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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第34節 《地下の実験施設 材料と化すか、施設を潰すか》 5/5

今回もリディアのピンチから始まると思いますが、リディアなので意外と乗り越えてくれる……かも。そして今回で34節は終わりですが、戦い自体はまだ終わらないと思います。







          リディアは突如陥れられてしまった


          改造された末に触手を操るようになった少女がいたが


          触手はドーム状と化してしまい、リディアを閉じ込めてしまった


          その前にリディアはチューブ状の物体によって既に拘束されており……








「マルーザあんたどういう身体してんだよ……」


 赤い髪の少女であるルージュは、自分の隣でドーム状に形成された触手の内部に侵入していくマルーザの姿を見てただ声を漏らすしか出来なかった。


 赤黒い影のような肉体のマルーザは徐々に身体を削るように縮小させていき、気体の形状となりながら触手の隙間へと入り込む作業を続けていたのだ。


「少なくとも人間とは違う、って言わせてもらうよ? 面白味なんて期待しちゃ駄目だよ?」


 姿が実際に薄まりつつあっても、喋る事だけは普通に行なえたようであるが、マルーザの肉体は徐々に気体そのものへと変化していき、とうとう全てがドーム状の内部へと吸い込まれていった。




「マルーザって決断と仕事が早いわねぇ……。とりあえずアタシ達は、どうする?」


 ツーサイドの青い髪と、水色の瞳を持つサティアも関心と他の感情を持たずにはいられなかったようだ。


 しかしサティアはマルーザのように身体を気体にさせる事は出来ない為、外で待っているしか出来なかっただろう。










               *** ***









 気体と化した状態でドーム状の触手の内部へと侵入したマルーザは、内部で再び形状を元の形へと戻しながら、その内部を直視する。


 薄暗い内部ではあったが、マルーザの眼は暗い場所でも機能するのか、特に支障は無かったようだ。


「さてと、リディアは……」


 内部の薄暗さをものともせずにマルーザは内部を見渡そうと視線を左右に反らそうとしたが、それをする前に目に入ったものがあったのだ。




――目の前には意外な光景が広がっていたのだ――




「あ、マルーザさんですか? 実は、もうほぼ決着付いちゃったんですよ」


 恐らくマルーザは相手を見てそれがリディアだとすぐに分かった事だろう。


 そしてリディア自身も平然と立った状態で、そして手には普段は武器として使っているはずの氷の刃も握っておらず、ほぼ平然とした様子でマルーザに向かって歩き出した。


「……なんかわたしの想像超えた事になってたね。でも信じて正解だったのも事実かい?」


 マルーザとしてはドームの内部でリディアに絶体絶命の事態が降りかかっていたと予測していたのかもしれないが、いざ侵入すればあまりにも静かな光景が広がっていた為、それが想像を超えたという意味合いになっていたのかもしれない。


 しかし、最低でもシドラオに敗れてはいなかった為、それはそれで安心は出来たはずである。




「あの……何を信じてたかはよく分かんないんですけど、まあこのシドラオ、でしたっけ? こいつあっさり私の前で弱点みたいな場所見せちゃったせいであっさりこれなんですよ」


 リディアは自分の理解を超えたような思考で事を進ませていたマルーザを掴み取る事が出来ず、とりあえずは結果を説明しようと、仰向けでだらしなく倒れているシドラオを指差した。


 弱点の話を持ち出したリディアであったが、リディアは相手の弱点と思わしき場所に攻撃を加えたのだろうか。結果として、シドラオは仰向けのまま、苦しそうに呼吸を続けていたのだろうか。


「もう殆ど瀕死だなこれ。所でさっき変なよく分からない奴に覆われてなかったか? それは大丈夫だったのか?」


 マルーザはもうシドラオが虫の息だとしか思う事が出来なかったようだ。シドラオは放置しても問題は無いと思ったのか、話題を変えたが、先程はリディアがチューブのような形状をした妙な物体に上半身を拘束されていた様子をマルーザは見ていた為、それについての答えを聞きたかったようだ。




「それもこの有様ですよ? ちょっとややこしい説明になっちゃうんですけど、何故かこのシドラオって奴が私の頭から襲おうとして多分……このチューブみたいな奴の上から入り込んだんだと思うんですけど、その時に私の頭から噛みつこうとしたのか分かんないんですけどね、思い切り口を開いてきたんですよ。その、チューブの中で、ですね」


