入れ替わり その4
体(精神)でお送りしています
【授業間休憩~二時間目 鳴滝(宮内) 一ノ瀬(結城)】
“現代国語で助かった…”
一時間目の授業が幸い文系教科であったこともあり
どうにか頭が内容を受け入れた安堵を感じた休み時間
ほぼ相手のノートが白紙であったのを呆れながら
その授業の分だけでもと移し終えたのを確認して机にしまい
他の教科書の位置をざっくりと確認する
“えっと…数学の教科書がコレで…社会科がコレ?
あぁもうわけわからん…”
ごちゃごちゃとしていた机の中身を確認して、ふうと息を吐いた
ふと気になって自分の鳴滝の机に向かい相手の様子を見る、
相手が完全に机の上に突っ伏しているのに不安になって立ち上がる
相手の机の上を見ると、広がっているノートに一応板書はしているようなので安心する
「眠い…」
「…よく板書したね、それが意外」
「いや~…流石に他人が困るときはやりますって」
姿勢を変えないまま返す相手に、
普段からやっとけば良いのにと心の中で突っ込みながら近づいてくる人間を確認する
それは一ノ瀬と鳴滝と一緒に話していたクラスメイトで二人もよくみかけたのだった
「なぁ、京くん大丈夫か?さっきの授業もフラフラしてたし…」
「あ、うん、軽い寝不足……」
クラスに居る二人の友人が声をかけるとようやく鳴滝(宮内)は体を起こして相手を見る
体は変わろうとも本質が変わらない、現代国語の授業で感じる睡魔には適わなかったのだった
「勉強だろ?あんまり塾とかに追い詰められるなよ?」
「う、うん」
“追い詰めとかから一番かけ離れたところに居る輩だけど…”
心配される鳴滝(宮内)に一ノ瀬(結城)は心の中でそう指摘しつつも笑って流す
「次は…数学だ、よかったな、話聞かなくて言い分楽だぞ?」
「…あ、あぁ、うん」
「そうだな…」
相手の言葉に、二人はどこか歯切れ悪く答える
当然だろう、二人は典型的な文型
結城は一応国公立クラスでどうにか平均点をキープしているレベル
宮内は私立大学のクラス、一応数学は取っているものの決して褒められた成績ではない
二人にとっては、国語以上にただただ苦痛な時間
その上一ノ瀬と鳴滝は理系クラス
…おそらく、授業のスピードは自分達の比ではない
「…どうしたんだよ二人とも…大丈夫か?」
「な、な、なんでもねぇよ…な?」
「う…うん」
一ノ瀬(結城)は焦りながら返して同意を求めると鳴滝(宮内)も弱く頷きながら返事をする
なら良いけどな…と言った相手は別のクラスの友人に言われてそちらに行ってしまった
一安心かと思った矢先、一ノ瀬の携帯のバイブ音が耳に届く
ポケットに手を突っ込んで画面を開くとメール一件、の表示
決定ボタンを押してフォルダ画面に移行する
メールは“部活”と名前の記された場所に届いている
誰が何の用で?と思いながら操作を続けると、差出人は自分
『テスト近いからまた森脇がノート貸してくれってさ
あ、あとごめん、俺アイツの前で笑った
お前の所為だからな!!』
「ちょ、アイツなにやってんの」
笑いながら思わず素の口調が出て慌てて手を押さえる
「悠斗…どうしたの?またそういう方向を狙ってるの?」
フォローなのか、ちょっかいなのか分からない鳴滝(宮内)に口頭で伝えるのはまずいと携帯の画面を向ける
と、相手はどこか納得したようにあ~…と言った
「どんどん人望が下がって言ってるね」
「ったく、アイツ自分じゃないからって絶対楽しんでる…」
ため息を吐きながら相手が何をしているのかという不安がどっと湧き出てくる
今ばかりは大人しいと思っていたが、やはり相手は完全に間違った方向に楽しんでしまいそうだ
「その上コッチの所為ってどういうことだ…」
「まぁ、らしいと言えばらしいね」
頷きながら完全に対岸の火事というような態度に一ノ瀬(結城)は呆れる
おそらく、鳴滝の精神は今頃完全に疲労しきっている頃だというのに
「…っていうか、わかってるなら余計な突っ込みやめろ」
「え~…触れないとコッチが不自然だし」
鳴滝(宮内)は言うと、何かに気がついたのかニヤリと笑う
それに嫌な予感がして結城(一ノ瀬)は後ずさりをする
これは関わると面倒なことになる、と直感で感じて一ノ瀬(結城)は数歩下がる
「…悠斗、どこいくの?」
「いや、その…教科書…あるかな~…とか…」
今お前と関わるのは面倒なことになる、と普段ならいえただろう
だが、今の状況でそれを言えば確実に相手の反応は厄介なことになる
「…珍しいね、いつもチャイムギリギリに座ってるのに」
「お前それっ…」
憶測で言うな!と叫びそうになるのをこらえる、それにあの言葉は事実だろう
その証拠に、丁度戻ってきていた先ほどの友人が鳴滝の言葉に頷いていた
「鳴滝、お前何かしたのか?」
「ううん…何も、もしかしたら何か言ったのかもしれないけど…」
俯いて傷ついたような声で左右に首を振る相手に心の中で恨みの言葉を発する
周囲に助けを求めるように友人に視線を向けるが、彼の友人は笑っているだけだ
おそらく、周囲には“鳴滝の発言に困らされている一ノ瀬”といういつもの日常にしか認識されていない
「はは…相変わらずだな」
「はぁ…」
一ノ瀬(結城)は一応納得したように見える相手に安堵のため息を吐いた
時計の方を見ると針はほぼ授業開始時間を指している
「そ、それじゃあ俺…戻るからな…」
「あ…うん…ごめんね?」
悲しそうに言うそれは普段の彼となんら変わりが無いのだが
宮内の精神だと思うと一ノ瀬(結城)は苛立ちが沸きあがって仕方がなかった
席に座って憂鬱な顔で教科書を取り出す
これから50分をどうやって乗り越えようか
チラリと鳴滝の座席を見ると既にうつぶせになっている
(…他人の迷惑かかってるならやるんじゃないのか!?
