【プロローグ】
○いもの。
例えばスーパーボール、もしくは手の中に握りつぶしたテストの答案、もしくは精子を受け止めたティッシュもしくは地球やたましい。そういった○いものを白い布で包み、余った端を輪ゴムできつくしばって紐で吊るしたいわばテルテル坊主の姿をしたそれを仮にXとおきます。
Xは油性マジックの笑顔でボクにこう言いました。
「わたくしはキミを生みだしたハハ」
Xは話しはじめましたが、その口はまったく動いていませんでした。
「つまりお母さんですそんでお父さんですつまりパパといいつつ実は神さまですガハなんていうのはジョーダンです。と、ここで相談です。そうなんです。わたくしがキミを生んだのには他でもないポカでもない何も考えずにガキ作っちゃうバカでもないんだからちゃんとした理由があるんです。聞いてくれる?」
ボクは「はい」を選びました。
「そうかそうか、それではそれなら教えてあげますですハイセンセー。いいですかみなさん、インファクトつまり実はこの世界には【B】というものが存在しており【B】とはキミが世界に生まれる意味のことであり、よってキミが生まれたのは【B】のためであり逆にいえば【B】がなければせっかく生きてみても自らの意味を持たないのであり、そもそもここにいることすらありえないのでありますですハイ。続き聞いてくれる?」
ボクは何となく「はい」を選びました。
「いいね、キミはゆーしゅーせー。続けましょう、どんなものもみんな必ず【B】を持っているのだけれど、犬も猫もタイヤもハサミも桜もタケノコもみんな【B】を持っているのだけれど、でも何が【B】なのかはそれぞれ違っていたり、特にカミノコであるキミたち人間の【B】は一人ひとり違っていたりするのだけれど、つまりあいつにとっての【B】はキミの【B】ではなかったり、あいつにとっての【C】がキミにとっての【B】かもしれなかったり、ずっと【D】に見えていたものがある時【B】だと分かるかもしれなかったりタリラリランと思ったら急に【B】だと思えなくなってタラリー鼻からギューニューだったりつまり色々だったりってことなのだけれど、フゥ。
ただ言えるのは生まれたからには誰にでも何にでも必ず【B】が一つあり逆に言えば一つしかなく、それは自分で見つけるしかない逆にいえば誰かがかわりに見つけてくれることはない。何がキミの【B】なのか逆に【B】ではないかはキミの中にあるセンサーが知っている逆にキミの中にあるセンサー以外は知らない。といっても、すぐに【B】を見つけられるケースはまれで逆になかなか見つけられないケースがほとんどで、中にはあまりにも長いあいだ見つからないから【B】なんて本当は存在しないのだと決めつけてしまう人も多からず少なからずいたりいなかったりしたりしなかったりするといったりいわなかったりもうわけ分かんなかったり何喋ってたか忘れて文脈外れて意味分かんなかったりかったりーからもうやめようか終わろうかおさらばしようかと思うのだけれどでも最後にもう一つだけ言わせてください」
ボクは早く終わって欲しくて「はい」を選びました。
スマイル顔だった、つまり目は上向きに口は下向きに半円のアーチを描いていたXの表情が変わっていきました。具体的には180度クルリとひっくり返って今度は目は下向きになり、口は上向きのアーチを描きました。もしかしたら本当にカミサマなのかもしれない。思わずそう思ってしまう“むー”の表情で、それは何とも神妙な顔つきなのでした。
「今からキミは誕生します。
これからどう生きようが何をしようがキミの自由です。幸せになることも不幸になることも、自分のために生きるのも他のために犠牲になるのも、正義になるも悪になるもキミの自由です。
でも必ず【B】は探してください。【B】を探す、これは存在のマストです。【B】を探さない、これは死亡フラグです。とても大事な所なのでね、ここは赤ペンで線をしておいて下さい。
大丈夫。キミがキミのハートに従って生きるかぎり、それは紛れもなく【B】に至る道のひとくさりずつですから。そして歩みを続ける限り、いつか必ず【B】に出会えますからそして【B】を見た瞬間、キミは持っていた鞄を落とし、しばし呆然とし、やがてこう悟るはずですから。“この出会いは運命だ”と。だから必ず【B】を探して下さい、いいですね?」
アーチ型の目と口がピンと直線になりました。そして中心に引き寄せられる棒磁石のように、Xの目の横棒はナナメになり、口はへの字に折れました。並々でない怒りを表している表情でした。
ボクは恐怖で「はい」を選びました。
「ありがとう」
Xはすぐに表情を崩し、最初のスマイルに戻りました。ボクはほっとしました。
「チュートリアル前半はここで終わります」
【セーブしますか? →はい ・ いいえ】