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○と十  作者: 心野 想
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【一○○×P×Virgin】

(仮に目玉+唇=Pと置きます)


 Pの口が音を発しました。それはホイッスルのような高い音でした。


「ピッ」


 Pが音を発すると地面からニョキニョキと伸びてくるものがありました。白い棒でした。白い棒は瞬く間に伸び、ボクの背の高さを越えました。そしてつぼみから花が咲くようにもしくはパラソルを開くように、先端から青い円がバッと出現しました。

 青い円は今までと同様に左折を指示していました。


「ピッ」


 Pがもう一度鳴くと、標識の横にもう一つ新しい標識がニョキニョキと現れました。同じ左折指示の標識でした。

 これらの出来事から、標識が現れるのはPの仕業だったんだとボクは確信しました。


「ピッピッピッ」


 音が連続するのに呼応して次々とニョキニョキニョキ……かまうもんか、ボクは前に進みはじめました。


「ピッピッピッピッピッ」


 目の前に標識がニョキニョキ、それをボクが無視して通り過ぎます。追い越すとまた次の標識がニョキニョキ、ボクに左折を指示します。それを更に無視してボクは進み、という繰り返しをいつまでも繰り返し続けたある時でした。

 「ピッ」と次に現れたのは違う標識でした。高さは左折標識の半分以下しかありません。形も丸くなく【×】で全然違います。色も青くなく、全身が黄色と黒のシマ模様でした。

 この標識が何を指すものなのかは分かりません。でもまあどうせこれも左に曲がれと言っているんだろう。そう思って通り過ぎました。

 

「ピ――――――」


 バッテンの標識を追い越すと、突然Pの唇から規制音のような声が鳴り響きました。驚いて立ち止まると前方の地面から金網のフェンスがガシャンガシャンガシャンガシャンと現れ、ボクの行く手を阻みました。これでは前に進めません。よじ登って飛び越えようと思いましたが、フェンスの上部がトゲのある有刺鉄線でぐるぐる巻きにされており、つまり鉄条網が設けられているため、不可能です。


 ポン。何だろう。いやな予感がする。


「ピ――――――」


 そうこうしている内にガシャンガシャンガシャンガシャン……ボクの背後にもフェンスが現れました。これでボクは前に進むことも、後ろに戻ることもできなくなりました。唯一できることと言えば、左右に進むことだけです。

 そこまでして左に行かせたいのだろうか。ボクは疑問に思いましたが、そう思ってすぐ、そう思ったことにある違和感を持ちました。いや、きっとこれはそんなものじゃない。むしろもっと悪い……


「ピ――――――」


 その時、地面から何かが出現してボクの足を押し上げました。わっ。驚いてその場から飛びのきます。


 えっ?

 

 何を踏んでいたのか、それが分かった時、ボクの思考はストップしました。それはそれ以外の何物でもない、鉄道のレールでした。


「カンカンカンカンカンカン」


 Pの声が変わりました。それは踏切を閉じる時に鳴る音です。


「カンカンカンカンカンカン」


 やがて足に振動が伝わってきました。レールが振動しているのでした。そして右の方に小さな光が見えはじめました。


「カンカンカンカンカンカン」


 やばい! こっちに向かってくる。


 状況からして、向かってくるのはおそらく電車か何かに違いありません。ムカついていたのはボクの方だけじゃなかったのか。ボクは正面のフェンスを飛び越えようと思い、金網に飛びつきました。そしてよじ登ろうとするのですが、鉄条網が邪魔をし、うまく登れません。

 

「カンカンカンカンカンカン」


 ポ――――と甲高い音が聞こえました。まっしろな光が、巨大な暗黒を引き連れてこっちにやってきています。あれはもしかして……蒸気機関車?


「カンカンカンカンカンカン」


 傷だらけになってもいい。とにかくフェンスを越えないとこのままでは轢かれてしまう! ボクは多少のケガを覚悟して、再び網につかみかかりました。振動が指にビリビリと伝わってきます。


「カンカンカンカンカンカン」


 トゲが刺さるのも構わず鉄線を思いきり握りしめて、腕の力で身体を持ちあげようとします。なのに、どうしてでしょうか? 鉄条網を越えようとすると、まるで重力が十倍にでもなったかのような抵抗が身体にのしかかってきます。これはトゲが皮膚に刺さるのを我慢すればいいとか、そういう次元の話ではありませんでした。見えない力が働いていて、これ以上上に行かせるのを拒んでいる、そんな類のものでした。


「カンカンカンカンカンカン」


 力ずくでは不可能だと悟りながら、それを認めたくない自分がいました。万事休すかとハートのどこかであきらめながら、頭は理屈ではない奇跡を信じて力を振り絞り続けるのでした。

 光が辺りを照らしはじめました。


 くそ、くそう……


 ボクは目を細めて、近づいてくる機体を眺めました。先端から放たれる光が機体の形状を照らしています。


 ……あれ?


 機体の形を見て、ボクはその形が思っていたのと少し異なっているのに気付きました。自分の中では、蒸気機関車だと思っていたのですが、しかしよく見ると前面部がありません。錯覚か? 

いいえ、そうではありません。


 どういうことだ?


 それはつまり内部が空洞であるということでした。側面部分は確かに黒い壁の存在が確認できますが、機関車で言うところの天井や床の部分がすっぽりと抜け落ちています。そういえば前方の光も左右に二つ並んでいますし、白い煙も上がっていません。そうすると、やってきているのは蒸気機関車ではないようです。単純に言えば車輪の付いた二枚の黒い壁が仲良く並んでこちらに向かって来ているようなのでした。


 ……これは一種の脅迫のようなものなのだろうか? 


 一瞬、そんな考えが頭をよぎりましたが、すぐに違うことを考えました。


 中心が空洞だというのなら、ここは思い切って……


「カンカンカンカンカンカン」


 ボクは網から手を離し、線路のまん中に立ちました。端っこにいるとむしろ危険。正面にいればトンネルを通過するように、うまくかわすことができるのではないか。

 

「カンカンカンカンカンカン」


 黒い壁がやってきます。確かに前方は空洞だ。でも……本当に大丈夫だろうか? ハートがバクバク鳴っています。


「プオ――――――――――」


 その時、前方から強烈な音がしました、思わず足がひるみます。どうやらそれはボクに向かって鳴らした警報のようでした。


「プオ――――――――――」


 突然、Xの言葉を思い出しました、ハートがドキドキする方を選べばそれは【B】に至る道のひとくさりずつ……今、ボクのハートはバクバクしています。バクバクはドキドキではない。とすれば、ボクは道を誤ったのだろうか? だとしたら、やっぱり本当は左に進むべきだった? いや、でもハートに従ったから左に曲がらなかったんだ。と考えればやはり道は間違っていないはずだ。でも、だったらどうしてこんな……


「プオ――――――――――」


 もう目の前…………あれ? 空洞じゃないぞ。間に何かキラリと糸のようなものが――――――――アッ


「プオー―――――――――」


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