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第一話『起動』

「さて、俺たちはこれに今から立ち向かうんだ」

 ある晴れた日のこと、坂十路恭介(さかじゅうじきょうすけ)は庭の蔵を半眼で眺めた。

「ねぇ、何で私までここにいるのかな?」

 恭介の横でどこかうんざりしたような顔でつぶやく少女――恭介の幼馴染である愛沢優乃(あいざわゆうの)は恭介に視線を向けた。よく見ると二人とも埃まみれである。

「幼馴染が家中の掃除させられてるんだぜ、手伝ってくれたっていいじゃんか」

「家中の掃除を手伝わされた挙句、蔵の中の掃除までする幼馴染の気持ちにもなってみない?」

「……あー、今度なんか奢るよ」

「じゃ、スペシャルパフェ」

「高くないか?」

「じゃ、一人で頑張って♪」

「はいはいわかりましたよ」

 がっくりと肩を落としつつ恭介が蔵の扉を開ける。中は窓が無いせいか薄暗く、蔵の扉から入ってきた陽光が反射し、舞った埃がキラキラと光る。

「結構埃っぽいな、あー、さっさと終わらせようぜ」

 恭介が散らばっているガラクタの整理に取り掛かる。

祖父(じい)ちゃんのコレクションって聞いたから高価な壺とかあると思ってたけど――何だこりゃ、鉱石ばっかだ」

 蔵の中に散らばっているのは陽光を反射し、不思議にきらめく鉱石だった。

「でも宝石とかが混ざってたりしないのかな?」

 優乃が鉱石のひとつを拾い上げる。

「ないだろ。大体宝石だとしても原石じゃ値段はつかないだろ」

 恭介は淡々と鉱石を片付けていく。

「ん?何だろこれ」

 恭介が黄ばんだ羊皮紙を拾い上げる。

「何それ?」

「地図……みたいだな」

 そこに書かれていたのは簡略化された地図で、ある一点に×印がついている。まるで御伽噺(おとぎばなし)に出てくる宝の地図のように。

「えっ、これ宝の地図とかじゃないの?」

 地図を覗き込んだ優乃がはしゃぐ。

「ありえねーだろ、祖父ちゃんたちが埋めたタイムカプセルかなんかってオチだろ?ここ裏山だし」

 恭介が冷めた口調で呟く。

「夢がないよ、恭介。さっ、あらかた片付いたし裏山にレッツゴー!」

 優乃が恭介の言葉を遮断し、無理やり連れ出す。

「おい、ちょっと待て、おい!」

 恭介の言葉も空しく、二人は裏山へと向かった。

 

 ○


「ったく、無理やり引っ張ってきやがって」

 恭介が山道を上りながらぶつぶつと愚痴る。

「はいはい、五月蝿い五月蝿い。さっさと歩く」

「ちっ、てかまだ着かないのかよ」

 地図を見ると目的地は山の中腹あたりにあるらしい。おぼろげな記憶をたどると確かここには洞穴があり、親たちに危ないから近づくなといわれていた気がする。もうそろそろ着くはずだが――。