 リディアの傍らではシドラオが倒れているが、リディアの足元にはピンク色の何か皮のような欠片も無数に散らばっていた。どうやらシドラオだけでは無く、自分の上半身を覆い尽くしたあのチューブ状の物体も仕留めていた様子だ。しかし、リディアから直接仕留めたという話は聞かされておらず、真相はまだ分からないと言えるだろう。


「何となく分かる気がする説明だな。所で、噛みつかれそうになったのに助かったっていう事か? 説明はまだ足りないな」


 マルーザとしては自分の方で状況を整理していたようであり、チューブ状の物体の中で最期を迎えられそうになった事は理解した様子だ。しかし、どのように決定打を加えたのかという所まではまだ辿り着かなかった様子でもあった。説明を求めなければ先には進まないだろう。




「続きはまだありますよ! その、シドラオが口を思い切り開きながら私に近づいてそのまま噛みつこうとしたみたいなんですけど、明らかに口の中が凄い弱そうだったので何とか無理矢理手を伸ばして一撃飛ばしてやったんですよ。そしたら突然シドラオの奴、叫び出してそのまま悶えだしたんですよ。因みに暴れ出した時にそのままこのチューブみたいなよく分かんない物も千切れたのでそれで私も脱出出来たんですよ」


 やはりそこはリディアの言う通りであり、どうやらシドラオがうっかり弱点を露出させたが為に、それをリディアは狙ったようである。


 チューブの内部という窮屈な状況の中でも、決して諦める事をしなかった事が結果に出たのだろうか。手を使ったという事はやはり得意武器である氷の刃を使ったのか、それとも他の手段を活用したのかは分からないが、どちらにしても与えた一撃がシドラオにとっては耐えられたものでは無かったのは確かだったようだ。


 そしてチューブ自体はリディアが裂いたのでは無く、シドラオの悶えた際の身体の動きによって千切られたというのがここの説明で判明したと言える。


「そいつ弱点を自分から露出させた結果こうなったっていう訳か」


 マルーザもリディアと同じようにシドラオを見下ろしながら、表情がよく分からない容姿の奥で何となく笑みを浮かべたかのような雰囲気を見せつけた。組んだ腕が何となく表情を連想させてくれる。




「まあそんな感じです。因みにこの触手操ってた子は流石に本当に刺してしまうのはちょっと不味いかなって思って、拳で一撃で黙らせる事にしたんですよ」


 リディアの足元には、シドラオとチューブ状の物体の残骸の他にも、緑のワンピースを来た少女も倒れていた。服装は少し可愛いかもしれないが、これでもリディアに対して触手を放った改造済みの戦闘員である。


「適切な判断かどうかは置いといて、そいつって触手なんか操ってたけど一撃で黙る程弱かったのかい?」


 マルーザも緑のワンピースを着用した少女が触手を操っている様子を目撃していたようだが、触手の脅威を考えた場合と、今のあっさりと倒れている様子の2つがどうしても噛み合わなかったようであり、今の弱々しく倒れている様子が理解出来なかったらしい。


 拳と言われていたから、殴打を繰り出したというのは想像だけですぐに掴み取れたらしい。そして、質問の中身である強弱の話は意外とあっさりと済まされる事になる。




「弱いのは事実だったみたいです。触手は怖かったですけど、この子自身は凄く脆かったみたいですよ? それより、このシドラオ……ですね」


 実力に関する事実を平然と告げたリディアであったが、敵対者である事に加え、触手によってあまり目視されたくない部位を狙われた事もあった為、寧ろわざと冷たい事実をぶつけてやろうとでも考えていたのかもしれない。


 脅威だったのは触手そのものだけであり、本体である少女自身には特別防御が強かったという事も無かった様子だ。そして少女の事をあっさりと放置するかのように、シドラオの方へと視線は移る。


「こいつ随分苦しんでるけど、何か言いたそうだよ?」


 マルーザは、倒れながらも何かを喋ろうとしていたシドラオの事に気付き、気持ちだけは聞いてやるというような体勢に入っていたのかもしれない。




――残り僅かな気力を振り絞るような声が静かに出される――




「終わったと……思ってんのか……?」


 口の中に存在した弱点を攻撃されたせいで未だに苦痛が残っているのだろうか、シドラオは敵対者がまだそこにいる今だからこそ、言う事を聞かない身体を無理矢理動かすかのように声を絞り出していた。


