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死神の理想郷7


「宮内…」


部屋に入ってきた相手を突き放すように一ノ瀬は言う


「そんな警戒することもないでしょ?私と悠斗くんは同じ側でしょ?

 …それとも、裏切ってたのかな?」


相手を脅すように、それでも笑顔のままで宮内は言う


「…お前は俺たちに任せたんだろ?だったら俺の思うようにやらせてくれ」


はっきりと怖気づくこともなく、まっすぐ相手を見て一ノ瀬は返す


「ふ~ん…そっか、じゃあさっきの話は味方のフリをした嘘…で良いの?

 集まってる部屋のことを教えたのも、誰が居るのか教えたことも、全部」


一ノ瀬は、それに何も答えずにただ相手を睨みつける

宮内は相手の様子から何も察することができないと思ったのか、塚本の方を見る


塚本は俯いてその表情を宮内に見せていなかった

宮内はそこに近づいて相手の前に座った


「どうしたの?ショックで言葉も出ないの?…かわいそうだね…

 仕方ないよね?“仲間”が“仲間”を裏切るのは、辛いことだもんね?」


宮内は相手に同情するように悲しそうに言う、が塚本はその声に寒気を感じた

それは、まるで全てを見透かしたような、声だと、塚本は思ったのだ


「海部さんはもっと乱暴なことしてくれたのにね?私に言われなくても酷いこと、結城さんにしてたよ?」

「なっ!?そんな…」


宮内が立ち上がりながら言った言葉に一ノ瀬は思わず驚いたように反応する

彼女はその態度の隙に気づいていないかのように扉のほうに歩いて話し続ける


「まぁ、聞いた話だけどね?今回は見張り話って約束だったし…

 海部さん、ご飯作ってわざと顔にぶつけて…結城さんは諦めてたみたいだけど」


相手の話を信じられなくて一ノ瀬は感情のままに反論する


「…そんなわけ…無い…お前が、お前がどうせ約束を破って見張ってたんだろ?」


宮内はその言葉を待っていたかのように言う


「なんでそんな訳無いって言い切れるの?元々悠斗くんも海部さんも裏切る立場なんじゃない?

 …それに、海部さんが乱暴な事したって言ってたときも慌ててたみたいだし…

 やっぱり、裏切ってたの?」


宮内が楽しそうに、からかうように言う声に、一ノ瀬は苛立ちを隠せない態度であったが、言い返せない

今の自分で言い返せば、些細な言葉からでも揚げ足を取られかねない


「…」

「何も言えなくなっちゃったんだ?」


黙ったことさえも、相手の神経を逆立てるような声で取り上げる

が、一ノ瀬はただ黙って握りこぶしをギュッと握った


「…うるせぇ」

「どうしたの?言いたいことがあるなら言った方がいいんじゃない?」


心配そうな声で言う相手に、一ノ瀬は拳を上げて相手に殴りかかろうとする

宮内はそれに一瞬怯んだように見えたが、すぐに余裕の表情に戻って言う


「…良いのかな~?今殴ったら海部さんがも~っと酷い目に遭うだけなんだけどな~?

 まぁ、悠斗くんには関係ない話だっけ?」


相手の言葉に、一ノ瀬は上げた拳を降ろして舌打ちをする


「こうやって話をすること、海部さんは知ってるんでしょ?」

「…」

「黙ってる権利があると思ってるならいいよ?私が何を“裏切り”と取るかは自由だしね」


腹の底から、ふつふつと相手への憎しみが沸いてきて、もう何もかも捨てて殴りかかりたかった

だが、それはここに囚われている仲間への感情が押さえつけていた


「…知ってる、俺と海部さんが考えたことだしな、言い出したのは海部さんの方だ」

「へぇ、言い出したくせにやらなかったんだ…海部さんもすっかりこっち側なんだ」

「それは違う!…絶対に…違う…」


一ノ瀬はその言葉を強く否定する


「…そう、まぁ後で海部さんからそのあたりは詳しく聞いてあげるからいっか」


相手があっさりと手を引いたのに一ノ瀬はどこか妖しいと思いながらも追求をやめる


「…ねぇ」


弱りきった声で、塚本は宮内に言う

「何?」と優しさを作った声で宮内は返した


「海部さん…どうなるの?涼香ちゃんは…無事なの?」


泣きそうなその声に、宮内がニコリと笑って言う


「結城さんのほうは塚本が思ってるよりは酷くは無いんじゃないかな?

 …海部さんも部員のことは見捨てられない優しい人だからね?

 私もそんな優しい人に酷いことするのは気が引けるかもね~」


結城の無事は、信用できないにせよ一応無事だと言うことに安堵したが

海部の処罰へのその答えにますます不安は増した


「…」

「自分が何もされなかったのが辛いの?だったら大丈夫、それは悠斗くんが悪いんだから」


クスクスと笑うと、宮内は部屋から出て行こうとする


「どこ行くんだ」

「私は忙しいの、今から海部さんの所にも行かなきゃならないし…ね?

 あぁ、だからって妙なこと考えたらわかってるよね?」


その言葉に、一ノ瀬は乱暴にわかってると返してそっぽを向く

宮内はその様子を見ると楽しそうに部屋を出て行った


「…悠斗、くん」

「…クソッ…」


一ノ瀬は、ただ相手の挑発に乗せられただけの自分に苛立ちを覚えて地面を殴る

塚本はその様子にどう声を掛けたらいいのかすらわからずに、それを見守るしかできなかった


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