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○と十  作者: 心野 想
20/36

【re98】


 突然、映像が全て消えました。その後は、ただただ真っ白でした。壁が白いのか、映像が白いのかは分かりませんが、とにかく全てが真っ白になりました。 

 ボクはふいにXのことを思い出しました。どうしてこんな時にXのことを思い出したのかは分かりません。おそらく世界が白いからでしょう。もしくは頭の中が真っ白だからでしょう。どちらが正解なのか、もしくはどちらもが正解なのか、もしくはどちらもが不正解なのか。正解は分かりませんでした。

 突然、ゴウッという音が上からして、天井の壁が変化しはじめました。真っ白な世界の一部から濃淡のない闇が、まるで傷口を開くように拡大されていきました。何が起こっているのか、すぐに気づきました。まるでフタが開くように天井の壁が三つの壁から離れ、上昇しているのでした。

 フタは開き続けました。そして地面と垂直な角度まで移動すると、そこで停止しました。天井がなくなったので、頭上に黒い正方形ができました。

 しばらく経ちました。


 これから何が起こるのだろう。


 胸が不安を抱きはじめる程度に何も起こらない時間が続いた後、新たな変化がはじまりました。

 それはフタが開くよりも四倍大きな変化でした。

 ボクはとっさに空間の中心に移動しました。

 ボクを取り囲んで閉じ込めていた周囲の壁が動きはじめたのです。

 壁の近くにいたら危険だと感じ、中心に移動したのでした。

 壁はどれも外側に向かって開いていきました。まるで花が開くようです。

 白い壁たちが完全に開ききって、地面に倒れました。

 壁の外側はさっきまでボクがいた世界でした。すなわちどこまでも続く暗闇でした。闇の中で、倒れた壁だけが輝くように白いのでした。その形を見て、バッテンの形に似ていると思いました。が、実際はバッテンを成している二本の直線の片方が天井の壁一枚分長いため、バッテンとは形が少し違うのでした。

 ある時、ガコンと音がしました。

 ボクは音のした方を向きました。

 向こう側十歩ほどの位置に、うっすらと光っている長方形の黒い箱がありました。人ひとりが足を伸ばして寝ることができるぐらいの大きさの箱です。

 ガコンという音は黒い箱のフタが開いた時の音でした。フタの表面に白いバッテンが描かれていて、現在ボクの足が踏んでいる模様と同じように、縦の線が横の線よりも少しばかり長いものでした。



【これまでの内容をセーブしますか? →はい ・ いいえ】


 




 ボクがその場から動かないでいると、箱の中から白い腕がすっと上に伸びました。それは生きた人間の手ではなく死んだ人間の手、つまり手の骨でした。

 白い手はしばらくふらふらと宙を舞いましたが、やがて探し当てたように箱のフチをつかみました。人差し指の関節が曲がってフチにひっかかると、次に中指が曲がり、そして薬指、小指と順番に曲げてフチにひっかかりました。すると、次にもう一方の手が現れ、今度は迷うことなく全ての指が逆のフチをつかみました。


 なんだかイヤな予感がする。


 両腕がカラダを引っ張り上げました。

 初めに箱から出てきたのは白い頭蓋骨でした。鎖骨より下は真っ赤な布に包まれていました。

 それは映像で見たベッドの上のガイコツでした。

 立ち上がったガイコツが左を向きました。ガイコツの視線上にボクが立っていました。ガイコツはボクの存在を認識したようでした。左脚が現れ、箱のフチをまたぎました。

 箱から出てきたガイコツはボクと向かい合いました。ボクは一歩後ろに下がりました。何かあったらすぐに振り返って逃げ出そうと考えていました。

 ガイコツの右手が動きました。肉のない白い指を大きく開き、指先を左肩に当てました。そして引っかくように真横にスライドして手を右肩に持っていきました。その後、今度はもう一度同じ動作を行いました。ただ今回は肩から肩ではなく、頭蓋骨の眉間の辺りから骨盤ぐらいまでを縦に、同じく引っかくように下ろしたのでした。


 ドクン。予感は一瞬にして確信へと変わりました。間違いなくヤバい。ボクはガイコツに背を向けて走りはじめました。ひとまず一刻も早くここから離れよう、そう思いました。

 しかし、どうやら一足遅かったようでした。


 ガシャンガシャンガシャンガシャン。


 聞き覚えのある大きな音とともにボクの目の前に現れたのは、銀色の金網でした。

 ボクはその金網を見た途端、考えるより先に目の前の金網にダイブしていました。金網は正にネットのようにボクを受け止め、ダイブした力をひとつ残らず吸収してしまうと、(ちから)のベクトルをくるりと180度回転させて、ボクのカラダを跳ね返しました。

 よし狙い通りにいったと思いました。正面のフェンスにぶつかり、その反動を利用して逆方向から逃げる狙いでした。


 でももしこれで間に合わなければ……


 あらん限りの力で腕を振り地面を蹴るボクのカラダがこれ以上ないスピードで前へ前へと進んでいきます。

 しかし間に合いませんでした。


 ガシャンガシャンガシャンガシャン。


 ボクがそこを走り抜ける前に、もう一枚のフェンスが正面に現れたのでした。


 くそ、ダメか。


 そこから先の結末は予想通り、過去に経験した通りでした。くそっ、と悔しがる間もなく地面からレールが現れ、プオーという音が鳴り響き、するとくそくそくそと何度悔しがっても膨大に余る長い時間をかけて、ピアノ線のような糸を間に張り巡らせた二枚の黒い壁が蒸気機関車のようにやってくるのでした。そしておそらくボクを賽の目に切り刻むのでした。金網に閉じ込められてしまった時点で、その運命から逃れる術はありません。ボクはあきらめるしかありませんでした。


「プオ――――――――――」


 頭に響く警報の音を聞きながら、ボクはさっきの自分の行動を悔やんでいました。今なら分かる。ガイコツの手のあの動きは、オマエのカラダを切り刻んでやるというサインだったんだ。もっと早く気づいていれば……いや、それ以前に、ガイコツが何をしているのか、その動きが終わるまでじっと立って見続けていたのもバカだ。イヤな予感はしていたくせに。もしガイコツが箱の中から出てきた時点で、その場から逃げ出していれば、あるいは……







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