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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第35節 《躾の皆無な理性無き魔物 現れたのは破壊の獣ビスタル》 1/5

今回は遂に怪人であるシドラオとの決着になります。大変な相手だったとは思いますが、ようやく今回で決着です。





         リディア達は敵組織の基地を後にするつもりだった


         緑の体皮を持つシドラオを瀕死にまで追い込ませ……


         次の目的は別の場所で飼育されているであろう生物の保管地域


         しかし、シドラオは少女の身体を味わうという欲望を捨てる事が出来ず


         残る力を振り絞ったのか、怒声を上げながらリディアを標的に……








「てめぇらぁ触らせろぉ!!」


 リディア達4人は地下に存在した研究エリアを抜け出す為に地上へ続く通路へと向かっていたが、背後からシドラオの怒声が響き渡ったのだ。


 元々はドーム状に形成された触手の内部で瀕死の重傷を負い、倒れていたのだが、ドームを突き破りながら、怒声を響かせたのであった。


「ん?」


 4人揃って背後を確認するが、その中でリディアは明らかに自分が狙われている事に気付く。しかし、対策が間に合わなかった。




――初めて見るような巨大な手が真正面から迫り……――




「!!」


 ほぼ上半身を鷲掴みにされる形で、身体ごと背後を振り向いていたリディアはそのまま床に押し倒されてしまう。声を出す事も出来ず、しかし、押し付けられてからようやく無理矢理に奥から出すかのような声を敵対者に飛ばす事が出来た。


「何……これ!? まだ生きてた!?」


 リディアは地面に押し倒されてしまったが、痛みよりもシドラオにこれだけの力が残っていた事に対する驚きの方が強かったようだ。異様に巨大化した右手で地面に押さえつけられてしまったリディアだが、胸部をしっかりと押し付けられているせいで押し返す事は出来なかった。




「へっ! 生かすとでも思ったのか俺が!?」


 横に対して奇妙な広さの口を持つ緑の皮膚を持った怪物のシドラオは、リディアを肥大化させた右手で押さえ付けながら、自分に対して油断を決めていたリディアをまずは言葉で陥れた。押さえつけられたリディアの表情は黒いマスクの下で怯えているに違いは無い。


「お前!! リディアから離れろよお前!!」


 まだ生きていたのか、とでも言いたそうであったルージュは、右手の拳に炎を宿しながら赤い髪を激しく揺らす勢いでシドラオへと飛び掛かろうとする。




「黙れ! 近寄るな!」


 シドラオは本気でリディアを狙いたかったからなのか、近寄ろうとするルージュに対し、怒声を放ちながら左腕を激しく振った。それはルージュを殴打する為では無く、風圧を発生させる為であった。


 風圧はルージュの進行を止めてしまったのは勿論、濃い紫のジャケットや真っ赤なスカートも激しく揺らしてしまう。


「うわぁ!!」


 風圧に逆らう事が出来なかったのか、気合や根性を駆使しようとしても脚が動いてくれなかったようだ。ルージュの悲鳴が空しく止むだけであった。




「ヤバいわよ! こいつ本気でなんかする気よ!」


 サティアの水色の瞳はシドラオの行動を見逃す事は無く、押さえつけていたリディアから肥大化した右手を離したと思うと、次の隙も与えぬ間にリディアの両足首を両方の手で掴み、持ち上げる様子を捉えていたのである。


 リディアは逆さ吊りのような姿勢にさせられるが、止める気持ちがあるのはルージュとサティアだけでは無いだろう。


「こいつが暴れようが引き剥がすしか無いね!」


 赤黒い影の肉体を持つマルーザは相手が何をするにしてもまずはリディアから離させる事を考えるべきだと気持ちを抱いたのか、右手からヌンチャクを出現させる。言葉の通りにさせる為の準備なのだろうか。




「へはははは!! もうお前でいい! とことん味わってやる!!」


 精神が崩壊していると思われるかのような珍妙な笑い声を上げながら、シドラオは持ち上げているリディアの足首を左右に強引に広げてしまう。


「やめ……!! 味わうって……何する気!?」


 足首で持ち上げられていた為、リディアは逆さ吊りのような状態で尚且つ脚をそのまま広げられてしまう。白のミニスカートが重力に従って内部をあっさりと露出させてしまうが、元々リディアは茶色の短パンを着用していた為、スカートを押さえる事はしなかった。


 それよりも、地面に接しているのがほぼ後頭部だけであり、上体にかかる負担を少なくする為に両腕は地面に接触させており、スカートの内部を見られる事よりも、脚を広げられた上で何をされてしまうのか、行為そのものの方が心配であったようだ。