「あ、あれね」

 優乃が山道の脇、木々によって入口が隠された洞穴を指差す。

「あー、だるいな。この中に入るのか」

 恭介が率先して木の枝を折り、道を作る。さすがにこんなことまでも優乃にやらせるわけにはいかない。

「じゃ、いくぞ」

 洞穴の中はひんやりとした湿った空気に包まれていた。意外と入り口からの光が奥まで届くため、中は明るい。

 しばらく進んでいくと、足場がごつごつした岩肌からやけにつるつるした材質に代わった。そう、学校にあるリノリウムの廊下のような――。

「何だ……これ?」

 しばらく歩いた先、二人が出たのはきちんと整備された施設のそれのような通路だった。

「何かの施設かしら?」

「というかなんで洞穴の奥にこんなもんがあるんだ?」

「悪の組織の秘密基地とか」

「いや、それにしては警備が手薄だろ」

 そのまま奥まで進んでいくと突き当りにはエレベーターがあるだけだった。

「……降りてみるか?」

「えー、行くの?」

「俺は行くぜ、怖いならここで待ってろよ」

「さっきは乗り気じゃなかったくせに。私もいくわよ、恭介一人じゃ危なっかしくてしょうがないわ」

「へいへい」

 エレベーターのボタンを押すと、扉が開いた。中には開閉ボタンしかなく、扉が閉まると自動で下へと下りていった。

 一番下まで降り、エレベーターの扉が開いたその先に広がる光景は巨大な格納庫だった。

 そして眼前に雄大にそびえ立つのは鋼を組み上げて造られた巨大な人型、鋼の巨人だった。いわゆるロボットというものなのであろうそれは五十メートルはあろうかという巨体で、圧倒的な存在感で格納庫内を支配していた。

 全身の装甲は白を基調に塗装され、両手の甲、胸部、そして顔に球体が埋め込まれている。頭部からは一本の角が雄雄しく伸び、鋭角的なイメージを与えている。両ショルダーアーマーからは角のような突起がそれぞれ一本ずつ伸びている。背には巨大な翼のような推進装置(スラスター)が設置され、その巨大さを誇張している。

「ロボット……?」

 巨人を見上げ、恭介が呟く。そのとき、恭介の横から電子音が聞こえる。見てみると、胃カメラのように先端にカメラのついたチューブが恭介のほうに向けられていた。

『ピー、ピピ、遺伝子情報照合、血液中ヨリ魔族反応を検知、坂十路恭介ト判断。パイロット登録開始、ギアライザー起動』

 電子音声が響き、ロボットに埋め込まれていた球体が光を放つ。その頭部に埋め込まれた単眼のような光球と恭介の目が合う。

 とくん。

 恭介の心の奥底、深層心理とでも呼ぶべき深き場所である人格が鎌首をもたげた。否、それは人格にあらず。一個人格と酷似し、又違う、本能や衝動とでも呼ぶべきであろうかもとより備わっていたもの。

 其れは急速に心の深淵より這いいずり、恭介という個をなしていた人格を蝕み、混じりあった。

 がくり、と恭介が膝をつく。それを見た優乃がすぐさま駆け寄る。

「大丈夫?」

「ああ、平気だ」

 返ってきた声はひどく感情のこもっていないものだった。そして立ち上がった恭介の顔を見て優乃は言葉を失った。いつもはするはずもない鋭い眼光を放つその瞳は紅く煌き、顔を無数の光のラインが紋様を描くかのごとく(めぐ)っている。

「いくぞ優乃。さぁ、ギアライザーよ!今こそ目覚めのときだ!」

 恭介が両腕を広げ、高らかに叫ぶ。

 すると、恭介と優乃を淡い光が包む。そして次の瞬間、二人はギアライザーのコックピットに座っていた。コックピット内には二つの椅子が縦に並んでおり、優乃の座る後部座席は周囲にレーダー等の電子機器と計器類に囲まれており、恭介の座る前の座席には操縦桿やスイッチ類、180度モニターに囲まれている。

「ほう、操作系が直接頭にインストールされるのか。便利なものだ」

 恭介が操縦桿を握る。

『魔導機の反応を確認。場所、東京都千代田区E-3地点』

「魔導機、魔族によって造られし戦略兵器。なるほどな、行くぞ優乃」

「ちょ、ちょっと待ってよ。これどういうこと?私機械は駄目って知ってるじゃ――」

「うるさい黙れ。舌を噛むぞ」

 がくん、とコックピットが揺れる。そして、モニターに映る空間が歪んでいく。

「くくく。ギアライザー、お前の力を見せてもらうぞ」

 