 目付きに籠っているのは殺意そのものだ。




「相手に弱点見せるような隙だらけの奴がこの先勝ち続けられると思ってたの?」


 リディアからしたら本当に終わりを決めたと意識しているはずである。いくら相手に致命傷を与える為だったとは言え、盛大に敵対者に向かって自分にとって狙われたら不味い部分を露出させてしまう戦闘意識の低さがリディアに勝利を譲る結果となってしまったのだ。


 黒いマスクの下で、リディアは自分に最期を迎えさせる予定でいたであろう相手に対して哀れみの表情を浮かべていたはずだ。


「偉そう……に……言いやがって……」


 シドラオはまだ自分の現実を受け止める事が出来なかったのか、まだ戦う意識が残っているかのような敗者らしい台詞を漏らした。


 しかし、立ち上がる様子は見せていない。




「負け惜しみなんか聞いたって時間も無駄だし意味も無いだろ? とりあえずどうする? この後」


 マルーザはもうシドラオの戦闘の継続は無理だろうと読んでいたようであり、通常であれば誰であっても同じ事を考えるであろうこの場所で、敢えてリディアに次の行動を聞き始める。


「とりあえず……そうですね、この中から出た方がいいですよね。薄暗いですし、もうこんな奴と関わりたくも無いですし」


 やはりリディアとしてはドーム状の触手の内部から出たがっていたようであり、起き上がっていないシドラオを嫌そうに見下ろしながら、気持ちの奥に隠れていた本音をその場で見せてしまう。シドラオもいつ立ち上がってくるか分からないのだから、早く自由になりたいはずだ。




「流石のリディアでも敵相手だと冷たくなるのか。所で、この触手何となく脆くなってる気がするけど、リディアはどう思う?」


 マルーザもリディアが敵対者相手にも優しい言葉を渡すとは思っていなかったのだろうか。突き放すような言葉は確かに敵対者であるシドラオには相応しいと納得もしていた事である。


 そしてこのドーム状の触手から抜け出すには触手そのものをどうにかしなければいけないのは確かであるが、マルーザは壁となった触手に近寄り、手を伸ばすとそこで違和感を覚えたようであった。


「え? そうなんですか? どれどれ……」


 リディアもマルーザの意図を掴む為にすぐに壁となっている触手に近寄り、マルーザの隣で触手に手を伸ばす。




「あ、ホントですね。なんか力入れて斬ろうとしたら斬れそうですね。じゃあやっちゃいますか?」


 触ってリディアも感じたようだ。壁としての機能を信用出来るのかどうかが疑わしい程に柔らかさを出してしまっており、リディアの武器である氷の刃があれば簡単、という程でも無いにしろ少しの労力を使えば切開する事が出来ると思わせてくれる程であったようだ。


 リディアはすぐに行動に入る為に、右手に早速エナジーリングの力を込め始める。うっすらと手元に冷気が集まっていく。


「それ以外今は選択肢は無いだろうね。居座る意味も薄いし」


 抜け出す為の手段はどうであれ、触手の内部から抜け出す事そのもの以外を選ぶ事を考える方が不思議なくらいであったと考えていた可能性もある。マルーザとしても内部からは価値を感じ取る事は出来ないのだろうか。


 流石に触手そのものをリディアだけに任せるのは気まずいものがあるはずだ。マルーザも協力する為なのか、右手から炎の属性を宿したヌンチャクを出現させる。




――これから作業に入ろうとした時であった――




「触らせろ……」


 明らかに苦痛に塗れた声であったが、シドラオは確かに声を出しており、そしてそれはただの欲望を求めるものであったのは確かだ。




「リディアまたあいつなんか言ってるぞ? まあどっちに言ってるかは気になるけどね」


 マルーザは一瞬背後を振り向きながら、リディアに対して、瀕死の敵対者が言葉を投げかけていると教えてやったが、深く考える事はしていない様子だ。


「どっちでもいいんじゃないんですか? じゃあさっさと斬り払っちゃいますか!」


 その返答だと、リディアも聞こえてはいたようであるし、聞き取ってもいた様子だ。しかし、今は触手の壁を切り裂く事が先であり、右手からいつもの武器を出す為に力を込める。




