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○と十  作者: 心野 想
12/36

【98×mouse】


 チューチュー。


 一体なんだろう? しゃがんでみると、シッポのある小さな物体がボクの足下にまとわりついていました。それはネズミでした。まるで甘えるみたいに顔をぐいぐいと押しつけています。


 チューチュー。


 このまま歩いていると踏んづけちゃいそうだ……ボクはしゃがんでネズミを拾い上げようと思いました。両手を差し出すと、ネズミは待ち望んでいたかのように、すぐさま両手の上にひょいと乗りました。


チューチュー。


 ボクの腕をシュルシュルとよじ登り、右肩の上で止まりました。小さな生物の全体重、その軽さはなんだかハートがくすぐられるようでした。なんだか疲れも癒されるようでした。


 かわいいな。


 ボクはネズミに顔を近づけました。

 ネズミはボクを見上げるように上を向き、口をあーんと開けました。


 かわいいぞ。


 ボクはコミュニケーションのつもりで、同じように上を向きあーんと口を開けました。

 その時でした。


 チュー。


 急に、ネズミがボクの口の中に飛び込んできました。


 わっ。


 すぐさまつまみだそうとしましたが、シッポをつかむよりも早くそれはツルンと喉を通り抜けました。


 ゴックン。


 飲んでしまった!


 ネズミが喉を通り過ぎ、体内に入ったのを感じました。まっさかさまに下降しみぞおちの辺りまで辿りつくと、そこでカクンと直角に右折しました。そしてそのまま右の脇下まで進み、そこから一度よじ登って肩の辺りに達すると、右腕の内部に侵入していきます。二の腕を通り、関節を抜け、一の腕に移り、手首に達します。

 手首から手の平に入ると、それは人差し指の付け根の辺りにやってきました。そしてその決して小さくはないカラダをぎゅうぎゅうと人差し指に押し込みはじめたのです。付け根の方から指が徐々に膨らみ、パンパンになっていきます。ですが不思議と痛みはありませんでした。ただその光景を見ていると、自分の指が針一本でカンタンに破裂してしまいそうな状態になっているので、恐ろしくてなりませんでした。


 チュー。


 それが指先にまで達すると、人差し指の太さはすでに小指と薬指を足したぐらいありました。爪がシャツのボタンのように今にも弾け飛びそうです。

 幸運なことに、弾けることはありませんでした。そうなるより早くネズミがまるで肉に溶けるように小さくなっていったからです。溶けたネズミの成分はボクの手よりも少し温度が低いのか、成分が指を下り右手全体に循環していくのがありありと感じられました。

 指はみるみる内に元のサイズに戻っていきました。物質が全て溶け去ると、手の甲側の人差し指の付け根に、目玉と唇の時と同じように矢印【↑】の記号が出現しました。


 ボクはPの時と同様に、人差し指の先端で手の平をトントンと叩いてみました。

 するとカチカチッと音がして、空間に真っ白い矢印が出現しました。中指二本分ぐらいの長さで、矢印の先を左斜め上に向けて、宙に浮遊しています。


 Pの目玉が説明を表示しました。


〈マウスの使い方〉

  人差し指→左クリック

    薬指→右クリック

    中指→スクロール


 ボクは試しに人差し指をクイッと曲げてみました。カチッと音がしました。しかし何も起こりませんでした。

 クリックは指をクイッと曲げる動作のことだと分かりました。事実、その 動作を行うとカチッと音がするのでした。

 しかしクリックをしても今のところ何も起こりませんでした。

 人差し指を動かすと、その動きに合わせて矢印も移動しました。違う空間をクリックしてみると、やはり何も起こりませんでした。

 右クリックをしてみても同じ結果でした。

 ボクは推測しました。何もない空間をクリックしても意味ないのかな。

 再び矢印を遠隔操作し今度は、Pに矢印の先を当てて、左クリックしてみました。

 しかしそれでも何も起こりませんでした。

 クリックには何の意味があるんだろう?

 

 正面には女の子が座っています。


 ……もしかしたら。



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