 マルーザのすぐ横を通り過ぎたエンドラルであったが、本当は体当たりで派手に氷を粉砕してやろうとでも計画していたのだろうか。


 しかし、他者の援護も受けずに脱出を成功させていた為、その場で通りすがりに救出するという計画を破棄したとでも言うべきか。


 そして目的の場所は、エンドラルとは逆の方向への移動を継続させている相手こと、ビスタルだ。上昇するエンドラルと、下降を継続させているビスタルが正に衝突をしようとしていたのだ。




――エンドラルだけでは無く、ビスタルも覚悟と構えを決めており……――




 ビスタルはもうエンドラルを標的にする前提であったのか、元々開いていた両腕の形を一切変えず、真っ直ぐとエンドラルへと狙いを定めていた。


「生き返ったかぁ!? また埋めてやるかぁ!?」


 茶色の体毛を持つ獣人ビスタルは、自分に対して下から向かってくるエンドラルに激しく言い放つ。


「逆にお前を天に打ち上げてくれるわぁ!!」


 灰色の皮膚を持つ人間とは異なる特徴を持ったエンドラルも、自分を有利にさせる事を宣言するかのように派手に叫びながらも、上昇するその速度を一切緩めない。




――両者が遂に竜巻の隣で衝突し……――




 エンドラルの電撃を纏った拳と、筋肉の振動で風圧を発生させる事が出来るビスタルの拳が激突し、その場で電撃による爆発が発生してしまう。爆発自体で両者が何かしらの負傷をする様子は見えなかったが、押し合いで勝利を見せたのはビスタルだったようであり、落下という重力さえも味方にしたであろうビスタルはそのままエンドラルを強引に地面に向かって圧し掛かるように落とさせようとする。


「ふん! やっぱりオレが上だったみたいだなぁ! 落ちろ!!」


 上昇を止められたエンドラルは、事実上ビスタルと共に落下をする事になり、そしてビスタルは自分の力の方が(まさ)っていた事を誇るのと同時に相手を下の存在として見ながら、右手で強引にエンドラルの筋肉で太く発達している首を掴み、落下しながら更に下に向かって投げ落とすような激しい攻撃を開始しようとする。




「そうはさせるか! 我輩より先にお前が落ちるんだな!」


 身体を掴まれ、一瞬振り回されたエンドラルであったが、雷撃をその場でビスタルに浴びせ、伸ばしていた右手から更に電撃の帯のような物を伸ばし、そして逆にビスタルを掴み込み、そして本来はビスタルが始めようとしていた行為を、逆にエンドラルの方が奪い取るかのように行なった。




――電撃で逆にビスタルを振り回し……――




 エンドラルはそのままビスタルを、右手から出現させた電撃の帯で掴み返し、そして竜巻の発生源である中心部を狙い、地面目掛けて投げつける。


 やがてビスタルは竜巻が立ち上がっていた地面へと落とされ、そして何か発生していた元が潰されてしまったのか、竜巻自体はそのままゆっくりと風が弱まりながら消滅してしまう。


 しかし、地面に乱暴に落とされたビスタルはそれで負傷する事は無かったようであり、平然と立ち上がり、その場で右腕を外から内側に向かって薙ぐように動かした。それは距離があるエンドラルに対する反撃手段であり、右腕からは空気を鋭く圧縮させた衝撃波が放たれたのである。




――察知をしたエンドラルではあった――




「そんなもん効くかぁ!!」


 エンドラルは飛んできた衝撃波を回避するのでは無く、力任せに叩き割る事を選択したようであり、真正面から飛んでくる衝撃波を右手で殴るように弾いて見せた。


 そしてまだ降下の最中であったエンドラルはビスタルに突撃でもするつもりだったのか、再度身体に電撃を帯びさせるが、ビスタルも安易に自分に接近させるつもりは無かったようだ。今度はブレスをエンドラルへと放ったのだ。


「そうか?」


 一言漏らした後に、ビスタルは口から激しい炎を帯びたブレスを発射する。エンドラルは風圧に勝つ事が出来なかったのか、ビスタルから距離を取ってしまう。自身で浮遊する力が残っているからか、再び上空へと戻るかのようにビスタルのブレスから遠ざかった。




「そういえばあいつ、これから羽化する怪鳥に目付けてたっけな……」


 戦いの中でエンドラルに関して何かを思い出したのだろうか。ビスタルは自分達の何か計画の阻害になっている事を思い出したようだ。






実は今は小説と一緒に絵画の修行もしてる身です。メインキャラを絵にする計画もしてまして、こうする事で作者のモチベが上がるという不思議があるみたいなので今は絵画も頑張ってる現状です。そして、今年も宜しくお願い致します。

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