第35節 《躾の皆無な理性無き魔物 現れたのは破壊の獣ビスタル》 3/5
最近気付いたのですが、既に投稿してた分を再度投稿するなんていう過ちを犯してた為、修正投稿させて頂きました。今回は新しい戦場となる水辺にて、怪しい生物と対面するというお話になります。
時は朝になる事でやってきたのである
ただ太陽が昇り、朝の挨拶が始まる事を指してはいない
少女3人と、女性1人の戦いが始まるのだ
岩の地面が目立つ場所に川が流れており、申し分程度に植物も茂ったそこが舞台だ
ここには今日討伐すべき魔物が飼育されていると聞いていた4人は……
「ふ~ん、ここが目的地って事でいいんだな?」
赤い髪が情熱と性格を表現していると見ても間違いは無いかもしれないルージュは、川から出ているであろう湿気を帯びた風を軽く顔に受けながら地帯を見渡した。
袖の長い濃い紫のジャケットも湿気をやや帯びた風に揺らされる。
「間違いは無いわね。岩地と川の特徴は、間違い無いわね」
ルージュの隣では、ツーサイドテールの青い髪を持った少女が赤い縁と黄色のレンズの眼鏡の奥にある水色の瞳で同じくこの地帯を目視していた。
サティアであるが、緑の膝より長い丈のロングスカートを風で小さく揺らしながら、ルージュ以上に左右を見渡し、この場所で正しい事を自分自身で改めて実感する。
「ですけど見た感じは……飼育してるような場所、ってか建物とかそういうのは見当たらないですよね」
リディアの青い瞳に映るのはやはり岩の地面と流れる川だけであり、何かを育てているような建物や柵等の特徴的な建造物は一切見つけられなかったようだ。
目立つ高低差も存在せず、見渡しても怪しい生物なんてのも一切見当たらなかった。
「必ずしも建物の中で飼育してるとは限らないだろ?」
深紅の双眸でマルーザも一帯を見渡すが、建物が存在しないのは事実であり、しかし建物が存在しなければ飼育が出来ないという訳でも無いだろうと考え始める。
「なんかこの場全体が飼育場所になってるっていう見方も出来そうだよな?」
マルーザから言われた事で、ルージュは飼育の為の場所が必ずしも建物の内部で行われている訳では無いと考え方を改める方向で決めたのか、それを意識した途端に今自分達が立っている場所そのものが現場になっているのでは無いかと感じるようになったようだ。
「そうなんですかサティアさん? もうこの場所自体が飼育の現場になってるって事なんですか?」
ルージュの考え方にリディアも賛成したのか、それとも初めて気付いたからなのか、飼育現場の形があくまでも建物の中という閉鎖されたものでは無く、一帯そのものがもう現場そのものになっているのかどうか、サティアに聞くしか無かった。
「一応昨日の探知で生体反応があったのは確かなんだけど、悪いけど飼育場所がどういう施設かとかそういうのまでは分からなかったのよ。あくまでも場所と生体反応があったっていう事実だけなのよ。悪いけど」
質問を投げかけられたサティアは自分の探知でどれだけの情報を手に出来たのかを説明する。現場と、そして確実に何かが存在するという事実は掴む事が出来たが、具体的な形そのものは知る事が出来なかったようだ。
今はただ手に出来た情報の話だけをする事しか出来なかった。
「まあそれだけ出来りゃ上出来だろ? わたしらなんかそういう探知自体無理なんだし、それにどう飼育されてたとしてもわたしらにあんま関係無いだろ?」
ルージュは自分自身が探知自体一切出来ないからなのか、探知能力自体を扱う事が出来るサティアを評価していたようであり、この現場そのものを見つける事だって、ルージュでは絶対に出来なかった為、もうこれだけでも充分だった様子だ。
飼育現場の形よりも、どのような姿をした魔物なのか、そちらの方が大事だった様子だ。
「ま、まあ確かにそうですよね。なんか聞いちゃいけない事聞いちゃった気分になりますよ?」
飼育場所そのものの構造を問うような質問をしたのはリディアであり、形状そのものを過度に問うような事をしてしまった事を気まずく感じてしまう。