「味わう前にまずはあんたがくたばりなよ今度こそはねぇ!!」


 マルーザからすると、リディアにとってのスカートの中を晒される意味はよく把握こそしていなかったが、少女の脚を強引に広げている行為だけは許せたものでは無かったはずだ。これから快楽に浸るつもりだったのかもしれないが、それを阻止する為に用意したヌンチャクを激しくその場で振った。殴打が目的では無く、衝撃波を放つのが目的だ。


 放たれた衝撃波、それは外見は炎ではあったが、非常に薄く、刃物そのものと認識しても間違い無さそうな物質であった。




――マルーザの炎がシドラオの顔面に直撃するが……――




「味わって……や……はははははぁ!!!」


 確かにシドラオの顔面に、刃物と化した炎が直撃したが、炎の方が儚く砕け散ってしまう。しかし顔面には明らかな斬り傷が出来上がっていた。


 それでも痛み自体を感じていないかのように再び笑い出す。リディアは未だに掴まれたままである。


「こいつ……なんか変……ってうわぁ触手生やしてきた!!」


 ルージュは顔面に直撃を受けたシドラオの態度に違和感を感じていたが、それは現実となって出現した。シドラオの身体全体から細かい突起が生え始めたのだ。そして、生えたそれはシドラオの肉体から抜け落ち、地面に落ちた無数の触手が周囲に広がるように動き出す。動きは遅いが、数が数であり、気持ちの良いものである訳が無い。




「不味いわよ! 早くリディア解放させてあげないと!」


 サティアだって本来であればすぐにリディアを自由にしてあげたいと思っていたはずだが、生えてきた触手達の気持ち悪さが原因でリディアの場所へと近寄る事を躊躇ってしまう。


「だよな! でも細かいのもメッチャ出てきたぞ!」


 ルージュもサティアと同じ気持ちなのは間違い無いが、触手はシドラオから未だに生え続けており、そして未だにシドラオに掴まれているリディアの脚にも、抜け落ちた触手達が這い始めていた。


 やはりルージュにとっても触手が気持ち悪い存在として認識しているからか、近寄ろうにも気持ちがそれを邪魔してしまっていた。




――リディアは掴まれた足首が緩むのを感じ……――




「あれ? 緩んでる!? よし! これなら……!!」


 リディアは自分の身体に細かい触手が這い込んでいる事よりも、シドラオに掴まれていた両脚を引き離させる事を優先にさせており、シドラオの握力が弱くなっていた事に気付くなり、一気に両脚を、膝と股関節を折り曲げる形で強く引いた。


 やはり握力は弱まっていたようであり、軽々という訳では無かったが、普段から体術を駆使しながら戦っているリディアの体力であれば少し力を強めれば抜け出せる程であり、シドラオの手から自分の足を離させる事に成功する。




「良かった! 離れた! ……ってこれ気持ち悪い!!」


 脚を自由にさせたリディアであったが、シドラオの体表から現れた触手達の一部がリディアの身体を這っていた為、シドラオから距離を取る形で跳び、そのまま立ち上がるが、ニーソックス形状のブーツに纏わりついていた数体の細長い物体を見て反射的に両手を使い、激しく叩くように払い落す。


「リディアお前大丈夫だったか!? それとあいつなんで動かないんだ!?」


 意外と大事(おおごと)にも至らずに無事にシドラオから抜け出し、自分達の近くに寄ってきたリディアに対してルージュが声をかける。


 リディアへの心配は一旦置くておく形で、今度は豹変したシドラオへと目を向けるが、全身から細かい触手を出現させていただけでは無く、リディアを持ち上げていた最初の姿勢から完全に硬直していたのだ。リディアに逃げられたのであれば、それなりの反応を見せるはずである。しかし、それすら一切無かった。




「理由はあいつ自身が教えてくれるだろうなあ。数秒後にな」


 マルーザはもう気付いていたのかもしれない。まるで他の3人にシドラオの姿をもう少し凝視するように仕向けるかのように言葉を渡し、そして答えが出されるのも僅かな時間である事も伝えていた。


「どういう事だよ?」


 一応はルージュもマルーザに言われた通りに、異変が発生し始めていたであろうシドラオに向き直す。未だに小さな触手を排出させ続けているが、本体そのものを改めて凝視すると、そこに何かを感じたはずである。




「いや、あいつ膨らんでるわよ? まさか……爆発する気?」


 サティアは触手の排出以外の変化に気付いたようである。触手に包まれた中で、シドラオの緑色の肉体は膨張を始めており、そして視覚的に内側から破れてしまいそうに見えたようでもあった。


