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○と十  作者: 心野 想
35/36

【evolution】


 音がすると、白い棒がゆっくりと持ち上がりました。そしてバサッ、と濡れた傘の水気を飛ばすように一気に振り下ろされました。棒が大きく広がり、付着していた血が飛び散りました。大きく広がったそれは白い翼になりました。

 【i】の方を向くと、彼女は軽くほほえんで目を閉じました。そして流れるような動作で手のひらと手のひらを合わせました。


【■STOPPING】 →【 PLAYING】

 

 【大目玉】からビームが放射されました。ボクは翼を使って上に飛び、ビームを回避しました。

 次に【唇】たちが動きはじめました。お互いを食べ合って【大唇】になりました。

 【大唇】が巨大な口を大きく開けて大声で叫びました。口から飛ばされてきたのはボクと同じぐらいの大きさの【D】やら【E】やら【A】やら【D】やら【E】やら【N】やら【D】などのアルファベットでした。まっすぐ飛ぶだけではなく追跡弾のようにボクを追いかけてきます。

ボクはアルファベットから距離を取るように上空へと飛びました。

 アルファベットから遠ざかる一方で、空から降ってくる無数のメテオライトとの距離が縮まっていきます。


 チュー。


 右手から【マウス】の鳴き声が聞こえました。ありがとう、ボクはそう言って人差し指を曲げました。矢印が現れました。

 ボクは矢印を使って、メテオライトの白い点が見える空全体を四角で囲みました。


 【右クリック】▼【削除】

 【削除しますか?  はい  ・  いいえ】


 ボクは「はい」を選びました。次の瞬間、空は真っ暗になりました。

 下から【A】が矢のように先端を前にして、恐ろしいスピードで飛んできます。


 ポン。


 ボクはクルリと展開して、今度はアルファベットに向かっていきました。【A】とすれ違います。次に【D】が飛んできていました。


 ポン。


 ボクは【D】をつかんで【A】に投げつけました。衝突した【A】と【D】が粉々に砕けました。

 次に【E】【D】【E】【N】と飛んできました。


 ポン。上空にメテオライトの消しこぼれがある。


 突然、なぜかそう思って見上げると、確かにメテオライトの白と赤の光が一つ落下してきているのを発見しました。 

 ボクはメテオライトに接近していきました。そしてある程度まで近づくと、後ろから飛んできたアルファベットを順番につかんではメテオライトの方に投げました。最初に【E】をつかんで投げ、続いて【D】、【E】、【N】を投げました。【N】がメテオライトの光の中に消えた時、巨大な爆発が起こり、メテオライトは消滅しました。

 最後に少し遅れて【D】が飛んできました。

 ボクは【D】から逃げながら【i】の位置を確認しようと上から見下ろしました。

 すると驚いたことがありました。


 ポン。【○】だ。


 地面に巨大な白い【○】が描かれていたのでした。それを見た瞬間、すぐにポンときました。ポン。あれは百個の【×】だ。地上の百個の【×】の並びがちょうど上ら見ると円の形になっているのでした。


 ポン。【×】を重ねることで【○】になる。


 ボクは改めて確信しました。


 やっぱりボクが歩いてきた道は間違いじゃなかった。


 ボクが感動していると、そのスキを突こうとして【D】が襲いかかってきました。【D】の弧ではない部分、つまり直線の【―】の部分がノコギリの歯のようにギザギザになっています。そのギザギザの部分が細かく振動して、ボクを切断しようと突進してきたのでした。

ボクはそれを紙一重で避け、弧の部分をつかみました。

 しかしその時、次の攻撃がやってきました。その攻撃はボクが【D】に気を取られているスキを狙ったものでした。【i】の位置から金網のトンネルが飛んできて、あっという間にボクの四方を取り囲んだのです。これで上下左右に行くことはできなくなりました。