元々ルージュとサティアはペアで行動をしていたのだから、2人が意気投合する形でリディアに意見をするのは普通の話なのだろうか。
「探知って大変な能力なんだから過度に完璧さを求めるのは違うと思うぞ? 所で、飼育されてる連中って水中に隠れてるのか、地面に潜ってるのかのどっちかなのかい?」
マルーザも探知能力の労力を理解していたのだろうか。
この言い方であればまたリディアに負担を与えてしまうと思われるが、まるでさり気無く切り替えるかのように、魔物が今どこに身を置いているのかをサティアに問う。
「それは……正直憶測しか出来ないんだけど、水中だと思うわよ? 川があるなら水中だと思った方が良さそうね」
とりあえず無理矢理にでも考えてみたいのか、サティアは環境から察知する形で答えを何とか引き出した。川が流れている場所でわざわざ地中を選ぶのもどうなのかという、ある意味では自分自身がここで飼育されている生物の立場だったら、という前提での答えに見えたのは気のせいでは無いだろう。
「さっきから川が流れる音しかしないけど、ホント連中はどこで何やってんだろうねぇ。わたしらがこうやって来てやってるのに歓迎も無しかい?」
飼育されているであろう生き物がどの場所にいるのかを聞いたマルーザであったが、生物の気配が全くせず、川の音しかしない事に違和感を感じ始めていたらしい。川そのものが怪しく揺れるような音も、地面が揺れる音も、川の音以外のそれが何も聞こえなかった事が妙に感じ始めたのである。
「いや、奴らが歓迎するってなったら真面目にわたしら命懸けになるぞ? 本気で殺しに来るって事だろ?」
勿論相手は人間では無く、敵対意識を持つ生物である為、わざわざ丁寧に迎えてくれるような態度を見せてくれる訳が無い事はルージュでも理解出来る話であり、もしこれから出会う生物達が考える歓迎を本当に行なおうとしていたのであれば、殺意を丸出しにして目の前に現れる、という話になるとしか想像が出来なかったようだ。
本当に歓迎のような事をされていた時の事を想像したのか、表情が歪んでしまう。
「だけど折角来たのに誰もいない、何も無し、だったら来た意味も無くなるし、黙って帰ってから大事が発生したらこっちが悪いみたいになるよ?」
怖い事を考えてしまっていたルージュとは違い、マルーザはあくまでも任務の事を優先にしていたからか、寧ろ生物達の方が気配そのものを出してくれていなければ手ぶらで帰る事になると、無意味な結末になる危険を説明する。
「分かったわよ……。じゃあちょっともう1回ここで探知してみるからさ」
サティアもやはり何も気配が無いからそのまま帰る、という形にする訳にはいかないと思ったからか、そして他の3人も警戒心を引き締めながらわざわざ来てくれたのだから、改めてここで探知の能力を発動させる事を決めた。
「別にサティアさんが全部悪いって訳じゃないと思いますけどね? あ、私も出来ますので一緒にやってみますね」
リディアもサティアとは形は違えど、周囲を探知する能力を持っていた為、協力する形で神経を集中させる事を決めた。
一方で、サティアも集中しようとしていたが、リディアとは異なり、立ち膝でしゃがみ込み、左右に手を広げ、まるで地面から情報を吸い上げるかのように地面に両手を接触させる。
――少女2人はその場で目を閉じ、意識を集中させる――
ルージュとマルーザは周囲を把握する能力を持たない為、ただ黙って見ているしか出来なかった。能力自体は所持していなくても、今ここで喋りかけたら妨害になってしまうという事ぐらいは分かっていた為、余計な質問等をする事はしなかった。
青い髪の少女と、紫の髪を持つ少女はしばらく目を閉じながら集中をしていたが、最初に何かを感じたのはサティアであった。
(これって……泡の音? 水中、よね?)
サティアは目を閉じた状態で、確かに水中から気配を受け取ったのである。意味の無い音とは思う事が出来ず、疑うように音に対して意識を集中させた。
(なんか動いてる……? 絶対生き物……だよね?)