――手慣れた様子で氷の刃を出現させる――




「せーのっ!」


 リディアは自分に気合を込めさせる為だったのか、わざとらしい掛け声を出しながら、刃の先端を触手へと突き刺した。そして力を込めて下へと動かした。


 まるで扉が開くかのように触手は裂かれ、ようやく出口がその場で出来上がる。


「やっぱり脆くなってたのか。わたしは必要無かったね」


 リディアの下に向かって裂く行為を横で見ていたマルーザであったが、本当に耐久力が低かったのか、触手はあっさりと入口を作らせてしまったのである。


 ヌンチャクを取り出した意味が無くなったと感じたからか、リディアに知らせる事も気付かせるつもりも無いかのようにそのまま消滅させた。




「じゃあ出ちゃいますか! これでまあ私達のやる事は終わり、でしょうか?」


 リディアは入口として開いた触手の斬り口を手でなぞりながら、マルーザに声をかけた。触っていたのは、潜っている最中に崩れたりしないかどうかという確認だったのだろうか。


「とりあえずはここの話をギルドには報告っていう後始末が待ってるけど、今は帰る事だけ考える方がいいね」


 マルーザの言う通り、この基地の存在そのものは放置して立ち去るという訳にはいかないはずだ。厳密には基地を立ち去ったからと言ってそれでやる事が終わる訳では無いのだ。


 しかし、基地の中にいては気持ちが落ち着かないのは確かである為、確かに基地を出る事だけを今は意識していても悪くは無いはずだ。




――開いた触手の穴を潜り抜けたリディアは……――




「さてと……まずはルージュさん達に無事だって事伝えないと――」

「おぅリディア! やっぱり無事だったのか! まあお前の事だから死ぬなんて絶対あり得ないとは思ってたけどな!」


 屈みながら触手の斬り口を通っていたリディアであった為、出た後の様子をしっかりと見ていなかったが、それでも最初に自分が特に深手等を負う事も無く脱出が出来た事を伝えようと考えており、顔を持ち上げるとそこには言葉を投げかけようとしていた相手本人がそこに立っていたのである。


 濃い紫のジャケットを着ていた、赤い髪の少女であるルージュがまるで立ちはだかるかのような様子で、リディアとの再会を喜んだ。


 リディアを信用していたという事を特に伝えたかったのだろうか、寧ろ負傷もせずにドーム状の触手の内部から出てくる事が出来たのは極当たり前だとでも言わんばかりに強い口調で、それを慢心の笑みで放っていた。




「あ、あぁそう……ですか? それはありがとうございます」


 リディアは自分の生還を当たり前の事として受け止めようとするルージュに戸惑いながらも、最低限の感謝の言葉は渡すべきなのかと、戸惑いという障害を潜り抜けるように、マスクの下の口を動かした。


「実はアタシ達の方で結構重要な情報見つけちゃったんだけど、それよりあの怪物はどうなったのよ? まず最初にそっちから聞いていい?」


 やや戸惑ったような表情を浮かべていたリディアに対し、真面目な言葉を投げてきたのはサティアであった。


 ルージュの隣に立ちながら、黄色いレンズがやや目立つ眼鏡の裏にある水色の瞳をリディアに向けている。内容は疑問形で、ドームの内部にいたはずであるシドラオの様子がどうしても気になる様子だ。




「結論から言うと……8割ぐらいは倒した事になったって言った方がいいかもしれません。まあ仮に立ち上がったとしてもすぐ私が黙らせ直しますけどね」


 リディアはまずは質問には答えるべきと考え、シドラオの現状を数値を使いながら説明する。まだ意識を僅かに残していた為、その割合が妥当なのかもしれない。


 しかし、内部では確かに瀕死であった為、リディアの実力であれば例え今攻撃をされそうになったとしても本当の終わりを迎えさせる事が出来るようである。


「なんか分かりにくいわね……。それよりね、さっきあそこの作業場っていうのかしら、そこで奴らの飼育してる魔物なのか、その資料が見つかったのよ」


 直接現場を見ていた訳では無いサティアからするとイマイチ掴むのが難しかったようだが、自分達の方でも新しい情報を手にしていた為、それをリディアへと今伝えたのである。リディアの隣にはマルーザもいた為、実質的には2人に対して話を伝えた、という解釈で間違いは無い。




