死神の理想郷4
部屋
最低限生活のできる部屋としか言いようの無い、部屋
あぁ、きっとこれは夢なんだ
はっきりしない意識の中、部屋の真ん中で塚本は座ってそう思う
両手にはめられた枷とそれをつなぐ鎖が、これが錯覚である感覚を助長する
「……ここ、どこなのかな?」
窓もなく時計も無いため時間は確認できない
ただ、生活するのに居心地が悪いかと言われるとそうでもない
そこは、異様なほどに落ち着ける空間であった
腕を上げようとするとずっしりと枷の重みを感じるのに、妙にリアルな夢なのだろうか?と思う
念のため、手を自分の顔の前に持っていき、捻る
痛かった
「…夢じゃ、ないのかな?でも、多分…こんな、このまま帰れないなんて…」
痛みを感じたことに、自分の状況を改めて考えると少しだけ彼女の心に焦りが生まれる
そのとき、ガチャリという音がして扉が開くのに塚本は反応して顔を上げる
宮内がニコニコと笑いながら入ってきた
「…こんにちわ~織枝ちゃんも起きたみたいだね」
妙に上機嫌なその声音、塚本は知り合いと言うこともあって、特に警戒せずに安心して
自身についた枷を見せるように腕を持ち上げて言う
「舞ちゃん、ねぇ、これやったのも舞ちゃん?」
「うん」
そう、宮内は平然と全く悪意をこめずに頷く
…信用、していいよね?
そんな少し期待を抱いて、塚本は宮内に言う
「ねぇ、これ外してほしいな?流石に少し怖いっていうか…」
「ダ~メ、これからやりたいことがあるんだから」
塚本は、少し落胆するがまぁこんなときおとなしく開放してくれる方が珍しい、と切り替える
「えっと、ここってどこ?」
「内緒」
「…何時?」
「それも教えられないかな?」
「えっとじゃあ、じゃあ…いつ、放してくれる?」
「さぁ?」
塚本が尋ねたいことをあらかたたずねるが、相手からははっきりとした答えを得られない
…もしかして、自分は帰れないのではないか?
目の前の友人は、自分の思っている以上に残酷なことを考えているのではないか?
そんな恐れが奥のほうで渦巻いて、少しずつ上がってくる
「…舞ちゃん、何したいの?」
塚本は、声を震わせて尋ねると、宮内は塚本に一つの手紙を差し出して言う
「実験」
塚本は目の前に差し出された手紙を両手を持ち上げて受け取る
「それ、ちゃんと目を通しておいてよ?」
宮内は座って塚本と同じ目線になると、耳元に顔を寄せてボソリと
「…次に会うときまで、元気でね?」
と言う、その奥に秘められた意味は分からなかったが
それでも、彼女の声に恐怖を感じた
「…ねぇ、どういう…」
もう既に泣きそうな声に、宮内は応えない
だが、彼女は嬉しそうだ
…何を、されるのだろう?
何が起こるのだろう?
帰れるのか?出られるのか?
不安は、一気に塚本の胸を覆って曇らせていく
目の前に居るのは見知った友人のはずなのに
まるで、普段学校で見るのとは違う、もっとおぞましい何かに…悪魔のように塚本には見えた
「…そうだ、手紙…」
きっと、読んだところで不安を煽るものなのだろうと理解しつつ
それでも、今の状況を知りたくて塚本は手紙を開いた…
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『注意
1・時間、日時は教えられない
2・みんなの大好きなオトモダチの中に「裏切り者」がいる
3・死なないし、死なせないから安心して
4・他の人のことは私と「裏切り者」から教えてもらえる
5・「裏切り者」と会話してもいいよ?まぁ望んだ答えが返ってくるとは限らないけど』
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結城はここまで読み終えると、グシャッと手紙を握り締めて投げる
「……ふざけんな…」
そして、ぐしゃぐしゃになった手紙を睨み付ける
「裏切り者?死なない?知るか、さっさとこんな馬鹿なことから開放しろって…」
壁から出た鎖の長さはそれなりにあり、腕を下に下ろし、座れるほどの長さであるが
蹴り上げたり殴りかかったりはできない、それが余計にもどかしくてたまらない
「…帰ってから絶対潰す…!」
ギリッと歯軋りをして壁を殴りつけるが、その感情を受け止める者は、この場にはいなかった…