リディアが感じ取ったのは、水中で何かが動作を見せている様子であった。水が揺れる音で察知したのか、そしてそれの正体が何かしらの生物だとすぐに理解する事が出来た。動きが明らかに命を感じさせる生き物らしさを思わせたようだ。
――察知が出来た事で、2人はすぐに目を開く――
「もしかしてリディアも気付いた?」
サティアはしゃがみ込みながら探知を行なっていたが、目を開けると同時にすぐに立ち上がっていた。既に目を開けていたリディアに対し、サティアは気配を感じたかどうかを聞く事を決めた。
「勿論ですよ! やっぱり水中でしたね!」
リディアも分かっていたようであり、怪しいと睨んでいた水中にやはり問題の敵対者は潜んでいたのだ。まだ姿は直接見てはいないが、探知能力で確かに存在を確認したのだ。
「え? お前らなんか気付いたのか? どんな奴なんだよ?」
探知を行なう事が出来ないルージュにとっては、もうサティアとリディアだけが頼りである。正体を教えてもらえなければ、ルージュは一切の想像が出来ないのだ。
「それってもうわたし達の前に出てくるって事でもあるのかい?」
マルーザとしてはどのような姿をしているかをここで今聞くよりも、姿を出すかどうかを明確にする方が先だったようだ。姿を出してくれれば、その時点で外見も分かってしまうのだから。
「まあそういう事になるわね! 手ぶらで帰る必要無さそうよ!」
サティアはマルーザの問いに答える形で首を縦に振る。目的の生物と出会う事が出来るのと、そしてここで無事に仕留める事を成功させなければ、あの基地にいた組織の仲間達の目論見が1つ無事に達成されてしまう為、それを阻止する為にも戦う必要があるのだ。
「そうかそうか! だったらわたしも本気出せてなんかいい感じだぞ!」
ルージュはまるで好戦的にでもなったかのように笑みなんかを浮かべながら、自分のそこまで発達したとは言い難い胸の前で、開いた左手に対して、握った右手をぶつけるような動作を行なった。
「ルージュさん分かってるとは思いますけど遊び気分は良くないと思いますよ?」
今の言い方はリディアからするとまるで楽しい事でも待っていたかのような態度に見えたからか、ルージュに対し、これから行うのは命を懸けた危険な戦闘だと伝える。
教えるというよりは、気持ちの持ち方を違う形にした方がいいという忠告というべきだろうか。
「リディアお前誰が遊びだおい?」
折角闘志を燃やしていた所だったというのに、まるでそれに対して水を差すような事を言ってきたリディアに対して、怒りという訳では無いにしろ、無理矢理に笑いを混ぜながらも目付きだけはやや威圧感を思わせる形で横目で見つめてやっていた。
「2人ともやめてって。来るわよ! 出るのはあそこよ!」
サティアは何となくそれが喧嘩のようなものに感じてしまったからか、一旦やや荒げたような声を上げてそれだけで終わりにするように伝えるなり、すぐに目的の生物の場所だと思われる遠方に指を差した。
――離れた場所から、川を突き上げるように姿を現した――
「来たね標的対象……ってあれって生き物って言っていいのかい?」
マルーザは戦闘準備として、いつものように炎と氷の属性をそれぞれ秘めたヌンチャクを右手と左手に出現させる。
川の中から現れたのは、目玉そのものを思わせるような灰色の球体で、その周囲には更に細かい球体を無数に貼り付かせていた。小さめな球体は目玉そのものと比較すると濃く、見方によっては濃い灰色というよりは黒に近いものに見えるかもしれない。
目玉だけのその生命体はじっと4人を凝視していたのだ。浮遊をしながら。
「なんだよあれ……。球体?」
ルージュも相手の姿を見て驚いたり怖がったり、というより先に不思議がると言った方が良いかもしれないであろう表情を見せていた。
見た目はほぼ円形状である為、球体という表現は間違いは無いと思われるが、そして何より目玉そのものだけの姿が何よりも奇妙でならなかったはずだ。大きさは離れている場所から見ても、恐らく人間の胴体程度の直径と見て間違いは無さそうだ。
「形は球体に近いですけど、目の化け物、ですかね? それより私も準備するか……。はぁ!!」
リディアは見た目そのままの姿を改めて自分の中で意識すると、もう戦闘段階に入っているものとこれも意識した上で、左手首に装着させているエナジーリングを右手で腕ごと握り締めながら頭の中で念じ始めた。
すると身体がうっすらと光に包まれ、いつもの水色のワイシャツとベージュのベストの姿から一転し、黒の戦闘服へと姿が変わった。
「リディアったら凛々しいわね。じゃあアタシもちょっと本気出すかな!」