っていうかもうちょっと努力しろよ!)
心の中で呆れたが耐えたところで待っているのは地獄であるし、あの行動が正解なのだともどこかで思う
迷いながらも非情にもチャイムが鳴る
数学の教師はそれがなり終わる頃に慌てて入ってくる
左腕にはプリントが抱えられていた
それは、いつもの量と変わりが無いはずなのに、なぜか少しだけ多く見える
(はぁ、この一時間大丈夫かな…)
挨拶の号令の声を聞き流しながらプリントの方を見る
授業のスピードは勿論のこと、彼らの計算速度が自分達より明らかに速い
…傍目から見て変化はある、が鳴滝(宮内)は既に寝不足という免罪符を半分周囲から貰ったようなものだ
これに関しては偶然だろうが、とにかく自分も何かしらのアピールをしなければならない
(…くそ、でもこいつの体結構健康体だしな…ふざけて痛めてる箇所とかあるけど…)
思っていると、自分の目の前にプリントが回ってくる
それを取って手早く後ろに回して内容を確認する
目にした式は普段と変わらないプリントが三枚
その難易度に安堵したが、難点はそこになかった
「よ~し、それじゃあそのプリント10分で二枚、少なくても一枚半は終わらせろよ~」
文系の自分達のクラスでは確か一枚20分程
それでもギリギリ最後の問題の答えをこっそり解くレベルだったのに
時間は半分、当然間に合うはずが無い
が、手をつけないわけにもいかず一応その問題を書き進めていく
「京くん焦るなよ~」
明るい声ではあるが、明らかに何かしらの圧力を含んだ声で教師は言う
チラっと見ると相手は体を起こしていたが、一応問題を解く姿勢を見せているだけだった
手を動かしているのを確認できたが、いつまで進めるだろうか
だが他人のことを気にかけている場合ではない、自分もさっさと問題を解かなければ間に合わないのだ
最初の二題はすぐに解けたが周りは既に一枚目を終わらせようとしていて
若干の焦りが結城の心に浮かぶ
(こいつら…人間か!?)
次元の違うスピードに唖然としていると、いつの間にか教師が傍に立っていて声が聞こえる
「悠斗どうした、体調崩してるのか」
「あ、えっと…」
視線を少し逸らして答えに詰まっていると明らかに呆れたような笑いでその場を去る
このままでは一時間耐えられても精神に良いことは何も無い
(そういえば私と宮内以外楽な方か授業変わらない人だけ?
うっわー何かそう考えるとかなり損した気分だわ…)
ため息を吐いて、目の前の頭が痛くなるような問題を進めていく
5枚目の最後ともなると普段でも苦戦するような問題もちらほらと表れてしまった
(あ~あ、頭もそれなりに元の体の影響受けてくれればよかったのにな…)
思いながらも授業をサボるほど自分は不真面目では無いという意地と、
本人の反応への予防線張りでゆっくりと問題を解いていく
「それじゃまず前半当てていくぞ」
教師が言って、一ノ瀬(結城)はシャープペンシルを握ったまま時計を見る
あと2分で制限時間だ
幸い前半の問題は埋まっている、が計算はおそらくまどろっこしく正解している自信は皆無だ
「それじゃあ京くん、眠気覚ましに大きい題1問から3問全部言っていこうか」
「……」
言われても返事が無い、おそらく目の前の問題を相手なりに頑張っていたため
自分の今がどう呼ばれて返事をするべきか忘れていたのだろう
「京く~ん」
「あっ、は、はい!えっと」
「おいおいしっかりしてくれよ…1問から3まで全部だ」
「はい…えっ!?」
呆れたように言われた二度目の声に返事をした後にその量に気がついて驚く
(お疲れ様…)
心の中で焦る相手に哀れむように言った
相手がどこまで書き進めているのかわからない、本人よりはペースが遅いのは明らかだった
…で済めば良いのだが、問題は相手の成績
問1くらいは解けているだろうが3,4問くらいになると自分でも怪しいところがあった
「そのあと大きい問4と5、悠斗任せたぞ」
「えっ!?、えっと…わた…俺ですか?」
驚いて一人称を間違えかけながら返事をしてプリントを見る、
問4は幸い埋まりつつも、問5は……
互いにゆっくりと目を合わせる、相手の目には諦めの色が見えた
おそらく、自分も似た目をしているだろう
授業はまだ、半分も終わっていなかった