「魔物の資料、ですか? それって要するに場所が書かれてたって事でしょうか?」


 リディアは資料の話を聞くなり、最初に思い浮かんだのが飼育の場所だったようだ。魔物自体の特徴よりも、その場に行く為の情報の方が優先だったようであり、場所に関する情報もそこにあったのかどうか、それをまずは聞きたかったようだ。


「どういう魔物かってのも確かに大事だけど、場所の方がアタシ達からしたら重要かもしれないわね」


 サティアは本来であれば魔物そのもののデータが気になっていた様子だが、リディアに言われた事でやはり飼育がどこでされているのかという情報の方が大切かもしれないと考えを変えたのだろうか。


 リディアに賛成する事を決めながら、何となく左手で水色の髪の揉み上げの先端を小さく捩じる。




「まあそういう事になるな。最近人が改造されたりとか変な魔物を産み出すとかそういう話が多いから、今の飼育場所の話も今までの事に繋がってるって思って間違い無いだろうなぁ」


 ルージュは場所の情報も入手したという事実を明確にする意味で今のような始め方を聞かせたのだろうか。


 そしてこの基地以外で発生している事件との繋がりも予想しながら、まるで次の目的地が確定したかのようにリディアから橙色の瞳を逸らす。それは次の目的地を目視しようとした気持ちの表れなのだろうか。


「じゃあ次の目的地は、その飼育場所って事になるんでしょうか?」


 リディアも予測したのか、この基地を出た後の行動をルージュから聞こうとする。




「正解だぜリディア。折角だからお前の本気またわたしに見させてくれないか? 今度はサティアも一緒だからな?」


 純粋にそれが正しいという事をルージュはリディアに伝えてくれるが、同行を前提で話を進めているのか、ルージュは再度リディアの実力を見させてもらう事を期待しながら、感情をプラスの方向へと進める形で橙色の瞳を少しだけ細める。


 尤も、サティアに関しては今も共に戦っていたはずだが、ルージュからすると次の戦いで改めてサティアの戦闘姿を見る事が出来ると思っていたのかもしれない。


「偶然出会ってちょっとおこがましいかもしれないけど、もし良かったらリディアも協力してくれないかしら? アタシもちょっと見てみたいかなリディアの力ってやつ」


 サティアとしてもリディアの協力を求めていたようであり、やや申し訳無いという気持ちも持ちながらも、同行とそして改めてリディアの戦闘力を自分の目で確かめたかったのだろうか。今回の戦いではまともに目視が出来なかったのかもしれない。




「まあ……実は私ガイウス達と行動してたんですけど無理矢理引き離されちゃって……ま、まあいいや! 1人よりルージュさん達と一緒にいた方が安全そうですし、協力はしますよ!」


 リディアは元々他の仲間達と行動をしていたが、突然引き離される形でこの基地へと連れ込まれた為、本来ならば元の場所へと帰るのが通常の意識なのかもしれないが、色々考えた結果、単独で来た道を帰るよりは心強い異なる仲間と共にいた方が身の危険も少なくなると考えたのだろう。


 それに今は元々同行をしていた内の1人でもあるマルーザもいるのである。ここで出会ったルージュ達と一時的に行動をしていたとしてもマルーザの方から上手に説明もしてくれると信用して良いはずだ。


「それは嬉しい、って事にしといてやるか。まあ困った事があってもわたしがいりゃ安全だし安心だぞ!」


 一瞬ルージュはリディアが元々共にしていた仲間の事を思い浮かべてしまったのだろうか。言葉を詰まらせていたが、自分達の為にリディアが付いてきてくれる事を考えるとやはり嬉しくは感じたものの、それでも一応は目上であるからか、わざと格好を付けたような言い方で締めようとする。


 そしてルージュ自身はリディアを頼る訳にはいかないと考えていたのか、似たような意味合いと語感を持った2つの単語を使いながら自分だけが明るい話題に溶け込んでいるかのように振舞った。




