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入れ替わり その7

―昼休み―



「海部さ~ん」


教室に響く男子生徒の声

結城(一ノ瀬)がそれに視線を一瞬教室の扉に向けて、目の前で準備をしている海部(塚本)に声をかける


「呼ばれた…な」

「変わりに行ってもいい、今忙しいとか言えば…」

「大丈夫、今終わるから一緒に行こう?

 何かあったら怖いし…」


塚本(海部)の申し出に鞄に次の時間の準備と弁当をつめこんだ海部(塚本)は顔を上げる

言葉に二人は頷いて、海部と結城はそれぞれ自分の鞄を持って男子生徒の方へ向かう



「大町…」


相手は海部と一年の頃同じクラスだった友人で、思わず声を上げた塚本(海部)は

あわてて思い出すようなそぶりをつけて「くん?」と付け足す



「あぁ…部員のみなさんか…ってかそれより、今ちょっと面白いことになってるぜ?」

「おもしろいこと?」



結城(一ノ瀬)は少し嫌な予感がして尋ねる、彼と大町は同じクラスだ

少なからず面白いことに自分が関わってる可能性はゼロではない


「とにかく行ってみろ、俺んとこのクラスの前で…」

「急ぐぞ!」


言い終わる前に結城(一ノ瀬)は場所を聞くと走り出す


「待って!」

「はぁ…」


塚本と海部は突然の行動に呆れながらもその後を追う

何か自分達に関わる問題が起きているのは確実なようなので、

その行動は正しいだろうと思いながら



階段を急いで駆け上がり、すぐ飛び込んできた光景

数名の見学者と、その向こうから聞こえる声



「放せ!落ち着け!っていうか大丈夫!?」

「もう…もういや…ぼく…むり」

「え、ちょ、これ、その…」



聞き覚えのある三名の声



「ちっ…何があったんだ!」



結城(一ノ瀬)が声を荒げて叫ぶと、廊下に立っていた生徒…一ノ瀬(結城)がそちらに振り向く



「あ…えっと、わた…俺もよくわからない!」



混乱しているのか、それとも安心で素に戻りかけたのか一人称が戻りかけたのを慌てて修正する



海部と塚本は一ノ瀬(結城)の反対側に立って、状況を理解する

…宮内(鳴滝)が完全にオーバーヒートしているかのように何かを呟きながら

一ノ瀬(結城)の体に腕を回している



「…海部さん、塚本!これどうにかならない!?」



鳴滝(宮内)も焦った声で二人に助けを求める

当然だろう、自分が勝手に誰かに、しかも男子にしっかり抱きついている



「大丈夫?」


海部(塚本)が声をかけるが、宮内(鳴滝)は無理ダメ怖い無理…と繰り返しているだけだ



「お前何やらかしてるんだ!」

「こっちだってしたくてしてるんじゃない!」



目の前の居る二人に助けを求めようとするが、二人はいつもの言い争いをしている


「と、とにかく移動は…」

「それができたらこっちも移動してるって…京くん、わかんないけどへたってて動かなくて…」



ひそひそと、小さな声で海部(塚本)が言うのに、鳴滝(宮内)は首を振る

宮内(鳴滝)どうにか一ノ瀬(結城)から手を離した



「お前がやらかしてんだろ?」

「知らんし!流石に今回のは八つ当たりだって!」



熱の増した言い争いに一ノ瀬(結城)がどうにか宮内(鳴滝)の腕を解いたのだった

しかし、宮内(鳴滝)の混乱は収まる様子は無い


「あー!反応くらいして欲しい…」


鳴滝(宮内)が声をかけるが、それでも鳴滝は小声でうわごとを繰り返している



「第一!お前は俺の評判を落とさないか最初から不安だったんだ」

「そっくりそのまま返すからな!」



人の前であることも忘れて素の言葉に完全に戻って口論を始める二人

何かを呟く宮内(鳴滝)、何度も肩を揺らして呼びかける海部(塚本)と鳴滝(宮内)