 その様子を見て、より一層近寄りたいという気持ちにはならなかっただろう。寧ろその逆の方向へと進みたい気持ちになっていたはずだ。


「逃げた方が身の為……だよね!!」


 リディアはもう、触手塗れの身体とそして肥大化させつつあるシドラオに純粋に近寄ろうとすら思わなくなっていたようであり、そして肥大化した上での末路を考えるととても穏やかな光景で済むとも考える事が出来ず、その場から離れる事こそが最優先であると、やや弱々しい口調で言いかけていたが、最後には強く言い切った。




「そうなるね! 実行開始!!」


 一言それだけを言ったマルーザは、まるで自分が最初に、そして先頭を取るかのように前へと進みだす。下半身が存在しない浮遊した姿であった為、地面を滑るように移動し始める。勿論速度は遅いはずが無い。


「オッケイ!!」


 マルーザの態度に合わせるかのように、ルージュも何だかこれから遊びにでも行くかのようなテンションで返事をするなり、一気に足を走らせる。マルーザの態度が恐れを伝えるそれでは無かった為、何となく今の状況は確かに危険ではあるが自分達にとっての命の終了を意味させるものでは無いと信じる事が出来ていたのだろうか。




――4人はその場から走り出す!!――




「なんで2人揃ってハイテンションなのよ……。まいいや」


 サティアは何故か逃げる側でいるはずなのに緊張感が薄いような態度でいるルージュとマルーザの背中を見ながら共に走り続ける。黄色のロングスカートを風圧で揺らしながら、ルージュ達のペースに合わせ続ける。


 マルーザには走るという表現は相応しくない可能性があるが、誰もそれは意識していないだろう。


「それよりあいつ……!!」


 リディアは走りながらやはり背後で硬直していたシドラオが気になっていたようで、背後を確認するとそこでは腹部を異様に膨らませていたシドラオの姿があり、明らかな目立つ膨らみ方を見せていたその部分を視覚的に想像出来るであろう結果を見せてきたのだ。




――シドラオは腹部を一気に破裂させてしまい……――




 破裂自体はそのまま周囲を崩壊させる、というものでは無かったが、その代わりとでも言うべきなのか、体内に隠れていたであろう人間の腕程の太さの触手が次々とシドラオの裂けた腹部から這い出てきたのだ。それは四方八方に地面を這いながら突き進みが、逃げる4人の存在に気付いた数体が真っ直ぐとリディア達を狙い、速度を上げる。


「大変です皆! あいつまた身体から触手みたいなの出してきましたよ!」


 最初にシドラオの体内から大型の触手が現れた事を目撃したのはリディアであった為、皆もそれを理解していたのかを確認する意味合いも持たせる形で声を張り上げて伝える。


 勿論触手相手に戦う気は無い。今は逃げる事が優先である。




「マジか! でもいんだよ! 逃げりゃそれでいんだよ!」


 リディアからの知らせを聞いたルージュは走りながら背後を確認するが、確かにシドラオの腹部が裂け、まるで内臓でも露出させるかのように触手を這い出させており、生理的な気味悪さも存在したのか、物理的に距離を取る意味でもこの場所から立ち去る事を更に強く意識した。


「とりあえず今はそうね! あんなのに捕まった時の事は想像したくないわね!」


 サティアも本当であれば逃げた後の事や、この基地の今後の事も考える必要があったと意識していたのかもしれないが、今は触手に捕まればそのまま終了を迎えてしまうという事は把握していたのだから、脱出に全ての神経を注ぐのは間違いでは無いはずだ。








                  ***** *****







 戦闘用の危険な生物を生み出す研究施設から無事に脱出をしたリディア達は、今は離れた場所から触手で内部を支配されてしまった研究施設を眺めていたが、4人とも無事に生還出来た事は、全員がそれぞれ喜ばしい話として受け止めているはずだ。


「とりあえず……無事に脱出出来て、良かった、んですよね?」


 リディアは凄まじい情景と化した基地を、離れた場所で見つめながら、自信が無さそうな口調で口に出した。これは自分以外の3人に問うている所なのだろうか。


 基地の窓からも触手が先端から露出しており、内部に残っていたらどうなっていたのかなんて想像しようとも思わないはずだ。


「お前その言い方だと脱出した事が駄目な事だったみたいに聞こえるぞ?」


 ルージュはそのように感じたのだろうか。自分の身を守る事はこの先の戦いを継続させる為にも大事な事であるはずだが、ルージュとしてはまだ基地でのすべき事を残してきたのでは無いかとリディアが考えていると読み取ったのかもしれない。