隣にいたサティアはリディアの纏う黒の戦闘服を少し逞しいものとして捉えながら、自分も懐から白い仮面を取り出し、それを自分の顔面に装着させた。赤い縁の眼鏡と入れ替えるかのように。
これによって、サティアは水色の瞳だけが仮面から出た形となり、表情が分かりにくいものとなったが、目元から伝わる元々の可愛らしさは残したままで、戦闘に向かうという気持ちの表れなのか、うっすらと力強さも見えていた。そして、白い仮面の左側には、青い色の水龍を思わせるデザインが施されていた。
「ふ~んサティア、お前も本気モードってやつか? じゃあわたしもマジで行かないとな!」
ルージュはサティアの仮面を装着する時の意味を知っているのか、自分もサティアと同じ気持ちを持つべきかと、両手をその場で強く握り締めた。サティアのような特別な装備品こそはその場で身に着ける事をしなかったが、気持ちという直接形に見えないものを装備したつもりでいたかもしれない。
「でもあいつどういう攻撃手段……ん? 足元だな」
マルーザは滞空したまま特に目立った動きを見せつけない球体状の生命体を怪しんでいたが、目の前を流れる川の水面が揺れるのを目視した。
――真下では無く、目の前に流れる川と言うべきだったかもしれないが――
「足元……? おっと!!」
マルーザの言葉を聞き逃さなかったリディアであったが、まるで爆発するように水が弾ける所をリディアは川を飛び越えるように前に向かって跳躍を飛ばしたのである。エナジーリングの力を借りる形で簡単に飛び越え、そして背後では左右に退避する事で水の爆発を回避した3人をそのままにした上で、真っ直ぐと球体の生命体へと接近する事を決める。
「リディア……! あの子無茶し始めたわね」
真っ先に球体状の生命体へと接近を試みたリディアを背後から見ていたサティアは、流石に1人だけで攻撃をさせるのは危険だと感じたのか、水の球体を右手の上で2つ作り、それをリディア目掛けて投げつけた。そしてサティア自身は足元に自身で水を生成させるなり、そのままリディアとは異なるラインで球体の生命体へと向かう事を決めた。サティアは斜めに進んだのだ。まるで足元を滑るように。
――球体はリディアの左右を守るように平たく広がる――
「じゃあわたしも無茶するとするか……。とおぅ!!」
「無茶とまでいかなくても、わたしも手を尽くすとしましょうか」
ルージュとマルーザも自分達だけ黙っている訳が無く、ルージュは拳に炎を灯しながら目の前の川を飛び越えながら前進し、そしてマルーザもルージュとはまた違う志を抱きながら、浮遊という特殊な移動形式を使う中で川の上をまるでただの地面と同じように通っていく。
両者とも、目的地は勿論球体状の生命体である。
――向かっている最中のリディアの左が怪しくなっており……――
「これって……バリア? サティアさんかな?」
リディアは球体の生命体を真っ直ぐ視界に捉えていたが、左右に水の膜のような壁が出現した事にも気付いていた。それは敵によるものでは無く、サティアによって用意してもらえたものだとすぐに認識する事が出来ていた。しかし、水の膜は半透明であり、その向こう側を認識する事も出来たのである。
見えたのは、まるで操られているかのように小さな突起のように持ち上がった水面であり、それはリディアを確かに狙っていた。
「!!」
水の膜が全てを防いでくれるとは思えなかったようであり、自分に襲ってくるとしか思えなかった突き出た水面に対して防御の体勢を取った。一旦そこで進ませていた足を止めた。
――両腕で顔面を防ぎ……――
突き出ていた水面は球体の生命体に操られていたのだろうか、サティアの用意してくれた水の膜を突き破りながらリディアを狙って力強く伸びたのだ。
防御膜のおかげでリディアは仰け反るだけで済んだが、無防備な状態で直撃はしたくなかったはずだ。
「こいつ……念力でも使ってるのかな」
攻撃が収まった事を確認したリディアは両腕を下ろし、再び球体への接近を試みる。
「リディア! 自分だけで行こうとしないでね!」
声を渡されたリディア自身はそれを聞き逃す訳が無かったが、球体の生命体の横から水が柱のように立ち上がるのも、これまた見逃す訳が無かった。
立ち上がった柱の先端が竜のような頭部へと変わり、口を開くと同時にそれは球体の生命体を真上から丸飲みをするように襲い掛かったのだ。
――しかし、飲まれた生命体はそれで終わりにはせず……――
竜の頭部へと変形させた水の柱を内側から破裂させるように、球体の生命体は柱の内部から水を肥大化させ、破ってしまう。