「…えら」

「えっ?」



ぼそり、と聞こえた声

気が点いて鳴滝(宮内)は振り返り声をかける、が、事態は手遅れだった



「いい加減落ち着きやがれてめえら!!」



聞いたことのある声の、聞いたことの無いトーンに見物者を含め全員が

塚本(海部)を見る

腕を組んで目の前の人間を睨みつけている



「はぁ、ようやく黙ったか…」

「「お前のせいだからな」」


声を被せて互いを指差す結城と一ノ瀬を無視して塚本(海部)は宮内(鳴滝)の肩を叩く

ごめんと呟く相手に「落ち着いたか?」と宥めるように言うのを見て

結城(一ノ瀬)は息を吐いて他の全員に言う


「…部室、行こうぜ」

「うん」


一ノ瀬(結城)が頷いて二人で歩き出す

他の部員も互いに目配せをして歩き出したが…


「…塚本さん…あんな怖い人だったっけ?」

「さぁ…?」


ぼそぼそと聞こえる声に、海部(塚本)は今すぐにでも泣きながら殴りたい衝動をこらえながら歩いていた







―部室―


「はぁ、やっと落ち着ける」


結城(一ノ瀬)は息を吐いて、ガンと音を立てながらパイプ椅子にもたれて座る

目の前では、普段は視界に入ることの無い自分もまたため息を吐いて俯いている


宮内(鳴滝)は机にうつぶせになっている

その様子を塚本(海部)は横目で心配そうに見つめて、少し躊躇しながら水筒のお茶を飲む


「京くん、大丈夫か?」

「あ…うん、まぁ…」


声をかけると、ゆっくり体を上げて小さな返事が返ってくる


「私も大丈夫じゃないよ…」


海部(塚本)が拗ねたように言うのに、塚本(海部)は何かあったか?と言いかけたところで思い出す


「あ…その…すまなかった」

「謝ってもどうにもならないよ!私全然知らない人にわけわからない印象もたれちゃったよ?

 友達に流れたらどうしよう…っていうか一階にも聞こえてたらどうしようあれ…」

「その…あの場を落ち着けるには…あれが一番だと思ってだな…」


落ち込む相手を必死で慰める塚本(海部)を元気だなぁ…と見て

一ノ瀬(結城)は本題を宮内(鳴滝)に尋ねる


「で、なにがあったの?」


驚いたように肩を動かして相手を見つめると、宮内(鳴滝)は口を開く


「その…数学の授業でね…普通に受けてだけなのに…

 僕は知らないけど…宮内の友達だと思うけど…授業終わったら『裏切るのか?』とか

 笑いながらくすぐられて…僕、普段どおりにびっくりしたらなんか余計にヒートアップして…」


結城と一ノ瀬は、だんだん小さくなっていく相手の声に現場が用意に想像でき、「あ~…」と声を出す



(…今の舞ちゃんの声、私もドSできるって思うくらい弱い気がする)

(奇遇だな、私もだ)


拗ねて慰めの関係のはずだった二人は先ほどまでのやりとりを止めて小声で言い合う



「お前はいいのか?好き放題やられて」

「え?だって後でちょっとばかり痛い目見てもらえば良いだけでしょ?」

(やっぱこいつロクでもない…)


笑顔で言う鳴滝(宮内)に結城は心の中で呟いた


「…で、これからどうする?」

「僕は保健室使う…眠いし…二時間かしてくれないかな…」

「授業で寝れば良いじゃんか」


宮内(鳴滝)の不安げな声に平然とこたえる鳴滝(宮内)


「で、でも…」

「こいつならそれでも問題ないだろうが…京くんのメンタルもあるだろうな

 二時間くらいなら熱っぽいとか言えば良いんじゃないか?帰されることはないだろ」


塚本(海部)は癖の腕を組む格好になって笑いながら言う


「で、まぁ京くんは保健室で粘ってもらうとして

 あとの皆は授業耐えて部活終わって……」


一ノ瀬(結城)が考えながら言って、そこで言葉が止まる

他の部員もそこから先を察して誰も何も言わない


暫くの沈黙、そして、全員が口をそろえて言う



「これから…どうしよう」




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