 ○


「冬は日が沈むのが早い」

 窓の外はもう夜闇が支配していた。そして裏山のほうから放たれる微弱な、それでいてはっきりとした波動。

「ふむ、どうやら彼らは父さんの遺産に選ばれたようだね」

 リビングでソファに座りながらテレビを見つつ恭介の父、坂十路幹久(さかじゅうじみきひさ)は呟いた。

「そのようですわね。やっぱり何だかんだいいながらあの子も優乃ちゃんのことそう思ってたのね」

 珍しい水色のロングヘアを揺らしつつリビングに入ってきた美女――恭介の母、坂十路アリアはにっこりと微笑む。

「だが、彼らにもつらい役目を押し付けたのかもな」

「仕方がない――そうとしか言いようがないのでしょうけど、できることなら避けさせてあげたいですわ」

「そうだな……、頑張ってくれよ恭介、優乃ちゃん」


 ○


 それが現れたのは夜闇が都会(まち)を包んで直ぐのことだった。

 ビル街上空に広がる夜空が不自然に歪んだ次の瞬間、都市は火の海へと変わった。空から放たれた巨大な火球の次に現れたのは紅色の装甲を持つ鋼の巨人(ロボット)だった。戦闘機のようなすらりとしたフォルム、頭部で翠に煌く単眼(センサー・アイ)。背部のブースターから青き炎を吹きつつ、ゆっくりと火の海と化した都市に舞い降りる。

 魔導機。ここ、人間界と薄い次元の境一枚によって隔てられた魔界の住民、魔族により生み出された機動兵器。魔術や精神を重んじる魔族の技術力は闘志を力に変換し、魔力を増幅する術をこれらに用いた。この深紅の魔導機スルトも又、搭乗する魔族の闘志を力に換え、その魔力を増幅することが可能だった。東京を焼いたのはスルトにより増幅された魔力の生んだ火球である。

 スルトが両腕を虚空にかざす。すると掌前方の虚空に光のラインが走り、魔法円が描かれる。そして魔法円の中心に火球が生まれ、放たれる。

 火球は大きく弧を描き、ビルに着弾すると同時に大爆発を起こした。

 燃え上がるビル郡、逃げ惑う人々。

 悲鳴、爆音、断末魔が都市を包む。

 木々が、建造物が、人が焼ける臭いが虚空を漂う。

 空より現れた自衛隊のヘリも戦闘機もスルトの放った業火により焼かれ、燃え落ちていく。

 最早、人々を救うものはいなかった。

 地獄絵図は刻一刻とその範囲を広げていった。

 だが――。


 救世主というものは何の前触れもなく現れるものである。


 再び夜空に歪みが生まれる。だが、今度現れたのはすべてを焼き尽くす業火ではなかった。

 ビル街上空に顕現した白き機動兵器ギアライザーは背の翼を雄大に広げ、ゆったりと業火に包まれた都市へと降り立った。

 夜闇の中、浮かび上がるのは四つの光球と機体中を駆け巡る紅き光のライン。そして轟轟と燃え盛る炎に照らされる白き装甲。

「何これ……酷い」

 空間転移をし、惨状を目の当たりにした優乃は思わずもらした。

「あいつがやったことだ。叩き潰すぞ、あいつを!」

 恭介の闘志に応えるかのごとく、ギアライザーが咆哮を上げる。

 こうして二体の鋼の巨人の戦いが始まった。

どうも、初めましてな人は初めまして。そうでない人はこんちゃーす、暗影恐夜です。あんえいじゃないです、くらかげです。

ま、第一話なんで話がよく分かりませんがすこしずつネタバレしていくつもりなんでまぁ、気長に生暖かく見守っていて下さい。

誤字脱字修正、この漢字なんて読むの、その他諸々受け付けておりますのでよろしくお願いしますね。

次回予告。

東京を火の海に変えた魔導機スルト。それを屠るべく舞い降りたギアライザー、そして明かされる恭介たちに課せられた使命!

次回退魔機神ギアライザー第二話『炎上都市』

(BGM:次回予告 (エヴァ))

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