頭部を模した水の柱は確かに崩れたが、そうなる前に何かが内部から跳び出したが、それは水の欠片のような形となって脱出したサティアであった。危機を察知し、距離を取ったサティアは水の欠片のような原型の無い形状から、即座に人型の形状へと戻る。
「やっぱり今のじゃ無理か……。でもあいつも本気出したかしら?」
いつもの人型の形状に戻ったサティアは、白の仮面の裏で水色の瞳を細めた。
「水が駄目なら火の方がいいと思うぞ!!」
僅かに遅れてやってきたルージュであったが、両手を炎で燃やしながら、たった今水を破裂させた球体の生命体を目掛け、跳躍を開始する。
球体の生命体はルージュに反応を示したのか、1つしか存在しない眼に何だか敵意のようなものを浮かべながら、ルージュに対する攻撃を開始する。
――水面を抓むように持ち上げると……――
持ち上げられた水面は先端を千切られるように分離された後、それらをまるで投擲物のようにルージュ目掛けて発射される。
それは生命体の念力によるものだが、跳躍の最中であったルージュも自分に向かって飛んでくる水の塊に対して黙ってはいなかった。
「おらぁ!! そんなもんがわたしに通じるかよ!!」
ルージュは飛ばされる水の塊を、燃え上がる拳で叩き割ってしまう。本来であれば直撃すれば身体に怪我を負う可能性がある硬度を持っていたのかもしれないが、ルージュの前では硬度が足りない塊でしか無かったようだ。弾けるように砕けた水の塊を無視しながら、ルージュは炎を伸ばすように右手から出現させるなり、それを苦無とそれに連結した鎖を実体化させた。
球体の生命体はそれでも1つだけの眼をルージュに向けたままであったが、退避する様子は見せていない。
――ルージュは苦無を武器として、そして斬撃の武器として――
鎖に繋がれた苦無を上から叩き付けるように、ルージュは未だに地面に着地していない状態で、球体の生命体の頭上を狙う。
「じゃあこれからお返ししてやるよぉ!!」
力任せにも見えるが、それでも正確に生命体の上部を狙い、苦無を落とす。
遠心力を受けた苦無が球体の生命体に確かに直撃し、しかしそれでも苦無は相手を斬りつける事は出来なかった。
――密かに水の力を蓄積させていたようであり……――
突然球体の生命体は自身の目の前で水の壁を実体化させ、それを目の前で弾けさせたのだ。反動を利用したのか、球体の生命体はそのまま右へと高速でずれたのだ。
苦無を回避する為では無く、ただ自分に武器を振り落としてきた相手に反撃をする序に自分も浮遊する位置を変えた、というだけだったのかもしれないが。
「やばっ!!」
ルージュは水による衝撃波を受けてしまい、一応は防御体勢も取っていたが、戦う為の姿勢を崩されたのは確かであった。バランスを崩しそうになるも、それでも転ばずに無事に地面には着地する。
横にずれていた球体の生命体は今度は川の水を自身の両端から吸い上げるなり、それをまるで腕のような細長い形状にさせた上で、苦無を振り落としてきたルージュにある種の仕返しをするつもりだったのだろうか。
腕のような形状の水の帯を、まるで殴り掛かるかのように奥へと引く。
「まだやんのかよ?」
しかし、ルージュへの仕返しとなるであろう攻撃は止められてしまう。それは、突如球体の生命体が伸ばしていた水の帯が突然凍り付いたからだ。
――原因は、マルーザの放った冷気であった――
「わたしを忘れるのは罪に値するよ? 小細工の腕で何か出来ると思ったかい?」
左手に持ったヌンチャクから冷気を発射したマルーザは、腕の形状にした水の帯が自由を奪われた事を確かめるかのように、球体に向かって近寄りながら言い放つ。
勿論、球体の方がまだ自由が効いている左側の水の帯で、右側の水の帯に纏わりついた氷を叩き割ろうとしている様子も見逃す事は無かったが、それでマルーザの攻撃が止まる事も無かった。
「所であんたって炎は苦手だったっけ?」
続いて、マルーザは右手のヌンチャクから炎のエネルギーを投げるように発射させる。狙った場所は球体の生命体の真下で、そして深紅の双眸が強く光るのと同時に、小さく炎上していた炎は大きくなり、球体の生命体を下から包み込んだ。
――焼かれても球体は妙に平然としている様子であり……――
マルーザの発火させた炎は球体の生命体の姿が見えにくくなる程に立ち上がったものの、それでも球体の生命体が悲鳴を飛ばす等の弱った様子を見る事は出来なかった。
元々眼しか無い為、声の類のものを出す事が出来なかったのかもしれないが。
「これって……効いて、ないよね?」
リディアは距離を取りながら球体の生命体が焼かれる様子を目視していたが、氷漬けにされていなかった左側の水の帯、人間で言う腕のような役割を負わせていたであろうそれが何だか動きを見せており、炎で包んだ事が決定打になったとはとても考えられなかった。