「いや、別に駄目だった事だとは思ってませんよ! ただ……まあ基地の機能はちゃんと止められたのかなって、思ったんですよ」


 リディアはまずは否定の意思をルージュへと伝えるが、基地で行われていた改造生物の生成はもう実行不可能という所にまで持っていく事が出来ていたのか、それが心配だったようだ。


「それはちょっと分からない気がするけど、あの有様だともう内部も滅茶苦茶になってる気がするけどね」


 サティアとしても、やはり触手だらけになった基地の様子を見る限りでは、とても今後の実験や研究を継続させるのも無理に近いのでは無いかと悟っていたようだ。


 表情はもう気持ち悪い物を見ている時のそれになっており、今自分達が基地から離れた場所にいる事実が今の自分の命を繋いでいるとも感じていたかもしれない。




「今は外からの外観で現状を予想するしか無いみたいだね」


 マルーザは特に恐れた様子も見せず、元々表情を把握しにくい深紅の双眸(そうぼう)で触手が今している事を冷静に捉え続けていた。窓を突き破りながら先端を暴れさせている触手の本能の強さを何となく憐れんでいる可能性もある。




「いや、それで言うともうあの基地は終わりだとしか思えませんよね?」


 マルーザの問いのようなものに答えたのはリディアであった。窓からはみ出した触手が暴れている様子を見れば、直接目にする事が出来ない内部では何が起こっているのか、分かると言えば分かるが、実際に目にしたくないという感情が生まれても不思議では無いはずだ。


 途中でリディアは押さえつけられるというピンチに陥ったが、今は気持ちも落ち着いていたのか、呼吸も整っている。


「所で、さっきアタシが動けなくしたあの妙な男女もあれじゃあ、もうどうしようも無いわね」


 ふとサティアは思い出したであろう粗暴な性格の男女2人を基地の内部で拘束した話であったが、まだ基地の中にいたのであれば、確実に触手に巻き込まれていたという憶測が通ってしまうはずだ。


 元々敵対者であるからこそ水の魔力で束縛をしたが、身動きが出来ない中で触手に巻き込まれた事を憐れむべきかと考えたかもしれないが、敵対者であるならばその考えは無駄だと感じる事にそう時間は必要無いはずだ。




「悪人は絶たれる運命にあるってのをとことん表現したような光景だなあれ」


 ルージュは殆ど自分達の勝利が当然であった事と、そして悪人であったあのゼノやマチルダ、そして基地の存在そのものも悪の対象となっていたであろうそれらが滅ぶのは当然の道理だとも誇っているかのように、その場で笑い出しそうになるのを堪えたかのような表情を見せていた。


「まあ本当は……正直あの2人が本当にどうなったか調べたい気もしますけど、あれだけウネウネしてる状態なら近寄らない方がいいですよね」


 リディアとしては、因縁があった野盗の男で尚且つあの基地の責任者に近い立場でもあったであろうゼノの安否が気になっていたのかもしれないが、やはり触手の関係で基地の潜入を再度試みるのは危険だと判断したようである。




「触手であんな状況になってるならもうホントそうだわな。近寄って引きずり込まれたりでもしたら今度こそ助からないぞ」


 ルージュは何となくリディアが基地にまた近寄ろうとしていたと疑っていたのだろうか。そして触手の性質も理解していたのか、接近した時に捕まえてくる可能性もあった為、まさか本当に基地に近寄るとは思わなかったが、念の為とでも言わんばかりにルージュは近寄った場合の末路を簡潔に喋る。


「気付けばもう日も落ちそうになってるのか。適当に宿でも見つけて夜に備えるか」


 誰も空の状況の事に触れようとしなかった為か、マルーザはふと空を見上げ、夕暮れの色に染まっている事に気付き、これから次の行動に入ろうとしても今の体力では持つかどうかも分からないと考えたのかもしれない。


 夜は一旦宿に身体を預けた上で、明日の事はそこで話し合うのも悪くは無いはずだ。




「その方がいいわね。一応近くに小さい町があるからそこで今日は休みましょ」


 サティアはこの地域の情報に詳しかったのだろうか。そしてやはり夜になりそうな時間帯からまた次の戦いに行こうとは思わなかったのか、これから宿へ向かう為に皆を勧めたのは確実である。

シドラオは遂に滅んでくれました。リディアって装備としてはミニスカートだけど内部に短パンを着用してるので脚を掴まれてもそこまで被害は大きくならないんですよね。そういう対策はホントに必須だと思いますが、全員が全員そういう対策をしてる訳じゃないんですが、それがいいのか悪いのかは……。

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