【(77+mouse)×voice】
【自動的にセーブされます】
目を、覚ましました。
暗闇の中に、ボクは立っていました。
正面には【大目玉】の上に腰かけている【i】がいました。
それを見て、ボクが今いる場所は、ボクがたったさっき死んだ場所なのだと分かりました。
「早死にするよ」
【i】が無表情にそう言うと、人差し指が頭の上を差しました。その動きにうながされ、ボクは頭の上を見ました。
えっ?
ボクは一瞬、目を疑いました。
そこに浮かんでいたのは【77】の数字でした。
そこに浮かんでいるのは【79】の数字のはずなのに。
ひょっとして数え間違ったのかな? 一瞬そう思いましたが、一瞬で思い直しました。そうではないことを【i】のさっきの言葉が物語っていたためでした。
ボクは状況を整理しました。
たしかにさっきまでボクは【80】だった。
【80】で黒い機体に襲われて命を失った。すると数字が【77】になった。
死んだのは一度だけだ。なのに数字が三も減っている。
ポン。ということはつまり死んだイコール頭上の数字が一減るというわけではない。
ん、ということは待てよ。
【80】は七十九回もしくは八十回までは死んでも生き返ることができる(・・・・・・・・・・・・・・)という意味だと思っていました。しかし今回のことを踏まえて考えると、どうやら違うようです。
ポン。頭上の数字イコール死んでも生き返ることのできる数というわけじゃない。
ポン。つまり死んでも生き返ることのできる数は七十九回よりも少ない。
ポン。死んでも生き返ることができる数が頭上の数字よりも少ないこと、もしくは頭上の数字よりも少ない数死ぬことで二度と生き返れなくなること、それを早死にと【i】は表現した。
早死にするとは思ったよりも早く死ぬこと、つまり死ぬこと(・・・・)。
ポン。ん? でもそうだとするとおかしいぞ。早死にの死の意味がそういうものだとして、仮にそれを本当の死だとすれば、ボクがこれまでに死だと思って二十一回も経験してきたものは一体、何だ? 【i】はそれも死だと呼んでいたけれど、少なくとも早死にの死の意味とは明らかに違う。
ひょっとして【i】は嘘を付いている?
ボクが【i】を見ると【i】は少し怒ったようなむっとした表情をしました。
「早死にするよって言ってるのに」
そう言って、今度は薬指を曲げました。
【唇】+【唇】+【唇】+【唇】………………+【唇】=【千の唇】
【i】の背中の円がより一層大きくなりました。巨大になった部分が赤く染まっています。それが大量の【唇】でできているということは予想していましたし、実際にそうであるということもすぐに分かりました。
間もなくして、それがコウモリの大群のように一斉にボクの方へと襲いかかってきました。
ボクはどうしたらいいか分からず、ひとまず逃げようとして、逆に【i】の方に小走りで近づいていきました。どうしてそうしたのか、自分でもよく分かりませんでした。しかし実際に走り出してから気づきました。頭のどこかで、状況から逃げるだけでは問題は解決しないと思っていたからでした。かつ本当の死までまだ時間があること。ボクは本当の死が近づく前に問題を解決しようと考え【i】の方に近づいていったのでした。
しかし、ボクの接近に対して【i】はチョウチンアンコウのチョウチンのように平行移動してボクから離れました。ボクと一定の距離を保つのは【目玉】の機能です。そのことをボクはすでに経験して知っていました。よって、そうなるであろうと予測してもいました。
でも意外なことに、ボクの中に焦りの感情が芽生えました。予測してはいたものの、実際に目の当たりにすることで【骨】の時のようにはこの問題を解決できないということが明らかになったためです。ぶつかっていって、という方法ではダメということです。
じゃあ他にどんな方法があるのか?
ボクは立ち止まりました。どこに向かって走ったところで、走るという方法では問題の解決が先延ばしになるだけで解決には至らないし、また解決に近づくこともできないと思ったからでした。
今のところ成す術がない。だからひとまず【唇】がボクに何をするのかを観察してから考えよう。
ボクはドキドキしながら両手を広げて【唇】の接近を待ちました。まるで【唇】に殺されることを受け入れているみたいだな……と思って、ポンと来ました。
ポン。受け入れる? もしかして受け入れる(・・・・・)ってこういうことか?
そう思っているうちに【唇】はやってきました。大量の【唇】がボクを囲みます。しかし意外にも襲いかかってきたりはしませんでした。ただボクを中心に一定の距離を保って飛び回っています。
飛び交う【唇】が分厚い壁を成し、ボクは暗闇の中に閉ざされました。
やがて闇の中から声が聞こえはじめました。
「 」
頭がズキンズキン痛みはじめました。
「 」
息が苦しくなってきました。
「 」
ボクは真っ暗な中で目の前が真っ白になりました。息ができません。できないというよりも吸おうとしても吸いこむものがないという感じです。おそらく、隙間なく周囲を取り囲む【唇】たちのせいで、また次々と息を吸っては喋って空気を消費する【唇】たちのせいで、周囲の空気がなくなりつつあるようでした。
「 」
受け入れるって、結局こういうことじゃなかったのかな……