「リディアの言う通りだと思うわよ? あいつ水なんかばら撒こうとしてるわよ?」
サティアはリディアと異なる場所を目視していたようであり、仮面の奥にある水色の瞳は、生命体が左側にある水の帯を川に突き刺すように接触させている様子を確認していたのである。
それは水を吸い上げているようにも見えたかもしれない。川に接触させていた左の水の帯は、先端を球体の生命体の真下を狙って地面を叩き付けた。
――地面を激しく水浸しにさせてしまう――
それはリディア達に攻撃をする目的では無かったと思われる。自分を焼いていた炎を消火させる為の行為だったのかもしれないが、鎮火させた後に、自分に炎を放った相手に標的を絞るかのようにそのまま直進を開始させた。燃やした相手を先程自分が受けた自分と似たような目に遭わせる為でもあったのだろうか。
よく見ると、身体の両端から伸ばしていた水の帯を引きずるように垂らしており、先端には水を集中させて作ったのであろう水の球体が出来上がっていた。それを引きずりながら、マルーザに接近する。
「わたしに恨みでも持ったかい? でもあんたは邪魔なんだよ? 自覚あるかい?」
マルーザは球体の生命体を焼き尽くそうとした身であった為、それに対して球体の生命体が怒りを抱いたとしても不思議だとは思わなかったようだ。水の球体を引きずりながら直進してくる球体の生命体が何を企んでいるのかは分からなかったが、攻撃をしてくる事は確かである為、両手のヌンチャクを回しながら体勢を取る。
「マルーザ! なんか周囲が変だぞ! 風も変だ!」
直進してくる球体の生命体を捉えていたマルーザであったが、離れた場所からルージュの声が響いた。何か生命体の周りで悪い変化が訪れていたのだろうか。
「風? ……確かにその通りだね」
マルーザは言われた通り、球体の生命体の周囲を、特に顔自体は動かさずに視線だけを左右にずらし、状況を把握するが、ルージュの言葉に嘘は無かったようだ。
生命体の周囲だけに集中する形で風が集まっており、水面も生命体の周囲だけで揺れており、そして変化そのものを実感してから尚更分かるようになったのか、風の音そのものも徐々に強くなっていくのを感じた。
「って来るか……!」
マルーザは警戒こそしていたが、目の前で突然球体の生命体は行動を開始したのである。
本当であれば、ヌンチャクの持つ炎と氷の属性で反撃を試みるつもりだったのかもしれないが、生命体の起こした現象は攻撃が目的では無かったようだ。
――自身を包み込む水の柱を作り出し……――
「うわぁあいつ何してんだよ!? なんか変形でもする下準備か!?」
再び燃え上がる苦無で攻撃を計画していたのか、ルージュは苦無を右手に握っていたが、空に向かって遥か高く伸び始めた氷の柱を目視した事で、接近自体が危険だと察知した事で、反射的に身体の動きを止めてしまう。
「なんか召喚でも……する気なの?」
ルージュとは異なる場所に位置していたリディアも水の柱を見ていない訳が無く、そして柱自体が自分達に牙を剥いて襲ってくる事が無いと認識していたからか、やや冷静にその柱が行なう意味を分析していたが、氷の刃を持つ両手の力を緩める事はしなかった。
水の柱は周囲の者達を巻き込む事無く、徐々に細くなりながら水滴を散らしながら消滅したが、そこには中心に存在していたはずの球体の生命体の姿は無かった。
柱の存在を利用して、接近を拒みながら姿を消滅させる方法を取ったという事なのだろうか。
「収まったわね。あいつ何する……あれ? あいつどこ行ったのよ!?」
サティアも巨大な水の柱が消滅した事で多少安堵の表情を浮かべていたが、内部にいたはずの生命体の姿が消えており、本当であれば自分達にまた牙を剥いて襲い掛かってくるはずであったはずの生命体の攻撃が無しとなった為、拍子抜けでもしたかのように両腕の力を抜くが、周囲を見渡した程度では球体の生命体の姿を発見する事等、出来る訳が無かった。
「消えたねぇ。いなくなったのは事実だけど、逃げたとは思えないんだけどね」
マルーザは確かに生命体が消滅したという事実は受け止めていたが、その理由が撤退だったとは思えなかったらしい。何か異なる脅威が来るのでは無いかと、あまり気を緩める方向に行こうとは思わなかったようだ。
それに相手は当然絶命した訳では無いのだから、喜ぶにはまだ早すぎると言える。
外からは表情が分かりにくい容姿であるマルーザの隣に、元々は離れた場所にいたリディアが上から降って来るようにやってきた。
