File2.ある日の朝
「……なんじゃこりゃあ」
この間久々の休日を堪能した古城だったが、二日後の朝さっそくとれたはずの疲れが何割か増しで戻ってくるような出来事に遭遇していた。
古城が普段寝泊まりしているのは、多摩心理学研究所の独身寮である。寮といってもそんなに大したものではなく、部屋は全部で四部屋しかない。内二つは現在未使用中だ。元々研究員の数がそれほど多くないことと、お世辞にもあまり快適とは言えない部屋であることが主な原因だろう。
そんな人口密度が極端に低いようなこの空間に、強烈な人の足跡を感じさせるものがあった。
古城が仕事に出掛けようと扉を開いた真正面、寮の廊下のど真ん中に、プラスチック製の果物ナイフが刺さっていた。
むろんただ刺さっているというのなら、古城は夢でも見ているのだと思って本気にしなかっただろう。プラスチックのナイフがコンクリートに刺さるなどということは、現実ではあまり考えられない。だからこそ、野良猫の死骸にナイフが突き刺さっているというこの状況は現実だと認めざるを得ないのだ。
誰がこんなとこをしたのかと考える間もなく、これは二日前の日曜日に話を聞いた動物虐待を行う生徒のしわざだろうと確信した。
そして今日は火曜日。その話を持ってきた堂上の学校でカウンセリングを行う日だ。明らかに、何らかの意図があるとしか思えない。
とりあえず警備室に連絡して後の措置を任せ、古城は自分の研究室へと向かった。道中ふと思い付き、資料室で虐待に関する本などをかき集め、それらを脇に抱えつつ自室へ入った。
どうにも今回は一筋縄ではいかなそうだと気を引き締めながら、古城は最初の資料を手にとって貪るように読み始めた。