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死神の理想郷8


「…塚本…悠斗…」


海部の閉じ込められた部屋、海部は後ろ手に手錠をかけられた状態で壁にもたれて

部屋の天井をじっと見つめてつぶやく

一ノ瀬は塚本の部屋に行って約束のとおりなら自分達の意図をある程度伝えたはずだ



海部が、結城の部屋に入る前

一ノ瀬と海部は宮内に呼び出され“裏切り者”としての役目を果たすように言われたのだった



(…とにかく、一番大事なのは悠斗のヤツと結城を繋げたままでやることだ

 そのために私がどうなろうと知ったことじゃない)


そう思いながらも、一ノ瀬の言葉がふっと思い出される


『海部さんも出なきゃ意味が無い、俺達“全員”で生きて帰らねぇと意味が無い…

 勿論、心って意味でもな?だから、絶対抱え込むな、俺は海部さんの味方だ』



その言葉に、海部は少しだけ思ってしまう

自分も生きて、心も体も生きて、ここを出られるのではないだろうかと


それでも、最悪自分が犠牲にならなければならない

海部はそう自分に言い聞かせていた


と、部屋にノックの音が響く


「元気?」


宮内が明るい声で言いながら入ってくる

海部は相手の姿をチラッと見るが俯いて返事をしなかった



「………」

「無反応?そういうの傷つくな~」

「どうでもいい、何の用だ」


宮内がわざとらしく言うのに、顔を上げて睨みつけながら

その態度が気に食わないというような声を吐いた



「そこまで急ぐことはないと思うんだけど?

 せっかくの機会なんだから、楽しまないと」

「…勝手に言ってろ」


いちいち相手にしない、と突き放すように言ってそっぽを向くのに宮内はため息を吐く



「仕方ないなぁ…仕方ないから本題に入ってあげるよ

 悠斗くんが裏切ったこと、海部さんは知ってるよね?」

「………」


黙って睨んだまま答えない



「そういう目してくれるんだ、面白くていいんだけど

 …まぁ、最初の一回だから手加減してあげる」

「…それはありがたいことだな」



海部は投げやりに形だけの礼の言葉を言う



「それじゃあ、最初の一回なんだけど…海部さん、ご飯まだだったよね?」

「…なんだ?飯抜きか?それくらいなら全然堪えないがな」

「そんなことしないって」


海部が口の形だけで笑うと、とんでもないと言ったように返すと

彼女が海部の目の前に置いたのは、明らかに犬に使うような皿と、ドライフードらしきもの



「…この犬の餌のような物はなんだ」

「“ようなもの”というよりドックフードだけどね」



海部は皿を凝視したまま尋ねるが、返ってきたのは平然とした声での答え



「…この程度のことでいいのか?」

「勿論、キレイに残さず食べるってのは条件だけど」

「フン、それくらいやってやる」



馬鹿にされているのか?この程度で自分は折れると思われているのか?それとも本当に手加減しているのか?

わからなかったが、地面に置かれたそれに顔を近づける



そこまできて感じる、異臭

鼻につくきついにおいに顔を離して少し咳き込む



「食べたときむせるのもダメだからね?」

「………」


小さく顔を上げて海部は相手を軽く睨むと、再び皿に顔を近づけて

“犬食い”をしようとする、状況と食べているものがソレであるために

その言葉が脳裏に浮かんだ海部は妙な屈辱を感じた



一つ、臭いに耐えて口の中にそれを含み、噛む

と、同時に口の中に漂う、耐え難い臭い



(…何だ…コレ…犬の餌って…味が薄いだけのモンだと…)

「どう?おいしい?ちゃーんと栄養調整されてるやつ持ってきたんだし感謝して欲しいよね!」



吐き出してしまえば何をされるか分からない

ただ、耐えて必死で飲み込むが、腹の底からも、臭いが漂うような気がした



「…はぁ…お前……なぁ……!」

「早く食べてよ、それともはむかってもっと私を楽しませてくれるの?」



顔を上げて相手に抗議しようとするが、あざ笑うような声にはむかう気力すら無くして海部は再び俯く



「…お前」

「早く食べてよ、後で手錠外して歯磨きでもなんでもさせてあげるから」



早くこの地獄から逃れるべきか、それとも少しずつこなすべきか

三粒ほど一気にくわえ込んで噛むと、先ほどよりも酷く強く臭いが広がる



(くそ、なめてかかって食ったのが運の突きか…)



苦しい、鼻が、口が、腹が、嫌なにおいで充満する

吐き出したい、でも、吐き出せば何が起こるかわからない

最悪、悠斗に何かされてしまう



「まぁ、そうやって頭下げてる絵は良いよね…ひれ伏したみたいで

 でも海部さんじゃ面白く無いしな~…もっと他の人に試してみようかな~?」

「…それは…止めろ…」


口に含んだ三粒を飲み込んで海部は俯いたまま言う



「そっか、海部さんは仲間思いの優しいひとだもんね?

 じゃあ早く食べてよ、私がアナタに飽きる前に」

「………」



海部はやけになって皿の中の粒を必死でがっつく

もう臭いが充満して、完全に体が臭いに慣れてきているというのも原因なのだろう



「そうしてると本当に犬みたい…ふふ、ねぇ、いつまで従ってくれるの?

 いつになったら…牙を向いてくれるの?」

「お前の…思い通りにはならない……悠斗の…為にも…」



呼吸をするのも兼ねて、海部は少しだけ皿から顔を浮かせて途切れ途切れに言う

皿の中身は一気に減っていた、それでも三分の一程度は中身が残っているようだが



「なるほどね…予想以上に楽しいことになりそうじゃない」

「…勝手に言ってろ…」


吐き捨てるように言って、残りの餌を必死で腹の中に入れる



「ホラ…食ったぞ…コレで良いのかよ…?」

「おぉ~キレイに食べたじゃない…お疲れ様」



律儀に顔を俯かせたまま海部は怒りを含んだ声で返した

宮内は皿を見つめて中身がきれいになったのを確認して満足そうな声を出す



「…コレで…良いのか」

「うんうん、それじゃ、これからご飯はコレで良いよね?」


にこやかにいう宮内に、海部は目を見開いて膝で思い切り立ち上がろうとして声を荒げる

だがその足は鎖につながれている所為でしっかりとは踏み出せていない


「ふざけるな!私は耐えただろうが!」

「誰が罰が一回限りのことだって言ったの?

 長期的な罰が徐々に増えていくって可能性くらい考えられなかった?」


何も言い返せずに、海部は舌打ちをして再びその場に座り込む


「…最後に一つだけ…いいこと教えてあげよっか?」

「………なんだ」


おおよそ有益な情報だとは思えない、ただ一応海部は耳を傾けておこうと相手の言葉に返事をする



「本当に信じていいのは、私かもしれないね?」

「…聞いた私が馬鹿だった」


海部は相手の言葉に舌打ちをして顔を逸らす



「…それじゃ、またね~」

「……」


腹の中に充満する異臭と同時に、腹の底から彼女に対する怒りもまた湧き上がる気がした



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