入れ替わり その5
業間休憩【3時間目開始まで】
塚本(海部)は授業が終わった開放感で腕と体を伸ばし、だらんと腕を下ろした後に自分の席を見る
海部(塚本)は自分のありったけの教科書を詰めた鞄に悪戦苦闘している姿が見えた
少し心配になって手伝ってやろうかと相手の席に向かう
確かに自分の鞄は使いやすいとは言いがたい自覚があった
「…大丈夫か?」
「あ、うん…流石に資料集は置いていってるんだ…」
「…当然だろうが…」
二人で喋っている間は大丈夫だろうと油断して素の口調で会話をする
日本史の一式を揃えてふぅと安心して吐いて結城の座席に向かう
結城(一ノ瀬)は手元を押さえて俯いて震えている、その様子に海部(塚本)が不安になって
急いで相手の座席に走って声をかける
「大丈夫!?」
「…っ…ふぅ…っ」
が、塚本(海部)は醒めた顔でゆっくり歩いてその席に向かいため息を吐く
「心配するだけ無駄だ…どうせ何も無いだろ」
海部(塚本)の肩を軽く叩きながら結城の座席の正面に立って尋ねると
結城(一ノ瀬)はようやく顔を上げる、その顔は必死で笑いを堪えていた
「…ってよ…あいつらの話面白くて…我慢…フフッ…」
「……あぁ」
海部(塚本)はその正体に気がついて呆れたように声を漏らす
結城(一ノ瀬)が「はぁ」とおかしさを一旦飲み込んで顔を上げると、呆れた顔の二人に気がつく
「あ~…なんかゴメンナサイ」
「良いよ別に、何もなかったんだし…」
宥めるような声と、にこりとした笑顔
普段の相手なら聞かない声に、結城(一ノ瀬)はまた何かがこみ上げてきてそれを我慢する
「…今度はなんだ」
険しく突き放すような、塚本の声で聞こえてくるそれに結城(一ノ瀬)の
先ほどの男子観察でもろくなった堤防は再び崩れていた
「アハハハハハハ…悪い…でも、普段のお前らと…ハハハハ…違いすぎて…
抑えたくても…ハハハ…ごめんって…ハハハハハハ…」
もう完全にツボに嵌ってしまい抜け出せなくなっているようだ
一応抑えようとするものの笑い声は止まらない
「心配した結果笑われるのってちょっと傷つくよね…」
「だな…まぁいつものことなんだが…」
再び呆れた表情で相手が落ち着くのを待つと、深く深呼吸をしたあと結城(一ノ瀬)はようやく顔を上げる
「全然おもしろくなかっ…ハハ…」
「開き直るなら耐えろ」
いつもの調子で冷静な声で言おうとしたが、緩んだツボの所為で
自分の言ったことに自分で笑い始めかけるのに塚本(海部)は諦めながら返した
「そのうちバチ当たっちゃう気がする…」
「俺が神だからな、バチなんか当たらないの」
「はいはいそーだな」
自慢げに言った相手を流すように塚本(海部)は返し、
忠告した海部(塚本)は苦笑いをする
「…ちっ反応薄い奴らだな」
「お前のそれにいちいち反応してたらキリがない」
塚本(海部)は手を腰に当てて返す
「第一、お前らはもっと余裕持たなきゃだめと思うけどな
もっとこういうことは楽しまねぇと」
結城(一ノ瀬)が腕を組んで我ながら良い事を言ったと思わせたいかのように頷く
「って言ってもな…」
「悠斗くんみたいに…っていうのは難しいよね」
塚本(海部)が戸惑ったように言うのに、海部(塚本)はその顔を見て頷く
と、彼女の視線の端に誰かが映る
「スキ有り!」
「ひあっ!?」
塚本(海部)が素っ頓狂な声を上げて姿勢を崩す
それに驚いて二人はその方向を見ると、別のクラスの塚本の友人がわき腹をつついていたのだった
「相変わらず塚本は油断してますなぁ」
「し、仕方だ…仕方ないじゃんか」
不自然な言葉の間、先ほどまで完全に気を抜いていたのもあって言葉遣いを考えたのだ
塚本(海部)は姿勢を戻すが、わき腹にまた刺激が加わる
再び声を上げてその場に座り込みそうになるのを結城の机に手をついた
「な、なにするの!?」
「え?わ、私じゃないけど…」
先ほど襲撃してきた友人を睨みつけるように見つめるが
シラを切っているとも思えない相手の言葉に、隣に居た自分の姿を見る
「し、知らないなぁ~」
「…つか…海部さん?何したのかな…?」
脅すような声音で肩を掴むと、海部(塚本)は思わず普段、海部に反撃され時のように
ビクッと肩を震わせる
「すいませんごめんなさい調子乗りました」
別クラスの友人は首を傾けながらその様子を見る
「…海部さん、普段よりなんか弱い?」
「そ、そ、そんなことねぇ…よ」
露骨に焦りながら返す相手を見ながら塚本(海部)もしまったと思いながら結城(一ノ瀬)に視線を移す
が、結城(一ノ瀬)は呆れたような目でそれを見つめているだけだ
「ゆ…すずか…ちゃん?」
ぎこちなく声をかけるが結城(一ノ瀬)は関わらないことを決め込んだのか黙って見つめているだけだった
「…結城姉御は相変わらずですね」
友人が言う言葉に結城(一ノ瀬)は一瞬二人に向けてしたり顔をする
相手の指摘にヒヤヒヤさせられた分、塚本と海部は反論できないながらもどこかもやもやが湧き上がる
「あ、そうだ!姉御に前言ってた画像、見る?」
「え、あ、おう…?」
気が緩んで最後の言葉に素が出るが、相手は気にせず電子辞書を取り出してそれを結城の机の上に置く
「そうそうコレコレ、姉御好きなキャラだったよね」
「あ…え、えっと…その…」
結城(一ノ瀬)の焦ったような声音に先ほどとは違って二人の方に助けを求めるように視線を向ける
「そうだ海部さん!このまえ読みたい本があるって言ってたよね?
私よかったら貸してあげるよ?」
塚本(海部)はわざと大きな声で思い出したように言って海部(塚本)に目配せする
相手もその意図を把握してウンウンと頷く
「うん、そうだな…」
「それじゃあ、すぐ戻ってくるから」
裏切り者!
そんな心の声が聞こえたような気がしたが、二人はそれを無視して塚本の机の方に向かう
「あねご聞いてよ!この前サイト巡ってたらさ…」
「あ、あぁ…えっと…アレだな?」
二人に取り残されて声をかけようとしたが、目の前の友人の勢いはすさまじい
それに当たり障りの無い範囲で返事をしながら結局休み時間ギリギリまで話を聞いていたのだった




