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○と十  作者: 心野 想
18/36

【forbidden by B】

 目を、覚ましました。


 目を、閉じました。

 目を、開けました。


 目を、閉じました。

 目を、開けました。


 目を、ぎゅっとつむりました。

 目を、ゆっくりと開きました。


 開けても閉じても、つむっても開いても、見ている風景に変化はありませんでした。

 つまり世界はどこまでも黒いのでした。どこまでもどこまでも黒く、さっきの真っ暗な世界よりも暗く、まるで自分すらその黒の一部のようでした。それがたった今ボクが目を覚ました世界の風景なのでした。


 ここには一切の光がないみたいだ。


 何も見えない中、見えない地面に向かって、見えない足を前に出しました。見えない床の硬い、でも内部にやわらかさのある、例えば爪を指で押したような感触が足の裏にありました。


 少なくとも眠っているわけではないらしい。


 何も見えないので、見えない両手を広げながら歩いてみました。

 正面には壁がありました。前に進めません。

 前に進めないので、左に曲がりました。右手で壁を触りながら進みます。

 すると間もなく、正面に新しい壁が現れました。前に進めません。

 ボクは更に左に曲がりました。すると五、六歩ほどでまた新しい壁が現れました。やはり前に進めません。

 更に左に曲がりました。同じ結果が待っていました。前に進めません。

 正面は壁。左折しても壁。左折しても左折しても壁。左折しても左折しても左折しても壁。そして(左折)×4も壁でした。


(左折)×4の壁=最初の壁


 ボクは自分が四角い空間の内部に閉じ込められていることに気づきました。


 ……まだ可能性がある。


 ボクは足を曲げ、大きくジャンプしました。伸ばした手の指先には何も触れませんでした。


 最後の可能性もダメか。


 横がムリでも天井からなら脱出できるかもしれない。そう思ったのですが、飛ぶ位置を変えて何度かジャンプしてみても結果は同じで、そこには壁がないとはいえ、側面の壁を乗り越えるための引っかかりもないようでした。

 四方は壁で塞がれ、地面は床、そして上にも道はない。

 じゃあボクは一体、何をどうすればいいのだろう。

 完全に閉じ込められ、進むべき道を見失いました。

 ボクは途方に暮れました。


 バチバチッ。


 突然、四つの壁が光を放ちました。

 するとその四つの壁に同じ四つの映像が映し出されました。

 それはどこかの狭い一室を天井から見下ろすように映したものでした。部屋の壁も床もベッドも同じ色で、黒であり白でもあるために、黒でもなく白でもない色をしていました。コンクリート製の灰色の床。銀色のベッドの長方形が計ったように中心に置かれ、他には何もありません。窓すらないのではないかと思われました。その殺風景な空間はある意味でボクの今いる場所にとてもよく似ていました。

 部屋の色彩だけ見ると白と黒のモノクロの映像のようでした。しかし映像はモノクロではありませんでした。ベッドに女の子が眠っています。彼女のドレスだけが色を持っているかのように真っ赤なのでした。


 彼女は【B】だ。


 バチバチッ。


 映像が点滅しました。

 それをきっかけに、女の子の映像から別の映像へと切り変わりました。

 新しい映像には、テレビがアップで映っていました。

 そのアップで映っているテレビに映像が映っていました。

 テレビに映っているその映像はモノクロでした。

 一人の白髪で禿げた白衣の老人が壇上に立っていました。黒板の前で指示棒を振り回しながら声高に何かを叫んでいます。ただ映像に音声がないため、何を言っているかは分かりませんでした。老人の周囲には黒い後頭部が黒山の人だかりを作っていました。彼らは常に立ちかわり入れかわりしながら、手持ちのカメラで老人に白いフラッシュを浴びせ続けていました。

 老人はまるで指揮者のように両腕を激しく振り回して演説していました。やがて一通りの説明が終わったのか、指示棒を放り、白いチョークを手に取りました。そして黒板に大きく文字を書きなぐりました。興奮しているためか、チョークのかたまりがボロボロと地面にこぼれました。

 黒板に書かれたのは、次のような方程式でした。


【B】=【i】


 方程式が書かれた瞬間、黒山の人だかりがまるで堰を切ったかのように一斉に老人の元へ押し寄せてきました。突然の出来事に困惑する老人の表情がその波に呑み込まれて見えなくなりました。黒山は黒板の前に群がり、書かれた方程式にフラッシュを浴びせ続けました。方程式をメモに取る者や、どこかに電話をかけはじめる者も少なくありませんでした。



 バチバチッ。




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