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○と十  作者: 心野 想
23/36

【95】

 目を、覚ましました。

 すぐさま上半身を起こし、右を向くとガイコツとボクの目が合いました。

 ボクは急いで距離を取りました。ただしあまり遠くまでは行かず、さっきフェンスが現れた位置より少し先ぐらいの位置まで移動し、そこで立ち止まりました。あまり遠くまで行くと、自分の何万倍もの大きさのメテオライトに周囲の空間ごと消滅させられると思ったからです。

 ボクが振り返るとガイコツは肩から肩へと手を動かしているところでした。ボクは念のため、もう少し遠くまで避難しました。

 やがてバリバリと音をたててフェンスが現れました。そしてもう一枚が現れました。今回はフェンスに挟まれずに済みました。ボクはほっとしました。


 ポン。起き上がったらすぐに逃げた方がいい。少し遠くに。


 車輪の付いた巨大な黒い機体が、空間を切り裂くような音を立てながら、レールの上をかけ抜けていく間、ボクはフェンスをたどるように歩きました。ガイコツから離れすぎないよう、ゆっくりとした速度で歩きました。

 途中、Pのことを思い出して、薬指と小指をクイッと動かしました。何かの役に立つかもしれないと思ったからでした。

 やがて黒い機体が走り去ると、フェンスがバリバリと音をたてながら地面に吸い込まれていきました。

 その直後、驚くべきことがありました。

 十歩ぐらい先の地面から、大量の標識がズラッと現れたのです。

 それらは全てひし形の黄色い標識でした。黒い三角形が書かれていて、三角形の坂を黒い点が下っています。初めて見る種類のものでした。

 何を表わす標識だろう。疑問に思っていると、Pの目玉が標識をスキャンして、標識の意味を教えてくれました。


 【落石のおそれあり】〔警戒標識〕これより前方で落石のおそれがあることを示しています。


 落石と聞いて、ボクはすぐに思い当りました。落石とはつまりメテオライトのことでした。そうだと気づくと、ボクは標識より先に進むまいと思いました。


 それにしてもあれを落石だって、なんて控え目な表現なのだろう。


 そんなことを思いながら、横一列にズラッと並ぶ標識を目で追いかけていました。落石注意の標識は弧を描くようにゆるやかなカーブを描きながら一定の間隔で並んでいます。

 標識を目で追いかけて自然、ボクは振り返る形になりました。

えっ?

 背後の光景を見て、ボクは状況を把握できず、あぜんとしました。

 ボクより二十歩ぐらい離れた位置にガイコツが立っています。ガイコツは周囲を標識で囲まれていました。ガイコツから五歩ぐらい離れた距離に一定の間隔で並んでいます。どれもガイコツの方に顔を向けていましたが、その 独特なシルエットのためにそれらがバッテンの標識だということはすぐに分りました。

 ガイコツがバッテンの標識に囲まれている様子は、鉄格子に閉じ込められているようにも見えましたし、障壁に身を守られているようでもありました。

 ガイコツは更に外側も囲まれていました。今度はガイコツから十五歩ぐらい離れた位置に、同じくバッテンの標識が、今度は顔を外側に向けて立っていました。そしてその標識から五歩ぐらい離れた位置にボクが立っていて、その外側に落石の標識が並んでいるのでした。

 つまりガイコツを中心として三重の円が描かれていて、内側から二番目の円(ボクに顔を向けたバッテン)と外側の円(落石注意)との間にボクは立っているということになるのでした。

 これらの標識が何を表わすのか、大体想像がつきました。

 これ以上ガイコツに近づけば、ガイコツはきっと右手で十字を切るだろう。

 これ以上ガイコツから遠ざかればガイコツは高く上げた右手を振り下ろすだろう。

 つまり今のボクは奇跡的な偶然で、そのどちらでもない安全地帯に立っているのでした。

 と、その時でした。

 視界にあった全ての標識の位置が、突然変わったのです。

 具体的には、一度全ての標識が地面に潜ると、間を置かずに、どれも一歩分ずれた位置に再びニュッと出現したのでした。

 原因はすぐに分りました。

 ガイコツが足を前に一歩踏み出したのです。

 それによって、バッテンの標識がボクに一歩分近づき、落石注意の標識が ボクから一歩分離れたのでした。

 この事実から、次のことが分かりました。


①ガイコツの行動は、ボクとの距離によって決まる。

②ボクとの距離が(約)五歩以上十五歩未満の場合……十字を切り、黒い物体が現れる。

③ボクとの距離が十五歩以上三十歩未満の場合……おそらく安全地帯。何もしてこない。

④ボクとの距離が三十歩以上の場合……右手を振り下ろし、落石が起こる。

⑤つまりガイコツの行動には規則性がある。


 ガイコツがこちらに近づいてきます。バッテンの標識が迫ってきます。

 ボクは標識と一定の距離を保とうとしました。ですが、ガイコツが近づいた分だけ離れるのでは、結果的に今来た道を戻ることになってしまいます。しかしハートが望んでいるのはガイコツの向こう側です。

 そこでボクは標識と一定の距離を保ちながら、ガイコツを迂回するように反対側へ移動しようと思いました。ただそのためにはガイコツよりも早く進まなければいけません。

 幸い、ガイコツの歩みはそんなに早くありませんでした。ボクは、ボクを中心に回転するPのように、ガイコツを中心に移動しました。


 長い時間をかけて、やっとガイコツの向こう側までたどり着くことができました。ここからはガイコツが一歩進むのに合わせて同じだけ同じ方向に進めば、ハートが求める方に進むことになります。

 ふぅ、ひとまず危機は脱したかな。そう思い、少し安心しました。

かといって、状況が完全に元に戻ったわけではありません。ガイコツが立ち止まることなくボクを追いかけてくるため、ボク自身もまた立ち止まることが許されないのでした。その上、歩くスピードが制限されるため、歩いているというよりも歩かされている感覚で、それは精神的に多少の負担がありました。

 しかしそんな苦しみは、些細なことでした。今、ボクは前に進んでいるのです。【B】という目的に向かって、一歩一歩確実に近づいているのです。それはボクが生きているということとイコールでした。

 ボクは後ろを付いてくるガイコツとの距離に注意しながら歩き続けました。




【これまでの内容をセーブしますか? →はい ・ いいえ】



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