「所で、貴方、マルーザだったっけ? 貴方も協力って、してくれるって事でいいのかしら?」


 サティアはルージュの妙に高いハイテンションに付き合う事もせずに、リディアを助ける為に遅れてこの基地に現れた、赤黒い影の肉体を持つ一応は女性として見ても良いであろう上半身だけで浮遊している者へと声をかけた。相手はマルーザであるが、直接の返答が無かった為、自分達と共に行動をしてくれるのかどうか、それを確かめたかったようだ。


「わたしは元々リディアを助ける為にここに来たからな。リディアがお前らに協力するなら、私も同じ意見になるな」


 マルーザとしてはリディアを守る事を1つの目的としている為、自分の行動の選択肢はリディア次第という事になっていたようだ。


 今ここで既にリディアからルージュ達と一緒に進むと決定が出ていたのだから、マルーザもそれに賛成する形でいるつもりらしい。




「なんか相変わらずな態度な感じがあるけど、どうでもいっか態度なんて! まあ助かるのは確かだし、じゃあとりあえずここ出るか!」


 ルージュもある意味では少女らしかぬ強気な口調や態度が特徴的とも言えるが、マルーザのやや真っ直ぐに答えを出さない言い方に戸惑いながらも、やはり最後は態度よりも最終的な答えが全てであるかのようにそれで終わりにさせてしまう。


 数が多い程窮地(きゅうち)に追い込まれた時も切り抜けられる確率が上がると信じていたようであり、そしてやはり誰もが意識していたであろう、この地下の空間から地上に上がるべきだと声を張り上げた。


「出たらギルドにこの基地の存在を伝える事を忘れないようにな」


 ルージュは先頭に出るかのようにドーム状の触手を周り込むように駆け足で進み始めるが、その後ろからマルーザがここを離れた後にすべき事を伝えながら、浮遊したまま身体を前に進ませる。


 リディアとサティアも、最初に地上へと通じる通路に向かい始める2人に置いて行かれないように足を動かした。




「わたしだってそれぐらいは分かってるぞ? それよりこんな気味悪い場所なんかさっさとバイバイしたいとこだな」


 マルーザに指摘されていた、基地の情報をギルドへ報告する義務に関してはルージュは言われずとも理解していた様子であったが、わざわざそれを口に出すのは性格故なのだろうか。


 ギルドへの報告そのものをする為にはまず基地から出る必要があるが、それ自体を早急に済ませたい気持ちもそこに存在したようだ。


「所でリディア、あいつの事完全には(とど)め刺した訳じゃないと思うけど、それと上でまだあの2人居座ってると思うけど、その辺は大丈夫?」


 ルージュの後ろからサティアが付いてきていたが、隣を進んでいたリディアに対し、シドラオの安否は兎も角、地上の方ではまだゼノとマチルダという粗暴な性質の男女が残っており、あの2人の処理はどうするのかを聞いたつもりだったのだろうか。




「あぁそれは……サティアさん達でもう何とかしちゃったんじゃないんですか?」


 しかし、丁度あの2人の人員を黙らせたのはリディアが地下へと無理矢理に連れられていた時であった。リディアとしてはゼノ達が今どのような状況で終わっていたのかなんて知るはずが無かった為、それはやはりサティアに聞き返すしか無かったようだ。


「いや、ただこいつ縛り付けてただけだから決定打とはまだ言えないな。いいから戻ろうぜ?」


 背後での会話を聞いていたルージュは、進む足を止めずに振り向きながら、サティアが行なったのはあくまでも水の力を使った拘束であり、致命傷を与える能力とはまた違うのである。


 サティアの施した手段を手短に説明しながらも、目的の場所へと行くという思考は乱れてはいなかったようだ。




「確かにそうですね。あの2人はギルドに引き渡――」


 それはこの基地から出る事に対する肯定の返事だろうか。


 リディアは地上を意識したのか、一度天井を見上げたが、それは遮られる事となった。




――突然怒声がリディア達の背後から響き……――




「てめぇらぁ触らせろぉ!!」




 それは、シドラオの声であり、ドーム状の触手を突き破るように飛び出し、リディアを狙いながら襲い掛かってきた。


 背後を振り向いたのは確かであったが、それでもリディアに抵抗をするだけの余裕や構えは出来なかった。

今回も触手を使った攻撃が多かった敵一味だったと思いますが、それなりにリディア達が優勢であったって事でいいと思います。晴れて脱出を開始しようとしたらまたシドラオの悪足掻きが……。次回はどうなるのでしょうか?

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