「よっと! マルーザさん一応あいつって、どう……なんでしょうか?」
着地の際に身体に多少の衝撃が入ったからか、掛け声と同時に膝を曲げたリディアであったが、すぐにマルーザに向き合ってから、あの球体の生命体が水の柱と共にいなくなってしまった事に対する今の心境を聞こうとしていたようだ。聞き方を纏めていなかったからか、どういう風に質問を投げかけるべきかで戸惑っている様子が台詞から見えてしまうはずだ。
「何が聞きたいんだい? わたしだから何を聞こうとしてるのか把握してくれるとでも思ったかい?」
マルーザはリディアの意図を掴む事が出来なかったようだ。リディアの意図が分からない質問を受け取った所で、マルーザはそれを上手に分析した上で返答をするという事は出来なかったようだ。リディアからは意図を把握した上で適切な返事をしてくれると信用されていたようだが、マルーザはそれが出来なかったらしい。
「いや、そういう訳じゃないですけど、まあなんて言うか、ちょっとあっさりいなくなっちゃったなって思ったんですよ」
気まずそうに、自分のよく分からない質問を思い出しながら申し訳無い気持ちを自分の中で膨らませる。しかし、自分から近寄った以上は正確に自分が伝えたい事を渡す必要があったと感じたのか、自分の今の気持ちをある程度整理させながらマルーザに伝えた。
「ますますわたしを質問の相手に選んだ理由が分からなくなってくるな。それは質問っていうより自分の感想になるぞそれは」
マルーザは深紅の双眸を細めていたが、それはリディアの目的が最初は質問であったはずなのに、いつの間にかこの場に対する感想に変わっていたからだ。しかし、それもまたリディアらしいとある意味ではいつも通りと評していた可能性もある。
「何2人で喋ってるの? だけどちょっと今アタシの方で探知してみたけど、あいつの気配はもう完全に無くなってたわね」
マルーザとリディアの元に歩み寄ってきたのはサティアであった。2人で相談でもしているのかと思ったのか、ならば自分もしっかりと加えて欲しいと思ったのかもしれない。
その前にサティアは自分の方で既に探知を行なっていたようであり、球体の生命体はこの地帯には存在しなくなっていたらしい。
「あ、そうなんですか? あれってやっぱり本当に逃亡でもしちゃったって事なんでしょうか?」
知らぬ間にサティアは球体の生命体の居場所を調べていたようだが、どこに逃げたのかまでは掴む事が出来なかったようだ。しかし、この場から離れた場所へと移動をしてしまったのは確かであったようだ。それはリディアの言う通り、逃亡と見て正しいはずだ。
「サティアそれホントなのか? じゃあわたしらこれからどうすんだよ? あいつ探すのか、それともホントに帰るのか? このまま」
ルージュもやや遅れて3人達が集まる場所に駆け足でやって来た。
しかし今のサティアの話は聞こえていたのか、近寄るなり、球体の生命体の気配が本当に消えてしまったのかどうかを改めて確認しようとする。その後の行動もサティアの返答で決まると思っているのだろうか。
「あいつがどこにいるか探るのって、アタシとリディアじゃないと出来ないんだもんね……。まあでもこの近くからいなくなったんじゃあもうお手上げなのは事実よ? いないものはいないんだからさ」
サティアの探知能力があれば、今ここにいなくても、別の場所に行ったのであればどの道筋を辿ったのかを調べる事も出来るという事なのだろうか。
しかし、この場所で見つける事が出来ないのであれば諦めるかのような言い分でもあった。
「近くにはいなくても離れた場所にいるっていう事なのか? 悪いけどわたしでも気配を感じ取る事は出来ないから、それが分かればわたしとしちゃ充分だよ?」
マルーザは引き下がる気が無いかのように、サティアにあの生命体の今の居場所に関して追求する。今ここにいないのであれば、違う場所に逃げたという事実でも知る事が出来ればこの後の展開は変わると信じてもいたようだ。やはり信用出来るのはサティアだけなのだろうか。
所で、リディアには頼ろうとは思わなかったのだろうか。
「……まあ、そうなるわね。ただね、アタシだったらやろうと思えば逃げた道筋を辿るってのも出来なくは無いわよ?」
どうやら生命体の行方は少なくとも今はこの場所からはいなくなっているという事であるらしい。そしてサティアであればこの場所を去った者の後を追う事も出来るようであり、皆の期待や要望によっては自身の能力を発揮するつもりでいるようだ。
「そういえばサティアさんってそれが出来るって前チラッと話してましたよね?」