「ピ――――カンカンカンカン」


 レールが出現し、前方から丸い白い光が、四角い黒い機体を牽引しながら向かってきます。今までアイツに何度やられたことが。しかもあっちも進化しています。翼を持ったボクでも逃げられないように、左右だけではなく上下も網を張ってきたのです。


 ポン。


 ボクは【D】の刃の部分を前方に向けて、機体に飛び込んでいきました。


 ブツンブツンブツン。


 【D】の刃に触れた糸が音をたてて切断されていきます。


 ブツンブツンブツン。


 糸が切断されるにつれ、左右の壁がぐらぐらと揺れ始めました。元々、車輪の付いた二枚の壁がレールの上を走っているようなものです。壁同士をつなぐ糸が切れればバランスが悪くなります。

 ボクを通り過ぎた壁はやがて脱線しました。開いた本のように左右に分かれて倒れていきます。そのうち【D】を使う必要もなくなりました。

全ての機体が脱線し、倒れました。周囲の金網は機体がぶつかったせいでバラバラになっていました。

 ボクはボクを助けてくれた【D】に感謝しました。

 機体がやってきたレールの先を見ます。四方を囲む金網は【i】とボクを最短距離でつなぐトンネルでした。


 ポン。この四角形のトンネルの先に【i】がいる。


 周囲には脱線した機体が浮遊しています。機体の内側にはブツンと切断された糸がダランと垂れています。その光景を見て、次にやるべきことは明らかになりました。迷うことなく機体のそばに行くと、【D】を使って長い糸を一本切り取りました。そして【D】の刃の部分を取り除き、その部分に糸を張りました。弓ができました。

 ボクは人差し指を動かしました。矢印が現れました。これが矢になる。ボクは矢印をつかむと、矢印が自然と伸びてちょうどいい長さになりました。矢尻もできました。


「ありがとう」


 自然と口から感謝の言葉が漏れました。人差し指に向けて言った言葉でした。ボクのそばにいてくれたことに対する感謝の気持ちでした。

 弦をつかんで弓を引きます。引き絞られた【D】がギギギと音をたててしなりました。

 矢の矛先をトンネルの先にいる【i】に向けた時でした。

 ポン。あれは【B】だ。

 唐突にボクは【B】を発見しました。

 それはさっき思いだした映像の中にありました。

 あれ、そういえばあの映像どこで見たんだっけ。ふと疑問に思いましたが、すぐに忘れました。四角形の壁に浮かぶ【i】、その【i】以外の部分が【B】になっている。その気づきがボクの中に大波のような感動を呼び寄せ、それ以外の一切を頭から押し出してしまったからです。もちろん、キレイな【B】の形ではありませんでしたが、それも重要なことではありませんでした。ボクがそれを【B】だと思い、ハートがドキドキしている。それが何よりも重要なことでした。

ボクは以前見た方程式を頭に浮かべていました。


 【B】=【i】+【マウス】+【骨】+【唇】+【目玉】


 つまり【B】とは【i】も含む全て。

 ボクを常に監視しながら、常に見守ってもくれた【目玉】も。

 うるさすぎることもあったけれど、助言や忠告を与えてくれもした【唇】 も。

 ボクに直接刃を向けた恐ろしい【骨】も。

 ボクから離れないでいてくれた【マウス】も。

 かわいくてキレイで美しい、でも怒ると怖い【i】も。

 いいことも悪いことも全部ひっくるめて【B】なんだ。


 ティラリラリーン。


 そう思った時、つかんでいた矢が指から離れました。ボク自身の意思といよりもそれは機が熟し、実が熟して自ずと枝から落ちるように矢が指から離れたのでした。

 矢はトンネルの中をまっすぐと飛んでいきました。その先には【i】がいます。矢は彼女を一つも傷つけることなく、胸の中心に刺さり、奥にあるハートを射ました。矢にはメッセージをコピーしていました。射たハートの中で右クリックをして【貼り付け】を選びます。


 カチカチッ。


「受け入れる」




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