リディアはサティアと違い、相手の後を追うような事は探知では出来ないのだろうか。何だかサティアの能力をより一層評価するかのように、先程の話から追尾する力も持っている事を聞いたという事実を強めるかのように聞く。
「リディアお前何パンツがチラっと見えたみたいな言い方してんだよ? ちょいエッチぃぞお前?」
しかし、そこでルージュはまるでリディアの聞き方に揶揄いを飛ばすかのように、リディアの細い肩を右手で押し始める。
まるでリディアが普段から妙な事を意識している事を疑うかのように、ルージュは橙色の瞳を細めながら嫌らしくにやけていた。
「ルージュあんたなんていちいちそういう捉え方すんのよ? 煩いわよ?」
まだ白い仮面を外していなかったサティアであったが、そこから見える水色の瞳には何だか怒りの色が籠っていた。無理矢理嫌らしい気持ちを持っていた事にした上で疑うような事をしたのであれば、周囲の者達もあまり気分が良い話にはならないはずだ。
声のトーンもやや落ちていた。
「はいはい分かったって。ちょい言ってみただけだ。それにここのメンバーってパンチラする奴なんて――」
「煩いって! いちいち話広げないでって! どうでもいいから!」
ルージュは元々宜しくない言い分だったという事は自覚していたようで、そしてもし何かあったとしても見えてしまうような服装や装備をしている者は今この場には1人もいない為、わざわざそれを口に出そうとしたが、再びサティアから荒げた声を飛ばされてしまう。
威圧感によって無理矢理に発言を止められてしまったルージュだが、サティアとしては最後まで聞いてやろうとも思っていなかったのだろう。
「ま、まあとりあえずじゃあサティアさん、一応その探知、やってもらっていいですか? 辿ってもらっていいですか?」
白の仮面を装着させたままのサティアであった為、リディアから見てもあまり表情を窺う事は出来なかったが、水色の瞳が明らかに怒ったような雰囲気を見せていた為、これ以上悪い空気になってしまわないよう、サティアに仕事に入ってもらうように頼み込む。
仕事とは、勿論あの球体の生命体が逃げた道筋を調べてもらう事だ。
「分かったわよ。ちょっと苛々したけど、気持ち切り替えてじゃあちょっと探知してみるわね。あの岩場行ってくる。高い場所の方がいいし」
サティアも怒ってしまう選択肢を選んだ事を反省するかのように、一度皆から視線を逸らした後に、探知の為に偶然目に入ったやや背の高い岩に走り寄り、手も使わずに軽い跳躍だけで飛び乗り、念じる為にゆっくりを目を閉じた。
「わたしの事そんなに根に持たないでくれよ……」
ルージュは多少ふざけただけだったのかもしれないが、サティアを怒らせてしまい、そしてリディアに宥めさせるという事までさせてしまった為、今頃ながら余計な事を言うべきでは無かったかと反省をし始めた。恐らく、この言葉はサティアには聞こえていない事である。
「さてと……」
一方で、サティアは目を閉じたままで、周囲の空気を感じ取る為に意識を集中させる。閉じた視界の中にある暗闇の中で気配を探る為に、大気中に含まれる水分から軌道を辿るが、思うような結果を掴む事が出来ないようだ。
(やっぱりいない……わね。全く気配が伝わってこない……)
まだ遠くには行っていないはずである為、気配を感じられない事は無いと信じたかったようだが、念じても思うような気配を掴む事が出来なかったようだ。
更に意識を集中させ、探知の範囲を更に広げる。
(いや、いる? でもなんか小さいわねさっきのと比べたら……)
サティアは突然何かの気配を掴み取り、明確にそれがどういう存在なのかを掴み取る為に目を開く事をせず、大気中の水分を伝うようにして気配が存在する場所を割り当て、そして姿や形もイメージしようと更に神経を集中させる。
(!!)
どうやら場所も姿も把握が出来たようだが、それは球体の生命体の気配では無く、2人の人型の何かだったようだ。気配の場所であった、リディア達とは違う方向の離れた岩陰に2人の気配が存在したが、それを目視する為に目を開いたサティアの眼中に映ったのは、遠くからでも分かる銃口そのものであった。銃身は長かったが、しかし今は長さよりも銃口そのものが明らかにサティアに向けられていた事であり、そして銃口自体が果たすべき目的を、たった今果たしてしまったのだ。
それは勿論サティアに目視されたが、それは……
――サティア目掛けて発射された、1発の銃弾であった――
実は最近は絵画作業も始めてまして、メインキャラ達の絵を描く作業も兼ねる事にしてます。メインキャラはやっぱり絵にした方が作者としても愛着が湧きやすくなるものですので、頑張るつもりです。




